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角膜混濁と病的近視のある成熟白内障に超音波白内障手術を行った1例

2017年11月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科34(11):1606.1609,2017c角膜混濁と病的近視のある成熟白内障に超音波白内障手術を行った1例上.甲.覚国立病院機構東京病院眼科CMatureCataractSurgeryinaPatientwithOpaqueCorneaandPathologicMyopiaSatoruJokoCDepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationTokyoNationalHospital目的:角膜混濁と強度近視のある成熟白内障に,超音波水晶体核乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を行ったC1症例の報告.症例:74歳,女性,左眼の白内障治療目的で受診した.幼小時に流行性角結膜炎の既往があった.所見と経過:初診時,左眼の矯正小数視力は手動弁で,成熟白内障と角膜混濁と強度近視を認めた.左眼の眼軸長は超音波CAモードでC30.33Cmmであった.術中合併症はなかった.術後最終視力はC0.04であったが,患者は結果に満足している.術後の経過観察期間はC3年で,合併症は生じていない.結論:角膜混濁と病的近視のため術後視力の改善は限定的だったが,患者の満足は得られた.今後,同様な疾患の症例が増えれば,インフォームド・コンセントに有用な手術成績の検討が可能になると考えた.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCmatureCcataractCwithCopaqueCcornealCandCpathologicCmyopiaCthatCunderwentCphacoemulsi.cationCcataractCsurgery.CCase:AC74-year-oldCfemaleCwhoCwasCreferredCtoCourChospitalCforCcataractCsurgeryconsultationhadahistoryofepidemickeratoconjunctivitisatyoungelementaryschoolage.FindingsandProgress:CorrectedCvisualCacuityCinCherCleftCeyeCwasChandCmovementCatC.rstCvisitCtoCourChospital.CTheCeyeCshowedsignsofmaturecataract,cornealopacityandhighmyopia.Axiallengthoftheeyewas30.33Cmminultra-sonicAmode.Therewerenointraoperativecomplications.At3yearsaftercataractsurgery,lefteye.nalvisualacuityCwasC0.04.CThereCwereCnoCpostoperativeCcomplications.CConclusion:ThoughCpostoperativeCvisualCacuityCimprovementwaslimitedtopathologicmyopiawithopaquecornea,herresultwassatisfactory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(11):1606.1609,C2017〕Keywords:成熟白内障,角膜混濁,病的近視,超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ.matureCcataract,CopaqueCcornea,pathologicmyopia,phacoemulsi.cationandaspiration,intraocularlens.Cはじめに超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulisi.cationCandCaspi-ration:PEA)を行う症例のなかで,角膜混濁のある白内障は難症例の一つと考えられている1.5).また,成熟白内障も難症例の一つと考えられている6,7).さらに,強度近視のある白内障も術中に注意すべき点がある8,9).これまでに,角膜混濁と強度近視をともに合併した白内障症例に対する超音波白内障手術の報告はまれで,その手術結果はあまり知られていない10,11).今回,角膜混濁と強度近視のある患者の成熟白内障に,PEAと眼内レンズ(intraocularClens:IOL)挿入術を行った1症例を経験したので報告する.CI症例患者:74歳,女性.主訴:左眼の視力低下.現病歴:左眼の白内障手術目的で紹介受診した.受診のC3カ月前より視力低下が強くなった.初診時所見:矯正視力は右眼0.3(0.6×.2.00D(cyl.1.75DAx75°),左眼は20cm手動弁(矯正不能)であった.眼圧〔別刷請求先〕上甲覚:〒204-8585清瀬市竹丘C3-1-1国立病院機構東京病院眼科Reprintrequests:SatoruJoko,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationTokyoNationalHospital,3-1-1TakeokaKiyose,Tokyo204-8585,JAPAN1606(122)は右眼C17CmmHg,左眼C18CmmHgであった.左眼は角膜混濁と成熟白内障を認めた(図1).右眼も白内障はあったが,角膜混濁は合併していなかった.左眼の超音波CBモードエコーでは,後部ぶどう腫の所見を認めた(図2).既往歴:4歳頃に流行性角結膜炎を罹患し,左眼は当時より視力が不良であった.術前検査:超音波CAモードでは,右眼の眼軸長はC26.28mm,左眼の眼軸長はC30.33Cmmであった.角膜内皮細胞密度は,右眼C2,839/mmC2,左眼C2,597/mmC2であった.白内障手術:手術は通常の顕微鏡照明下で行った.角膜耳側切開を行い,前.はインドシアニングリーンで染色した後,連続円形切.(continuousCcurvilinearCcapsulorhexis:CCC)を施行した.PEAとCIOL挿入術後,切開創は無縫合で終了した.術中合併症はなかった.術後経過:術後視力は改善し,最高視力はC0.07であった.術後早期の前眼部写真を図3に示した.術後の眼底検査で,黄斑部を含めた後極部に網脈絡膜萎縮を認めた(図4).術後の経過観察期間はC3年で,最終視力はC0.04であるが,患者は結果に満足している.術後の合併症は生じていない(図5).なお,右眼は,左眼の術C5カ月後に白内障の手術を施行し図1術前の前眼部写真角膜混濁(Ca)と成熟白内障(Cb)を認める.C図2術前の超音波Bモードエコー強膜が後方に突出している.図3術5カ月後の前眼部写真前眼部の状態は,術前と変わりない.図4術後の眼底写真黄斑部を含む後極部に網脈絡膜萎縮を認める.図5術3年後の前眼部写真明らかな前.の収縮や後.混濁もなく,IOLの偏位もない.C表1筆者の角膜混濁・病的近視の超音波白内障手術報告例報告年年齢・性患眼眼軸Cmm術前視力術後最高視力既往症例C1#177・女右C28.47C0.01C0.04麻疹C2013(左眼C0.9)(幼小時)症例C2#278・女右C29.82C0.08C0.5CpトラコーマC2015左C29.88C0.08C0.3(幼小時)本症例74・女左C30.33手動弁C0.07流行性角結膜炎(右眼C1.0)(4歳頃)#1,2:便宜上,過去に報告した症例をC1とC2とした.た.術中・術後に合併症はなく,最高視力はC1.0であった.CII考察角膜混濁の程度は,眼内の術中操作の難易度に強く影響を与える.通常,特定の限られた疾患以外は,角膜混濁併発例の白内障症例の数は多くはない12.15).したがって,そのような症例に慣れている術者は少ないと考える.最近,さまざまな角膜混濁モデル眼の作製が可能になった16.19).実際の症例に類似した模擬眼で練習を行えば,ある程度慣れることは可能と考える.角膜混濁症例の対策として,治療的角膜表層切除12,14)や「特殊な照明法」を利用する方法1.5)がある.また,水晶体核の処理方法として,水晶体.外摘出術の選択もある.事前に考えた手術計画は,角膜混濁モデル眼を利用して試すことも可能である.今回は,角膜混濁の範囲が限定的なので,通常の顕微鏡照明下で眼内の操作が可能であった.ただし,成熟白内障もあるため,前.染色法を利用してCCCCを行った.CCCはその後の手術操作に大きく影響するので,確実に行う必要がある.慣れていない術者は,事前に成熟白内障モデル眼で,CCCの練習を行うことも可能である20,21).さらに,術中の視認性対策以外に,強度近視眼の注意点も知っておく必要がある.強度近視は強膜が薄いこと,Zinn小帯が脆弱で液化硝子体のため前房深度が不安定になることがある8).黄斑障害のある病的近視眼では,固視の不良にも注意が必要である.ただし,強度近視の白内障モデル眼は調べた限りないので,実際の手術で慣れる必要がある.これまでに,筆者は強度近視と角膜混濁を併発した白内障手術をC2例報告している10,11).本症例を含めた臨床所見のまとめを表1に示した.各症例の角膜混濁の程度は異なるが,共通して幼小時に感染症による角膜障害の既往があり,視力は不良であった.幼小時の眼感染症疾患の治療は,適切に対応する必要がある.白内障手術時の年齢はC3例ともC70歳以上で,通常の強度近視に伴う白内障手術時の年齢より高い傾向である22).角膜混濁と黄斑病変の合併があるので,白内障がかなり進行しないと適応になりにくいことが理由として考えられる.その分,手術の難易度はさらに増すことになる.病的近視のない角膜混濁症例の白内障手術では,患者の満足度の高い報告がある1).本症例と症例C2(表1)の患者は,術後視力の改善は限定的だが,手術の結果に満足している.症例C1の右眼は,術中・術後に特記すべき合併症は生じていないが,患者の満足は得られなかった.ただし,その症例の左眼は病的近視がなく,白内障手術後の視力は良好なので,左眼の結果には満足している.病的近視の併発している角膜混濁症例は,その手術適応の判断はむずかしい.本症例の左眼の視力は,幼小時より中心視力は不良であった.ただし,周辺部はそれなりに見えて,役にたっていたことが,術前の問診でわかっていた.術前の超音波CBモードエコーの結果も踏まえて,最近の視力低下の原因はおもに成熟白内障にあると考え,手術の適応があると判断した.今後,同様な疾患の手術症例数が増えれば,これまで以上にインフォームド・コンセントに有用な手術成績の検討が可能になると考えた.本論文の要旨は,第C1回CTokyoOphthalmologyClub学術講演会(2015年C9月C12日)にて発表した.文献1)FarjoCAA,CMeyerCRF,CFarjoCQA:Phacoemulsi.cationCinCeyesCwithCcornealCopaci.cation.CJCCataractCRefractCSurgC29:242-245,C20032)NishimuraCA,CKobayashiCA,CSegawaCYCetCal:EndoillumiC-nation-assistedcataractsurgeryinapatientwithcornealopacity.JCataractRefractSurgC29:2277-2280,C20033)岡本芳史,大鹿哲郎:手術顕微鏡スリット照明を用いた白内障手術.眼科手術17:365-367,C20034)西村栄一,陰山俊之,谷口重雄ほか:角膜混濁例に対する前房内照明を用いた超音波白内障手術.あたらしい眼科C21:97-101,C20045)OshimaCY,CShimaCC,CMaedaCNCetCal:ChandelierCretroilluC-mination-assistedtorsionaloscillationforcataractsurgeryinpatientswithseverecornealopacity.JCataractRefractSurgC33:2018-2022,C20076)HoriguchiM,MiyakeK,OhtaIetal:StainingofthelenscapsuleCforCcircularCcontinuousCcapsulorrhexisCinCeyesCwithCwhiteCcataract.CArchCOphthalmolC116:535-537,C19987)MellesCGR,CdeCWaardCPW,CPameyerCJHCetCal:TrypanCbluecapsulestainingtovisualizethecapsulorhexisincat-aractsurgery.JCataractRefractSurgC25:7-9,C19998)原優二:強度近視眼の白内障.臨眼C58(増刊号):225-227,C20049)ZuberbuhlerCB,CSeyedianCM,CTuftCS:Phacoemulsi.cationCinCeyesCwithCextremeCaxialCmyopia.CJCCataractCRefractCSurgC35:335-340,C200910)上甲覚:超音波白内障手術の長期経過観察ができたぶどう膜炎併発強皮症のC1例.臨眼67:1713-1718,C201311)上甲覚:超音波白内障手術後に強膜炎を合併した,角膜混濁と強度近視のあるC1症例.臨眼69:493-497,C201512)SalahT,ElMaghrabyA,WaringGO3rd.:ExcimerlaserphtotherapeuticCkeratectomyCbeforeCcataractCextractionCandintraocularlensimplantation.AmJOphthalmolC122:C340-348,C199613)上甲覚:ハンセン病患者の白内障に対する超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術.日本ハンセン病学会雑誌C65:170-173,C199614)兼田英子,根岸一乃,山崎重典ほか:治療的レーザー角膜切除施行眼に対する白内障手術における術後屈折値予測精度.眼紀55:706-710,C200415)上甲覚:Hansen病性ぶどう膜炎患者の白内障手術(2)実践編.あたらしい眼科26:491-492,C200916)上甲覚:白内障手術練習用の豚眼による角膜混濁モデルの作製と使用経験.臨眼C64:465-469,C201017)上甲覚:初級者向けの白内障手術練習用の豚眼による角膜混濁モデルの試作.あたらしい眼科C27:1707-1708,C201018)上甲覚:豚眼による白内障モデルの試作と使用経験.あたらしい眼科28:1599-1601,C201119)上甲覚:角膜混濁モデルによるウエットラボ.眼科手術5白内障(大鹿哲郎編),p93-94,文光堂,201220)VanCVreeswijkCH,CPameyerCJH:InducingCcataractCinCpostmortemCpigCeyesCforCcataractCsurgeryCtrainingCpur-poses.JCataractRefractSurgC24:17-18,C199821)上甲覚:成熟白内障モデル眼の試作.あたらしい眼科C33:1801-1803,C201622)森嶋直人,中瀬佳子,林一彦ほか:強度近視の白内障術後視力.眼臨81:88-91,C1987***