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広義原発開放隅角緑内障における眼圧季節変動の地域差の検討

2020年10月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科37(10):1315.1318,2020c広義原発開放隅角緑内障における眼圧季節変動の地域差の検討清水美穂*1池田陽子*2,3森和彦*3今泉寛子*1吉井健悟*4上野盛夫*3,4木下茂*5外園千恵*3*1市立札幌病院眼科*2御池眼科池田クリニック*3京都府立医科大学眼科学*4京都府立医科大学生命基礎数理学*5京都府立医科大学感覚器未来医療学CRegionalDi.erenceinIntraocularPressureSeasonalVariationinPrimaryOpenAngleGlaucomaPatientsMihoShimizu1),YokoIkeda2,3)C,KazuhikoMori3),HirokoImaizumi1),KengoYoshii4),MorioUeno3,4)C,ShigeruKinoshita5)andChieSotozono3)1)SapporoCityGeneralHospitalOphthalmology,2)Oike-IkedaEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,4)DepartmentofGenomicMathematicsandStatisticsinMedicalSciences,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,5)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC眼圧季節変動には気候や気温が関与している.今回,札幌市と京都市で広義原発開放隅角緑内障(POAG)の眼圧季節変動を調べた.対象はC2016年の春(3.5月),夏(6.8月),秋(9.11月),冬(12.2月)に眼圧測定でき,市立札幌病院眼科(札幌市)と御池眼科池田クリニック(京都市)通院中の投与薬剤の変更がない広義CPOAG患者,札幌109例,京都C326例である.平均眼圧は春夏秋冬の順に,札幌C13.9C±3.0/13.7±2.8/14.1±3.0/13.6±2.7CmmHg,京都C13.0±3.1/12.3±2.7/12.3±2.8/13.0±2.9CmmHgであった.札幌では有意な眼圧季節変動がなく,京都ではあり,冬季に眼圧が高値であった.CPurpose:Tocompareregionaldi.erencesinintraocularpressure(IOP)seasonalvariation(IOP-SV)betweenprimaryCopen-angleCglaucoma(POAG)patientsCseenCinCSapporoCandCKyoto,CJapan.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC435CPOAGpatients(109CseenCatCSapporoCCityCGeneralCHospital,CSapporo,CJapan,CandC326CseenCatOike-IkedaEyeClinic,Kyoto,Japan)inwhomIOPwasmeasured4timesperseason;i.e.,Season1:Spring(MarchthroughMay)C,CSeason2:Summer(JuneCthroughAugust)C,CSeason3:Fall(SeptemberCthroughNovember)C,CandCSeason4:Winter(DecemberthroughFebruary)C.TheIOPineachseasonwasevaluatedusingrepeatedmeasuresANOVAandWelch’st-testwithBonferronicorrection.Results:IntheSapporoandKyotopatients,themeanIOPinCSeasonsC1-4CwereC13.9±3.0,C13.7±2.8,C14.1±3.0,CandC13.6±2.7CmmHg,CandC13.0±3.1,C12.3±2.7,C12.3±2.8,CandC13.0±2.9CmmHg,respectively.Conclusion:Signi.cantPOAG-relatedIOP-SVwasobservedintheKyotopatients,yetnotintheSapporopatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(10):1315.1318,C2020〕Keywords:広義原発開放隅角緑内障,眼圧季節変動,地域差,皮膚体感温度差.primaryopenangleglaucoma,intraocularpressureseasonalvariation,regionaldi.erence,apparenttemperature.Cはじめに緑内障の進行に関与する因子としてもっともエビデンスの高い要因は眼圧であり,眼圧は日内変動,日々変動,季節変動,体位による変動,体内水分量の変化による変動などさまざまな要因で変動する1.5).眼圧の季節変動に関しては,健常人にも存在するが,緑内障患者においては健常人より変動幅が大きい6)ことが報告されており,眼圧は冬季に高値を示す2,5,7,8).眼圧季節変動の要因は明確に判明していないが,気温が大きく影響していると考えられている.日本は南北に長い地形をしており,北と南では気候や気温が大きく異なって〔別刷請求先〕清水美穂:〒060-8604北海道札幌市中央区北C11条西C13丁目C1-1市立札幌病院眼科Reprintrequests:MihoShimizu,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoCityGeneralHospital,1-1Nishi13-Chome,Kita11-Jo,Chuo-Ku,Sapporo,Hokkaido060-8604,JAPANC表1対象の背景札幌Cn=109京都Cn=326p値性別(男/女)C46/63C139/187C1.000平均年齢(歳)C72.2±9.3C67.8±12.4C0.002病型C0.906POAGC44C92性別(男/女)C24/20C41/51C0.342NTGC65C234性別(男/女)C22/43C98/136C0.474平均眼圧(mmHg)C13.8±2.9C12.7±2.9<C0.001平均点眼スコア(点)C1.5±0.7C1.4±1.5C0.023POAG:開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障.数値はすべて(平均C±SD)で示した.いるが,いずれも夏と冬の気温差が大きい.今回,筆者らは日本最北地域である札幌市(北海道)と本州の中心に近い京都市(京都府)において,広義開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)患者の眼圧季節変動の存在などを調査した.これまで日本の異なる地方における広義CPOAGの眼圧季節変動を比較した報告はない.CI対象および方法対象は札幌市にある市立札幌病院と京都市にある御池眼科池田クリニックに通院中の線維柱帯切開術および線維柱帯切除術の既往のない広義CPOAG患者のうち,2016年の春,夏,秋,冬の各季節に受診し,そのC1年間に投与薬剤の変更がなかった,札幌C109例(男性C46例,女性C63例,平均年齢C72.2C±9.3歳),京都C326例(男性C139例,女性C187例,平均年齢C67.8C±12.4歳)である(表1).季節を,春をC3.5月,夏をC6.8月.秋をC9.11月,冬をC12.2月と規定し,札幌と京都でそれぞれに眼圧季節変動があるかを検討した.眼圧は,両施設ともCGoldmann圧平式眼圧計を用いて,札幌群ではC2名の医師,京都群ではC3名の緑内障専門医が,それぞれ担当の患者についてC1年を通し担当を変えずに測定を行った.同一患者が同一季節内に数回受診した場合は測定できた眼圧を平均して,その季節の眼圧結果とした.測定眼が両眼の場合は右眼を選択した.統計分析は札幌と京都の患者背景の違いをCWelchのCt検定またはCc2検定を用いて評価した.眼圧季節変動はCrepeatedCmeasuresANOVAの実施後,事後解析でCBonferroni補正によるCWelchのCt検定を用いた.また,使用中の緑内障点眼薬の数をスコア化(単剤:1,配合剤:2,内服C1錠をC1とカウント)し,Wilcoxonの順位和検定を用いて評価した.データ表示は平均値±標準偏差,統計解析にはCTheRsoftware(Version3.4.3)を用いた.また,統計的有意水準は5%とした.II結果対象の背景を表1に示す.男女比はCc2検定で有意差はなかったが,平均年齢はCt検定でCp値=0.002と有意に札幌群が高齢であった.点眼スコアは札幌C1.5C±0.7(1.4剤),京都C1.4C±1.5(0.9剤)と札幌が有意に多かった(p=0.023)が,平均点眼本数は両群ともC1.5剤であり,1年を通じて点眼内容も変化がないため,季節変動に点眼スコアが及ぼす影響はないと考えた.眼圧は春夏秋冬の順に札幌C13.9C±3.0/C13.7±2.8/14.1±3.0/13.6±2.7CmmHg,京都C13.0C±3.1/12.3C±2.7/12.3±2.8/13.0±2.9CmmHgであった.Repeatedmea-suresANOVAにて,札幌では眼圧の季節変動がなかった(p=0.593)が,京都では眼圧の季節変動に有意差があった〔春対夏,春対秋,夏対冬,秋対冬(p<0.05)〕(図1).CIII考按患者背景として札幌群と京都群において,男女比はC4対6,病型もPOAG:正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)=4:6で同じであったが,その他の背景要因として平均年齢は札幌C72.2歳,京都C67.8歳と札幌のほうが有意に高齢で,平均眼圧は札幌群C13.8C±2.9CmmHg,京都群C12.7C±2.9CmmHgと札幌群で有意に高かった(WelchのCt検定p<0.001)ことが異なっている.測定時間については後ろ向き研究で統一されていない.CShiose7)は,全身状態と眼圧の関係において,日本人では年齢とともに眼圧が下降することを報告しているが,今回の結果では平均年齢の高い札幌群で眼圧が高かった.またNTGよりCPOAGや高眼圧症で眼圧の季節変動幅が大きいこと8)が報告されている.本研究で眼圧平均値の高い札幌群で眼圧の季節変動の有意差がなかったことから,年齢や平均眼圧が眼圧の季節変動に及ぼす影響はそれほど大きくないと考えられる.また,平均眼圧が収縮期血圧,肥満と正の相関を示すというCShiose7)の報告や,収縮期血圧が眼圧にかかわるという報告7,9,10)があり,血圧が眼圧季節変動にもかかわる可能性があるため,今後検討してゆきたい.眼圧季節変動のパターンについて,今回は図1に示すように京都では夏と比較して気温が下がる春,秋,冬に眼圧が上昇したのに対し,札幌では各季節間の有意差がなかった.一般的に眼圧は夏より冬が高い傾向を示す2,5,7,8).その理由としてはいまだ明確なものはないが,眼圧調整機構に自律神経系が深くかかわっていることが示唆されている.ヒトの交感神経機能は寒冷に晒されると亢進し,血中,尿中カテコラミン含量が冬季に有意に上昇,カテコラミンの上昇がCb受容体を介した房水産生を増加させ,眼圧が上昇すると考えられている11,12).眼圧季節変動に寒冷や交感神経が大きな影響を与えることを踏まえて,札幌と京都の気候,とくに冬季の室内****30.030.025.025.05.05.0*<0.050.00.0春夏秋冬春夏秋冬札幌の眼圧京都の眼圧図1各季節の眼圧京都群は春対夏,春対秋,夏対冬,秋対冬(p<0.05)で眼圧に有意差があった.札幌群では各季節において有意差がなかった.エラーバーは標準偏差を示す.眼圧(mmHg)20.020.015.015.010.010.0環境の影響を考えてみた.日本は南北に長い地形をしており,北と南では気候や気温が大きく異なっている.日本で唯一の亜寒帯気候地域である北海道は図213)に示すように年間の寒暖の差が激しいが,夏は涼しく,冬も部屋や公共場所は暖かく保たれているという特徴がある.一方,京都は日本列島の中心に位置しながら,盆地という特殊な地形上,夏は非常に暑く冬は寒く,寒暖の差が激しい.このC2地域では夏冬の寒暖の差は大きくても体感する温度が違うという特徴がある.張らは,冬季(1.2月)の居間の室温について全国をC6地域に分け調査したところ,北海道は第一位でC22.0℃だったのに対し関西はC15.9℃でC6地域中最下位であったと報告している14).冬季において札幌では室内温度が温暖かつ一定に保持できるよう十分考慮された住宅構造,暖房設備があり,また,外出時も極寒のため長時間の徒歩移動はせず交通機関の利用により外気に晒される時間が短く,公共機関・施設内も温度が高く設定されており,体感皮膚温度の変動が少ないことが,先に示したような交感神経系の持続的な亢進が少ないことにつながり眼圧の変動が小さく,季節変動の差が少なかった一因になったと考えられた.一方,京都は冬季の室内温度も低く,体感皮膚温度の低下により交感神経が長期間亢進され冬季の眼圧上昇につながった可能性が考えられた.札幌で冬季より秋季に眼圧が高かった理由としては,秋季の環境要因の影響,すなわち,冬への移行期間で暖房設備が完備されないまま気温が急に下がる時期のため,逆に冬季に比べて皮膚温度が低かった可能性が考えられた.西野らは15)札幌市の平均気温から,20℃以上になる7.8月を夏季,1℃以下のC3月を含めたC12.3月を冬季とし,4.6月を春季,9.11月を秋季として季節変動を検討したところ,冬季の有意な眼圧上昇があったことを報告している.本検討のような他地域との比較にはこのような解析は選択できないものの,北海道の特殊な気象状況を考慮のうえこのような切り口で解札幌気温(℃)札幌京都C35京都1C.3.5C5.7C302C.2.3C6.4C253C2.1C9.9C4C7.8C16.1C205C14.9C21C156C16.3C23C7C20.7C27.8C108C23.9C29C59C19.4C25.3C010C10.6C19.7C11C2.1C12.5-512C.1C8.2-10123456789101112(月)図22016年札幌と京都の年間気温13)札幌,京都ともに,夏と冬の温度差が大きい.(気象庁ホームページより作成)析をしてみると今回と異なる結果となる可能性がある.緑内障治療の一番強力なエビデンスは眼圧下降である16)が,眼圧はさまざまな要因で常に変動しており,季節や地域もその一つであることがわかった.眼圧変動幅の大きさが視野進行にかかわる17)ということからも,眼圧の季節変動への留意も必要である.今回は使用した点眼スコアは両地域で有意差がなかったが,使用点眼内容については検討していないこと,眼圧測定時刻は後ろ向き研究のため統一されておらず,緑内障患者の多様な背景因子を十分に考慮した検討とはいえない.今後はこれらの要因も考慮したうえでさらに解析をしてゆく予定である.これらの要旨は,第C28回日本緑内障学会で発表した.文献1)安田典子:より質の高い緑内障治療をめざして.あたらしい眼科28:1115-1123,C20112)BlumenthalCM,CBlumenthalCR,CPeritzCECetal:SeasonalCvariationCinCintraocularCpressure.CAmCJCOphthalmolC69:C608-610,C19703)KiuchiCT,CMotoyamaCY,COshikaT:RelationshipCofCpro-gressionCofCvisualC.eldCdamageCtoCposturalCchangesCinCintraocularpressureinparentswithnormal-tensionglau-coma.OphthalmologyC113:2150-2155,C20064)HuntCAP,CFeiglCB,CStewantIB:TheCintraocularCpressureCresponsetodehydration:apilotstudy.EurJApplPhysi-olC112:1963-1966,C20125)IkadaCY,CUenoCM,CYoshiCKCetal:LongitudinalCseasonalCvariationsCofCintraocularCpressureCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCpatientsCasCrevealedCbyCreal-worldCdata.CActaOphthalmologica:1-2,C20206)WilenskyCJT,CGieserCDK,CDietscheCMLCetal:IndividualCvariabilityinthediumalintraocularpressurecurve.Oph-thalmologyC100:940-944,C19937)ShioseY:Intraocularpressure:NewCperspectives.CSurvCOphthalmolC34:413-435,C19908)逸見知弘,山林茂樹,古田仁志ほか:眼圧の季節変動.日眼会誌98:782-786,C19949)SuzukiCY,CIwaseCA,CAraieCMCetal:RiskCfactorCforCopen-angleglaucomainaJapanesepopulation:theTajimiStudy.Ophthalmology113:1613-1617,C200610)KawaseK,TomidokoroA,AraieMetal:Ocularandsys-temicCfactorsCrelatedCtoCintraocularCpressureCinCJapaneseadults:theTajimiStudy.BrJOphthalmolC92:1175-1179,C200811)太田東美,宇治幸隆,服部靖ほか:トラベクレクトミー術後における眼圧季節変動.日眼会誌C96:1148-1153,C199212)長瀧重智,比嘉敏明:房水産生機構:緑内障の薬物療法(東郁郎編),p12-19,ミクス,199013)気象庁ホームページ,2016;www.data.jma.go.jp/obd/Cstats/etrn/index.php14)張会波,吉野博,村上周三ほか:全国の住宅における室内温度環境に関する分析.日本建築学会技術報告集C15:C453-457,C200915)西野和明,吉田富士子,新田朱里ほか:広義の原発開放隅角緑内障患者に対する自動静的視野検査直後の冬期における一過性眼圧上昇.日眼会誌117:990-995,C201316)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5-53,C201817)木内良明:眼圧変動の意義と考え方.臨眼C63(増):28-33,C2009C***