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エスターマン両眼開放視野検査による眼瞼下垂術後の視野改善の予測

2020年1月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科37(1):104?108,2020?エスターマン両眼開放視野検査による眼瞼下垂術後の視野改善の予測鄭暁東*1,2古川雅世*2五藤智子*2山田寛子*1鎌尾知行*1白石敦*1*1愛媛大学医学部眼科学教室*2はなみずき眼科PredictionofVisualFieldImprovementFollowingBlepharoptosisSurgerybyBinocularEstermanVisualFieldExaminationXiaodongZheng1,2),MasayoFurukawa2),TomokoGoto2),HirokoYamada1),TomoyukiKamao1)andAtsushiShiraishi1)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,2)HanamizukiEyeClinic目的:通常,眼瞼下垂の術前視野評価にはGoldmann視野計が用いられている.しかし,時間がかかることや定量性が低いことなどが問題点である.筆者らは,Humphrey自動視野計に内蔵されているエスターマン両眼開放視野検査によって術後の視野改善を予測できるかどうかを検討した.対象および方法:両側,退行性眼瞼下垂の症例44例,平均年齢76.5±7.8歳,男性25例,女性19例を検討した.全例に挙筋短縮術を施行した.術前の自然開瞼,シミュレーションのためのテーピング開瞼および術後1カ月の計3回エスターマン両眼開放視野検査(Humphrey,Zeiss)を行い,各時点におけるエスターマンスコアを比較検討した.また,スコアに影響する因子について検討した.結果:全症例で,術中および術後の合併症はなかった.術前MRD1の平均は1.36±1.38mm,術後は3.02±1.31mmで術後は有意に改善した(p=0.001,pairedt-test).術前の自然開瞼,テーピング開瞼および術後1カ月のエスターマンスコアは,それぞれ85.3±12.1,90.5±9.8および92.5±8.4で,術前自然開瞼よりテーピング開瞼および術後1カ月では有意に高かった(p=0.032,p=0.001).テーピング開瞼と術後1カ月のスコア間には有意差はなかった(p=0.212).さらに,術前エスターマンスコアは年齢と有意な負の相関(r=?0.3404,p=0.027;Spearmancorrelationcoe?cient),術前MRD1と有意な正の相関(r=0.4766,p=0.001)を認め,術後スコアの改善率は術前スコア(r=?0.683,p<0.001)および挙筋機能(r=?0.3899,p=0.023)と有意な負の相関を認めた.結論:エスターマン両眼開放視野検査は,眼瞼下垂術後の視野改善効果を定量的に予測しうる簡便な方法と思われた.Purpose:DrawbacksofusingGoldmannperimetryforvisual?eldevaluationinblepharoptosiscasesisthatitistime-consumingandlacksquantitation.Inthisstudy,weinvestigatedthee?ectivenessofusingthebinocularHumphreyEstermanvisual?eldtest(EVFT),abuilt-inprogramintheHumphreyvisual?eldanalyzer(Hum?phreyInstruments)forthepredictionofvisual?eldimprovementpostblepharoptosissurgery.Methods:Thisstudyinvolved44patients(25malesand19females,meanage:76.5±7.8years)diagnosedwithinvolutionalblepharoptosiswhounderwentlevatorresection.Inallpatients,abinocularEVFTwasperformedbeforesurgerywiththeuppereyelidtapedandnottaped,andonceagainat1-monthpostoperative.TheEVFTscoreswerethencompared,andfactorsrelatedtovisual?eldimprovementpostsurgerywereanalyzedusingmultivariatecorrela?tionanalyses.Results:Inallcases,therewerenointraoperativeorpostoperativecomplications.ThemeanMRD1was1.36±1.38mmbeforesurgeryand3.02±1.31at1-monthpostoperative,andtheincreasewasstatisticallysigni?cant(p=0.001,pairedt-test).ThemeanbilateralEVFTscoreoftheeyesbeforesurgerywithouttaping,withtapping,andat1-monthpostoperativewas85.3±12.1,90.5±9.8,and92.5±8.4,respectively.TheEVFTscoreoftheeyeswithtapingbeforesurgeryandat1-monthpostoperativewassigni?cantlyhigherthanthatoftheeyesexaminedpriortosurgerywithouttaping(p=0.032,p=0.001).Therewasnodi?erenceinbilateral〔別刷請求先〕鄭曉東:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学医学部眼科学教室Reprintrequests:XiaodongZheng,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPAN104(104)0910-1810/20/\100/頁/JCOPYはじめに退行性眼瞼下垂に対しての挙筋短縮術は,容貌の改善はもちろん,視機能の向上も期待できる1,2).眼瞼下垂が及ぼす視機能への影響のなかで,視野はもっとも重要な項目であるといえる.下がった眼瞼は視軸を塞ぎ,上方の視野欠損を生じ,中等度以上の場合には下方の視野,とくに読書や近見作業のときに影響を及ぼすと報告されている1).このため,術前の視野評価は非常に重要で,2011年の米国での眼形成外科医に対するアンケート調査の結果,9割近くの医師が術前に視野検査を行うことが明らかとなっている3).しかし,わが国の現状では,臨床研究を除いて眼瞼下垂術前に視野検査を行う施設は少ない.その理由として,海外の医療保険制度との違いや,通常のGoldmann視野検査では時間がかかり,また定量性が低いなどの問題点があげられる.今回,筆者らは,初めてHumphrey自動視野計のエスターマン両眼開放視野検査プログラムを用いて,退行性眼瞼下垂症例の術前後のエスターマン視野の変化およびテーピング開瞼による術後視野改善の予測の可能性について検討した.I対象および方法1.対象2018年12月?2019年4月に,はなみずき眼科および愛媛大学眼科で退行性眼瞼下垂と診断され,両眼の挙筋短縮術自然開瞼テーピング開瞼図1エスターマン両眼開放視野検査の風景Humphrey自動視野計に内蔵されたエスターマン両眼開放視野検査プログラムにて検査を行った.坐位,頭部は顎台の中央に乗せ,必要に応じて近見の視力矯正を行った(上段).術前に自然開瞼およびテーピングによるシミュレーション開瞼で検査を行った(下段).10095908580757065605550*p=0.032*p=0.001pairedt-test術前術前自然開瞼テーピング開瞼術後1M図3エスターマンスコアの比較眼瞼下垂の術前自然開瞼,シミュレーションのテーピング開瞼および術後1カ月のエスターマンスコア.術前より,テーピング開瞼および術後は有意に改善した.図2エスターマン両眼開放視野検査の結果左下にエスターマンスコアが自動に表記される.120個視標を全部見ることができたら,エスターマンスコアは100点となる.この例では,120個視標のなかに100個(83%)見えた,スコアは83である.を行った44例,男性25例,女性19例,年齢は76.5±7.8(45?88歳)を対象とした.両眼MRD1(marginre?exdis?tance1)差>1mmの症例,退行性下垂以外の先天性,神経原性,筋原性および外傷性下垂は除外した.術前,MRD1および眼瞼挙筋機能(levatorfunction:LF)を計測し,また,術後1カ月後にもMRD1を計測した.全例にインフォームド・コンセントによる同意を得た.また,本研究は愛媛大学病院倫理委員会により承認された.2.術式全例において眼瞼挙筋短縮術を施行した.必要に応じて皮膚切除を併用した.挙筋短縮,皮膚縫合には6-0As?ex糸を使用した.術後1週間ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム・フラジオマイシン硫酸塩軟膏を眼瞼塗布し,0.1%フルオロメトロン点眼よび0.1%ガチフロキサシン点眼を処方した.抜糸は術後10日頃行った.3.エスターマン両眼開放視野検査Humphrey自動視野計(HumphreyFieldAnalyzerIIi-series,Zeiss社)を用いて,内蔵プログラム,エスターマン両眼開放視野検査を行った.術前には,自然開瞼およびテーピング開瞼の2回,術後は1カ月後に,計3回検査を行った(図1).エスターマン視野には120個視標が提示され,全部“見えた”場合,エスターマンスコアは100点となる(図2).4.統計解析MRD1検討には両眼のMRD1の平均値を用いた.術前後のエスターマン両眼開放視野検査の時間およびエスターマンスコアについて,群間比較にはANOVA検定,2群間比較にはpairedt-test検定を使用した.術前エスターマンスコアおよび術後のスコア改善率〔(術後スコア―術前スコア)/術前スコア×100%〕に相関する因子の検討には,多変量解析(Spearmancorrelationanalysis)を用いた.有意確率はp<0.05とした.II結果全例において,術中および術後に合併症はなく経過良好であった.MRD1は術前1.36±1.38mmから術後3.02±1.31mmと有意に改善した(p=0.001,pairedt-test).エスターマン両眼開放視野検査時間は,術前自然開瞼,テーピング開瞼および術後1カ月は,それぞれ298±32.6秒,276±27.1秒および265.4±22.8秒で,テーピング開瞼は自然開瞼より有意に短かった(p<0.001).また,術後1カ月の検査時間はさらに,テーピング開瞼より有意に短かった(p=0.022).エスターマンスコアは,術前自然開瞼,テーピング開瞼および術後1カ月では,それぞれ85.3±12.1,90.5±9.8,92.5±8.4で,術前自然開瞼よりテーピング開瞼および術後1カ月では有意に高かった(p=0.032,p=0.001).テーピング開瞼スコアの平均は術後1カ月との有意差はなかった(p=0.212,図3)が,テーピング開瞼による術後の視野スコアの予測の精度について,44例中18例(40.9%)は結果一致,21例(47.7%)は過少,5例(11.4%)は過大評価となった(図4).多変量相関解析より,術前のスコアは年齢と有意な負の相関(r=?0.3404,p=0.027;Spearmancorrelationcoe??cient),MRD1と有意な正の相関(r=0.4766,p=0.001)を認め,また術後スコアの改善率は術前のスコア(r=?0.683,p<0.001)および挙筋機能(r=?0.3899,p=0.023)と有意な負の相関を認めた.11.47%47.7%40.9%■結果一致■過小評価■過大評価III考按眼瞼下垂の術前視機能評価に,視野検査が重要であることはいうまでもない.しかしながら実際には,術前にルーチンに視野検査を行う施設は少ない.その理由として以下のものが考えられる.1)医療保険請求では認められておらず,日本では,眼瞼下垂手術の適応の判断は医師の裁量のみで,海外の保険会社のように,医療費請求にあたって顔写真と視野検査を必須項目とすることはない.実際,2011年米国眼形成外科学会(ASOPRS)のメンバーを対象とした電子メールによるアンケート調査では87.4%が術前視野検査を施行しているとの回答であった3).2)一般的に行われるGoldmann視野検査は視能訓練士による実施が必要で,定量性も低く,時間もかかる.また,施設によっては,Goldmann視野計自体を保有していない.上記の理由1)に関しては,高度眼瞼下垂の症例には手術の適応判断は容易であるが,軽症例の場合は,実際,術後視野が改善できるかを事前に予測できれば術前説明の重要な補助データとなり,術者にとっても自信をもって手術を勧めることができると考える.また,上記理由の2)から,Goldmann視野検査より短時間で,簡便で定量性のよい検査法が求められる.Humphrey自動視野計は,自動で,簡便で,短時間に定量できる方法であり,とくに一般眼科においては,緑内障の視野検査に利用され,なじみのある検査である.Humphrey自動視野計には数多く検査プログラムが内蔵され,そのなかのエスターマン両眼開放視野検査プログラムは,両眼の視機能の評価に使用されている.従来,緑内障および糖尿病網膜症の視野障害による運転の適応性検査4?6)や,糖尿病網膜症への光凝固後の視野検査7),脳外科の術後の視機能評価8),さらに,多焦点眼内レンズ挿入眼の視野検討など多岐にわたって海外の文献より報告されている9).日本では,2018年7月より身体障害者認定にGoldmann視野検査の代用法として,エスターマン両眼開放視野検査が認められている.筆者の調べる限り,これまでにエスターマン両眼開放視野検査による眼瞼下垂の術前後の評価について報告はない.今回,筆者らは,眼瞼下垂の術前に自然開瞼の状態にてエスターマン両眼視野視野検査を行い,その後上眼瞼にテーピングをして術後の視野をシミュレーションした.術前エスタ図4術後視野改善の予測精度テーピング開瞼による術後のシミュレーションを行い,視野改善の予測精度(結果一致,過小,過大評価)の割合を示す.シミュレーションは術後実際のスコアより低い傾向であった.ーマンスコアの平均85.3±12.1に対して術後は92.5±8.4まで有意に改善した.また,シミュレーションのスコアは術後のスコアとの有意差は認めなかった.これにより,エスターマン両眼開放視野検査およびテーピング開瞼方法は,定量的に術後の視野の予測ができるといえる.また,検査時間について,術前テーピング開瞼および術後は術前の自然開瞼より有意に短縮したことで,眼瞼位置の挙上により,視標の視認が向上したものと考える.また,エスターマン両眼開放視野検査の平均検査時間は5分以内と短く,被験者に負担の少ない検査と考える.術前のエスターマンスコアは年齢と負の相関,MRD1と正の相関を示した.これは,加齢のためMRD1が低下し,結果として,上方の視野感度の沈下によるものと考える.実際,術後にMRD1が改善され,スコアの向上はおもに上方の視標が視認できるようになったことでエスターマンスコアの改善は眼瞼位置の変化によるものと考える.エスターマンスコアの改善率は,術前のスコアと挙筋機能のそれぞれと有意な負の相関を認めた.術前下垂が重度なほどMRD1は当然低く,また挙筋機能が弱いほど開瞼困難のため,術後有意な視野改善が期待できると考えられる.エスターマン両眼開放視野検査は,術前後視機能評価にも,手術の適応の判断にも有用性を認めた.さらに,今回の検討のテーピング開瞼によるシミュレーションは,術後の結果と40.9%は一致した一方で,47.7%は低評価となった.その理由として,テーピング開瞼は実際術後の開瞼より不安定であり,開瞼不十分である可能性が考えられる.また,テーピングによって瞬目は不能もしくは不完全となり,眼表面の乾燥などによる視機能への影響の可能性も考えられる.しかし,術後,実際のスコアはシミュレーションよりさらに高いことより,視機能の改善面から考えると,術前テーピング開瞼にてエスターマンスコアの改善を認めた症例には積極的に手術を勧めることができると考える.本検討は,両眼MRD1の差は1mm以下の下垂症例について検討した.今後,片眼性下垂や両眼差のある眼瞼下垂の症例,さらに,病型の違いや術式の違いなどの検討も必要と思われる.IVまとめエスターマン両眼開放視野検査は,眼瞼下垂術後の視野改善効果を定量的に予測しうる簡便な方法と思われた.文献1)CahillKV,BradleyEA,MeyerDRetal:Functionalindi?cationsforuppereyelidptosisandblepharoplastysur?gery:areportbytheAmericanAcademyofOphthalmol?ogy.Ophthalmology118:2510-2517,20112)鄭暁東,五藤智子,鎌尾知之ほか:眼瞼下垂術後における角膜形状,自覚および他覚視機能の変化.臨眼72:245-251,20183)AakaluVK,SetabutrP:Currentptosismanagement:anationalsurveyofASOPRSmembers.OphthalmicPlastReconstrSurg27:270-276,20114)OrtaA?,?zt?rkerZK,ErkulS?etal:Thecorrelationbetweenglaucomatousvisual?eldlossandvision-relatedqualityoflife.JGlaucoma24:121-127,20155)KulkarniKM,MayerJR,LorenzanaLLetal:Visual?eldstagingsystemsinglaucomaandtheactivitiesofdailyliving.AmJOphthalmol154:445-451,20126)PearsonAR,KeightleySJ,CasswellAG:Howgoodareweatassessingdrivingvisual?eldsindiabetics?Eye(Lond)12:938-942,19987)SubashM,ComynO,SamyAetal:Thee?ectofmul?tispotlaserpanretinalphotocoagulationonretinalsensitiv?ityanddrivingeligibilityinpatientswithdiabeticretinop?athy.JAMAOphthalmol134:666-672,20168)RayA,Pathak-RayV,WaltersRetal:Drivingafterepi?lepsysurgery:e?ectsofvisual?elddefectsandepilepsycontrol.BrJNeurosurg16:456-460,20029)StanojcicN,WilkinsM,BunceCetal:Visual?eldsinpatientswithmultifocalintraocularlensimplantsandmonovision:anexploratorystudy.Eye(Lond)24:1645-1651,2010◆**

眼瞼下垂手術前後における涙液クリアランスの変化の検討

2018年6月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科35(6):829.831,2018c眼瞼下垂手術前後における涙液クリアランスの変化の検討森本佐恵*1,2渡辺彰英*1後藤田遼介*1横井則彦*1山中行人*1中山知倫*1小泉範子*1,2外園千恵*1*1京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学*2同志社大学生命医科学CInvestigationofChangesinTearClearanceafterBlepharoptosisSurgerySaeMorimoto1,2)C,AkihideWatanabe1),RyousukeGotouda1),NorihikoYokoi1),YukitoYamanaka1),TomonoriNakayama1),NorikoKoizumi1,2)CandChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmologyKyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)GraduateSchoolofLifeMedicalSciences,DoshishaUniversity目的:眼瞼下垂に対する挙筋短縮術前後の涙液クリアランスの変化について検討する.方法:挙筋短縮術を施行したC15例C19眼(平均年齢C79.8歳)を対象に,涙液メニスカス曲率半径(R),MarginRe.exDistance-1(MRD-1)の計測と,BSS点眼後C6分まで計C6回,涙液メニスカスの曲率半径(R)を測定する涙液クリアランステストを術前および術後1,3カ月の時点で施行した.結果:術後C1カ月での点眼2,3,4,5分後,術後C3カ月での点眼2,3,4,5,6分後におけるCclearancerateは,術前より有意に減少した(p<0.05).結論:眼瞼下垂手術によって涙液クリアランスは改善することが示唆された.CPurpose:Toassesschangesintearclearanceafterblepharoptosissurgery.Methods:19eyesof15patientswithacquiredblepharoptosiswereexamined.Allthepatientsunderwentlevatoradvancement.Tearclearancetestwasconductedusing20CμlCBSSophthalmicsolutionbymeasuringtearmeniscusradius(R)everyminuteuntil10minutesatpreoperativeandpostoperative1,3months.Results:Tearclearanceratesweresigni.cantlydecreased(p<0.05)C.Conclusion:Tearclearanceimprovedafterblepharoptosissurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(6):829.831,C2018〕Keywords:眼瞼下垂,挙筋短縮術,涙液クリアランス,ビデオメニスコメトリー,涙液メニスカス.blepharopto-sis,levatoradvancement,tearclearance,videomeniscometry,tearmeniscus.Cはじめに涙液に対する眼瞼の役割には,動的役割といえる瞬目による涙液の分配・クリアランスと,静的役割といえる瞼縁の涙液メニスカスによる涙液の保持がある.涙液クリアランスは涙液の動態を反映する重要なパラメータであり,クリアランスが高い場合,涙液は速やかに涙道内に排出される.涙液クリアランスが低い状態では涙液の流れが悪く,涙液の質的異常が起こりうる.涙液クリアランスが低下するとサイトカインの炎症性メディエーターが排出されず,また点眼液に含まれる防腐剤などの上皮障害性物質の影響を強く受け,角膜上皮障害が生じる1).眼瞼下垂術後の涙液クリアランスの変化を検討した報告はこれまでないが,加齢性下眼瞼内反症手術におけるCWheeler変法久冨法併用術後にCSchirmerテストを行い,涙液クリアランスがC67%で改善したとの報告がある2).この検討ではCSchirmer試験紙の交換頻度でクリアランスを検討し,定量的な検討ではなかった.以前,筆者らは後天性眼瞼下垂における眼瞼挙筋短縮術後6カ月までの涙液貯留量の評価を行い,術後に涙液貯留量は減少し,また長期にわたってその低下が持続することを示した3,4).眼瞼下垂手術による涙液減少の効果は,術前の涙液貯留量が多いほど減少しやすいが,その原因が涙小管のポンプ機能,つまり涙液クリアランスの増強によるものかは,過去に眼瞼下垂術後の涙液クリアランスについての報告はなく,いまだ明らかではない.そこで今回筆者らは,眼瞼下垂手術施行症例に対してCBSS点眼液により一時的に涙液貯留量を増やし,点眼後の涙液量〔別刷請求先〕渡辺彰英:〒602-8566京都市上京区梶井町C465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学Reprintrequests:AkihideWatanabe,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine.465Kajii-cho,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(121)C829の時間経過割合をCclearanceCrate1)とし,涙液クリアランスの評価の指標とした.点眼直後の涙液量を計測するとメニスカスが凸面になるなど計測が困難であるため,点眼後C1分後の涙液貯留量を起点とした.眼瞼下垂手術による涙液クリアランスの変化について若干の知見を得たので報告する.CI対象および方法対象は,2015年4月25日.2016年12月31日に京都府立医科大学附属病院眼科にて,後天性眼瞼下垂に対して眼瞼挙筋短縮術を施行したC15例19眼(男性C1例,女性C14例,平均年齢C79.8C±10.5歳)である.眼瞼下垂の他に眼瞼疾患がなく,涙道通過障害のない症例のみを対象とした.眼瞼挙筋短縮術は,全例で皮膚切開からの挙筋腱膜単独の短縮術または挙筋腱膜とCMuller筋の短縮術を施行した.また,対象の患者には京都府立医科大学医学倫理審査委員会の承認を得たうえでインフォームド・コンセントを行い,同意を得て測定を行った.眼瞼下垂手術前後の開瞼程度は,瞳孔中央から上眼瞼縁までの距離であるCmarginCre.exCdistance-1(MRD-1)をCOPH-THALMIC-MEASURE(Inami製)により測定した.涙液貯留量は涙液メニスカスの曲率半径(R)をビデオメニスコメトリー法により測定したものを指標とした5).Rは涙液貯留量と正の相関を示すため4),Rを涙液貯留量の指標とした.涙液クリアランスはCBSS点眼液をC20Cμl点眼し,1分ごとに計C6回,涙液メニスカスの曲率半径(R)をビデオメニスコメトリー法により測定したものを指標とした4).また,点眼後Cn分後の涙液メニスカスの曲率半径をCRCnとした.また,n分後の涙液クリアランスの指標となるCclearancerate(CRCn)を以下に示す.CR1.RnCRn=R1C×100(%)(Cn=2.6)*0.5*0.4点眼直後の涙液貯留量CRはメニスカスが凸面になり計測しづらいことから,点眼C1分後を起点として検討した.涙液クリアランスを術前および術後C1カ月,術後C3カ月の時点で計測し,術前をコントロール群としたCSteel-Dwass法を用いて検討した.また,クリアランス試験時の瞬目回数は検討しなかった.CII結果眼瞼下垂手術前後のCRはそれぞれ術前においてC0.29C±0.15mm,術後C1カ月においてC0.23C±0.07Cmm,術後C3カ月においてC0.22C±0.14mmであった.術前と術後C1カ月,術後C3カ月においてCRは有意に減少した(p<0.05)(図1).平均MRD-1はそれぞれ術前においてC.0.63±1.01Cmm,術後C1カ月においてC3.34C±1.16Cmm,術後C3カ月においてC3.84C±1.04Cmmであった.術前と術後C1カ月,術後C3カ月においてRは有意に改善した(p<0.01)(図2).術前のCCRC2の平均値はC12.0(%),CRC3の平均値はC17.4(%),CRC4の平均値は24.5(%),CRC5の平均値はC28.3(%),CRC6の平均値はC31.8(%)であった.術後C1カ月時点でのCCRC2の平均値はC25.0(%),CRC3の平均値はC33.2(%),CRC4の平均値はC35.5(%)CR5の平均値はC40.8(%),CRC6の平均値は40.8(%)であっ,た.術後C3カ月時点でのCCRC2の平均値はC32.7(%),CRC3の平均値はC38.5(%),CRC4の平均値はC42.7(%),CRC5の平均値はC44.8(%),CRC6の平均値はC47.8(%)であった.術前と術後C1カ月時点を比較して術後C1カ月でのCCRC2,CRC3,CRC4,CCR5が有意に増加した.また,術前と術後C3カ月時点と比較して術後C3カ月でのCCRC2,CR3,CR4,CR5,CR6が有意に増加した(p<0.05)(図3).****54R(mm)0.30.2MRD-1(mm)32100.1-10-2図1Rの推移図2MRD.1の推移Rは術後C1カ月,術後C3カ月時点において有意にMRDは術後C1カ月,術後C3カ月時点において有減少した(*:p<0.05,Holm法).C意に改善した(**:p<0.01,Holm法).C術前術後1カ月術後3カ月術前術後1カ月術後3カ月830あたらしい眼科Vol.35,No.6,2018(122)60**********50******403020100■術前■術後1カ月■術後3カ月図3Clearancerateの推移Clearancerateは術後C1カ月時点での点眼C2分後,3分後,4分後,5分後,術後C3カ月時点での点眼C2分後,3分後,4分後,5分後,6分後において有意に増加した(*:p<0.05,**:p<0.01,Holm法).CIII考按涙液クリアランスの測定方法には,従来,Jones法,Fluo-rophotometry法,フルオレセンクリアランス試験などがあるが6.8),偽陽性率が高い,時間がかかる,測定が半定量であり比較的侵襲性があるなどの問題点があった1).近年,前眼部COCTを用いた涙液クリアランステストが報告されており,高橋らは,生理食塩水C5Cμl点眼後からC30秒間における涙液メニスカスの変動を前眼部COCTで計測し,涙液クリアランス率を算出した9).前眼部COCTを用いた涙液クリアランステストは,ある程度定量的で客観的な測定が行える利点がある.今回筆者らは,前眼部COCTと同様に,非侵襲で客観的な測定が可能であり,眼表面の涙液量と一次相関するパラメータであるビデオメニスコメトリー法5)を用いて,涙液クリアランスを定量的に評価した.これまでの筆者らの研究から,眼瞼下垂術後に涙液量が減少する理由として,瞬目時の開閉瞼程度が大きくなることで涙液ポンプ機能が増強し,涙液クリアランスが増加すると推測していた3,4,10).涙液ポンプ作用以外の涙液クリアランスの改善の要因として,眼瞼下垂症の手術後に角膜の露出面積が大きくなるため,角膜露出面積の増加に伴う涙液分布面積の増加や涙液の蒸発が考えられるが,涙液貯留量の減少と術後のCMRD-1値,また術前後のCMRD-1の増加量に有意な相関関係はみられなかった3).今回の検討結果で,挙筋短縮術術後に有意に涙液貯留量は減少し,clearancerateが増加したことから,挙筋短縮術により涙液の蒸発亢進よりも涙液ポンプ機能のほうが涙液量の減少に関与すると考えられる.導涙のメカニズムについて考えると,涙液排出量は開瞼時の眼輪筋の弛緩により涙小管に涙液を排出し,閉瞼時には眼輪筋の収縮により「瞬目時に涙道系に発生する陰圧CΔP」と「上下の涙液メニスカスにおける陰圧CΔp」の差に比例する11).(123)CClearanrerate(%)2分後3分後4分後5分後6分後閉瞼時には眼輪筋,Horner筋が収縮し,涙.上部は膨張し,涙小管が圧平することで涙小管内の涙液が涙.へ流れ込み,開瞼時には眼輪筋,Horner筋が弛緩し涙.上部が収縮,涙小管が拡張し,涙点から涙液を吸引する.以前,筆者らは挙筋短縮術と余剰皮膚切除術が涙液量に与える影響を検討した.挙筋短縮術によって涙液貯留量が術後有意に減少したことに対して,余剰皮膚切除術では涙液貯留量が有意に減少しなかったこと4)から,挙筋短縮術後は上眼瞼挙筋の収縮および伸展が改善されるため,瞬目時の開瞼程度および閉瞼程度も大きくなり,開瞼時のCΔPの増加により涙液がより涙小管へ流れやすくなり涙液クリアランスが改善されると考えられる.今回の検討で,眼瞼下垂の治療法である挙筋短縮術によって,涙液クリアランスは改善することが示唆された.しかし,術後経過観察期間はC3カ月という短い期間であったため,長期にわたり涙液クリアランスの改善が維持されるかは不明である.今後症例数および経過観察期間を増やして検討することが必要であると考えられる.文献1)鄭暁東,小野眞史:前眼部COCT点眼負荷涙液クリアランス試験.あたらしい眼科31:1645-1646,C20142)西本浩之,向野和雄,春日井紘子ほか:加齢性下眼瞼内反症手術における視機能への影響について.眼科手術C20:C423-426,C20073)岡雄太郎,渡辺彰英,脇舛耕一ほか:眼瞼下垂手術後における涙液貯留量の変化.眼科手術28:624-628,C20154)WatanabeCA,CSelvaCD,CKakizakiCHCetCal:Long-termCtearCvolumeCchangesCafterCblepharoptosisCsurgeryCandCblepha-roplasty.InvestOphthalmolVisSciC56:54-58,C20155)横井則彦,濱野孝:メニスコメトリーとビデオメニスコメーター.あたらしい眼科17:65-66,C20006)JonesLT:Thecureofepiphoraduetocanaliculardisor-ders,traumaandsurgicalfailuresonthelacrimalpassag-es.TransAmAcadOphthalmolC66:506-524,C19627)WebberWR,JonesDP,WrightP:Fluorophotometricmea-surementsCofCtearCturnovcrCrateCinCnormalChealthyCper-sons:evidenceCforCaCcircadianCrhythm.CEye(Lond)C1:C615-620,C19878)XuKP,TsubotaK:Correlationoftearclearancerateand.uorophotometricassessmentoftearturnover.BrJOph-thalmolC79:1042-1045,C19959)高橋直巳,鄭暁東,鎌尾知行ほか:細隙灯顕微鏡による涙点関連所見と涙液クリアランスとの関係.あたらしい眼科32:876-882,C201510)WatanabeA,KakizakiH,SelvaDetal:Short-termchang-esCintearvolumeafterblepharoptosisrepair.Cornea33:C14-17,C201411)McDonaldCJE,CBrubakerCS:Meniscus-inducedCthinningCtear.lms.AmJOphthalmolC72:139-146,C1971あたらしい眼科Vol.35,No.6,2018C831