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ロービジョン外来受診患者の読書能力

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(127)1270910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(1):127131,2009cはじめに読書チャートMNREADは視覚の読書における役割を解析する目的にミネソタ大学ロービジョン研究室で開発され1),その日本語版であるMNREAD-J2)は現在,ロービジョン患者の読書能力を知り,ロービジョンエイドを処方する際に利用されている.測定によって読書視力(readingacuity),最大読書速度(maximumreadingspeed),臨界文字サイズ(criticalprintsize)が数値として得られるが,読書視力はそれほど困難なく読むことのできる最小の文字サイズで,一般的に近見視力に相当するとされる.最大読書速度は文字サイズが最適な場合に1分間で読める文字数,臨界文字サイズは最大読書速度〔別刷請求先〕牧野伸二:〒329-0498栃木県下野市薬師寺3311-1自治医科大学眼科学教室Reprintrequests:ShinjiMakino,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke,Tochigi329-0498,JAPANロービジョン外来受診患者の読書能力牧野伸二保沢こずえ近藤玲子熊谷知子伊藤華江平林里恵関口美佳國松志保自治医科大学眼科学教室ReadingPerformanceinLowVisionPatientsShinjiMakino,KozueHozawa,ReikoKondo,TomokoKumagai,HanaeIto,RieHirabayashi,MikaSekiguchiandShihoKunimatsuDepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversityロービジョン患者の読書能力を検討することを目的に,ロービジョン外来を受診した48例(年齢1784歳,平均59.4歳)を対象に読書チャートMNREAD-Jの白背景に黒文字のJ1(通常チャート)と黒背景に白文字のJ2(反転チャート)を用いて,読書視力,臨界文字サイズ,最大読書速度を測定した.視力良好眼の視力(logMAR)は平均0.85,読書視力(logMAR)は通常チャートで0.75±0.3,反転チャートで0.71±0.3,臨界文字サイズ(logMAR)は通常チャートで1.0±0.2,反転チャートで1.0±0.2,最大読書速度(文字数/分)は通常チャートで86.6±72.7,反転チャートで105.6±77.4であった.通常チャートと反転チャートの結果を比較すると,読書視力,臨界文字サイズは同等であったが,最大読書速度は反転チャートのほうが大きかった.文字サイズを大きくしてもそれ以上読書速度が速くならないプラトーのあるものが28例,プラトーのないものが20例あり,視力良好眼の視力,読書視力,臨界文字サイズ,最大読書速度はいずれもプラトーなしのもので有意に低下していた.Toevaluatereadingperformanceinlowvisionpatients,wemeasuredreadingacuity,criticalprintsizeandmaximumreadingspeedusingtheMNREAD-J.Meanvisualacuitywas0.85logarithmoftheminimumangleofresolution(logMAR).Usingthenormalchart,meanreadingacuity,criticalprintsizeandmaximumreadingspeedwere0.75logMAR,1.0logMARand86.6characters/min,respectively.Incontrast,usingtheinvertedchart,meanreadingacuity,criticalprintsizeandmaximumreadingspeedwere0.71logMAR,1.0logMAR,105.6characters/min,respectively.Contrastpolarityeectwasnotdetectedinmeasurementsofreadingacuityandcriticalprintsize,butmaximumreadingspeedshowedsignicantcontrastpolarityeect.In28ofthe48patientsmeasured,therewasaplateauareainreadingfunctionwherereadingspeeddidnotrise,butremainedconstant,eventhoughprintsizeincreased.Inthe20patientswithoutaplateauarea,meanvisualacuity,meanreadingacuity,criticalprintsizeandmaximumreadingspeedweresignicantlylowerthaninthepatientswithaplateauarea.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(1):127131,2009〕Keywords:読書能力,MNREAD-J,読書視力,最大読書速度,臨界文字サイズ.readingperformance,MN-READ-J,readingacuity,maximumreadingspeed,criticalprintsize.———————————————————————-Page2128あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(128)で読める最小の文字サイズで,これより小さいサイズでは急激に読書速度が低下するとされている.これらのパラメータを検討した報告38)が散見されるが,筆者らもロービジョン外来を受診した症例の読書能力を検討したので報告する.I対象および方法対象は当科ロービジョン外来を受診した症例のなかでMNREAD-Jの測定が可能であった48例(男性17例,女性31例,年齢1784歳,平均59.4±16.0歳)で,疾患の内訳,年齢は表1に示すとおりである.これらを対象にMNREAD-Jの白背景に黒文字のJ1(通常チャート)と黒背景に白文字のJ2(反転チャート)を用いて,読書能力を測定した.今回検討した項目は読書視力,臨界文字サイズ,最大読書速度の各パラメータ,通常チャートと反転チャートによる測定結果の比較,視力良好眼の視力と読書視力,臨界文字サイズ,最大読書速度の関連である.さらに,読書において読書速度と文字サイズには関連がみられ,文字サイズを大きくすると読書速度が文字サイズに影響されず,ほぼ一定の速度になるプラトーがみられることが知られており1,3,5),藤田ら5)の報告に則って,測定点が相当数得られて,2直線回帰のほうが1直線回帰より残差平方和が小さいと考えられる場合をプラトーあり,2直線回帰に当てはまらない,もしくは測定点が少ない場合をプラトーなしとして検討した.なお,視力,読書視力,臨界文字サイズはlogarithmoftheminimumangleofresolution(logMAR)換算で求められる値を用いた.統計学的解析は疾患別の検討にはKruskal-Wallis検定およびScheeF検定,両チャートの比較にはpairedt-testを用いた.II結果1.視力良好眼の視力視力良好眼の視力は0.001.52,平均0.85±0.40(小数視力換算0.14)であった.疾患別に検討したが,視力良好眼の視力に有意差はなかった(p=0.22).2.読書視力読書視力は通常チャートで0.171.30,平均0.77±0.30(小数視力換算0.16),反転チャートで0.211.64,平均0.75±0.31(小数視力換算0.17)であった.疾患別に検討したが,両チャートとも読書視力に有意差はなかった(それぞれp=0.19,p=0.37).3.臨界文字サイズ臨界文字サイズは通常チャートで0.302.07,平均1.03±0.29(ポイント数換算28pt),反転チャートで0.401.77,平均1.05±0.24(ポイント数換算28pt)であった.疾患別に検討すると網膜色素変性と角膜混濁との間に両チャートとも有意差があり(p<0.05),網膜色素変性で臨界文字サイズは小さかったが,それ以外は有意差はなかった.4.最大読書速度最大読書速度(文字数/分)は通常チャートで14.2305.2,平均82.2±76.4,反転チャートで18.2340.0,平均102.7±79.2であった.疾患別に検討したが,両チャートとも最大読書速度に差はなかった(それぞれp=0.18,p=0.11).5.通常チャートと反転チャートの比較通常チャートと反転チャートで各パラメータを検討すると,読書視力では両チャート間に有意差はなく(p=0.75),両者の相関係数はr=0.69(p<0.0001)であった(図1).臨界文字サイズでも両チャート間に有意差はなく(p=0.68),両者の相関係数はr=0.72(p<0.0001)であった(図2).これに対して,最大読書速度では両者の相関係数はr=0.91(p<0.0001)であったが,反転チャートのほうが最大読書速度は大きかった(p<0.0001)(図3).表1対象の内訳例数(例)年齢(歳)糖尿病網膜症133379(61.0±14.6)加齢黄斑変性67079(75.7±3.6)緑内障63484(61.3±17.1)網膜色素変性61772(51.3±20.3)視神経萎縮63373(52.2±13.4)近視性網脈絡膜萎縮44768(60.5±9.7)角膜混濁45083(65.0±13.6)ぶどう膜炎33050(38.0±10.6)計481784(59.4±16.0)(平均±標準偏差)00.20.40.60.81.01.21.41.61.800.20.40.60.81.01.21.41.61.8読書視力(反転チャート)(logMAR)(logMAR)読書視力(通常チャート)図1チャートの種類による読書視力直線はy=xを示す.両チャートの読書視力に有意差はなかった.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009129(129)6.視力良好眼の視力と各パラメータの関連1)視力良好眼の視力と読書視力の相関係数は,通常チャートでr=0.19(p=0.19)と相関関係はなく,反転チャートではr=0.30(p<0.05)で弱い相関関係があった(図4).2)視力良好眼の視力と臨界文字サイズの相関係数は,通常チャートでr=0.53(p<0.0001),反転チャートでr=0.62(p<0.0001)と,視力良好眼の視力が低下すると臨界文字サイズは低下する傾向があった(図5).3)視力良好眼の視力と最大読書速度の相関係数は,通常チャートr=0.62(p<0.0001),反転チャートでr=0.60(p<0.0001)と視力良好眼の視力が低下すると最大読書速度は低下する傾向があった(図6).7.プラトーの有無プラトーの有無を各疾患ごとにみると,糖尿病網膜症ではプラトーありが7例,プラトーなしが6例,加齢黄斑変性ではそれぞれ3例と3例,緑内障ではそれぞれ3例と3例,網膜色素変性ではそれぞれ5例と1例,視神経萎縮ではそれぞれ4例と2例,近視性網脈絡膜萎縮ではそれぞれ3例と1例,ぶどう膜炎ではそれぞれ2例と1例,角膜混濁ではそれぞれ1例と3例,合計でプラトーありが28例,プラトーなしが20例であった.プラトーの有無に分けて視力良好眼の視力をMann-Whit-neyU検定を用いて比較すると,プラトーのあるもので0.71±0.38,プラトーのないもので1.03±0.36と,プラトーの050100150200250300最大読書速度(反転チャート)(文字数/分)050100150200250300(文字数/分)最大読書速度(通常チャート)図3チャートの種類による最大読書速度直線はy=xを示す.反転チャートのほうが最大読書速度は有意に大きかった.00.20.40.60.81.01.21.41.61.800.20.40.60.81.01.21.41.61.8臨界文字サイズ(反転チャート)(logMAR)(logMAR)臨界文字サイズ(通常チャート)図2チャートの種類による臨界文字サイズ直線はy=xを示す.両チャートの臨界文字サイズに有意差はなかった.00.20.40.60.81.01.21.41.61.8読書視力(通常チャート)(logMAR)00.20.40.60.81.01.21.41.61.800.20.40.60.81.01.21.41.61.800.20.40.60.81.01.21.41.61.8読書視力(反転チャート)(logMAR)(logMAR)視力良好眼の視力(logMAR)視力良好眼の視力図4視力良好眼の視力と読書視力通常チャートの読書視力と視力良好眼の視力には相関はなかった.反転チャートでは,読書視力(反転チャート)=0.56+0.23×視力良好眼の視力,r=0.30の回帰式が得られた.———————————————————————-Page4130あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(130)ないものは視力良好眼の視力が有意に低かった(p<0.005).読書能力の各パラメータの測定結果をみると,図7に示すように,読書視力では通常チャートではプラトーのあるもので0.66±0.25,プラトーのないもので0.91±0.31,反転チャートではそれぞれ0.69±0.27,0.84±0.35と,プラトーのないものは読書視力が低かった(それぞれp<0.01,p=0.13).臨界文字サイズでは通常チャートではプラトーのあるもので0.93±0.25,プラトーのないもので1.18±0.27,反転チャートではそれぞれ0.98±0.22,1.14±0.24と,プラトーのないものは臨界文字サイズが有意に低下していた(それぞれp<0.005,p<0.05).最大読書速度に関しても,通常チャートではプラトーのあるもので114.2±80.3,プラトーのないもので37.3±40.5,反転チャートではそれぞれ135.0±81.1,00.20.40.60.81.01.21.41.61.800.20.40.60.81.01.21.41.61.800.20.40.60.81.01.21.41.61.800.20.40.60.81.01.21.41.61.8臨界文字サイズ(通常チャート)(logMAR)臨界文字サイズ(反転チャート)(logMAR)(logMAR)視力良好眼の視力(logMAR)視力良好眼の視力図5視力良好眼の視力と臨界文字サイズ臨界文字サイズ(通常チャート)=0.71+0.38×視力良好眼の視力,r=0.53,臨界文字サイズ(反転チャート)=0.73+0.37×視力良好眼の視力,r=0.62の回帰式が得られた.05010015020025030000.20.40.60.81.01.21.41.61.805010015020025030000.20.40.60.81.01.21.41.61.8(logMAR)視力良好眼の視力(logMAR)視力良好眼の視力最大読書速度(通常チャート)(文字数/分)最大読書速度(反転チャート)(文字数/分)図6視力良好眼の視力と最大読書速度最大読書速度(通常チャート)=182.5118.5×視力良好眼の視力,r=0.62,最大読書速度(反転チャート)=202.7118.2×視力良好眼の視力,r=0.60の回帰式が得られた.図7プラトーの有無で分けたチャート別の読書能力プラトープラトー最大読書速度文字分読書視力臨界文字サイズ読書視力通常反転臨界文字サイズ通常反転最大読書速度通常反転———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009131(131)57.3±49.4と,プラトーのないものは最大読書速度が有意に低下していた(それぞれp<0.0001,p<0.0005).III考按今回,ロービジョン外来受診症例でMNREAD-Jを用いて読書能力を測定し,読書視力,臨界文字サイズ,最大読書速度は正常者の報告値5,8)と比べ,低下していていることが確認された.通常チャートと反転チャートの測定結果を比較すると,読書視力,臨界文字サイズは同等であったが,最大読書速度は反転チャートのほうが大きかった.従来からロービジョン者の読書では白黒反転が有用であることが知られているが,石井ら8)は正常被験者に視野狭窄,視力障害のシミュレーションを行い,視力障害例では反転チャートのほうが通常チャートより有意に速く読めたことを報告している.視力と各パラメータの関連について,中村ら4)は加齢黄斑変性瘢痕期19例を検討し,視力と読書視力の相関係数は0.90で,両者はほぼ一致した値をとっていること,視力と臨界文字サイズの相関係数は0.88で,視力より臨界文字サイズのほうが大きい値をとっていること,視力と最大読書速度の相関係数は0.51と低く,視力が同じ症例でも最大読書速度は大きく異なることがあると報告している.今回の検討では臨界文字サイズ,最大読書速度は視力良好眼の視力が低下すると低下し,その相関係数はそれぞれ0.53(反転チャート0.62),0.62(反転チャート0.60)であったが,読書視力と視力良好眼の視力の相関係数は0.19(反転チャート0.30)と低かった.ただし,平均値をみると視力良好眼の視力は0.85(小数視力換算0.14),読書視力は通常チャートで0.77(小数視力換算0.16),反転チャートで0.75(小数視力換算0.17)と両者の平均値に大きな差はなかった.今回はロービジョン外来を受診した全症例を対象としたが,疾患別の症例数が少なく,今後は症例数を増やして,疾患別の読書能力の特徴を検討することが必要である.つぎに,プラトーについては藤田ら5)が加齢黄斑変性瘢痕期40例を検討し,プラトーありが29例,プラトーなしが11例であったこと,両群の読書能力は平均視力はプラトーありで0.60,プラトーなしで1.06,平均臨界文字サイズはプラトーありで0.85,プラトーなしで1.27,平均最大読書速度(文字数/分)はプラトーありで165,プラトーなしで76といずれもプラトーなしのもので有意に低下していたことを報告しており,今回の結果もほぼ同様の結果であった.今回の対象ではプラトーなしが48例中20例と多く,プラトーが得られない原因として考えられている固視が不安定5)であった症例が多く含まれていた可能性があり,先に述べた読書視力と視力良好眼の視力の相関が低かった点についても,その背景にプラトーなしのものが多く含まれていたことが推測された.MNREAD-Jを用いることでロービジョン患者の読書能力を知ることができるが,プラトーの得られない症例に対しては微小視野計を用いた固視の安定性などの機能的な評価9)が必要であると考えている.最後にロービジョン患者の読書能力は疾患ごと,また同一疾患でも障害の程度によって差がある.今回の検討では限界があるが,今後各疾患ごと,また,読書能力と自覚的な読み書きの不自由さとの関連について検討することにつなげたいと考えている.文献1)LeggeGE,RossJA,LuebkerAetal:Psychophysicsofreading.VIIITheMinnesotaLow-VisionReadingTest.OptomVisSci66:843-853,19892)小田浩一,ManseldJS,LeggeGE:ロービジョンエイドを処方するための新しい読書検査表MNREAD-J.第7回視覚障害リハビリテーション研究発表大会論文集,p157-160,19983)ManseldJS,LeggeGE,BaneMC:Psychophysicsofreading.XVFonteectsinnormalandlowvision.InvestOphthalmolVisSci37:1492-1501,19964)中村仁美,小田浩一,藤田京子ほか:MNREAD-Jを用いた加齢黄斑変性患者に対するロービジョンエイドの処方.日視会誌28:253-261,20005)藤田京子,成瀬睦子,小田浩一ほか:加齢黄斑変性滲出型瘢痕期の読書成績.日眼会誌109:83-87,20056)藤田京子,安田典子,小田浩一ほか:緑内障における中心視野障害と読書成績.日眼会誌110:914-918,20067)上田知慕里,大牟禮和代,松本富美子ほか:MNREAD-Jkを用いた正常小児における読書能力の検討.眼臨99:642-645,20058)石井雅子,張替涼子,藤井青ほか:視覚障害シミュレーションによる読書パフォーマンスの変化.あたらしい眼科25:263-267,20089)松本容子,小田浩一,湯澤美都子:両眼黄斑部に萎縮病変を有する患者の読書時に観察される固視点と網膜感度.日眼会誌108:302-306,2004***