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エスターマン両眼開放視野検査による眼瞼下垂術後の視野改善の予測

2020年1月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科37(1):104?108,2020?エスターマン両眼開放視野検査による眼瞼下垂術後の視野改善の予測鄭暁東*1,2古川雅世*2五藤智子*2山田寛子*1鎌尾知行*1白石敦*1*1愛媛大学医学部眼科学教室*2はなみずき眼科PredictionofVisualFieldImprovementFollowingBlepharoptosisSurgerybyBinocularEstermanVisualFieldExaminationXiaodongZheng1,2),MasayoFurukawa2),TomokoGoto2),HirokoYamada1),TomoyukiKamao1)andAtsushiShiraishi1)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,2)HanamizukiEyeClinic目的:通常,眼瞼下垂の術前視野評価にはGoldmann視野計が用いられている.しかし,時間がかかることや定量性が低いことなどが問題点である.筆者らは,Humphrey自動視野計に内蔵されているエスターマン両眼開放視野検査によって術後の視野改善を予測できるかどうかを検討した.対象および方法:両側,退行性眼瞼下垂の症例44例,平均年齢76.5±7.8歳,男性25例,女性19例を検討した.全例に挙筋短縮術を施行した.術前の自然開瞼,シミュレーションのためのテーピング開瞼および術後1カ月の計3回エスターマン両眼開放視野検査(Humphrey,Zeiss)を行い,各時点におけるエスターマンスコアを比較検討した.また,スコアに影響する因子について検討した.結果:全症例で,術中および術後の合併症はなかった.術前MRD1の平均は1.36±1.38mm,術後は3.02±1.31mmで術後は有意に改善した(p=0.001,pairedt-test).術前の自然開瞼,テーピング開瞼および術後1カ月のエスターマンスコアは,それぞれ85.3±12.1,90.5±9.8および92.5±8.4で,術前自然開瞼よりテーピング開瞼および術後1カ月では有意に高かった(p=0.032,p=0.001).テーピング開瞼と術後1カ月のスコア間には有意差はなかった(p=0.212).さらに,術前エスターマンスコアは年齢と有意な負の相関(r=?0.3404,p=0.027;Spearmancorrelationcoe?cient),術前MRD1と有意な正の相関(r=0.4766,p=0.001)を認め,術後スコアの改善率は術前スコア(r=?0.683,p<0.001)および挙筋機能(r=?0.3899,p=0.023)と有意な負の相関を認めた.結論:エスターマン両眼開放視野検査は,眼瞼下垂術後の視野改善効果を定量的に予測しうる簡便な方法と思われた.Purpose:DrawbacksofusingGoldmannperimetryforvisual?eldevaluationinblepharoptosiscasesisthatitistime-consumingandlacksquantitation.Inthisstudy,weinvestigatedthee?ectivenessofusingthebinocularHumphreyEstermanvisual?eldtest(EVFT),abuilt-inprogramintheHumphreyvisual?eldanalyzer(Hum?phreyInstruments)forthepredictionofvisual?eldimprovementpostblepharoptosissurgery.Methods:Thisstudyinvolved44patients(25malesand19females,meanage:76.5±7.8years)diagnosedwithinvolutionalblepharoptosiswhounderwentlevatorresection.Inallpatients,abinocularEVFTwasperformedbeforesurgerywiththeuppereyelidtapedandnottaped,andonceagainat1-monthpostoperative.TheEVFTscoreswerethencompared,andfactorsrelatedtovisual?eldimprovementpostsurgerywereanalyzedusingmultivariatecorrela?tionanalyses.Results:Inallcases,therewerenointraoperativeorpostoperativecomplications.ThemeanMRD1was1.36±1.38mmbeforesurgeryand3.02±1.31at1-monthpostoperative,andtheincreasewasstatisticallysigni?cant(p=0.001,pairedt-test).ThemeanbilateralEVFTscoreoftheeyesbeforesurgerywithouttaping,withtapping,andat1-monthpostoperativewas85.3±12.1,90.5±9.8,and92.5±8.4,respectively.TheEVFTscoreoftheeyeswithtapingbeforesurgeryandat1-monthpostoperativewassigni?cantlyhigherthanthatoftheeyesexaminedpriortosurgerywithouttaping(p=0.032,p=0.001).Therewasnodi?erenceinbilateral〔別刷請求先〕鄭曉東:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学医学部眼科学教室Reprintrequests:XiaodongZheng,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPAN104(104)0910-1810/20/\100/頁/JCOPYはじめに退行性眼瞼下垂に対しての挙筋短縮術は,容貌の改善はもちろん,視機能の向上も期待できる1,2).眼瞼下垂が及ぼす視機能への影響のなかで,視野はもっとも重要な項目であるといえる.下がった眼瞼は視軸を塞ぎ,上方の視野欠損を生じ,中等度以上の場合には下方の視野,とくに読書や近見作業のときに影響を及ぼすと報告されている1).このため,術前の視野評価は非常に重要で,2011年の米国での眼形成外科医に対するアンケート調査の結果,9割近くの医師が術前に視野検査を行うことが明らかとなっている3).しかし,わが国の現状では,臨床研究を除いて眼瞼下垂術前に視野検査を行う施設は少ない.その理由として,海外の医療保険制度との違いや,通常のGoldmann視野検査では時間がかかり,また定量性が低いなどの問題点があげられる.今回,筆者らは,初めてHumphrey自動視野計のエスターマン両眼開放視野検査プログラムを用いて,退行性眼瞼下垂症例の術前後のエスターマン視野の変化およびテーピング開瞼による術後視野改善の予測の可能性について検討した.I対象および方法1.対象2018年12月?2019年4月に,はなみずき眼科および愛媛大学眼科で退行性眼瞼下垂と診断され,両眼の挙筋短縮術自然開瞼テーピング開瞼図1エスターマン両眼開放視野検査の風景Humphrey自動視野計に内蔵されたエスターマン両眼開放視野検査プログラムにて検査を行った.坐位,頭部は顎台の中央に乗せ,必要に応じて近見の視力矯正を行った(上段).術前に自然開瞼およびテーピングによるシミュレーション開瞼で検査を行った(下段).10095908580757065605550*p=0.032*p=0.001pairedt-test術前術前自然開瞼テーピング開瞼術後1M図3エスターマンスコアの比較眼瞼下垂の術前自然開瞼,シミュレーションのテーピング開瞼および術後1カ月のエスターマンスコア.術前より,テーピング開瞼および術後は有意に改善した.図2エスターマン両眼開放視野検査の結果左下にエスターマンスコアが自動に表記される.120個視標を全部見ることができたら,エスターマンスコアは100点となる.この例では,120個視標のなかに100個(83%)見えた,スコアは83である.を行った44例,男性25例,女性19例,年齢は76.5±7.8(45?88歳)を対象とした.両眼MRD1(marginre?exdis?tance1)差>1mmの症例,退行性下垂以外の先天性,神経原性,筋原性および外傷性下垂は除外した.術前,MRD1および眼瞼挙筋機能(levatorfunction:LF)を計測し,また,術後1カ月後にもMRD1を計測した.全例にインフォームド・コンセントによる同意を得た.また,本研究は愛媛大学病院倫理委員会により承認された.2.術式全例において眼瞼挙筋短縮術を施行した.必要に応じて皮膚切除を併用した.挙筋短縮,皮膚縫合には6-0As?ex糸を使用した.術後1週間ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム・フラジオマイシン硫酸塩軟膏を眼瞼塗布し,0.1%フルオロメトロン点眼よび0.1%ガチフロキサシン点眼を処方した.抜糸は術後10日頃行った.3.エスターマン両眼開放視野検査Humphrey自動視野計(HumphreyFieldAnalyzerIIi-series,Zeiss社)を用いて,内蔵プログラム,エスターマン両眼開放視野検査を行った.術前には,自然開瞼およびテーピング開瞼の2回,術後は1カ月後に,計3回検査を行った(図1).エスターマン視野には120個視標が提示され,全部“見えた”場合,エスターマンスコアは100点となる(図2).4.統計解析MRD1検討には両眼のMRD1の平均値を用いた.術前後のエスターマン両眼開放視野検査の時間およびエスターマンスコアについて,群間比較にはANOVA検定,2群間比較にはpairedt-test検定を使用した.術前エスターマンスコアおよび術後のスコア改善率〔(術後スコア―術前スコア)/術前スコア×100%〕に相関する因子の検討には,多変量解析(Spearmancorrelationanalysis)を用いた.有意確率はp<0.05とした.II結果全例において,術中および術後に合併症はなく経過良好であった.MRD1は術前1.36±1.38mmから術後3.02±1.31mmと有意に改善した(p=0.001,pairedt-test).エスターマン両眼開放視野検査時間は,術前自然開瞼,テーピング開瞼および術後1カ月は,それぞれ298±32.6秒,276±27.1秒および265.4±22.8秒で,テーピング開瞼は自然開瞼より有意に短かった(p<0.001).また,術後1カ月の検査時間はさらに,テーピング開瞼より有意に短かった(p=0.022).エスターマンスコアは,術前自然開瞼,テーピング開瞼および術後1カ月では,それぞれ85.3±12.1,90.5±9.8,92.5±8.4で,術前自然開瞼よりテーピング開瞼および術後1カ月では有意に高かった(p=0.032,p=0.001).テーピング開瞼スコアの平均は術後1カ月との有意差はなかった(p=0.212,図3)が,テーピング開瞼による術後の視野スコアの予測の精度について,44例中18例(40.9%)は結果一致,21例(47.7%)は過少,5例(11.4%)は過大評価となった(図4).多変量相関解析より,術前のスコアは年齢と有意な負の相関(r=?0.3404,p=0.027;Spearmancorrelationcoe??cient),MRD1と有意な正の相関(r=0.4766,p=0.001)を認め,また術後スコアの改善率は術前のスコア(r=?0.683,p<0.001)および挙筋機能(r=?0.3899,p=0.023)と有意な負の相関を認めた.11.47%47.7%40.9%■結果一致■過小評価■過大評価III考按眼瞼下垂の術前視機能評価に,視野検査が重要であることはいうまでもない.しかしながら実際には,術前にルーチンに視野検査を行う施設は少ない.その理由として以下のものが考えられる.1)医療保険請求では認められておらず,日本では,眼瞼下垂手術の適応の判断は医師の裁量のみで,海外の保険会社のように,医療費請求にあたって顔写真と視野検査を必須項目とすることはない.実際,2011年米国眼形成外科学会(ASOPRS)のメンバーを対象とした電子メールによるアンケート調査では87.4%が術前視野検査を施行しているとの回答であった3).2)一般的に行われるGoldmann視野検査は視能訓練士による実施が必要で,定量性も低く,時間もかかる.また,施設によっては,Goldmann視野計自体を保有していない.上記の理由1)に関しては,高度眼瞼下垂の症例には手術の適応判断は容易であるが,軽症例の場合は,実際,術後視野が改善できるかを事前に予測できれば術前説明の重要な補助データとなり,術者にとっても自信をもって手術を勧めることができると考える.また,上記理由の2)から,Goldmann視野検査より短時間で,簡便で定量性のよい検査法が求められる.Humphrey自動視野計は,自動で,簡便で,短時間に定量できる方法であり,とくに一般眼科においては,緑内障の視野検査に利用され,なじみのある検査である.Humphrey自動視野計には数多く検査プログラムが内蔵され,そのなかのエスターマン両眼開放視野検査プログラムは,両眼の視機能の評価に使用されている.従来,緑内障および糖尿病網膜症の視野障害による運転の適応性検査4?6)や,糖尿病網膜症への光凝固後の視野検査7),脳外科の術後の視機能評価8),さらに,多焦点眼内レンズ挿入眼の視野検討など多岐にわたって海外の文献より報告されている9).日本では,2018年7月より身体障害者認定にGoldmann視野検査の代用法として,エスターマン両眼開放視野検査が認められている.筆者の調べる限り,これまでにエスターマン両眼開放視野検査による眼瞼下垂の術前後の評価について報告はない.今回,筆者らは,眼瞼下垂の術前に自然開瞼の状態にてエスターマン両眼視野視野検査を行い,その後上眼瞼にテーピングをして術後の視野をシミュレーションした.術前エスタ図4術後視野改善の予測精度テーピング開瞼による術後のシミュレーションを行い,視野改善の予測精度(結果一致,過小,過大評価)の割合を示す.シミュレーションは術後実際のスコアより低い傾向であった.ーマンスコアの平均85.3±12.1に対して術後は92.5±8.4まで有意に改善した.また,シミュレーションのスコアは術後のスコアとの有意差は認めなかった.これにより,エスターマン両眼開放視野検査およびテーピング開瞼方法は,定量的に術後の視野の予測ができるといえる.また,検査時間について,術前テーピング開瞼および術後は術前の自然開瞼より有意に短縮したことで,眼瞼位置の挙上により,視標の視認が向上したものと考える.また,エスターマン両眼開放視野検査の平均検査時間は5分以内と短く,被験者に負担の少ない検査と考える.術前のエスターマンスコアは年齢と負の相関,MRD1と正の相関を示した.これは,加齢のためMRD1が低下し,結果として,上方の視野感度の沈下によるものと考える.実際,術後にMRD1が改善され,スコアの向上はおもに上方の視標が視認できるようになったことでエスターマンスコアの改善は眼瞼位置の変化によるものと考える.エスターマンスコアの改善率は,術前のスコアと挙筋機能のそれぞれと有意な負の相関を認めた.術前下垂が重度なほどMRD1は当然低く,また挙筋機能が弱いほど開瞼困難のため,術後有意な視野改善が期待できると考えられる.エスターマン両眼開放視野検査は,術前後視機能評価にも,手術の適応の判断にも有用性を認めた.さらに,今回の検討のテーピング開瞼によるシミュレーションは,術後の結果と40.9%は一致した一方で,47.7%は低評価となった.その理由として,テーピング開瞼は実際術後の開瞼より不安定であり,開瞼不十分である可能性が考えられる.また,テーピングによって瞬目は不能もしくは不完全となり,眼表面の乾燥などによる視機能への影響の可能性も考えられる.しかし,術後,実際のスコアはシミュレーションよりさらに高いことより,視機能の改善面から考えると,術前テーピング開瞼にてエスターマンスコアの改善を認めた症例には積極的に手術を勧めることができると考える.本検討は,両眼MRD1の差は1mm以下の下垂症例について検討した.今後,片眼性下垂や両眼差のある眼瞼下垂の症例,さらに,病型の違いや術式の違いなどの検討も必要と思われる.IVまとめエスターマン両眼開放視野検査は,眼瞼下垂術後の視野改善効果を定量的に予測しうる簡便な方法と思われた.文献1)CahillKV,BradleyEA,MeyerDRetal:Functionalindi?cationsforuppereyelidptosisandblepharoplastysur?gery:areportbytheAmericanAcademyofOphthalmol?ogy.Ophthalmology118:2510-2517,20112)鄭暁東,五藤智子,鎌尾知之ほか:眼瞼下垂術後における角膜形状,自覚および他覚視機能の変化.臨眼72:245-251,20183)AakaluVK,SetabutrP:Currentptosismanagement:anationalsurveyofASOPRSmembers.OphthalmicPlastReconstrSurg27:270-276,20114)OrtaA?,?zt?rkerZK,ErkulS?etal:Thecorrelationbetweenglaucomatousvisual?eldlossandvision-relatedqualityoflife.JGlaucoma24:121-127,20155)KulkarniKM,MayerJR,LorenzanaLLetal:Visual?eldstagingsystemsinglaucomaandtheactivitiesofdailyliving.AmJOphthalmol154:445-451,20126)PearsonAR,KeightleySJ,CasswellAG:Howgoodareweatassessingdrivingvisual?eldsindiabetics?Eye(Lond)12:938-942,19987)SubashM,ComynO,SamyAetal:Thee?ectofmul?tispotlaserpanretinalphotocoagulationonretinalsensitiv?ityanddrivingeligibilityinpatientswithdiabeticretinop?athy.JAMAOphthalmol134:666-672,20168)RayA,Pathak-RayV,WaltersRetal:Drivingafterepi?lepsysurgery:e?ectsofvisual?elddefectsandepilepsycontrol.BrJNeurosurg16:456-460,20029)StanojcicN,WilkinsM,BunceCetal:Visual?eldsinpatientswithmultifocalintraocularlensimplantsandmonovision:anexploratorystudy.Eye(Lond)24:1645-1651,2010◆**