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正常眼圧緑内障に対するタフルプロスト点眼液の眼圧下降効果・安全性に関する検討

2011年4月30日 土曜日

568(11あ2)たらしい眼科Vol.28,No.4,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科28(4):568.570,2011cはじめに緑内障治療薬の主流を占めるプロスタグランジン(PG)製剤は長らくラタノプロスト0.005%であったが,最近はトラボプロスト0.004%,タフルプロスト0.0015%,ビマトプロスト0.03%なども順次処方が可能となった.それぞれすでに日常の臨床で使用され有効性を発揮しているが,まだ国内での使用実績の報告は十分とはいえず,その位置づけも確立されているとはいえない.唯一国内で開発されたタフルプロストは,第III相比較試験でラタノプロストに劣らない有効性と安全性をもつことが原発開放隅角緑内障(POAG)と高眼圧症(OH)において検証され1)2008年末より処方が可能となった.日本人に多い正常眼圧緑内障(NTG)においても治療に使用され高い効果をもつ2)が,報告はまだ多くなく,他のPG製剤に比較した特性ははっきりしていない.そこで今回筆者らは5つの施設共同で,NTGを対象として探索的臨床研究を行い,タフルプロストの眼圧下降効果と安全性を検討したのでここに報告する.なお,本研究は臨床研究に関する倫理指針およびヘルシンキ宣言を遵守して実施した.I対象および方法選択基準と除外基準(表1)を満たし研究に登録したもののうち,投薬後も通院したNTGの患者53例53眼(男性15〔別刷請求先〕曽根聡:〒004-0041札幌市厚別区大谷地東5-1-38大谷地共立眼科Reprintrequests:AkiraSone,M.D.,OoyachiKyouritsuEyeClinic,5-1-38Ooyachihigashi,Atsubetsu-ku,Sapporo004-0041,JAPAN正常眼圧緑内障に対するタフルプロスト点眼液の眼圧下降効果・安全性に関する検討曽根聡*1勝島晴美*2舟橋謙二*3西野和明*4竹田明*5*1大谷地共立眼科*2かつしま眼科*3真駒内みどり眼科*4回明堂眼科歯科*5中の島たけだ眼科EfficacyandSafetyof0.0015%TafluprostOphthalmicSolutioninNormal-TensionGlaucomaAkiraSone1),HarumiKatsushima2),KenjiFunahashi3),KazuakiNishino4)andAkiraTakeda5)1)OoyachiKyouritsuEyeClinic,2)KatsushimaEyeClinic,3)MakomanaiMidoriEyeClinic,4)KaimeidouEyeandDentalClinic,5)NakanoshimaTakedaEyeClinic正常眼圧緑内障に対するタフルプロストの眼圧下降効果と安全性について,探索的臨床研究を多施設共同で行った.対象は眼圧18mmHg以下の正常眼圧緑内障53例53眼で,投与後12週間調査した.12週後の眼圧下降値は.2.7±1.5mmHg(平均±標準偏差)で,眼圧下降率10%未満が18%,10%以上20%未満が45%,20%以上30%未満が26%,30%以上が11%であった.副作用も軽度で,正常眼圧緑内障の治療薬として有効であった.Weexaminedtheefficacyandsafetyof0.0015%tafluprostophthalmicsolutioninpatientswithnormal-tensionglaucoma.Subjectscomprised53eyesof53caseswhowereenrolledinthismulticenterprospectivestudyfor12weeks.At12weeksoftreatment,intraocularpressure(IOP)differencefrombaselinewas.2.7±1.5mmHg(mean±SD).Ofthe53eyes,7(18%)hadlessthan10%oftheIOPreductionrate,17(45%)hadmorethan10%andlessthan20%oftheIOPreductionrate,10(26%)hadmorethan20%andlessthan30%oftheIOPreductionrateand4(11%)hadmorethan30%oftheIOPreductionrate.Sideeffectswereslight.Itisconcludedthattafluprostmaybeaneffectiveandsafetreatmentfornormal-tensionglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(4):568.570,2011〕Keywords:タフルプロスト,眼圧下降効果,正常眼圧緑内障,多施設共同,探索的臨床研究.tafluprost,reductionofintraocularpressure,normal-tensionglaucoma,multicentertrial,prospectiveclinicalstudy.(113)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011569例,女性38例)を対象とした.年齢は36.95歳で平均63±13歳(標準偏差)であった.点眼投与開始後に安全性に問題が生じたり,試験中止の申し出があった場合は中止とした.タフルプロスト点眼開始時をベースライン(0週)とし,点眼開始後は4週ごとに12週にわたり定期的に眼圧をGoldmann圧平眼圧計で測定し,副作用の有無を診察した.眼圧測定は同時間帯(ベースライン眼圧測定時刻の前後1時間以内)に測定した.ベースラインの眼圧を4週後・8週後・12週後の眼圧と比較し,統計学的解析として対応のあるt-検定を行った.有意水準はp<0.01とした.眼圧下降率は(投与前後の眼圧の変化量)÷(ベースラインの眼圧)×100(%)と算出し検討した.眼圧下降率から眼圧下降効果の判定を行った.さらにベースラインの眼圧が16mmHg以上の群と16mmHg未満の群に分けて12週後の眼圧下降率を比較し,対応のないt-検定を行った.有意水準はp<0.01とした.なお,評価眼は眼圧の高いほうとし,同じ場合は右眼を評価眼とした.II結果ベースライン(0週)の眼圧は15.3±1.9mmHg(平均±標準偏差)で,4週目・8週目・12週目には各々12.2±2.1mmHg・12.9±1.9mmHg・12.4±1.6mmHgと有意な眼圧下降を認めた(図1).眼圧の下降幅は4週目・8週目・12週目で各々2.9±1.3mmHg・2.2±1.4mmHg・2.7±1.5mmHgであった.眼圧の下降率は4週目・8週目・12週目で各々19.3±8.2%・14.4±9.1%・17.4±8.8%であった.12週後の眼圧下降効果を眼圧下降率から判定すると,下降率10%未満のいわゆるnon-responderが7例(18%),10%以上20%未満の軽度の眼圧下降が17例(45%),20%以上30%未満の中等度の眼圧下降が10例(26%),30%以上の著明な眼圧下降が4例(11%)であった(図2).ベースラインの眼圧が16mmHgで2群に分けて12週後の眼圧下降率を比較した場合,16mmHg以上の群(n=19)では21.7±8.4%で,16mmHg未満の群(n=19)では13.7±7.6%と有意差があった.有害事象は延べ16例(30.2%)にみられ点眼中止例は7例あった.結膜充血6例(11.3%),眼瞼色素沈着4例(7.5%),眼の痒み2例(3.8%),以下1例(1.9%)ずつ眼瞼縁の刺激感・のどの痛み・軟便・転倒がみられた.重篤なものはなく,中止例は全例回復した.なお,症例によっては治療継続中に定期通院ができず診察のない週もあり,各週間で症例数にばらつきがあった.表1選択基準と除外基準1)選択基準(1)4週間の抗緑内障薬のウォッシュアウト終了時眼圧が18mmHg以下のNTG患者(2)新患の場合,過去3カ月以内に測定した3ポイント以上の眼圧が18mmHg以下(3)年齢は20歳以上(4)評価眼の視力が0.7以上(5)文書によって説明と同意を得られた患者*評価眼:眼圧の高いほうを評価眼とする.両眼の眼圧が同じときは右眼を評価眼とする.2)除外基準(1)本薬剤に過敏症の既往のある患者(2)妊婦または妊娠の可能性のある患者および授乳中の患者(3)MD値.12dB未満の患者(4)眼圧測定に支障をきたす角膜異常がある患者(5)活動性の外眼部疾患,眼・眼瞼の炎症,感染症を有する患者(6)角膜屈折矯正手術の既往を有する患者(7)レーザー線維柱帯形成術,濾過手術,線維柱帯切開術などの既往がある患者(8)6カ月以内の白内障手術の既往のある患者(9)ステロイド投与中の患者(10)コンタクトレンズ使用中の患者(11)その他医師が不適応と判断したもの15.3±1.912.2±2.112.9±1.912.4±1.6181716151413121110眼圧(mmHg)Mean±SD*:p<0.01(t検定)***0週(n=53)4週(n=43)8週(n=40)12週(n=38)図1眼圧の経過18%(7例)10%未満眼圧下降率50454035302520151050症例数(%)45%(17例)10%以上20%未満26%(10例)20%以上30%未満11%(4例)30%以上図212週後の眼圧下降効果570あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(114)III考按タフルプロストの第III相比較試験(期間は4週)はPOAGとOHを対象とした試験で,4週後に下降値が6.6±2.5mmHg,下降率が27.6±9.6%となり,ラタノプロストに劣らない効果が検証されている1).桑山ら2)は,タフルプロストのNTG(平均眼圧17.7mmHg)を対象とし,プラセボを対照とした第III相臨床試験で,4週後に下降値が4.0±1.7mmHg,下降率が22.4±9.9%と報告している.本研究では眼圧が18mmHg以下のNTG(平均眼圧15.3±1.9mmHg)を対象とし,4週で下降値2.9±1.3mmHg,下降率19.3±8.2%であった.第III相比較試験の眼圧下降率とは大きな差がみられ,これらのことからPOAGに比べてNTGではタフルプロストの眼圧下降効果は弱く,同じNTGでも眼圧がより低いNTGでは眼圧下降効果はさらに弱いと考えられる.さらに対象を16mmHg以上の群と16mmHg未満の群に分けると,眼圧が低い群ほど眼圧下降作用は弱く,眼圧は上強膜静脈圧以下には下がらないことを反映する結果であると考えられた.同様のことはラタノプロストでもみられている3).一方,ラタノプロストと比較してみると,NTGに対する眼圧下降率の報告では,椿井ら3)は13.9%(1カ月後)と11.2%(3カ月後)(n=35,投与前平均眼圧16.3mmHg),Tomitaら4)は13.15%(156週中,n=31,投与前平均眼圧15.0mmHg),小川ら5)は18.4%(3年後,n=90,投与前平均眼圧14.1mmHg),木村ら6)は24.4%(3カ月後,n=43,投与前平均眼圧16.4mmHg)と報告している.今回の結果の19.3%(1カ月後)と17.4%(3カ月後)(n=53,投与前平均眼圧15.3mmHg)はラタノプロストの成績の範囲内にあり,同等の眼圧下降効果が出ていた.一方,眼圧下降率の達成例数(%)は,10%未満,10%以上20%未満,20%以上30%未満,30%以上に分けると,小川ら5)はそれぞれ8.9%,40%,45.5%,5.6%(3年後),木村ら6)はそれぞれ12%,16%,40%,32%(3カ月後)と報告している.筆者らの結果ではそれぞれ18%,45%,26%,11%(3カ月後)であったことから,ラタノプロストに比べて20%以上眼圧が下がる症例はやや少なく,10%未満のnon-responderがやや多く,眼圧下降効果は少し弱い可能性があった.タフルプロストの第II相試験では0.0003%,0.0015%および0.0025%が用いられ,眼圧下降作用に用量依存性がみられたが,0.0025%は副作用による中止例がみられ,安全性と効果のバランスから0.0015%が選定されている.ラタノプロストの0.005%に比べると0.3倍の低濃度であり,このために眼圧下降作用がやや弱いのかもしれない.点眼の副作用に関して問題はなかったが,ラタノプロストから切り替えた例も含まれ,充血や眼瞼の色素沈着は過小に評価されている可能性があった.今後多くの症例で使用されることでPG製剤としての位置付けが明確になっていくと思われる.本論文の要旨は第20回日本緑内障学会(2009年11月,沖縄県)において発表した.文献1)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-85(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第III相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20082)桑山泰明,米虫節夫;タフルプロスト共同試験グループ:正常眼圧緑内障を対象とした0.0015%タフルプロストの眼圧下降効果に関するプラセボを対照とした多施設共同無作為化二重盲検第III相臨床試験.日眼会誌114:436-443,20103)椿井尚子,安藤彰,福井智恵子ほか:投与前眼圧16mmHg以上と15mmHg以下の正常眼圧緑内障に対するラタノプロストの眼圧下降効果の比較.あたらしい眼科20:813-815,20034)TomitaG,AraieM,KitazawaYetal:Athree-yearprospective,randomizedandopencomparisonbetweenlatanoprostandtimololinJapanesenormal-tensionglaucomapatients.Eye18:984-989,20045)小川一郎,今井一美:ラタノプロストによる正常眼圧緑内障の3年後視野.あたらしい眼科20:1167-1172,20036)木村英也,野崎実穂,小椋祐一郎ほか:未治療緑内障眼におけるラタノプロスト単剤投与による眼圧下降効果.臨眼57:700-704,2003***