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日本人における3 焦点眼内レンズ挿入後の眼鏡装用とその要因

2022年8月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科39(8):1130.1133,2022c日本人における3焦点眼内レンズ挿入後の眼鏡装用とその要因ビッセン宮島弘子*1太田友香*1林研*2五十嵐千寿佳*2佐々木紀幸*3*1東京歯科大学水道橋病院眼科*2林眼科病院*3日本アルコンCFactorsthatPredictSpectacleUseinJapanesePatientsafterTrifocalIntraocularLensImplantationHirokoBissen-Miyajima1),YukaOta1),KenHayashi2),ChizukaIgarashi2)andNoriyukiSasaki3)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital,2)HayashiEyeHospital,3)AlconJapanC日本人におけるC3焦点眼内レンズ挿入後の眼鏡装用例とその要因を検討した.対象は白内障手術時に両眼にC3焦点眼内レンズ(TFNT00:アルコン社)が挿入されたC66例,平均年齢はC66.3±7.4歳であった.術後C6カ月において眼鏡を装用している症例(装用群)とまったく装用していない症例(非装用群)に分け,年齢,性別,眼軸長,術後等価球面度数,術後裸眼・矯正視力(遠方:5m,中間:60Ccm,近方:40Ccm),近方視の見え方に関するアンケート調査結果との関連を検討した.装用例はC15例(22.7%)で,12例が近用,3例が遠近両用眼鏡を使用していた.装用例の多くはアンケート調査で細かい字を見るのが不便と回答していた.装用例のほうが年齢は有意に高かったが,術後等価球面度数や近方裸眼視力は眼鏡装用に著明な要因とはなっていなかった.3焦点眼内レンズは挿入後に眼鏡依存度を軽減するが,細かい字を読むことが多い人,高齢者では近用眼鏡を必要とする可能性が高いと思われた.CPurpose:Toinvestigateandanalyzethefactorsthatpredictspectacleuseanddependenceposttrifocalintra-ocularlens(IOL)implantation.CPatientsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC66CpatientsCwhoCunderwentCbilateralCtrifocalIOL(TFNT00:Alcon)implantation.Spectacleusewasassessedbypatientquestionnaire,followedbysta-tisticalCcorrelationCanalysisCofCpre-andCpost-operativeCfactorsCsuchCassphericalCequivalent(SE)andCvisualCacuity(VA)at5.0,0.8,0.6,and0.4meters.Results:Ofthe66patients,15patients(22.7%)occasionallyusedspectaclesforreadingpatientsand3patientsforreadinganddistancevision.Themajorityofthepatientswhorequiredspec-taclesCreportedChavingCdi.cultyCinCreadingCsmallCprintCtext.CTheCageCofCtheCpatientsCwhoCrequiredCspectacleCuseCwashigherthanthatofthepatientswhowerenotdependentonspectacleuse(p=0.02,Wilcoxontest).Postopera-tiveCSECandCuncorrectedCnearCVACwereCfoundCtoCnotCbeCsigni.cantCpredictorsCofspectacleCdependence(p=0.21,0.06).CConclusion:InCthisCstudy,CaCsubsetCofCpatientsCrequiredCtheCuseCofCspectaclesCsomeCofCtheCtimeCforCnearCvisionactivities,andagemayplayafactorinspectacleindependence.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(8):1130.1133,C2022〕Keywords:3焦点眼内レンズ,眼鏡装用,年齢,近方視力,患者アンケート.trifocalintraocularlens,spectacleusage,age,nearvision,patientquestionnaire.Cはじめに近年,多焦点眼内レンズの導入で,日常生活における眼鏡への依存が軽減している.2焦点眼内レンズの多くは,遠方と近方に焦点が合うため,その間の中間距離を見るときに眼鏡を必要とする場合がある.3焦点眼内レンズにより,遠方,中間,近方の裸眼視力が向上し,眼鏡装用の機会はさらに軽減されている.筆者らは,日本におけるC3焦点眼内レンズの臨床試験成績を報告したが1),同レンズを挿入した欧米の報告に比べ,眼鏡装用頻度がやや高い結果であった2.5).多焦点眼内レンズ挿入後の眼鏡装用率についての報告はあるが,どのような症例が眼鏡を必要とするかまでは検討されていない.今回,3焦点眼内レンズの臨床試験症例を,挿入後に眼鏡装用を必要とした症例としない症例に分け,術前および術後の要因をサブグループ解析したので報告する.〔別刷請求先〕ビッセン宮島弘子:〒101-0061千代田区神田三崎町C2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科Reprintrequests:HirokoBissen-Miyajima,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital,2-9-18Kanda-Misakicho,Chiyoda-ku,Tokyo101-0061,JAPANC1130(120)I対象および方法対象は,東京歯科大学水道橋病院眼科および林眼科病院の2施設において,臨床試験(前向き研究)として両眼の白内障手術時にC3焦点眼内レンズ(TFNT00:アルコン社)が挿入されたC68例のうち,66例C132眼である.除外したC2例は,片眼挿入例および後発白内障により両眼遠方矯正視力が0.8に低下していた症例である.術前の角膜乱視は,オートケラトメータによる前面角膜乱視測定で1D未満の症例とした.臨床試験は,各施設の治験審査委員会の承認を受け,ヘルシンキ宣言に沿ってC2017年C5.9月に手術が実施された.術後C6カ月時に行われたアンケート調査にて,眼鏡を常時あるいは必要時に装用していると回答した症例を装用群,眼鏡をまったく装用していないと回答した症例を非装用群とし,術前および術後の要素を検討した.術前の要素は,年齢,性別,眼軸長,術後の要素は,術後C6カ月における等価球面度数,5m,60Ccm,40Ccmにおける両眼裸眼および矯正視力とした.また,両群の近方作業に関するアンケート調査結果も比較した.検定は,性別と近方の見え方に関してはCFisherC’sCexacttest,その他の要素に関してはCWilcoxontestを用い,p<0.05を統計学的に有意差ありとした.CII結果アンケート調査において眼鏡を装用している装用群はC15例(22.7%),まったく装用していない非装用群はC51例(77.3%)であった.装用群の内訳は,常時使用がC6.7%,時々使用がC80%であった.また,使用している眼鏡の種類は近用がC80%,遠近両用がC20%で,遠方あるいは中間距離のみに使用している症例はなかった.装用群と非装用群の年齢,性別,眼軸長,術後の等価球面度数,術後C6カ月時の裸眼および矯正視力(遠方C5m,中間C60Ccm,近方C40Ccm)を表1に示す.術前,術後要素において有意差が認められたのは年齢のみであった.また,両群の年齢分布をみると,装用群では70歳以上の割合が多かった(図1).術後の近方の見え方に関するアンケート調査結果を比較すると,腕時計や本のタイトルの見え方に関しては,装用群と非装用群で差がなかったが,細かい字,新聞や本を読む,字表1眼鏡装用群と非装用群の術前および術後要素装用群(n=15)非装用群(n=51)p値年齢(歳)C69.6±8.2C65.2±7.1C0.02男性:女性4:1C115:3C6C1.00眼軸長(cm)C24.03±0.94C23.82±0.84C0.51術後等価球面度数(D)C0.25±0.25C0.13±0.31C0.21術後裸眼視力ClogMARC5CmC.0.10±0.11C.0.11±0.08C0.79C60CcmC.0.04±0.10C.0.09±0.08C0.07C40CcmC.0.02±0.07C.0.06±0.08C0.06術後矯正視力ClogMARC5CmC.0.19±0.07C.0.21±0.07C0.40C60CcmC.0.11±0.09C.0.13±0.08C0.54C40CcmC.0.06±0.09C.0.09±0.08C0.18平均値±標準偏差.logMAR:logarithmicminimumangleofresolution.(%)装用群(n=15)(%)非装用群(n=51)505040403030202010100045505560657075804550556065707580年齢(歳)年齢(歳)図1眼鏡装用群と非装用群の年齢分布困難と感じる困難と感じないその他050100050100Fisher’sexacttest図2眼鏡装用群と非装用群の近方作業に関するアンケート調査結果表2眼鏡装用に関する既報との比較本研究Kohnenら2)Farvardinら3)Kimら4)Modiら5)症例数C66C27C20C40C129平均年齢(歳)C69.6±8.2C63±8.8C62.1±5.45C60±8C65.8±7.3報告施設日本ドイツイラン韓国米国両眼近方視力(logMAR)C.0.02(装用群)C.0.06(非装用群)C0.01C0.23C0.03C0.050眼鏡非装用率(%)C77.3C96C90C84C83.6Cを書くといった作業では,装用群で困難と感じている症例が有意に多かった(図2).CIII考按3焦点眼内レンズは,遠方に加え,中間および近方において良好な裸眼視力が得られるため,眼鏡依存度の軽減が期待されている.本研究と同じCTFNT00が両眼に挿入された既報における眼鏡非装用率の比較を表2に示す.両眼近方視力は,本研究において眼鏡を装用していなかった症例も装用していた症例も,40Ccmにおける小数視力は平均C1.0以上と非常に良好であったが,眼鏡をまったく使用しない症例の割合は,海外の報告に比べてやや低い傾向であった.その理由として,日本人の生活スタイル,体型,文字の大きさが影響している可能性がある.アンケート調査結果で,眼鏡を使用している症例の半数以上が,細かい字を読んだり,新聞や本を読むのが困難と回答している.このことから,これらの作業における裸眼視力が十分でないために眼鏡を用いていると考えられる.海外の日常生活における作業内容と距離を調べた報告で,読書,裁縫はC33Ccm,字を書くのはC45Ccmとしている6).さらに背が高いほど腕が長く,好む距離が異なること7),決まった距離での視力のみでなく腕の長さで検討している報告もある5).これらを加味すると,近方加入度が+3.25Dの本レンズでは,40Ccmにおいて良好な裸眼視力が得られていても,さらに近くで作業する症例においては眼鏡を要することになり,日本人の体型を考慮すると,欧米よりも近方で見ることになり,眼鏡装用の必要性が高くなると考えられる.今回,眼鏡装用例の半数以上がC70歳以上で,非装用例に比べて高齢であったこと,海外の報告よりも年齢が高かったことも,これらの理由を裏づけるものである.もうC1点は,文字の差である.スマートフォンのディスプレイにおけるアルファベットと日本語のフォントの違いが報告されている8).日本語はひらがなと漢字が含まれ,漢字は非常に複雑である.同じ漢字を用いている中国の研究で,もっとも速く読める文字のフォントは,アルファベットより漢字のほうが大きく9),同じ視力を得るための中国語新聞の文字は英字新聞の文字の約C1.5倍の大きさが必要という報告がある10).一方,韓国の報告では,近くの見え方への満足度が高く11),ハングルの文字の形や種類が少なく,アルファベットに近いためなのかもしれない.これらのことより,日本人において,欧米と同様の良好な近方視力が得られても,実際に文字を見る際に眼鏡を必要とする確率が高くなることが推察される.多焦点眼内レンズは,老視矯正眼内レンズとして近方視における眼鏡依存度を軽減することが期待される.3焦点眼内レンズ挿入術後でも,近方視の距離が近い場合や,読む文字の大きさや複雑さによって眼鏡を必要とすることがあり,とくに高齢者においては,その点を十分説明して挿入を検討すべきと考えられた.老視患者に対しては,多焦点眼内レンズの特性に生活を合わせていくような,たとえば読書,スマートフォン,裁縫などは今までより少し距離を離すとよいなど,手術後に助言をすることによって,眼鏡依存度を下げることも可能と思われる.利益相反:日本眼科学会における公表基準ビッセン宮島弘子,太田友香,林研,五十嵐千寿佳[F:アルコン社]佐々木紀幸[E:アルコン社]文献1)Bissen-MiyajimaH,OtaY,HayashiKetal:ResultsofaclinicalCevaluationCofCaCtrifocalCintraocularClensCinCJapan.CJpnJOphthalmolC64:140-149,C20202)KohnenT,HerzogM,HemkepplerEetal:Visualperfor-manceofaquadrifocal(trifocal)intraocularlensfollowingremovalCofCtheCcrystallineClens.CAmCJCOphthalmolC184:C52-62,C20173)FarvardinCM,CJohariCM,CAtarzadeCACetal:ComparisonbetweenCbilateralCimplantationCofCaCtrifocalCintraocularlens(AlconCAcrysofCIQRPanOptix)andCextendedCdepthCofCfocuslens(TecnisCRCSymfonyRCZXR00lens)C.CIntCOph-thalmolC2020.Chttps://doi.org/10.1007/s10792-020-01608-w4)KimCT,CChungCTY,CKimCMJCetal:VisualCoutcomesCandCsafetyCafterCbilateralCimplantationCofCaCtrifocalCpresbyopiaCcorrectingintraocularlensinaKoreanpopulation:apro-spectiveCsingle-armCstudy.CBMCCOphthalmologyC20:288,C20205)ModiCS,CLehmannCR,CMaxwellCACetal:VisualCandCpatient-reportedoutcomesofadi.ractivetrifocalintraoc-ularClensCcomparedCwithCthoseCofCaCmonofocalCintraocularClens.OphthalmologyC128:197-207,C20216)CardonaCG,CLopezS:PupilCdiameter,CworkingCdistanceCandCilluminationCduringChabitualCtasks.CImplicationsCforCsimultaneousCvisionCcontactClensesCforCpresbyopia.CJOptomC9:78-84,C20167)Lapid-GorzakCR,CBhattCU,CSanchezCJGCetal:MulticenterCvisualCoutcomesCcomparisonCofC2CtrifocalCpresbyopia-cor-rectingIOLs:6-monthCpostoperativeCresults.CJCCataractCRefractSurgC46:1534-1542,C20208)HasegawaCS,CFujikakeCK,COmoriCMCetal:ReadabilityCofCcharactersConCmobileCphoneCliquidCcrystalCdisplays.CJOSEC14:293-304,C20089)WangCC-X,CLinCN,CGuoYX:VisualCrequirementCforCChi-nesereadingwithnormalvision.BrainBehavC9:e01216,C201910)ZhangCJ,CLiuCJ,CJastiCSCetal:VisualCdemandCandCacuityCreserveofChineseversusEnglishnewspapers.OptomVisSciC97:865-870,C202011)KimCT,CChungCTY,CKimCMJCetal:VisualCoutcomesCandCsafetyCafterCbilateralCimplantationCofCaCtrifocalCpresbyopiaCcorrectingCintraocularClensCinCKoreanpopulation:aCprospectiveCsingle-armCstudy.CBMCCOphthalC202:288,C2020C***