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糖尿病患者の眼底スクリーニング ─散瞳2方向と4方向カラー撮影の比較─

2016年1月31日 日曜日

《第20回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科33(1):119.123,2016c糖尿病患者の眼底スクリーニング─散瞳2方向と4方向カラー撮影の比較─反保宏信*1大河原百合子*1高橋秀徳*1牧野伸二*1佐藤幸裕*2*1自治医科大学眼科学講座*2自治医科大学糖尿病センターFundusScreeninginDiabeticPatients:Comparisonbetween2-Fieldand4-FieldColorFundusPhotographyUsingMydriaticDigitalFundusCameraHironobuTampo1),YurikoOkawara1),HidenoriTakahashi1),ShinjiMakino1)andYukihiroSato2)1)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversityDiabeticCenter目的:散瞳下での2方向と4方向カラー眼底撮影を,9方向蛍光眼底造影(FA)を含めて比較し,2方向の病期診断における有用性を検討した.方法:散瞳下に画角50°のデジタルカメラで,1眼につき2,4方向カラー撮影と9方向FAを行った167例287眼を後ろ向きに調査した.2,4方向カラー撮影,FAの順に判定し,網膜症なし,単純,前増殖,増殖網膜症に病期分類して比較した.結果:2方向と4方向カラー撮影の病期診断一致率は97%であった.また,2方向とFAの一致は84%,4方向とFAの一致は87%であり,有意差はなかった.FAでの病期診断との一致率を2方向,4方向で見ると,単純網膜症で95%,97%,前増殖網膜症で87%,88%,増殖網膜症で61%,72%であり,2方向と4方向で差がないものの,病期が進行するに伴い低率となった.結論:2方向と4方向の病期診断はほぼ一致しており,2方向で十分と考えられるが,前増殖網膜症や増殖網膜症の診断には限界があることに留意する必要がある.Purpose:Toevaluatetheefficacyof2-fieldcolorfundusphotographsforgradingretinopathystages,wecompared2-fieldand4-fieldcolorfundusphotographs,includingthoseobtainedusing9-fieldfluoresceinangiography(FA).Methods:Weretrospectivelystudied287eyesof165casesthathadundergone2-fieldand4-fieldcolorfundusphotographyand9-fieldFA.Classificationintonoretinopathy,simple,preproliferativeandproliferativestageswasinitiallyperformedusing2-fieldcolorfundusphotographs,then4-fieldcolorfundusphotographsandfinallyFA.Results:Agreementonretinopathystagesbetween2-fieldand4-fieldcolorfundusphotographswas97%.Agreementbetween2-fieldcolorfundusphotographsandFA,andbetween4-fieldcolorfundusphotographsandFA,was84%and87%,respectively.Therewasnosignificantdifferenceineitherofthesecomparisons.RespectiveagreementonretinopathystagesbetweenFAand2-field,and4-fieldcolorfundusphotographs,was95%and97%insimpleretinopathy,87%and88%inpreproliferativeretinopathy,and61%and72%inproliferativeretinopathy.Therewerenosignificantdifferencesbetween2-fieldand4-fieldcolorfundusphotographs.However,theagreementratesdecreasedastheretinopathystageadvanced.Conclusion:Sinceretinopathystagesjudgedusing2-fieldand4-fieldcolorfundusphotographsagreedverywell,weconcludedthatitisappropriatetojudgeretinopathystagesusing2-fieldcolorfundusphotographs.However,limitationsinthediagnosisofpreproliferativeandproliferativeretinopathyshouldbetakenintoaccount.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(1):119.123,2016〕Keywords:眼底スクリーニング,糖尿病症例,散瞳眼底カメラ,糖尿病網膜症,カラー眼底撮影,蛍光眼底造影.fundusscreening,diabeticcases,mydriaticfunduscamera,diabeticretinopathy,colorfundusphotography,fluoresceinangiography.〔別刷請求先〕反保宏信:〒329-0498栃木県下野市薬師寺3311-1自治医科大学眼科学講座Reprintrequests:HironobuTampo,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke,Tochigi329-0498,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(119)119 表1目的別の撮影方法疫学研究舟形町スタディ(日本)1)画角45°・無散瞳・1方向TheMulti-ethnicStudyofAtherosclerosis(米国)2)画角45°・無散瞳・2方向TheSingaporeMalayEyeStudy(シンガポール)3)画角45°・散瞳・2方向TheLiverpoolDiabeticEyeStudy(英国)4)画角45°・散瞳・3方向TheBlueMountainsEyeStudy(オーストラリア)5)画角30°・散瞳・5方向†WESDR*(米国)6)画角30°・散瞳・7方向立体無作為化比較試験UKPDS**(英国)7)画角30°・散瞳・4方向††ETDRS¶(米国)8)画角30°・散瞳・7方向立体網膜症早期発見プログラムUKNSC¶¶diabeticeyescreeningprogurame9)画角45°・散瞳・2方向†:黄斑部,視神経のみ立体,††:黄斑部のみ立体,*:TheWisconsinEpidemiologicStudyofDiabeticRetinopathy,**:UnitedKingdomProspectiveDiabetesStudy,¶:EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy,¶¶:TheUKNationalScreeningCommittee.はじめに眼底カメラを用いた糖尿病症例の眼底スクリーニングは,網膜症の有病率などを調査するための疫学研究1.6),網膜症治療に関する無作為化比較試験7,8),網膜症の早期発見プログラム9)などさまざまな目的に用いられている.また,その実施方法も無散瞳1,2)と散瞳3.9),1.7方向撮影1.9)など多彩である(表1).筆者らは,糖尿病網膜症を有する症例において,画角50°の眼底カメラを用いて行った散瞳下での4方向と9方向カラー眼底撮影の判定結果を,9方向の蛍光眼底造影(fluoresceinangiography:FA)の結果との対比を含めて検討し,4方向と9方向カラー撮影の病期診断はほぼ一致しており,4方向カラー撮影で十分との結果をすでに報告した10).また,糖尿病症例において,画角45°の無散瞳眼底カメラを用いて,1,2,4方向カラー眼底撮影の判定結果を比較し,1方向は2方向に比較して網膜症の見逃しやより軽症に判定する比率が有意に高く,病期診断には適さないこと,2方向と4方向の一致率は非常に高いことも報告した11).今回筆者らは,糖尿病網膜症を有する症例において,散瞳下での2方向と4方向カラー眼底撮影を,もっとも診断精度の高い9方向FAとの対比を含めて検討し,2方向眼底カラー眼底撮影の病期診断における有用性を検討した.I対象および方法対象は,自治医科大学附属病院眼科において,2010年11月.2014年8月に,散瞳下の倒像検眼鏡および細隙灯顕微鏡と前置レンズを用いた眼底検査で糖尿病網膜症の診断を受け,網膜症の治療方針を検討する目的で,カラー眼底撮影とFAを受けた症例を後ろ向きに調査し,除外項目に合致しないと判定された167例287眼である.男性100例173眼,女性67例114眼,年齢は31.85歳,平均59.1±9.44(平均±標準偏差)歳であった.眼底写真は,画角50°のデジタル眼底カメラ(KOWA社製VX-10)で,日本糖尿病眼学会が報告した方法12)に準じた1眼につき4方向のカラー撮影(以下,4方向カラー)と,EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)で用いられた画角30°の散瞳・7方向立体撮影より広い領域をカバーする9方向のFAを行い,ファイリングソフトを用いて2方向,4方向カラー写真,9方向FAとして合成した(図1).判定は30年以上の臨床経験がある1名の眼底疾患専門医(YS)が行ったが,同一症例の画像を照らし合わせず,①全症例の2方向カラー,②全症例の4方向カラー,③全症例の9方向FAの順に準暗室においてモニター上で行い,糖尿病網膜症なし(nondiabeticretinopathy:NDR),単純網膜症(simplediabeticretinopathy:SDR),前増殖網膜症(preproliferativediabeticretinopathy:PPDR),増殖網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)に病期分類した.除外項目は,①網膜光凝固が施行されているもの,②鮮明な画像が得られなかったもの,③完全な合成写真が得られなかったもの,④網膜静脈閉塞症,網膜動脈分枝閉塞症,傍中心窩網膜毛細血管拡張症などの糖尿病網膜症以外の眼底疾患を合併したものとした.糖尿病網膜症の病期は,前報10)と同様に,改変Davis分類13)に基づいて判定した(表2).2,4方向カラーで3個以内の小軟性白斑を認めるが,静脈の数珠状拡張や網膜内細小血管異常(intraretinalmicrovascularabnormalities:IRMA)がない場合はSDRとした.また,FAで1乳頭面積以上の無灌流域がある場合は,静脈の数珠状拡張やIRMAがなくともPPDRとした.カラー写真における静脈の数珠状拡張とIRMAはETDRSの基準写真8)を参考にして,各所見の下限の写真を設定した(図2).なお,IRMAの判定は,カ120あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016(120) ab表2改変Davis分類13)を基にした今回の病期判定基準図2下限とした症例のカラー眼底写真.a:静脈の数珠状拡張(→),b:網膜内細小血管異常(→).図1同一眼(右眼)の眼底写真(合成)a:2方向カラー眼底写真,b:4方向カラー眼底写真,c:9方向蛍光眼底写真.単純網膜症:毛細血管瘤,網膜出血,硬性白斑,網膜浮腫,3個以内の小軟性白斑前増殖網膜症:軟性白斑,静脈の数珠状拡張,網膜内細小血管異常,1乳頭面積以上の無灌流域(蛍光眼底造影所見)増殖網膜症:新生血管,網膜前・硝子体出血,線維血管性増殖膜,牽引性網膜.離ラー写真では異常に拡張した網膜毛細血管,FAでは無灌流認を得て行われた.域に隣接して認められる異常に拡張した網膜毛細血管で硝子体腔へ拡散する蛍光漏出を伴わないものとした(図3).白線II結果化血管は病期の判定基準に含めなかった.1.撮影条件別の病期の頻度なお,本研究は自治医科大学疫学研究倫理審査委員会の承判定された病期の頻度は287眼中,2方向カラーでは(121)あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016121 100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%12.2%60.9%26.1%0.7%13.6%60.9%25.1%0.3%14.9%64.8%20.2%■増殖網膜症■前増殖網膜症■単純網膜症網膜症なし図3網膜内細小血管異常の下限とした症例の蛍光眼底造影写真(→)NDRが2眼(0.7%),SDRが75眼(26.1%),PPDRが175眼(60.9%),PDRが35眼(12.2%).4方向カラーではNDRが1眼(0.3%),SDRが72眼(25.1%),PPDRが175眼(60.9%),PDRが39眼(13.6%).FAではSDRが58眼(20.2%),PPDRが186眼(64.8%),PDRが43眼(14.9%)であった.病期の頻度に3群間で有意差はなかった(p=0.12,m×nc2検定,図4)2.病期診断の一致率つぎに病期診断の一致率を検討した.2方向と4方向カラーの一致率は287眼中277眼(96.5%)であった.一方,2方向カラーとFAの一致率は287眼中241眼(83.9%),4方向カラーとFAは287眼中249眼(86.7%)で有意差はなかった(p=0.34,c2検定).最後に,2方向,4方向カラーとFAの一致率を,病期別に比較した.SDRでの一致率は2方向,4方向ともに58眼中55眼(94.8%),PPDRでは2方向で186眼中160眼(86.0%),4方向で186眼中163眼(87.6%),PDRでは2方向で43眼中26眼(60.5%),4方向で43眼中31眼(72.1%)であった.2方向と4方向で有意差はないが(SDR,PPDR,PDRでそれぞれ,p=0.68,0.65,0.25,c2検定),病期が進行すると一致率は低下した(図5).III考按筆者らが所属する自治医科大学では,卒業生に9年間の地域医療が義務づけられており,勤務地には眼科医不在の地域が多い.2011年に報告されたアンケート調査14)によれば,糖尿病などによる眼底変化が診断可能と回答した卒業生は約15%と低率である.このため,無散瞳眼底カメラで撮影さ122あたらしい眼科Vol.33,No.1,20162方向4方向FA図4撮影条件別の病期の頻度100p=0.689080706050403020100単純網膜症前増殖網膜症増殖網膜症p=0.65p=0.2594.8%86.0%87.6%60.5%72.1%94.8%■2方向■4方向図52方向,4方向カラー眼底写真と9方向蛍光眼底写真の病期別一致率れた画像を用いた遠隔医療による診療支援が可能であるかどうかの予備調査として今回の検討を行った.糖尿病網膜症を有する症例における散瞳下での4方向と9方向カラー撮影の判定結果を比較検討し,4方向カラー撮影で十分と結論したこと10),無散瞳眼底カメラを用いた検討で,2方向と4方向カラーの一致率が非常に高い結果を得たこと11)はすでに述べた.今回の検討では,画角50°の散瞳2方向,4方向カラーを9方向FAと比較した.無散瞳4方向カラー撮影では両眼で平均15分を要する(未発表データ).また,撮影画像を用いた遠隔医療による診療支援では,送付する画像は少ないほうが有利である.このため,もっとも診断精度の高いFAと比較することにより,2方向カラー撮影の病期診断における有用性を検討した.また,画角200°の無散瞳1方向撮影で眼底の80%以上の領域をカバーする超広角カラー撮影は,ETDRSの画角30°の散瞳・7方向立体カラー撮影と同等の結果をより短時間で得られるとの報告15)もあるが,地域診療所には高価な装置であるため,従来の画角50°のデジタル眼底カメラで検討し(122) た.糖尿病網膜症スクリーニングでの2方向カラー撮影は,疫学研究である米国のTheMulti-ethnicStudyofAtherosclerosis2)で画角45°・無散瞳2方向カラーが,TheSingaporeMalayEyeStudy3)で画角45°・散瞳2方向カラーが,英国での網膜症早期発見プログラムであるUKNSCdiabeticeyescreeningprogurame9)で画角45°・散瞳2方向カラーが用いられ,網膜症の有無と病期の判定が行われている.また,EURODIABIDDMComplicationsStudy16)では,画角45°・散瞳2方向と画角30°・散瞳7方向カラー撮影で網膜症の病期診断の一致率が比較検討され,散瞳2方向カラー撮影は大規模な疫学調査に有用と結論づけている.なお,具体的な病期診断の一致率は,5名のgraderの平均で76%だが,10年以上の経験があるgraderでは90%,2年未満のgraderでは58%と,経験年数により一致率に差があることも報告されている16).本研究では,経験十分な専門医が病期診断を行ったので,高い一致率であった.今回,画角50°・散瞳2,4方向カラーと9方向FAを比較したが,2,4方向カラーの病期診断一致率は非常に高率で,FAとの一致率も差がなかった.したがってより短時間で撮影でき,画像の送付にも有利な2方向撮影で十分であると考えられた.しかし,カラー撮影の限界として,微細な網膜新生血管を見逃す危険性があることはすでに報告した10).今回の検討でも,結合組織を伴わない裸の新生血管を見逃す可能性があることや,病期が進行するにつれて診断一致率が低下することが示された.したがって,眼底カメラで撮影されたカラー写真を遠隔医療による診療支援に用いる場合は,改変Davis分類や,新福田分類の単純網膜症に止め,それ以上の病期が疑われる場合は,たとえ通院に困難を伴っても,眼科医の診察を求める必要があると思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)川崎良:糖尿病網膜症─舟形町スタディ.日本の眼科79:1697-1701,20082)WongTY,KleinR,IslamAetal:Diabeticretinopathyinamulti-ethniccohortintheUnitedStates.AmJOphthalmol141:446-455,20063)FoongAW,SawSM,LooJLetal:Rationaleandmethodologyforapopulation-basedstudyofeyediseasesinMalaypeople:TheSingaporeMalayEyestudy(SiMES).OphthalmicEpidemiol14:25-35,20074)HardingSP,BroadbentDM,NeohCetal:Sensitivityandspecificityofphotographyanddirectophthalmoscopyonscreeningforsightthreateningeyedisease:theLiverpoolDiabeticEyeStudy.BMJ311:1131-1135,19955)MitchellP,SmithW,WangJJetal:Prevalenceofdiabeticretinopathyinanoldercommunity.TheBlueMountainEyeStudy.Ophthalmology105:406-411,19986)KleinR,KundtsonMD,LeeKEetal:TheWisconsinEpidemiologicStudyofDiabeticRetinopathy:XXIIthetwenty-five-yearprogressionofretinopathyinpersonswithtype1diabetes.Ophthalmology115:1859-1868,20087)UKProspectiveDiabetesStudyGroup:Tightbloodpressurecontrolandriskofmacrovascularcomplicationsintype2diabetes:UKPDS38.BMJ317:703-713,19988)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Gradingdiabeticretinopathyfromstereoscopiccolorfundusphotographs─anextensionofthemodifiedAirlieHouseclassification:ETDRSreportnumber10.Ophthalmology98:786-806,19919)GillowJT,GrayJA:TheNationalScreeningCommitteereviewofdiabeticretinopathyscreening.Eye15:1-2,200110)反保宏信,大河原百合子,高橋秀徳ほか:糖尿病患者の眼底スクリーニング─散瞳4方向と9方向カラー撮影の比較─.あたらしい眼科30:1461-1465,201311)反保宏信,大河原百合子,高橋秀徳ほか:糖尿病症例の眼底スクリーニング─無散瞳デジタル眼底カメラでの検討─.あたらしい眼科32:274-278,201512)日本糖尿病眼学会糖尿病網膜症判定基準作成小委員会:薬物治療などに関する糖尿病網膜症判定基準.日本の眼科71:21-28,200013)船津英陽:糖尿病網膜症の分類について教えてください.網膜・硝子体Q&A(小椋祐一郎,山下英俊・編)あたらしい眼科19(臨増):35-37,200214)神田健史,梶井英治,桃井眞里子:自治医大からの地域医療に対する提言─自治医大の実績から見えてくる地域医療に求められる医師像.日本医事新報4573:29-33,201115)SilvaPS,CavalleranoJD,SunJKetal:Nonmydriaticultrawidefieldretinalimagingcomparedwithdilatedstandard7-field35-mmphotographyandretinalspecialistexaminationforevaluationofdiabeticretinopathy.AmJOphthalmol154:549-559,201216)AldingtonSJ,KohnerEM,MeuerSetal:Methodologyforretinalphotographyandassessmentofdiabeticretinopathy:theEURODIABIDDMcomplicationsstudy.Diabetologia38:437-444,1995***(123)あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016123

糖尿病症例の眼底スクリーニング ─無散瞳デジタル眼底カメラでの検討─

2015年2月28日 土曜日

274あたらしい眼科Vol.5102,22,No.3(00)274(102)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《第19回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科32(2):274.278,2015c〔別刷請求先〕反保宏信:〒329-0498栃木県下野市薬師寺3311-1自治医科大学眼科学講座Reprintrequests:HironobuTampo,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke,Tochigi329-0498,JAPAN糖尿病症例の眼底スクリーニング─無散瞳デジタル眼底カメラでの検討─反保宏信*1大河原百合子*1高橋秀徳*1牧野伸二*1佐藤幸裕*2*1自治医科大学眼科学講座*2自治医科大学糖尿病センターFundusScreeninginDiabetics─AnalysisUsingNonmydriaticDigitalFundusCamera─HironobuTampo1),YurikoOkawara1),HidenoriTakahashi1),ShinjiMakino1)andYukihiroSato2)1)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversityDiabeticCenter目的:無散瞳デジタル眼底カメラを用いた糖尿病症例の眼底スクリーニングの有用性と限界を検討した.方法:画角45°のカメラで,1眼につき1,2,4方向のカラー撮影を行った糖尿病症例492例894眼を後ろ向きに調査した.1,2,4方向の順に,網膜症なし,単純,前増殖,増殖網膜症に病期診断して比較した.結果:病期診断の一致率は,1と2方向93.1%,2と4方向98.7%,1と4方向91.7%で,2と4方向の一致率が有意に高率であった.不一致例を具体的に検討すると,4方向での単純網膜症を網膜症なし,前増殖網膜症を単純網膜症としたものが,2方向に比較し1方向で有意に高率であった.結論:1方向は2方向に比較して網膜症の見逃しや,より軽症に判定する比率が有意に高く,病期診断には適さないと考えた.一方,2方向は4方向と非常に高い一致率を示し有用だが,非常に低頻度ながら見逃しや,軽症に判定する可能性がある.Purpose:Toevaluatetheefficacyandlimitationsoffundusscreeningindiabetics,usinganon-mydriaticfun-duscamera.Methods:Weretrospectivelystudied894eyesof492casesthathadundergone1-field,2-fieldand4-fieldcolorfundusphotographyusinga45°fieldanglenon-mydriaticfunduscamera.Classificationintono,simple,preproliferativeandproliferativeretinopathywasinitiallyperformedusing1-field,then2-fieldandfinally4-fieldcolorfundusphotographs.Results:Agreementonretinopathystagesbetween1-fieldand2-fieldphotographswas93.1%.Agreementsbetween2-fieldand4-field,andbetween1-fieldand4-fieldphotographswere98.7%and91.7%,respectively.Agreementbetween2-fieldand4-fieldphotographswassignificantlyhigherthanthosebetweentheothergroups.Somecases,althoughjudgedtohavesimpleretinopathyonthebasisof4-fieldphotographs,werecategorizedintotheno-retinopathygrouponthebasisof1-fieldand2-fieldphotographs.Also,somecaseswerediagnosedashavingsimpleretinopathyonthebasisof1-fieldand2-fieldphotographs,butwerejudgedtobeinthepreproliferativestageonthebasisof4-fieldphotographs.Suchdisagreementwassignificantlyhigherfor1-fieldphotographsthanfor2-field.Conclusion:Weconcludethat1-fieldphotographsarenotsufficientforgrad-ingretinopathystages,sincetheoverlookingofretinopathyand/ortheunderestimationofretinopathyseverityweresignificantlymorefrequentwith1-fieldphotographsthanwith2-field.Incontrast,sinceretinopathystagesjudgedusing2-fieldand4-fieldphotographswereinverygoodagreement,itisappropriatetojudgeretinopathystagesusing2-fieldphotographs.However,thelimitationsof2-fieldphotographsshouldbetakenintoaccount,asthereisaslightriskofoverlookingretinopathyand/orunderestimatingitsseverity.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(2):274.278,2015〕Keywords:眼底スクリーニング,糖尿病症例,無散瞳眼底カメラ,糖尿病網膜症,カラー眼底写真.fundusscreening,diabeticcases,non-mydriaticfunduscamera,diabeticretinopathy,colorfundusphotography.(00)274(102)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《第19回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科32(2):274.278,2015c〔別刷請求先〕反保宏信:〒329-0498栃木県下野市薬師寺3311-1自治医科大学眼科学講座Reprintrequests:HironobuTampo,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke,Tochigi329-0498,JAPAN糖尿病症例の眼底スクリーニング─無散瞳デジタル眼底カメラでの検討─反保宏信*1大河原百合子*1高橋秀徳*1牧野伸二*1佐藤幸裕*2*1自治医科大学眼科学講座*2自治医科大学糖尿病センターFundusScreeninginDiabetics─AnalysisUsingNonmydriaticDigitalFundusCamera─HironobuTampo1),YurikoOkawara1),HidenoriTakahashi1),ShinjiMakino1)andYukihiroSato2)1)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversityDiabeticCenter目的:無散瞳デジタル眼底カメラを用いた糖尿病症例の眼底スクリーニングの有用性と限界を検討した.方法:画角45°のカメラで,1眼につき1,2,4方向のカラー撮影を行った糖尿病症例492例894眼を後ろ向きに調査した.1,2,4方向の順に,網膜症なし,単純,前増殖,増殖網膜症に病期診断して比較した.結果:病期診断の一致率は,1と2方向93.1%,2と4方向98.7%,1と4方向91.7%で,2と4方向の一致率が有意に高率であった.不一致例を具体的に検討すると,4方向での単純網膜症を網膜症なし,前増殖網膜症を単純網膜症としたものが,2方向に比較し1方向で有意に高率であった.結論:1方向は2方向に比較して網膜症の見逃しや,より軽症に判定する比率が有意に高く,病期診断には適さないと考えた.一方,2方向は4方向と非常に高い一致率を示し有用だが,非常に低頻度ながら見逃しや,軽症に判定する可能性がある.Purpose:Toevaluatetheefficacyandlimitationsoffundusscreeningindiabetics,usinganon-mydriaticfun-duscamera.Methods:Weretrospectivelystudied894eyesof492casesthathadundergone1-field,2-fieldand4-fieldcolorfundusphotographyusinga45°fieldanglenon-mydriaticfunduscamera.Classificationintono,simple,preproliferativeandproliferativeretinopathywasinitiallyperformedusing1-field,then2-fieldandfinally4-fieldcolorfundusphotographs.Results:Agreementonretinopathystagesbetween1-fieldand2-fieldphotographswas93.1%.Agreementsbetween2-fieldand4-field,andbetween1-fieldand4-fieldphotographswere98.7%and91.7%,respectively.Agreementbetween2-fieldand4-fieldphotographswassignificantlyhigherthanthosebetweentheothergroups.Somecases,althoughjudgedtohavesimpleretinopathyonthebasisof4-fieldphotographs,werecategorizedintotheno-retinopathygrouponthebasisof1-fieldand2-fieldphotographs.Also,somecaseswerediagnosedashavingsimpleretinopathyonthebasisof1-fieldand2-fieldphotographs,butwerejudgedtobeinthepreproliferativestageonthebasisof4-fieldphotographs.Suchdisagreementwassignificantlyhigherfor1-fieldphotographsthanfor2-field.Conclusion:Weconcludethat1-fieldphotographsarenotsufficientforgrad-ingretinopathystages,sincetheoverlookingofretinopathyand/ortheunderestimationofretinopathyseverityweresignificantlymorefrequentwith1-fieldphotographsthanwith2-field.Incontrast,sinceretinopathystagesjudgedusing2-fieldand4-fieldphotographswereinverygoodagreement,itisappropriatetojudgeretinopathystagesusing2-fieldphotographs.However,thelimitationsof2-fieldphotographsshouldbetakenintoaccount,asthereisaslightriskofoverlookingretinopathyand/orunderestimatingitsseverity.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(2):274.278,2015〕Keywords:眼底スクリーニング,糖尿病症例,無散瞳眼底カメラ,糖尿病網膜症,カラー眼底写真.fundusscreening,diabeticcases,non-mydriaticfunduscamera,diabeticretinopathy,colorfundusphotography. はじめに眼底カメラを用いた糖尿病症例の眼底スクリーニングは,糖尿病網膜症(以下,網膜症)の有病率などを調査する疫学研究1.6),網膜症治療に関する無作為化比較試験7,8),網膜症の早期発見プログラム9)などさまざまな目的に用いられている.また,その実施方法も無散瞳1,2)と散瞳3.9),1.7方向撮影1.9)など多彩である(表1).筆者らは,網膜症を有する症例において,画角50°の眼底カメラを用いて行った散瞳下での4方向と9方向カラー眼底撮影の判定結果を,9方向の蛍光眼底造影の結果との対比を含めて検討し,4方向と9方向カラー撮影の病期診断はほぼ一致しており,4方向カラー撮影で十分との結果をすでに報告した10).今回は,糖尿病症例における無散瞳眼底カメラでの1,2,4方向カラー撮影の判定結果を比較し,病期診断における有用性と限界を検討した.I対象および方法対象は,自治医科大学附属病院・内分泌代謝科へ通院中の糖尿病症例で,当院の生理機能検査部において,2012年3月から2012年9月に網膜症のスクリーニング目的で,無散瞳眼底カメラによるカラー眼底撮影(以下,カラー撮影)を受けた糖尿病症例を後ろ向きに調査し,除外項目に合致しないと判定された492例894眼である.男性264例479眼,女性228例415眼,年齢は19.89歳,平均55.7±14.5歳(平均±標準偏差)であった.カラー撮影は,画角45°の無散瞳デジタル眼底カメラ(NIDEK社製AFC-230)を用い,日本糖尿病眼学会が報告した方法11)に準じて1眼につき4方向の撮影を臨床検査技師が行い,画像はハードディスクに保存された.今回の研究にあたって,ハードディスクに保存されていたそれぞれの画像はファイリングソフトを用いて2方向,4方向カラー写真として合成された(図1).判定は1名の眼底疾患専門医(YS)が行ったが,同一症例の画像を照らし合わせず,①全症例の1方向カラー画像(以下,1方向カラー),②全症例の2方向カラー合成画像(以下,2方向カラー),③全症例の4方向カラー合成画像(以下,4方向カラー)の順に準暗室においてモニター上で行い,網膜症なし(NDR),単純網膜症(SDR),前増殖網膜症(PPDR),増殖網膜症(PDR)に病期分類した.つぎに,同一症例の1,2,4方向カラーを同一モニター上に順次呼び出して比較検討した.除外項目は,①網膜光凝固が施行されているもの,②鮮明な画像が得られなかったもの,③完全な合成画像が得られなかったもの,④網膜静脈閉塞症などの糖尿病網膜症以外の眼底疾患を合併したものとした.網膜症の病期は改変Davis分類12)に基づいて判定した(表2).3個以内の小軟性白斑を認めるが,静脈の数珠状拡張や網膜内細小血管異常(IRMA)がない場合はSDRとした.IRMAの判定は異常に拡張した網膜毛細血管とした.静脈の数珠状拡張とIRMAは,EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)の基準写真8)を参考にして,各所見の下限の写真を設定した(図2).なお,本研究は自治医科大学疫学研究倫理審査委員会の承認を得て行われた.II結果1.撮影条件別の病期の頻度判定された病期の頻度は894眼中,1方向ではNDRが627眼(70.1%),SDR203眼(22.7%),PPDR59眼(6.6%),PDRが5眼(0.6%),2方向ではNDRが585眼(65%),SDR231眼(25.8%),PPDR66眼(7.4%),PDR12眼(1.3%),4方向ではNDRが577眼(64.5%),SDR237眼(26.5表1目的別の撮影方法疫学研究舟形町スタディ(日本)1)画角45°・無散瞳・1方向TheMulti-ethnicStudyofAtherosclerosis(米国)2)画角45°・無散瞳・2方向TheSingaporeMalayEyeStudy(シンガポール)3)画角45°・散瞳・2方向TheLiverpooldiabeticeyestudy(英国)4)画角45°・散瞳・3方向TheBlueMountainsEyeStudy(オーストラリア)5)画角30°・散瞳・5方向†WESDR*(米国)6)画角30°・散瞳・7方向立体無作為化比較試験UKPDS(英国)**7)画角30°・散瞳・4方向††ETDRS(米国)¶8)画角30°・散瞳・7方向立体網膜症早期発見プログラムUKNSC¶¶diabeticeyescreeningprogurame9)画角45°・散瞳・2方向†:黄斑部,視神経のみ立体.††:黄斑部のみ立体.*:TheWisconsinEpidemiologicStudyofDiabeticRetinopathy.**:UnitedKingdomProspectiveDiabetesStudy.¶:EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy.¶¶:TheUKNationalScreeningCommittee.(103)あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015275 276あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015(104)%),PPDR66眼(7.4%),PDR14眼(1.6%)であった.病期の頻度に3群間で有意差はなかった(P=0.12,mxnc2検定,図3).2.病期診断の一致率つぎに病期診断の一致率を検討した.1方向と2方向の一致率は894眼中832眼(93.1%),2方向と4方向は894眼中882眼(98.7%),1方向と4方向は894眼中820眼(91.7%)で,3群間に有意差があり(P<0.001,mxnc2検定),2方向と4方向の一致率が有意に高率であった(P<0.017,Bonferroni法).1方向と4方向,2方向と4方向の不一致例を具体的に検討すると,4方向でSDRと判定されたものをNDRとしたものが1方向で894眼中50眼(5.6%),2方向で894眼中8眼(0.9%)あり,1方向で有意に高率であった(P<0.001,c2検定).同様にPPDRをSDRとしたものが1方向で15眼(1.7%),2方向で2眼(0.2%)あり,やはり1方向で有意に高率であった(P<0.01,Fisherの直接確率計算法).一方,PDRをPPDRやSDRとしたものが1方向で9眼(1.0%,PPDRと判定8眼,SDRと判定1眼),2方向で2眼(0.2%,PPDRと判定2眼)あったが,有意差はなかった(P=0.07,Fisherの直接確率計算法).3.不一致例の提示①4方向でSDRと判定されたものを,1方向と2方向でNDRと判定した症例:1方向と2方向では写らない上方網膜に出血を認めたため,1方向と2方向ではNDR,4方向ではSDRと判定された(図4a).②2方向と4方向でPPDRを,1方向でSDRとした症例:1方向では写らない乳頭上方に軟性白斑を認め,1方向ではSDR,2方向と4方向ではPPDRと判定された(図4b).③2方向と4方向でPDRを,1方向でSDRとした症例:1方向の範囲内にはSDR所見のみ認められたが,1方向では写らない鼻側網膜部分に新生血管を認めたため,1方向ではSDR,2方向と4方向ではPDRと判定された(図4c).III考按筆者らが所属する自治医科大学では,卒業生に9年間の地域医療が義務づけられており,勤務地には眼科医不在な地域が多い.2011年に報告されたアンケート調査13)によれば,糖尿病などによる眼底変化が診断可能と回答した卒業生は約15%と低率である.このため,無散瞳眼底カメラで撮影された画像を用いた遠隔医療による診療支援が可能であるかの予備調査として今回の検討を行った.網膜症を有する症例における散瞳下での4方向と9方向カラー撮影の判定結果を比較検討し,4方向カラー撮影で十分との結論を得たこと10)はすでに述べた.今回の検討では,図1同一眼(左眼)のカラー眼底写真a:1方向カラー眼底写真,b:2方向カラー眼底写真(合成),c:4方向カラー眼底写真(合成).acb(104)%),PPDR66眼(7.4%),PDR14眼(1.6%)であった.病期の頻度に3群間で有意差はなかった(P=0.12,mxnc2検定,図3).2.病期診断の一致率つぎに病期診断の一致率を検討した.1方向と2方向の一致率は894眼中832眼(93.1%),2方向と4方向は894眼中882眼(98.7%),1方向と4方向は894眼中820眼(91.7%)で,3群間に有意差があり(P<0.001,mxnc2検定),2方向と4方向の一致率が有意に高率であった(P<0.017,Bonferroni法).1方向と4方向,2方向と4方向の不一致例を具体的に検討すると,4方向でSDRと判定されたものをNDRとしたものが1方向で894眼中50眼(5.6%),2方向で894眼中8眼(0.9%)あり,1方向で有意に高率であった(P<0.001,c2検定).同様にPPDRをSDRとしたものが1方向で15眼(1.7%),2方向で2眼(0.2%)あり,やはり1方向で有意に高率であった(P<0.01,Fisherの直接確率計算法).一方,PDRをPPDRやSDRとしたものが1方向で9眼(1.0%,PPDRと判定8眼,SDRと判定1眼),2方向で2眼(0.2%,PPDRと判定2眼)あったが,有意差はなかった(P=0.07,Fisherの直接確率計算法).3.不一致例の提示①4方向でSDRと判定されたものを,1方向と2方向でNDRと判定した症例:1方向と2方向では写らない上方網膜に出血を認めたため,1方向と2方向ではNDR,4方向ではSDRと判定された(図4a).②2方向と4方向でPPDRを,1方向でSDRとした症例:1方向では写らない乳頭上方に軟性白斑を認め,1方向ではSDR,2方向と4方向ではPPDRと判定された(図4b).③2方向と4方向でPDRを,1方向でSDRとした症例:1方向の範囲内にはSDR所見のみ認められたが,1方向では写らない鼻側網膜部分に新生血管を認めたため,1方向ではSDR,2方向と4方向ではPDRと判定された(図4c).III考按筆者らが所属する自治医科大学では,卒業生に9年間の地域医療が義務づけられており,勤務地には眼科医不在な地域が多い.2011年に報告されたアンケート調査13)によれば,糖尿病などによる眼底変化が診断可能と回答した卒業生は約15%と低率である.このため,無散瞳眼底カメラで撮影された画像を用いた遠隔医療による診療支援が可能であるかの予備調査として今回の検討を行った.網膜症を有する症例における散瞳下での4方向と9方向カラー撮影の判定結果を比較検討し,4方向カラー撮影で十分との結論を得たこと10)はすでに述べた.今回の検討では,図1同一眼(左眼)のカラー眼底写真a:1方向カラー眼底写真,b:2方向カラー眼底写真(合成),c:4方向カラー眼底写真(合成).acb 表2改変Davis分類11)を基にした今回の病期判定基準単純網膜症:毛細血管瘤,網膜出血,硬性白斑,網膜浮腫,3個以内の小軟性白斑前増殖網膜症:軟性白斑,静脈の数珠状拡張,網膜内細小血管異常増殖網膜症:新生血管,網膜前・硝子体出血,線維血管性増殖膜,牽引性網膜.離100%90%80%70%■:増殖網膜症60%■:前増殖網膜症50%■:単純網膜症40%■:網膜症なし30%20%10%図2下限とした症例のカラー眼底写真0%1方向2方向4方向a:静脈の数珠状拡張(矢印),b:網膜内細小血管異常(矢印).図3撮影条件別の病期の頻度3群間で有意差はなかった(P=0.12,mxnc2検定).ababc図4病期判定が不一致であった症例の4方向カラー眼底写真(合成)2方向は青丸+黄丸,1方向は青丸で示す.a:4方向でSDRを,1方向と2方向でNDRとした症例(矢印:出血).b:2方向と4方向でPPDRを,1方向でSDRとした症例(矢印:軟性白斑).c:2方向と4方向でPDRを,1方向でSDRとした症例(矢印:新生血管).画角45°の無散瞳4方向カラーを,1方向および2方向カラーと比較した.その理由は,4方向カラー撮影では両眼で平均15分を要したためである(未発表データ).また,画角200°の無散瞳1方向撮影で眼底の80%以上の領域をカバーする超広角カラー撮影は,ETDRSの画角30°の散瞳・7方向立体カラー撮影と同等の結果をより短時間で得られるとの報告14)もあるが,地域診療所には高価な装置であるため,従来の画角45°の無散瞳デジタル眼底カメラで検討した.糖尿病網膜症スクリーニングでの画角45°・無散瞳1方向カラーは,大規模な住民ベース研究である舟形町研究1)に用いられている.無散瞳1,3方向と散瞳7方向カラーを比較した報告15)では,網膜症の有無は1方向でも判定可能だが,病期診断には3方向が必要と結論づけられており,1方向は簡便な方法だが病期診断には限界があると思われる.一方,画角45°・無散瞳2方向カラーは,米国のTheMulti-ethnicStudyofAtherosclerosis2)に用いられており,網膜症の有無と病期の判定が行われている.無散瞳2方向と散瞳7方向カラーを比較した報告は検索しえた範囲では見当たらない.EURODIABIDDMComplicationsStudyでは画角45°・散瞳2方向と画角30°・散瞳7方向カラーで網膜症の病期診断が比較され,高い判定一致率が得られ,散瞳2方向カラーは大規模な疫学調査に有用と結論づけられている16).今回,画角45°・無散瞳1,2,4方向カラーで比較したが,(105)あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015277 1方向は2方向に比較して網膜症の見逃しや,PPDRをSDRと判定する比率が有意に高く,病期診断には適さないと考えた.一方,2方向は4方向と非常に高い一致率を示し,無散瞳眼底カメラで撮影された画像を用いた遠隔医療による診療支援に応用する際に,より短時間で撮影可能な2方向でも実施できる可能性が示されたと考えた.ただし,4方向でSDRと判定されたものを2方向でNDRとしたものが0.9%,同様にPPDRをSDR,PDRをPPDRとしたものが各0.2%あり,非常に低頻度ながら網膜症の見逃しや,より軽症に判定する可能性があることを十分に認識しておく必要がある.また,これらの結果から,眼底カメラで撮影された画像を遠隔医療による診療支援に用いる場合は,改変Davis分類や新福田分類の単純網膜症に止め,それ以上の病期が疑われる場合は,たとえ通院に困難を伴っても,眼科医の診察を求める必要があると思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)川崎良:糖尿病網膜症─舟形町スタディ.日本の眼科79:1697-1701,20082)WongTY,KleinR,IslamAetal:Diabeticretinopathyinamulti-ethniccohortintheUnitedStates.AmJOphthalmol141:446-455,20063)FoongAW,SawSM,LooJLetal:Rationaleandmethodologyforapopulation-basedstudyofeyediseasesinMalaypeople:TheSingaporeMalayeyestudy(SiMES).OphthalmicEpidemiol14:25-35,20074)HardingSP,BroadbentDM,NeohCetal:Sensitivityandspecificityofphotographyanddirectophthalmoscopyonscreeningforsightthreateningeyedisease:theLiverpoolDiabeticEyeStudy.BMJ311:1131-1135,19955)MitchellP,SmithW,WangJJetal:PrevalenceofdiabeticretinopathyinanoldercommunityTheBlueMountainEyeStudy.Ophthalmology105:406-411,19986)KleinR,KundtsonMD,LeeKEetal:TheWisconsinEpidemiologicStudyofDiabeticRetinopathyXXII:Thetwenty-five-yearprogressionofretinopathyinpersonswithtype1diabetes.Ophthalmology115:1859-1868,20087)UKProspectiveDiabetesStudyGroup:Tightbloodpressurecontrolandriskofmacrovascularcomplicationsintype2diabetes:UKPDS38.BMJ317:703-713,19988)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Gradingdiabeticretinopathyfromstereoscopiccolorfundusphotographs─anextensionoftheModifiedAirlieHouseClassification:ETDRSreportnumber10.Ophthalmology98:786-806,19919)GillowJT,MuirgrayJA:Thenationalscreeningcommitteereviewofdiabeticretinopathyscreening.Eye15:1-2,200110)反保宏信,大河原百合子,高橋秀徳ほか:糖尿病患者の眼底スクリーニング─散瞳4方向と9方向カラー撮影の比較─.あたらしい眼科30:1461-1465,201311)日本糖尿病眼学会糖尿病網膜症判定基準作成小委員会:薬物治療などに関する糖尿病網膜症判定基準.日本の眼科71:21-28,200012)船津英陽:糖尿病網膜症の分類について教えてください.網膜・硝子体Q&A(小椋祐一郎,山下英俊・編).あたらしい眼科19(臨増):35-37,200213)神田健史,梶井英治,桃井眞里子:自治医大からの地域医療に対する提言─自治医大の実績から見えてくる地域医療に求められる医師像.日本医事新報4573:29-33,201114)SilvaPS,CavalleranoJD,SunJKetal:Nonmydriaticultrawidefieldretinalimagingcomparedwithdilatedstandard7-field35-mmphotographyandretinalspecialistexaminationforevaluationofdiabeticretinopathy.AmJOphthalmol154:549-559,201215)VujosevicS,BenettiE,MassignanFetal:Screeningfordiabeticretinopathy:1and3nonmydriatic45-degreedigitalfundusphotographsvs7standardEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyfield.AmJOphthalmol148:111-118,200916)AldingtonSJ,KohnerEM,MeuerSetal:Methodologyforretinalphotographyandassessmentofdiabeticretinopathy:theEURODIABIDDMComplicationsStudy.Diabetologia38:437-444,1995***(106)

糖尿病患者の眼底スクリーニング─散瞳4方向と9方向カラー撮影の比較─

2013年10月31日 木曜日

《第18回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科30(10):1461.1465,2013c糖尿病患者の眼底スクリーニング─散瞳4方向と9方向カラー撮影の比較─反保宏信*1大河原百合子*1高橋秀徳*1牧野伸二*1佐藤幸裕*2*1自治医科大学眼科学講座*2自治医科大学糖尿病センター眼科FundusScreeninginDiabeticPatients─Comparisonbetween4-Fieldand9-FieldColorFundusPhotography,UsingMydriaticDigitalFundusCamera─HironobuTampo1),YurikoOkawara1),HidenoriTakahashi1),ShinjiMakino1)andYukihiroSato2)1)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversityDiabeticCenter目的:眼底カメラでの糖尿病症例の眼底スクリーニングは,無散瞳と散瞳,1.7方向撮影などさまざまである.散瞳下の4方向と9方向カラー撮影を比較した.方法:散瞳下に画角50°のデジタル眼底カメラで,4,9方向カラー撮影と9方向蛍光眼底造影(FA)を行った62例102眼を後ろ向きに調査した.4,9方向カラー撮影,FAの順に判定し,単純,前増殖,増殖網膜症に病期分類して比較した.結果:4方向と9方向カラー撮影の病期診断一致率は98%であった.4方向,9方向カラー撮影とFAの病期診断一致率はいずれも85%で差はなかったが,微細な網膜新生血管をカラー撮影で網膜内細小血管異常と判定していたものが各6%あった.結論:4方向と9方向カラー撮影の病期診断はほぼ一致しており,4方向カラー撮影で十分と考えた.ただし,カラー撮影では微細な網膜新生血管の判定に限界があることに留意する必要がある.Purpose:Variousmethodsoffunduscamerascreeningofdiabeticpatients,suchasnon-mydriaticvs.mydri-aticand1-to7-.eldfundusphotographs,havebeenreported.Wecompared4-.eldand9-.eldfundusphoto-graphs.Methods:Weretrospectivelystudied102eyesof62casesthathadundergone4-.eldand9-.eldcolorfundusphotographyand9-.eld.uoresceinangiography(FA).Classi.cationintosimple,preproliferativeandprolif-erativestageswasinitiallyperformedusing4-.eldcolorfundusphotographs,then9-.eldcolorfundusphoto-graphsand.nallyFA.Results:Theagreementonretinopathystagesbetween4-.eldand9-.eldcolorfundusphotographswas98%.Thatbetween4-.eldcolorfundusphotographsandFA,and9-.eldcolorfundusphoto-graphsandFAwereboth85%.However,.neretinalneovascularizationdetectedbyFAwasdiagnosedasintraretinalmicrovascularabnormalitiesin6%ofboththe4-.eldandthe9-.eldcolorfundusphotographs.Con-clusion:Sinceretinopathystagesjudgedin4-.eldand9-.eldcolorfundusphotographsagreedverywell,wecon-cludedthatitisappropriatetojudgeretinopathystagesusing4-.eldcolorfundusphotographs.However,thelimi-tationinusingcolorfundusphotographstojudge.neretinalneovascularizationshouldbetakenintoaccount.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(10):1461.1465,2013〕Keywords:眼底スクリーニング,糖尿病症例,眼底カメラ,糖尿病網膜症,カラー眼底写真.fundusscreening,diabeticcases,funduscamera,diabeticretinopathy,colorfundusphotography.はじめにグラム9)などさまざまな目的に用いられている.また,その眼底カメラを用いた糖尿病症例の眼底スクリーニングは,実施方法も無散瞳1,2)と散瞳3.9),1.7方向撮影1.9)など多彩網膜症の有病率などを調査するための疫学研究1.6),網膜症である(表1).今回筆者らは,糖尿病網膜症を有する症例に治療に関する無作為化比較試験7,8),網膜症の早期発見プロおける散瞳下での4方向と9方向カラー眼底撮影の病期診断〔別刷請求先〕反保宏信:〒329-0498栃木県下野市薬師寺3311-1自治医科大学眼科学講座Reprintrequests:HironobuTampo,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke,Tochigi329-0498,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(117)1461表1目的別の撮影方法疫学研究舟形町スタディ(日本)1)画角45°・無散瞳・1方向TheMulti-ethnicStudyofAtherosclerosis(米国)2)画角45°・無散瞳・2方向TheSingaporeMalayEyeStudy(シンガポール)3)画角45°・散瞳・2方向TheLiverpoolDiabeticEyeStudy(英国)4)画角45°・散瞳・3方向TheBlueMountainsEyeStudy(オーストラリア)5)画角30°・散瞳・5方向†WESDR*(米国)6)画角30°・散瞳・7方向立体無作為化比較試験UKPDS**(英国)7)画角30°・散瞳・4方向††ETDRS¶(米国)8)画角30°・散瞳・7方向立体網膜症早期発見プログラムUKNSC¶¶diabeticeyescreeningprogram9)画角45°・散瞳・2方向†:黄斑部,視神経のみ立体.††:黄斑部のみ立体.*:TheWisconsinEpidemiologicStudyofDiabeticRetinopathy.**:UnitedKingdomProspectiveDiabetesStudy.¶:EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy.¶¶:TheUKNationalScreeningCommittee.における有用性と限界を,蛍光眼底造影との比較を含めて検討した.I対象および方法対象は,自治医科大学附属病院眼科において2011年9月から2012年10月に,散瞳下の倒像検眼鏡および細隙灯顕微鏡と前置レンズを用いた眼底検査で糖尿病網膜症の診断を受け,網膜症の治療方針を検討する目的で,カラー眼底撮影と蛍光眼底造影を受けた症例を後ろ向きに調査し,次項に述べる3種類の画像が保存され,除外項目に合致しないと判定された62例102眼である.男性39例63眼,女性23例39眼,年齢は42.80歳,平均59.7±9.3歳(平均±標準偏差)であった.3種類の画像とは,散瞳下に画角50°のデジタル眼底カメラ(Kowa社製VX-10i)で,①日本糖尿病眼学会が報告した方法10)に準じた1眼につき4方向のカラー撮影(以下,4方向カラー),②EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)8)で用いられた画角30°の散瞳・7方向立体撮影より広い領域をカバーする9方向カラー撮影(以下,9方向カラー),③9方向の蛍光眼底造影(以下,FA)で得られたものである.なお,9方向カラーおよびFAの具体的な撮影方法は,中心窩を中心とした後極部の写真をまず撮影し,鼻側,鼻上側,上方,耳上側,鼻下側,下方,耳下方,耳側の8方向の写真が後極部の写真と3分の1程度重なるように撮影した.ハードディスクに保存されていたそれぞれの画像はファイリングソフトを用いて合成された(図1).判定は1名の眼底疾患専門医(YS)が行ったが,同一症例の3種類の画像を照らし合わせず,①全症例の4方向カラー,②全症例の9方向カラー,③全症例のFAの順に準暗室においてモニター上で行い,単純網膜症(SDR),前増殖網膜症(PPDR),増殖網膜症(PDR)に病期分類した.つぎに,同一症例の4方向カラーと9方向カラーを同一モニター上に呼び出して比較した.除外項目は,①網膜光凝固が施行されているもの,②鮮明な画像が得られなかったもの,③完全な合成写真が得られなかったもの,④網膜静脈閉塞症,網膜動脈分枝閉塞症,傍中心窩網膜毛細血管拡張症などの糖尿病網膜症以外の眼底疾患を合併したものとした.網膜症の病期は改変Davis分類11)に基づいて判定した(表2).4方向カラーや9方向カラーで小軟性白斑が3個以内あるが,静脈の数珠状拡張や網膜内細小血管異常(IRMA)がない場合はSDRとした.また,FAで1乳頭面積以上の無灌流域がある場合は,静脈の数珠状拡張やIRMAがなくともPPDRとした.カラー写真における静脈の数珠状拡張とIRMAはETDRSの基準写真8)を参考にして,各所見の下限の写真を設定した(図2).なお,IRMAの判定は,カラー写真では異常に拡張した網膜毛細血管,FAでは無灌流域に隣接して認められる異常に拡張した網膜毛細血管で硝子体腔へ拡散する蛍光漏出を伴わないものとした(図3).白線化血管は病期の判定基準に含めなかった.II結果1.撮影条件別の病期の頻度判定された病期の頻度は,4方向カラーでは102眼中SDRが33眼(32%),PPDR57眼(56%),PDR10眼(10%)であったが,網膜症なし(NDR)と判定されたものが2眼(2%)存在した.9方向カラーでは35眼(34%),58眼1462あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(118)表2改変Davis分類11)を基にした今回の病期判定基準単純網膜症毛細血管瘤,網膜出血,硬性白斑,網膜浮腫,3個以内の小軟性白斑前増殖網膜症軟性白斑,静脈の数珠状拡張,網膜内細小血管異常,1乳頭面積以上の無灌流域(蛍光眼底造影所見)増殖網膜症新生血管,網膜前・硝子体出血,線維血管性増殖膜,牽引性網膜.離ab(57%),PDR9眼(9%),FAではSDR28眼(27%),PPDR60眼(59%),PDR14眼(14%)であり,いずれもNDRと判定されたものはなかった.病期の頻度に3群間で有意差はなかった(p=0.73:mxnc2test,図4).2.病期診断の一致率つぎに病期診断の一致率を検討した.4方向カラーと9方向カラーの一致率は102眼中100眼(98%)であった.一方,4方向カラーとFAの一致率,9方向カラーとFAの一致率(119)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131463はいずれも102眼中87眼(85%)であった.不一致は各15眼(15%)あり,FAで確認されたIRMAが4方向および9方向カラーではIRMAと判定されなかったもの各7眼(7%),FAで確認された微細な網膜新生血管が4方向および9方向カラーでIRMAと判定されたもの各6眼(6%),IRMAを網膜新生血管と判定したもの各1眼(1%),IRMAではない網膜血管をIRMAと判定したもの各1眼(1%)であった.3.4方向カラーと9方向カラーの比較最後に,4方向カラーで写らない領域に9方向カラーでどの程度の所見が存在するかを検討したが,102眼中82眼(80%)に何らかの所見を認めた.具体的な所見は,網膜出血が95眼(95%),硬性白斑17眼(17%),白線化血管4眼(4%),軟性白斑と網膜新生血管が各1眼(1%)であった(重複あり,図5).4方向で写らない領域に9方向で網膜出血が存在した95眼中2眼では,SDRがNDRと判定されていた.一方,軟性白斑と網膜新生血管を認めた各1眼は4方向でカバーされる領域にも同じ所見があり,病期診断には影響しなかった.III考按筆者らが所属する自治医科大学では,卒業生に9年間の地域医療が義務づけられており,勤務地には眼科医不在な地域が多い.2011年に報告されたアンケート調査12)によれば,糖尿病などによる眼底変化が診断可能と回答した卒業生は約15%と低率である.このため,眼底カメラで撮影された画像を用いた遠隔医療による診療支援が可能であるかの予備調査として今回の検討を行った.眼底カメラを用いた糖尿病症例の眼底スクリーニングは,疫学研究1.6),無作為化比較試験7,8),網膜症の早期発見プロ1464あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(%)10090807060504030201004方向カラー9方向カラー9方向蛍光眼底造影図4撮影条件別の病期の頻度3群間で有意差はなかった(p=0.73:mxnc2test).(%)1009080706050403020100図54方向で写らない領域に9方向で認めた所見(重複あり)グラム9)などさまざまな目的に用いられている.また,無散瞳1,2)と散瞳3.9),1.7方向撮影1.9)など多彩な実施方法が報告されている(表1).米国で実施された無作為化比較試験であるETDRS8)では,画角30°の散瞳・7方向立体撮影が用いられており,欧米ではこの撮影方法がgoldstandardとされてきた13).日本では立体撮影が普及していないため,今回の検討ではETDRSの撮影方法とあまり差がないとされる日本糖尿病眼学会が報告した画角50°の散瞳・4方向撮影10),ETDRSの撮影方法と同等の領域をカバーできるとされる画角45°の無散瞳・9方向撮影14)に準じ画角がより広く散瞳して実施する画角50°の散瞳・9方向撮影を取り上げた.一方,画角200°の無散瞳・1方向撮影で眼底の80%以上の領域をカバーする超広角撮影は,ETDRSの画角30°の散瞳・7方向立体撮影と同等の結果をより短時間で得られるとの報告15)もあるが,地域診療所には高価な装置であるため,従来の画角50°のデジタル眼底カメラでの検討を行った.今回の検討では4方向カラーと9方向カラーを比較したが,病期診断一致率は非常に高率で,FAとの一致率も差がなかった.4方向で写らない領域に9方向で認めた所見は大部分が網膜出血であった.したがって,日本で広く用いられ(120)ている改変Davis分類や新福田分類を用いる場合は4方向撮影で十分と考えた.カラー眼底撮影の限界として,微細な網膜新生血管を見逃す危険性がある.今回の検討では,4方向カラー,9方向カラーともに6%で微細な網膜新生血管をIRMAと判定していた.また,FAで確認されたIRMAを4方向および9方向カラーではIRMAと判定しなかったものが各7%あった.これらの結果から,眼底カメラで撮影されたカラー写真を遠隔医療による診療支援に用いる場合は,改変Davis分類や新福田分類の単純網膜症に止め,それ以上の病期が疑われる場合は,たとえ通院に困難を伴っても,眼科医の診察を求める必要があると思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)川崎良:糖尿病網膜症─舟形町スタディ.日本の眼科79:1697-1701,20082)WongTY,KleinR,IslamAetal:Diabeticretinopathyinamulti-ethniccohortintheUnitedStates.AmJOphthal-mol141:446-455,20063)FoongAW,SawSM,LooJLetal:Rationaleandmethod-ologyforapopulation-basedstudyofeyediseasesinMalaypeople:TheSingaporeMalayeyestudy(SiMES).OphthalmicEpidemiol14:25-35,20074)HardingSP,BroadbentDM,NeohCetal:Sensitivityandspeci.cityofphotographyanddirectophthalmoscopyonscreeningforsightthreateningeyedisease:theLiverpoolDiabeticEyeStudy.BMJ311:1131-1135,19955)MitchellP,SmithW,WangJJetal:Prevalenceofdiabet-icretinopathyinanoldercommunity.TheBlueMountainEyeStudy.Ophthalmology105:406-411,19986)KleinR,KundtsonMD,LeeKEetal:TheWisconsinEpidemiologicStudyofDiabeticRetinopathyXXII:Thetwenty-.ve-yearprogressionofretinopathyinpersonswithtype1diabetes.Ophthalmology115:1859-1868,20087)UKProspectiveDiabetesStudyGroup:Tightbloodpres-surecontrolandriskofmacrovascularcomplicationsintype2diabetes:UKPDS38.BMJ317:703-713,19988)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Gradingdiabeticretinopathyfromstereoscopiccolorfundusphotographs─anextensionoftheModi.edAirlieHouseClassi.cation:ETDRSreportnumber10.Ophthalmology98:786-806,19919)GillowJT,GrayJA:TheNationalScreeningCommitteereviewofdiabeticretinopathyscreening.Eye15:1-2,200110)日本糖尿病眼学会糖尿病網膜症判定基準作成小委員会:薬物治療などに関する糖尿病網膜症判定基準.日本の眼科71:21-28,200011)船津英陽:糖尿病網膜症の分類について教えてください.網膜・硝子体Q&A(小椋祐一郎,山下英俊・編).あたらしい眼科19(臨増):35-37,200212)神田健史,梶井英治,桃井眞里子:自治医大からの地域医療に対する提言─自治医大の実績から見えてくる地域医療に求められる医師像.日本医事新報4573:29-33,201113)VujosevicS,BenettiE,MassignanFetal:Screeningfordiabeticretinopathy:1and3nonmydriatic45-degreedigitalfundusphotographsvs7standardearlytreatmentdiabeticretinopathystudy.eld.AmJOphthalmol148:111-118,200914)ShibaT,YamamotoT,SekiUetal:Screeningandfol-low-updiabeticretinopathyusinganewmosaic9-.eldfundusphotographysystem.DiabResClinPrac55:49-59,200215)SilvaPS,CavalleranoJD,SunJKetal:Nonmydriaticultrawide.eldretinalimagingcomparedwithdilatedstandard7-.eld35-mmphotographyandretinalspecial-istexaminationforevaluationofdiabeticretinopathy.AmJOphthalmol154:549-559,2012***(121)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131465