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急性原発閉塞隅角症の治療成績

2022年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科39(11):1544.1548,2022c急性原発閉塞隅角症の治療成績木村友哉青木修一郎宮本寛知木下貴正清水美穂森潤也畑中彬良山崎光理今泉寛子市立札幌病院眼科CTreatmentOutcomesforAcutePrimaryAngleClosureYuyaKimura,ShuichiroAoki,HirotomoMiyamoto,TakamasaKinoshita,MihoShimizu,JunyaMori,AkiraHatanaka,HikariYamasakiandHirokoImaizumiCDepartmentofOphthalmology,SapporoCityGeneralHospitalC目的:当院における急性原発閉塞隅角症に対する治療成績を検討すること.対象および方法:2008年C8月.2021年C7月に,急性原発閉塞隅角症(発作)のために当科を受診したC41例C44眼を対象とし,その臨床像と1)発作眼への治療と2)僚眼の経過・治療について後ろ向きに調査した.結果:1)発作眼では初回治療として水晶体再建術が選択されていた症例がC75%ともっとも多く,ついでレーザー虹彩切開術が選択されていた.水晶体再建術における合併症は12%にみられた.術後矯正視力は中央値C0.8で,高眼圧がC1カ月以上遷延した症例はC1例C2眼であった.2)僚眼のうちC79%の症例で外科的治療を行った.外科的治療を行わなかったC8眼中C1眼で経過観察中に発作がみられた.考按:急性原発閉塞隅角症に対しては水晶体再建術が行われることが多かったが,術中合併症の確率が高く,十分な準備が必要である.CPurpose:Toevaluatethetreatmentoutcomesforacuteprimaryangleclosure.CasesandMethods:Thisret-rospectivestudyinvolved44eyesof41patientswithacuteprimaryangleclosurewhowereseenbetweenAugust2008andJuly2021.Inallcases,the(1)treatmentadministeredtothea.ectedeyesandthe(2)courseandtreat-mentCinCtheCfellowCeyesCwereCinvestigated.CResults:(1)LensCreconstructionCwasCtheCinitialCtreatmentCin75%CofCthecases,followedbylaseriridotomy.In12%ofthecasesthatunderwentlensreconstructionsurgery,intraopera-tiveCcomplicationsCoccurred.CTheCmedianCpostoperativeCcorrectedCvisualCacuityCwasC0.8,CandCocularChypertensionClastedformorethan1monthin1case.In79%ofthefelloweyes,surgicaltreatmentwasperformed.In1ofthe8eyesCthatCdidCnotCundergoCsurgicalCtreatment,CacuteCangleCclosureCoccurredCduringCtheCfollow-upCperiod.CConclu-sion:AlthoughClensCreconstructionCsurgeryCwasCperformedCinCmanyCcases,CadequateCpreparationCisCnecessary,CasCintraoperativecomplicationscanoftenoccur.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(11):1544.1548,C2022〕Keywords:急性原発閉塞隅角症,閉塞隅角,レーザー虹彩切開術,水晶体再建術.acuteprimaryangleclosure,angleclosure,laseriridotomy,lensreconstructionsurgery.Cはじめに急性原発閉塞隅角症(acuteCprimaryCangleclosure:APAC)は,原発閉塞隅角症のうち急激かつ高度な眼圧上昇をきたし,早期に適切な処置を行わなければ不可逆的な視機能障害を残す.外科的治療が第一選択である1)が,どの術式を選択するかは患者背景や医療環境に依存すると考えられ,実臨床における検討が必要である.わが国における近年の急性原発閉塞症に対する治療の実態についてのまとまった報告は少ない.そこで今回,当院のCAPACに対する治療成績を調査,検討した.CI対象および方法2008年C8月.2021年C7月に当科を受診したCAPACの症例のうち,初診時に外科的治療が行われていなかった症例41例44眼(女性34例36眼,男性7例8眼)の診療録を後ろ向きに調べた.対象者の組み入れについては,まず上記期〔別刷請求先〕青木修一郎:〒113-8655東京都文京区本郷C7-3-1東京大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:ShuichiroAoki,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital,3-1Hongo7-chome,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPANC1544(104)間において当院の電子カルテで「急性原発閉塞隅角緑内障」または「(急性)緑内障発作」の病名が登録された患者カルテ番号をすべて検索し,各番号のカルテ記載から,同期間に急性の隅角閉塞と高眼圧がみられること,続発性の隅角閉塞が否定されていることを条件とした.方法は,1)APACを発症した眼(発作眼)の症例の発作時年齢,推定される発症契機,発症から初回の外科的治療までの日数,行われた各外科的治療の症例数,麻酔方法,年代別の外科的治療の内訳,各治療における合併症,術後眼圧経過,最終受診時の矯正小数視力を検討した.また2)僚眼の外科的介入の有無と内容を検討した.CII結果対象群の年齢は平均C72.2±8.32(49.95)歳,発作時の発作眼視力は中央値C0.1(光覚なし.1.2)であった.眼軸長は発作眼では平均C22.10±0.87(20.2.24.4)mm,僚眼では平均C21.89±0.81(19.5.23.9)mmであった.また発作時眼圧は平均C56.8±11.0(38.76)mmHgであった.C1.発作眼の検討両眼同時発症がC3例C6眼みられた.発作の契機が推定される症例(6例C7眼)の内訳は,医療機関で散瞳剤点眼後に発症したC4例C4眼,慢性閉塞隅角症へのピロカルピン点眼液の中止後に発症したC1例C1眼,心臓血管外科の全身麻酔手術C2日後で,抗コリン作用を有する抗不整脈薬投与後に発症した1例C2眼であった.全症例で外科的治療が行われていた.紹介元の内科的処置によって初診時にすでに眼圧が下降していたC2例C2眼を除く39例C42眼で,急性発作の解除を待たずに初回の外科的治療が行われた.これらのC42眼において発症から初回外科的治療までの経過日数(図1)は中央値C2日であり,7日以内の症例がC33例C34眼,認知症やインフルエンザなどで受診が遅れ,本人や関係者の申告から発作から当院受診までに数週間からC1カ月以上経過していたと思われる症例がC6例C8眼であった.発作眼の外科的治療(図2)はC33眼(75%)で初回に水晶体再建術を行い,そのうちC2眼では当初レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)を試みたが,浅前房などによりLIは施行できなかった.LIのみを行った症例はC2眼(5%)あった.初回CLI後に水晶体再建術を追加した症例がC18%(8眼)あった.これらの症例のうちC2眼はCLI後も眼圧下降が得られないため水晶体再建術に線維柱帯切除術を併施,1眼は眼圧が再上昇したために水晶体再建術を追加した.他のC5眼は,眼圧は下降したが狭隅角が解消されないため,あるいは白内障による視力低下のために水晶体再建術を追加していた.初回に観血的周辺虹彩切除術を行いそのC2週間後に水晶体再建術を行った症例がC1眼(2%)あった.以上の外科的治療のなかで,水晶体再建術のC5例C5眼のみ,疼痛または認知症などにより術中安静が保てないため全身麻酔で行い,他は局所麻酔で行った.当院におけるCAPACの症例数は増加傾向にあり,近年では初回から水晶体再建術を行う症例の割合が高い(2017年以降はC92%)傾向にあった(図3).発作眼で水晶体再建術を実施したC42眼のうち,眼圧下降のため手術開始時に硝子体切除を併施したものが8眼(19%)あった.術中に水晶体.拡張リング(capsularCtensionring:CTR)を使用した症例はなく,Zinn小帯脆弱がC5眼,半周未満のCZinn小帯断裂所見がC1眼,半周以上のCZinn小帯断裂がC2眼にみられた(後述の症例①と④).術中合併症はC12%(4例C5眼)にみられ,後.破損がC3眼,上脈絡膜腔出血がC1眼,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)非挿入で終了がC5眼であった.これらC4例C5眼について詳述する.症例①は初診時両眼同時発作例の左眼で,問診などから眼圧上昇から介入までにC1カ月程度の長期間が推定された症例であった.左眼水晶体超音波乳化吸引後に半周以上のCZinn小帯断裂を認め,その後上脈絡膜腔出血を生じたため手術終14122眼(5%)1眼(2%)10LIのみ観血的周辺虹彩切除後に症例数(眼)白内障手術8642図1急性原発隅角閉塞症眼の初回外科的治療までの日数中央値はC2日であった.受診までにC13日からC1カ月以上経過し図2急性原発隅角閉塞症眼に対する外科的治療の内訳ていた症例がC6例C8眼あった.75%の症例で初回に水晶体再建術を行われていた.白内障手術LI後白内障手術LIのみ図3年代別症例数と急性原発隅角閉塞症眼への外科的治療の内訳調査期間における対象眼の数を約C4年ごとに分けて示す.当院におけるCAPACの症例数は増加傾向にある.近年では初回に水晶体再建術を行う眼の割合が高い.了とした.術後光覚がないことからCIOL挿入を行わなかった.症例②は角膜白斑のある両眼同時発作例で,受診日に左眼水晶体超音波乳化吸引(後.破損,前部硝子体切除併施)のみ,右眼は周辺部虹彩切除を行い終了とした.高眼圧が持続する右眼に対して後日に全身麻酔下水晶体再建術(後.破損あり硝子体切除併施)を行った.角膜混濁があることやIOL挿入に伴う合併症のリスクを考慮し両眼ともCIOLは挿入せず,無水晶体眼用眼鏡装用とした.症例③は術中に半周程度のCZinn小帯断裂を認め,二期的CIOL挿入の方針とし終了した.僚眼もその後CAPACを発症した(後述).本人が他疾患で入院予定となったことや家族の希望によりCIOL固定のための再手術は行わなかった.症例④は僚眼も狭隅角であり,認知症があること,家族の支援の制約など社会的背景により頻回の通院が困難なことから,全身麻酔下で両眼同時水晶体再建術を行った.発作眼は後.破損を生じ前部硝子体切除を併施し,予測される視機能や合併症のリスクなどを考慮してCIOL挿入せず終了した.最後の外科的加療の日から当院最終受診日までの経過観察期間は中央値C30日(3日.5年)であった.現在も当科で経過観察されている症例を除いて,最終受診後は全症例で近医に紹介されており,紹介先からの返信が得られていたが,その後再紹介された症例はなかった.水晶体再建術を行った全症例において,術後翌日に,前房深度が深いとの記載が確認されたが,隅角検査および周辺虹彩前癒着の評価がなされている眼はみられなかった.術後(複数回の外科的介入を行った場合は最後の手術後)翌日,1週間後,1カ月後の眼圧は,それぞれC12.5±6.9(2.32),15.2±5.7(7.38),13.3±3.1(9.28)mmHgであった(欠測は除外して算出).術後C2週以降から最終受診日まで眼圧C21CmmHg未満を維持したの1眼(3%)1眼(3%)経過観察中に既発症で介入済み発作あり図4急性原発隅角閉塞症眼の僚眼の経過僚眼C38眼のうちC79%(30眼)で外科的治療が予定され,予定どおり行われた.初診から外科的治療までの日数の中央値はC12日であった.は,初回水晶体再建術を行ったC31例C33眼ではC30例C31眼で,1例C2眼(症例①)で高眼圧が遷延した.LIのみのC2例2眼では術後眼圧C21CmmHg未満を維持した.12例C13眼では最終受診時に麻痺性散瞳がみられた.最終受診時視力は中央値C0.8(光覚なし.1.2)であった.また,初回水晶体再建術を行ったC31例C33眼のうちC14例C14眼(42%)は最終受診時矯正視力C0.8以上であった(術後視力不明のC2例C3眼を除く).最終受診時視力がC0.3以下であったのはC9例C11眼であった.そのうちC5例C5眼では他の眼疾患が併存しており,視力低値に関与していると考えられた(網膜色素変性,滲出型加齢黄斑変性,黄斑浮腫,弱視,網膜静脈閉塞症が各C1眼).残りC6眼のうちC2例C2眼は手動弁であり,いずれも視神経乳頭蒼白がみられた.2例C4眼は症例①と②である.併存眼疾患を有する上述のC5眼を除き,かつ最終受診日が術後C2週間以上であるC32眼に限ると,最終受診時視力中央値はC1.0(光覚なし.1.2)で,視力C0.8以上はC24眼(75%)であった.ほぼ全例で発作眼の術前にスペキュラマイクロスコピーが撮影されていたが,角膜浮腫のため角膜内皮面が不鮮明であり,数例を除いて術前内皮細胞密度は不明であった.発作眼の術後の角膜内皮細胞密度はC2,349.3±377.8(1,391.3,011)/Cmm2であった.C2.僚眼の経過両眼同時発作症例以外の僚眼C38眼のうち,32眼では初診からC1カ月以内の診療記録において細隙灯顕微鏡検査または前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)検査による浅前房または狭隅角の記載が確認できたが,6眼では記載がなく不明であった.僚眼C38眼のうちC30眼(79%)で外科的治療が予定され,予定どおりに行われた.初診から外科的治療までの日数の中央値はC12日であった.22眼で水晶体再建術のみを行った.LI後水晶体再建術を行った症例がC4眼,LIのみを行った症例がC4眼であった(図4).全症例で治療後経過観察期間中の眼圧上昇はなかった.予定どおり行われたC26眼の水晶体再建術のうちC3眼(12%)でCZinn小帯脆弱・断裂があったが,いずれもCCTRを要せずCIOL.内固定で終了した.その他の術中・術後合併症はなかった.僚眼の外科的介入前後の角膜内皮細胞密度は術前C2,591.8±377.8(1,646.3,134),術後C2,439.1C±347.8(1,564.2,904)/mmC2であった.一方,外科的治療をせずに経過観察を行ったC8眼のうち,1眼は以前に急性閉塞隅角症を発症し他院でCLIが行われていた.またC1眼(症例③の僚眼)では初診からC20日目にCAPACを発症し,緊急で全身麻酔下で水晶体再建術を行った.半周のCZinn小帯断裂がみられ,硝子体切除を併施し,IOLは二期的固定の方針として終了した(その後の経過は前記).他のC6眼では経過観察期間中に隅角閉塞の進行や急性閉塞隅角症の発症はなかった.CIII考察APACに対する外科的治療にはCLI,周辺虹彩切除術,水晶体再建術という選択肢がある.LIは水疱性角膜症を合併するリスクがある2)が,外来で即日施行可能であり,比較的若年で白内障のない患者が良い適応と考えられる.ただし,角膜浮腫や著しい浅前房のためCLIが困難な場合があり,本検討でもC2眼でCLIを試みたものの施行不能であった.また,LI後にも狭隅角や高眼圧が改善しない症例がC3眼みられた.LIおよび周辺虹彩切除術は相対的瞳孔ブロック因子の解消に有効である3)が,複数の隅角閉塞機序が関与している可能性があるため,術後も眼圧および前房・隅角の経過に留意する必要があると考えられる.水晶体再建術は,他の隅角閉塞機序であるプラトー虹彩因子や水晶体因子を解消するのにも有効であり4,5),明らかな白内障がある患者においては視力・屈折改善の意義もある.ただし,APACに対する水晶体再建術は,角膜浮腫,浅前房,Zinn小帯脆弱といった要因により,術中合併症のリスクが高い.本検討でも水晶体再建術ではCZinn小帯脆弱・断裂および術中合併症の頻度は通常より高率という結果であった.そのため,熟練した術者が執刀することや,場合によっては全身麻酔を考慮すること,臨時手術という制限のなかでも硝子体切除,CTR挿入,IOL縫着またはCIOL強膜内固定に必要時に対応可能であるように十分な準備を行い手術に臨むことといった対策が求められる.当院の位置する札幌市とその周辺地域では高齢者数が増加している.また,当院は網膜硝子体手術を行える術者が複数名おり,臨時で全身麻酔手術が可能な総合病院である.そのような患者層および医療機関の背景は治療選択に一定の影響を与えていると考えられる.たとえば高齢化に関連して,認知症のために覚醒下での外科的治療が不可能であり,社会的背景からC1回の治療で隅角閉塞を確実に解除するために全身麻酔下で両眼の水晶体再建術を行った症例④もあった.年代別の外科的治療の内訳の推移は,高齢化に伴い初回から水晶体再建術を選択するか,LI後に水晶体再建術を行う割合が増加していることを示しており,今後もその傾向は強まることが予想される.近年の当院の方針として,明らかな白内障があればAPACに対しては速やかに初回から水晶体再建術を行っている.上述のような水晶体再建術中合併症を防ぐための方策として,角膜上皮浮腫に対しては角膜上皮.離やグリセリン点眼を行い,前.の視認性を確保するためトリパンブルー染色を行っている.また,薬物治療による術前の眼圧下降が十分でない場合は,安定した前房を確保するために,開始時に少量の硝子体切除を併施することがあるが,眼内炎や上脈絡膜腔出血の発生に注意を要する.また,分散型の粘弾性物質を角膜裏面に保持することで手術侵襲による角膜内皮障害を少なくするよう努めている.急性原発閉塞発症後の僚眼はCAPACをきたしうる6,7)ため,明らかな浅前房や狭隅角などリスクの高い場合8)は,隅角閉塞機序を判断したうえでの適切な外科的介入を検討すべきである1).ただし,発作眼の僚眼に対し水晶体再建術を行う場合には,今回の検討ではC12%で術中にCZinn小帯異常がみられたことや,浅前房が想定されることから,通常の水晶体再建術よりもリスクが高いことを念頭におく必要がある.本検討は紹介例を含む当院の受診症例のみを対象とし,軽症例は少ないと思われるため,年齢や臨床像において実際の母集団から偏りがあることは否定できない.また,診療記録を参照する後ろ向き研究であるため,測定値や術中所見の不正確さが結果に影響を与えた可能性がある.術後視野異常や視神経障害についても可能であれば検討すべきであるが,当院の特性上,術後安定した症例は早期に紹介元に逆紹介することが多く,それらを評価していない症例が大半を占めていた.CIV結論当院ではCAPACのC75%の症例で発作眼に対して初回水晶体再建術を行っていた.術後視力の中央値はC0.8であり,高眼圧の遷延はほとんどの眼でみられなかった.水晶体再建術では術中合併症をきたす確率が高く,十分な準備と術中の工夫が必要である.また,計画的に外科的治療を行った僚眼では術後経過は良好であった.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20232)AngLP,HigashiharaH,SotozonoCetal:Argonlaseriri-dotomy-inducedCbullousCkeratopathyCaCgrowingCproblemCinJapan.BrJOphthalmolC91:1613-1615,C20073)JiangY,ChangDS,ZhuHetal:LongitudinalchangesofangleCcon.gurationCinprimaryCangle-closureCsuspects:CtheCZhongshanCAngle-ClosureCPreventionCTrial.COphthal-mologyC121:1699-1705,C20144)Azuara-BlancoCA,CBurrCJ,CRamsayCCCetal:E.ectivenessCofCearlyClensCextractionCforCtheCtreatmentCofCprimaryangle-closureCglaucoma(EAGLE):aCrandomisedCcon-trolledtrial.LancetC388:1389-1397,C20165)NonakaCA,CKondoCT,CKikuchiCMCetal:CataractCsurgeryCforresidualangleclosureafterperipherallaseriridotomy.OphthalmologyC112:974-979,C20056)LoweRF:AcuteCangle-closureglaucoma:theCsecondeye:anCanalysisCofC200Ccases.CBrCJCOphthalmolC46:641-650,C19627)EdwardsRS:Behaviourofthefelloweyeinacuteangle-closureglaucoma.BrJOphthalmolC66:576-579,C19828)WilenskyJT,KaufmanPL,FrohlichsteinDetal:Follow-upofangle-closureglaucomasuspects.AmJOphthalmolC115:338-346,C1993***

緑内障連絡カードを用いた患者の病識向上と他科, 薬局との連携強化

2022年6月30日 木曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(6):803.807,2022c緑内障連絡カードを用いた患者の病識向上と他科,薬局との連携強化金原左京*1井上賢治*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科ImprovementinGlaucomaInsightandCooperationStrengtheningUsingtheGlaucomaInformationCardSakyoKanehara1),KenjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:日本眼科医会から配布された緑内障連絡カードの有効性を検討した.対象および方法:2020年12月の外来受診時に緑内障連絡カードを渡した緑内障患者2,877例のうち,2021年3月に外来受診し,アンケート調査に協力した526例を対象とした.緑内障連絡カードでは緑内障病型(開放隅角,閉塞隅角),緑内障禁忌薬の使用の可否を指示している.アンケートは①緑内障病型の認識,②緑内障禁忌薬の認識,③緑内障連絡カードを他科や薬局で提示したか,④緑内障連絡カードの評価とした.結果:診断は開放隅角497例(94.5%),閉塞隅角16例(3.0%)などだった.緑内障禁忌薬の「使用制限はありません」が98.9%だった.アンケート結果は①緑内障病型を知っていた38.8%,②禁忌薬を知っていた43.3%,③緑内障連絡カードを提示した27.0%,④緑内障連絡カードは良い51.9%,まあ良い25.7%だった.結論:緑内障連絡カードは緑内障患者の病識を向上させた可能性がある.Purpose:Toinvestigatethee.cacyoftheJapanOphthalmologistsAssociationglaucomapatientinformationcard.PatientsandMethods:2,877glaucomapatientsreceivedtheglaucomainformationcardatoutpatientclinicsinDecember2020,and526patientscompletedaquestionnaireinMay2021.Thecardindicatesadiagnosis(open-angleorangle-closure)andwhetherornotglaucomacontraindicateddrugscanbeused.Thequestionnairecon-sistedof1)recognitionoftheglaucomatype,2)recognitionofthecontraindicateddrugs,3)whetherthecardwaspresentedatotherclinicsorpharmacies,and4)evaluationofthecard.Results:Inthe526patients,theglaucomatypewasopen-anglein497(94.5%)andangle-closurein16(3.0%),and98.9%ofthepatientshadnorestrictiononthetypeofmedicationsadministered.Thepatientquestionnaire.ndingsrevealedthat38.8%knewtheglauco-matype,43.3%knewthecontraindicateddrug,27.0%hadpresentedthecard,and51.9%deemedthecardgoodwhile25.7%deemedthecardsomewhatgood.Conclusion:Useoftheglaucomainformationcardwasfoundtoimproveinsightintoglaucomaandstrengthencooperationwithotherdepartmentsand/orpharmacies.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(6):803.807,2022〕Keywords:緑内障連絡カード,閉塞隅角,開放隅角,抗コリン作用,緑内障禁忌薬.informationcardofglauco-ma,angle-closure,open-angle,anticholinergicagent,contraindicantofglaucoma.はじめに抗コリン作用や交感神経刺激作用を有する薬剤は投与することで瞳孔が散大し,隅角が閉塞し,急性緑内障発作をひき起こす危険がある.そのためこれらの薬剤は閉塞隅角患者には投与が禁忌とされている.実際に緑内障禁忌と記載のある薬剤は,精神・神経治療薬(抗不安薬など),中枢神経治療薬(抗てんかん薬・抗Parkinson病治療薬),消化性潰瘍治療薬(鎮痙薬),抗ヒスタミン薬,循環器系治療薬,排尿障害治療薬,気管支拡張薬と多岐にわたっている.しかし,薬剤添付文書では禁忌病名に緑内障とだけ記載されている場合〔別刷請求先〕金原左京:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:SakyoKanehara,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-kuTokyo101-0062,JAPAN0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(107)803表面・裏面中面図2「緑内障連絡カード」のアンケート調査用紙図1日本眼科医会「緑内障連絡カード」が多く,開放隅角緑内障患者では投与が禁忌ではないことはあまり知られていない.患者が自分の緑内障病型を理解していれば,他科での薬剤投与の際に混乱をきたすことが少ないので,医師は患者に緑内障病型を説明している.しかし,患者が自分の緑内障病型を正確に理解することはむずかしい.そこで一部の診療所,病院では患者の緑内障病型や禁忌薬を記したカードを配布している1.4).これらのカードは統一されておらず,また地域限定であり,全国民にカードの恩恵が行き渡っていないのが問題である.そのため公益社団法人日本眼科医会では広島県眼科医会が作成した「緑内障情報連絡カード」を基にして緑内障連絡カード(図1)を2020年10月に作成し,全国の会員に配布した.今回「緑内障連絡カード」を井上眼科病院の外来を受診した緑内障患者に渡し,その効果と問題点を検討した.I対象および方法2020年12月より井上眼科病院(以下,当院)では外来受診時に緑内障患者に対して「緑内障連絡カード」を渡している.2020年12月に「緑内障連絡カード」を渡した2,877例のなかで2021年3月に外来を受診し,以下に示すアンケート調査に協力した526例を対象とした.「緑内障連絡カード」では,緑内障病型(開放隅角,閉塞隅角,その他)を提示し,緑内障禁忌薬の使用については「使用制限はありません」「抗コリン作用・交感神経刺激作用のある薬剤の使用禁止」「眼科への問い合わせ希望」を指示している.「緑内障連絡カー閉塞隅角3.0%開放隅角+その他1.0%図3「緑内障連絡カード」に記された緑内障の病型ド」の病型は,主治医の判断のもと記載した.アンケート調査の内容(図2)は,①緑内障病型を知っていたか,②緑内障の禁忌薬を知っていたか,③「緑内障連絡カード」を他科や薬局で提示したか,④「緑内障連絡カード」の評価,感想とした.さらに「緑内障連絡カード」の配布が薬剤に関する当院への問い合わせ件数に及ぼす影響を評価した.具体的には患者・家族,あるいは調剤薬局から当院への薬剤使用可否の問い合わせ件数を「緑内障連絡カード」配布前(2020年9.11月)と配布後(2021年1.3月)の各3カ月間で比較した.本研究は井上眼科病院の倫理委員会で承認を得た.研究の趣旨と内容を患者に開示し,患者の同意を文書で得た.II結果対象患者526例の内訳は男性247例,女性279例だった.年齢は67.0±11.8歳(平均値±標準偏差),24.98歳だった.「緑内障連絡カード」に記載した緑内障の病型は,開放隅角497例(94.5%),閉塞隅角16例(3.0%),その他8例(1.5%),開放隅角+その他5例(1.0%)だった(図3).緑内障禁忌薬の使用は,「使用制限はありません」520例(98.9%),「抗コリン作用・交感神経刺激作用のある薬剤の使用禁止」5例(1.0%),「抗コリン作用・交感神経刺激作用のある薬剤の使用禁止+眼科への問い合わせ希望」1例(0.2%)だった(図4).アンケートの結果を以下に示す.問①「緑内障連絡カード」をもらう前にご自分の緑内障の病型をご存じでしたか?知っていた204例(38.8%),知らなかった317例(60.3%),その他5例(1.0%)問②「緑内障連絡カード」をもらう前に緑内障の禁忌薬についてご存じでしたか?知っていた228例(43.3%),知らなかった297例(56.5%),未回答1例(0.2%)問③他科の受診の際などに実際に「緑内障連絡カード」図4「緑内障連絡カード」に記された緑内障禁忌薬の使用を提示しましたか?提示した142例(27.0%),提示しなかった332例(63.1%),その他52例(9.9%)問③-1具体的にどこで提示されましたか?(重複あり)他科83例(58.5%),薬局83例(58.5%),その他2例(1.4%)問③-2「緑内障連絡カード」は役立ったと思いますか?役立った90例(63.4%),まあ役立った26例(18.3%),あまり役立たない4例(2.8%),役立たない3例(2.1%),その他14例(9.9%),未回答5例(3.5%)問④「緑内障連絡カード」についての評価,ご感想をお聞かせください.良い273例(51.9%),まあ良い135例(25.7%),あまり良くない7例(1.3%),良くない3例(0.6%),その他105例(20.0%),未回答3例(0.6%).感想は,評価が「良い」「まあ良い」と回答した人では,安心して処方薬が服薬できる,自分に対して安心感がある,向こうの病院の医師に伝わってよかったなどだった.評価が「あまり良くない」「良くない」と回答した人では,とくに見せても何もなかった,提示したが先生から何もいわれなかったなどだった.薬剤に対する当院への問合せ件数は,配布前は患者・家族からの問合せ53件,調剤薬局からの問合せ22件の合計75件だった.配布後は患者・家族からの問合せ47件,調剤薬局からの問合せ20件の合計67件だった.III考按緑内障禁忌薬は多数存在する.日本医薬情報センター発刊の2015版の医療用一般用医薬品集に掲載されている医薬品21,311剤中緑内障禁忌薬は1,255剤(5.9%)であった1).緑内障禁忌の理由は眼圧上昇の恐れで,作用機序として抗コリン作用を有する(77%)がもっとも多かった.閉塞隅角の患者が抗コリン作用を有する緑内障禁忌薬を投与することで眼圧が上昇,あるいは急性緑内障発作を誘発することが問題となる.しかし,原発閉塞隅角緑内障あるいは原発閉塞隅角緑内障疑い患者は日本緑内障学会が行った疫学調査では0.83%と少数である5).開放隅角緑内障患者が圧倒的に多いにもかかわらず,それらの患者が緑内障のために本来他科の治療で使用可能である抗コリン作用を有する薬剤を使用できないことが問題である.つまり患者が緑内障病型(開放隅角緑内障あるいは閉塞隅角緑内障)を知っていることは他科の治療にとっても有益である.外来通院中の緑内障患者,緑内障手術で入院した緑内障患者の緑内障禁忌薬の使用を調査した報告がある.外来通院中の閉塞隅角緑内障患者83例のうち16例(19.3%)で緑内障禁忌薬が投与されていた6).11例はレーザー虹彩切開術や線維柱帯切除術などの眼科的外科処置が行われていた.1例は失明し,眼圧は0mmHg程度だった.残りの4例のうち2例に対してレーザー虹彩切開術を行い,他の2例は内科での緑内障禁忌薬の処方を中止してもらった.緑内障手術で入院した緑内障患者のうち38例が他科での処方薬があった7).そのなかの5例(13.2%)で緑内障禁忌薬が投与されていた.2例は開放隅角緑内障で,1例は眼科で眼圧が急激に上昇しないように処置済みだった.2例は閉塞隅角緑内障で緑内障禁忌薬は手術後まで投与中止となった.今回の「緑内障連絡カード」と同様の試みは各地で行われている.具体的には投薬禁忌がある由を記載したカードと投薬禁忌がない由を記載したカード2),緑カードと赤カード3),隅角シール(「私は開放隅角です」と「私は閉塞隅角・狭隅角です」)1),「閉塞隅角緑内障,狭隅角眼の方へ」と「緑内障(経過観察を含む),高眼圧症の方へ」4)などがあり,これらのカードやシールはすべて2枚に分けられている.日本眼科医会では全国に配布するためカードはシンプルにと考えて1枚にした.今回の緑内障病型は,開放隅角94.5%,閉塞隅角3.0%で,開放隅角が圧倒的に多かった.多治見スタディでの緑内障病型は疑い症例を含むと原発開放隅角緑内障80.2%,原発閉塞隅角緑内障11.0%だった5).今回,閉塞隅角が少なかった理由として,外来受診した患者を対象としたため,原発閉塞隅角症,原発閉塞隅角症疑い患者は眼科に通院していない可能性が考えられる.また,白内障手術により相対的瞳孔ブロックを解除した患者では,元来閉塞隅角であるが,臨床的には開放隅角と診断されている可能性が考えられる.今回の対象の緑内障病型は閉塞隅角が16例だったが,緑内障禁忌薬の使用の可否では「抗コリン作用,交感神経刺激作用のある薬剤の使用禁止」は6例だった.閉塞隅角でもレーザー虹彩切開術や白内障手術施行眼では「使用制限はありません」と記載されたため人数に差があったと考えられる.他科や薬局では最終的に緑内障禁忌薬の使用についてを参照していただきたいと考えている.今回のアンケート調査の結果を年代により差があるかどうかを検証する目的で,65歳以上(317例)と65歳未満(209例)で比較した(c2検定).問①緑内障病型を知っていたかについては差がなかった(p=0.1750).問②禁忌薬を知っていたかは,「知っていた」が65歳未満症例で65歳以上症例より有意に多かった(p<0.05).問③「緑内障連絡カード」を提示したかは,「提示した」が65歳以上症例で65歳未満症例より有意に多かった(p<0.001).若年・中年者のほうが禁忌薬を学ぶ機会・手段が多く,高齢者のほうが他科に受診している人が多いことが関与していると考えられる.過去の報告2)では事前に緑内障禁忌薬の知識があったのは52例(29%),今回「知っていた」と回答した患者は228例(43.3%)で,今回のほうが多かった.しかし,過去の報告2),今回ともに緑内障禁忌薬の知識は50%以下であり,診療時に眼科医が患者に緑内障の禁忌薬について重点的に説明すべきである.実際に他科や薬局で「緑内障連絡カード」を提示したのは過去の報告2)では66%,今回は27.0%だった.今回のほうが「緑内障連絡カード」を提示した患者の割合が少なかったが,過去の報告2)の対象者はカードを渡してから3カ月以上経過した症例で,今回よりも期間が長かったことが一因と考えられる.今回の「緑内障連絡カード」の提示先は他科と薬局が多く,同数だった.今後,他科や薬局での「緑内障連絡カード」の提示がさらに増加すると考えられる.「緑内障連絡カード」が役に立ったと回答したのは,過去の報告2)では56%,今回は81.7%だった.今回配布した「緑内障連絡カード」は患者に好評であった.「緑内障連絡カード」の問題点として隅角の状態が経過とともに変化する可能性があり,過去の報告では有効期限を設ける2)ことがあげられている.アンケート調査での「緑内障連絡カード」の評価として「あまり良くない」「良くない」と回答した人では提示しても反応がなかったという意見が多かった.薬局や他科への「緑内障連絡カード」の周知が今後必要と思われる.実際に笠岡市で行われた「緑内障禁忌薬投与可否カード」の運用では地元医師会で説明を行い,他科との連携が機能したと報告されている2).薬剤に対する当院への問合せ件数は,配布後に配布前に比べてやや減少傾向にあった.今回,他科や薬局で「緑内障連絡カード」を提示した患者は27.0%とまだ少なかったが,期間が長くなれば,提示する患者が増えて,薬剤に対する当院への問合せ件数はさらに減少すると予想される.もしそうなれば,患者,薬局,当院にとって有益である.今後も長期的な効果を検討する必要がある.今回,緑内障の病型と緑内障禁忌薬の使用可否を記した「緑内障連絡カード」を緑内障患者に配布した.「緑内障連絡カード」は緑内障患者の病識を向上させた可能性がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)細川由美,奥山和江,上神千里ほか:「緑内障注意」の薬剤について.当院の取り組み..日本視機能看護学会誌1:129-131,20162)永山幹夫,永山順子,東馬千佳ほか:緑内障禁忌薬投与可否カードを用いた他科連携.臨眼69:1557-1561,20153)馬場哲也:緑内障連絡カードを用いた医療連携に対するアンケート調査.香川県眼科医会報160:15-20,20214)井上賢治:第5回緑内障診療に影響する薬剤-薬剤師なら知っておきたい-薬剤性眼障害のキホン.調剤と情報26:74-78,20195)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsec-ondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,20056)遠藤奈々,鈴木敦子,片桐歩ほか:緑内障と禁忌薬第1報当院眼科外来における緑内障患者の禁忌薬使用実態調査.新潟県厚生連医誌10:60-63,20007)村中直子,藤田美奈,川上由紀子ほか:緑内障患者における投与禁忌薬の使用実態と適正使用.医療薬学30:276-279,2004***

後部ぶどう腫を合併した原発閉塞隅角症疑いの1例

2017年7月31日 月曜日

《第27回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科34(7):1046.1049,2017c後部ぶどう腫を合併した原発閉塞隅角症疑いの1例石崎典彦*1米本由美子*1山田哉子*1家久耒啓吾*1池田恒彦*2*1八尾徳州会総合病院眼科*2大阪医科大学眼科学教室ACaseofPrimaryAngleClosureSuspectwithPosteriorStaphylomaNorihikoIshizaki1),YumikoYonemoto1),KanakoYamada1),KeigoKakurai1)andTsunehikoIkeda2)1)DepartmentofOphthalmology,YaoTokushukaiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege緒言:原発閉塞隅角症(PAC),原発閉塞隅角症疑い(PACS),原発閉塞隅角緑内障(PACG)においては,短眼軸長,遠視が多くみられる.長眼軸長,強度近視を合併したPACSの症例を報告する.症例:66歳,女性.矯正視力は右眼0.03×sph.9.0D(cyl.3.0DAx140°,左眼0.4p×sph+2.5D,眼圧は右眼13mmHg,左眼14mmHg.両眼ともに狭隅角であったが,周辺虹彩前癒着は認めなかった.視神経乳頭に緑内障性変化を認めなかった.両眼のPACSと診断した.眼軸長は右眼26.12mm,左眼21.76mmだった.超音波検査により右眼に後部ぶどう腫を認めた.両眼にレーザー虹彩切開術を施行し,隅角の開大を認めた.結論:PACSにおいて強度近視を認める場合には,後部ぶどう腫を合併している可能性がある.Purpose:Hyperopiaandshortaxiallengtharefrequentlyobservedincasesofprimaryangleclosure(PAC),primaryangleclosuresuspect(PACS)andprimaryangle-closureglaucoma(PACG).WereportacaseofPACSwithhighmyopiaandlongaxiallength.Case:Thisstudyinvolveda66-year-oldfemalewithcorrectedvisualacuityof0.03withS.9.0D(cyl.3.0DAx140°ODand0.4partialwithS+2.5DOS;intraocularpressurewas13mmHgODand14mmHgOS.Bilaterally,heranglewasnarrowbutnotrecognizedasperipheralanteriorsyn-echia,andheropticnerveheadsshowednoglaucomatouschange.WethereforediagnosedPACS.Axiallengthwas26.12mmODand21.76mmOS.Ultrasonicexaminationreveledposteriorstaphylomainherrighteye.Wesubse-quentlyperformedlaseriridotomytoreleasetheangleclosure.Conclusions:PACSwithhighmyopiamaypresentwithposteriorstaphyloma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1046.1049,2017〕Keywords:閉塞隅角,近視,後部ぶどう腫,眼軸長.angleclosure,myopia,posteriorstaphyloma,axiallength.はじめに原発閉塞隅角症(primaryangleclosure:PAC),原発閉塞隅角症疑い(primaryangleclosuresuspect:PACS),原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)の危険因子としては女性,加齢,浅い中心前房深度,短眼軸長,遠視などの報告1)があり,PACS,PAC,PACGに遠視眼,短眼軸長は多くみられる.一方で,近視眼でもPACS,PAC,PACGはみられるが,比較的頻度は少ない.Barkanaら2)は続発性も含めた閉塞隅角において,.6D以上の強度近視眼が0.1%あったと報告している.Chakravartiら3)はPAC,PACS,PACGにおいて,.5D以上の強度近視眼が2%あったと報告している.今回,筆者らは後部ぶどう腫による長眼軸長,強度近視を合併したPACSを経験したので報告する.I症例と経過患者:66歳,女性.既往歴:53歳時から糖尿病(HbA1c9.8%4年間8.11%で推移),63歳時から重症筋無力症に対して治療中だった.10歳頃に花火により右眼を受傷してから,右眼の視力が不良だった.現病歴:約1年前から左眼視力低下を自覚しており,近医を受診した.左眼に糖尿病黄斑浮腫を認め,2016年1月に精査,加療目的に八尾徳州会総合病院眼科紹介となった.〔別刷請求先〕石崎典彦:〒581-0011大阪府八尾市若草町1-17八尾徳州会総合病院眼科Reprintrequests:NorihikoIshizaki,DepartmentofOphthalmology,YaoTokushukaiGeneralHospital,1-17Wakakusachou,Yao-shi,Osaka581-0011,JAPAN1046(130)図1前眼部写真(初診2カ月後,右眼はレーザー虹彩切開後)両眼ともに中心前房深度が浅い.図2眼底写真(初診9カ月後)両眼ともに網膜出血,軟性白斑,硬性白斑を認める.右眼は後部ぶどう腫,網脈絡膜萎縮を認める.初診時所見:視力は右眼0.01(0.03×sph.9.0D(cyl.3.0DAx140°),左眼0.2(0.4p×sph+2.5D).眼圧は右眼13mmHg,左眼14mmHg.前眼部所見は両眼ともに角膜は清明,中心前房深度,周辺前房深度が浅かった(図1).中間透光体所見は両眼ともに軽度の白内障を認めた.眼底は両眼ともに硬性白斑,軟性白斑,網膜出血を認め,右眼の後極に網脈絡膜萎縮,後部ぶどう腫を認めた(図2).視神経乳頭に緑内障性変化を認めなかった.眼位は近見16Δ外斜視,遠見40Δ外斜視だった.検査所見:角膜は両眼ともに横径11mm,縦径11mm,平均角膜曲率半径は右眼7.56mm(44.75D),左眼7.64mm(44.25D)であった.隅角検査では両眼ともに第一眼位において全方向で毛様体帯が観察できず,Scheie分類GradeIVだったが,周辺虹彩前癒着は認めなかった.前眼部観察用アダプタを使用した光干渉断層像(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)では両眼ともに狭隅角が観察された(図3a,b).光干渉式眼軸長測定装置により,中心前房深度は右眼2.34mm,左眼は自動測定が不能だったが,右眼と同程度,眼軸長は右眼26.12mm,左眼21.76mmだった.Aモード超音波検査により,眼軸長は右眼25.93mm,左眼21.27mm,中心前房深度は右眼2.30mm,左眼1.95mm,水晶体厚は右眼5.10mm,左眼4.97mmだった.Bモード超音波検査により,右眼は後部ぶどう腫を認め,左眼はとくに所見を認めなかった(図4).黄斑部のOCTでは両眼に硬性白斑,左眼に滲出性網膜.離,黄斑浮腫を認めた.経過:所見,検査結果から,両眼糖尿病網膜症,左眼糖尿病黄斑浮腫,両眼PACS,右眼後部ぶどう腫と診断した.初診から1週間後に,左眼糖尿病黄斑浮腫に対してトリアムシノロンアセトニド水性懸濁注射液のTenon.下注射を施行し,黄斑浮腫は軽減した.糖尿病網膜症を管理する目的で散瞳検査を行う必要性があったが,散瞳により急性にPAC,PACGを生じる危険性があったため,2016年2月に右眼に図3耳側の隅角前眼部観察用アダプタを使用した光干渉断層像a:右眼レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)前,b:左眼LI前,c:右眼LI後,d:左眼LI後.両眼ともLI後に隅角の開大を認める.図4右眼B.mode超音波検査a:右眼水平断,b:右眼矢状断.後部ぶどう腫を認める..は後部ぶどう腫縁を示す.対して,3月に左眼に対して,レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)を施行した.術後,検眼鏡,OCTにより両眼ともに隅角の開大を認めた(図3c,d).頭痛の精査で撮影した頭部の磁気共鳴画像(magneticresonanceimaging:MRI)でも右眼の後部ぶどう腫を認めた(図5).2016年7月にフルオレセイン蛍光眼底検査を施行し,両眼ともに広範囲に無灌流域を認めたため,汎網膜光凝固術を施行し,経過観察を行っている.散瞳を行っても隅角閉塞は認めず,眼圧は両眼ともに11.12mmHgと正常範囲で経過している.II考察閉塞隅角の機序としては,原発性と続発性があり,前者には相対的瞳孔ブロック,プラトー虹彩形状,水晶体因子,毛様体因子,後者には瞳孔ブロック,虹彩-水晶体前方移動,水晶体より後方組織の前方移動などがあげられる4).近視の図5頭部の核磁気共鳴画像(T1強調画像)右眼に後部ぶどう腫を認める..は後部ぶどう腫縁を示す.機序としては角膜屈折率上昇,水晶体前方移動による前房深度の変化,水晶体屈折率上昇,長眼軸長などがあげられる5).これら閉塞隅角,近視の機序が併存すると,強度近視眼に閉塞隅角が認められることがあり,Vogt-小柳-原田病,水晶体亜脱臼,球状水晶体などがあげられる.Vogt-小柳-原田病6,7)では毛様体浮腫により水晶体が前方移動し,近視化,瞳孔ブロック,虹彩-水晶体前方移動による続発緑内障をきたすことがある.水晶体亜脱臼では,水晶体が前方移動により近視化,瞳孔ブロック,虹彩-水晶体前方移動による続発緑内障をきたすことがある.球状水晶体8)では,水晶体の屈折異常から近視化,毛様小帯の脆弱性と水晶体前面の小さな曲率半径に伴って,虹彩-水晶体前方移動と瞳孔ブロックによる続発緑内障をきたすことがある.本症例は両眼ともにレーザー虹彩切開術により隅角が開大したことから相対的瞳孔ブロックや,水晶体厚が5mm程度と厚いことから水晶体因子などが関与したPACSと考えられた.さらに右眼は角膜曲率半径,水晶体形状が正常範囲で進行した核性白内障がないこと,およびA-mode,B-mode超音波検査,頭部MRIから後部ぶどう腫に伴う長眼軸長,強度近視と考えられた.後部ぶどう腫は眼球後部に存在する異なった曲率の突出と定義9)され,硝子体腔長が延長する.右眼は外傷の既往が関与したかは不明だが,後天的に後極を中心に後部ぶどう腫を生じ,硝子体腔長,眼軸長が延長したと推測された.後部ぶどう腫は前眼部の形態に大きく影響しないため,左眼と同様に右眼もPACSとなっていたと考えられた.Yongら10)は強度近視のPACは硝子体腔長が有意に長いと報告しており,後部ぶどう腫の存在の可能性を推測していた.本症例はその推測に一致する.後部ぶどう腫は一般的には検眼鏡的に診断される.本症例のLI前のように散瞳できない場合などは,超音波検査や光干渉式眼軸長測定装置,コンピュータ断層撮影(computedtomography:CT),MRIによる後部ぶどう腫の検出が有用である.A-mode超音波検査や光干渉式眼軸長測定装置は固視不良や後部ぶどう腫の位置により眼軸長の誤差を生じうること,および後部ぶどう腫がない強度近視と鑑別困難であることから,B-mode超音波検査やCT,MRIにより後部ぶどう腫を検出することがより診断に有用である.本症例では,B-mode超音波検査が非侵襲的かつ迅速に検査可能であり,とくに有用だった.本症例のようにPACSに強度近視を認める場合は,後部ぶどう腫が存在することがあると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SawaguchiS,SakaiH,IwaseAetal:Prevalenceofpri-maryangleclosureandprimaryangle-closureglaucomainasouthwesternruralpopulationofJapan:theKumeji-maStudy.Ophthalmology119:1134-1142,20122)BarkanaY,ShihadehW,OliveiraCetal:Angleclosureinhighlymyopiceyes.Ophthalmology113:247-254,20063)ChakravartiT,SpeathGL:Theprevalenceofmyopiaineyeswithangleclosure.JGlaucoma6:642-643,20074)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第3版第2章緑内障の分類.日眼会誌116:15-18,20115)所敬:第I章総論4.眼屈折要素とその相関.近視臨床と基礎(所敬,大野京子編),p16-23,金原出版,20126)八田正幸,熊谷愛子,武田博子ほか:早期に眼圧上昇がみられた原田氏病の1例.臨眼22:721-725,19687)富森征一郎,宇山昌延:浅前房と急性一過性近視を初発症状とした原田病の1例.臨眼31:1271-1273,19778)BakerRL,AndersonMM:Spherophakia:acasereport.AmJOphthalmol54:716-720,19779)SpaideRF:Staphyloma:PartI.In:PathologicMyopia,SpaidRF,Ohno-MatsuiK,YannuzziLA,eds.p167-176,Springer,NewYork,201310)YongKL,GongT,NongpiurMEetal:Myopiainasiansubjectswithprimaryangleclosure:implicationsforglaucomatrendsinEastAsia.Ophthalmology121:1566-1571,2014***