‘涙液メニスカス面積’ タグのついている投稿

正常ウサギの涙液貯留量に対するジクアホソルナトリウム点眼液と精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用効果

2012年8月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(8):1141.1145,2012c正常ウサギの涙液貯留量に対するジクアホソルナトリウム点眼液と精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用効果阪元明日香七條優子山下直子中村雅胤参天製薬株式会社眼科研究開発センターCombinedEffectofDiquafosolTetrasodiumandPurifiedSodiumHyaluronateOphthalmicSolutionsonTearFluidVolumeinNormalRabbitsAsukaSakamoto,YukoTakaoka-Shichijo,NaokoYamashitaandMasatsuguNakamuraOphthalmicResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウム点眼液と精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用による涙液貯留量への影響について,涙液メニスカス面積値を指標に評価した.涙液メニスカス面積測定法では,眼表面へのフルオレセイン溶液添加量に比例して,涙液メニスカス面積値は増加した.0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の点眼2および5分後において,シルメル試験紙を用いて涙液貯留量を1分間測定した場合(局所麻酔下測定),Schirmer値の増加が認められなかったが,涙液メニスカス面積測定法では,涙液メニスカス面積値が人工涙液点眼に比して有意に増加した.また,3%ジクアホソルナトリウム点眼液と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用群の涙液メニスカス面積値は,2剤目点眼5および30分後において,3%ジクアホソルナトリウム点眼液単独群あるいは3%ジクアホソルナトリウム点眼液と人工涙液との併用群に比して有意に高値を示した.さらに3%ジクアホソルナトリウム点眼液と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用において,3%ジクアホソルナトリウム点眼液を先に点眼したほうが0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液を先に点眼するよりも涙液メニスカス面積値は高値を示したが,2剤目点眼30分後においてはどちらも同程度であった.以上の結果より,涙液メニスカス面積測定法において,3%ジクアホソルナトリウム点眼液と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用により涙液貯留量の持続的増加作用が認められた.Thisstudyevaluatedthecombinedeffectofdiquafosoltetrasodiumandpurifiedsodiumhyaluronateophthalmicsolutionsontearfluidvolumeinnormalrabbits,usingthetearmeniscusarea.Thevolumeofexternalfluoresceininstilledtotheocularsurfacewascorrelatedwiththetearmeniscusarea.Theefficacyof0.1%sodiumhyaluronatecouldnotbedetectedbytheSchirmermeasuringstripfor1min,butthetearmeniscusareaof0.1%sodiumhyaluronatewasgreaterthanthatofartificialtearsat2and5minafterinstillation.Thecombinedeffectof3%diquafosoltetrasodiumand0.1%sodiumhyaluronateonthetearmeniscusareawasgreaterthanthatof3%diquafosoltetrasodiummonotherapyorcombinedtreatmentwith3%diquafosoltetrasodiumandartificialtearsat5and30minafterasecondinstillation.Furthermore,thecombinedefficacyof0.1%sodiumhyaluronateafter3%diquafosoltetrasodiuminstillationonthetearmeniscusareawasgreaterthanthatof3%diquafosoltetrasodiumafter0.1%sodiumhyaluronateinstillation.However,bothwerealmostequalintearmeniscusareaat30minaftersecondinstillation.Combinedtreatmentwith3%diquafosoltetrasodiumand0.1%sodiumhyaluronateseemstocauseretentionofmoretearfluidontheocularsurface,andforalongertime,than3%diquafosoltetrasodiummonotherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(8):1141.1145,2012〕Keywords:ジクアホソルナトリウム,精製ヒアルロン酸ナトリウム,涙液貯留量,涙液メニスカス面積,正常ウサギ.diquafosoltetrasodium,purifiedsodiumhyaluronate,tearfluidvolume,tearmeniscusarea,normalrabbits.〔別刷請求先〕阪元明日香:〒630-0101生駒市高山町8916-16参天製薬株式会社眼科研究開発センターReprintrequests:AsukaSakamoto,OphthalmicResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,8916-16Takayama-cho,Ikoma-shi,Nara630-0101,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(115)1141 はじめにドライアイ患者の眼表面では,涙液の分泌低下あるいは蒸発亢進により,涙液3層(油層・水層およびムチン層)構造が崩れ,各涙液層の役割が正常に機能せず,異常をきたしている.したがって,その治療には,眼表面における涙液を質的・量的に正常化させることが望まれる1,2).現在,国内でドライアイ治療に使用されている薬剤には,ジクアホソルナトリウム点眼液と精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液がある.ジクアホソルナトリウムは,P2Y2受容体に結合し,細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させた結果,水分およびムチンの分泌促進作用を示す3,4).一方,精製ヒアルロン酸ナトリウムは,数十万からなる高分子多糖類であり,その分子内に水分を保持できる特性をもつことにより保水作用を示す5).両剤はともに,眼表面の涙液貯留量を増大させる作用を示すものの,それらの作用機序が異なるため,ドライアイ治療において,両剤の併用による効果(相加あるいは相乗作用)が期待できる.涙液の貯留量を測定する方法として,臨床では綿糸法が古くから汎用されている.綿糸法は,簡便な方法で被験者の負担が軽度ではあるものの,微量の涙液の変化も測定値に反映される難点がある.またSchirmerテストは,おもに涙液分泌量を測定する方法であり,その侵襲性と涙液の質,特に粘稠性により値が左右される懸念がある.近年では,涙液メニスカス高をフルオレセイン溶液を用いて観察する方法6,7),メニスコメトリーによる涙液メニスカス曲率半径の測定8),あるいは最近では,opticalcoherencetomographyシステムによるメニスカス面積の測定9)などが開発されている.これらはより侵襲性が低く,涙液の質に影響されない測定方法として確立されている.動物実験においても,Murakamiら10)は,正常ネコのメニスカス面積の測定を実施し,ジクアホソルナトリウムの涙液貯留量の増加作用を報告している.本研究では,正常ウサギでの涙液メニスカス面積値を測定する新たな方法を確立し,3%ジクアホソルナトリウム点眼液と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用による涙液貯留量への影響を検討した.I実験方法1.点眼液3%ジクアホソルナトリウム(3%ジクアホソル)点眼液として,ジクアスR点眼液3%(参天製薬),0.1%ヒアルロン酸ナトリウム(0.1%ヒアルロン酸)点眼液として,ヒアレインR点眼液0.1%(参天製薬),人工涙液として,ソフトサンティア(参天製薬)を用いた.2.実験動物雄性日本白色ウサギは北山ラベスより購入し,1週間馴化飼育した後,65匹を試験に使用した.本研究は,「動物実験1142あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012倫理規程」,「参天製薬の動物実験における倫理の原則」,「動物の苦痛に関する基準」などの参天製薬株式会社社内規程を遵守し実施した.3.涙液メニスカス面積測定法ウサギの下眼瞼涙液メニスカス上に生理食塩水に溶解した0.1%フルオレセイン溶液3μLを添加し,マクロレンズ(AFMICRONIKKOR105mm,ニコン)を接続したデジタルカメラ(FUJIXDS-560,富士フィルム)にブルーフィルター(BPB45,富士フィルム)を付けて,涙液メニスカスを含む眼の全体像を正面から撮影した.得られた画像から画像解析ソフト(WinROOF,三谷商事)を用いて涙液メニスカスの面積を算出した.ただし,本測定値の妥当性を評価する目的で実施した眼表面への添加量と涙液メニスカス面積値の相関性を確認する試験では,15匹29眼に0.1%フルオレセイン溶液を3,10,20,30,40および50μL添加した.フルオレセイン溶液の添加量は,正常ウサギの結膜.における涙液貯留量が30.50μLという報告11)を考慮して,最大量を50μLに設定した.また,各種点眼液の涙液メニスカス面積値への影響を検討する際には,点眼液を50μL点眼した前後で涙液メニスカス面積値を算出し,その差(Δ涙液メニスカス面積値)を点眼液の薬効として評価した.Schirmer値との比較検討では15匹30眼,単剤点眼と併用点眼の比較検討では17匹34眼,併用点眼における点眼順序の検討では18匹36眼を使用した.同一個体を複数回使用する場合は,一定期間を空けて使用した.測定時に半眼,閉目など,結果に影響を与えると思われる所見が認められた眼は除外した.なお,併用点眼の点眼間隔は,基本的に臨床での点眼間隔を考慮して5分間とした.また,ウサギはヒトに比べて涙液排出率が低く,瞬目回数も著しく少ないため12),点眼間隔を短くすると1剤目の点眼液量が眼表面に十分残ったまま,2剤目を点眼することになり,両剤とも溢出し,薬効を適切に評価できない可能性も考慮した.測定時間については,3%ジクアホソル単剤の予備的検討として,点眼2,5,10,15,30および60分後のΔ涙液メニスカス面積値を測定したところ,点眼10分後に最大値を示した.したがって,3%ジクアホソル点眼10分後を含む測定時間を設定した.すなわち,3%ジクアホソルを1剤目としてのみ使用した試験では,2剤目点眼5分後,1剤目および2剤目に使用した試験では,2剤目点眼5および10分後を含めて測定した.4.シルメル試験紙による涙液貯留量測定法15匹30眼にベノキシールR点眼液0.4%(参天製薬)を10μL点眼し,眼表面を局所麻酔した.局所麻酔3分後に各種点眼液を50μL点眼し,点眼2および5分後に,ウサギの下眼瞼にシルメル試験紙(昭和薬品化工)の折り目5mm部分を1分間挿入し,ろ紙が濡れた長さ(Schirmer値)を指標として涙液貯留量を測定した.なお,点眼液の点眼前後の(116) Schirmer値を測定し,その差(ΔSchirmer値)を点眼液の薬効として評価した.5.統計解析生物実験データ統計解析システムEXSUS(シーエーシー)を用いて,5%を有意水準として解析した.各測定時間での2群間の解析はF検定後,Studentのt検定(等分散)あるいはAspin-Welchのt検定(不等分散)を行った.各測定時間における3群以上の解析はTukeyの多群比較検定を行った.II結果1.正常ウサギを用いた涙液メニスカス面積測定法の妥当性涙液メニスカス面積測定法にて得られた値(Δ涙液メニスカス面積値)の妥当性を評価する目的で,ウサギの眼表面に3.50μLの0.1%フルオレセイン溶液を添加した際のΔ涙液メニスカス面積値を算出し,添加量とΔ涙液メニスカス面積値の相関性について検討した.図1に示すように,両者間には正比例の関係式(y=0.9504x+0.5113)が成り立ち,重相関係数(0.9078)も良好であった.また,3μLフルオレセイン溶液の添加は,Δ涙液メニスカス面積値にほとんど影響を及ぼさなかった.したがって,涙液メニスカス面積測定法を用いた涙液貯留量の測定には,3μLフルオレセイン溶液を用いることにした.つぎに,0.1%ヒアルロン酸の涙液貯留量に対する効果をシルメル試験紙による測定法と涙液メニスカス面積測定法で比較検討した.ΔSchirmer値は,対照に用いた人工涙液群では点眼2分後に最大値を示し,その後減少するのに対し,0.1%ヒアルロン酸群では,点眼2分後においてSchirmer値の増加作用は認められず,人工涙液群に比して有意に低値を示した(図2a).一方,Δ涙液メニスカス面積値は,人工涙液群および0.1%ヒアルロン酸群のいずれも点眼2分後に最大値を示し,その後減少した.また,0.1%ヒアルロン酸群の点眼2および5分後のΔ涙液メニスカス面積値は,人工涙液群に比して有意に高値を示した(図2b).2.3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼が正常ウサギの涙液貯留量に及ぼす影響涙液貯留量に対する3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用効果について検討した.図3に示す群構成で,1剤目点眼5分後(図3a,2剤目点眼後0分)に2剤目を点眼した後,5および30分後に涙液メニスカス面積値を測定した.図3aにΔ涙液メニスカス面積値,図3bに2剤目点眼5分後の代表的な涙液メニスカス像を示す.3%ジクアホソルのΔ涙液メニスカス面積値(mm2)60y=0.9504x+0.511350r2=0.907840302010001020304050フルオレセイン溶液添加量(μL)図1正常ウサギにおけるフルオレセイン溶液添加量とΔ涙液メニスカス面積値との関係点眼5分後に2剤目として人工涙液を併用した群の2剤目点眼5および30分後のΔ涙液メニスカス面積値は,3%ジクアホソル単剤群と同程度であった.一方,2剤目として0.1%ヒアルロン酸を併用した群の2剤目点眼5および30分後のΔ涙液メニスカス面積値は,3%ジクアホソル単剤群あるいは3%ジクアホソルと人工涙液の併用群に比して有意に高値を示し,持続的な効果が認められた.3.3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼の点眼順序が正常ウサギの涙液貯留量に及ぼす影響涙液貯留量に対する3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用効果に2剤の点眼順序が影響するか検討した結果を各値は,4あるいは5例の平均値±標準誤差を示す.3.0025:AT:0.1%HA*涙液メニスカス面積値(mm2)Δa4.03.02.01.00.0-1.0025:AT:0.1%HA**#bΔSchirmer値(mm)2.01.00.0-1.0-2.0点眼後の時間(分)点眼後の時間(分)図2人工涙液(AT)および0.1%ヒアルロン酸(HA)のSchirmer値(a)および涙液メニスカス面積値(b)に及ぼす影響各値は,6例の平均値±標準誤差を示す.*:p<0.05,**:p<0.01,AT群との比較(Studentのt検定).#:p<0.05,AT群との比較(Aspin-Welchのt検定).(117)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121143 a2015a:各値は,8例の平均値±標準誤差を示す.Δ涙液メニスカス面積値(mm2)Δ涙液メニスカス面積値(mm2)10:3%ジクアホソル:3%ジクアホソル+0.1%HA:3%ジクアホソル+AT500**##**:p<0.01,3%ジクアホソル+AT群との比較(Tukeyの多重比較検定).##:p<0.01,3%ジクアホソル群との比較**(Tukeyの多重比較検定).5##b:2剤目点眼5分後の涙液メニスカスのフルオレセイン染色像を示す.2剤目点眼後の時間(分)b3%ジクアホソル3%ジクアホソル+AT3%ジクアホソル+0.1%HA30201510503010502剤目点眼後の時間(分)**:3%ジクアホソル+0.1%HA:0.1%HA+3%ジクアホソル図33%ジクアホソル,3%ジクアホソルと人工涙液(AT)あるいは0.1%ヒアルロン酸(HA)の併用の涙液メニスカス面積値に及ぼす影響―Δ涙液メニスカス面積値(a),涙液メニスカス像(b)―III考按図43%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸(HA)の点眼順序が涙液メニスカス面積値に及ぼす影響本研究では,ウサギの涙液貯留量に対する各種点眼液の影響を涙液メニスカス面積値で評価した.まず,図1のとおりフルオレセイン溶液の添加量とΔ涙液メニスカス面積値間に正の相関性があることを確認した.つぎに,0.1%ヒアルロン酸および人工涙液が涙液貯留量に及ぼす影響をシルメル試験紙による測定法と涙液メニスカス面積測定法で比較検討した(図2).涙液メニスカス面積法では,0.1%ヒアルロン酸は人工涙液に比して点眼5分後まで有意に高値を示しており,ヒトの涙液メニスカス曲率半径を指標とした結果6)と類各値は,6例の平均値±標準誤差を示す.**:p<0.01,0.1%HA+3%ジクアホソル群との比較(Studentのt検定).図4に示す.1剤目点眼5分後(図4,2剤目点眼後0分)に2剤目を点眼した後,5,10および30分後に涙液メニスカス面積値を測定した.3%ジクアホソルの点眼5分後に0.1%ヒアルロン酸を併用した群の2剤目点眼5分後のΔ涙液メニスカス面積値は,0.1%ヒアルロン酸の点眼5分後に3%ジクアホソルを併用した群に比して有意に高値を示した.1剤目に0.1%ヒアルロン酸,2剤目に3%ジクアホソルを点眼した場合,Δ涙液メニスカス面積値は2剤目点眼10分後に最高値に達したが,1剤目に3%ジクアホソル,2剤目に0.1%ヒアルロン酸を点眼した群のそれよりは低値であった.2剤目点眼30分後では,どちらの群も同程度のΔ涙液メニスカス面積値を示した.1144あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012似していた.なお,今回シルメル試験紙による涙液貯留量測定法で0.1%ヒアルロン酸の効果が認められなかったのは,ヒアルロン酸の粘稠性がシルメル試験紙の吸収速度を減速させたためと推測している.涙液メニスカス面積測定法は,シルメル試験紙による涙液貯留量測定法に比べて結果の解析に時間を要するものの,無麻酔下で非侵襲的に涙液貯留量を測定できるだけでなく,粘稠性など涙液の質に影響されないこともメリットとしてあげられる.以上より,涙液メニスカス面積値を指標とした涙液貯留量の評価法の妥当性を確認した.続いて,図3aのとおり3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用群では,2剤目点眼5および30分後において,3%ジクアホソル単剤群あるいは3%ジクアホソルと人工涙液の併用群に比べてΔ涙液メニスカス面積値が有意に増加し,涙液貯留量に対する併用効果が認められた.また,図4において3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼にお(118) ける点眼順序の影響を検討したところ,3%ジクアホソルを先に点眼したほうがΔ涙液メニスカス面積値の最大値は大きいことが明らかになった.しかし,2剤目点眼30分後において,Δ涙液メニスカス面積値に点眼順序の違いは認められず,持続効果に点眼順序は影響しないと考えられた.図3bで認められる併用効果を,そのままヒトに置き換えると,流涙さらに霧視などの副作用が懸念される.しかし,ヒトはウサギに比べて涙液の排出率が高い12)ため,臨床では流涙に至らない可能性もある.したがって,涙液貯留量に対する併用効果と併用使用による副作用については,今後さらに臨床検討も必要と思われる.3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用効果の機序の一つとして,ジクアホソルの涙液分泌促進作用3)とヒアルロン酸の保水作用5)により,ジクアホソルにより分泌された涙液をヒアルロン酸が保持していることが推察される.さらに,ヒアルロン酸にはムチンとの相互作用による粘度上昇作用があることも報告されている13).したがって,ジクアホソルのムチン分泌促進作用4,14)により眼表面に分泌されたムチンにヒアルロン酸が相互作用し,ヒアルロン酸自身がもつ保水作用を持続させている可能性も考えられる.また,図4に示すように0.1%ヒアルロン酸を先に点眼した場合,Δ涙液メニスカス面積値は2剤目点眼10分後に最大値を示したが,3%ジクアホソルを先に点眼した場合に比べて低値であった.これは,先に点眼した0.1%ヒアルロン酸が眼表面に滞留している15)ため,3%ジクアホソルが細胞に作用しにくく,涙液分泌促進作用が十分に発揮されていない可能性も考えられる.一方で,3%ジクアホソルの単剤点眼と比べて,1剤目に0.1%ヒアルロン酸,2剤目に3%ジクアホソルを併用点眼すると眼表面の涙液貯留量を持続できる可能性も考えられ,ヒアルロン酸がジクアホソルの眼表面との接触時間を延長させているのかもしれない.併用効果の詳細な機序については,さらなる検討が必要と思われる.また,併用点眼の場合,前述した霧視に加えて,点眼液に含まれる塩化ベンザルコニウムの眼表面への曝露量が増加する可能性が懸念される.角膜上皮障害に対する3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼の影響をラットのドライアイモデルで検討した結果16)では,上皮障害の改善に対して併用効果が認められ,併用点眼による塩化ベンザルコニウムの明らかな影響は認められていないが,臨床上の併用点眼においては注意が必要と思われる.涙液メニスカス面積測定法は,侵襲性が低く,粘稠性など涙液の質に影響されないため,涙液貯留量をより正確に測定する方法として有用であることが明らかとなった.また,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸を併用することにより,3%ジクアホソルの単剤点眼に比して,涙液貯留量の持続的(119)増加作用を示す可能性が示唆され,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用は,ドライアイ治療において有用な治療法として期待される.文献1)横井則彦:ドライアイのEBM.臨眼55:72-85,20012)本田理恵,ムラトドール:ドライアイ治療Overview.あたらしい眼科22:329-336,20053)七條優子,村上忠弘,中村雅胤:正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウムの涙液分泌促進作用.あたらしい眼科28:1029-1033,20114)七條優子,篠宮克彦,勝田修ほか:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用.あたらしい眼科28:543-548,20115)NakamuraM,HikidaM,NakanoTetal:Characterizationofwaterretentivepropertiesofhyaluronan.Cornea12:433-436,19936)GoldingTR,BruceAS,MainstoneJC:Relationshipbetweentear-meniscusparametersandtear-filmbreakup.Cornea16:649-661,19977)KawaiM,YamadaM,KawashimaMetal:Quantitativeevaluationoftearmeniscusheightfromfluoresceinphotographs.Cornea26:403-406,20078)YokoiN,KomuroA:Non-invasivemethodsofassessingthetearfilm.ExpEyeRes78:399-407,20049)WangJ,AquavellaJ,PalakuruJetal:Relationshipsbetweencentraltearfilmthicknessandtearmeniscioftheupperandlowereyelids.InvestOphthalmolVisSci47:4349-4355,200610)MurakamiT,FujitaH,FujiharaTetal:Novelnoninvasivesensitivedeterminationoftearvolumechangesinnormalcats.OphthalmicRes34:371-374,200211)ChanPK,HayesAW:Principlesandmethodsforacutetoxicityandeyeirritancy.PrinciplesandMethodsofToxicology,secondedition,p169-220,RavenPress,NewYork,198912)LeeVH,RobinsonJR:Review:Topicaloculardrugdelivery:Recentdevelopmentsandfuturechallenges.JOculPharmacol2:67-108,198613)川原めぐみ,平井慎一郎,坂本佳代子ほか:ヒアルロン酸点眼液の角膜球面不正指数を指標としたウサギ涙液層安定化作用.あたらしい眼科21:1561-1564,200414)FujiharaT,MurakamiT,NaganoTetal:INS365suppresseslossofcornealepithelialintegritybysecretionofmucin-likeglycoproteininarabbitshort-termdryeyemodel.JOculPharmacolTher18:363-370,200215)MochizukiH,YamadaM,HatoSetal:Fluorophotometricmeasurementoftheprecornealresidencetimeoftopicallyappliedhyaluronicacid.BrJOphthalmol92:108-111,200816)堂田敦義,中村雅胤:ドライアイモデルラットに対するジクアホソルナトリウム点眼液とヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用効果.あたらしい眼科28:1477-1481,2011あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121145