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3D映画鑑賞後,内斜視を発症した1例

2011年9月30日 金曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(141)1361《原著》あたらしい眼科28(9):1361?1363,2011cはじめに急性内斜視は突然複視を自覚し発症する共同性内斜視で,自然治癒も期待できるが,改善傾向がなければ手術が必要とされている1).鑑別すべき疾患としては,開散麻痺や開散不全,外転神経麻痺,最近では強度近視が原因と考えられる開散不全2)などがある.昨今の3D技術の進歩により,多方面でこの技術が用いられるようになってきているが,筆者らは,3D映画鑑賞後に発症した急性内斜視と考えられる症例を経験した.今までに赤緑眼鏡を使用して発症した急性内斜視の報告3)はあるが,液晶シャッターを利用した時分割方式の3D眼鏡を使用して発症したと考えられる急性内斜視の報告はなく,今回筆者らの経験を報告する.I症例患者:58歳,男性.主訴:複視.既往歴:糖尿病,高血圧.右眼は円錐角膜にて,本人は物心ついたときから弱視だったとのこと.左眼は2008年に他院にて白内障併用硝子体手術を施行.家族歴:特記すべき事項はなし.現病歴:2010年1月16日,3D映画を見ている途中から,見え方に違和感があり,その後,物が二重に見えるとのことで,発症から1週後の1月23日海老名メディカルプラザ受診.〔別刷請求先〕橋本篤文:〒252-0374相模原市南区北里1-15-1北里大学病院眼科Reprintrequests:AtsufumiHashimoto,CO.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara252-0374,JAPAN3D映画鑑賞後,内斜視を発症した1例橋本篤文*1,2矢野隆*1,3藤原和子*2相澤大輔*1,3石川均*4*1海老名メディカルプラザ*2北里大学病院眼科*3海老名総合病院*4北里大学医療衛生学部ACaseofEsotropiaafterWatching3DMovieAtsufumiHashimoto1,2),TakashiYano1,3),KazukoFujiwara2),DaisukeAizawa1,3)andHitoshiIshikawa4)1)MedicalPlazaofEbina,2)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,3)GeneralHospitalofEbina,4)SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity3D映画鑑賞後に内斜視を発症した1例を報告する.症例は58歳,男性.3D映画鑑賞後,複視を自覚した.右眼は円錐角膜,左眼は人工水晶体眼であった.眼球運動は制限なく,斜視角は遠見8Δ(プリズムジオプトリー)の内斜視,近見4Δの間欠性内斜視であった.プリズム融像幅は遠見?4Δ?+16Δ,近見?14Δ?+2Δ,大型弱視鏡にて,融像幅は?4Δ?+4Δで立体視は確認されなかった.頭部CT(コンピュータ断層撮影)にて異常なく,経過観察後,寛解時の眼位に内斜もなかったため,急性内斜視TypeIIと考えた.両眼視機能の浅く不安定な症例で,暗所で長時間の両眼分離を行う3D映画鑑賞は,急性内斜視発症の誘因の一つと考慮する必要があると考えられた.さらに発達過程にある幼小児のみならず両眼視機能の不安定な成人が3D映画鑑賞をする際も,今後注意が必要であると考えられた.Wereportonthecaseofa58-year-oldmalewhodevelopedesotropiaafterwatchinga3Dmovie.HesubsequentlyvisitedMedicalPlazaofEbinafordiplopia.Hehadkeratoconusinthelefteyeandpseudophakiaintherighteye.Heshowednormaleyemovements,esotropiaatfarwith8prismdiopters(PD)andintermittentesotropiaatnearwith4PD.CT(computedtomography)scanshowednoabnormalfindings.TheseresultssuggestedthatthiswasacaseofacuteacquiredcomitantesotropiaTypeII.Watching3Dmovieswithbinocularseparationforaprolongedtimeinadarkplacecanbeacauseofacuteacquiredcomitantesotropiainpatients;notonlyyoungchildrenbutalsoadultwhosebinocularfunctionsareincompleteandinsecure.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(9):1361?1363,2011〕Keywords:急性内斜視,3D映像,両眼視機能,輻湊,調節.acuteacquiredcomitantesotropia,3Dmovie,binocularvisualfunction,convergence,accommodation.1362あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(142)初診時所見:右眼視力0.5p(0.6p×cyl?6.0DAx20°),左眼視力(0.6p×IOL)(0.7p×?0.25D(IOL).右眼の角膜形状に関して,Hartmann-Shack波面センサー(KR-9000PWTM,トプコン社製)で測定したところ,右眼の円錐角膜が疑われた(図1).眼底は両眼とも糖尿病網膜症による汎網膜光凝固斑を認めた.眼位はHirschberg法で正位?内斜視.眼球運動は正常で両眼外転制限は認めなかった.Alternateprismcovertest(以下,APCT)で遠見8Δ(プリズムジオプトリー)内斜視,近見4Δ間欠性内斜視であり,固視眼を変えても斜視角は変わらなかった.頭部CT(コンピュータ断層撮影)にて明らかな異常所見は認めなかった.眼位の変動に関しては図2に示す.発症から6週後の3月3日,APCTは遠見4Δ間欠性内斜視,近見0Δで眼位にやや改善を認めたが,まだ,暗いところで光源を見ると光源が二重に見えてしまうとのことであった.発症から13週後の4月20日,ほぼ症状が寛解し,輻湊近点(nearpointofconvergence)はtothenose.Titmusstereotests(以下,TST)にてfly(±),animal(0/3),circle(0/9).Circletestにて右眼に抑制がかかっていたため,中心窩抑制が存在するが,周辺融像は存在すると考えられた.APCTは遠見0Δ,近見4Δ外斜位であった.プリズム融像幅は遠見?4Δ?+16Δ,近見?14Δ?+2Δであった.大型弱視鏡にて,同時視の自覚的斜視角は+4Δ,融像幅は?4Δ?+4Δ,立体視は確認できず,他覚的斜視角は0Δであった.発症から31週後の8月25日,TSTにてfly(±),animal(0/3),circle(0/9),circleにて右眼に中心窩抑制がかかることは変わらず,APCTは遠見0Δ,近見10Δ外斜位であった.発症から47週後の12月15日の時点で,所見に大きな変化はなかったが,プリズム融像幅は遠見?3Δ?+8Δ,近見?14Δ?+14Δであり,輻湊幅が遠見はやや狭く,近見はやや広がっていた.症状は改善していたが,まれに,疲れているときなどは,暗所で遠くの光源が二重に見えるとのことであった.また,光干渉現象を用いた眼軸長測定装置(IOLMasterTM,Zeiss社製)にて眼軸長は右眼24.51mm,左眼23.94mmで,長眼軸は認められなかった.II考按急性内斜視は突然複視を自覚し発症する共同性内斜視で,自然治癒も期待できるが,改善傾向がなければ手術が必要とされている1).その分類はさまざまであるが,vonNoorden1)は3つのTypeに分類している(表1).また,鑑別すべき疾患として,開散麻痺や開散不全,外転神経麻痺,最近では強度近視が原因と考えられる開散不全2)などがあげられる.本症例は,遠見の内斜視角が近見の内斜視角に比べ大きかったが,寛解時の近見眼位は外斜であったため開散麻痺,開散不全は考えにくく,また,肉眼的には眼球運動に外転制限がなく,頭部に器質的異常がなかったため,両外転神経麻痺は否定的であった.眼軸長は右眼24.51mm,左眼23.94mmと長眼軸は認められなかったため,強度近視が原因と考えられる開散不全も否定された.複視発症の前に3D映画を鑑賞し,その途中から立体感はあったが見づらく違和感があり,3D眼鏡を掛けたり外したりしていた.その後,複視が生じたため,以上すべての所見を考慮し,急性内斜視と考えた.図1Hartmann?Shack波面センサーによる角膜所見右眼に円錐角膜を認めた.右眼:K1:50.25D,K2:61.25D,Axial:18°左眼:K1:43.25D,K2:43.75D,Axial:62°1週後(初診)6週後13週後31週後47週後20151050510内斜斜視角()外斜:遠見:近見Δ図2眼位の変動表1急性内斜視の分類(vonNoorden1))TypeI(Swantype):外傷や弱視治療による人工的な融像の遮断によるものTypeII(Burian-Franceschettitype):原因不明であるが,元々不十分な融像幅が精神的・身体的ストレスで緊張が失われた結果起こるものTypeIII:頭蓋内病変によるもの(143)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111363本症例は検査上TSTにてfly(±)が確認できたことと,本人より自覚的には3D映画鑑賞時に立体感があったとのことから,基礎に浅い立体視が存在すると考えられた.右眼は円錐角膜があり,もともと弱視であった点,また,左眼は人工水晶体眼であり,調節が働きにくい点が急性内斜視発症の要因として重要と思われる.ここで,急性内斜視の分類(表1)をみると,TypeIに関しては人工的な融像の遮断が発症原因となりうる.3D眼鏡の種類には,偏光フィルター方式と液晶シャッターを用いた時分割方式がある.本症例が使用したのは,液晶シャッターを用いた時分割方式の3D眼鏡であるが,融像成立過程は20Hz以上との報告5)がある.現時点の技術で20Hz以上はあり,意識下では遮断はされていないと考えられる.TypeIIに関しては,大型弱視鏡での融像幅が?4Δ?+4Δ,プリズム融像幅が遠見?4Δ?+16Δ,近見?14Δ?+2Δと不十分であった.また,精神的・身体的ストレスがあったかどうかは疑わしいが,暗所で長時間,3D眼鏡を装用し,3D映画を視聴すること自体,精神的・身体的ストレスであった可能性も否定できない.急性内斜視発症と3D映画との関係を考えると,本症例はTSTで右眼に抑制がかかり,中心窩抑制が存在するが,周辺融像は存在すると考えられ,また,融像幅は狭い.この弱い両眼視機能が基礎にあり,暗所で両眼分離を行う非日常視の条件が加わり,①調節性輻湊を補うために過剰な融像性輻湊が働いた,②映像を明視しようと過剰なインパルスが調節中枢とともに輻湊中枢にも与えられた6),③3D映画鑑賞時の同側性視差により奥の映像を見るときは不十分な開散が働き,その開散が自己の開散幅を越えたこと,または,手前の映像を見るときは近接性輻湊が働いた,という3つの原因を考えたが,いずれも推察の域を出ない.過去には,赤緑眼鏡装用にて立体映画を見て顕性になった内斜視の症例3)や,国民生活センターによせられた,60代女性が3D映画鑑賞後に数日間原因不明の上下複視が起こった例がある.最後に,今回筆者らは3D映画鑑賞後に発症した急性内斜視と考えられる症例を経験した.現時点で本症は,急性内斜視の分類からは,TypeIIに分類されると考えた.発達過程にある幼小児7)だけでなく成人でも両眼視機能の不十分な症例では,3D映像の視聴は注意が必要と考えた.文献1)vonNoordenGK,CamposEC:BinocularVisionandOcularMotility.6thed,p338-340,CVMosby,StLouis,20022)河本ひろ美,若倉雅登:強度近視が原因と考えられる開散不全.神眼25(増補1):60,20083)筑田昌一,村井保一:立体映画を見て顕性になった内斜視の一症例.日視会誌16:69-72,19884)vonNoordenGK,CamposEC:BinocularVisionandOcularMotility.6thed,p505-506,CVMosby,StLouis,20025)畑田豊彦:立体視機構と3次元ディスプレイ.日視会誌16:19-29,19886)高浜由梨子,帆足悠美子,髙木麻里子ほか:調節麻痺剤点眼後に見られた内斜視について.眼紀33:109-116,19827)不二門尚:3D映像と両眼視.日本の眼科81:8-12,2010***

急性内斜視の2症例

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(127)11730910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(8):11731176,2008cはじめに急性内斜視は,複視の自覚とともに突然発症する共同性の内斜視として知られており,比較的まれな内斜視の一つである.vonNoordenは急性内斜視を人工的な融像の遮断により発症するTypeⅠ(Swantype)と,発症原因が不明のTypeⅡ(Burian-Franceschettitype),頭蓋内病変によるTypeⅢの3つに分類している1).Burianらも急性内斜視を3つに分類している.1型は融像を人工的に中断させて起こるもの,2型(Franceschettietype)は明らかな原因は不明のもの,3型(Bielschowskytype)は5.00D以上の近視を伴うものである2).治療法は原因を除去し,プリズム矯正にて斜視角を減少させ,やがてプリズムなしでも融像できる大きさまで改善することもあるが,多くは手術療法の適応となることが多い.発症原因はさまざまな報告があるが,今回,筆者らは手術療法を施行し経過良好な急性内斜視の2症例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕18歳,男性.初診:平成17年2月8日.主訴:平成17年1月から全方向で複視を訴え,近医受診し外直筋麻痺の疑いで紹介受診.家族歴:特記すべきことなし.既往歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼1.2(矯正不能),左眼1.2(id×+0.50D)で,前眼部,中間透光体,眼底に異常はなかった.突然発症した内斜視に対し,調節性内斜視と鑑別するために〔別刷請求先〕新井田孝裕:〒324-8501栃木県大田原市北金丸2600-1国際医療福祉大学保健医療学部視覚機能療法学科Reprintrequests:TakahiroNiida,M.D.,DepartmentofOrthopticsandVisualScience,TheSchoolofHealthScience,InternationalUniversityofHealthandWelfare,2600-1Kitakanemaru,Otawara-city,Tochigi324-8501,JAPAN急性内斜視の2症例松田英里子*1山田徹人*1,2三柴恵美子*1,2新井田孝裕*1,2菊池通晴*1*1国際医療福祉大学病院眼科*2国際医療福祉大学保健医療学部視覚機能療法学科TwoCasesofAcuteAcquiredComitantEsotropiaErikoMatsuda1),TetsutoYamada1,2),EmikoMishiba1,2),TakahiroNiida1,2)andMichiharuKikuchi1)1)DepartmentofOphthalmology,InternationalUniversityofHealthandWelfareHospital,2)DepartmentofOrthopticsandVisualScience,TheSchoolofHealthScience,InternationalUniversityofHealthandWelfare手術療法を行った急性内斜視の2症例を報告する.症例1は18歳,男性.突然の複視とともに内斜視を認めた.眼球運動に制限はなく,生理学的・神経学的検査でも異常は認められなかった.発症後,徐々に斜視角は増加し遠見・近見ともに40Δの内斜視を認めた.症例2は10歳,女児.学校検診で内斜視を指摘された.発症後,Fresnel膜プリズム装用にて正位を保っていたが,斜視角は増加し再び複視を自覚した.2症例ともに発症6カ月後に手術療法を行い,術後複視は消失し良好な眼位を維持している.しかし,両眼視機能の結果は両者において差がみられた.Wereport2casesofacuteacquiredcomitantesotropia(AACE)whounderwentsurgery.Therstcase,an18-year-oldmale,experiencedsuddenhorizontaldiplopia.Ductionswerenormal,neurologicaltestwasnegativeandhisesotropicangleincreasedto40prismdiopter.Thesecondcasewasa10-year-oldfemaleinwhomaschooldoctorhaddiscoveredesotropia.Sheunderwentprismaticcorrection,butheresotropicangleincreasedandsheexperiencedhorizontaldiplopia.Bothpatientsunderwentsurgeryat6monthsafteronsetandbothachievednor-malbinocularsinglevisionwasachieved,butbinocularfunctiondieredinthe2cases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(8):11731176,2008〕Keywords:急性内斜視,プリズムアダプテーションテスト,フレネル膜プリズム,手術,立体視.acuteacquiredcomitantesotropia,prismadaptationtest,Fresnel’sprism,surgery,stereopsis.———————————————————————-Page21174あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(128)1%塩酸シクロペントレート(サイプレジンR)点眼後の屈折値を測定したところ,右眼は(1.2×+0.50D(cyl0.50DAx180°),左眼は(1.2×+0.50D(cyl0.50DAx10°)であった.眼位はsingleprismcovertest(以下,SPCT)で遠見25Δ,近見2530Δの内斜視で+3D負荷にて眼位測定を行ったが斜視角に変化はなく,固視交代可能であった.大型弱視鏡による立体視は良好であり,プリズムによる融像幅は正常範囲内であった.特に開散方向は21Δと良好であった.眼筋麻痺との鑑別のため,眼球運動検査を行ったがひき運動で制限はみられず,遠見や側方視で斜視角は変わらず衝動性運動速度の低下もみられなかった.眼窩および頭部CT(コンピュータ断層撮影)・MRI(磁気共鳴画像)でも異常は認められなかった.重症筋無力症との鑑別のためテンシロン試験を施行したが変化はみられなかった.以上の結果より急性内斜視と診断した.経過:発症後,徐々に斜視角は増加し発症5カ月後の眼位はSPCTにて遠見・近見ともに45Δの内斜視を認めた.開散訓練を中心とする視能訓練と同時にFresnel膜プリズムを装用させたが斜視角の減少がみられなかったことから,平成17年8月18日,両内直筋5mm後転術を施行した.術後の眼位はalternateprismcovertest(以下,APCT)で近見・遠見ともに4Δの内斜位を保ち,複視は消失した.近見立体視はTitmusstereotest(以下,TST)でy(+),animal(3/3),circle(9/9),TNOtest(以下,TNO)の結果は60secまでpassと良好な両眼視を保持している.〔症例2〕10歳,女児.初診:平成17年9月1日.主訴:平成17年の学校検診で眼位異常を指摘され,紹介受診.家族歴:特記すべきことなし.既往歴:小学校3年生より近視の眼鏡を装用.発症2年前に視力改善目的で購入した多孔ピンホール眼鏡を1週間装用していたことがあった.紹介状によると以前より内斜位であり,時折複視は自覚していたが,明らかな内斜視は認めなかったとのことである.初診時所見:視力は右眼(1.2×5.50D(cyl0.50DAx140°),左眼(1.2×5.00D(cyl0.75DAx165°),眼鏡による視力は右眼(0.7p×4.50),左眼(0.8×4.25)で前眼部,中間透光体,眼底に異常はなかった.トロピカミド(ミドリンPR)点眼後の他覚的屈折検査では変化はなかった.眼位はSPCTにて遠見25Δ,近見18Δの内斜視で右方視,左方視それぞれのむき眼位による斜視角に変化はみられず,右固視のときが多かったが固視交代は可能であった.つぎに眼筋麻痺との鑑別のため眼球運動検査を行ったが,ひき運動で制限はみられず,遠見や側方視で斜視角は変わらず,衝動性運動速度の低下もみられなかった.大型弱視鏡による融像幅は15°+20°(base+20°),立体視はブランコのような大きな視差の視標で片面のみ可能であった.発症年齢や性別を考慮し心因性を疑いGoldmann動的視野計にて視野検査を行ったが,両眼ともに正常範囲であった.上記より急性内斜視と診断した.経過:初診時より1カ月後,Fresnel膜プリズムを装用し斜視角の減少を試みたが,装用当初は複視を自覚しなかったものの,装用2カ月後では遠見にてときどき複視を訴えた.Prismadaptationtest(以下,PAT)にて50Δbaseoutを装用させ30分後に眼位の再検査を行ったところ,遠見・近見ともに正位を保ち,斜視角に変化はみられなかったため,平成18年3月30日両内直筋6mm後転術を施行した.術後の眼位はAPCTにて近見0Δ,遠見6Δの内斜位を保ち,複視は消失した.近見立体視はTSTでy(+),animal(3/3),circle(3/9)で,TNOではスクリーニング用のPlateⅠⅢは可能であったが,定量用のPlateⅤ以降は不可であった.Bagolini線条レンズ法,大型弱視鏡では正常対応であった.II考按急性内斜視の分類についてはさまざまな提唱があるが,vonNoordenは急性内斜視を人工的な融像の遮断により発症するTypeⅠと,発症原因が不明のTypeⅡ(Burian-Fran-ceschettitype),頭蓋内病変によるTypeⅢの3つに分類している1).最も多く遭遇するTypeⅠは外傷や弱視治療後に起こるとされ,片眼遮閉による融像の中断によって潜伏していた内方偏位が顕性化するといわれている.TypeⅡは複視の自覚で始まり,比較的大きな偏位角がある.遮閉の既往はなく,原因不明であるが,元来不十分な融像幅が精神的・身体的ストレスで緊張が失われた影響の結果起こるともされている.Burianらも急性内斜視を3つに分類している.1型は融像を人工的な中断により起こるものとしている.2型(Franceschettietype)は明らかな原因は不明であるが,精神的・身体的ストレスが考えられるもの.3型(Bielschowskytype)は5.00D以上の近視を伴い,遠見時に内斜視で同側性複視,近見時には融像を保てるため複視は訴えないもので,わずかに外転制限はあるが眼球運動に麻痺の兆候はないものである2).両者共通するものとしては,人工的な融像遮断と原因不明であるがストレスによる誘因が認められることがあげられる.症例1は,発症当時18歳で大学受験を控え精神的ストレスにより発症したと考えられた.複視の自覚とともに発症し,術前眼位は45Δと比較的大きな斜視角を認めている点においても一致している.症例2については,原因に不明な点が多い.以前より眠たくなると複視を自覚していたが,発症2年前にピンホール眼鏡を装用しており,その後少しして,母親が内斜視に気づき眼位が顕性化したことがあった———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081175(129)が,一時的なものでしばらくすると眼位は以前のように戻ったため,あまり気にしていなかったそうである.民間療法として孔の多数開いたいわゆるマルチプルピンホール眼鏡は遠視,近視ともに完全矯正下では視力,コントラスト感度が低下するという報告3)もあることから多孔ピンホール眼鏡による一時的な融像遮断の既往があった.しかし,急性内斜視の発症には一眼の融像遮断が起因となるためピンホール眼鏡装用が直接的に関与するかは不明であるが,強い開散により内斜位を保っていたが両眼視を妨げられたことにより,内斜視となったとも考えられる.5.00D以上の近視によるBiel-schowskytypeと考えられるが,症例2の場合,遠見・近見ともに内斜視となり複視の自覚もあり,眼球運動も正常であった.最近では,Bielschowskytypeは開散麻痺との鑑別がむずかしいとされ,急性内斜視の分類に含まれない傾向にある.急性内斜視の診断には調節性を除外するための眼科的検査や,頭蓋内病変によるTypeⅢと眼筋麻痺との鑑別のため神経学的検査が必要である1,3).しかし症例2に対し神経学的検査を行わなかった理由については,発症後2年間ほとんど症状に変化がみられず,明確な遮閉の既往があったためである.急性内斜視の治療法は,ストレスにより発症したTypeⅡで問題の解決とともに自然軽快した5)という報告がある.プリズム矯正にてコントロールされ,やがてプリズムがなくても融像できる大きさまで回復することができる5)という報告もあるが,一般的には手術の適応となることが多い.治験中ではあるがbotulinumtoxin療法を施行6)しているという報告もある.今回2症例いずれも複視が消失した最小の斜視角であるFresnel膜プリズムを装用させ斜視角減少を試みたが,斜位にもち込むことができなかったため両内直筋後転術を施行した.膜プリズムで12Δ以上は視力に影響7)するため,長期間の装用は行わなかった.斜視角の評価にはPATの必要性を強く主張する報告もある5,8).Gustaveらは,急性内斜視の患者にPATを行ったところ,すべてに斜視角の増加がみられたとしている.PATにて安定した角度が得られたことで,術後3カ月で全例が遠見・近見ともに正位になったと報告されている8).本症例においても,症例2の場合,特に開散方向の融像幅が広く,初診時より斜視角の増加はほとんどみられないが,PATでは50Δを認め,手術時の筋移動量の評価に重要であった.手術治療効果についてはTypeⅡ(Burian-Franceschettitype)は,発症以前はほぼ正常の両眼視機能を有しているため,通常の内斜視に比べ低矯正手術を施行しても良好な結果が得られる9)という報告もある.治療開始時期と予後についても一貫した見解が得られていない.Langらは弱視や抑制を防ぐため発症6カ月以内に手術療法を行うべき10)という説の一方,Ohtsukiらは両眼視のある場合,治療開始時期を6カ月以内,724カ月以内,25カ月以上の3群に分け治療開始時期と術後の立体視を比較したが,両者に相関関係はみられない11)という報告もある.しかしLangらは発症年齢平均3歳8カ月(110歳)を,Ohtsukiらは発症年齢平均12歳4カ月(328歳)を対象に検討しており両眼視機能の発達段階に差がみられる.Burkeらも,両眼視のある場合,治療の開始時期と術後の立体視の発達は関係ないとしている.感覚の維持が不安定な若年者にとって,プリズムによる早期治療や手術は調節に伴う偏位が突然起こり,網膜異常対応の発達や抑制をひき起こす5)と報告している.vonNoordenは視覚的に十分発達している子供や成人では抑制や弱視の発達のリスクは存在しないが,5歳以下に発症した急性内斜視は手術治療を数カ月以上延期すべきではない1)としている.Spiererらは,成人(平均年齢38±18.6歳)を対象に検討しており術後良好な両眼視が得られたのはほとんどが平均屈折値4.1±3.2D(+2.08.5D)の近視であり,発症25年後に手術が施行されても良好な立体視を獲得しているため,成人の急性内斜視は特異的な分類とすべきだとしている12).このことから,視覚の感受性期間内であれば視覚は未熟であり治療期間の遅延により両眼視機能に影響が現れるが,十分な両眼視を獲得した後に発症した場合の治療開始時期は術後の立体視に影響しないと考えられる.立体視機能は手術前後ではほとんど変わらない傾向にあるという報告6,13)もある.助川らは8歳で発症し,6カ月後に手術療法を施行したが,遠見・近見ともに正位を保っているにもかかわらず,立体視機能は発症以前の140secと同程度であったとしている.手術時期が遅かったので両眼視機能が損なわれたのではなく,発症以前から両眼視機能はやや劣っていたと報告している13).今回,症例1は発症時年齢18歳,症例2は8歳であった.発症年齢でのみ検討するとどちらも視覚の感受性期間は過ぎており,術後立体視は治療期間に影響されない1,5,6,11,13)ことになる.しかし,症例1の術後立体視はTSTにて40sec,症例2は400secであった.症例1は発症から治療期間も短く,術前の大型弱視鏡による立体視はピエロのような小さな視差の視標でも両面可能で,術後の立体視も良好であった.しかし,症例2は術前の大型弱視鏡による立体視は良好とはいえず,その理由としてもともと立体視機能が劣っていたからか,複視を自覚し始めた頃より治療期間が長かったからかは不明である.1例報告ではあるが石畠らは,複視の自覚と内斜視を指摘され,数日たつと複視は消失し正位となることを数回くり返した8歳,女児について,内方偏位が顕性化したため手術療法を施行したが,術後の両眼視機能は良好とはいえない原因として発症以前より立体視機能がやや劣っていたからと報告している15).また,網———————————————————————-Page41176あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(130)膜対応異常をもつ症例は術後,微小斜視となっている例が多い.山本らは,二次性微小斜視7例で視力低下が軽度であるにもかかわらず,他の微小斜視に比べて立体視が悪かったのは,二次性微小斜視のため術前の眼位ずれの状態が関与しているからだと述べている16).症例2の場合,弱視の既往はないため,視力による立体視不良は考えにくく,今後さらに眼位や網膜対応を含め検討していく必要性があると思われる.今回,急性発症した内斜視について手術療法を行い,術後良好な眼位を獲得した2症例を報告した.しかし,両者ともに術後両眼視機能は良好とはいえず,不明な点も多い.今後,症例数を増やし検討していく必要があると思われる.文献1)vonNoordenGK:BinocularVisionandOcularMotility.p338-340,CVMosby,StLouis,19852)BurianHM:Comitantconvergencestrabismuswithacuteonset.AmJOphthalmol45(part2):55-64,19583)國澤奈緒子,阿曽沼早苗,松田育子ほか:マルチプルピンホールの視力,コントラスト感度に及ぼす影響.日視会誌28:117-121,20004)LegmannSimonA,BorchertM:Etiologyandprognosisofacute,late-onsetesotropia.Ophthalmology104:1348-1352,19975)岩本英子,野上貴公美,古嶋正俊ほか:急性内斜視の1例.眼臨95:263-265,20016)BurkeJP,FirthAY:Temporaryprismtreatmentofacuteesotropiaprecipitatedbyfusiondisruption.BrJOphthalmol73:787,19957)高谷匡雄,大庭間正裕,中川喬:急性内斜視11例の検討.眼紀51:85-88,20008)不二門尚,齋藤純子:プリズムと斜視.p31-43,文光堂,19989)SavinoG,ColucciD,RebecchiMTetal:Acuteonsetcon-comitantesotropia:sensorialevaluation,prismadaptationtest,andsurgeryplanning.JPediatrOphthalmolStrabis-mus53:342-348,200510)福田美子,井崎篤子,三村治:急性内斜視(franceschettitype)の手術治療効果.眼臨88:952-954,199411)LangJ:Criticalperiodforrestorationofnormalstereoa-cuityinacute-onsetcomitantesotropia.AmJOphthalmol119:667-668,199512)OhtsukiH,HasebeS,KobashiRetal:Criticalperiodforrestorationofnormalstereoacuityinacute-onsetcomitantesotropia.AmJOphthalmol118:502-508,199413)SpiererA:Acuteconcomitantesotropiaofadulthood.Ophthalmology110:1053-1056,200314)助川俊介,齋藤友護:発症以前より検査を行った急性内斜視の1症例.眼科38:1391-1395,199615)石畠弘恵,沼田このみ,福尾吉史ほか:急性発症した内斜視の1例.眼臨88:949-951,199416)山本節,文順永:網膜対応異常と二次性微小斜視.眼科25:133-138,1983***