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山名眼科医院を受診中の1型糖尿病患者の網膜症

2016年1月31日 日曜日

《第20回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科33(1):103.109,2016c山名眼科医院を受診中の1型糖尿病患者の網膜症山名泰生*1髙嶋雄二*1松尾雅子*1合屋慶太*2*1山名眼科医院*2こやのせ眼科クリニックRetinopathyinType-1DiabetesYasuoYamana1),YujiTakashima1),MasakoMatsuo1)andKeitaGoya2)1)YamanaEyeClinic,2)KoyanoseEyeClinic平成25年度に当院を受診した1型糖尿病患者は35人.総患者の0.4%で,全糖尿病患者の2%であった.15歳以下の1型発症が40%,16歳以上発症が60%(16.35歳発症29%,36歳以上発症31%)であった.罹病期間別の糖尿病網膜症の有病率は,15年未満では17%,15.34年で69%,35年以上で90%であり,罹病期間が長いほど有病率は高かった.1型糖尿病患者の半数以上で現在のHbA1Cは8.0%以上であった.当院受診中の1型では,15歳以下発症群では罹病期間が長く,網膜症の有病率も高く,増殖網膜症もみられるが,視力は良好な症例も多かったことから早期からの眼科の介入が重要である.Wereport35casesofType-1diabetespresentingretinopathyseenatourclinicsince2013.TheincidenceofType-1diabeteswas0.4%ofalltreatedcaseswithretinopathyand2%ofallwithdiabetes(Type-1andType-2).Ofthese35cases,14(40%)developedType-1diabetesat15yearsoryoungerand21(60%)developedthediseaseat16yearsorolder.Theprevalenceofdiabeticretinopathyperdiseasedurationwas17%of9casesatlessthan15years,69%of16casesatbetween15and34years,and90%of10casesatmorethan35years.TheprevalenceofretinopathyincreasedwithincreasingType-1diabetesduration.Inmorethanhalfthecases,HbA1Cwasmorethan8%.Althoughvisualacuitywasgenerallystable,thisseriesof35casesinourrecentexperienceofType-1diabetespresentedanunusuallyhighincidencerateofdiabeticretinopathy,suggestingtheimportanceofophthalmologicalinterventionfromanearlystage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(1):103.109,2016〕Keywords:1型糖尿病,糖尿病網膜症,視力,罹病期間,有病率.Type1diabetes,diabeticretinopathy,visualacuity,diseaseduration,prevalencerate.はじめに1型糖尿病(以下,1型)は2型糖尿病(以下,2型)と同じ高血糖の病態を示すが,自己免疫性疾患などが原因とされる.日本人の糖尿病は95%が2型であり,1型は発症頻度が低いために眼科医が1型患者に接する機会は多くはなかった.しかし,最近は小児期に発症した成人の1型患者のみでなく,成人して発症した1型患者も外来で診療する機会が増えてきた.日本臨床内科医会は1997年に行った調査で,糖尿病網膜症の有病率について2型は23%,1型は29%であったと報告している1).今回は山名眼科医院(以下,当院)を受診中の1型患者の病状を把握するために診療記録を調査し,視機能と糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)の状態を発症年齢や罹病期間などで比較検討した.I対象および方法平成25年に当院を受診した糖尿病患者1,485名のうち,内科もしくは小児科で1型と診断されて治療中の患者35名を対象に調査した.年齢は17.89歳であった.当院受診中の糖尿病患者における1型患者率は2%であった.また総患者数における1型の患者率は0.4%であった.II結果1.当院受診中の1型患者の概要平成25年に当院受診時の年齢は17.20歳未満1名,20〔別刷請求先〕山名泰生:〒809-0022福岡県中間市鍋山町13-5山名眼科医院Reprintrequests:YasuoYamana,M.D.,Ph.D.,YamanaEyeClinic,13-5Nabeyama-machi,Nakama,Fukuoka809-0022,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(103)103 .29歳2名,30.39歳4名,40.49歳8名,50.59歳9名,60.69歳8名,70.79歳2名,80歳以上1名であった.発症年齢は1.71歳で,発症年齢を15歳以下,16.35歳,36歳以上に分けるとそれぞれ14名(40%),10名(29%)11名(31%)であった.25%20%20%14%15%11%11%10%9%9%9%6%6%6%5%0%罹病期間は,5年未満3名(9%),5.9年2名(6%),10.14年4名(11%),15.19年7名(20%),20.24年3名(9%),25.29年2名(6%),30.34年4名(11%),35.39年5名(14%),40.44年2名(6%),45年以上3名(9%)であった(図1).発症年齢を小児期(15歳以下)発症群,若年期(16.35歳)発症群,壮年期以降(36歳以降)発症群の3群に分け,罹病期間を罹病短期群(15年未満群),中期群(15.34年群),長期群(35年以上群)の3群に分類した.今回の全症例35例を発症期別に表1.表3に示した.全症例の現在の網膜症(DR)病期の内訳は無網膜症(nondiabeticretinopathy:NDR)27眼(39%),単純網膜症(simplediabeticretinopathy:SDR)15眼(21%),増殖前網膜症(preproliferativediabeticretinopathy:PPDR)18眼(26%),増殖網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)10眼(14%)であった.2.発症年齢群および罹病期間群別の網膜症病期発症年齢群別のDR病期は,小児期発症群ではPDRの割図11型糖尿病患者の5年区切りの罹病期間合が36%と多く,若年期発症群ではPPDRの割合が40%,表1小児期発症症例一覧(n=14)症例No性別年齢発症年齢罹病期間右眼視力左眼視力右網膜症左網膜症HbA1C1男21歳1歳20年0.3(1.0)0.3(1.0)NDRNDR8.5%2男17歳3歳14年0.4(1.5)0.4(1.5)NDRNDR8.3%3男51歳4歳47年1.0(1.5)0.6(1.5)PPDRPPDR7.8%4女53歳6歳47年0.5(0.8)0.7(0.9)PDRPDR7.9%5女26歳9歳17年0.09(1.2)0.09(1.2)SDRNDR9.7%6女49歳10歳39年0.09(1.2)0.1(1.0)NDRNDR8.8%7男51歳10歳41年0.09(1.0)0.08(1.5)SDRSDR7.6%8女38歳10歳28年0.03(1.2)0.03(1.0)SDRSDR10.1%9男46歳11歳35年0.4(1.2)1.0(1.2)PDRPDR7.6%10男46歳13歳33年0.2(1.0)0.3(1.2)NDRNDR8.4%11女50歳13歳37年1.5(n.c.)0.8(1.2)PPDRPPDR8.1%12男45歳13歳32年0.6(0.8)0.6(0.7)PDRPDR9.0%13女58歳14歳44年光覚なし0.02(0.03)PDRPDR7.2%14女63歳15歳48年0.7(1.0)0.7(1.2)PDRPDR6.3%表2若年期発症症例一覧(n=10)症例No性別年齢発症年齢罹病期間右眼視力左眼視力右網膜症左網膜症HbA1C15161718192021222324女女男女女男男女男男52歳35歳60歳44歳40歳39歳47歳37歳64歳54歳19歳20歳21歳23歳25歳26歳27歳28歳34歳35歳33年15年39年21年15年13年20年9年30年19年0.1(1.0)0.6(1.0)0.06(0.7)0.06(0.3)0.3(1.0)0.3(1.2)0.8(1.2)0.9(1.5)0.08(1.2)0.1(n.c.)0.1(1.5)0.1(1.2)0.3(1.0)0.5(1.0)1.5(n.c.)0.7(0.9)0.1(0.3)0.4(0.8)0.6(0.9)1.0(1.5)PPDRPPDRPPDRSDRNDRNDRSDRNDRSDRPPDRPPDRPPDRPPDRSDRNDRNDRSDRNDRSDRPPDR7.4%6.5%10.7%6.6%5.6%7.8%12.9%9.3%9.2%6.3%104あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016(104) 表3壮年期発症症例一覧(n=13)症例No性別年齢発症年齢罹病期間右眼視力左眼視力右網膜症左網膜症HbA1C25女55歳36歳19年0.09(0.4)0.4(1.2)NDRSDR9.9%26男66歳37歳29年0.6(1.0)0.5(0.9)PPDRPPDR9.7%27男44歳39歳5年0.8(0.9)0.9(1.0)NDRNDR12.0%28女59歳42歳17年0.4(1.5)1.5(n.c.)NDRNDR7.4%29男62歳46歳16年0.06(n.c.)0.04(n.c.)PPDRPPDR8.6%30女89歳51歳38年0.2(0.8)0.3(0.8)PPDRPPDR7.3%31女60歳56歳4年0.4(0.7)0.2(0.6)NDRNDR9.8%32女69歳57歳12年0.1(0.6)0.1(1.2)NDRSDR8.4%33女63歳59歳4年0.9(1.2)1.5(n.c.)NDRNDR6.0%34男79歳65歳14年0.6(1.0)0.1(0.2)SDRSDR6.9%35女73歳71歳2年0.6(0.9)0.5(1.0)NDRNDR7.3%■NDR■SDR■PPDR■PDR100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%36%40%27%18%14%18%30%55%32%30%小児期若年期壮年期以降(n=14)(n=10)(n=11)図2発症年齢群別の糖尿病網膜症の病期発症年齢は小児期(15歳以下)発症群,若年期(16.35歳)発症群,壮年期以降(36歳以降)発症群の3群に分けた.壮年期以降発症群ではNDRの割合が55%と多かった.また,小児期発症群でのみPDRがみられた(図2).また,罹病期間群別をみると,短期群ではNDRが83%,中期群ではNDR,SDR,PPDRが31%,長期群ではPPDRとPDRが40%と多く,PDRの症例は中期群と長期群でみられた(図3).小児期発症群での糖尿病発症年齢とDRの関係は,NDRは1.13歳で平均7歳.有DRは4.15歳までで平均10歳(SDRは平均10歳,PPDRは平均8歳,PDRは平均12歳)であった.罹病期間とDRの有無との関係は,NDRの罹病年数は罹病14.41年で平均27年,有DRは17.48年で平均38年(SDRは17.28年で平均29年,PPDRでは37.47年で平均42年,PDRでは32.48年で平均41年)であった.若年期発症群の罹病期間とDRの有無との関係は,NDRの罹病年数は罹病9.15年で平均12年,有DRは15.39年で平均25年(SDRは20.30年で平均24年,PPDRでは15.39年で平均27年)であった.壮年期以降発症群の罹病期間とDRの有無との関係は,NDRの罹病年数は罹病2.17年で平均6年,有DRは12.(105)■NDR■SDR■PPDR■PDR100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%17%6%40%31%83%31%40%31%10%10%短期群中期群長期群(n=18)(n=32)(n=20)図3罹病期間群別の糖尿病網膜症の病期罹病期間は罹病短期群(15年未満群),中期群(15.34年群),長期群(35年以上群)の3群に分類した.38年で平均21年(SDRは12.19年で平均15年,PPDRでは16.38年で平均28年)であった.表4に示したように,PDRを発症している10眼の1型発症は小児期であり,罹病期間は30年以上と長期であった.10眼のうち6眼は,当院初診時にすでにPDRを発症していた,また1例2眼を除き矯正視力0.7以上を保っていた.3.発症年齢群および罹病期間群別の視力,HbA1C,低血糖の有無,その他の合併症発症年齢群別の現在の矯正視力を矯正視力0.1未満,0.1.0.6,0.7.0.9,1.0以上に分類すると,小児期および若年期発症群では矯正視力1.0以上が70%以上,壮年期以降発症群でも45%が矯正視力1.0以上であった.罹病期間群別にみても,矯正視力1.0以上は,短期群31%,中期群66%,長期群70%と安定した視力を保っている(表5).また,矯正視力0.1以下の4眼の視力不良の原因は,PDR(2眼)と糖尿病黄斑症(2眼)であった.発症年齢群別に現在のHbA1C値をみると,小児期および壮年期以降発症群でHbA1C8.0以上の割合が57%,55%と多く,若年期発症群では,HbA1C7.0未満と8.0以上の割合がそれぞれ40%であった.罹病期間群別では,短期群と中あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016105 表4増殖糖尿病網膜症を発症した症例一覧症例氏名性別年齢発症年齢罹病期間現在(両眼)現在視力初診時(両眼)硝子体手術手術年齢備考RV=0.5平成16年に左)硝子体出血を起こし,K病院を紹介.1T.T女53歳6歳47年PDR(0.8)LV=0.7(0.9)SDRH27.1.6左)硝子体手術39歳血糖コントロール不良気味であったため,全身状態が落ち着いてから,硝子体手術を施行.平成25年5月,右)硝子体出血平成6年に受診後,平成21年まで受RV=0.4診なし.9F.M男46歳11歳35年PDR(1.2)LV=1.0(1.2)SDRH24.11.13右)硝子体手術44歳平成21年に再受診でSDRであったが,FAG後,中間周辺部に新生血管の形成がみられ,網膜光凝固を施行.H21.6.16PDR(41歳)RV=0.6H16.1.2712K.M男45歳13歳32年PDR(0.8)LV=0.6PDR右)硝子体手術H26.7.135歳初診時よりPDR(34歳)(0.7)左)硝子体手術初診時(48歳)よりPDR13H.Y女58歳14歳44年PDRRV=I.p(-)LV=0.02(0.03)PDRS60年両)硝子体手術29歳S59眼底出血を起こした.S602箇所の大学病院にて両)硝子体手術右)眼球癆14K.F女63歳15歳48年PDRRV=0.7(1.0)LV=0.7(1.2)PDRH17右)硝子体手術55歳K病院からI眼科へ.硝子体出血発症.本人が不安を感じ,当院紹介された.硝子体手術のため,大学病院を紹介.表5発症年齢群および罹病期間群別の矯正視力の比較矯正視力発症年齢罹病期間小児期群若年期群壮年期群短期群中期群長期群0.1未満2眼(7%)0眼(0%)2眼(9%)0眼(0%)2眼(6%)2眼(10%)0.1.0.60眼(0%)2眼(10%)4眼(18%)3眼(17%)3眼(9%)0眼(0%)0.7.0.94眼(14%)4眼(20%)6眼(27%)4眼(22%)6眼(19%)4眼(20%)1.0以上22眼(79%)14眼(70%)10眼(45%)11眼(61%)21眼(66%)12眼(70%)矯正視力0.1以下の4眼の視力不良の原因は,PDR(2眼)と糖尿病黄斑症(2眼)であった.期群ではHbA1C8.0以上が56%,63%と多いが,長期群になるとHbA1C7.0.7.9%の割合が60%と多かった(表6).最近の低血糖をかなりある(以下,「ある」)とほとんどない(以下,「ない」),不明の3つに分けると,発症年齢群別では,小児期および若年期発症群では「ある」の割合が50%以上であったが,壮年期以降発症群では「ある」と「ない」の割合は同じ36%であった.罹病期間群別では短期群と長期群では「ある」が44%,90%,中期群では「ない」の割合が38%と多かった(表7).発症年齢群別および罹病期間群別の白内障手術施行の有無,硝子体手術施行の有無,糖尿病黄斑症発症の有無につい106あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016ては表8に,各群別のその他の眼症状の発症については表9に示した.4.小児期発症群で罹病期間は長期であるにもかかわらず視力良好な症例小児期発症群(表1)の症例6は,10歳で発症し罹病39年の女性で,NDRである.33歳のとき(平成9年)に片眼の白内障手術を施行し,48歳(平成24年)で僚眼の手術を施行した.本症例は筆者(Y.Y.)も眼科医として参加していた第9回福岡小児糖尿病キャンプで14歳のときに眼底検査で一過性に網膜に出血斑を認めたが,その1カ月後再度眼底検査したときには出血斑は消失していた.以後現在までDR(106) 表6発症年齢群および罹病期間群別のHbA1C値の比較HbA1C発症年齢罹病期間小児期群若年期群壮年期群短期群中期群長期群7.0%未満7%40%18%22%25%10%7.0.7.9%36%20%27%22%13%60%8.0%以上57%40%55%56%63%30%表7発症年齢群および罹病期間群別の低血糖の有無低血糖発症年齢群罹病期間群小児期群若年期群壮年期群短期群中期群長期群ある57%50%36%45%25%90%ない21%30%36%33%38%10%不明21%20%27%22%38%0%は認めていない.矯正視力は左右1.2と1.0である.症例9は,11歳で発症し罹病35年の男性で,28歳時(平成7年)にはSDRであったが,41歳(平成20年)で再来したときに,蛍光眼底造影検査でPDRであることがわかり汎網膜光凝固術を施行した.その1年後に右眼に硝子体出血を起こして硝子体手術を施行した症例であり,矯正視力は左右とも1.2である.III考察Kleinら2)は1型のDRの有病率は71%であると報告した.1型を25年間追跡してChatruvediら3)は15.60歳の1型患者を7年観察した結果としてDRの発症は56%で,リスクが高いと報告している.また近年小児期発症の1型については増加していることも報告されている4).わが国での1型の発症割合は糖尿病患者の5%と言われているが,当院を受診中の1型患者の割合は2%と低かった.1型患者はインスリン注射が不可欠であるために,かかりつけ医よりも総合病院の小児科や内科,眼科を受診していることから,単科の診療所である当院への受診率が低いことによると推定される.わが国での小児期発症症例について,樋上5)は東京女子医大の1型糖尿病123名について10年間追跡調査し,HbA1C(JDS)が9%以上であるとDRを発症しやすく,8%以下であるとDR発症は少ないこと,性別では男性では12歳未満発症,女性では9歳未満発症ではDR発症は少ないこと,また25歳を超えた時点でDRを認めないと10年後にもDRの発症が少ないこと,罹病年数については15年でDR発症は40%,PDRの発症は6%であったと報告した.1型受診患者の現在の年齢は50.59歳でもっとも多かった.発症年齢は3.71歳と幅が広かった.発症期群による(107)表8発症年齢群別および罹病期間群別の白内障手術施行の有無,硝子体手術施行の有無と糖尿病黄斑症発症の有無の割合白内障手術施行の有無施行あり施行なし小児期発症群39%61%若年期発症群35%65%壮年期発症群23%77%罹病短期群6%94%罹病中期群34%66%罹病長期群55%45%硝子体手術施行の有無施行あり施行なし小児期発症群25%75%若年期発症群15%85%壮年期発症群5%95%罹病短期群6%94%罹病中期群16%84%罹病長期群25%75%糖尿病黄斑症の有無発症あり発症なし小児期発症群7%93%若年期発症群15%85%壮年期発症群14%86%罹病短期群0%100%罹病中期群19%81%罹病長期群15%85%患者数と割合は小児期発症群12例,若年期発症群10例,壮年期以降発症群11例であり,それぞれ4割,3割,3割であり,受診患者での発症年齢による差は大きくなかった.罹病期間も2.47年と幅広く,15.19年がもっとも多く,あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016107 表9発症年齢群別と罹病期間群別のその他の眼症状病名発症年齢群罹病期間群小児期28眼若年期20眼壮年期22眼短期群22眼中期群30眼長期群18眼糖尿病黄斑症2眼(7%)3眼(15%)3眼(14%)0眼6眼(19%)3眼(15%)DME以外の黄斑浮腫1眼(4%)0眼2眼(9%)1眼(6%)2眼(6%)0眼白内障11眼(20%)9眼(23%)20眼(45%)10眼(28%)19眼(30%)11眼(28%)角膜びらん5眼(18%)2眼(10%)0眼0眼2眼(6%)5眼(25%)緑内障・高眼圧症6眼(11%)5眼(13%)3眼(7%)3眼(8%)6眼(9%)5眼(13%)硝子体手術後眼7眼(25%)3眼(15%)1眼(5%)1眼(6%)5眼(16%)5眼(25%)網膜前膜1眼(4%)2眼(10%)0眼0眼2眼(6%)1眼(5%)網膜裂孔0眼0眼1眼(5%)0眼1眼(3%)0眼網脈絡脈萎縮0眼1眼(5%)0眼0眼1眼(3%)0眼網脈静脈閉塞症0眼0眼1眼(5%)1眼(6%)0眼0眼加齢黄斑変性症0眼0眼1眼(5%)1眼(6%)0眼0眼硝子体手術後眼11眼の手術施行の原因は,PDRのため7眼,網脈静脈閉塞症による黄斑部浮腫のため1眼,黄斑前膜のため3眼であった.ついで35.39年にピークがあった(図1).4歳で発症した51歳の症例と,6歳で発症した53歳の2症例の罹病期間が47年でもっとも長かった.当然のことながら小児期発症患者での罹病期間は長くなっていた(表1).現在のDR病期を平成25年に当院を受診した2型と比較してみると,2型(n=2,902眼)ではNDR61%,SDR20%,PPDR11%,PDR7%,不明1%であったので1型では有意にNDRの割合が低く(p<0.05,c2検定),重症DRの割合が高くなっていた.2型のほうが1型よりもNDRの比率は高く,重症DRの比率は低くなっていたが,2型よりも1型の罹病期間が長いことによるものと推定される.発症年代別のDRの有病率は,小児期発症群と壮年期以降発症群では70%にDRがみられるが,若年期発症群では45%と有病率は低く,DR病期も若くして発症しているほど重症化がみられた(図2).罹病期間群別でDRの有病率を比較すると,短期群,中期群,長期群では短期群ほど有病率は低く,罹病期間が長くなると有病率は高くなり,とくにPDRは小児期発症群にのみ約4割みられ,罹病年数では短期群ではPDRはなく,中期群と長期群の症例であった(図3).PDRの症例はいずれも小児期発症群で罹病期間が中期群と長期群の症例であり,光凝固を施行した年齢も20.45歳(罹病年数は40年)までと幅広かった(表4).矯正視力については1.0以上の症例がもっとも多く,1.0の割合は発症年齢で小児期発症群は8割,若年期発症群では7割,壮年期発症群では半数弱に減少していて,罹病期間では短期群と中期群で6割,長期群では7割であった.小児期発症群では若いうちにDRが進行してしまって視力も不良な一部の症例以外では,重症DRへの進行がなく,病歴が長く108あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016なっても視力は良好なままであった(表5).現在の時点でのHbA1Cは,罹病期間の短期群では約7割が8%以上と不良で,発症年齢別では小児期発症群と壮年期以降発症群で8%以上が5割を超え,若年期発症群では4割であった(表6).DRの病期とHbA1Cの良好不良との間にも,また低血糖の有無との間にも関係はなかった.白内障手術も硝子体手術も小児期発症群と罹病期間の長期群で手術施行比率は高くなっていた.糖尿病黄斑症については小児期発症群では少なく,罹病期間の短期群ではみられなかった(表8).その他の合併症として,緑内障・高眼圧症は小児期発症群と罹病中期群で比率が高かった.壮年期以降発症者では静脈分枝閉塞症と加齢黄斑症がみられ,壮年期発症者での視力低下の原因になっていた(表9).小児期発症12例24眼の発症年齢は1.15歳,罹病年数は14.48年と長かった.DR病期はNDRが9眼(32%),SDRが5眼(18%),PPDRが4眼(14%),PDR10眼(36%)であり,PDRは小児期の5例10眼のみであった.症例数が少ないので比較はむずかしいが,樋上の報告よりも病歴が長いためかNDRの比率が低くPDRの比率が高くなっていた.表1の症例9は,11歳で発症し罹病35年の男性で,28歳時にはSDRであったが,41歳のときに再来したので蛍光眼底造影検査でPDRであることがわかり汎網膜光凝固術を施行した.その1年後に右眼に硝子体出血を起こして硝子体手術を施行した症例である.視力が不良であったのは,14歳で発症した罹病44年の症例13の1例2眼のみであった.この症例は29歳(昭和60年)の頃にPDRとなり当時ようやく普及しつつあった硝子体手術を大学病院で数回にわ(108) たり施行されたが,右眼は眼球癆となり左眼のみ辛うじて視年数も長いこと,またインスリン注射が必須であるために治機能を残すことができた症例であった.現在の手術水準であ療には困難が伴う.しかし,現在では内科・眼科の治療方法ればおそらくもっと良い視機能を保てたであろうと推測されの進歩によりDRの発症や進行の防止が可能な症例も多く,る.症例6は,10歳で発症し罹病39年でNDRの女性であたとえ進行しても視機能を保つことが可能になった.当院受るが,33歳のときに片眼の白内障手術を施行し,48歳で僚診中の1型では,15歳以下発症群では罹病期間が長く,DR眼の手術を施行した.本症例は筆者も参加していた小児糖尿の有病率も高く,PDRもみられるが,視力は良好な症例も病キャンプで14歳のときに眼底検査で一過性に網膜に出血多かったことから早期からの眼科の介入が重要であるといえ斑を認めたが,その1カ月後再度眼底検査したときには出血る.斑は消失していた.以後現在までDRは認めていない.総じて小児期発症群では5例9眼にDRは認めず,1例2眼を除いて視機能も良好に保たれていた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし2型のDR有病率は,平均6.7年の追跡期間中16.8%の患者にDRが発症したとJDCS(JapanDiabetesComplication文献Study)6)では報告されている.小児期発症群でのNDRの罹1)日本臨床内科医会調査研究グループ:糖尿病神経障害に関病期間は14.39年で平均27年と長かった.また若年期とする調査研究第2報糖尿病神経障害.日本臨床内科医会会壮年期以降を合わせた群では罹病期間が2.39年,平均17誌16:353-381,2001年でDRの有病率は43%と高かったが,罹病期間が2.172)KleinR,KleinBE,MossSEetal:TheWisconsinEpide年の短い症例ではDRは認めなかった.有DRの罹病期間はmiologicStudyofDiabeticRetinopathy:XVII.The14-yearincidenceandprogressionofdiabeticretinopathy12.39年であったが,PDRはみられなかった.今後さらにandassociatedriskfactorsintype1diabetes.Ophthalmol病歴が長くなれば小児期発症の1型でもPDRを発症してくogy105:1801-1815,1998る可能性はあると思われる.3)ChaturvediN,SjoelieAK,PortaMetal:Markersof2型と比較すると1型の場合には血糖コントロールは困難insuinresistancearestrongriskfactorsforretinopathyincidenceintype1diabetes.TheEURODIABProspectiveではあるが,患者あるいは保護者の努力により,若年期以降ComplicationsStudy.DiabatesCare14:284-289,2001に発症した1型では罹病年数が長くなってもPDRの発症が4)田嶼尚子,松島雅人,安田佳苗:特集1型糖尿病1型糖尿みられなかったと推定される.しかしながら今後は加齢によ病の疫学.糖尿病42:833-835,1999る白内障,緑内障,静脈閉塞症や加齢黄斑変性症などでの視5)樋上裕子:日本人小児期発症インスリン依存型糖尿病も発症年齢から考察した網膜症出現に関する研究.東女医大誌機能障害の増加が予想される.小児期の症例で罹病30年を66:323-329,1996超えてPDRになっていた症例もあることから,罹病年数が6)YoshidaY,HaguraR,HaraYetal:Riskfactorsfortheさらに長くなれば今後PDRも発症してくるものと考えられ,developmentofdiabeticretinopathyinJapanesetype2内科や小児科との連携を保って経過観察していくことが重要diabeticpatients.DiabetesResClinPract.51:195-203,2001である.IV結語1型は発症も乳幼児から高齢になるまで幅広いこと,罹病***(109)あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016109