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生理食塩水点眼後の涙液メニスカス高計測による涙囊鼻腔吻合術鼻内法の客観的術後評価

2018年5月31日 木曜日

《第6回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科35(5):689.692,2018c生理食塩水点眼後の涙液メニスカス高計測による涙.鼻腔吻合術鼻内法の客観的術後評価谷吉オリエ鶴丸修士公立八女総合病院眼科CObjectiveEvaluationofSurgicalOutcomeofEndonasalDacryocystorhinostomyUsingTearMeniscusHeightMeasurementafterSalineInstillationOrieTaniyoshiandNaoshiTsurumaruCDepartmentofOphthalmology,YameGeneralHospital目的:生理食塩水点眼後の涙液メニスカス高計測により涙.鼻腔吻合術の治療効果を評価する.対象および方法:対象は涙.鼻腔吻合術鼻内法を施行した涙道閉塞C24例C24側(平均C71.8歳).術前,手術C1.2カ月後,3.5カ月後,6.11カ月後,12カ月以降に前眼部光干渉断層計を用いて,自然瞬目下で,生理食塩水点眼前と点眼後C20秒ごとC2分間の下眼瞼涙液メニスカス高を記録した.結果:術前の涙液メニスカス高(中央値)は,点眼試験前C471Cμm,点眼試験2分後761Cμmであった.術後C1.2カ月では点眼試験前C218Cμm,点眼試験C2分後C447Cμmで,点眼試験前も点眼試験後も有意に低下し,術後C3.5カ月,6.11カ月,12カ月以降に実施した点眼試験も同様に術前より低値を示した.結論:本法は侵襲が少なく,涙道治療効果の客観的評価法として有用と考えられた.Toevaluatethesurgicaloutcomeofendonasaldacryocystorhinostomy(En-DCR)bymeasuringthelowertearmeniscusheight(TMH)aftersalineinstillation.Thisstudyincluded24eyesof24patients(meanage,71.8years)CwithCnasolacrimalCductCobstructionCwhoCunderwentCEn-DCR.CTheClowerCTMHCwasCmeasuredCwithCanteriorCseg-mentCopticalCcoherenceCtomographyCbeforeCsurgeryCandCatC1CtoC2Cmonths,C3CtoC5Cmonths,C6CtoC11CmonthsCandC12Cmonthsorlateraftersurgery.Eachmeasurementwasperformedbeforesalineinstillationandevery20secondsfor2CminutesCafterCinstillationCinCnaturalCblinkingCconditions.CPreoperativeCTMHCwasC471CμmCbeforeCsalineCinstillationCand761Cμm2minutesafterinstillation.TMHduringpostoperative1to2monthswas218Cμmbeforesalineinstilla-tionand447Cμm2minutesafterinstillation,asigni.cantdecreasecomparedwithpreoperativeTMH.PostoperativeTMHsat3to5months,6to11monthsand12monthsorlateraftersurgerywerealsolowerthanpreoperativeTMH.TMHmeasurementwithsalineinstillationisminimallyinvasiveandusefulinobjectivelyevaluatingtheout-comeofEn-DCR.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(5):689.692,C2018〕Keywords:涙.鼻腔吻合術鼻内法,涙液メニスカス高,点眼試験,前眼部光干渉断層計.endonasalCdacryocysto-rhinostomy(En-DCR),tearmeniscusheight(TMH),instillationtest,anteriorsegmentopticalcoherencetomog-raphy.Cはじめに涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)は鼻涙管閉塞の手術治療として基本的な術式であり,涙.鼻腔吻合術鼻内法(endonasalCdacryocystorhinostomy:En-DCR)は涙.のCmarsupialization(涙.内腔を満開の花弁のように展開すること)の概念1)が広められ飛躍的に成功率が向上した2).その治療効果は,自覚症状や吻合孔形成状態,通水検査により判断されることが一般的だが,近年では光干渉断層計を用い低侵襲で涙液貯留量を評価する方法が報告されている3.6,9).今回,En-DCRの治療効果を客観的に評価することを目的として,生理食塩水を用いた点眼試験により涙液動態評価を試みたので報告する.〔別刷請求先〕谷吉オリエ:〒834-0034福岡県八女市高塚C540-2公立八女総合病院眼科Reprintrequests:OrieTaniyoshi,DepartmentofOphthalmology,YameGeneralHospital,540-2Takatsuka,Yame,Fukuoka834-0034,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(125)C689I対象および方法2014年C11月.2016年C2月までに当科でCEn-DCRを施行した24例24側(女性23側,男性1側),年齢は42.83歳(71.8C±8.7歳)を対象とした.涙道内視鏡所見による涙道の閉塞部位の内訳を図1に示す.En-DCRは全例全身麻酔下にて施行した.鼻粘膜を中鼻甲介起始部から弧状に切開したのち,鼻粘膜をC.ap状に形成し上顎骨を露出させた.上顎骨をケリソンパンチ(回転式および通常型),上方の厚い部分は骨ノミを用いて内総涙点の高さまで切除し,涙.を露出させ,眼科用クレセントナイフにて涙.を切開,できるだけ大きく展開した.涙.前弁は鼻粘膜と,涙.後弁は温存した鼻粘膜と並置し,血漿分画製剤(ボルヒールCR,べリプラストRP)を塗布して接着させた.涙管チューブ(LACRIFASTCR)を挿入し,タンポナーデとしてベスキチンガーゼを挿入し手術終了した.術後C1カ月は1.5%レボフロキサシンとC0.1%フルオロメトロン点眼,およびモメタゾンフランカルボン酸エステル水和物点鼻薬を継続した.涙液メニスカスの撮影は自然開瞼,自然瞬目を指示し,他の眼科学的検査に先がけて行った.前眼部COCT(NIDEK製光干渉断層計CRS-3000Advance)を用いて涙液メニスカス高(tearCmeniscusCheight:TMH)を計測した後,5Cmlの点眼ボトルで常温の生理食塩水をC1滴点眼し,20秒ごとC2分間を経時的に撮影した(以下,点眼試験とする).OCT測定プログラムは,スキャンポイント数C1,024,スキャン長4.0Cmmの隅角ラインで,下眼瞼の角膜中央を通る垂直ラインで撮影した.TMHはCOCTで撮影できたメニスカス断面の上下の頂点から引いた垂線の長さを測定した.一人の検者が撮影および解析を行い,アーチファクトなどによりCOCT像が解析不能であった場合は除外した.点眼試験は,術前(n=24),En-DCRC1.2カ月後(n=20),3.5カ月後(n=24),6.11カ月後(n=21),12カ月以降(n=12)に施行し,統計学的解析はCWilcoxonCt-testwithCBonferroniCcorrectionを用いてCTMHの術後変化を検討した.CII結果術後に,18側(75%)は流涙が自覚的に改善し,骨窓形成や通水が良好で解剖学的交通があった.自覚症状は残存するが解剖学的交通があるのがC4側(17%),涙小管の狭小化や骨窓の膜状再閉塞により追加涙道治療が必要だったのはC2側(8%)であった.En-DCR術前のCTMHは,点眼試験前C479C±235Cμm(中央値471μm),点眼試験2分後C808C±312Cμm(761Cμm)であった.術後C1.2カ月では点眼試験前C222C±107Cμm(218広範型鼻涙管閉塞広範型鼻涙管閉塞+眼瞼下垂広範型鼻涙管閉塞+涙小管閉塞広範型鼻涙管閉塞+総涙小管閉塞限局型鼻涙管閉塞総涙小管閉塞急性涙.炎副鼻腔炎術後10430246810(側)図1閉塞部位ごとの症例数(n=24)μm),点眼試験C2分後C501C±376Cμm(447Cμm)となり,点眼試験前も点眼試験後も有意に低下していた(p<0.01).術後3.5カ月,6.11カ月,12カ月以降に実施した点眼試験も術前より低値を示した(図2).図3に急性涙.炎で術後再閉塞した症例の点眼試験結果を示す.術前CTMHは約C800Cμmであったが,En-DCR1カ月後は点眼試験前後ともCTMHが低下した(図3a).2カ月後は点眼試験後にCTMH上昇傾向があったものの,自覚も通水検査も良好だった(図3b).6カ月後には,眼脂症状の訴えがあり,TMHは術前とほぼ同程度の高値を示し,吻合孔の膜状再閉塞および涙小管高度狭窄がみられた(図3c).そのため,En-DCR9カ月後に,涙管チューブ挿入術〔LacrifastEX(カネカ)外径C1.5mm,全長C105mm〕を施行した.チューブ留置C1.5カ月(En-DCR11カ月後)で再びCTMHが低下し(図3d),チューブ留置C4カ月(En-DCR14カ月後)では点眼試験後CTMHの上昇がみられた(図3e)が,チューブ抜去(En-DCR16カ月後)すると点眼試験後CTMHも低値を示した(図3f).CIII考按前眼部OCTは低侵襲で涙液メニスカスを観察できるため,刺激などで容易に量的変化が生じる涙液を評価するには大変有用なツールであるが3.5),DCR後のCTMHを経過観察した研究は少ない.DCR鼻外法例を対象にCTMHを検討した研究6)では,中央値が術前C707Cμm,術後C2週目C334Cμm,術後2カ月C278μm,術後C6カ月C277μmで術直後から有意にTMHが低下したと報告しているが,これまでCEn-DCRに関しては細隙灯顕微鏡によるCTMH測定7)の他にはない.今回の点眼試験前CTMH中央値は,術前C471Cμm,手術1.2カ月後C218μm,3.5カ月後C262μm,6.11カ月後C269μm,12カ月以降C275Cμmで,点眼試験後CTMHも術後の全時期で低下したことから,En-DCRにおいても術後の涙液貯留690あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018(126)C1,5001,0005000点眼試験前20.40.1’1’20.1’40.2’■術前■1~2M■3~5M■6~11M■12M~図2涙.鼻腔吻合術鼻内法(En.DCR)術前後の点眼試験結果術後C1.2カ月から点眼試験前と点眼試験後すべての涙液メニスカス高(TMH)が低下し,術後C12カ月経過しても効果は継続していた.En-DCR前1M(a)量低下を評価できた.2M(b)本法を涙管チューブ挿入術施行例で行うと,術前,涙管チューブ留置中,涙管チューブ抜去後の順でCTMHが低下す6M(c)チューブ留置1.5M(d)チューブ留置4M(e)る4)が,CEn-DCRは術後C1.C2カ月には涙管チューブ抜去後抜去1M(f)と同等の低下を示した(図4).CDCRは術後早期から自覚症1,000状や通水が改善し,涙管チューブ挿入術よりも確実な治癒が800TMH(μm)期待できる8)とされている.通水検査は解剖学的交通を確認するために有用な検査ではあるが,通常時の涙液動態と異なり涙点への涙洗針の挿入や水圧が加わるため,軽微な膜状閉塞などは検出できない可能性があるが,通水検査以外の客観的方法においてもCDCRの早期治癒効果が実証できたと考え6004002000ている.点眼試験は健常者でも年齢によって結果が異なり,点眼C2分後平均CTMHは,60歳未満C247.1Cμm,60歳以上C452.0Cμmで,高齢群は点眼試験後CTMHが有意に高値になる3).また,涙管チューブ挿入術成功例を対象にした場合,点眼C2分後平均TMHは458Cμmであった4).点眼試験に関するこれまでの研究をまとめると,En-DCR術後(対象平均C71.8歳)は健常者の高齢群,涙管チューブ挿入術成功例とほぼ同等であるが,健常者の若年群ほどは低下しないということがわかった(図5).FujimotoらはCEn-DCR術後C2カ月時点で涙液クリアランスを評価したところ,術後メニスカスは低下するが,若い正常者に比べると涙液排出機構は不完全と報告している9).今回対象の平均年齢はCEn-DCRも涙管チューブ挿入術もC70歳前後であり,涙道閉塞以外にも結膜弛緩や眼瞼下垂などの加齢に伴う機能的導涙障害が含まれていると想定されるが,いずれの涙道治療を選択しても年齢相応の涙液排出力が期待できることが示唆された.涙液に量的負荷をかけた場合,点眼後C2分間は反射分泌および量的負荷状態における急速相があり,その後基礎分泌下(127)図3涙.鼻腔吻合術鼻内法(En.DCR)後に再閉塞した症例(82歳,女性)の点眼試験経過の緩徐相が生じる3,10.12).点眼試験を用いた過去の研究で点眼C2分以降に有意なCTMH変化がなかったことから,今回は測定時間を点眼C2分間に設定した.そのため真の意味での涙あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018C6911,000NLDI前チューブ留置中En-DCR前1~2M3~6M1,500チューブ抜去後median1,5006~12M12M~median5001,00050000’.1’.240’.1’2’1.20’1.40’1.20’1NLDIEn-DCRTMH(μm)8006004002000図4涙管チューブ挿入術(NLDI)4)と涙.鼻腔吻合術鼻内法(En.DCR)の比較NLDIはチューブ抜去までの過程において涙液メニスカス高(TMH)が漸減するが,En-DCRは術後早期からCTMHの低下があり,効果も持続した.youngnormal3)oldnormal3)文献postNLDI4)En-DCR(post6~12M)1)CTsirbasCA,CWormaldCPJ:CMechanicalCendonasalCdacryo-cystorhinostomyCwithCmucosalC.aps.CBrCJCOphthalmolC87:C43-47,C20032)鈴木亨:目指せC!眼の形成外科エキスパート(第C30回)涙道編DCR鼻外法Cvs鼻内法.臨眼71:C226-230,C20173)谷吉オリエ,鶴丸修士:生理食塩水点眼による涙液メニスカス高の経時的測定.あたらしい眼科33:C1209-1212,C20164)谷吉オリエ,鶴丸修士:涙管チューブ挿入術後の点眼負荷による涙液メニスカス高の検討.あたらしい眼科C34:C1314-1317,C2017’.240’1.20’1’.15)鈴木亨:光干渉断層計(OCT)を用いた涙液メニスカス高(TMH)の評価.あたらしい眼科30:923-928,C20136)OhtomoCK,CUetaCT,CFukudaCRCetCal:TearCmeniscusCvol-umeCchangesCinCdacryocystorhinostomyCevaluatedCwithC図5点眼試験の対象別比較涙.鼻腔吻合術鼻内法(En-DCR)の点眼試験後涙液メニスカス高(TMH)は健常者の高齢群3),涙管チューブ挿入術(NLDI)成功例4)と同等であるが,健常者の若年群3)ほどは低下しない.液のターンオーバーは不明だが,TMHを指標とした残留涙液貯留量が評価できた.TMHは細隙灯顕微鏡で観察できるメニスカスの様子を直感的に表現でき,眼科スタッフによる検査が可能なため臨床上大きな利便性があるが,瞬目などによる測定誤差要因も多い5).本法は眼科で頻用される点眼ボトルを用いるため,負荷量の大半は結膜.から流出してしまい標準偏差が大きくなる.そのためCTMHの基準値を定めることはむずかしいが,固体内での治療評価や再閉塞などによる涙液動態の変化は検出できる可能性があり,涙道治療の客観的評価法として有用であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし692あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018quantitativeCmeasurementCusingCanteriorCsegmentCopticalCcoherenceCtomography.CInvestCOphthalmolCVisCSciC55:C2057-2061,C20147)RohCJH,CChiCMJ:E.cacyCofCdyeCdisappearanceCtestCandCtearCmeniscusCheightCinCdiagnosisCandCpostoperativeCassessmentCofCnasolacrimalCductCobstruction.CActaCOph-thalmolC88:e73-e77,C20108)中島未央,後藤聡,小原由実ほか:涙.鼻腔吻合術の適応と手術成績.眼臨紀4:650-652,C20119)FujimotoCM,COginoCK,CMiyazakiCCCetCal:EvaluationCofCdacryocystorhinostomyCusingCopticalCcoherenceCtomogra-phyandrebamipideophthalmicsuspension.ClinOphthal-molC8:1441-1445,C201410)ZhengX,KamaoT,YamaguchiMetal:NewmethodforevaluationCofCearlyCphaseCtearCclearanceCbyCanteriorCseg-mentCopticalCcoherenceCtomography.CActaCOphthalmolC92:105-111,C201411)井上康,越智進太郎,山口昌彦ほか:レバミピド懸濁点眼液をトレーサーとして用いた光干渉断層計涙液クリアランステスト.あたらしい眼科31:615-619,C201412)坂井譲,井上康,越智進太郎:前眼部光干渉断層計を用いたレバミピド懸濁粒子濃度測定.あたらしい眼科C31:C1867-1871,C2014(128)

涙囊鼻腔吻合術鼻内法施行後に診断された涙囊悪性腫瘍の4例

2017年9月30日 土曜日

《第5回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科34(9):1305.1308,2017c涙.鼻腔吻合術鼻内法施行後に診断された涙.悪性腫瘍の4例佐久間雅史*1,2廣瀬浩士*1鶴田奈津子*1田口裕隆*1伊藤和彦*1服部友洋*1久保田敏信*1*1国立病院機構名古屋医療センター眼科*2つしま佐久間眼科CFourCasesofMalignantLacrimalSacTumorDiagnosedafterEndoscopicEndonasalDacryocystorhinostomyMasashiSakuma1,2)C,HiroshiHirose1),NatsukoTsuruta1),HirotakaTaguchi1),KazuhikoIto1),TomohiroHattori1)CToshinobuKubota1)and1)DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganization,NagoyaMedicalCenter,2)TsushimaSakumaEyeClinic目的:涙.鼻腔吻合術鼻内法施行後に診断された涙.悪性腫瘍のC4例について報告する.症例:対象はC2008年C4月.2014年C8月に名古屋医療センターを紹介受診し,涙.鼻腔吻合術鼻内法施行後に涙.悪性腫瘍と診断されたC4例で,男性C1例,女性C3例で,年齢はC41.70歳(平均C58歳)だった.診断は,扁平上皮癌がC1例,MALTリンパ腫がC1例,びまん性大細胞型CB細胞リンパ腫がC2例であった.結論:涙.腫瘍はまれであるが今回のC4症例のように悪性腫瘍例もありうる.鼻涙管閉塞や慢性涙.炎でも,常に涙.腫瘍との鑑別が必要であり,積極的に術前後の画像診断や,DCR施行時や施行後でも生検を行うことが重要であると考えられた.CPurpose:Wereportonfourcasesofmalignantlacrimalsactumordiagnosedafterendoscopicendonasaldac-ryocystorhinostomy.CCases:CWeCreviewedCfourCpatients,ConeCmaleCandCthreeCfemale,CwhoCwereCreferredCtoCandCexaminedatNagoyaMedicalCenterfromApril2008toAugust2016andsubsequentlydiagnosedwithmalignantlacrimalCsacCtumorsCafterCendoscopicCendonasalCdacryocystorhinostomy.CSubjectCagesCrangedCfromC41-70Cyears(mean58yrs).Onecasewasdiagnosedwithsquamouscellcarcinoma,onewithMALTlymphoma,andtwowithdi.uselargeB-celllymphoma.Conclusion:Whilelacirmalsactumorsarerare,malignantcases,suchasthefourinthisstudy,arepossible.Evenincaseofnasalcavityobstructionandchronicin.ammationofthelacrimalsac,itisCnecessaryCtoCdi.erentiateCfromClacrimalCsacCtumors.CItCisCimportantCtoCactivelyCperformCimageCdiagnosisCbeforeCandaftersurgery,andbiopsiesduringandafterdacryocystorhinostomy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(9):1305.1308,C2017〕Keywords:涙.悪性腫瘍,涙.鼻腔吻合術鼻内法,慢性涙.炎,涙道閉塞.malignantlacrimalsactumor,endo-scopicendonasaldacryocystorhinostomy,chronicin.ammationofthelacrimalsac,obstructionofthenasalcavity.Cはじめに涙.腫瘍は比較的まれな疾患であるが,悪性腫瘍の頻度が高い1,2).しかし,初期症状が,流涙,眼脂,涙.腫脹など,慢性涙.炎と酷似しているため,その鑑別は非常に重要である.また,涙.腫瘍は,罹患率が非常に低いこともあり,初期治療で慢性涙.炎として治療され,見過ごされてしまい,診断が遅れることがある3).涙.鼻腔吻合術には,鼻外法と鼻内法があるが,近年,低侵襲な治療をめざす流れから,鼻内法が広く普及しつつあり,皮膚切開を必要とする鼻外法は減少傾向にある.ただし,狭鼻腔や巨大涙.結石,腫瘍などの場合は,直視下で涙.を操作する必要があるため,鼻外法が適していると考えられる.今回筆者らは,涙.鼻腔吻合術鼻内法(endoscopicCdac-〔別刷請求先〕佐久間雅史:〒496-0071愛知県津島市新開町C1-40-1つしま佐久間眼科Reprintrequests:MasashiSakuma,TsushimaSakumaEyeClinic,1-40-1Shingai,Tsushima,Aichi496-0071,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(93)C1305ryocystorhinostomy:EnDCR)施行後に診断された涙.悪性腫瘍C4例を経験したので報告する.CI対象対象はC2008年C4月.2014年C8月に,名古屋医療センターにてCEnDCR施行後に涙.悪性腫瘍と診断されたC4例で,男性C1例,女性C3例であった.年齢はC41.70歳(平均C58歳)で,扁平上皮癌C1例,悪性リンパ腫C3例であった.〔症例1〕64歳,男性,右側.右側鼻涙管閉塞を主訴に当院を紹介受診した.右側通水検査陰性のため,右側ブジー+涙管チューブ挿入術(directsiliconeCtubeCintubation:DSI)を施行した.涙管チューブ抜去後に,再閉塞し,眼瞼腫脹と結膜浮腫を認めた(図1a,b).右側CEnDCR施行時に,骨の脆弱性と易出血性を認めた症例1図1症例1(64歳,男性,右側)Ca:右側眼瞼腫脹を認める.Cb:右側結膜浮腫を認める.Cc:HE染色にて,小蜂巣状に浸潤する,あるいは,導管内を充満する扁平上皮癌を認める.Cd:初診時CCT画像,水平断.肥厚した右側涙.を認める.Ce:EnDCR後CCT画像,水平断.右側涙.腫瘤の篩骨洞内の軟部組織への連続性を認める.Cf:2年C6カ月後CCT画像,水平断.再発は認めない.Cg:2年C6カ月後CCT画像,冠状断.再発は認めない.ため,術中に生検を施行した.病理組織では扁平上皮癌と診断された(図1c).再度試行したCCTでは,初診時と比較して右涙.部が腫大し,副鼻腔内に連続する内部が均一な腫瘤性病変を認めた(図1d,e).右側拡大涙.腫瘍摘出術と有茎皮弁移植術を施行し,2年C6カ月経過したが,再発は認めていない(図1f,g).〔症例2〕57歳,女性,右側.右側鼻涙管閉塞を主訴に当院を紹介受診した.乳癌の既往があった.右側通水検査陽性だったが,膿の逆流も認めた.右側CEnDCRを施行したが,術後C3週間で涙管チューブが自然抜落した.再挿入するも,再度自然抜落した.また,涙襄部に硬結を認めたため,CTを施行したところ,副鼻腔に浸潤する内部が均一の腫瘤性病変を認め(図2a,b),涙.腫瘍が疑われ,経皮的に生検を行った.病理検査で,びまん性大細胞型CB細胞リンパ腫(di.useClargeCBCcellClymphoma:DLBCL)と診断された(図2c,d).化学療法を施行し,4年10カ月経過したが再発は認めていない(図2e,f).〔症例3〕41歳,女性,左側.左側涙.炎を主訴に当院を紹介受診した.左側通水検査陰症例2図2症例2(57歳,女性,右側)Ca:EnDCR後CCT画像,水平断.副鼻腔に浸潤する内部が均一の腫瘤性病変を認める.Cb:EnDCR後CCT画像,冠状断.副鼻腔に浸潤する内部が均一の腫瘤性病変を認める.Cc:HE染色にて,大型異型核をもつ細胞のびまん性増生を認める.Cd:CD20免疫染色にて,Bcell性を認める.Ce:4年C10カ月後CMRI画像,T2強調水平断.再発は認めない.Cf:4年C10カ月後CMRI画像,T2強調冠状断.再発は認めない.1306あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017(94)症例3図3症例3(41歳,女性,左側)Ca:初診時CCT画像,水平断.均一で腫大した左側涙.を認めた.Cb,c:左側涙.部に限局する硬結を認める.Cd:8年C6カ月後CMRI画像,T2強調水平断.再発は認めない.性で膿の逆流を認めた.CTを施行し,内部が均一で腫大した涙.を認めた(図3a).左側CEnDCRを施行し,左側通水陽性となったが,涙.部の腫脹が改善されないため(図3b,c),左側涙.切除術(生検術)を施行した.病理検査にてMALTリンパ腫と診断された.放射線治療を施行し,8年C6カ月経過したが再発は認めていない(図3d).〔症例4〕70歳,女性,左側.左側涙.炎を主訴に当院を紹介受診した.既往症にCDLBCL(10年前に寛解)があった.左側通水検査陰性で膿の逆流を認め,左側シース誘導内視鏡下穿破法(sheathguidedendoscopicprobing:SEP)+シース誘導内視鏡下穿破法(sheathCguidedCintubation:SGI)を施行した.涙管チューブ抜去後に再閉塞を認め,涙.部に硬結を認めたため(図4a),CTを施行した.CTにて,副鼻腔に連続する内部が均一な腫瘤性病変を認めた(図4b).左側CEnDCR施行時に,粘膜組織の浮腫と骨の脆弱性など明ら症例4図4症例4(70歳,女性,左側)Ca:左側涙.部に内眥靭帯を超えて上方に及ぶ硬結を認める.Cb:中型.大型異型核をもつ細胞のびまん性増生を認める.Cc:CD20免疫染色にて,Bcell性を認める.Cd:EnDCR前CCT画像,水平断:副鼻腔に浸潤する内部が均一の腫瘤性病変を認める.Ce:1年C9カ月後CCT画像,水平断:再発は認めない.かな異常を認めたため,術中に中鼻甲介と涙.の一部を生検した.病理組織よりCDLBCL(再発)と診断された(図4c,d).化学療法を施行し,1年C9カ月経過したが,寛解中である(図4e).CII考按涙.腫瘍は比較的まれではあるが,悪性腫瘍の頻度がC55.60%と非常に高く,その死亡率は,種類やステージにもよるが平均C38%であると報告されている1,2).また,上皮性腫瘍の割合がおよそC70%と多く4),その内訳としては,良性では乳頭腫,悪性では扁平上皮癌や移行上皮癌が多い.また,非上皮性腫瘍では,悪性リンパ腫や悪性黒色腫が多いと報告されている5).涙.腫瘍でもっとも多い症状は,流涙症,再発する涙襄炎,涙.腫脹であり,慢性涙.炎との鑑別が重要である3).本例でも,2例に流涙症,2例に涙.炎,4例で涙.腫脹を認め,全例で初診時より腫瘍を疑うことはできなかった.涙.腫瘍の慢性涙.炎に対し,鑑別すべき症状は,血清流涙と内眥靭帯を超えて上方に及ぶ腫瘤の有無がある.血清流涙に関しては,腫瘍の増殖のために豊富な血管が必要であることから生じるが,今回の症例では,症例C1のCEnDCR時に易出血性を認めたのみで,他の症例には認めなかった.ま(95)あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017C1307た,慢性涙.炎では,膿が重力により下方に溜まる傾向にあるが,腫瘍の場合は,内眥靭帯を超えて上方に及ぶ腫瘤を認めることがあるが,今回の症例の場合は,症例C4のC1例しか認めなかった.画像診断では,CTでは腫瘍による骨破壊などの所見を評価し,MRIでは,軟部組織の病変の範囲や内部構造の質的な評価が重要である.慢性涙.炎はCT1強調画像では低信号,T2で高信号を示すのに対し,悪性リンパ腫などの実質性腫瘍はCT1,T2強調画像ともに低信号を示すと報告されている6).涙道内視鏡に関しては,症例C4でCSEP+SGIを施行したが,術中に明らかな異常に気づくことはできなかった.逆に,本症例で共通していた点は,4例とも涙.炎や鼻涙管閉塞を主訴に他院からの紹介例であり,初診時に血清流涙は認めなかったが,EnDCR施行後も涙.腫脹や眼瞼腫脹が改善しないことであった.また,CTで,4例とも腫脹した涙.部が軟部吸収で均一に描出され,3例で副鼻腔への浸潤が疑われた.涙.腫瘍が疑われる場合は,術中,直視下で涙.内部および周囲を全体的に観察することができるので,涙.鼻腔吻合術鼻外法(externalCDCR:ExDCR)が適していると考えられる3).今回の報告例では,術前より腫瘍を診断する情報が確実でなく,生検も念頭に置きながら治療方針を考えていたため,すべて,侵襲の少ない鼻内法により手術を行ったが,当初から腫瘍が強く疑われれば,ExDCRによるアプローチが第一選択と考える.症例C4は,既往歴も含め,術前より腫瘍の疑いがあり,ExDCRによるアプローチも考慮したが,腫瘍の進展が鼻内にも拡大している可能性も否定できず,鼻内組織の生検が可能で,より侵襲の少ないCEnDCRを行うことで診断を確定し,以後の方針を考慮する方法を選択した.結果的に,以前の腫瘍の再発であり,化学療法で寛解が得られたため,本症例では,鼻内法によるアプローチが有効であったと考えている.ただし,鼻内に腫瘍がなく,涙.限局,もしくは涙.周囲に少しでも腫瘍が疑われる場合は,ExDCRに適応があると思われた.画像診断を詳細に行い,よりに情報を収集することが6),手術法を選択するうえでも重要である.CIII結語今回筆者らは,涙.鼻腔吻合術(EnDCR)施行後に診断された涙.悪性腫瘍C4例を経験した.鼻涙管閉塞や慢性涙.炎では,症状が類似していることから,まれではあるが,涙.悪性腫瘍との鑑別が必要であると考えられ,少しでも疑わしい場合は,術前に造影を含めたCT,MRI撮影を施行し方針を決めるとともに,術後でも画像検査の追加や新たな生検を行うべきであると考えられた.また,涙.限局,もしくは涙.周囲の腫瘍にはCExDCRによるアプローチが必要と考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)StefanyszynCMA,CHidayatCAA,CPe’erCJJCetCal:LacrimalCsacCtumor.COphthalCPlastCReconstrCSurgC10:169-184,C19942)JosephCCF:LacrimalCtumors.COphthalmologyC85:1282-1287,C19783)辻英貴:涙道悪性腫瘍.眼科58:423-431,C20164)HeindlCLM,CJunemannCAG,CKruseCFECetCal:TumorsCofCthelacrimaldrainagesystem.OrbitC29:298-306,C20105)有田量一,吉川洋,田邊美香ほか:涙.悪性腫瘍C6例の診断と治療.あたらしい眼科32:1041-1045,C20156)児玉俊夫,野口毅,山西茂喜ほか:涙.部腫瘍性疾患の頻度と画像診断の有用性についての検討.臨眼C66:819-826,C2012***1308あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017(96)

涙囊鼻腔吻合術鼻内法における画像支援型磁場式ナビゲーションシステムの有用性

2016年11月30日 水曜日

《第4回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科33(11):1633?1639,2016c涙?鼻腔吻合術鼻内法における画像支援型磁場式ナビゲーションシステムの有用性高橋辰*1高橋佳奈*2*1高橋耳鼻咽喉科眼科クリニック*2条里コスモス眼科UtilityofImage-guidedElectromagneticNavigationSysteminEndoscopicEndonasalDacryocystorhinostomyShinTakahashi1)andKanaTakahashi2)1)TakahashiENT&EyeClinic,2)JhoriKosumosuEyeClinic目的:画像支援型磁場式ナビゲーションシステム(以下,ナビシステム)は,危険部位を回避して病変に確実にアプローチするための手術支援機器の一つである.涙?鼻腔吻合術鼻内法(endoscopicendonasaldacryocystorhinostomy:en-DCR)におけるナビシステムの有用性を検討した.対象:対象は,筆者らの施設でナビシステムを併用してen-DCRを行った19例(以下,ナビ併用群)と,ナビシステムを使わずにen-DCRを行った21例(以下,ナビ非併用群)である.手術記録とビデオ画像を評価し,手術時間と合併症の有無を比較した.結果:骨壁削除時間の平均値は,ナビ併用群36.8±5.2分,ナビ非併用群45.4±8.4分で,ナビ併用で骨壁削除時間は有意に短縮した.ナビ非併用群では2例に手術合併症を認めたが,ナビ併用群では合併症はなかった.限界域の判断がむずかしい骨壁の厚い例,再手術例,総涙小管閉塞例では,ナビシステムを併用することで涙?の位置を正確に評価できた.結論:ナビシステムは,en-DCRの手術支援器機として有用である.Purpose:Inthispaper,wereportourclinicalexperiencesandevaluatetheutilityoftheimage-guidedelectromagneticnavigationsystem(IGS)inendoscopicendonasaldacryocystorhinostomy(en-DCR).Subjects:Weexaminedthesurgicalrecordsof19patientswhohadundergoneen-DCRwithIGS(IGSgroup);21patientswhohadundergoneen-DCRwithoutIGS(non-IGSgroup)werealsoexaminedretrospectively.Weevaluatedtheoperatingtimeandsurgicalcomplicationsinthesetwogroups.Result:Theaveragedrillingtimeforexposingthelacrimalsacwas36.8±5.2minutesinIGSgroupand45.4±8.4minutesinnon-IGSgroup.DrillingtimesinIGSgroupwerestatisticallyshorterthaninnon-IGSprocedures.TherewerenosurgicalcomplicationsinIGSgroup.IGSmayprovideusefulanatomicalinformationforassistingwideexposureofthelacrimalsac,particularlyincaseswiththickmaxillarybone,revisionproceduresandcommoncanaliculiobstruction.Conclusion:Theimage-guidedelectromagneticnavigationsystemmightbeausefultoolinen-DCR.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(11):1633?1639,2016〕Keywords:涙?鼻腔吻合術鼻内法,画像支援型磁場式ナビゲーションシステム,鼻涙管閉塞,総涙小管閉塞,内視鏡下副鼻腔手術.endoscopicendonasaldacryocystorhinostomy,image-guidedelectromagneticnavigationsystem,lacrimalductobstruction,commoncanaliculiobstruction,endoscopicendonasalsinussurgery.はじめに涙?鼻腔吻合術鼻内法(endoscopicendonasaldacryocystorhinostomy:en-DCR)は,近年の鼻内手術用の内視鏡の開発により,眼科・耳鼻科の両科で普及してきている.手術では外切開を行わずに鼻内視鏡下に涙?窩骨壁を削除し,涙?を鼻内に大きく開窓する.涙?全体を広く露出するためには,CT画像やライトガイド光をもとに,涙?の位置をできるだけ正確に把握して手術を行う必要がある.一方で,画像支援型ナビゲーションシステムが耳鼻咽喉科領域にも応用され,内視鏡下副鼻腔手術(endoscopicendonasalsinussurgery:ESS)の手術支援機器として広く普及してきている.これは,鼻内視鏡下の手術操作部位をリアルタイムにCT画像上に表示し,手術を安全確実に支援するシステムである.今回筆者らは,耳鼻科手術用画像支援型磁場式ナビゲーションシステム(以下,ナビシステム)を併用してen-DCRを行ったので,その実際と有用性について報告する.I対象および方法ナビシステムはMedtronic社製FUSIONRENTを使用した.対象は,筆者らの施設でナビシステムを併用してen-DCRを行った19例(以下,ナビ併用群)とナビシステムを併用せずにen-DCRを行った21例(以下,ナビ非併用群)である.ナビ併用群は,鼻涙管閉塞13例・総涙小管閉塞6例,男性2例・女性17例,年齢は56?86歳(平均74.2±8.8歳)で,2014年10月?2015年5月に手術を施行した症例である.ナビ非併用群は,鼻涙管閉塞17例・総涙小管閉塞4例,男性2例・女性19例,年齢は58?90歳(平均76.9±9.1歳)で,2012年10月?2014年10月に手術を施行した症例である.必要な場合は鼻中隔矯正手術や副鼻腔手術を同日併施した.全症例で術前にナビシステム用のCT検査を施行した.各症例のCT所見および手術記録とビデオ画像を評価し,手術時間,合併症の有無を比較検討した.手術は全例局所麻酔下で施行し,Wormald1)やYoshidaら2)の方法に準じて行った.ナビ併用群では手術開始前にレジストレーションを行い,骨壁削除の際に併用した.【粘膜弁作製】ラジオ波高周波メスで中鼻甲介基部に茎をもつU字型粘骨膜弁を作製して,上顎骨前頭突起と涙骨を露出した.【骨壁削除】ナビ併用群では,ナビシステムの探索子を用いて骨面上で涙?上縁(涙?円蓋の高さ)・前縁・後縁(篩骨眼窩板との境界)に相当する位置を確認して骨壁削除の範囲を決定した.DCR骨削開用バーを用いて上顎骨前頭突起と涙骨を削開した.削開中も必要に応じて探索子で涙?の位置を確認し,涙?を広く鼻腔内に開放した.ナビ非併用群では,鼻内の解剖学的指標と涙?内のライトガイド光を参考にして涙?の位置を推定して骨壁削除を行った.【涙?開窓】ラジオ波高周波メスを用いて涙?を花弁状に開窓した.さらに総涙小管閉塞例では,涙?内腔を開放後,総涙小管内のライトガイド光を指標にしてラジオ波高周波メスで閉塞部位を明視下に切開した.全例にて涙管チューブを1本留置した.今回使用したナビシステムは操作性・安定性に優れた磁場式である.この方式では,患者頭部横に設置した磁場発生装置で,頭部顔面領域に限局した低エネルギー磁場を生成する.この磁場内で術野に挿入した探索子などの磁場センサー付手術器機を操作すると,器機先端部分の位置がナビ用モニターのCT画像にリアルタイムで表示される(図1).術者は内視鏡下の手術操作部位を,内視鏡用モニター画像とナビ用モニターのCT画像とで同時に確認しながら手術を進めることができる.事前に症例ごとの実解剖の位置(顔面表面)とCT画像データとを適合する登録作業(レジストレーション)が必要になるが,この作業は手術直前に短時間で施行可能である.〔別刷請求先〕高橋辰:〒013-0037秋田県横手市前郷二番町4-25高橋耳鼻咽喉科眼科クリニックReprintrequests:ShinTakahashi,M.D.,TakahashiENT&EyeClinic,2-4-25MaegoYokote-shi,Akita013-0037,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(95)1633図1磁場発生装置と磁場領域提供:日本メドトロニック(株)1634あたらしい眼科Vol.33,No.11,2016(96)