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若年女性の外眼角に発症した緑膿菌による難治性結膜肉芽腫の1例

2020年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科37(4):476.479,2020c若年女性の外眼角に発症した緑膿菌による難治性結膜肉芽腫の1例三宅瞳宮崎大井上幸次鳥取大学医学部視覚病態学講座CACaseofRefractoryConjunctivalGranulomaduetoPseudomonasaeruginosaContheLateralCanthusinaYoungFemalePatientCHitomiMiyake,DaiMiyazakIandYoshitsuguInoueCDivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversityC目的:若年女性の外眼角部に,緑膿菌による難治性の結膜肉芽腫を生じた症例を経験した.症例:26歳,女性.左眼外眼角に眼痛・眼脂を伴う腫瘤性病変が出現し前医を受診した.培養にて緑膿菌が検出され,感受性のある抗菌薬が投与されるも改善せず,腫瘤切除を施行されたが症状の改善はなく,再発を認めたため鳥取大学医学部附属病院眼科(以下,当科)へ紹介となった.当科にて再度腫瘤切除を行ったところ,涙石のような黄色い塊が多数認められた.病巣部を広く切開し十分郭清したことによって再発は認められなかった.結論:本症例は涙腺から結膜への排出管に先天異常などがあり,排出管の閉塞による石灰化をベースに感染を起こしたのではないかと考えられた.本症例が難治性であった原因としては,病巣部が閉鎖空間となっていたため抗菌薬の移行が不良であったことが考えられた.CPurpose:WeCreportCaCcaseCofCrefractoryCconjunctivalCgranulomaCcausedCbyCPseudomonasCaeruginosaConCtheClateralCcanthusCofCaCyoungCwoman.CCase:AC26-year-oldCfemaleCvisitedCanotherCclinicCwithCtheCcomplaintCofCaCtumoronthelateralcanthusofherlefteyefollowedbypainanddischarge.PseudomonasaeruginosaCwasdetectedbyculture.However,shewasreferredtousaftertreatmentwithantibioticsandsurgicalexcisionwasunsuccess-ful.CSheConce-againCunderwentCsurgicalCexcision,CandCnumerousCyellowCmassesCresemblingClacrimalCstonesCwereCobserved.Therefore,weremovedallofthemasses,andleftthewoundwidelyopen,resultinginacompletecurewithnorecurrence.Conclusion:Thiscaseofrefractorytumorwasconsideredtobecausedbyasecondaryinfec-tiontocalci.cationduetoblockadeoftheductfromthelacrimalglandtotheconjunctivabyacongenitalanomaly.Moreover,weconsideredthattheclosedspaceoftheinfectiousfociinhibitedthepenetrationofantibiotics.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(4):476.479,C2020〕Keywords:結膜肉芽腫,緑膿菌,涙腺排出管結石.conjunctivalgranuloma,Pseudomonasaeruginosa,lacrimalglandductulestones.Cはじめに結膜良性腫瘍は,乳頭腫や母斑,.胞が多いとされており,肉芽腫はまれである1).また,結膜肉芽腫は,霰粒腫や異物,外傷後,外眼部術後などによって起こる炎症性の肉芽腫で,感染による化膿性の症例の報告は少ない.今回筆者らは,若年女性の外眼角部に,緑膿菌による難治性の結膜肉芽腫を生じた症例を経験したので報告する.I症例患者:26歳,女性.主訴:左眼の眼脂・異物感.現病歴:平成C26年頃より左眼外眼角に腫瘤性病変が出現し,次第に眼痛,眼脂を認めるようになり近医眼科を受診した.抗菌薬点眼,内服加療を行われるも改善せず,平成C27年C9月末頃,左眼外眼角部に排膿を伴う腫瘤性病変が出現し〔別刷請求先〕三宅瞳:〒683-8504鳥取県米子市西町C36-1鳥取大学医学部視覚病態学分野Reprintrequests:HitomiMiyake,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedeicine,TottoriUniversity,36-1Nishi-cho,Yonago,Tottori683-8504,JAPANC476(100)図1初診時前眼部写真a:外眼角部に腫瘤を認め,周囲に眼脂を伴っている.b:外眼角腫瘤部を拡大したもの.図2術中写真腫瘤を切除すると奥に涙石のような黄色の塊を多数認めた.たため,前医に紹介された.培養検査にて緑膿菌が検出されたため,1.5%レボフロキサシン点眼,ゲンタマイシン点眼,およびレボフロキサシン内服,セフタジジム点滴が行われるも十分改善しなかった.平成C27年C12月,左眼結膜腫瘤切除・病巣開放を施行された.術後は抗菌薬点眼に加え,1.5%レボフロキサシン結膜下注射を週C1回で施行されたが,やや改善を認めるも効果は限定的であった.イソジン点眼も試みられたが,しみるとの訴えで継続できなかった.また,0.1%フルオロメトロン点眼も一時期投与されたが,眼脂が悪化したとの訴えがあり中止となった.その後腫瘤が再発し,眼脂改善も認めなかったため,平成C28年C4月鳥取大学医学部附属病院眼科(以下,当科)紹介初診となった.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:VD=0.1(1.2C×sph.3.75D(cyl.1.50DAx180°),VS=0.1(1.2C×sph.3.75D(cyl.2.00DCAx5°),図3創部の塗抹鏡検(グラム染色C40倍)グラム陰性桿菌を多数認めた.RT=11CmmHg,LT=12CmmHg.左眼外眼角部に肉芽腫性腫瘤を認め,周囲に眼脂を伴っていた.結膜充血は腫瘤周囲に軽度認められた(図1).角膜・前房・中間透光体・眼底には特記すべき所見はなかった.眼脂を培養に供したところ,やはり緑膿菌が検出された.薬剤感受性検査は前医でも当科初診時に行ったものでも,通常緑膿菌に効果のあるどの抗菌薬にも耐性は認めなかった.抗酸菌培養も行ったが検出されなかった.経過:入院のうえ,肉芽腫をきたす全身性の炎症性疾患の鑑別のため採血を施行したが,いずれも正常範囲内であった.入院C4日目,左結膜腫瘍摘出術を施行.結膜を広く切開し,まず肉芽腫を切除すると,奥のほうに涙小管炎でみられる涙石のような黄色い塊が出てきたため除去した(図2).黄色い塊は多数認められ,確認できたものはすべて取り除いた.最後にポビドンヨードで創部を消毒し,創部は開放した図4切除した腫瘤の病理組織化膿性肉芽腫に一致する所見で悪性所見なし.まま終了した.術中切除した組織は黄色い塊も含めて培養・Creal-timePCR・病理検査に提出した.その結果,創部の塗抹鏡検にてグラム陰性桿菌が多数確認された(図3).培養では緑膿菌は検出されなかった.Real-timePCRでは緑膿菌のCDNAが総量C37,000コピー認められた.病理検査では化膿性肉芽腫に一致する所見で,一部石灰化を示す滲出液様の物質を認め,陳旧化した涙腺分泌液などを思わせる所見だが菌は認められず,悪性所見なしとの結果だった(図4).術翌日よりC1.5%レボフロキサシン点眼C6回/日,ベタメタゾン点眼C4回/日,セフタジジム点滴C2Cg/日の投与を開始.術後経過良好にてC9日目に退院となった.その後外来にて経過をみていたが,術後C4カ月の時点で眼脂や肉芽腫の再発は認めず経過良好にて終診となった(図5).CII考按結膜に肉芽腫を生じた症例の報告は国内では数例散見されたが2.10),多くは異物反応によるものや術後に生じたもので,感染性の症例は結核によるものがC1例あるのみだった11).また,本症例のように涙腺部に涙石のような石灰化を認めた症例は,1972年に長嶋らが12),1981年に藤関らが13)報告しているが,最近の報告はない.一方海外では数件の文献が確認され14.20),緑膿菌感染を引き起こした症例もC1例認められた21).本症例は起因菌も検出されており,長期にわたりさまざまな種類の抗菌薬が投与され,一度は外科的処置が行われているにもかかわらず腫瘤が再発し,難治性だった.そのため,まず薬剤耐性菌である可能性が考えられたが,前医での検査も含め培養結果は毎回緑膿菌しか検出されておらず,薬剤感受性検査でも耐性は認められず,否定的だった.また,緑膿菌以外の菌,とくに肉芽腫を形成しやすい結核菌や非定型抗図5最終診察時写真腫瘍は切除され再発なく,眼脂も認められない.酸菌などに感染している可能性も考え,初診時に抗酸菌培養を行ったが検出されず否定的と考えた,また,そもそも感染性でない腫瘤の可能性も考えたが,とくに全身的な既往歴もなく,採血検査などで異常を認めないことなどからも否定的かと思われた.本症例は当科における手術で,深部に多数の結石を認め,外眼角付近の結膜円蓋部にある主涙腺と副涙腺の開口部までの管に先天異常やClacrimalglandductalepithelialcyst(dac-ryops)などの疾患があり,そこが詰まって石灰化を起こし,それをベースに感染を起こしたのではないかと考えられた.また,病巣が深部にあり,抗菌薬が十分病巣まで移行していなかった可能性が考えられた.そのため今回の手術では結膜を広く切開し,できる限り奥まで術野を広げ,腫瘤をすべて切除し,確認できた黄色い涙石のような塊をすべて摘出した.これが菌石ではないかと思われたが,病理検査の結果からは否定的だった.また,創部を開放したことによって,術後抗菌薬の移行がよくなるよう図った.十分な外科的切除および郭清が奏効し,治癒することができた.若年の女性で,眼脂が慢性に出続けるというのはきわめてまれな事態であり,今回のようなまれな病態が隠れている可能性があり,外科的なアプローチを含め徹底した原因究明が必要であると考えられた.文献1)大島浩一,後藤浩:知っておきたい眼腫瘍診療.p67-68,医学書院,20152)武田憲夫,外岡わか,安倍弘晶:眼窩内木片異物による結膜・眼窩の異物性肉芽腫.眼紀34:1785-1788,C19833)綾木雅彦,藤村博美,大出尚郎:シリコンスポンジ縫着術のC20年後に結膜肉芽腫を発症したC1例.眼科手術C6:295-298,C19984)石田乾二,曽谷治之,絵野尚子ほか:長期間放置された結膜異物.あたらしい眼科15:433-435,C19985)上野一郎,吉川洋,向野利一郎ほか:両眼結膜の腫瘤で発見されたサルコイドーシスのC1例.眼紀C56:274-277,C20056)越前成旭,大越貴志子,山口達夫ほか:結膜下腫瘤の組織診により診断に至ったアレルギー性肉芽腫性血管炎のC1例.臨眼60:1605-1608,C20067)森山涼,中村敏,渡辺孝也ほか:治療が遅れた上眼瞼結膜下異物肉芽腫のC6例.臨眼61:1471-1474,C20078)石嶋漢,加瀬諭,野田実香ほか:角結膜上皮内新生物術後に急速に増大した化膿性肉芽腫のC1例.日眼会誌114:C1036-1039,C20109)福居萌,勝村浩三,服部昌子ほか:ハードコンタクトレンズがC3年間結膜.に残存したC1例.眼科C54:1667-1670,C201210)中沢陽子,植田次郎,横山佐知子ほか:睫毛を含む外眼筋周囲白色塊のために眼球運動障害をきたしたC1例.眼臨紀C6:320-323,C201311)齋藤和子,安積淳,塚原康友ほか:抗結核薬内服が奏効した肉芽腫性結膜腫瘍のC1症例.眼紀51:1035-1038,C200012)長嶋孝次:涙腺排出管結石症のC1例.臨眼C26:105-106,C197213)藤関能婦子,小泉屹:涙腺排出管結石のC2例.臨眼C35:1358-1361,C198114)NaitoH,OshidaK,KurokawaKetal:Atypicalintermit-tentCexophthalmosCdueCtoChyperplasiaCofClacrimalCglandCassociatedCwithCdacryolithiasis.CSurgCNeurolC1:84-86,C197315)BakerCRH,CBartleyGB:LacrimalCglandCductuleCstones.COphthalmologyC97:531-534,C199016)ZaferCA,CJordanCDR,CBrownsteinCSCetal:AsymptomaticClacrimalductuledacryolithiasiswithembeddedcilia.Oph-thalmicPlastReconstrSurgC20:83-85,C200417)HalborgCJ,CPrauseCJU,CToftCPBCeta:StonesCinCtheClacri-malgland:aCrareCcondition.CActaCOphthalmolC87:672-675,C200918)AltenF,DomeierE,HolzFGetal:Dacryolithsinthelac-rimalglandductule.ActaOphthalmolC90:155-156,C201219)KimCSC,CLeeCK,CLeeSU:LacrimalCglandCductstones:Cmisdiagnosedaschalazionin3cases.CanadianJournalofOphthalmologyC49:102-105,C201420)ZhaoJ,XuZ,HanAetal:Ahugelacrimalglandductuledacryolithwithahairynucleus:acasereport.BMCOph-thalmolC18:244-245,C201821)MawnLA,SanonA,ConlonMRetal:PseudomonasdacC-ryoadenitisCsecondaryCtoCaClacrimalCglandCductuleCstone.COphthalmicPlastReconstrSurgC13:135-138,C1997***