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術後囊内残存粘弾性物質と前囊収縮・後発白内障

2014年2月28日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(2):277.280,2014c術後.内残存粘弾性物質と前.収縮・後発白内障松島博之向井公一郎勝木陽子綿引聡寺内渉永田万由美後藤憲仁青瀬雅資妹尾正獨協医科大学眼科学教室EffectofRemnantOphthalmicViscoelasticDeviceonAnteriorCapsuleContractionandPosteriorCapsularOpacificationHiroyukiMatsushima,KoichiroMukai,YokoKatsuki,SatoshiWatabiki,WataruTerauchi,MayumiNagata,NorihitoGotoh,MasamotoAoseandTadashiSenooDepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversity白内障手術後.内に残存した粘弾性物質が,前.収縮,後発白内障の発生に関与するか実験的に検討した.日本白色家兎を5羽用意し,全身麻酔後白内障手術を施行した.片眼は粘弾性物質を使用して.内に眼内レンズ(IOL)を挿入後,I/Aを使用して粘弾性物質を完全に吸引除去し,僚眼はIOLを.内に挿入後,.内の粘弾性物質は残存させて前房中の粘弾性物質のみ吸引除去し,.内粘弾性物質残存群とした.前.収縮を比較するために,術後1週間,3週間に前眼部徹照像を撮影し,後発白内障は術後3週で眼球を摘出し組織学的に解析した.結果,粘弾性物質残存群では前.収縮と後発白内障が統計学的有意に進行した.前.収縮と後発白内障の抑制に術中粘弾性物質を十分に除去し,術後早期より水晶体.とIOLの接着を進めることが重要である.Theaimofthisstudywastoexaminetheeffectsonanteriorcapsulecontractionandposteriorcapsularopacification(PCO)ofleavingtheophthalmicviscoelasticdevice(OVD)inthecapsule.Fivejapanesealbinorabbitswereprepared;aftertheindicationofgeneralanesthesia,phacoemulsificationandaspirationwereperformed.Inoneeye,anintraocularlens(IOL)wasimplantedandtheOVDwasaspirated;inthefelloweye,theOVDwasaspiratedfromtheanteriorchamberonly,notfromthecapsule.Tocompareanteriorcapsulecontraction,diaphanoscopicimagesoftheanterioreyeweretakenat1and3weeksaftersurgeryandquantified.Eyeswereremovedinpostoperativeweek3andhistologicallystudiedtoevaluatePCO.AnteriorcapsulecontractionandPCOhadprogressedsignificantlyintheremnantOVDgroupbypostoperativeweek3.OurresultssuggesttheimportanceofadhesionbetweenlenscapsuleandIOLininhibitinganteriorcapsulecontractionandPCO.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(2):277.280,2014〕Keywords:前.収縮,後発白内障,粘弾性物質,水晶体.,.屈曲.anteriorcapsulecontraction,posteriorcapsularopacification(PCO),ophthalmicviscoelasticdevice(OVD),lenscapsule,capsularbendformation.はじめに前.収縮,後発白内障は主要な白内障術後合併症である.光学部エッジ形状がシャープな眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を水晶体.内に挿入すると,創傷治癒過程に水晶体.とIOLが接着し.屈曲を形成し,後発白内障の発生を抑制することが知られている1.4).また,水晶体.とIOLが早期に接着するようIOLの表面を改質すると,前.収縮と後発白内障の発生を抑制できる5.8).したがって,術後にIOLと水晶体.の接着を促し,術後早期に.屈曲を形成することが前.収縮と後発白内障発生抑制に重要であると考えられる.他方,白内障手術時に使用する粘弾性物質は,安全に手術を施行するために重要であるが,.内に満たされた粘弾性物質をすべて除去することは困難で術後水晶体.内に残存することがあり9),IOLと.の接着への影響が懸念される.今回,IOL挿入時に使用される粘弾性物質を.内に残存させ,術後早期のIOLと水晶体.の接着を抑制したとき,前〔別刷請求先〕松島博之:〒321-0293栃木県下都賀郡壬生町北小林880獨協医科大学眼科学教室Reprintrequests:HiroyukiMatsushima,DepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversity,880Kitakobayashi,Mibu,Shimotsuga,Tochigi321-0293,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(117)277 a:コントロール群b:.内粘弾性物質残存群図1実験方法概要a:右眼はIOLを.内に挿入後,I/Aを使用して.内および前房中の粘弾性物質を完全に吸引除去し,コントロールとした.b:左眼はビスコートRを.内,オペガンハイRを前房に注入しIOLを.内に挿入後,前房中の粘弾性物質のみ吸引除去し,.内の粘弾性物質は残存させた.ab図2前.切開窓面積解析(a)と後発白内障解析(b)a:前.収縮を定量化するために,眼内レンズ光学部面積(28.26mm2)を100%とした比率から前.切開窓面積を算出した.b:後発白内障の定量には,組織切片を作製し,後.中央部に増殖した上皮細胞層の厚さを計測して平均値を算出し比較した..収縮と後発白内障の発生にどのように影響するか実験的に検証した.I方法日本白色家兎5羽(体重約2.5kg)を用意した.家兎実験に関しては,実験動物の飼養および保管に対する基準(NationalInstitutesofHealthGuideforontheCareandUseofLaboratoryAnimalsinResearchおよびARVOStatementfortheUseofAnimalsinOphthalmicandVisualResearch)に基づいて行った.家兎をケタラールR(塩酸ケタミン:三共)7対セラクタールR(キシラジン塩酸塩:バイエル)1混合液を体重1ml/kgの割合で大腿部に筋肉注射することで全身麻酔した.約5mmのcontinuouscircularcapsulorhexis(CCC)を行い,超音波乳化吸引術(UniversalII,Alcon)を施行し,インジェクターを使用して疎水性アクリルIOL(VA-60BBR,HOYA)を挿入した.片眼は粘弾性物質(オペガンハイR,参天)を使用して.内にIOLを挿入後,I/Aを使用して.内および前房中の粘弾性物質を完全に吸引除去し,コントロール群とした(図1a).僚眼は残存しやすいビスコートR(Alcon)10)を.内,オペガンハイRを前房に注入しIOLを.内に挿入後,.内の粘弾性物質は残存させて前房中の粘弾性物質のみ吸引除去し,.内粘弾性物質残存群とした(図1b).術後ステロイド,抗生物質,非ステロイド系消炎薬の点眼を実験経過中1日2回継続した.前.収縮を比較するために,術後1週間,3週間に前眼部徹照像(EAS-1000,NIDEK)を撮影した.前.収縮を定量化するために,IOL光学部面積(28.26mm2)を100%とした比率から前.切開窓面積を算出した(ScionImage,ScionCorp.,図2a).統計学的解析はunpairedt-検定を使用した.後発白内障の程度を組織学的に解析するため,術後3週で眼球を摘出し,カルノア固定(無水エタノール6,クロロホル3,酢酸1)後,パラフィン切片を作製した.組織切片を作製後,ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色し,光学顕微鏡(OLYMPUS,BX-51)にて観察した.撮影した組織写真より,後.中央部に増殖した上皮細胞層の厚さを計測し,平均値を算出した(ScionImage,ScionCorp.,図2b).統計学的解析はunpairedt-検定を使用した.278あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(118) II結果術後前.収縮の結果を図3に示す.コントロール群の前.切開窓面積は術後1週,3週でそれぞれ13.3±2.9,15.7±4.9mm2に対して,.内粘弾性物質残存群ではそれぞれ14.6±4.0,7.3±5.2mm2であり,術後3週で.内粘弾性物質残存群において統計学的有意(p=0.050)に前.収縮が進行した.後発白内障の発生を比較した後.中央部の組織像を図4に示す.コントロール群と比べて後.・IOL接着抑制群では増殖した水晶体上皮細胞層が肥厚していて,特に上段の2例で増殖が高度であった.後.中央部の組織厚を定量すると,コトインヒビション)となって後.側へ伸展しにくくなり,後発白内障の発生を抑制できると考えられている.また,.屈曲が生じる速度はIOLによって異なり,疎水性アクリルIOLとシリコーンIOLはPMMA-IOLに比べ.屈曲の形成が速やかに行われる11)ことも知られている.これは,臨床:コントロール群■:.内粘弾性物質残存群*p=0.0502520ントロール群では15.8±3.8μmに対し,.内粘弾性物質残存群では55.5±67.0μmであり統計学的有意(p=0.039)に後発白内障が発生した(図5).III考按前.収縮,後発白内障は現在も主要な白内障術後合併症として知られている.後発白内障の発生を抑制するために,IOL光学部エッジ形状をシャープにすることが重要で,術後水晶体.とIOL光学部エッジが接着すると,.屈曲とよばれる状態が形成される1,2)..屈曲が形成されると,残存した水晶体上皮細胞が増殖してもIOLエッジが障害(コンタク*前.切開窓面積(mm2)0図3前.切開窓面積の比較術後1週では両群に差はないが,術後3週で後.・IOL接着抑制群の前.切開窓面積が統計学的有意に小さく,前.収縮が生じている.1W3W15105200μm50μm200μm50μmコントロール群.内粘弾性物質残存群図4後.中央部の組織像上段が低倍率(Bar=200μm),下段が高倍率(Bar=50μm)の後.中央部組織像を示す.コントロール群と比べて.内粘弾性物質残存群では増殖した水晶体上皮細胞層が肥厚している.特に上段の2例で細胞増殖が高度になっている.(119)あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014279 *後.中央部の組織厚(μm)020406080100120140.内粘弾性物質残存群コントロール群*p=0.039020406080100120140.内粘弾性物質残存群コントロール群*p=0.039として.接着以外にも粘弾性物質残存による炎症なども原因になりうるため,今後は粘弾性物質の種類や量による相違などさらなる解析が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし図5後発白内障の比較後.中央部の組織厚を比較すると.内粘弾性物質残存群のほうが統計学的有意に肥厚している.においてPMMA-IOLに比べ疎水性アクリルIOLやシリコーンIOLのYAGレーザーによる後.切開施行率が低いこと12)と一致しており,IOL光学部のエッジ形状だけでなく,IOL光学部材質による.屈曲の形成速度も後発白内障の発生に影響することがわかる..とIOLが接着するメカニズムについてLinnolaは白内障術後に水晶体上皮細胞を介してIOL後面と後.が接着すること13)を示している.過去に筆者らも,水晶体上皮細胞の接着性を向上させた表面改質IOLを使用すると水晶体.とIOLの接着性が向上し,後発白内障を抑制できること5.7)を示した.さらに,IOLと水晶体.の接着は後発白内障だけでなく前.収縮にも影響することがわかってきている.細胞接着性の低いIOLでは前.収縮が生じやすいデータもあり7,8),IOLが水晶体上皮細胞を介して水晶体.と接着することが前.収縮や後発白内障の抑制に重要であると考えられる.今回筆者らは,手術手技も.の接着に影響すると考えた.粘弾性物質は白内障手術に有効なデバイスであるが,IOL後面に残存した粘弾性物質を吸引除去することは煩雑な操作であり,術後に残存してしまうこともある.今回の実験的検討により,IOL挿入時に使用される粘弾性物質を.内に残すと前.収縮と後発白内障が発生しやすくなることがわかった.組織学的に観察するとIOL後面に水晶体上皮細胞が増殖している様子がわかり,水晶体.内に残存した粘弾性物質により水晶体.とIOLの密着が物理的に妨げられ,水晶体上皮細胞の伸展・増殖が進んだと予測できる.また,後発白内障同様に前.収縮も同様の結果が得られ,術後早期の水晶体.とIOLの接着が後発白内障と前.収縮の抑制に重要であることがわかった.粘弾性物質を残存しても後発白内障の程度が少ない症例もあり,今後粘弾性物質の動態などを検証していく必要があるが,白内障術後合併症である前.収縮,後発白内障を抑制するために,術中に粘弾性物質を.内からできるだけ吸引除去することが必要であると思われた.発生原因280あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014文献1)NagataT,WatanabeI:Opticsharpedgeorconvexity:comparisonofeffectsonposteriorcapsularopacification.JpnJOphthalmol40:397-403,19962)NishiO,NishiK:Preventingposteriorcapsuleopacificationbycreatingadiscontinuoussharpbendinthecapsule.JCataractRefractSurg25:521-526,19993)HayashiK,HayashiH,NakaoF:Changesinposteriorcapsuleopacificationafterpoly(methylmethacrylate),silicone,andacrylicintraocularlensimplantation.JCataractRefractSurg27:817-824,20014)HollickEJ,SpaltonDJ,UrsellPGetal:Theeffectofpolymethylmethacrylate,silicone,andpolyacrylicintraocularlensesonposteriorcapsularopacification3yearsaftercataractsurgery.Ophthalmology106:49-55,19995)MatsushimaH,IwamotoH,MukaiKetal:Activeoxygenprocessingforacrylicintraocularlensestopreventposteriorcapsuleopacification.JCataractRefractSurg32:1035-1040,20066)MatsushimaH,IwamotoH,MukaiKetal:Preventionofposteriorcapsularopacificationusinground-edgedPMMAIOL.JCataractRefractSurg33:1133-1134,20077)MatsushimaH,IwamotoH,MukaiKetal:PossibilityofpreventingposteriorcapsularopacificationandCCC(continuouscurvilinearcapsulorhexis)contractionbysurfacemodificationofintraocularlenses.ExpertRevMedDevices5:197-207,20088)NagataM,MatsushimaH,MukaiKetal:Comparisonofanteriorcontinuouscurvilinearcapsulorhexis(CCC)contractionbetween5foldableintraocularlensmodels.JCataractRefractSurg34:1495-1498,20089)松浦一貴,三好輝行,吉田博則:水晶体.と眼内レンズは密着している.IOL&RS27:63-66,201310)枝美奈子,松島博之,寺内渉:各種粘弾性物質の前房内滞留性と角膜内皮保護作用.日眼会誌110:31-36,200511)NishiO,NishiK,AkuraJ:Speedofcapsularbendformationattheopticedgeofacrylic,silicone,andpoly(methylmethacrylate)lenses.JCataractRefractSurg28:431437,200212)ChengJW:Efficacyofdifferentintraocularlensmaterialsandopticedgedesignsinpreventingposteriorcapsularopacification:ameta-analysis.AmJOphthalmol143:428-436,200713)LinnolaRJ:Sandwichtheory:Bioactivity-basedexplantationforposteriorcapsuleopacification.JCataractRefractSurg23:1539-1542,1997(120)

白内障手術における着色ディスコビスクRの臨床使用

2010年3月31日 水曜日

———————————————————————-Page1(109)3870910-1810/10/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科27(3):387390,2010cはじめに白内障手術において,水晶体超音波乳化吸引術が標準的な術式となり,装置や手術手技の進歩により眼組織への侵襲が非常に少なくなった.これらの進歩に加え,粘弾性物質が空間を維持することで手術の操作性を向上させ,さらに,前房内に滞留することで器具と眼内組織,あるいは超音波乳化吸引術で破砕された水晶体核片と角膜内皮の接触を軽減することが期待されている.近年,粘弾性物質の英語名称は“vis-coelasticmaterial”から“ophthalmicviscosurgicaldevic-es”に標準化され1),よりいっそう,術中の道具としての役割が注目されている.粘弾性物質は,凝集型と分散型に分類され,それぞれの特性を生かしたソフトシェル法が術中に角膜内皮保護する面から広く使われている2).新しく開発されたディスコビスクRは,分散型のビスコートRと同じヒアルロン酸ナトリウムとコンドロイチン硫酸エステルナトリウムの配合剤であるが,コンドロイチン硫酸は4%のままで,ヒアルロン酸ナトリウムの分子量を高くし,濃度を1.65%と低くすることで,分散型の眼内滞留性を保ちつつ,手術終了時の吸引除去が容易な凝集型の利点が加わることが期待されている.〔別刷請求先〕ビッセン宮島弘子:〒101-0061東京都千代田区三崎町2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科Reprintrequests:HirokoBissen-Miyajima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital,2-9-18Misaki-cho,Chiyoda-ku,Tokyo101-0061,JAPAN白内障手術における着色ディスコビスクRの臨床使用ビッセン宮島弘子吉野真未東京歯科大学水道橋病院眼科ClinicalUseofStainedDisCoViscRinCataractSurgeryHirokoBissen-MiyajimaandMamiYoshinoDepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital凝集型と分散型の特徴を有する新しい粘弾性物質であるディスコビスクRをフルオレセインで着色し,白内障手術時の眼内動態を観察した.本臨床治験の目的を説明し同意の得られた加齢白内障11例11眼,男性6例,女性5例,平均年齢70.9歳を対象とし,ディスコビスクRを前房内注入して前切開後,水晶体超音波乳化吸引時における眼内滞留状況を術者が4段階評価し,灌流・吸引チップによる除去時間も測定した.安全性の確認として術前から術30日後に矯正視力,眼圧,角膜厚,角膜内皮細胞を観察した.ディスコビスクRは水晶体核超音波乳化吸引術直後,全例において眼内滞留が確認され,27.7%は十分,72.7%はかなり残ったという評価で,除去に要した時間は4.2±2.6秒であった.臨床上問題になる眼圧,角膜厚,角膜内皮細胞数への影響はなかった.着色ディスコビスクRにより超音波乳化吸引時の滞留状態が確認され,角膜内皮保護の面で有用な手術補助剤であることが示唆された.TheDisCoViscR,anewlydevelopedophthalmicviscosurgicaldevice(OVD)thathasbothcohesiveanddisper-sivecharacteristics,wasstainedwithuoresceinanditsbehaviorinsidetheeyewasobservedunderanoperatingmicroscope.Informedconsentwasobtainedfromthe11cataractpatients(11eyes)takingpartinthisclinicaltrial.FollowingtheinjectionofDisCoViscRintotheanteriorchamberandanteriorcapsulorrhexis,residualDisCoViscRafterphacoemulsicationandthedurationofaspirationusingtheirrigation/aspirationtipwereevaluated.Inallcases,DisCoViscRremainedintheeyeuntilthenuclearfragmentshadbeenaspirated,theaveragetimeofremovalbeing4.2±2.6seconds.Noneofthecasesshowedanyadverseeectonvisualacuity,intraocularpressure,cornealthicknessorendothelialcellcount,upto1monthpostoperatively.StainingwasusefulinevaluatingDisCoViscRbehaviorinsidetheeye;possibleprotectionofthecornealendotheliumduringphacoemulsicationwassuggested.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(3):387390,2010〕Keywords:粘弾性物質,ヒアルロン酸ナトリウム,白内障手術,眼内滞留能,角膜内皮保護.ophthalmicvisco-surgicaldevice,sodiumhyaluronate,cataractsurgery,intraocularretentionability,endotheliumprotection.———————————————————————-Page2388あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(110)筆者らは摘出豚眼を用いて,実験的に着色したディスコビスクRの眼内滞留能を観察した3,4)が,実際の白内障手術においては,眼球の大きさ,すなわち前房容積が異なり,さらに,混濁した水晶体を操作する際,超音波チップの向きや動きに差があり,滞留能が異なる可能性は否定できない.今回,着色したディスコビスクRを用いた白内障手術における臨床治験の機会を得たので,その成績を報告する.I対象および方法1.対象本臨床治験は,日本人白内障患者を対象に実施した眼内滞留能試験で,選択基準は超音波水晶体乳化吸引術による白内障摘出および眼内レンズ挿入術を必要とする40歳以上の加齢白内障例で,核硬度2以下(Emery-Little分類),緑内障,角膜疾患など視力に影響する眼疾患を合併していない11例11眼を対象とした.本研究は施設の治験審査委員会にて審議された後,ヘルシンキ宣言に則り,患者から治験参加前にインフォームド・コンセントを取得し,術前検査,手術,術後経過観察が行われた.2.術式および術中評価方法点眼麻酔下,2.4mmの耳側角膜切開後,着色ディスコビスクRを前房内に注入し,チストトームにて直径5.05.5mmの前切開,ハイドロダイセクションを行い,その後,混濁した水晶体を超音波水晶体乳化吸引術にて除去した.使用した超音波乳化吸引装置はアルコン社INFINITIRで,灌流ボトルの高さは85cm,流量は毎分23ml,最大吸引圧は390mmHg,OZilTMtorsionalハンドピースに0.9mmフレア・ケルマンタイプの超音波チップとウルトラスリーブをセットし,全例torsional振動のみで出力70%設定を用いた.術式はPhacoChopによる二手法で,水晶体核吸引除去までに着色ディスコビスクRの残留状況を①十分残った(角膜内皮は十分に保護されていたと考えられる),②かなり残った(角膜内皮は保護されていたと考えられる),③少し残った(角膜内皮保護は不十分であったと考えられる),④残らなかった(角膜内皮保護はなかったと考えられる)の4段階で術者自身が術中所見および録画ビデオ画像から総合評価した.さらに超音波乳化吸引後に前房内に残留した着色ディスコビスクRを定量的に評価するために,皮質吸引に用いる灌流・吸引(irrigation/aspiration:I/A)チップで残留した着色ディスコビスクRの吸引除去に要する時間を,I/Aチップによる着色ディスコビスクR吸引開始から完全消失するまでに要した時間を録画画像から測定した5).その後,残った皮質をI/Aチップで除去し,再度着色ディスコビスクRで前房および水晶体を満たし,アルコン社製アクリソフRシングルピースSN60ATをCカートリッジにセットし,インジェクターを用いて水晶体内挿入した.1例ごとのディスコビスクR使用量の平均は,前切開前の眼内注入0.25±0.05ml,眼内レンズセット用カートリッジ内0.10±0.04ml,眼内レンズ挿入前の水晶体形成0.13±0.04ml,計0.48±0.05mlであった.3.術後評価項目着色ディスコビスコR使用の安全性を確認する目的で,白内障手術後1,7,30日後に矯正視力,Goldmann圧平式眼圧計にて眼圧,スペキュラーマイクロスコピー(ノンコンロボ:コーナン社)にて角膜厚,角膜内皮細胞数を測定した.II結果全例,着色ディスコビスクRを手術顕微鏡下で十分に観察可能であった.着色ディスコビスクRを前房内に注入した際の顕微鏡下画像と,無着色凝集型粘弾性物質(アルコン社プロビスクR)を注入した同顕微鏡下画像を図1に示す.着色ディスコビスクR使用下,前切開,水晶体超音波乳化吸引図1a着色ディスコビスクR注入角膜切開後,前切開前に前房内に注入された着色ディスコビスクRは緑がかった色で確認できる.図1b無着色プロビスクR注入無着色プロビスクRは透明なため,前房内で観察することは困難である.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010389(111)術といった白内障手術手技に影響はなく,術中合併症はなかった.水晶体核の超音波水晶体乳化吸引直後における着色ディスコビスクRの眼内滞留能の評価は十分に残ったが27.3%(3/11例),かなり残ったが72.7%(8/11例)で,角膜内皮保護作用がないと考えられる少し残った,残らなかったという評価を得た症例はなかった.水晶体超音波乳化吸引直後のサイドビューで撮影したビデオからの静止画像を図2に示す.眼内がやや緑色に見えるが,これが残留した着色ディスコビスクRである.つぎに,超音波チップによる水晶体核およびエピヌクレウス除去後に,I/Aチップを眼内に挿入し,残留着色ディスコビスクRを完全に吸引除去するのに要した時間は,4.2±2.6秒(08秒)であった.0秒であった2例は,超音波チップにて水晶体核の乳化吸引除去まで着色ディスコビスクRが確認されたため,術者評価はかなり残ったとされたが,エピヌクレウスをI/Aチップでなく超音波チップで吸引除去する際,エピヌクレウスと一緒に着色ディスコビスクRが吸引されたため,I/Aチップでの吸引除去が必要なかった例である.術後矯正視力は,術前より低下した例はなく,術後30日における平均1.2,11例中10例が1.2以上と良好な結果であった.1例のみ矯正視力0.7で,年齢は86歳,術前は水晶体混濁のため,眼底の詳細な観察が困難であった.術後,加齢黄斑変性症が認められ,これが視力0.7の原因と考えられたが,所見から手術による影響ではなく術前から存在するものと考えられた.その他,安全性評価として眼圧,角膜厚,角膜内皮細胞数の術前から術後30日までの変化を図3,4に示す.眼圧は術後1日,角膜厚は術後7日でピークを示したが,臨床上問題となる変化はなかった.角膜内皮細胞数は術前が2,610.1±300.4/mm2,術後30日が2,613.8±362.5/mm2で,術後30日の変化率は0.1±7.7%と,ほとんど変動が認められなかった.III考按現在,臨床使用可能な着色粘弾性物質はなく,近年の水晶体超音波乳化吸引装置を用い臨床治験目的で作製された着色ディスコビスクRによる今回の術中観察結果,および術後成績は,粘弾性物質の特徴を理解するうえで有用と思われる.今回の症例数は臨床治験のため限られているが,1992年に着色粘弾性物質を眼内レンズ挿入術に用いた臨床成績がわが国および海外から報告されている6,7).当時の着色目的も眼内挙動をみることで,手術手技や術後炎症への影響がないことが確認され,ヒーロンイエローRという名称で販売された.しかし,現在のように眼内滞留して眼組織を保護するという面での関心度は低く,広く普及するには至らず製造中止となっている.眼内への毒性については,1mlヒアルロン酸ナトリウム10mgにフルオレセインナトリウム0.005mg含有の凝集型粘弾性物質を家兎眼の前房内に注入し,眼圧,角膜および全身性に影響がないことが報告されている8).今回は,術後30日までの結果で着色による問題は認められなかった.図2超音波乳化吸引直後に残った着色ディスコビスクRサイドビュービデオカメラで撮影した眼内の様子.水晶体超音波乳化吸引後,超音波チップを眼外に出したところで,角膜裏側に緑色の着色ディスコビスクRの存在が確認できる.05101520術前術後24時間術後7日術後30日眼圧(mmHg)測定時期n=11図3術前から術後30日までの眼圧変化術前から術後1,7,30日の各検査日の眼圧は20mmHg以下,標準偏差(縦線)は2.9mmHg以内であった.00.20.40.6角膜厚(mm)術前術後7日術後30日測定時期n=11図4術前から術後30日までの角膜厚の変化術前と比較して術後7日でやや角膜厚の平均値は増えているが,標準偏差(縦線)は0.03mm以内で,臨床的に問題になるような変化はなかった.———————————————————————-Page4390あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(112)また,本治験期間以降,11例中7例は1921カ月後に経過観察が可能であった.矯正視力が低下した例はなく,角膜内皮細胞数は平均2,600±370.8/mm2,変化率は治験期間である術後30日では術前の0.1±7.7%に比べて2.4±9.8%と増加していたが,通常の白内障手術後と比較して問題になる例はなかった.水晶体核の超音波乳化吸引術中の前房内滞留能について,通常使用している粘弾性物質は透明なため,存在を確認することは困難である.今回使用した着色ディスコビスクRは,手術顕微鏡下で術者が確認でき,録画画像でも色の違いで観察可能であった.フルオレセイン染色した粘弾性物質は,実際の手術に使用できるものが承認されていないため,各施設で粘弾性物質をフルオレセイン染色し,摘出豚眼や家兎眼を用いた実験環境で用いられている.眼内挙動について,各種粘弾性物質を用いた報告がわが国および海外であり911),眼内滞留能をみるため,共焦点顕微鏡や前眼部解析装置が用いられている.これらの報告で,分散型ビスコートRが量的に残りやすいとされているが,新しく開発されたディスコビスクRは従来の凝集型と比べ残留が良好なことが,すでに確認されている4,12,13).着色ディスコビスクRは手術顕微鏡下で術者が確認でき,録画画像からも色の違いで観察可能である.十分残ったあるいはかなり残ったという評価は,従来の実験結果と同様で,水晶体核の乳化吸引時に角膜内皮と直接接触することを予防できる可能性が高い.ほかに定量的に比較する方法として,眼内に残留した粘弾性物質を吸引除去するのに必要な時間を測定する方法がある5).今回,術中に残留した粘弾性物質を確認するために,この方法を用い,I/Aチップで吸引除去に要した時間は平均約4秒であった.豚眼の実験では,眼内に注入したディスコビスクRの量が多く,かつ吸引除去する空間が広いため,より長時間要したと考えられる.また,ディスコビスクRを直接吸引除去する目的で,I/Aチップの吸引孔を近づけて吸引すると,短時間で除去でき,凝集型の特性がでていた.このことは,除去が容易という実験結果と同様であるが,水晶体超音波乳化吸引術中,超音波チップをディスコビスクRに近い位置で操作すると眼内から吸引除去される可能性がある.今回の症例のうち2例はエピヌクレウスを吸引除去する目的で超音波チップをやや前房の浅い部分に向けた際にエピヌクレウスと一緒に着色ディスコビスクRの消失が観察されている.今後,ディスコビスクRの眼内滞留能の特性を生かすには,超音波チップの向き,灌流条件の設定を考慮する必要があると思われた.ディスコビスクRは海外ですでに臨床使用されており,角膜内皮保護の面で良好な結果が報告されているソフトシェル法と比較し,術後内皮細胞の面で同等の結果であったという報告がある14).今回の臨床治験より,超音波乳化吸引時に眼内に滞留し角膜内皮保護する可能性が示唆されたが,先に述べた超音波チップや装置の設定に加え,核硬度,前房深度が影響すると思われるので,今後,さらに症例を増やして評価されることが望まれる.文献1)LaneSS:OphthalmicViscosurgicalDevices:PhysicalCharacteristics,ClinicalApplications,andComplications.InSteinertRF(ed):CataractSurgeryTechniqueCom-plicationsManagement.p43-50,Saunders,Philadelphia,20042)ArshinoSA:Dispersive-cohesiveviscoelasticsoftshelltechnique.JCataractRefractSurg25:167-173,19993)Bissen-MiyajimaH:Invitrobehaviorofophthalmicvis-cosurgicaldevicesduringphacoemulsication.JCataractRefractSurg32:1026-1031,20064)YoshinoM,Bissen-MiyajimaH:Residualamountofoph-thalmicviscosurgicaldevicesonthecornealendotheliumfollowingphacoemulsication.JpnJOphthalmol53:62-64,20095)OshikaT,OkamotoF,KajiYetal:Retentionandremov-alofanewviscousdispersiveophthalmicviscosurgicaldeviceduringcataractsurgeryinanimaleyes.BrJOph-thalmol90:485-487,20066)SmithKD,BurtWL:Fluorescentviscoelasticenhance-ment.JCataractRefractSurg18:572-576,19927)増田寛次郎,今泉信一郎,坂上達志ほか:フルオレセイン-Na添加ヒアルロン酸ナトリウム製剤PHY-89の眼内レンズ挿入術に対する臨床試験成績.眼臨86:80-88,19928)西田輝夫,大鳥利文,勝山巌:PHY-89の家兎前房内注入による影響.眼紀43:73-79,19929)枝美奈子,松島博之,小原喜隆:異なる超音波乳化吸引設定による粘弾性物質の前房内動態.あたらしい眼科22:1567-1571,200510)井口俊太郎,谷口重雄,西村栄一ほか:ビスコアダプティブ粘弾性物質の前房内動態に関する実験的検討.IOL&RS18:294-298,200411)Bissen-MiyajimaH:Ophthalmicviscosurgicaldevices.CurrOpinOphthalmol19:50-54,200812)枝美奈子,松島博之,寺内渉ほか:各種粘弾性物質の前房内滞留性と角膜内皮保護作用.日眼会誌110:31-36,200613)PetrollWM,JafariM,LaneSSetal:Quantitativeassess-mentofviscoelasticretentionusinginvivoconfocalmicroscopy.JCataractRefractSurg31:2363-2368,200514)PraveenMR,KoulA,VasavadaRetal:DisCoViscversusthesoft-shelltechniqueusingViscoatandProviscinphacoemulsication:Randomizedclinicaltrial.JCataractRefractSurg34:1145-1151,2008***

粘弾性物質でSchlemm管を拡張するサイノストミー併用トラベクロトミーの検討

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page1(111)8610910-1810/08/\100/頁/JCLS《第18回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科25(6):861864,2008cはじめにサイノストミー併用トラベクロトミー(LOT+SIN)は,トラベクロトミー(LOT)術後に起こる一過性眼圧上昇の予防を目的にサイノストミー(SIN)を追加し,流出路再建術に濾過手術のエッセンスを加えたともいえる手術であり,術後眼圧は15mmHg程度にコントロールされるという報告1,2)が多い.この術式は安定した降圧効果に加え,重篤な合併症が従来の濾過手術に比べ明らかに少ないという大きな利点があるにもかかわらず,現状ではマイトマイシン併用トラベクレクトミーに取って代わる第一選択の手術となっている施設は少ない.その原因としては,目標眼圧が15mmHgよりも低い進行症例が多いことや,わが国では正常眼圧緑内障が多〔別刷請求先〕徳田直人:〒216-8511川崎市宮前区菅生2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学講座Reprintrequests:NaotoTokuda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi216-8511,JAPAN粘弾性物質でSchlemm管を拡張するサイノストミー併用トラベクロトミーの検討徳田直人井上順上野聰樹聖マリアンナ医科大学眼科学講座TrabeculotomyCombinedwithSinusotomyafterSchlemm’sCanalDilatationwithaViscoelasticSubstanceNaotoTokuda,JunInoueandSatokiUenoDepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicine目的:Schlemm管内に粘弾性物質を注入後に行うサイノストミー併用トラベクロトミー(LOT+SIN)の術後成績を検討した.対象および方法:2年以上経過観察が可能であった73例90眼(平均年齢51.2歳).LOT+SINのみを施行した50眼をLOT群,Schlemm管内に粘弾性物質を注入した40眼をVC+LOT群とし比較検討した.結果:LOT群は術前26mmHgが術後30カ月で14mmHgへ,VC+LOT群では術前27mmHgが14mmHgへと,両群とも良好な眼圧下降を維持した.術後3年の累積生存率はLOT群70%,VC+LOT群76.8%であった.術後炎症を示す前房フレア値は術後3日目でVC+LOT群はLOT群に比し有意に低く,VC+LOT群のほうが術後速やかな消炎が得られた.線維柱帯切開時の早期穿行はVC+LOT群では1例も認められなかった.結論:VC+LOTは安全かつ有効な術式といえる.Westudiedthepostoperativeresultsoftrabeculotomycombinedwithsinusotomy(LOT+SIN)carriedoutafterinjectingaviscoelasticsubstanceintoSchlemm’scanal.Thesubjectscomprised90eyesthatcouldbefol-lowedformorethan2years(meanage:51.2years).Wecompared50eyesthatunderwentLOT+SINonly(LOTgroup)and40eyesthatreceivedLOT+SINafterviscoelasticsubstanceinjectionintoSchlemm’scanal(VC+LOTgroup).Bothgroupsmaintainedgooddecreasesinintraocularpressure(IOP),withanaveragepreoperativeIOPof26mmHgdecreasingto14mmHgat30monthsaftersurgeryintheLOTgroupandof27mmHgdecreasingto14mmHgintheVC+LOTgroup.Thecumulativesurvivalrateat3yearsaftersurgerywas70%intheLOTgroupand76.8%intheVC+LOTgroup.Theanteriorchamberarevaluesat3daysaftersurgeryweresignicantlylowerintheVC+LOTgroupthanintheLOTgroup;inammationalsodisappearedmorerapidlyintheVC+LOTgroup.TherewerenocasesofearlyperforationduringtrabeculotomyintheVC+LOTgroup.TheabovendingsthereforesuggestthatVC+LOTisasafeandeectivesurgicalprocedure.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(6):861864,2008〕Keywords:サイノストミー併用トラベクロトミー,viscocanalostomy,粘弾性物質,bloodreux.trabeculotomycombinedwithsinusotomy,viscocanalostomy,viscoelasticsubstance,bloodreux.———————————————————————-Page2862あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(112)II結果図1に各群における眼圧の推移を示す.術前眼圧は両群間に有意差は認めなかった.LOT+SIN群は術前25.7mmHgが術後30カ月で14.0mmHgへと,VC+LOT+SIN群では術前27.2mmHgが14.5mmHgへと,両群ともに良好な眼圧下降を維持していた.経過観察期間中,両群間で有意差を認めることはなかった.図2に薬剤スコアの比較について示す.術前の薬剤スコアに両群間で有意差は認めなかった.LOT+SIN群は術前4.7点が術後30カ月で2.4点へ,VC+LOT+SIN群では術前3.4点が1.7点へと減少した.図3に各群のKaplan-Meier法による生存分析の結果を示す.各群の術後3年の累積生存率はLOT+SIN群70%に対し,VC+LOT+SIN群は76.8%と若干VC+LOT+SIN群のほうが高値であった.図4に各群の術後早期の前房フレア強度の推移について示す.術翌日はLOT+SIN群93.3±59.7pc/ms,VC+LOT+SIN群82.3±50.2pc/msと両群とも高値であったが,術後3いということも一因と思われるが,実際この術式を行おうとしても,熟達した指導者が少ないということも重要な要因と考える.当院におけるLOT+SINは,不慣れな術者が行う場合は特に,トラベクロトームをSchlemm管内に挿入する際に,viscocanalostomy(VC)と同様に粘弾性物質をSchlemm管内に注入し,Schlemm管開口部を拡張させてからLOTを行うようにしている.しかし当然のことながらLOT後に粘弾性物質が前房内に流入する可能性が少なくないため,術後炎症の増強などが懸念される.そこで今回,粘弾性物質でSchlemm管を拡張するLOT+SINの術後成績について検討したので報告する.I対象および方法1.対象とその分類対象は平成15年から17年までにLOT+SINを施行され,2年以上経過観察が可能であった73例90眼(男性54眼,女性36眼)で,平均年齢は51.2±19.3歳であった.病型の内訳は,原発開放隅角緑内障57.8%,ぶどう膜炎による緑内障18.9%,ステロイド緑内障14.4%,落屑緑内障8.9%であった.Schlemm管を拡張する操作の追加による影響を検討するために,このLOT+SINを施行した90眼を,LOT+SINのみを施行した50眼をLOT+SIN群(平均年齢:50.7±19.2歳),Schlemm管内に粘弾性物質を注入した後にLOTを施行した40眼をVC+LOT+SIN群(平均年齢51.9±19.2歳)とし比較検討した.2.検討項目眼圧はGoldmann圧平眼圧計により測定し,術前後の眼圧推移について検討した.その期間に使用していた薬剤を,抗緑内障点眼薬1剤につき1点,炭酸脱水酵素阻害薬内服は2点というように薬剤スコアとして評価した.生存分析はKaplan-Meier法により行った.死亡の定義は眼圧が観察期間中,2回連続して20mmHg以上を記録するか,再手術またはレーザー治療を施行した時点とした.術後炎症の程度は,レーザーフレアメーターFL-2000R(興和)により術前後の前房フレア値を測定し評価した.また術後合併症についても比較した.3.術式当院におけるLOT+SINは,輪部基底結膜弁を作製後,強膜に二重弁を作製し,Schlemm管を同定する.その後VC+LOT+SIN群では,Schlemm管内に粘弾性物質(オペリードR)を注入し,Schlemm管の拡張を行ったのちにトラベクロトームを挿入し,線維柱帯を切開する.その後内方強膜弁を切除し,外方強膜弁を縫合し,サイノストミーパンチにてSINを行い,結膜を縫合し,手術終了としている.図1眼圧推移の比較2730術前13691215182124観察期間(月)0510152025303540:VC+LOT+SIN群:LOT+SIN群眼圧(mmHg)図2薬剤スコアの比較抗緑内障点眼薬1剤につき1点,炭酸脱水酵素阻害薬内服は2点とした.2730術前13691215182124観察期間(月)01234567:VC+LOT+SIN群:LOT+SIN群薬剤スコア(点)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008863(113)進める三宅の報告よりも,粘弾性物質の注入量は明らかに少ないという点である.しかし当院におけるこの方法でも,線維柱帯を切開した部分よりも遠くの位置でDescemet膜離を起こした症例があり,粘弾性物質は少量でもSchlemm管の奥まで到達し,その部分を拡張させている可能性が示唆された.VCによる降圧効果の機序にはまだ不明な点が多いが,粘弾性物質によりSchlemm管が拡張されることが眼圧下降に働くとするなら,このようにLOTで切開された部分よりも遠位での粘弾性物質によりSchlemm管の拡張が得られた場合,眼圧下降という点において,LOTの効果にVCの相加効果も期待できるのではないかと考えられたが,今回の検討では両者の相加効果といえるほどの効果は得られてはいない.第二の相違点は,粘弾性物質の種類である.Stegmann4)や三宅3)は,高粘弾性のヒアルロン酸ナトリウムを使用しているのに対して,当院では中分子量のオペリードRをあえて使用しているという点である.三宅はVC時の粘弾性物質の違いについてHealonRGVとHealonRVを比較した結果,HealonRVのほうが一過性眼圧上昇の頻度が高く,その原因として,VC施行時に線維柱帯が破壊され(viscotrabeculoto-my)房水の流れが阻害されたためとしている.つまり,VC日においてはLOT+SIN群で65.0±49.2pc/msであったのに対して,VC+LOT+SIN群で37.5±27.8pc/msと有意に低く,VC+LOT+SIN群のほうが術後速やかな消炎が得られるという傾向がみられた.表1に術後合併症の頻度について示す.線維柱帯切開時のSchlemm管への誤挿入による早期穿行はLOT+SIN群の4%存在したがVC+LOT+SIN群では1例も認めなかった.前房出血はLOT+SIN群で90%と高値であるのに対しVC+LOT+SINでは50%に留まった.術後1カ月以内において眼圧が30mmHg以上もしくは前回の眼圧測定時より10mmHg以上の眼圧上昇したものを一過性眼圧上昇と定義した.一過性眼圧上昇は,LOT+SIN群で12%,VC+LOT+SIN群で5%であった.その他,房水漏出はLOT+SIN群10%,VS+LOT+SIN群12.5%,脈絡膜離はLOT+SIN群2%,VC+LOT+SIN群5%とほぼ同等の頻度であった.III考按筆者らが行っているVC+LOT+SINは,Schlemm管にトラベクロトームを挿入する前に粘弾性物質によりSchlemm管が拡張されているため,トラベクロトームの挿入がかなり容易であった.その点はトラベクロトームの挿入という比較的難易度の高い操作がearlyperforationなしで行えたという意味で評価できる.そのうえ,LOT+SINと遜色ない術後経過が得られるため,有効な術式と考えられるが,その術式と術後合併症について以下のように解析した.筆者らの施設で行っているVC+LOT+SINにおけるVCは,三宅が報告しているVC3)とは異なる点が2点存在する.第一の相違点は,筆者らのVC+LOT+SINにおけるVCはあくまでもSchlemm管内にトラベクロトームの挿入を簡便にする目的で追加した操作であるため,34回に分けてSchlemm管開口部近くから徐々に奥のほうへカニューレを図3各群の累積生存率死亡定義:眼圧が観察期間中2回連続し20mmHg以上または再手術,レーザー治療時.観察期間(カ月)510152025303500.20.40.60.81術前:VC+LOT+SIN群:LOT+SIN群累積生存率図4術後早期のフレア値の比較020406080100120140160180術前1371430観察期間(日)*:VC+LOT+SIN群:LOT+SIN群*:p<0.05前房フレア値(pc/ms)表1術後合併症LOT+SIN群VC+LOT+SIN群早期穿孔2例/50例(4.0%)0例/40例(0%)前房出血45例/50例(90.0%)20例/40例(50.0%)一過性眼圧上昇6例/50例(12.0%)2例/40例(5.0%)濾過胞からの一過性房水漏出5例/50例(10.0%)5例/40例(12.5%)脈絡膜離1例/50例(2.0%)2例/40例(5.0%)Descemet膜離0例/50例(0%)1例/40例(2.5%)———————————————————————-Page4864あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(114)は22.9%で,LOT+SINの前房出血の頻度に比し明らかに少ないとしている.川端ら6)はbloodreuxの有無がLOTの手術手技が成功したかのよい判断基準となるとしており,前房出血はやむをえない事象といえるが,同じ線維柱帯を切開しているのに術後出血が少ない理由については現在のところ不明な点が残る.しかし,一つの原因としてはトラベクロトーム切開部位での粘弾性物質による血液の圧排があげられる.つまり線維柱帯切開で静脈圧と前房圧の逆転がbloodreuxの要因と考えれば,一時的であるにせよ,血液成分が減少することはその原因となりうるのかもしれない.つまりVCを追加することによりLOT+SIN単独よりも前房出血が少なくなり,それが術後早期のフレア値の軽減に関与した可能性が示唆された.合併症について早期穿孔はVC+LOT+SIN群では認められなかったが,これはVCを注入した時点で早期穿孔している場合,粘弾性物質が早々に前房内に確認できるため,その時点で注入を中止し,viscocanulaの挿入方向の見直しを行った後に再度VCを施行し直しているために未然に防げているとも考える.LOTで早期穿孔をさせてしまえば,その時点で前房は浅くなり,再度線維柱帯を切開しにくくなることを考えると,VC+LOT+SINはこの面から考えても安全な術式といえるのではないかと考えられる.文献1)青山裕美子,上野聰樹:ジヌソトミー併用トラベクロトミーの術後中期の眼圧推移.あたらしい眼科12:1297-1303,19952)安藤雅子,黒田真一郎,寺内博夫ほか:原発開放隅角緑内障に対するサイヌソトミー併用トラベクロトミーの長期成績.臨眼57:1609-1613,20033)三宅三平:Viscocanalostomy.あたらしい眼科18:991-997,20014)StegmannR,PienaarA,MillerD:ViscocanalostomyforopenangleglaucomainblackAfricanpatients.JCataractRefractSurg25:316-322,19995)朴真紗美,谷戸正樹,千原悦夫:Viscocanalostomy・白内障同時手術の術後成績.日眼会誌106:173-177,20026)川畑篤彦,永田誠:トラベクロトミーにおけるBloodReuxと降圧効果の関係.眼紀36:707-710,1985では粘弾性物質が前房内に流入してしまうことが一過性眼圧上昇の一因となっているが,より分子量の高い粘弾性物質であるほどにその可能性は高くなるとも考えられる.そのような背景もあり,当院ではVC+LOT+SINを行う際には中分子量のオペリードRが適当であろうと考えている.実際,今回の検討においても術後一過性眼圧上昇発症率は,LOT+SIN群で12%,VC+LOT+SIN群で5%とほぼ同等であることから,粘弾性物質流入による一過性眼圧上昇への影響は少ないと考えられた.しかし,どちらの術式においてもサイノストミーを併用しているにもかかわらず,一過性眼圧上昇の発症は0ではなかった.これらの発症メカニズムを推測する目的で一過性眼圧上昇をきたした症例の経過について検討した.VC+LOT+SIN群で一過性眼圧上昇を生じた2症例において,一過性眼圧上昇をきたした時期は2症例とも術翌日であり,その時点でのフレア値は平均71.3pc/msと異常高値であったが,術後3日目には36.7pc/msと早々に改善している.LOT+SIN群では,一過性眼圧上昇を生じた6症例において,一過性眼圧上昇をきたした時期は2症例で術後3日目,4症例で術後7日目であり,明らかにVC+LOT+SIN群に比し遅い時期に生じていた.LOT+SIN群のフレア値の推移は術翌日平均106.5pc/msが術後3日目では70.6pc/msと依然として高く,術後5日目で平均30.6pc/msにまで改善している.つまり,これらの結果は,フレア値が顕著に下降した後に一過性眼圧上昇が生じてくることを示唆している.この現象を解析すると,まず術後の炎症細胞や赤血球が前房内を浮遊している状態から線維柱帯側へ沈み込む.この時点で前房フレア値は低下してくる.その後,線維柱帯に一時的に蓄積された炎症細胞や赤血球が房水の通過障害を生じさせ,一過性眼圧上昇が生じるのではないかと考える.したがってフレア値が下降してきた後,またはbloodreuxで生じた前房出血のニボーが消失してくる時点が一過性眼圧上昇の生じやすいタイミングであり,これらの現象から一過性眼圧上昇のタイミングをある程度予想できるのではないかと思われた.VC+LOT+SIN群のほうが一過性眼圧上昇の割合が少なかった原因としては,VC+LOT+SINのほうが術後の前房出血が少なかったことが考えられる.朴ら5)もVC+PEA+IOL後75.6%に前房出血が生じたが4日以上持続したもの***