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大学病院に紹介となった後期緑内障患者の治療方針について

2021年7月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科38(7):830.834,2021c大学病院に紹介となった後期緑内障患者の治療方針について北野まり恵*1,2坂田礼*1淺野公子*1,3杉本宏一郎*1藤代貴志*1村田博史*1朝岡亮*1,4本庄恵*1相原一*1*1東京大学医学部眼科学教室*2東京都健康長寿医療センター眼科*3国保旭中央病院眼科*4総合病院聖隷浜松病院眼科CTreatmentPlansforLate-StageGlaucomaPatientsReferredfromtheInitialMedicalFacilityMarieKitano1,2),ReiSakata1),KimikoAsano1,3),KoichiroSugimoto1),TakashiFujishiro1),HiroshiMurata1),RyoAsaoka1,4),MegumiHonjo1)andMakotoAihara1)1)DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyo,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanGeriatricMedicalCenter,3)DepartmentofOphthalmology,AsahiGeneralHospital,4)DepartmentofOphthalmology,SeireiHamamatsuGeneralHospitalC目的:大学病院に紹介となった後期の緑内障患者に対する治療方針を検討すること.対象および方法:2017年C6月.同年C12月に東京大学医学部附属病院眼科緑内障専門外来に紹介となった初診患者連続C244例のうち,後期の緑内障(Humphrey自動視野計のCMD値が.20CdB以下)であった患者の治療方針を後ろ向きに検討した.結果:55例C69眼が検討対象となり,初診時の平均年齢C70.6(20.93)歳,平均CBCVA(logMAR)0.46(.0.079.2.0),平均CMD値C.25.47CdB(.20.07..32.15),平均眼圧C18.0(9.48)mmHg,平均点眼成分数C3.4(0.5)剤であった.5例C6眼は初診後に治療方針が決まらないままにドロップアウトした.30例C34眼は初診日に手術の方針となり,濾過手術がもっとも多く施行されていた(39.4%).残りのC20例C29眼の治療方針は点眼調整を行った症例(5例C8眼),紹介状による視野では進行評価が十分にできなかったため,追加検査が必要であった症例(5例C7眼),眼圧管理は十分と判断され治療を継続した症例(5例C5眼),手術適応と判断されたが手術の希望がなかった症例(4例C4眼),すでに手術の適応からはずれた症例(4例C5眼)であった.結論:大学病院に紹介となった後期の緑内障患者に対して,濾過手術がもっとも多く行われていた.初診日に迅速に治療方針を決定できるようにするため,患者情報(眼圧,視野)は余すところなく病院側へ提供してもらうことが必要であり,これが円滑な病診連携につながると考えられた.CPurpose:ToCinvestigateCtheCtreatmentsCofClate-stageCglaucomaCpatientsCreferredCtoCourCuniversityChospitalCfromtheinitialhealthcarefacility,theappliedtherapeuticmodalitieswereretrospectivelyreviewed.SubjectsandMethods:ThisCretrospectiveCstudyCinvolvedC69CeyesCof55Clate-stageCglaucomaCpatients(meanage:70.6Cyears,range:20-93Cyears)seenCuponCreferralCatCtheCUniversityCofCTokyoCHospital,CTokyo,CJapanCbetweenCJuneCandCDecemberC2017.CInCthoseC55Cpatients,CmeanCvisualCacuityCwasClogMARC0.46,CmeanCdeviationCwasC.25.47CdB,CandCmeanCintraocularpressure(IOP)wasC18.0CmmHg.CThirtyCpatientsCunderwentCocularCsurgery,CwithCtheCmostCcom-monCsurgeryCbeingC.ltrationCsurgery.CResults:OfCthe55CpatientsCseen,Ceye-dropCmedicationCwasCadjustedCinC5,Cadditionalexaminationswereneededin5,andIOPwasalreadywell-controlledof5.Fourpatientsrefusedsurgery,andC4CpatientsCshowedCnoCindicationsCforCocularCsurgery.CConclusion:ToChelpCbetterCsupportCtheCproperCmedicalCcareofglaucomapatients,itisvitaltoprovideappropriatepatientdatathroughcooperationbetweentheoperatinghospitalandtheregionalhealthcarefacilities.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(7):830.834,C2021〕Keywords:後期緑内障,緑内障手術,病診連携.late-stageglaucoma,glaucomasurgery,medicalcooperation.〔別刷請求先〕北野まり恵:〒113-8655東京都文京区本郷C7-3-1東京大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MarieKitano,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyo,7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPANC830(100)はじめに緑内障は早期発見,早期治療を必要とする中途失明の第一位の疾患である1).エビデンスに基づく治療は眼圧下降のみであり2),目標眼圧での眼圧管理が進行抑制につながると考えられている.後期の緑内障における目標眼圧は低く,点眼管理では十分に眼圧を下げられないことも多い.東京大学医学部附属病院(以下,当院)は特定機能病院であり,近隣の診療所や市中病院と役割分担(病診連携)を行っている.病診連携を円滑に行うための一つの方法として,診断や治療方針に関して,連携する医療機関と共通の認識をもつことが望ましい2).今回,手術を前提に紹介されることの多い後期の緑内障患者に対して,当院がどのような治療方針を取ったかを検討し,大学病院側の視点から,病診連携における注意点を考えた.CI対象および方法診療録の後ろ向き調査である.2017年C6月.同年C12月に当院の緑内障専門外来に紹介となった初診患者C244例のうち,後期緑内障患者C55例C69眼を対象とした.本検討における後期緑内障の判定基準は,HumphreyCFieldCAnalyzer(カールツァイスメディテック)SwedishCinteractiveCthresh-oldingCalgorithm(SITA)-standard30-2もしくはC24-2の条件下でのCmeandeviation(MD)値がC.20.0CdB(固視不良C20%未満,偽陽性と偽陰性C15%未満)以下とした.初診時の診察はC7名の緑内障専門医が行った.治療下での眼圧,目標眼圧と使用点眼数,視野進行速度を判断材料とし,フルメディケーションでも目標眼圧に達していない症例,視野進行が.1CdB/年前後以上の増悪がみられる症例が,手術適応を決めるおおまかな基準であった.評価項目は性別,年齢,経過観察期間,視力,眼圧,MD表1患者背景対象55例69眼性別男性C35例,女性C20例平均年齢C70.6±14.5(C20.C93)歳前医での平均観察期間C6.0±0.2(0.20.6)年平均視力(logMAR)C0.46±0.62(C.0.079.2.0)平均CMD値C.25.47±3.33(C.20.07.C.32.15)dB中心視野欠損9例10眼平均眼圧C17.5±8.1(9.48)mmHg患者数(人)87774使用点眼(成分)C3.4±1.3(0.5)C2アセタゾラミド内服使用2例名3眼原発開放隅角緑内障C33C0正常眼圧緑内障C16続発緑内障C8病型原発閉塞隅角緑内障C8年齢(歳)落屑緑内障C4図1患者の年齢と男女分布(1C01)あたらしい眼科Vol.38,No.7,2C021C831術(アルコンエクスプレス)であった.ついで,低侵襲緑内障手術(minimallyCinvasiveCglaucomasurgery:MIGS)が10眼であった(図2).初診後,方針未決定で通院が途絶えた症例はC6眼であった.残りのC29眼は以下の方針が取られた.点眼調整を行っC1413121010864432210濾過手術MIGSGSLtripleP+ICPCNeeding症例数(眼)図2手術施行群の手術内容濾過手術:線維柱帯切除術,もしくはアルコンエクスプレス,MIGS:低侵襲緑内障手術,GSLtriple:隅角癒着解離術+水晶体再建術.P+I:水晶体再建術(眼内レンズ挿入あり),CPC:レーザー毛様体光凝固術,Needling:ブレブ.離術.た症例C8眼,添付視野では評価不十分のため,追加検査が必要であった症例C7眼,眼圧管理が十分と判断された症例C7眼,すでに中心視野が消失,あるいは高齢で手術適応なしと判断された症例C4眼,手術希望がない症例C4眼,であった.経過観察群のうち,点眼調節を施行した群(8眼)の治療成績を示す(表2).紹介元での点眼調整を施行する方針となったC2眼を除くC6眼については,点眼方法を確認,また配合剤に変更し,点眼調節前の平均眼圧C15.8CmmHgが調整後に10.7CmmHgとなり有意な眼圧下降が得られた.前医からの点眼管理を継続した群はC7眼であった.診断はPOAGがC3眼,NTGがC3眼,PACGがC1眼であった.平均MD値はC.23.34dB,平均眼圧はC12.6mmHg(平均C4成分)であり,添付された視野を踏まえると眼圧管理は十分であると判断され,保存的治療を継続する方針が取られた.C2.手術施行群と非施行群の比較手術施行群C34眼,非施行群C31眼であり,平均CMD値,平均視力,平均眼圧にそれぞれ有意差が認められた(表3).CIII考察今回,大学病院に紹介となった後期緑内障患者を対象として,初診時の治療方針を検討した.その結果,約半数で手術表2点眼の調整で対応した群年齢(歳)視野C30-2(dB)診断ClogMAR眼圧調整前後(mmHg)点眼調整前後(成分)C57C.30.09正常眼圧緑内障C0.155C12C→C10C2→4C57C.28.67正常眼圧緑内障C0.523C12C→C11C2→4C83C.26.42原発開放隅角緑内障C.0.079C16C→C12C2→4C77C.24.24原発開放隅角緑内障C1.15C18C→C14C1→2C52C.23.28原発開放隅角緑内障C.0.079C13→8C0→1C42C.21.77正常眼圧緑内障C021→不明なし→不明C42C.21.73正常眼圧緑内障C0.15519→不明なし→不明C52C.20.61原発開放隅角緑内障C0.222C15→9C0→1表3手術施行群と非施行群の比較手術施行群(34眼)非施行群(31眼)p値年齢C72.8±14.0(C20.C93)歳C68.6±14.8(C35.C90)歳C0.23観察期間C5.6±6.2(C0.C20.6)年C6.8±(0.C17.1)年C0.24点眼(成分)C3.6±0.9(1.5)C3.2±1.6(0.5)C0.19MD値C.26.59±3.17(C.32.15.C.20.88)CdBC.24.43±3.18(C.30.7.C.20.07)CdBC0.006視力(logMAR)C0.62±0.64(C.0.08.2)C0.32±0.57(C.0.08.2)C0.046眼圧C21.1±10.1(9.C48)CmmHgC14.3±3.34(9.C22)CmmHgC0.0003病型(眼)原発開放隅角緑内障16眼17眼原発閉塞隅角緑内障6眼10眼正常眼圧緑内障5眼3眼続発緑内障4眼4眼落屑緑内障3眼1眼が行われ,手術施行群は非施行群と比較して有意にCMD値は低く,眼圧は高く,視力が悪かった.十分な患者データ(眼圧推移や視野経過)の添付の有無が,迅速な治療方針決定に重要な役割を果たしていると考えられた.緑内障が進行するにつれて,より低い眼圧値での管理が提唱されているので3),視機能維持が厳しくなりつつあるような症例は,手術を前提として大学病院に紹介されることが多い.しかし,紹介を受ける側としては,眼圧値以外にも患者の年齢や対眼の状態,病状の理解度,点眼アドヒアランスの意識レベルなど,手術を決める根拠を常に探している.今回検討した症例の約半数で初診日に緑内障手術が決定され,濾過手術が最多であり,筋が通っていた.手術施行群と非施行群では,MD値,視力,眼圧で有意差がみられたことから,同じ後期でも視機能がより悪い症例が手術になりやすいことが判明した.中心視野障害が強い緑内障患者に対して濾過手術を施行することで,中心視野が消失する確率がC0.8.1%とも報告されている4,5).また,緑内障は慢性的に進行し,手術後もその進行はすぐには止まらないため,中心視野が少ない状態になってからの手術では,自然経過でも視機能が維持できなくなる可能性もある.したがって,手術適応の評価のためには,視野にある程度余裕がある段階で紹介すべきであると考えられた.ただし,手術希望のない患者もおり,緑内障の自然経過や手術のメリット・デメリットを説明し慎重に治療を進める必要がある.MIGSについては短時間で終わるため,濾過手術を躊躇しがちな高齢者などで,まずCMIGSで眼圧管理ができないかを模索しつつ,術後経過によっては濾過手術も選択していくという方針を取るほうがよい場合もある.なお,紹介時に中心視野が消失していた症例(4眼)については,視機能維持の観点からはすでに手術適応はないと判断されたが,周辺視野を残すために手術を行うこともある.また,閉塞隅角緑内障では水晶体再建術単独もしくは隅角癒着解離術,低侵襲緑内障手術の併用など,絶対的に手術が適応となる.しかしながら,このような症例でも術前の眼圧や視野のデータがないと手術術式の選択を迅速に行うことができない.つぎに,手術非施行群について考える.まず,添付されていた視野情報のみでは進行判定が困難な症例が含まれていた.最終視野検査のみ添付されている例が多く,このような場合は紹介元への問い合わせ,あるいは改めて視野検査を行う必要があるが,これでは治療方針の決定までさらに時間がかかってしまう.このことから,紹介元で行われた視野検査のデータはすべて提供することが,迅速な方針決定を行い,結果的に患者の視機能維持につながると考えられた6).点眼調整をした症例については,処方内容,点眼アドヒアランスについて改めて確認をすべき症例が含まれていることを示唆していた.今回の症例においても,フルメディケーションではない症例が含まれており,眼圧下降薬の点眼成分を増やし,点眼方法を今一度確認したところ,有意な眼圧下降を得ることができた.注意すべき点としては,このように保存的に経過をみている間も残存視野が少ないことを常に意識し,手術介入のタイミングを逸することは避けなければいけないということである.紹介時の点眼内容で眼圧管理が十分と判断された症例については,眼圧値だけではなく,年齢や視野進行速度を含めての総合的な判断によるものである.このような症例は,判断材料(眼圧推移や視野経過)がしっかり添付されている場合が多く,視野進行が比較的緩徐であり,眼圧管理へ積極的に介入する必要が低い症例であった.このことからも,患者データを情報共有することの重要性が示唆された.本研究はいくつかの限界をかかえている.まず,大学病院という特性上,紹介患者にかなり偏りが生じていることは否めない.しかしながら,あらゆる緑内障治療を行っている当院であったからこそ,いろいろな治療法から選択することが可能であったともいえる.つぎに,手術適応の有無については,眼圧レベルあるいは視野進行速度から判断を行ったが,治療方針を判断した緑内障専門医の判断根拠が完全に統一されているわけではないことがあげられる.上記指針を基にしつつも臨床医としての経験年数がこれに加わるため,最終判断時の意思統一に第三者が介入することはできなかった.これはこの後ろ向き調査の限界であると考えられた.最後に治療方針の選択とその後の視機能との関連について追跡調査ができていない点である.視機能の維持という緑内障治療の最終目標を確認するためには,長期的な視点に立っての経過観察が望まれるのはいうまでもない.CIV結論大学病院に紹介となった後期の緑内障患者における初診時の治療方針を検討した結果,緑内障手術を行った症例が約半数を占めていた.手術を施行した群は,しなかった群と比較して眼圧がより高く,視機能がより悪かった.今回の検討を通じ,迅速な治療方針が決定されるために,紹介元における患者情報はすべて病院に提供していただくという,患者のためになる病診連携体制を構築していく必要があると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MorizaneCY,CMorimotoCN,CFujiwaraCACetal:IncidenceCandCcausesCofCvisualCimpairmentCinJapan:theC.rstCnation-wideCcompleteCenumerationCsurveyCofCnewlyCvisuallossafterglaucomasurgery.OphthalmicSurg23:Ccerti.edCvisuallyCimpairedCindividuals.CJpnCJCOphthalmolC388-394,C1992C63:26-33,C20195)CostaVP,SmithM,SpaethGIetal:Lossofvisualacuity2)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内Caftertrabeclectomy.Ophthalmology100:599-612,C1993障診療ガイドライン第C4版.日眼会誌122:5-53,C20186)ChauhanCBC,CGarway-HeathCDF,CGoniCFJCetal:Practical3)岩田和雄:低眼圧緑内障および原発開放隅角緑内障の病態CrecommendationsCforCmeasuringCratesCofCvisualC.eldと視神経障害機構.日眼会誌96:1501-1531,C1992Cchangeinglaucoma.BrJOpthalmol92:569-573,C20084)LeveneRZ:Centralvisual.eld,visualacuity,andsudden***