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漿液性網膜剝離を初発症状とした急性リンパ性白血病の1 例

2021年3月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科38(3):346.351,2021c漿液性網膜.離を初発症状とした急性リンパ性白血病の1例平島昂太石川桂二郎中尾新太郎園田康平九州大学大学院医学研究院眼科学分野CACaseofAcuteLymphoblasticLeukemiawithSerousRetinalDetachmentasaPrimarySymptomKotaHirashima,KeijiroIshikawa,ShintaroNakaoandKoheiSonodaCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalScience,KyushuUniversityC背景:漿液性網膜.離を初発症状とした急性リンパ性白血病のC1例を報告する.症例:59歳,女性.右眼視力低下,発熱,頭痛が出現し,近医眼科を受診した.初診時,右眼矯正視力C0.3,左眼矯正視力C1.0で,両漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚(右眼C662Cμm,左眼C562Cμm),フルオレセイン蛍光眼底造影検査で黄斑部の蛍光漏出・蛍光貯留,インドシアニン蛍光眼底造影で同部位に一致したCdarkspotと点状の過蛍光を認め,Vogt-小柳-原田病が疑われた.血液検査で白血球異常高値,血小板減少を認め,血液疾患が疑われ,九州大学病院血液腫瘍内科へ紹介となった.精査の結果,急性リンパ性白血病と診断され,血液アフェレーシス,メトトレキサートとステロイドの髄液腔内注射,全身化学療法を施行された.治療開始後,白血球数は正常化した.それに伴い両眼の漿液性網膜.離は消退し,脈絡膜厚は右眼285Cμm,左眼C328Cμmまで改善し,両眼矯正視力はC1.2まで改善した.結論:白血病の眼合併症としてはCRoth斑,綿花状白斑,網膜出血などが知られているが,漿液性網膜.離による視力障害を初発症状とする白血病の報告は少ない.両眼性の脈絡膜肥厚を伴う漿液性網膜.離を認めた際は,白血病に伴う眼合併症の可能性がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCacuteClymphoblasticleukemia(ALL)withCbilateralCserousCretinalCdetachment(SRD)astheinitialsign.Casereport:A59-year-oldfemalepresentedwithdecreasedvisualacuity(VA)inherrighteye.Uponexamination,thebest-correctedVA(BCVA)inherrighteyeandlefteyewas0.3and1.0,respec-tively,CandCfundusCexaminationCrevealedCbilateralCSRD.CBasedConC.uoresceinCangiography,CindocyanineCgreenC.uoresceinangiography,andopticalcoherencetomography.ndings,Vogt-Koyanagi-Haradadiseasewassuspected.CBloodexaminationshowedelevatedwhitebloodcellsandthrombocytopenia.Basedonthehematology.ndings,shewasdiagnosedwithPhiladelphiachromosome-positiveALLandunderwenthaemapheresis,intraspinalinjectionofmethotrexateCandCsteroid,CandCsystemicCchemotherapy.CPostCtreatment,CherCwhiteCbloodCcellCcountCnormalized,CBCVACimprovedCtoC1.2CinCbothCeyes,CandCthereCwasCcompleteCresolutionCofCtheCbilateralCSRD.CConclusions:TheappearanceofSRDshouldraisesuspicionforleukemia.Promptrecognitionofthisdiseaseisimportantforinduc-tionofsystemictreatmentandvisualfunctionrestoration.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(3):346.351,C2021〕Keywords:急性リンパ性白血病,漿液性網膜.離,Vogt-小柳-原田病.acutelymphoblasticleukemia,serousretinaldetachment,Vogt-Koyanagi-Haradadisease.Cはじめに液性網膜.離を眼部の初発症状とした急性リンパ性白血病白血病の代表的な眼所見にはCRoth斑,綿花状白斑,網膜(acuteClymphoblasticleukemia:ALL)のC1例を経験したの出血などが知られている1).視力障害が白血病の眼部の初発で報告する.症状であったわが国での報告は少なく,筆者らが探す限り吉CI症例田らと井上らによる報告のC2例のみであった2,3).また,白血病に漿液性網膜.離を合併した報告も少ない3).今回,漿患者:59歳,女性.〔別刷請求先〕平島昂太:〒812-8582福岡市東区馬出C3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野Reprintrequests:KotaHirashima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalScience,KyushuUniversity,3-1-1Maidashi,Higashi-ku,Fukuoka812-8582,JAPANC346(108)主訴:右眼視力低下.既往歴:特記事項なし.現病歴:2018年C7月に右眼視力低下,発熱,頭痛を自覚し,近医眼科を受診した.視力は右眼C0.3(矯正不能),左眼1.0(矯正不能),眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C11CmmHg,右漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚,フルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA)で蛍光漏出を認め,Vogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)が疑われた.血液検査で白血球異常高値,血小板減少を認め,近医初診後C4日目に精査加療目的に九州大学病院血液腫瘍内科へ紹介となった.精査の結果,ALLと診断された.6日目に眼科的精査目的に九州大学病院眼科へ紹介受診となった.初診時眼所見と経過:視力は右眼C0.2(矯正不能),左眼0.8(矯正不能),眼圧は右眼C13CmmHg,左眼C12CmmHg,平均中心フリッカー値は右眼C19CHz,左眼C19CHzであった.両眼球結膜,角膜,前房,虹彩,水晶体,前部硝子体に明らかな異常を認めなかった.右眼は視神経乳頭の辺縁不整,黄斑部の漿液性網膜.離,黄斑外上方の脱色素斑を認めた(図1a).左眼は視神経乳頭の辺縁不整,黄斑部の漿液性網膜.離,網膜出血を認めた(図1b).波長掃引光源光干渉断層計(swept-sourceCopticalCcoher-encetomography:SS-OCT)では両眼の漿液性網膜.離,網膜色素上皮の不整,脈絡膜の肥厚を認め,また,脈絡膜に点状の高輝度領域が多発していた(図1c,1d).右眼の脱色素斑はCOCTにおいて,網膜色素上皮の軽度隆起を伴った(図1e).眼底自発蛍光では右眼の脱色素斑と同部位に高輝度領域,黄斑周囲に点状に散在する高輝度領域を認めた(図2).FAでは造影初期より右眼に脱色素斑に一致した過蛍光,後期では両眼に黄斑部の蛍光貯留を認めた(図3).インドシアニングリーン蛍光造影検査(indocyanineCgreenCangiogra-phy:IA)では,造影初期より両眼後極内にCdarkspotが散在し,後期では同部位に点状の過蛍光を認めた(図4).血液検査では,白血球C222,600/μl,芽球C96.4%,赤血球C331万/μl,ヘモグロビンC10.1Cg/dl,血小板C6.2万/μlと,白血球異常高値,貧血,血小板減少を認めた.血中クレアチニンC0.68mg/dlと,腎機能異常は認めなかった.髄液検査では髄液の細胞数上昇はなく,蛋白質も正常範囲内であった.骨髄フローサイトメトリーでは,CD10(+),CD19(+),CD20(+),HLADR(+),MPO(C.),TdT(+),CD79a(+)と,リンパ性白血病のマーカーが陽性であった.染色体はCt(9;22)(q34;q11.2)で,フィラデルフィア染色体陽性であった.頸部.骨盤部CCTでは明らかな異常を認めなかった.以上からCALLと診断した.血液腫瘍内科で血液アフェレーシス,メトトレキサートC15CmgとデキサメタゾンC3.3Cmgの髄注をC14日間,プレドニンC100Cmgの点滴静注をC14日間行った.分子標的薬としてチロシンキナーゼ阻害薬のダサチニブの内服を開始したが,ダサチニブが原因と疑われる慢性硬膜下血腫を発症し,脳血管外科で手術を施行したため,ダサチニブの内服は中止し,BCR-ABL転座を標的としてチロシンキナーゼ阻害薬としてイマチニブの内服を開始した.治療開始後,漿液性網膜.離は徐々に改善し,両視力は矯正視力C1.2まで改善した.脈絡膜肥厚に関しては右眼の中心窩下脈絡膜厚がC662Cμmから治療後C14日目でC285Cμmまで改善し,左眼の中心窩下脈絡膜厚がC562Cμmから治療後C14日目C328Cμmまで改善した(図5).その後,初発からC2年後の受診時には,漿液性網膜.離や脈絡膜肥厚の再発を認めずに経過している(最終受診時の右眼矯正視力C1.2,左眼矯正視力C1.2,右眼中心窩下脈絡膜肥厚C306Cμm,左眼中心窩下脈絡膜肥厚C340Cμm).CII考按本症例では,視力低下を初発症状として漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚を認め,VKHを疑われたが,各種検査でCALLと診断された.化学療法後,速やかに眼症状は改善した.ALLに関連する漿液性網膜.離の病態として,白血病剖検眼のC29.65%に白血病細胞の脈絡膜浸潤を認め,網膜色素上皮細胞は萎縮,肥厚,過形成を呈し,続発性に.胞状黄斑浮腫や漿液性網膜.離をきたすとされている4,5).したがって,本症例の漿液性網膜.離は白血病細胞の脈絡膜浸潤に伴うものであることが考えられた.また,白血病患者ではレーザースペックルフローグラフィーによる解析で脈絡膜血流速度の低下と脈絡膜肥厚を認めるという報告がある6).本症例は,脈絡膜血管内壁への白血病細胞の接着や血管外への白血病細胞浸潤に伴う脈絡膜血管の圧迫により,脈絡膜血流が障害されたことによる網膜色素上皮障害と,血流うっ滞による脈絡膜間質組織への滲出液の増加が,漿液性網膜.離と脈絡膜肥厚の病態として考えられた.さらに,白血病細胞の脈絡膜浸潤も脈絡膜肥厚の一因と推察された7).右眼黄斑外上方の脱色素班部位に一致したことは,OCTでの網膜色素上皮の軽度隆起とCFAでの過蛍光を認めたことから,網膜色素上皮の障害を反映しているものと考えられた.これらのことを踏まえると,脈絡膜肥厚は白血病の脈絡膜浸潤や脈絡膜循環障害を反映しており,IAで同部位に一致してCdarkspotの所見を呈していると考えられた.また,OCTでの網膜色素上皮の不整は網膜色素上皮の障害を反映していると推察され,血液網膜バリアの破綻も漿液性網膜.離発症のさらなる病態として考えられた.本症例は初診時にCVKHを疑われた.VKHの病態はメラノサイトに対する自己抗体の脈絡膜浸潤と脈絡膜循環障害であり,漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚,IAでの早期のCdarkspotと後期の過蛍光所見を認める点において本症例と類似図1初診時の眼底写真(a,b)および波長掃引光源OCT(SS.OCT)像(c,d,e)a:右眼眼底.視神経乳頭の辺縁はやや不整で,黄斑部漿液性網膜.離,黄斑外上方に脱色素班(C.)を認める.Cb:左眼眼底.視神経乳頭の辺縁はやや不整で,黄斑部漿液性網膜.離,視神経乳頭耳下側に網膜出血を認める.Cc,d:漿液性網膜.離,網膜色素上皮の不整,脈絡膜の肥厚,脈絡膜に多発する点状の高輝度領域を認める.Ce:右眼底.黄斑外上方の脱色素班部位は網膜色素上皮の軽度隆起を伴う.図2初診時の眼底自発蛍光写真右眼(Ca)の脱色素斑と同部位に高輝度領域(C.),両眼(Ca,b)の黄斑周囲に点状に散在する高輝度領域を認める.図3初診時のフルオレセイン蛍光眼底造影検査a:初期(右眼,30秒).脱色素斑に一致した過蛍光(C.)を認める.Cb:後期(右眼,18分C54秒).黄斑部の蛍光貯留(C→)を認める.している.しかし,VKHでは,眼内炎症や,フィブリンと考えられる隔壁を伴う漿液性網膜.離を認める点で臨床像が異なる.また,VKHでは皮膚,神経,感冒様症状を認めることが多く,髄液検査では単球優位の細胞増多を認め,血液検査で特異的な所見がないことが本症例と異なる.また,本症例は眼底所見,FA所見,OCT所見より中心性紫液性脈絡網膜症(centralCsereouschorioretinopathy:CSC)との鑑別も重要である.本症例とCCSCでは,OCTでの漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚,FAでの点状過蛍光と後期の蛍光貯留の所見が一致する.一方,本症例はCIA早期から徐々に明瞭化する後極内のCdarkspotを認めるが,CSCではCIA中期に拡張した脈絡膜血管,後期に異常組織染を認める点が鑑別に重要である.また,白血球増多に伴う過粘稠症候群も鑑別に考慮すべきであるが,過粘稠症候群はマクログロブリン血症と多発性骨髄腫に代表されるCM蛋白増多が病因のことが多く,過粘稠症候群でみられる静脈ソーセージ様怒張,乳頭浮腫,網膜多発出血などの典型的な所見を本症例では伴わず,過粘稠症候群による循環障害としては非典型的図4初診時のインドシアニングリーン蛍光眼底造影検査a:初期(右眼,30秒).後極内にCdarkspotが散在している.Cb:後期(右眼,18分C54秒).後極内に点状の過蛍光(C.)を認める.治療前治療後6日目治療後14日目右眼視力(0.2)(1.2)中心窩下脈絡膜厚662μm480μm285μm左眼視力図5治療開始後の経過治療後,両眼の漿液性網膜.離と中心窩下脈絡膜(C.)肥厚は改善を認めた.であると考えられた.後に大きく影響するため,早期診断が重要であると考えられ漿液性網膜.離を初発症状としたCALLの本症例は,白血る.病細胞の脈絡膜浸潤と脈絡膜循環障害が病因として考えら利益相反:利益相反公表基準に該当なしれ,視力低下の原因となる.また,脈絡膜悪性リンパ腫でも同様に漿液性網膜.離をまれにきたすことが報告されている7).以上より,血液疾患では漿液性.離を初発症状とすることがあり2,3,7),全身化学療法が患者の視機能維持や生命予(0.8)(1.2)562μm475μm328μm文献1)毛塚剛司:白血病眼浸潤.あたらしい眼科29:19-24,C20122)YoshidaA,KawanoY,EtoTetal:Serousretinaldetach-mentCinCanCelderlyCpatientCwithCPhiladelphia-chromo-some-positiveCacuteClymphoblasticCleukemia.CAmCJCOph-thalmolC139:348-349,C20053)井上順治,設楽幸治,平塚義宗ほか:漿液性網膜.離を呈した急性リンパ性白血病のC1例.臨眼医報C98:141,C20044)KincaidCMC,CGreenCWR,CKelleyJS:OcularCandCorbitalCinvolvementCinCleukemia.CSurvCOphthalmolC27:211-232,C1983C5)LeonardyCNJ,CRupaniCM,CDentCGCetal:AnalysisCofC135CautopsyCeyesCforCocularCinvolvementCinCleukemia.CAmJOphthalmolC109:436-444,C19906)TakitaCA,CHashimotoCY,CSaitoCWCetal:ChangesCinCbloodC.owCvelocityCandCthicknessCofCtheCchoroidCinCaCpatientCwithCTCleukemicCretinopathy.CAmCJCOphthalmologyCCaseCReportsC12:68-72,C20187)FukutsuK,NambaK,IwataDetal:Pseudo-in.ammato-rymanifestationsofchoroidallymphomaresemblingVogt-Koyanagi-Haradadisease:caseCreportCbasedConCmulti-modalimaging.BMCOphthalmolC20:94,C2020***

急性リンパ性白血病寛解期に両眼に相次いで発症した浸潤性視神経症の1例

2016年7月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科33(7):1073〜1077,2016©急性リンパ性白血病寛解期に両眼に相次いで発症した浸潤性視神経症の1例仲嶺盛*1,2早坂香恵*1澤口昭一*2*1那覇市立病院眼科*2琉球大学大学院医学研究科・医科学専攻眼科学講座ACaseofSuccessivelyInvolvedInfiltrativeOpticNeuropathyinCompleteRemissionStageofAcuteLymphoblasticLeukemiaSakariNakamine1,2),KaeHayasaka1)andShoichiSawaguchi2)1)DepartmentofOphthalmology,NahaCityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,RyukyuUniversitySchoolofMedicine症例は30歳,女性.急性リンパ性白血病の寛解期に軽度の右眼痛,頭痛を訴え眼科を受診した.右眼に軽度の乳頭浮腫と網膜血管の拡張,蛇行を認めた.経過中,右眼に急激な視力低下を訴え,再受診した.右眼の浸潤性視神経症が疑われ,放射線治療を行ったが失明に至った.右眼失明し放射線治療終了後の20日目に同様に左眼痛と頭痛・吐き気を訴え受診した.左眼にも同様に軽度の乳頭浮腫と網膜静脈の蛇行が出現した.浸潤性視神経症と診断し,早急に放射線治療(+髄腔内化学療法)を行い視機能を温存できた.Wereportacaseofa30-year-oldfemalewithbilateralinfiltrativeopticneuropathyduringcompleteremissionofacutelymphoblasticleukemia(ALL).Firstcomplainingofrightocularpainandheadache,shewasreferredtoanophthalmologist,showingmilddiscedemawithdilatedandtortuousretinalvesselsinherrighteye.Duringthefollowup,shecomplainedofsuddenvisuallossinherrighteye,stronglysuggestingALL-relatedinfiltrativeopticneuropathy.Radiationtherapywasthenapplied,butvisuallosscontinued.At20daysaftercompletionofradiationtherapy,sheagaincomplainedofleftocularpain,headacheandnausea.InfiltrativeopticneuropathyassociatedwithALLwasdiagnosed.Earlyradiationtherapywasappliedtogetherwithintra-thecalanticancerchemotherapy,andvisualfunctionwassustainedthereafter.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(7):1073〜1077,2016〕Keywords:急性リンパ性白血病,両眼性浸潤性視神経症,放射線治療,寛解期.acutelymphoblasticleukemia,bilateralinfiltrativeopticneuropathy,radiationtherapy,incompleteremissionstage.はじめに急性リンパ性白血病(acutelymphoblasticleukemia:ALL)の予後はその治療法の進歩により近年著しく改善した.一方で,生存期間の延長とともに白血病細胞の中枢神経への浸潤による再発は増加傾向にある.わが国においても中枢神経,とくに視神経にALLによる白血病細胞が浸潤する報告例が増加している1〜5).さらに急性骨髄性白血病,悪性リンパ腫の視神経浸潤の報告も増加している.その理由として,視神経は血液・脳(眼)関門内の組織であり,またその解剖学的特徴から抗癌剤全身投与の効果が及びにくいことがあげられている1,6).今回,筆者らは短期間に両眼に相ついで発症したALLによる浸潤性視神経症(infiltrativeopticneuropathy:If-ON)を経験し,早期発見および放射線治療を含めた早期治療の重要性を再確認した.これまでのIf-ONの報告と比較し,放射線治療を中心とした治療内容,治療までの期間とその予後を中心に検討し報告する.I症例患者は30歳,女性.既往症にALLがあり,以前に右眼黄斑部の出血を認めており,視力不良があった.ALLは全身化学療法により寛解していた.平成27年7月24日の定期受診時に軽度の右眼痛と頭痛を訴え,眼底には右網膜血管の軽度の拡張・蛇行,乳頭浮腫を認めた(図1).視力は右眼0.04(0.3×sph−6.0D(cyl−1.0DAx180°),左眼0.04(1.2×sph−5.0D(cyl−1.0DAx180°)であった.内科主治医からは,ALLは寛解期とのことであり,経過観察となった.8月3日起床時,右眼光覚を消失し再受診した.視力は右眼光覚なし,左眼矯正1.5であった.右眼眼底には高度の乳頭浮腫,網膜静脈の拡張・蛇行と火炎状網膜出血を認め,蛍光眼底検査では右眼網膜動・静脈はほぼ閉塞していた(図2).左眼眼底に異常は認めなかった.眼窩MRI造影検査(8月5日)では右眼視神経が眼窩内で著しく腫大し,視神経周囲に高信号を認めた(図3).末梢血を含めた検査データに異常はなく,ALLは血液学的寛解の状態であった.骨髄検査(8月18日)ではALL再発徴候はなかった.ALLの既往,眼科所見,MRI所見からIf-ONとそれに伴う網膜中心動・静脈閉塞症が強く疑われた.8月7日から2.0Gy×15回の右眼視神経照射を開始した.右眼痛,頭痛は放射線治療開始後消失したが,右眼視力は光覚なしであった.退院後20日目(9月24日)に左眼痛,頭痛・吐き気を主訴に再度受診した.眼底検査では左眼視神経乳頭に軽度の浮腫と網膜静脈の蛇行が観察された(図4).蛍光眼底検査は正常であった.造影MRI検査では右眼と同様に左眼視神経の腫大,視神経周囲の高信号を認めた(図5).髄液検査(9月25日)で白血病細胞が確認され,ALLの再発・再燃,左眼If-ONと診断された.9月25日より左眼視神経に2.0Gy×15回の放射線治療と26日より抗癌剤の髄腔内投与を開始した.放射線治療と抗癌剤髄注によって症状の消失,乳頭浮腫の改善と,左眼矯正視力1.2を維持している.II考按血液学的に寛解期のALL症例にIf-ONを両眼に相ついで発症した1例を経験した.If-ONは眼科的には視神経症,視神経乳頭炎様の所見を呈し,眼窩造影MRI検査が有用である.その臨床所見は症例ごとに多様であり,その診断に苦慮することも多く,治療開始の時期も症例ごとにさまざまである.多くの症例では視力低下を主訴に受診するが,本症例の右眼はもともと視力が不良のため患者の視力に関する訴えはなく,また内科的に寛解期にあったため診断に手間取った.CTあるいは造影CTだけでも進行例は十分診断可能であるとの報告もあり1,7),既往歴を考慮し,乳頭浮腫が確認された時点で早急にCTを含めた画像検査を行う必要がある.表1,2にわが国におけるIf-ONの報告をまとめ,この15症例27眼についてその臨床経過,治療までの期間,活動内容について検討した.まず,臨床所見として乳頭浮腫を24眼に認めた.また,眼底出血,網膜血管蛇行は19眼に,網膜中心動脈閉塞症(centralretinalarteryocculusion:CRAO)は2眼にそれぞれ認めた.今回の筆者らの症例を含め,眼底検査では軽度の乳頭浮腫,網膜血管の拡張・蛇行を見逃さないことが重要である.また,血液学的寛解期における発症は11眼であり,そのうち9眼では髄液検査で異常を認めなかった.本症例は血液学的寛解期に発症し,また左眼発症の際に髄液で白血病細胞を認めた.髄液検査陽性は確定診断に至るが,寛解期では多くの症例で陰性であることを理解する必要がある.眼窩CTやMRIで異常所見を認めた症例は25眼で,画像検査は診断のうえできわめて重要である.造影MRIは診断のうえで重要で,その所見として視神経腫脹や視神経周囲の増強効果を認め,また視神経周囲の白血病細胞の浸潤部位はMRI・shortT1inversionrecovery(STIR)像でリング状に白く描出される8).If-ONの治療としては,放射線治療と抗癌剤の髄腔内投与の併用が効果的である5,8,9).視神経は放射線感受性が低く,白血病細胞は放射線感受性が高いため発症早期からの放射線照射が推奨される1,4,5,10).一方,全身化学療法は抗癌剤が血液-脳関門を通過しにくいため効果が期待できず1,5),また髄腔内化学療法も単独ではその効果は期待できない4,5).表2に示すように,わが国ではほとんどの症例で放射線治療が行われている.ステロイドパルス治療は2例で行われているが,これは当初(特発性)視神経炎として診断・加療されていたが,その後の全身検査で胃癌からの転移であることが明らかとなった症例である.図6は治療前後のlogarithmofminimalangleofresolution(logMAR)視力変化である.放射線無治療群(▲・■)は放射線治療群(●)に比べ視力不良となる傾向がみられる.図7に放射線治療の開始時期をIf-ON発症から10日未満(●),10日〜1カ月(■),1カ月以上(▲)で記した.発症後1カ月以上経過してから放射線治療を開始した群(▲)では明らかに視力は不良であり,とくに2例はCRAOを発症した.視力低下を自覚した時点から放射線治療開始までの期間が,If-ONの視力予後を決定する重要な因子である1).今回の文献的検討からは発症後,可能な限り早期に,遅くとも1カ月以内に放射線治療を開始することが重要であり,その点からも早期発見・早期診断は重要である.白血病細胞によるIf-ONは血液学的寛解期においても発症することに十分留意し,わずかな患者の訴えや軽度の眼底所見の変化を見逃さず,疑わしいようであればMRIやCT検査による視神経の評価や髄液検査などを早期に行い診断・治療につなげる必要がある.文献1)中尾佳男,中林正雄,多田玲:放射線治療が奏効した浸潤性視神経症.臨眼33:853-858,19772)山崎有香里,山田晴彦,寺井実知子ほか:予防的な全脳脊髄放射線照射が無効で,再発時に浸潤性視神経症をみた急性リンパ性白血病の1例.眼紀54:60-64,20033)平野佳男,滝昌弘,高木規夫:白血病により視神経乳頭浮腫をきたした2例.臨眼57:691-695,20034)駒井潔,宮崎茂雄,青山さつきほか:放射線治療が有効であった白血病性視神経症の1剖検例.眼紀44:926-931,19935)NikaidoH,MishimaH,OnoHetal:Luekemicinvolvementoftheopticnerve.AmJOphthalmol105:294-298,19886)脇本直樹,吉田昌功,中村幸嗣ほか:視神経浸潤をきたし,放射線照射が奏効した急性骨髄性白血病の1例.臨放40:613-616,19957)松村明,木村章:乳頭浮腫を初発徴候とした浸潤性視神経症の2例.眼臨89:670-673,19958)徳丸阿耶,大内敏宏:Meningiealenhancement─最近の知見─.画像診断13:740-750,19939)MurrayKH,PaolinoF,GoldmanJMetal:Ocularinvolvementinleukemia.Reportofthreecases.Lancet16:829-831,197710)RosenthalAR:Ocularmanifestationofleukemia,Areview.Ophthalmology90:899-905,1983図1眼底写真(平成27年7月24日)定期検査の際の右眼底所見.軽度の乳頭浮腫と網膜静脈の軽度の怒張と蛇行が観察される.図2眼底写真(平成27年8月3日)右眼視力低下時の右眼底所見.乳頭浮腫,火炎状出血,高度の網膜静脈の怒帳と蛇行を認める.蛍光眼底検査(下)では後期相においても動脈・静脈造影は陰性であった.図3眼窩造影MRI(平成27年8月5日)右視神経に著しい腫脹を認め,脂肪抑制T1強調画像で右視神経周囲に造影効果を認める.図4眼底写真(平成27年9月24日)左眼に軽度の乳頭浮腫と軽度の網膜静脈の蛇行が観察される.蛍光眼底造影検査では異常なかった.図5眼窩造影MRI(平成27年9月24日)両側視神経の著しい腫脹を認め,脂肪抑制T1強調画像で両側視神経周囲に強い造影効果を認める.表1浸潤性視神経の過去の報告(15症例27眼)年齢性別病名罹患眼右左症例治療前治療後治療前治療後51M膠芽細胞腫両0.6SI+1.50.01平成3年石黒ら18MAML両1.5Sl−1.21.2平成7年松村ら57M悪性リンパ腫両0.011.50.011.5平成7年松村ら62FAPL両Sl+1.2mm1.2平成7年玉田ら42MAML両0.0110.1Sl−平成8年西勝ら60M悪性リンパ腫右Sl+11.21.2平成9年田中ら70M悪性リンパ腫右0.080.10.30.3平成10年飯野ら58M胃癌両0.9Sl+mmSl+平成10年辻ら62FAML両0.11.20.011.2平成11年岩崎ら14FAML両1.51.5mm0.04平成11年村田ら28FALL両11.20.150.9平成15年山崎ら44MAML両mm0.40.040.6平成15年平野ら18MALL両0.110.81.2平成16年井上ら59M胃癌両1.51.21.20.3平成20年木村ら74FAML右0.7mm0.90.9平成23年芳原ら浸潤性視神経の原疾患,治療前後の視力変化,報告年月をまとめた.表2表1の症例の治療内容(15症例27眼)放射線治療+化学療法(髄注)17(16)眼*放射線治療+骨髄移植2眼放射線治療+ステロイド3眼ステロイドパルス+化学療法1眼ステロイドパルスのみ4眼*放射線治療+化学療法(髄注)では17眼中,16眼において髄腔内投与が行われた.図6治療前後のlogMAR視力の変化放射線治療併用群(●),化学療法+ステロイド(■)とステロイドパルス(▲)の3群に分類し治療の効果を示した.放射線治療を併用しない群では視力の悪化傾向がみられる.図7放射線治療の開始時期とlogMAR視力による予後発症後10日以内,10日〜1カ月,1月以上の3群で検討した.とくに1カ月以上経過してから放射線治療を開始した群(▲)は視力がとくに不良であった.またこの中の2眼でCRAOを発症した.〔別刷請求先〕仲嶺盛:〒903-0125沖縄県中頭郡西原町字上原207番地琉球大学大学院医学研究科・医科学専攻眼科学講座Reprintrequests:SakariNakamine,DepartmentofOphthalmology,RyukyuUniversitySchoolofMedicine,207Uehara,Nishiharacho,Nakagami-gun,Okinawa903-0125,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(147)10731074あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(148)(149)あたらしい眼科Vol.33,No.7,201610751076あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(150)(151)あたらしい眼科Vol.33,No.7,20161077