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後部ぶどう腫を合併した原発閉塞隅角症疑いの1例

2017年7月31日 月曜日

《第27回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科34(7):1046.1049,2017c後部ぶどう腫を合併した原発閉塞隅角症疑いの1例石崎典彦*1米本由美子*1山田哉子*1家久耒啓吾*1池田恒彦*2*1八尾徳州会総合病院眼科*2大阪医科大学眼科学教室ACaseofPrimaryAngleClosureSuspectwithPosteriorStaphylomaNorihikoIshizaki1),YumikoYonemoto1),KanakoYamada1),KeigoKakurai1)andTsunehikoIkeda2)1)DepartmentofOphthalmology,YaoTokushukaiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege緒言:原発閉塞隅角症(PAC),原発閉塞隅角症疑い(PACS),原発閉塞隅角緑内障(PACG)においては,短眼軸長,遠視が多くみられる.長眼軸長,強度近視を合併したPACSの症例を報告する.症例:66歳,女性.矯正視力は右眼0.03×sph.9.0D(cyl.3.0DAx140°,左眼0.4p×sph+2.5D,眼圧は右眼13mmHg,左眼14mmHg.両眼ともに狭隅角であったが,周辺虹彩前癒着は認めなかった.視神経乳頭に緑内障性変化を認めなかった.両眼のPACSと診断した.眼軸長は右眼26.12mm,左眼21.76mmだった.超音波検査により右眼に後部ぶどう腫を認めた.両眼にレーザー虹彩切開術を施行し,隅角の開大を認めた.結論:PACSにおいて強度近視を認める場合には,後部ぶどう腫を合併している可能性がある.Purpose:Hyperopiaandshortaxiallengtharefrequentlyobservedincasesofprimaryangleclosure(PAC),primaryangleclosuresuspect(PACS)andprimaryangle-closureglaucoma(PACG).WereportacaseofPACSwithhighmyopiaandlongaxiallength.Case:Thisstudyinvolveda66-year-oldfemalewithcorrectedvisualacuityof0.03withS.9.0D(cyl.3.0DAx140°ODand0.4partialwithS+2.5DOS;intraocularpressurewas13mmHgODand14mmHgOS.Bilaterally,heranglewasnarrowbutnotrecognizedasperipheralanteriorsyn-echia,andheropticnerveheadsshowednoglaucomatouschange.WethereforediagnosedPACS.Axiallengthwas26.12mmODand21.76mmOS.Ultrasonicexaminationreveledposteriorstaphylomainherrighteye.Wesubse-quentlyperformedlaseriridotomytoreleasetheangleclosure.Conclusions:PACSwithhighmyopiamaypresentwithposteriorstaphyloma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1046.1049,2017〕Keywords:閉塞隅角,近視,後部ぶどう腫,眼軸長.angleclosure,myopia,posteriorstaphyloma,axiallength.はじめに原発閉塞隅角症(primaryangleclosure:PAC),原発閉塞隅角症疑い(primaryangleclosuresuspect:PACS),原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)の危険因子としては女性,加齢,浅い中心前房深度,短眼軸長,遠視などの報告1)があり,PACS,PAC,PACGに遠視眼,短眼軸長は多くみられる.一方で,近視眼でもPACS,PAC,PACGはみられるが,比較的頻度は少ない.Barkanaら2)は続発性も含めた閉塞隅角において,.6D以上の強度近視眼が0.1%あったと報告している.Chakravartiら3)はPAC,PACS,PACGにおいて,.5D以上の強度近視眼が2%あったと報告している.今回,筆者らは後部ぶどう腫による長眼軸長,強度近視を合併したPACSを経験したので報告する.I症例と経過患者:66歳,女性.既往歴:53歳時から糖尿病(HbA1c9.8%4年間8.11%で推移),63歳時から重症筋無力症に対して治療中だった.10歳頃に花火により右眼を受傷してから,右眼の視力が不良だった.現病歴:約1年前から左眼視力低下を自覚しており,近医を受診した.左眼に糖尿病黄斑浮腫を認め,2016年1月に精査,加療目的に八尾徳州会総合病院眼科紹介となった.〔別刷請求先〕石崎典彦:〒581-0011大阪府八尾市若草町1-17八尾徳州会総合病院眼科Reprintrequests:NorihikoIshizaki,DepartmentofOphthalmology,YaoTokushukaiGeneralHospital,1-17Wakakusachou,Yao-shi,Osaka581-0011,JAPAN1046(130)図1前眼部写真(初診2カ月後,右眼はレーザー虹彩切開後)両眼ともに中心前房深度が浅い.図2眼底写真(初診9カ月後)両眼ともに網膜出血,軟性白斑,硬性白斑を認める.右眼は後部ぶどう腫,網脈絡膜萎縮を認める.初診時所見:視力は右眼0.01(0.03×sph.9.0D(cyl.3.0DAx140°),左眼0.2(0.4p×sph+2.5D).眼圧は右眼13mmHg,左眼14mmHg.前眼部所見は両眼ともに角膜は清明,中心前房深度,周辺前房深度が浅かった(図1).中間透光体所見は両眼ともに軽度の白内障を認めた.眼底は両眼ともに硬性白斑,軟性白斑,網膜出血を認め,右眼の後極に網脈絡膜萎縮,後部ぶどう腫を認めた(図2).視神経乳頭に緑内障性変化を認めなかった.眼位は近見16Δ外斜視,遠見40Δ外斜視だった.検査所見:角膜は両眼ともに横径11mm,縦径11mm,平均角膜曲率半径は右眼7.56mm(44.75D),左眼7.64mm(44.25D)であった.隅角検査では両眼ともに第一眼位において全方向で毛様体帯が観察できず,Scheie分類GradeIVだったが,周辺虹彩前癒着は認めなかった.前眼部観察用アダプタを使用した光干渉断層像(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)では両眼ともに狭隅角が観察された(図3a,b).光干渉式眼軸長測定装置により,中心前房深度は右眼2.34mm,左眼は自動測定が不能だったが,右眼と同程度,眼軸長は右眼26.12mm,左眼21.76mmだった.Aモード超音波検査により,眼軸長は右眼25.93mm,左眼21.27mm,中心前房深度は右眼2.30mm,左眼1.95mm,水晶体厚は右眼5.10mm,左眼4.97mmだった.Bモード超音波検査により,右眼は後部ぶどう腫を認め,左眼はとくに所見を認めなかった(図4).黄斑部のOCTでは両眼に硬性白斑,左眼に滲出性網膜.離,黄斑浮腫を認めた.経過:所見,検査結果から,両眼糖尿病網膜症,左眼糖尿病黄斑浮腫,両眼PACS,右眼後部ぶどう腫と診断した.初診から1週間後に,左眼糖尿病黄斑浮腫に対してトリアムシノロンアセトニド水性懸濁注射液のTenon.下注射を施行し,黄斑浮腫は軽減した.糖尿病網膜症を管理する目的で散瞳検査を行う必要性があったが,散瞳により急性にPAC,PACGを生じる危険性があったため,2016年2月に右眼に図3耳側の隅角前眼部観察用アダプタを使用した光干渉断層像a:右眼レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)前,b:左眼LI前,c:右眼LI後,d:左眼LI後.両眼ともLI後に隅角の開大を認める.図4右眼B.mode超音波検査a:右眼水平断,b:右眼矢状断.後部ぶどう腫を認める..は後部ぶどう腫縁を示す.対して,3月に左眼に対して,レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)を施行した.術後,検眼鏡,OCTにより両眼ともに隅角の開大を認めた(図3c,d).頭痛の精査で撮影した頭部の磁気共鳴画像(magneticresonanceimaging:MRI)でも右眼の後部ぶどう腫を認めた(図5).2016年7月にフルオレセイン蛍光眼底検査を施行し,両眼ともに広範囲に無灌流域を認めたため,汎網膜光凝固術を施行し,経過観察を行っている.散瞳を行っても隅角閉塞は認めず,眼圧は両眼ともに11.12mmHgと正常範囲で経過している.II考察閉塞隅角の機序としては,原発性と続発性があり,前者には相対的瞳孔ブロック,プラトー虹彩形状,水晶体因子,毛様体因子,後者には瞳孔ブロック,虹彩-水晶体前方移動,水晶体より後方組織の前方移動などがあげられる4).近視の図5頭部の核磁気共鳴画像(T1強調画像)右眼に後部ぶどう腫を認める..は後部ぶどう腫縁を示す.機序としては角膜屈折率上昇,水晶体前方移動による前房深度の変化,水晶体屈折率上昇,長眼軸長などがあげられる5).これら閉塞隅角,近視の機序が併存すると,強度近視眼に閉塞隅角が認められることがあり,Vogt-小柳-原田病,水晶体亜脱臼,球状水晶体などがあげられる.Vogt-小柳-原田病6,7)では毛様体浮腫により水晶体が前方移動し,近視化,瞳孔ブロック,虹彩-水晶体前方移動による続発緑内障をきたすことがある.水晶体亜脱臼では,水晶体が前方移動により近視化,瞳孔ブロック,虹彩-水晶体前方移動による続発緑内障をきたすことがある.球状水晶体8)では,水晶体の屈折異常から近視化,毛様小帯の脆弱性と水晶体前面の小さな曲率半径に伴って,虹彩-水晶体前方移動と瞳孔ブロックによる続発緑内障をきたすことがある.本症例は両眼ともにレーザー虹彩切開術により隅角が開大したことから相対的瞳孔ブロックや,水晶体厚が5mm程度と厚いことから水晶体因子などが関与したPACSと考えられた.さらに右眼は角膜曲率半径,水晶体形状が正常範囲で進行した核性白内障がないこと,およびA-mode,B-mode超音波検査,頭部MRIから後部ぶどう腫に伴う長眼軸長,強度近視と考えられた.後部ぶどう腫は眼球後部に存在する異なった曲率の突出と定義9)され,硝子体腔長が延長する.右眼は外傷の既往が関与したかは不明だが,後天的に後極を中心に後部ぶどう腫を生じ,硝子体腔長,眼軸長が延長したと推測された.後部ぶどう腫は前眼部の形態に大きく影響しないため,左眼と同様に右眼もPACSとなっていたと考えられた.Yongら10)は強度近視のPACは硝子体腔長が有意に長いと報告しており,後部ぶどう腫の存在の可能性を推測していた.本症例はその推測に一致する.後部ぶどう腫は一般的には検眼鏡的に診断される.本症例のLI前のように散瞳できない場合などは,超音波検査や光干渉式眼軸長測定装置,コンピュータ断層撮影(computedtomography:CT),MRIによる後部ぶどう腫の検出が有用である.A-mode超音波検査や光干渉式眼軸長測定装置は固視不良や後部ぶどう腫の位置により眼軸長の誤差を生じうること,および後部ぶどう腫がない強度近視と鑑別困難であることから,B-mode超音波検査やCT,MRIにより後部ぶどう腫を検出することがより診断に有用である.本症例では,B-mode超音波検査が非侵襲的かつ迅速に検査可能であり,とくに有用だった.本症例のようにPACSに強度近視を認める場合は,後部ぶどう腫が存在することがあると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SawaguchiS,SakaiH,IwaseAetal:Prevalenceofpri-maryangleclosureandprimaryangle-closureglaucomainasouthwesternruralpopulationofJapan:theKumeji-maStudy.Ophthalmology119:1134-1142,20122)BarkanaY,ShihadehW,OliveiraCetal:Angleclosureinhighlymyopiceyes.Ophthalmology113:247-254,20063)ChakravartiT,SpeathGL:Theprevalenceofmyopiaineyeswithangleclosure.JGlaucoma6:642-643,20074)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第3版第2章緑内障の分類.日眼会誌116:15-18,20115)所敬:第I章総論4.眼屈折要素とその相関.近視臨床と基礎(所敬,大野京子編),p16-23,金原出版,20126)八田正幸,熊谷愛子,武田博子ほか:早期に眼圧上昇がみられた原田氏病の1例.臨眼22:721-725,19687)富森征一郎,宇山昌延:浅前房と急性一過性近視を初発症状とした原田病の1例.臨眼31:1271-1273,19778)BakerRL,AndersonMM:Spherophakia:acasereport.AmJOphthalmol54:716-720,19779)SpaideRF:Staphyloma:PartI.In:PathologicMyopia,SpaidRF,Ohno-MatsuiK,YannuzziLA,eds.p167-176,Springer,NewYork,201310)YongKL,GongT,NongpiurMEetal:Myopiainasiansubjectswithprimaryangleclosure:implicationsforglaucomatrendsinEastAsia.Ophthalmology121:1566-1571,2014***