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原発開放隅角緑内障に対する強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法の治療成績

2014年2月28日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(2):271.276,2014c原発開放隅角緑内障に対する強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法の治療成績佐藤智樹*1平田憲*2*1佐藤眼科*2佐賀大学医学部眼科SurgicalOutcomeofModified360°SutureTrabeculotomywithDeepSclerectomyinEyeswithPrimaryOpen-AngleGlaucomaTomokiSato1)andAkiraHirata2)1)SatoEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,SagaUniversityFacultyofMedicine強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法(360°LOT+DS)の治療成績について検討した.2011年4月から2013年2月に原発開放隅角緑内障(POAG)に対し,佐藤眼科で360°LOT+DSを施行した35例35眼で,それ以前に強膜深層弁切除併用120°トラベクロトミー(120°LOT+DS)を施行した24例24眼を対照群とした.全例,白内障手術を併用し,術後12カ月の眼圧経過,投薬スコア,合併症をレトロスペクティブに比較した.両群ともに術後全経過を通じ術後眼圧は有意に低下した.14もしくは16mmHgを基準値とした眼圧生存率は術後12カ月でいずれも360°LOT+DS群が有意に高かった.投薬スコアは両群ともに有意に低下したが,両群間に差はなかった.術後一過性高眼圧,前房出血(hyphema)を認めたが,その割合は両群間に差はなかった.360°LOT+DSは120°LOT+DSに比べ,より低い術後眼圧が得られる可能性がある.Weevaluatedthesurgicaloutcomesofmodified360°suturetrabeculotomycombinedwithdeepsclerectomy(360°LOT+DS).Enrolledinthisstudywere35eyesof35patientswithprimaryopen-angleglaucoma(POAG)whounderwent360°LOT+DSfromApril2011toFebruary2013atSatoEyeClinic.Usedascontrolswere24eyesof24patientswithPOAGthathadundergone120°trabeculotomy(120°LOT+DS)beforeApril2011.Phacoemulsificationandintraocularlensinsertion(PEA+IOL)wereperformedatthesametimeinalleyes.Thetimecourseofintraocularpressure(IOP)for12monthsaftersurgery,administrateddrugscore,incidenceoftransientelevationofIOP,hyphemaandblebwerecomparedandanalyzedretrospectively.BothgroupsshowedsignificantlyreducedIOPpostoperatively,thoughIOPsurvivalrateinthe360°LOT+DSgroupwassignificantlyhigherthaninthecontrols.Nosignificantdifferencebetweenthegroupswasnotedintermsofdrugscore,transientIOPelevationincidenceorhyphema,butblebincidencewassignificantlyhigherinthe360°LOT+DSgroupthaninthecontrols.Resultsindicatethat360°LOT+DSmayoffergreaterpostoperativeIOPsurvivalthan120°LOT+DS.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(2):271.276,2014〕Keywords:360°スーチャートラベクロトミー変法,強膜深層弁切除,原発開放隅角緑内障.modified360°suturetrabeculotomy,deepsclerectomy,primaryopen-angleglaucoma.はじめにトラベクロトミー(trabeculotomy)は,Schlemm管内壁を切開することで比較的安全に眼圧下降が得られる術式であるが,強膜深層弁切除(deepsclerectomy)やSchlemm管外壁開放術(sinusotomy)を併用しても10台半ばの眼圧にとどまる1.5).トラベクロトミーは金属プローブ(トラベクロトーム)を用いて120°の範囲でSchlemm管を切開する方法(120°トラベクロトミー)が一般的であるが,1995年にBeckらが先天緑内障に対してプロリン糸を用いて線維柱帯を360°切開する術式(360°トラベクロトミー)を報告した6).〔別刷請求先〕佐藤智樹:〒864-0041熊本県荒尾市荒尾4160-270佐藤眼科Reprintrequests:TomokiSato,SatoEyeClinic,4160-270Arao,AraoCity,Kumamoto864-0041,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(111)271 85%が点眼なしで眼圧が22mmHg以下になったとしているが,全周糸が回ったのは26眼中11眼と半数以下であり,その他の緑内障での効果は不明であった6).陳らは5-0ナイロン糸を用い,手術手技を改良することで線維柱帯を360°切開する確率を90%にまで向上させ,術後12カ月で13.1mmHgの眼圧が得られたと報告した7,8).また,後藤らは,360°スーチャートラベクロトミー変法に強膜深層弁切除を併施することで,術後9カ月の平均眼圧が13.7mmHgであったと報告した9).しかしながら,同一施設で強膜深層弁切除を併施した120°トラベクロトミーと強膜深層弁切除を併施した360°スーチャートラベクロトミー変法の手術成績を比較した報告はない.今回筆者らは,原発開放隅角緑内障(POAG)に対し,強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法(360°LOT+DS)を施行し,それ以前に施行した強膜深層弁切除併用120°トラベクロトミー(120°LOT+DS)の術後眼圧経過について比較検討した.I対象および方法1.対象2011年4月から2013年2月に佐藤眼科で白内障手術を併用した強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法を施行したPOAG連続症例35例35眼(360°LOT+DS群)を,2010年4月から2011年3月に白内障手術を併用した強膜深層弁切除併用120°トラベクロトミーを施行したPOAG症例24例24眼(120°LOT+DS群)を対照群としてレトロスペクティブに比較検討した.手術は全症例同一術者が行った.2011年4月から2013年2月までに,佐藤眼科で白内障手術を併用し,POAGに対して強膜深層弁切除併用スーチャートラベクロトミー変法を行ったのは45例69眼あったが,そのうち予定どおり360°Schlemm管切開できたのは35例51眼であった.解析対象を1症例に対し1眼とするため,片眼に同一手術を施行した患眼を対象から除外し,360°LOT+DS群は35例35眼を解析対象とした.表1患者背景360°LOT120°LOT+DS群+DS群p値症例数35例35眼24例24眼年齢(±標準偏差)76.0±7.079.0±5.00.080性別(男/女)12/238/161.00†術前眼圧(mmHg)18.6±3.319.5±3.40.342投薬スコア1.1±1.40.7±0.90.357‡平均観察期間(カ月)13.6±7.529.4±8.7<0.001**:unpairedt検定,†:Fisher正確検定,‡:Wilcoxon順位和検定.360°LOT+DS:強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法.120°LOT+DS:強膜深層弁切除併用120°トラベクロトミー.両群ともに手術の施行にあたり,術式および考えられる効果と合併症について説明し,本人と家族の同意を得た.両群の術前患者背景を表1に示す.平均観察期間は,360°LOT+DS群が13.6±7.5カ月,120°LOT+DS群が29.4±8.7カ月と群間に有意差があったため,術後眼圧・投薬スコアの比較は12カ月までとした.2.手術術式a.強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法上方結膜を温存するため,全例耳側より手術を行った.円蓋部基底で結膜切開を行い,露出させた強膜に4mm×4mm,厚さ1/2強膜厚の第一強膜弁を作製し,その内側に3×3mmの第二強膜弁を作製した.Schlemm管内壁を露出させた後,粘弾性物質をSchlemm管内に注入し,熱加工して先端を丸くした5-0ナイロン糸をSchlemm管に挿入,全周通糸し,対側から5-0ナイロン糸を引き出した.前房内ab図1360°スーチャートラベクロトミー変法の手術手技の模式図a:5-0ナイロン糸をSchlemm管に挿入,全周通糸し,対側に作製した角膜サイドポートから糸を引き出し,両側の糸をゆっくり引き抜くことで360°線維柱帯切開を行う.b:糸がSchlemm管を全周通過できない場合,その領域のみ線維柱帯の切開を行い,糸を引き抜き,残った側のSchlemm管へ再度通糸し,同様に残り半周の切開を行う.272あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(112) を粘弾性物質で満たし,線維柱帯・Schlemm管内壁部(ウインドウ)の角を30G針にて小さな切開を行い,同部位から糸を前房内に通糸し,ウインドウと対側に作製した角膜サイドポートから糸を引き出し,両側の糸をゆっくり引き抜くことで360°線維柱帯切開を行った(図1a).糸がSchlemm管を全周通過できない場合,たとえば180°通したところで糸がそれ以上動かなくなった場合は,その領域のみ線維柱帯の切開を行い,糸を引き抜き,残った側のSchlemm管へ再度糸を通して同様に対側の角膜サイドポートから糸を引き出して残り半周の切開を行った(図1b).引き続き同一創より超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)を施行し,第二強膜弁を切除し,術後一過性高眼圧を抑制する目的で濾過胞ができるよう,房水がやや漏れるくらいに第一強膜弁を1.4糸縫合した.結膜を10-0ナイロン糸で房水が漏れないように連続縫合し,手術を終了した.b.トラベクロトームを使用した強膜深層弁切除併用120°トラベクロトミー上記と同様に,円蓋部基底で結膜切開を行い,露出させた強膜に4mm×4mm,厚さ1/2層の第一強膜弁を作製し,その内側に3×3mmの第二強膜弁を作製した.Schlemm管を露出させた後,トラベクロトームを両側のSchlemm管に挿入し,Schlemm管内壁を合計120°切開した.同一創よりPEA+IOL施行,第二強膜弁を切除し,術後一過性高眼圧を抑制する目的で濾過胞ができるよう,房水がやや漏れるくらいに第一強膜弁を1.4糸縫合した.結膜を10-0ナイロン糸で房水が漏れないように連続縫合し,手術を終了した.3.検討項目,統計学的評価検討項目は,1.眼圧経過,2.投薬スコアの経時変化,3.合併症の3項目とした.眼圧経過は,手術直前3回の平均値を術前眼圧,術後1カ月,3カ月,6カ月,9カ月,12カ月の眼圧を術後眼圧とし,術前後の比較を行った.さらに術式間の眼圧を比較した.また,術後眼圧評価としてKaplanMeier法による生存解析を行い,術式間で比較した.死亡の定義は,術後1カ月以降で16mmHg,14mmHgの目標眼圧を2回連続で超えた最初の時点,炭酸脱水酵素阻害薬の内服を併用した時点,緑内障手術を追加した時点のいずれかとした.投薬スコアは緑内障点眼薬1点,炭酸脱水酵素阻害薬内服を2点とした.合併症は術後1カ月以内の術後早期合併症を検討した.検討項目は,トラベクロトミーに高頻度で起こるとされる前房出血(hyphema),術後一過性高眼圧の頻度とそれが正常化するまでの時間,また,両群ともに一過性高眼圧を抑制する目的で濾過胞を意図的に形成するため,その頻度および濾過胞関連合併症として低眼圧,脈絡膜.離,低眼圧黄斑症,濾過胞感染についても検討した(表2).術後一過性高眼圧は術後1カ月以内に30mmHg以上になった場合,前房出血は(113)表2合併症360°LOT120°LOT+DS+DSp値前房出血(hyphema)9/35(25.7%)4/24(16.7%)0.529*術後一過性高眼圧8/35(22.9%)3/24(12.5%)0.498*濾過胞22/35(62.9%)7/24(29.2%)0.017*濾過胞関連合併症4mmHg以下の低眼圧1/35(2.9%)2/24(8.3%)0.561*脈絡膜.離0/0(0%)0/0(0%)─低眼圧黄斑症0/0(0%)0/0(0%)─濾過胞感染0/0(0%)0/0(0%)─*:Fisher正確検定.360°LOT+DS:強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法.120°LOT+DS:強膜深層弁切除併用120°トラベクロトミー.1mm以上のhyphemaを伴った場合,濾過胞は結膜の隆起を認める場合と定義し,前房出血と濾過胞の有無はカルテの記載と前眼部写真をもとに判定した.低眼圧は4mmHg以下の場合,脈絡膜.離,低眼圧黄斑症は検眼鏡的に認めた場合と定義した.統計学的解析にはJMP10.0.2(SASInstituteJapan株式会社)を用いた.術前患者背景における年齢,術前眼圧はunpairedt検定,性別比はFisher正確検定,投薬スコアはWilcoxon順位検定を行った.術前後の眼圧比較はMANOVA,術式間の眼圧比較はunpairedt検定,術後眼圧の生存解析,術式間の比較にはlog-rank検定を行った.投薬スコアの経時変化はKruskal-Wallis検定を行った.合併症の頻度はFisher正確検定を用い,それが正常化するまでの時間をunpairedt検定を用いて検討した.p<0.05を有意とした.II結果術前の患者背景を表1に示す.両群間の患者背景(年齢,術前眼圧,性別,投薬スコア)に有意差はなかった.1.眼圧経過360°LOT+DS群と120°LOT+DS群の眼圧経過を図2に示す.360°LOT+DS群は術前眼圧が18.8±0.6mmHg(平均±標準誤差)であるのに対し,術後1,3,6,9,12カ月後の眼圧はそれぞれ13.6±0.5mmHg,11.4±0.3mmHg,12.4±0.4mmHg,12.3±0.4mmHg,13.1±0.5mmHgと,全経過を通じ眼圧は有意に変化し(p<0.0001,MANOVA),術前に比しすべての期間で有意に低下していた(各々p<0.05,Dunnet’smultiplecomparison検定).120°LOT+DSでは,術前眼圧が19.5±0.7mmHg(平均±標準誤差)で,術後1,3,6,9,12カ月後の眼圧はそれぞれ15.1±0.7mmHg,13.3±0.6mmHg,13.5mmHg,14.3±0.6mmHg,14±0.5mmHgと全経過で眼圧は有意に変化し(p<0.0001,MANOVA),すべての期間で術前に比べ有意に低下していあたらしい眼科Vol.31,No.2,2014273 20a1008015**:360°LOT+DS:120°LOT+DS:360°LOT+DS:120°LOT+DS生存率(%眼圧(mmHg)6040201050036912術後観察期間(月)0術前36912b100術後観察期間(月)80図2術前および術後眼圧経過360°LOT+DS群および120°LOT+DS群いずれも術前に比して,術後有意に眼圧は下降した(両群ともにp<0.05,MANOVAおよびDunnet’smultiplecomparison検定).*:360°LOT+DS群の術後眼圧は120°LOT+DS群に比べ,術後3,9カ月の時点で有意に下降していた(各々p=0.003,p=0.008,unpairedt検定).た(各々p<0.05,Dunnet’smultiplecomparison検定).両群間の眼圧を比較すると,360°LOT+DS群の術後眼圧は120°LOT+DS群に比べ術後3,9カ月の時点で有意に下降していた(各々p=0.003,p=0.008,unpairedt検定).Kaplan-Meierによる生存解析の結果を示す(図3).12カ月の時点での16mmHg以下の生存率は360°LOT+DS群は100.0%,120°LOT+DS群は78.8%であり,360°LOT+DS群が有意に高かった(p=0.009,log-rank検定,図3a).術後12カ月の時点での14mmHg以下の生存率においても360°LOT+DS群は86.9%,120°LOT+DS群は46.9%で,360°LOT+DS群のほうが有意に高かった(p=0.003,log-rank検定,図3b).2.投薬スコアの経時変化360°LOT+DS群と120°LOT+DS群の投薬スコアを表3に示す.360°LOT+DS群は術前投薬スコアが1.1±1.4(平均±標準誤差)であるのに対し,術後1,3,6,9,12カ月後の投薬スコアはそれぞれ0.1±0.1,0.1±0.1,0.1±0.1,0.2±0.1,0.4±0.8と,全経過を通じ投薬スコアは有意に変化し(p<0.0001,Kruskal-Wallis検定),術前に比しすべての期間で有意に低下していた(各々p<0.05,Dunnet’smultiplecomparison検定).120°LOT+DS群においても全経過を通し,投薬スコアは有意に変化し(p=0.004,KruskalWallis検定),術前に比べてすべての期間で有意に下降した(いずれもp<0.05,Dunnet’smultiplecomparison検定).各期間において,術式間には有意差は認めなかった.3.合併症前房出血(hyphema)の頻度は,360°LOT+DS群では9274あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014:360°LOT+DS:120°LOT+DS生存率(%)6040200図3Kaplan.Meier法による眼圧の生存解析a:16mmHg以下のKaplan-Meier生存曲線.術後12カ月の時点で360°LOT+DS群の生存率は100.0%,120°LOT+DS群は78.8%であり,360°LOT+DS群が有意に高かった(p=0.009,log-rank検定).b:14mmHg以下のKaplan-Meier生存曲線.術後24カ月の時点で360°LOT+DS群の生存率は86.9%,120°LOT+DS群は46.9%で,360°LOT+DS群のほうが有意に高かった(p=0.003,log-rank検定).表3点眼スコアの経過036912術後観察期間(月)360°LOT+DS120°LOT+DS術後(カ月)投薬スコア投薬スコア眼数(平均±標準誤差)眼数(平均±標準誤差)1350.1±0.1*240.0±0.0*3350.1±0.1*240.1±0.1*6330.1±0.1*230.1±0.1*9250.2±0.1*230.1±0.1*12200.4±0.8*230.2±0.1**:p<0.05(Kruskal-Wallis検定およびDunnet’smultiplecomparison検定).360°LOT+DS:強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法.120°LOT+DS:強膜深層弁切除併用120°トラベクロトミー.眼(25.7%),120°LOT+DS群は4眼(16.7%),360°LOT+DS群のほうが高い傾向にあったが,両群間に有意差は認めなかった(p=0.529,Fisher正確検定).前房出血(hyphema)が吸収されるまでに要した時間は,360°LOT+DS群で平均5.1±2.3日,120°LOT+DS群で3.3±2.9日で両群間に有意差を認めなかった(p=0.256,unpairedt検定)が,(114) 360°LOT+DS群の2例(5.7%)において5mm以上のhyphemaを伴う多量の前房出血を認めたため1週間後に前房洗浄を行った.術後一過性高眼圧の頻度は,360°LOT+DS群では8眼(22.9%)であり,120°LOT+DS群で3眼(12.5%)に比べて高い傾向にあったが,両群間に有意差は認めなかった(p=0.498,Fisher正確検定).30mmHg以下に下降するまでの時間は,360°LOT+DS群は2.9±2.1日,120°LOT+DS群は2.7±2.1日と両群間に有意差は認めず(p=0.891,unpairedt検定),追加手術を要するものはなかった.濾過胞の頻度は,360°LOT+DS群では22眼(62.9%),120°LOT+DS群は7眼(29.2%)と360°LOT+DS群は120°LOT+DS群に比べて有意に高い頻度で濾過胞を認めた(p=0.017,Fisher正確検定).濾過胞消失までの時間は,360°LOT+DS群では5.9±4.0日,120°LOT+DS群は6.0±7.1日と両群間に有意差は認めなかった(p=0.967,unpairedt検定).過剰濾過により4mmHg以下の低眼圧をきたしたものは360°LOT+DS群では1眼(2.9%),120°LOT+DS群は2眼(8.3%)あり,保存的経過観察にてそれぞれ4日,4.2±4.2日で眼圧は正常化した.その他,濾過胞関連の脈絡膜.離,低眼圧黄斑症,濾過胞感染は両群ともにみられなかった.III考按陳らは360°スーチャートラベクロトミー変法単独手術により術後12カ月の平均眼圧は13.1mmHgであったと報告し7,8),後藤らは強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法に白内障手術を併施して術後9カ月後の平均眼圧は13.7mmHg,術後6カ月での14mmHg以下の生存率は71.4%であったと述べている9).佐藤眼科での360°LOT+DS群は術後12カ月まで13mmHg前後で推移し,14mmHg以下の生存率は術後12カ月で86.9%と,過去の報告とほぼ同等かやや良好な結果であった.また,120°LOT+DS群は術後平均眼圧が14mmHg以下の生存率は46.9%と過去の報告とほぼ同等であったが1.5),360°LOT+DS群は120°LOT+DS群に比し術後眼圧は有意に下降し,生存率も高かった.投薬スコアは360°LOT+DS群,120°LOT+DS群ともに術前に比べ術後12カ月まで有意に下降したが,両群間に差は認めなかった.360°LOT+DS群が120°LOT+DS群よりも眼圧が下降したのは,広範囲のSchlemm管を切開することでより広範囲の集合路が開放されたためではないかと考えられた.前房出血の頻度と前房出血が吸収されるまでの時間は両群間で有意差を認めず,120°トラベクロトミーの過去の報告1,3)と同様に360°LOT+DS群も1週間以内に前房出血は吸収(115)され,Schlemm管の切開幅による前房出血への影響はみられなかった.1カ月以内の30mmHg以上の術後一過性高眼圧の頻度も両群間で有意差を認めず,陳らの360°スーチャートラベクロトミー変法単独手術における一過性高眼圧の割合は120°トラベクロトミーに比べて差はなかったとする報告7)と同様であり,Schlemm管の切開幅の差により術後一過性高眼圧の割合に差はないようであった.しかし,陳らは強膜深層弁切除を併用しない360°トラベクロトミー単独手術での30mmHg以上の術後一過性高眼圧の割合が50%と報告しており7),強膜深層弁切除を併用した今回の360°LOT+DS群の22.9%より高いようである.今回の報告では,両群ともに術後の一過性高眼圧を抑制する目的で,強膜深層弁切除を併用し,意図的に濾過胞を作製している.一般的な120°トラベクロトミーにSchlemm管外壁開放術や強膜深層弁切除を併用することで術後一過性高眼圧が抑制されるといわれている1.5)が,360°スーチャートラベクロトミー変法においても強膜深層弁切除を併用することで術後の一過性高眼圧が抑制された可能性があった.また,濾過胞がみられた頻度は360°LOT+DS群で有意に高い傾向にあったが,360°LOT+DS群では前房に糸を挿入する際にウインドウの両端に小さな穴が開いてしまうため,120°LOT+DS群よりも強膜弁から結膜下への房水漏出量が多かったのが原因と考えられた.両群ともに,濾過胞は両群ともに平均1週間弱で消失したため,トラベクレクトミーにみられる長期にわたる濾過効果や,低眼圧や感染症などの濾過胞関連合併症の危険性はないと考えられた.今回の検討では,緑内障点眼薬にて加療中の患者で,白内障手術を希望した際に360°スーチャートラベクロトミー変法を施行した症例も含まれるため,術前眼圧が18.6mmHgと高くなかったが,術後12カ月間の眼圧下降効果が良好に保たれていたことは,より低い目標眼圧を必要とする正常眼圧緑内障においても本術式は適応できる可能性があると考えられた.一方,今回の対象症例の手術期間に強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法を試みたものの,ナイロン糸がSchlemm管にスムーズに挿入できない,または早期穿孔などにより切開範囲が240°以下となった症例が18眼あり,今回の検討対象となった51眼を合わせると,成功率は74%にとどまった.強膜深層弁切除併用360°スーチャートラベクロトミー変法は,引き続きより多くの長期経過を検討する必要があるものの,13mmHg前後に眼圧を下降させる可能性がある術式であると考えられた.文献1)三木貴子,松下恭子,内藤知子ほか:シヌソトミー併用線あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014275 維柱帯切開術の長期術後成績.臨眼64:1691-1695,20102)南部裕之,城信雄,畔満喜ほか:下半周で行った初回Schlemm管外壁開放術併用線維柱帯切開術の術後長期成績.日眼会誌116:740-750,20123)後藤恭孝,黒田真一郎,永田誠:原発開放隅角緑内障におけるSinusotomyおよびDeepSclerectomy併用線維柱帯切開術の長期成績.あたらしい眼科26:821-824,20094)松原孝,寺内博夫,黒田真一郎ほか:サイヌソトミー併用トラベクロトミーと同一創白内障同時手術の長期成績.あたらしい眼科19:761-765,20025)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:開放隅角緑内障に対するシヌソトミー併用トラベクロトミーの長期成績.日眼会誌100:611-616,19966)BeckAD,LynchMG:360degreestrabeculotomyforprimarycongenitalglaucoma.ArchOphthalmol113:12001202,19957)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodified360-degreesuturetrabeculotomytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglaucoma:apilotstudy.JGlaucoma21:401-407,20128)陳進輝:360°SutureTrabeculotomy変法.眼科手術25:235-238,20129)後藤恭孝,黒田真一郎,永田誠:全周線維柱帯切開術の短期成績.眼科手術22:101-105,2009***276あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(116)