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黄斑部疾患に対する眼底視野計maiaTMを用いた偏心視獲得訓練の効果

2015年1月30日 金曜日

144あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015(144)144(144)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科32(1):144.148,2015cはじめに黄斑疾患では薬物治療や手術治療により黄斑病変が改善した後も視力改善が十分でない症例が多くみられる.変視があり,中心暗点も残存している場合が多い.中心暗点のある患者は見ようとするところに視線を向けても目的のものが見えない.そのため良く見える場所に視線を移動させて見る偏心視が必要になる.しかし,どこへ視線を動かせばよいか患者自身で模索していることが多く,偏心視を確立できていない.偏心視を確立するためには偏心領域preferredretinallocus(PRL)の確認が必要である.〔別刷請求先〕林由美子:〒930-0194富山市杉谷2630富山大学大学院医学薬学研究部眼科学講座Reprintrequests:YumikoHayashi,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicineandPharmaceuticalSciences,UniversityofToyama,2630Sugitani,Toyama930-0194,JAPAN黄斑部疾患に対する眼底視野計maiaTMを用いた偏心視獲得訓練の効果林由美子林顕代奥村詠里香中川拓也掛上謙追分俊彦林篤志富山大学大学院医学薬学研究部眼科学講座EffectivenessofEccentricViewingTrainingforPatientswithMacularDiseasesbyUseofMacularIntegrityAssessment(maiaTM)MicroperimetryYumikoHayashi,AkiyoHayashi,ErikaOkumura,TakuyaNakagawa,KenKakeue,ToshihikoOiwakeandAtsushiHayashiDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicineandPharmaceuticalSciences,UniversityofToyama目的:黄斑疾患のため中心暗点のある患者は目標物を見るために視線を移動させて見る偏心視が必要になる.そこで偏心視を獲得するため眼底視野計MacularIntegrityAssessment(以下,maiaTM)の偏心領域preferredretinallocus(PRL)トレーニングモジュールを使用し訓練を試みたので報告する.対象および方法:対象は黄斑部疾患があり治療されたが視力回復が十分に得られない患者18例である.maiaTMでPRLトレーニングモジュールを使用し偏心視獲得訓練を行った.結果:18例の訓練前の矯正視力はlogMAR値で平均0.77±0.32(小数視力0.16±0.48)であり,訓練後はlogMAR値で平均0.46±0.23(小数視力0.34±0.59)と向上した(p<0.0001).訓練後の最大読書速度も向上した.結論:眼底視野計maiaTMによる偏心視獲得訓練は黄斑部疾患があり中心暗点を有する患者の視力向上に有用である.Objective:Toimprovevisualacuity(VA),patientswithcentralscotomaduetomaculardiseasesshouldreor-ganizefixationpointsaroundthefoveaknownasparafovealfixation,whichisatechniquethathelpsthepatientsfixateobjectsbymovingtheireyesinsteadoftheirheads.Inthisstudy,wereporteccentricviewingtraininginpatientswithmaculardiseasesbyuseoftheMacularIntegrityAssessment(maiaTM)VisionTrainingModule(Cen-terVue,Inc.,Padova,Italy)toidentifythepreferredretinallocus(PRL).SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved18patientswithmacular-disease-associateddecreasedVAwhounderwentvisualrehabilitationbyuseofthemaiaTMVisionTrainingModuletoestablishthePRL.Results:Priortothetraining,themeancorrectedVAwas0.77±0.32logMAR(decimalVA:0.16±0.48).Posttraining,themeanVAimprovedto0.46±0.23logMAR(decimalVA:0.34±0.59)(p<0.0001).Furthermore,thetrainingincreasedthemaximumreadingspeedofeachpatient.Conclusion:VisualrehabilitationbyuseofthemaiaTMVisionTrainingModuletoestablishthePRLwasfoundtobeeffectiveandusefulforpatientswithmacular-disease-relatedcentralscotoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(1):144.148,2015〕Keywords:黄斑疾患,偏心視獲得訓練,眼底視野計,maiaTM,最大読書速度.maculardiseases,effectivenessofeccentricviewingtraining,microperimeter,maiaTM,maximumreadingspeed.32,No.1,2015(144)144(144)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科32(1):144.148,2015cはじめに黄斑疾患では薬物治療や手術治療により黄斑病変が改善した後も視力改善が十分でない症例が多くみられる.変視があり,中心暗点も残存している場合が多い.中心暗点のある患者は見ようとするところに視線を向けても目的のものが見えない.そのため良く見える場所に視線を移動させて見る偏心視が必要になる.しかし,どこへ視線を動かせばよいか患者自身で模索していることが多く,偏心視を確立できていない.偏心視を確立するためには偏心領域preferredretinallocus(PRL)の確認が必要である.〔別刷請求先〕林由美子:〒930-0194富山市杉谷2630富山大学大学院医学薬学研究部眼科学講座Reprintrequests:YumikoHayashi,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicineandPharmaceuticalSciences,UniversityofToyama,2630Sugitani,Toyama930-0194,JAPAN黄斑部疾患に対する眼底視野計maiaTMを用いた偏心視獲得訓練の効果林由美子林顕代奥村詠里香中川拓也掛上謙追分俊彦林篤志富山大学大学院医学薬学研究部眼科学講座EffectivenessofEccentricViewingTrainingforPatientswithMacularDiseasesbyUseofMacularIntegrityAssessment(maiaTM)MicroperimetryYumikoHayashi,AkiyoHayashi,ErikaOkumura,TakuyaNakagawa,KenKakeue,ToshihikoOiwakeandAtsushiHayashiDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicineandPharmaceuticalSciences,UniversityofToyama目的:黄斑疾患のため中心暗点のある患者は目標物を見るために視線を移動させて見る偏心視が必要になる.そこで偏心視を獲得するため眼底視野計MacularIntegrityAssessment(以下,maiaTM)の偏心領域preferredretinallocus(PRL)トレーニングモジュールを使用し訓練を試みたので報告する.対象および方法:対象は黄斑部疾患があり治療されたが視力回復が十分に得られない患者18例である.maiaTMでPRLトレーニングモジュールを使用し偏心視獲得訓練を行った.結果:18例の訓練前の矯正視力はlogMAR値で平均0.77±0.32(小数視力0.16±0.48)であり,訓練後はlogMAR値で平均0.46±0.23(小数視力0.34±0.59)と向上した(p<0.0001).訓練後の最大読書速度も向上した.結論:眼底視野計maiaTMによる偏心視獲得訓練は黄斑部疾患があり中心暗点を有する患者の視力向上に有用である.Objective:Toimprovevisualacuity(VA),patientswithcentralscotomaduetomaculardiseasesshouldreor-ganizefixationpointsaroundthefoveaknownasparafovealfixation,whichisatechniquethathelpsthepatientsfixateobjectsbymovingtheireyesinsteadoftheirheads.Inthisstudy,wereporteccentricviewingtraininginpatientswithmaculardiseasesbyuseoftheMacularIntegrityAssessment(maiaTM)VisionTrainingModule(Cen-terVue,Inc.,Padova,Italy)toidentifythepreferredretinallocus(PRL).SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved18patientswithmacular-disease-associateddecreasedVAwhounderwentvisualrehabilitationbyuseofthemaiaTMVisionTrainingModuletoestablishthePRL.Results:Priortothetraining,themeancorrectedVAwas0.77±0.32logMAR(decimalVA:0.16±0.48).Posttraining,themeanVAimprovedto0.46±0.23logMAR(decimalVA:0.34±0.59)(p<0.0001).Furthermore,thetrainingincreasedthemaximumreadingspeedofeachpatient.Conclusion:VisualrehabilitationbyuseofthemaiaTMVisionTrainingModuletoestablishthePRLwasfoundtobeeffectiveandusefulforpatientswithmacular-disease-relatedcentralscotoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(1):144.148,2015〕Keywords:黄斑疾患,偏心視獲得訓練,眼底視野計,maiaTM,最大読書速度.maculardiseases,effectivenessofeccentricviewingtraining,microperimeter,maiaTM,maximumreadingspeed. 眼底を直接観察しながら視野測定ができるNIDEK社製Microperimeter-1(以下,MP-1)は黄斑部の網膜感度を測定し,PRLが確認でき,黄斑疾患における視機能評価に有用である1).固視安定度による弱視治療の予後判定の報告もある2).しかし,MP-1は操作性,トラッキング精度,検査時間などの問題があった.2009年にトプコン社から共焦点ライン走査技術を用いることでトラッキング精度が向上され,操作も簡単な眼底視野計MacularIntegrityAssessment(以下,maiaTM)が発売された.maiaTMは黄斑部中心10°の視野検査時間が片眼5分と短く操作性も簡便であり,梶田らはMP-1と比較してより高い網膜感度の測定が可能になり,黄斑部の視野測定に有用であると述べている3).フォローアップ機能により同網膜部位での経時的感度変化も確認できる.そこでmaiaTMに付属されているPRLTrainingModuleを使用して中心暗点のある患者に感度の良好な網膜領域への偏心視獲得訓練を試みたので報告する.I対象および方法対象は富山大学附属病院眼科において黄斑部変性を有する,あるいは黄斑疾患に対し薬物治療または硝子体手術を施行され,半年以上経過後病変が安定しているが中心暗点が残存しており視力改善が十分に得られない18例(男性9名,女性9名)である.年齢は25.81歳(平均65±16歳)であった.18例に対し2013年2月から2014年7月までの期間に3回以上のmaiaTMによる偏心視獲得訓練を施行した.18例の疾患内訳は加齢黄斑変性6例,黄斑前膜3例,黄斑下出血2例,中心性漿液性網脈絡症2例,錐体杆体ジストロフィ1例,網膜分離症1例,黄斑光外傷1例,Coats病1例,糖尿病網膜症1例であった.訓練前の遠見矯正視力は0.04.0.6であった.訓練前に遠見矯正視力検査,時計チャートによる自覚的な偏心視方向確認,MNREAD-Jによる読書速度測定,maiaTMによる眼底視野検査を行った.眼底視野検査後,時計チャートで確認した自覚的な偏心視方向を考慮し,眼底視野の画面上のなるべく固視点付近の網膜感度の良好な箇所を新たな固視点「PRLrelocationTarget」(以下,PRT)として選定した.訓練中は検者がPRTへ誘導するよう声を掛ける.訓練中はビープ音が鳴りPRT2度以内に固視が近づけばビープ音の速度が速まり,PRT1度以内では音は連続音となり患者自身にも固視の安定がわかる.訓練は1回10分間行い,4カ月間で3回から5回行った.訓練後に矯正視力を測定し,最終訓練終了時に対象眼のMNREAD-J読書速度測定を行った.訓練効果は訓練前後の矯正視力値,固視成功率(以下P1),最大読書速度についてWilcoxon検定とSpearman順位相関係数を用い検討した.有意水準はp<0.05とした.小数視力はlogMAR値に変換し検討した.II結果全症例の結果を示す(表1).小数視力で1段階以上の視力改善例は18例中15例,不変は3例であった.P1および読書速度は全例改善した.自覚的には全例が見やすくなったと感じていた.両眼視で複視を自覚する症例はなかった.訓練前後の視力変化と読書速度の変化およびP1を示す(図1a,b,c).小数視力はlogMAR値に変換し平均値を計算した.訓練前の矯正視力の平均は0.16±0.48であったが訓練後は0.34±0.59と有意に改善した(p<0.0001).読書速度は訓練前0.382文字/分(平均124±113文字/分)であったが,訓練後は28.422文字(平均163±126文字/分)と有意に改善した(p<0.0001).訓練初回ではP1は5.99%(平均45.33%)を示し固視は不安定であったが,訓練終了後では11.100%(平均56.94%)と有意に改善した(p<0.0007).訓練後矯正視力とP1は有意に相関した(r=.0.57,p=0.01)(図2a).P1と訓練後読書速度も有意に相関した(r=0.48,p=0.04)(図2b).訓練後矯正視力と訓練後読書速度は相関しなかった(r=.0.24,p=0.34)(図2c).つぎに症例を示す.症例1は2012年5月ゴーグルをせずに顕微鏡下で貴金属溶接時の反射光(YAGレーザー工業用class4)を見た.その後,右視力低下を自覚し,近医で黄斑出血を指摘され富山大学附属病院眼科を受診した.初診時矯正視力は右眼(0.08),左眼(1.2)であった.2012年6月に右眼黄斑前膜,黄斑円孔の診断にて硝子体手術を施行された.術後矯正視力は右眼(0.3)であった.黄斑円孔は閉鎖したが脈絡膜萎縮,脈絡膜欠損が残存した.中心暗点があり6カ月経過観察するも視力改善は困難と考えられ,maiaTMによる偏心視訓練を試みることとなった.右眼黄斑部の眼底視野の結果を示す(図3).障害部位に相当する中心窩から鼻側網膜に感度0の箇所があった.時計チャートでは6時から8時方向への偏心視で見えやすいと自覚していたため下耳側にPRTを選定し,訓練を行った.訓練初回と訓練5回目のmaiaTM画像を示す(図4a,b,c,d).訓練初回では固視は安定しておらず訓練後の矯正視力は右眼(0.4)であった(図4a,b).訓練5回目では固視は初回より安定しており矯正視力は(0.7)と向上した(図4c,d).自覚的にも視標が探しやすくなったと感じていた.最大読書速度は訓練前171文字/分であったが,訓練後は278文字/分に改善した.III考按三輪4)は,拡大読書機を使用して偏心視獲得訓練を行う方法を紹介している.訓練は入院して行い同時にロービジョンケアを行い,読書速度は向上し日常生活もしやすくなった症あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015145 表1maiaTM訓練症例症例年齢疾患名左右訓練回数PRT感度(dB)小数視力読書速度(文字数/分)固視成功率(%)自覚コメント訓練前訓練後訓練前訓練後初回訓練後125黄斑光外傷右5180.30.71712315184視標が探しやすくなった277加齢黄斑変性右360.20.315502843視標がすぐわかる,見やすい368黄斑下出血左4190.060.22252581961日常で見やすくなった472網膜分離症左4140.150.31872455369たまによく見える572錐体杆体ジストロフィ右4120.150.375167719訓練はむずかしい666糖尿病網膜症左4190.30.515233137視標が探しやすい774加齢黄斑変性左470.150.216288681少しだけ見やすい875加齢黄斑変性右340.20.26489615少しだけ見やすい,むずかしい981黄斑下出血右360.040.3028511眼を動かすことがわかった,むずかしい1065中心性漿液性網脈絡膜症左3140.20.449687677探しやすい1123コーツ病右3110.060.21171341620見える1264加齢黄斑変性右4180.30.6781389098探しやすい1357黄斑前膜右3170.30.41071417279少し見やすい1476黄斑前膜左3180.080.2741172539見やすい1577加齢黄斑変性右3190.10.362691432少し見やすい1650中心性漿液性網脈絡膜症左3200.50.83824226891探しやすい1767加齢黄斑変性右3220.61.03223849999少し良い1876黄斑前膜右3100.150.22883247069変わらない1.65001201.4400100文字数/分1.2logMAR値P1(%)10020801.03000.80.60.460200400.2000訓練前訓練後初回訓練後a平均0.77logMAR0.47logMARb平均124文字/分163文字数/分c平均45.3%56.9%図1訓練結果a:訓練前後の矯正視力(p<0.0001),b:訓練前後の最大読書速度(p<0.0001),c:訓練前後の固視成功率(p=0.0007).訓練前訓練後読書速度(文字数/分)500読書速度(文字数/分)500400300200100000.20.40.60.8120000.20.40.60.8400300200100010080P1(%)050100150a訓練後視力(logMAR値)b訓練後P1(%)c訓練後視力(logMAR値)図2訓練後の固視成功率と視力,読書速度の関係a:訓練後矯正視力と固視成功率(r=.0.57,p=0.01),b:固視成功率と訓練後読書速度(r=0.48,p=0.04),c:訓練後矯正視力と訓練後読書速度(r=.0.24,p=0.34).(146) (147)あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015147例を報告しているが,入院しての訓練は困難であることが多い.そこで外来で簡便に偏心視訓練を行えるmaiaTMによる偏心視獲得訓練を中心暗点のある18例に施行した.15例は視力が改善し,訓練前は0.1以下であった5例は0.2から0.3へと改善した.視力が0.6以上に改善したのは4例であった.4例はいずれも黄斑の障害部位が中心窩から傍中心窩に限局しており網膜感度が18.以上の網膜部位にPRTを選定できたため,偏心視が容易に獲得でき視力改善できたと考えられる.視力不変であった3例は中心暗点が広範でありPRTの網膜感度が10.以下だったためと考えられた.しかし,すべての症例で視標を探しやすくなり読書速度は向上し,自覚的には良かったと答えていた.50歳以上の正常者の最大読書速度の平均は307文字/分であるが5),中心暗点が存在すると読書速度は正常者に比べ有意に低下すると報告がある6,7).今回の結果でも訓練前の対象眼の最大読書速度は平均124文字/分であったが,偏心視獲得訓練後には平均163文字/分と改善した.陳ら7)の報告では,MP-1における固視安定度と最大読書速度は正の相関を示すと報告しているが,今回の結果でも固視の安定を示すP1と読書速度は有意な相関を示し,P1と訓練後矯正視力も有意な相関を示した.固視安定度が視力改善と読書速度改善に不可欠であると考えられる.藤田8)の報告では,PRLは中心窩から萎縮瘢痕病巣辺縁までの最も距離の短いところに確立するとし,黄斑所見からPRT.★図3症例1の右眼眼底視野中心に感度0の部位あり.星印の個所をPRTとして設定.a訓練1回目c訓練5回目bd図4症例1の訓練1回目と5回目の固視安定度a:訓練1回目の固視プロット図,b:1回目のfixationstabilityグラフ,c:訓練5回目の固視プロット図,d:5回目のfixationstabilityグラフ.訓練3回後はPRTに固視点が移動し固視も安定していることがわかる.あたらしい眼科Vol.32,No.1,2015147例を報告しているが,入院しての訓練は困難であることが多い.そこで外来で簡便に偏心視訓練を行えるmaiaTMによる偏心視獲得訓練を中心暗点のある18例に施行した.15例は視力が改善し,訓練前は0.1以下であった5例は0.2から0.3へと改善した.視力が0.6以上に改善したのは4例であった.4例はいずれも黄斑の障害部位が中心窩から傍中心窩に限局しており網膜感度が18.以上の網膜部位にPRTを選定できたため,偏心視が容易に獲得でき視力改善できたと考えられる.視力不変であった3例は中心暗点が広範でありPRTの網膜感度が10.以下だったためと考えられた.しかし,すべての症例で視標を探しやすくなり読書速度は向上し,自覚的には良かったと答えていた.50歳以上の正常者の最大読書速度の平均は307文字/分であるが5),中心暗点が存在すると読書速度は正常者に比べ有意に低下すると報告がある6,7).今回の結果でも訓練前の対象眼の最大読書速度は平均124文字/分であったが,偏心視獲得訓練後には平均163文字/分と改善した.陳ら7)の報告では,MP-1における固視安定度と最大読書速度は正の相関を示すと報告しているが,今回の結果でも固視の安定を示すP1と読書速度は有意な相関を示し,P1と訓練後矯正視力も有意な相関を示した.固視安定度が視力改善と読書速度改善に不可欠であると考えられる.藤田8)の報告では,PRLは中心窩から萎縮瘢痕病巣辺縁までの最も距離の短いところに確立するとし,黄斑所見からPRT.★図3症例1の右眼眼底視野中心に感度0の部位あり.星印の個所をPRTとして設定.a訓練1回目c訓練5回目bd図4症例1の訓練1回目と5回目の固視安定度a:訓練1回目の固視プロット図,b:1回目のfixationstabilityグラフ,c:訓練5回目の固視プロット図,d:5回目のfixationstabilityグラフ.訓練3回後はPRTに固視点が移動し固視も安定していることがわかる. PRLの位置を予想することはPRLを誘導するための有用な情報であると述べている.maiaTMの利点として,1)網膜直視下で中心窩に近い感度の良い網膜領域をPRTに選定でき,操作は簡便である点,2)ビープ音で患者自身にも固視の安定が理解できるため,PRTへの誘導が容易である点が挙げられる.中心暗点がある患者は,視力検査の際,暗点を避けて視標を見ようと顔を動かしているが,顔を大きく動かしているほどには視線は動いておらず,偏心視を確立できているとはいえない状態である.偏心視が確立できていれば顔を大きく動かさずとも視標を捉えられる.maiaTMによる偏心視獲得訓練では訓練後に視力測定を行うが,訓練直後は顔を大きく動かさずとも視標を捉えられるため,偏心視で見えることに患者自身も理解できてくる.今回,筆者らは,眼底視野計maiaTMを使用して中心暗点を有する患者に偏心視獲得訓練を行い,固視安定と遠見視力と最大読書速度の改善を得た.maiaTMは画面上から網膜感度を確認し,感度良効な網膜部位を使用するため,訓練に対する患者の理解が得られやすく,効果が患者自身で納得できるため偏心視獲得訓練に有効であると考えられた.文献1)鈴木リリ子,高野雅彦,飯田麻由佳ほか:Microperimeter-1(MP-1TM)を用いた黄斑円孔術前後の視機能評価.あたらしい眼科29:691-695,20122)平野美恵子,毛塚剛司,菅野敦子ほか:マイクロペリメーター(MP-1)による固視評価を利用した弱視治療の予後判定.眼臨紀4:748-751,20113)梶田房枝,新井みゆき,山本修一:正常者における2種類の眼底直視下微小視野計の計測結果の比較.あたらしい眼科29:1709-1711,20124)三輪まり枝:拡大読書器を用いたPreferredRetinalLocus(PRL)の獲得および偏心視の訓練.日本ロービジョン学会誌10:23-30,20105)藤田京子,成瀬睦子,小田浩一ほか:加齢黄斑変性滲出型瘢痕期の読書成績.日眼会誌109:83-87,20056)藤田京子,安田典子,小田浩一ほか:緑内障による中心視野障害と読書成績.日眼会誌110:914-918,20067)陳進志,涌澤亮介,阿部俊明ほか:微小視野計MP-1で測定した偏心固視症例における固視と視力,読書能力との関係.臨眼62:1245-1249,20088)藤田京子:PreferredRetinalLocus(PRL)の評価.日本ロービジョン学会誌10:20-22,2010***(148)

ロービジョン外来受診患者の読書能力

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(127)1270910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(1):127131,2009cはじめに読書チャートMNREADは視覚の読書における役割を解析する目的にミネソタ大学ロービジョン研究室で開発され1),その日本語版であるMNREAD-J2)は現在,ロービジョン患者の読書能力を知り,ロービジョンエイドを処方する際に利用されている.測定によって読書視力(readingacuity),最大読書速度(maximumreadingspeed),臨界文字サイズ(criticalprintsize)が数値として得られるが,読書視力はそれほど困難なく読むことのできる最小の文字サイズで,一般的に近見視力に相当するとされる.最大読書速度は文字サイズが最適な場合に1分間で読める文字数,臨界文字サイズは最大読書速度〔別刷請求先〕牧野伸二:〒329-0498栃木県下野市薬師寺3311-1自治医科大学眼科学教室Reprintrequests:ShinjiMakino,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke,Tochigi329-0498,JAPANロービジョン外来受診患者の読書能力牧野伸二保沢こずえ近藤玲子熊谷知子伊藤華江平林里恵関口美佳國松志保自治医科大学眼科学教室ReadingPerformanceinLowVisionPatientsShinjiMakino,KozueHozawa,ReikoKondo,TomokoKumagai,HanaeIto,RieHirabayashi,MikaSekiguchiandShihoKunimatsuDepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversityロービジョン患者の読書能力を検討することを目的に,ロービジョン外来を受診した48例(年齢1784歳,平均59.4歳)を対象に読書チャートMNREAD-Jの白背景に黒文字のJ1(通常チャート)と黒背景に白文字のJ2(反転チャート)を用いて,読書視力,臨界文字サイズ,最大読書速度を測定した.視力良好眼の視力(logMAR)は平均0.85,読書視力(logMAR)は通常チャートで0.75±0.3,反転チャートで0.71±0.3,臨界文字サイズ(logMAR)は通常チャートで1.0±0.2,反転チャートで1.0±0.2,最大読書速度(文字数/分)は通常チャートで86.6±72.7,反転チャートで105.6±77.4であった.通常チャートと反転チャートの結果を比較すると,読書視力,臨界文字サイズは同等であったが,最大読書速度は反転チャートのほうが大きかった.文字サイズを大きくしてもそれ以上読書速度が速くならないプラトーのあるものが28例,プラトーのないものが20例あり,視力良好眼の視力,読書視力,臨界文字サイズ,最大読書速度はいずれもプラトーなしのもので有意に低下していた.Toevaluatereadingperformanceinlowvisionpatients,wemeasuredreadingacuity,criticalprintsizeandmaximumreadingspeedusingtheMNREAD-J.Meanvisualacuitywas0.85logarithmoftheminimumangleofresolution(logMAR).Usingthenormalchart,meanreadingacuity,criticalprintsizeandmaximumreadingspeedwere0.75logMAR,1.0logMARand86.6characters/min,respectively.Incontrast,usingtheinvertedchart,meanreadingacuity,criticalprintsizeandmaximumreadingspeedwere0.71logMAR,1.0logMAR,105.6characters/min,respectively.Contrastpolarityeectwasnotdetectedinmeasurementsofreadingacuityandcriticalprintsize,butmaximumreadingspeedshowedsignicantcontrastpolarityeect.In28ofthe48patientsmeasured,therewasaplateauareainreadingfunctionwherereadingspeeddidnotrise,butremainedconstant,eventhoughprintsizeincreased.Inthe20patientswithoutaplateauarea,meanvisualacuity,meanreadingacuity,criticalprintsizeandmaximumreadingspeedweresignicantlylowerthaninthepatientswithaplateauarea.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(1):127131,2009〕Keywords:読書能力,MNREAD-J,読書視力,最大読書速度,臨界文字サイズ.readingperformance,MN-READ-J,readingacuity,maximumreadingspeed,criticalprintsize.———————————————————————-Page2128あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(128)で読める最小の文字サイズで,これより小さいサイズでは急激に読書速度が低下するとされている.これらのパラメータを検討した報告38)が散見されるが,筆者らもロービジョン外来を受診した症例の読書能力を検討したので報告する.I対象および方法対象は当科ロービジョン外来を受診した症例のなかでMNREAD-Jの測定が可能であった48例(男性17例,女性31例,年齢1784歳,平均59.4±16.0歳)で,疾患の内訳,年齢は表1に示すとおりである.これらを対象にMNREAD-Jの白背景に黒文字のJ1(通常チャート)と黒背景に白文字のJ2(反転チャート)を用いて,読書能力を測定した.今回検討した項目は読書視力,臨界文字サイズ,最大読書速度の各パラメータ,通常チャートと反転チャートによる測定結果の比較,視力良好眼の視力と読書視力,臨界文字サイズ,最大読書速度の関連である.さらに,読書において読書速度と文字サイズには関連がみられ,文字サイズを大きくすると読書速度が文字サイズに影響されず,ほぼ一定の速度になるプラトーがみられることが知られており1,3,5),藤田ら5)の報告に則って,測定点が相当数得られて,2直線回帰のほうが1直線回帰より残差平方和が小さいと考えられる場合をプラトーあり,2直線回帰に当てはまらない,もしくは測定点が少ない場合をプラトーなしとして検討した.なお,視力,読書視力,臨界文字サイズはlogarithmoftheminimumangleofresolution(logMAR)換算で求められる値を用いた.統計学的解析は疾患別の検討にはKruskal-Wallis検定およびScheeF検定,両チャートの比較にはpairedt-testを用いた.II結果1.視力良好眼の視力視力良好眼の視力は0.001.52,平均0.85±0.40(小数視力換算0.14)であった.疾患別に検討したが,視力良好眼の視力に有意差はなかった(p=0.22).2.読書視力読書視力は通常チャートで0.171.30,平均0.77±0.30(小数視力換算0.16),反転チャートで0.211.64,平均0.75±0.31(小数視力換算0.17)であった.疾患別に検討したが,両チャートとも読書視力に有意差はなかった(それぞれp=0.19,p=0.37).3.臨界文字サイズ臨界文字サイズは通常チャートで0.302.07,平均1.03±0.29(ポイント数換算28pt),反転チャートで0.401.77,平均1.05±0.24(ポイント数換算28pt)であった.疾患別に検討すると網膜色素変性と角膜混濁との間に両チャートとも有意差があり(p<0.05),網膜色素変性で臨界文字サイズは小さかったが,それ以外は有意差はなかった.4.最大読書速度最大読書速度(文字数/分)は通常チャートで14.2305.2,平均82.2±76.4,反転チャートで18.2340.0,平均102.7±79.2であった.疾患別に検討したが,両チャートとも最大読書速度に差はなかった(それぞれp=0.18,p=0.11).5.通常チャートと反転チャートの比較通常チャートと反転チャートで各パラメータを検討すると,読書視力では両チャート間に有意差はなく(p=0.75),両者の相関係数はr=0.69(p<0.0001)であった(図1).臨界文字サイズでも両チャート間に有意差はなく(p=0.68),両者の相関係数はr=0.72(p<0.0001)であった(図2).これに対して,最大読書速度では両者の相関係数はr=0.91(p<0.0001)であったが,反転チャートのほうが最大読書速度は大きかった(p<0.0001)(図3).表1対象の内訳例数(例)年齢(歳)糖尿病網膜症133379(61.0±14.6)加齢黄斑変性67079(75.7±3.6)緑内障63484(61.3±17.1)網膜色素変性61772(51.3±20.3)視神経萎縮63373(52.2±13.4)近視性網脈絡膜萎縮44768(60.5±9.7)角膜混濁45083(65.0±13.6)ぶどう膜炎33050(38.0±10.6)計481784(59.4±16.0)(平均±標準偏差)00.20.40.60.81.01.21.41.61.800.20.40.60.81.01.21.41.61.8読書視力(反転チャート)(logMAR)(logMAR)読書視力(通常チャート)図1チャートの種類による読書視力直線はy=xを示す.両チャートの読書視力に有意差はなかった.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009129(129)6.視力良好眼の視力と各パラメータの関連1)視力良好眼の視力と読書視力の相関係数は,通常チャートでr=0.19(p=0.19)と相関関係はなく,反転チャートではr=0.30(p<0.05)で弱い相関関係があった(図4).2)視力良好眼の視力と臨界文字サイズの相関係数は,通常チャートでr=0.53(p<0.0001),反転チャートでr=0.62(p<0.0001)と,視力良好眼の視力が低下すると臨界文字サイズは低下する傾向があった(図5).3)視力良好眼の視力と最大読書速度の相関係数は,通常チャートr=0.62(p<0.0001),反転チャートでr=0.60(p<0.0001)と視力良好眼の視力が低下すると最大読書速度は低下する傾向があった(図6).7.プラトーの有無プラトーの有無を各疾患ごとにみると,糖尿病網膜症ではプラトーありが7例,プラトーなしが6例,加齢黄斑変性ではそれぞれ3例と3例,緑内障ではそれぞれ3例と3例,網膜色素変性ではそれぞれ5例と1例,視神経萎縮ではそれぞれ4例と2例,近視性網脈絡膜萎縮ではそれぞれ3例と1例,ぶどう膜炎ではそれぞれ2例と1例,角膜混濁ではそれぞれ1例と3例,合計でプラトーありが28例,プラトーなしが20例であった.プラトーの有無に分けて視力良好眼の視力をMann-Whit-neyU検定を用いて比較すると,プラトーのあるもので0.71±0.38,プラトーのないもので1.03±0.36と,プラトーの050100150200250300最大読書速度(反転チャート)(文字数/分)050100150200250300(文字数/分)最大読書速度(通常チャート)図3チャートの種類による最大読書速度直線はy=xを示す.反転チャートのほうが最大読書速度は有意に大きかった.00.20.40.60.81.01.21.41.61.800.20.40.60.81.01.21.41.61.8臨界文字サイズ(反転チャート)(logMAR)(logMAR)臨界文字サイズ(通常チャート)図2チャートの種類による臨界文字サイズ直線はy=xを示す.両チャートの臨界文字サイズに有意差はなかった.00.20.40.60.81.01.21.41.61.8読書視力(通常チャート)(logMAR)00.20.40.60.81.01.21.41.61.800.20.40.60.81.01.21.41.61.800.20.40.60.81.01.21.41.61.8読書視力(反転チャート)(logMAR)(logMAR)視力良好眼の視力(logMAR)視力良好眼の視力図4視力良好眼の視力と読書視力通常チャートの読書視力と視力良好眼の視力には相関はなかった.反転チャートでは,読書視力(反転チャート)=0.56+0.23×視力良好眼の視力,r=0.30の回帰式が得られた.———————————————————————-Page4130あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(130)ないものは視力良好眼の視力が有意に低かった(p<0.005).読書能力の各パラメータの測定結果をみると,図7に示すように,読書視力では通常チャートではプラトーのあるもので0.66±0.25,プラトーのないもので0.91±0.31,反転チャートではそれぞれ0.69±0.27,0.84±0.35と,プラトーのないものは読書視力が低かった(それぞれp<0.01,p=0.13).臨界文字サイズでは通常チャートではプラトーのあるもので0.93±0.25,プラトーのないもので1.18±0.27,反転チャートではそれぞれ0.98±0.22,1.14±0.24と,プラトーのないものは臨界文字サイズが有意に低下していた(それぞれp<0.005,p<0.05).最大読書速度に関しても,通常チャートではプラトーのあるもので114.2±80.3,プラトーのないもので37.3±40.5,反転チャートではそれぞれ135.0±81.1,00.20.40.60.81.01.21.41.61.800.20.40.60.81.01.21.41.61.800.20.40.60.81.01.21.41.61.800.20.40.60.81.01.21.41.61.8臨界文字サイズ(通常チャート)(logMAR)臨界文字サイズ(反転チャート)(logMAR)(logMAR)視力良好眼の視力(logMAR)視力良好眼の視力図5視力良好眼の視力と臨界文字サイズ臨界文字サイズ(通常チャート)=0.71+0.38×視力良好眼の視力,r=0.53,臨界文字サイズ(反転チャート)=0.73+0.37×視力良好眼の視力,r=0.62の回帰式が得られた.05010015020025030000.20.40.60.81.01.21.41.61.805010015020025030000.20.40.60.81.01.21.41.61.8(logMAR)視力良好眼の視力(logMAR)視力良好眼の視力最大読書速度(通常チャート)(文字数/分)最大読書速度(反転チャート)(文字数/分)図6視力良好眼の視力と最大読書速度最大読書速度(通常チャート)=182.5118.5×視力良好眼の視力,r=0.62,最大読書速度(反転チャート)=202.7118.2×視力良好眼の視力,r=0.60の回帰式が得られた.図7プラトーの有無で分けたチャート別の読書能力プラトープラトー最大読書速度文字分読書視力臨界文字サイズ読書視力通常反転臨界文字サイズ通常反転最大読書速度通常反転———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009131(131)57.3±49.4と,プラトーのないものは最大読書速度が有意に低下していた(それぞれp<0.0001,p<0.0005).III考按今回,ロービジョン外来受診症例でMNREAD-Jを用いて読書能力を測定し,読書視力,臨界文字サイズ,最大読書速度は正常者の報告値5,8)と比べ,低下していていることが確認された.通常チャートと反転チャートの測定結果を比較すると,読書視力,臨界文字サイズは同等であったが,最大読書速度は反転チャートのほうが大きかった.従来からロービジョン者の読書では白黒反転が有用であることが知られているが,石井ら8)は正常被験者に視野狭窄,視力障害のシミュレーションを行い,視力障害例では反転チャートのほうが通常チャートより有意に速く読めたことを報告している.視力と各パラメータの関連について,中村ら4)は加齢黄斑変性瘢痕期19例を検討し,視力と読書視力の相関係数は0.90で,両者はほぼ一致した値をとっていること,視力と臨界文字サイズの相関係数は0.88で,視力より臨界文字サイズのほうが大きい値をとっていること,視力と最大読書速度の相関係数は0.51と低く,視力が同じ症例でも最大読書速度は大きく異なることがあると報告している.今回の検討では臨界文字サイズ,最大読書速度は視力良好眼の視力が低下すると低下し,その相関係数はそれぞれ0.53(反転チャート0.62),0.62(反転チャート0.60)であったが,読書視力と視力良好眼の視力の相関係数は0.19(反転チャート0.30)と低かった.ただし,平均値をみると視力良好眼の視力は0.85(小数視力換算0.14),読書視力は通常チャートで0.77(小数視力換算0.16),反転チャートで0.75(小数視力換算0.17)と両者の平均値に大きな差はなかった.今回はロービジョン外来を受診した全症例を対象としたが,疾患別の症例数が少なく,今後は症例数を増やして,疾患別の読書能力の特徴を検討することが必要である.つぎに,プラトーについては藤田ら5)が加齢黄斑変性瘢痕期40例を検討し,プラトーありが29例,プラトーなしが11例であったこと,両群の読書能力は平均視力はプラトーありで0.60,プラトーなしで1.06,平均臨界文字サイズはプラトーありで0.85,プラトーなしで1.27,平均最大読書速度(文字数/分)はプラトーありで165,プラトーなしで76といずれもプラトーなしのもので有意に低下していたことを報告しており,今回の結果もほぼ同様の結果であった.今回の対象ではプラトーなしが48例中20例と多く,プラトーが得られない原因として考えられている固視が不安定5)であった症例が多く含まれていた可能性があり,先に述べた読書視力と視力良好眼の視力の相関が低かった点についても,その背景にプラトーなしのものが多く含まれていたことが推測された.MNREAD-Jを用いることでロービジョン患者の読書能力を知ることができるが,プラトーの得られない症例に対しては微小視野計を用いた固視の安定性などの機能的な評価9)が必要であると考えている.最後にロービジョン患者の読書能力は疾患ごと,また同一疾患でも障害の程度によって差がある.今回の検討では限界があるが,今後各疾患ごと,また,読書能力と自覚的な読み書きの不自由さとの関連について検討することにつなげたいと考えている.文献1)LeggeGE,RossJA,LuebkerAetal:Psychophysicsofreading.VIIITheMinnesotaLow-VisionReadingTest.OptomVisSci66:843-853,19892)小田浩一,ManseldJS,LeggeGE:ロービジョンエイドを処方するための新しい読書検査表MNREAD-J.第7回視覚障害リハビリテーション研究発表大会論文集,p157-160,19983)ManseldJS,LeggeGE,BaneMC:Psychophysicsofreading.XVFonteectsinnormalandlowvision.InvestOphthalmolVisSci37:1492-1501,19964)中村仁美,小田浩一,藤田京子ほか:MNREAD-Jを用いた加齢黄斑変性患者に対するロービジョンエイドの処方.日視会誌28:253-261,20005)藤田京子,成瀬睦子,小田浩一ほか:加齢黄斑変性滲出型瘢痕期の読書成績.日眼会誌109:83-87,20056)藤田京子,安田典子,小田浩一ほか:緑内障における中心視野障害と読書成績.日眼会誌110:914-918,20067)上田知慕里,大牟禮和代,松本富美子ほか:MNREAD-Jkを用いた正常小児における読書能力の検討.眼臨99:642-645,20058)石井雅子,張替涼子,藤井青ほか:視覚障害シミュレーションによる読書パフォーマンスの変化.あたらしい眼科25:263-267,20089)松本容子,小田浩一,湯澤美都子:両眼黄斑部に萎縮病変を有する患者の読書時に観察される固視点と網膜感度.日眼会誌108:302-306,2004***