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眼科病棟における糖尿病チェックシートの評価

2016年5月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科33(5):741〜745,2016©眼科病棟における糖尿病チェックシートの評価篠田歩*1兼子登志子*1菊名理恵*1武田美知子*1荒井桂子*1大音清香*2堀貞夫*1井上賢治*2*1西葛西・井上眼科病院*2井上眼科病院EvaluationoftheDiabeticCheck-sheetinanOphthalmologyWardAyumiShinoda1),ToshikoKaneko1),RieKikuna1),MichikoTakeda1),KeikoArai1),KiyokaOhne2),SadaoHori1)andKenjiInoue2)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InouyeEyeHospital目的:糖尿病チェックシート(以下チェックシート)が,入院中の糖尿病患者の看護問題を明確化して,適切な看護を行うことにつながっているかを調査した.対象および方法:2014年1~10月に糖尿病網膜症の治療のために西葛西・井上眼科病院に入院した患者のチェックシート161名分161枚の記載内容を集計した.また,チェックシートを使用した当院の病棟看護師13名にアンケートを実施した.結果:糖尿病の病型が確認できたのは1型が5名(3.1%),2型が121名(75.2%)であった.入院中に低血糖発作を起こした患者は9名(5.6%)で,このうちインスリン療法を導入していたのは6名,内服療法が3名であった.なお9名のうち2名が1型糖尿病であった.足病変があった患者は126名中42名(33.3%)であった.看護師アンケートより,チェックシートを用いて明確化された看護問題として,「コンプライアンスの状態」「足のケアに対する教育」「低血糖になる可能性」「低血糖に対する教育の必要性」があげられた.その問題に沿って看護ケアを提供したことがあるスタッフは13名(100%)であった.結論:チェックシートは,眼科単科病院で,眼科を中心とした看護ケアだけでなく,糖尿病患者の看護を行う資料として活用できる.Purpose:Toevaluatethediabeticcheck-sheet(DCS)thatwasdesignedtoclarifynursingproblemsrelatingtopatientsadmittedtooureyehospitalforophthalmicsurgery.SubjectsandMethods:Clinicalinformationondiabeticcontrol,treatment,statusofnephropathyandneuropathywasrecordedontheDCSof161consecutivepatientsadmittedforsurgery.Theresultswereanalyzedsoastobetterunderstandnursingproblemsregardingadmittedpatients.ThirteennursesrespondedtoaquestionnairesurveytodeterminewhethertheDCSwassuccessfullyutilized.Results:Patientsclassifiableastype1were5innumber(3.1%);type2patientstotaled121(75.2%).Hypoglycemicattackwasobservedin9patients(5.6%);6ofthosewereinsulintreatedand3receivedonlyoraltreatment.Informationonnephropathywasnotsufficientlycollected.Footproblemsinneuropathywerefoundin33.3%.Thequestionnairesurveyofnursesdisclosedproblemsconcerningcompliancewiththetreatmentofdiabetes,footcare,hypoglycemiaanditseducation.All13nursesengagedintheseaspectsofnursingcareduringthesurvey.Conclusion:TheDCSattheeyehospitalisausefultoolnotonlyforophthalmiccare,butforgeneraldiabeticcareofpatientsadmittedforsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(5):741〜745,2016〕Keywords:糖尿病患者,糖尿病チェックシート,全身管理,糖尿病網膜症患者の看護.diabeticpatients,diabeticcheck-sheet,generalcare,nursingcare.はじめに筆者らは眼科単科病院での糖尿病網膜症患者の症例報告を行い,糖尿病網膜症患者への看護には全身観察が重要で,急変が起こりうることを念頭にいれた看護援助が必要であることを報告した1).その結果を踏まえて,西葛西・井上眼科病院(以下,当院)ではスタッフの意識づけとして糖尿病チェックシート(以下,チェックシート)を改訂し,2014年1月より使用している.過去の研究では入院時の患者情報収集用紙の検討や作成・評価に関した報告はされているが2,3),眼科単科病院で糖尿病だけを取り扱った情報収集用紙の報告はない.今回改訂したチェックシートが,糖尿病患者の入院中の看護問題の発見や適切な看護に役立っているか,活用状況を調査した.I対象および方法1.チェックシートによる調査内容2013年12月24日に改訂したチェックシートを図1に示す.糖尿病網膜症の治療のため,おもに硝子体手術の対象となった糖尿病患者の入院時に,看護師が患者から聴収した情報と情報提供書より収集した内容をチェックシートに記入した.内容は,「チェックI.糖尿病治療」「チェックII.障害部位の記入欄」「チェックIII.血糖測定・インスリン」「チェックIV.血糖値」の大きく4つに分かれている.「チェックI.糖尿病治療」に関しては,1.病型,2.食事療法,3.薬物療法,4.HbA1C値,5.低血糖経験,6.腎機能障害,7.神経障害の7項目に分けた.6の腎機能障害に関しては,情報提供書からの内科情報に基づき,病期を細かく設定した.このチェックシートの記載内容から活用状況を調査した.2.チェックシートを使用した看護師に対するアンケート調査チェックシートを用いることで意図したように看護問題や看護展開がされているかを当院の病棟看護師13名にアンケートを行い,活用状況を調査した.アンケート内容は,チェックシートを用いることで①糖尿病の情報を把握し,看護上の問題点をあげることができたか,また,看護上の問題点はどんな内容であったか,②低血糖が起こる可能性があると感じた患者はいたか,③脳出血・心筋梗塞などの重要な臓器の出血や梗塞が起きる可能性がある患者を把握することができたか,④糖尿病の情報を把握し,気付いた看護問題を看護ケアとして患者に提供したことはあったか,また,実際に患者に提供した看護ケア・教育はどんな内容であったかの4項目とした.II結果1.チェックシートによる調査結果2014年1~10月にチェックシートを記入した入院患者は161名であった.手術眼・僚眼の視力はLP(−)〜1.2に分布し,手術眼の平均logMAR視力は0.87(±0.67)であった(n=151).僚眼の平均logMAR視力は0.31(±0.45)であった(n=155).手術眼と僚眼の各視力が手動弁以下であったものは平均視力の算定から除外した.各チェック項目の内容は以下に記す(図2).「チェックI.糖尿病治療」:「1.病型」で聞き取りまたは情報提供書より判定できたのは126名(78.3%)で,1型が5名(3.1%),2型が121名(75.2%)であった.「2.食事療法」をしていたのは152名(94.4%)でこのうち摂取カロリーの指示があったのは123名(76.4%)であった.「3.薬物療法」について151名(93.8%)から回答が得られ,内服治療は91名(56.5%),インスリン療法は26名(16.2%),インスリン+内服療法は25名(15.5%)に行われており,薬物療法を行っていない患者は9名(5.6%)であった.「4.HbA1C値」の情報が得られたのは114名(70.8%)であり,優(5.8未満)は7名(4.4%),良(5.8以上6.5未満)は23名(14.3%),可(6.5以上8.0未満)は65名(40.3%),不可(8.0以上)は19名(11.8%)であった.「5.低血糖経験」について聴取できたのは136名(84.5%)で,経験なしが85名(52.8%),経験ありが51名(31.7%)であった.入院中に低血糖発作を起こした患者は9名(5.6%)で,このうちインスリン療法を導入していたのは6名,内服療法が3名であった.なお9名のうち2名が1型糖尿病であり,低血糖経験ありが6名であった.「6.腎機能障害」に関して記入されたのは12名(7.5%)のみで,十分な情報が得られなかった.「7.神経障害」は126名(78.3%)から情報が得られ,足病変があったのは126人中42名(33.3%),皮膚変色が26名(20.6%),乾燥が14名(11.1%),肥厚が10名(7.9%),浮腫が8名(6.3%)であり,潰瘍を伴って治療が必要な患者は5名(3.9%)であった.「チェックIII.血糖測定・インスリン」「チェックIV.血糖値」は,個々の患者の血糖測定に関する情報を記入したものであり,今回の報告では解析しなかった.2.チェックシートを使用した看護師に対するアンケート調査結果調査に参加した看護師13名の平均年齢は42.4歳(±8.6歳)で看護師経験の平均経験年数18.6年(±9.4年)であり,アンケート回収率は100%であった.「1.チェックシートを用いることで糖尿病の情報を把握し,看護上の問題点をあげたことがあるか」という質問では,全員(100%)があると回答した.「看護上の問題点はどんな内容であったか」のアンケート(複数回答)では,「コンプライアンスの状態」「入院中,低血糖になる可能性があり指導が必要」「糖尿病網膜症を含めた糖尿病の教育が必要」「足のケアに対する教育が必要」が多かった(図3).「2.低血糖が起こる可能性があると感じた患者はいたか」という質問では,全員(100%)が「いた」と回答した.「3.脳出血・心筋梗塞などの重要な臓器の出血や梗塞が起きる可能性がある患者を把握することができたか」という質問では,「できなかった」1名(8%),「どちらともいえない」12名(92%)であった.「4.糖尿病の情報を把握し,気付いた看護問題を看護ケアとして患者に提供したことはあったか」という質問では,全員が「はい」と回答した.実際に患者に実施した看護ケア・教育の内容は,「低血糖と対処方法の説明」10名,「フットケアに対する説明」「血糖コントロールができておらず,担当医に報告」「糖尿病専門医について説明する」「糖尿病に関するパンフレットの提供・説明」の回答がそれぞれ8名であった(図4).III考按1.チェックシートによる調査内容以前までのチェックシートは糖尿病患者の身体面・社会面・家族協力体制などの項目をあげていたが,改訂後は入院中の糖尿病の管理を中心に,とくに低血糖が起こる危険性の確認と神経障害の足の観察に重点を置いた項目とした.低血糖の起きる可能性とチェックできる項目は「チェックI.糖尿病治療」の6項目であった.内容は,「1.病型」では1型か2型の糖尿病かを確認するように項目を設定し,糖尿病患者の病型を把握した.「2.食事療法」では内科の指示カロリーがあるのか,また食事の回数を確認し入院生活と日常生活の相違を確認するようにした.「3.薬物療法」では,薬物利用の有無を確認し,利用している場合,内服・インスリンおよびその両方かを把握することで低血糖の危険性を確認した.「4.HbA1C」では数値を確認し血糖管理状況を把握した.「5.低血糖経験」では,経験の有無を確認し,患者に低血糖に対する知識を確認した.「6.腎機能障害」では,耐糖能を悪化させる要因と改善させる要因が同時に存在することで,血糖コントロールを不安定にさせる4)ことから,腎機能障害の病期を確認し低血糖が起こる危険性を把握した.以上の6項目が,入院中低血糖が起こる危険性を判断できるチェック項目となっている.これらの項目が入院する糖尿病患者のアセスメントに生かされているか確認し,有用性についてさらに検討した.まず,チェックシートから当院の糖尿病患者の現状を確認した.眼科単科病院である当院は聞き取りができなかった未記入分を含めた161名中では2型糖尿病が75.2%であったが,聞き取りができたなかでは96.0%と多くを占めていた.日本の糖尿病患者の約95%が2型糖尿病とされている5)ため,平均的と考える(図2).つぎに,食事療法・薬物療法を実施している患者が70%以上と高いのは,糖尿病網膜症患者は入院前に糖尿病の治療を内科で受けていることが前提となっているためと考えられる.薬物療法は88.2%の患者が行っており,インスリン療法を導入している患者は31.7%を占めていた.低血糖を起こした患者9名中6名はインスリン療法を実施していたことから,インスリン療法を実施している患者は低血糖を起こす可能性が高いといえる.また,低血糖経験を確認したところ9名中6名が経験しており,そのうち5名はインスリン療法を実施している患者であった.インスリン療法の有無と合わせて低血糖経験の有無は,入院中の低血糖出現の有無に影響を与えると考える.入院時の情報で,インスリン療法を実施している低血糖経験ありの患者に対しては,とくに注意して血糖値の変動を確認していく必要がある.また,当院の糖尿病網膜症患者の多くは視機能が低下しているため患者自身では足病変に気付きにくい.また,神経障害があると足の感覚が鈍くなるため,知らない間に足を傷つけ足病変を生じやすい.そのため入院時に看護師による足病変の有無の確認が必要である.今回の調査で足病変があった患者は42名/126名(33.3%)であり,さらに潰瘍があり軟膏治療が必要な患者は5名(3.9%)であり,足の観察により異常の早期発見を行い,足のケアにも気を配れるように患者に促すことも眼科看護においては重要であろう.2.チェックシートを使用した看護師に対するアンケート調査チェックシートを用いることで検討すべき看護問題が絞られ,適切に看護を行えているかを,アンケート調査で確認し,また実際にチェックシートを使用しているかを記載内容より調査した.入院中検討すべき看護問題があげられているかについては,13名全員が「できている」と回答していた.看護問題の内容として「コンプライアンスの状態」「低血糖になる可能性がある」「低血糖に対する教育が必要」「足のケアに対する教育が必要」が上位にあがっていた.「チェックI.糖尿病治療」の低血糖経験の有無に関しては136名(84.4%)の記載があった.低血糖が起こる可能性があると感じた患者がいるかに対しては,「いる」と13名(100%)全員が回答し,「低血糖と対処方法の説明」を13名中10名が実施していた.チェックシートを用いることで低血糖に関した看護問題をあげて看護を行えているといえる.神経障害の項目に関しては,126名(78.2%)が記載しており,「フットケアに対する説明」を13名中8名が実施していた.神経障害を把握するために足の観察項目を設けることにより,スタッフは自ずと足の観察を実施することになる.そのため,チェックシートの情報をもとに看護するため,足の観察後に異常があった患者に対しフットケアに関する説明を半分以上のスタッフが実施していた.これもチェックシートを活用した効果と考えられる.低血糖・神経障害の看護問題をチェックシートより導き出すことができていることから,看護師による観察の質を一定に保つことができていると考えられる.また,看護問題として「コンプライアンスの状態」が上位にあがっていた.これはチェックシートを作成するにあたり意図していなかった看護問題であった.意図していなかった理由として,チェックシートの項目内容だけでは情報が足りないため「コンプライアンスの状態」は判断できないと思っていた.しかし実際,患者から糖尿病の情報をスムーズに聞き出す突破口としてもチェックシートは使用されていた.「コンプライアンスの状態」が上位にあがったのは,チェックシートの回答とチェックシート項目以外の会話から得た患者情報全部を踏まえてアセスメントした結果,患者の血糖管理状況や糖尿病への理解度を評価していたからと考える.「コンプライアンスの状態」の看護問題に対して,「血糖コントロールができておらず担当医に報告」「糖尿病専門医について説明する」「糖尿病に関するパンフレットの提供・説明」の看護ケアが実施されていたため,回答が多くあがったと考えられる(図4).チェックシートはスタッフの情報収集用紙として活用され,患者個々のレベルに合ったさまざまな看護問題をとりあげていると考えられる.しかし,チェックシートを用いることで,大血管障害が起こる危険性を把握することはできるかの問いに対し,「どちらともいえない」「できない」と13名全員が回答していた.このチェックシートだけでは患者の急変の有無を予測することはむずかしいと思われる.急変した場合を想定して定期的に急変時看護の講習会を開き対応を理解しておく,また救急時対応フローチャートを作成して掲示することで急変時に対応ができるよう看護体制を整えるようにした.チェックシートの記載のなかで腎機能障害の項目だけ12名(7.5%)と記載率が悪かった(図2).腎機能障害の項目の記載率が悪かった原因として,内科から患者に腎機能障害の病期については説明されておらず,また情報提供書にも記載がないことから,患者の病状や治療内容の詳細が得られなかったことがあげられる.眼科単科病院ではチェックシートから必要な患者情報をすべて得るには限界があり,限られた情報から過不足なく看護に必要な情報を引き出し整理することが求められる.IV結論チェックシートだけでは急変の可能性は予測困難だが,糖尿病の病状,低血糖対策・フットケアの意識づけ・血糖管理の良否を明らかにするには有用である.また,チェックシートを用いることで指導する内容を一定にすることができ,眼科看護を中心とした看護ケアだけでなく,糖尿病看護を行う資料として活用できる.本稿の要旨は第20回日本糖尿病眼学会にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)篠田歩,兼子登志子,井出明美ほか:看護上問題の多い糖尿病網膜症患者の看護のあり方.あたらしい眼科32:294-298,20152)岡崎敦子:患者入院時のアセスメントシートについて検討─ニーチャムスケールの応用─.第34回老年看護,p68-70,20033)宮本和美:効果的な入院時情報収集に向けたデータベース用紙の改善─記載率・活用状況の前後の比較─.第43回日本看護学会論文集,看護総合,p3-6,20134)貴田岡正史,和田幹子:そこが知りたい糖尿病ケアQ&A─臨床現場からの質問に答えます─.p40,総合医学社,20085)日本糖尿病学会編:糖尿病治療の手びき.改訂第55版,p19,南江堂,20116)大音清香:ステージ期にみた眼科ケアの基本.眼科エキスパートナーシング第2版,p96-98,南江堂,2015〔別刷請求先〕篠田歩:〒134-0088東京都江戸川区西葛西3-12-14西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:AyumiShinoda,NishikasaiInouyeEyeHospital,3-12-14Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN図1糖尿病チェックシート図2チェックシートの項目別人数(記入率)161名図3看護上の問題点はどんな内容であったか(複数回答可)図4実際に患者に提供した看護ケア・教育(複数回答可)0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(117)741742あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(118)(119)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016743744あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(120)(121)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016745

看護上問題の多い糖尿病網膜症患者の看護のあり方

2015年2月28日 土曜日

294あたらしい眼科Vol.5102,22,No.3(00)294(122)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《第19回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科32(2):294.298,2015cはじめに糖尿病が強く疑われている成人男女が約950万人に上ることが,厚生労働省の「2012年国民健康・栄養調査結果の推進」で明らかになった1).また,糖尿病が強く疑われる者のうち,現在治療を受けている者の割合は,男性65.9%,女性64.3%であり,未治療の糖尿病患者は少なくない.糖尿病は自覚症状がなく進行し,自覚症状が現れるころには多様な合併症が出現しているため,入院中は全身状態の観察がより求められる.今回,重度な糖尿病網膜症にて,突然硝子体出血を起こし西葛西・井上眼科病院(以下,当院)に救急搬送され,硝子体手術を受け,手術後は経過良好であったが,退院日の早朝に脳出血を発症した症例を経験した.本症例を患者の心理面と看護展開の看護の視点を重ね合わせながら振り返ることにより,看護上問題の多い糖尿病網膜症患者〔別刷請求先〕篠田歩:〒134-0088東京都江戸川区西葛西5-4-9西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:AyumiShinoda,NishikasaiInouyeEyeHospital,5-4-9Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN看護上問題の多い糖尿病網膜症患者の看護のあり方篠田歩*1兼子登志子*1井出明美*1酒井美智子*1武田美知子*1大音清香*2土田覚*1堀貞夫*1井上賢治*2*1西葛西・井上眼科病院*2井上眼科病院ViewsonNursingDiabeticRetinopathyPatientsWhoImposeGreaterCareBurdenAyumishinoda1),ToshikoKaneko1),AkemiIde1),MichikoSakai1),MichikoTakeda1),KiyokaOhne2),SatoruTuchida1),SadaoHori1)andKenjiInoue2)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InouyeEyeHospital目的:両眼の硝子体出血に対して硝子体手術施行後10日目に脳出血を発症し,総合病院へ搬送した増殖糖尿病網膜症患者の1例を看護の観点から検討し報告する.症例:53歳,男性.25歳時に2型糖尿病と診断されたが治療は中断を繰り返し,眼科治療も中断を繰り返した.53歳時に両眼の硝子体出血をきたし手術目的で西葛西・井上眼科病院へ入院した.患者は入院当初苛立ちが強かったが,術後見えるようになると徐々にコミュニケーションが図れるようになった.バイタル値・治療管理は問題なかったが急変した.退院日の早朝,異常呼吸がみられ,冷汗あり,呼びかけに反応なく当直医に報告,脳外科病院に搬送し,脳出血と診断された.結論:糖尿病の合併症をもつ患者がいる眼科病棟では,視機能の変化のみならず,患者の背景や病識の理解度を把握し,合併症の症状が悪化したり,新たに出現するおそれがあるため全身状態の観察が重要である.そのため,状態を把握できる糖尿病チェックシートを作成し,チーム医療による全身状態の観察と情報共有をして個々の患者支援を実施する必要がある.Purpose:Toreportacaseofproliferativediabeticretinopathythatreceivedvitrectomyandsufferedfromcerebralhemorrhage10dayspostsurgery,andtodiscussadequatenursingcareataprivateeyehospital.CaseReport:A53-year-oldmalehadbeendiagnosedastype2diabetesattheageof25,buthadnotreceivedappro-priatemedicalcarefromtheinternist.Hewasreferredtoourhospitalfortreatmentofvitreousbleedingduetoproliferativediabeticretinopathyinbotheyes.Thesurgerywassuccessful;best-correctedvisualacuityof0.3wasachievedinbotheyes.Duringhospitalization,hehadnotshownabnormalvitalsignsunderpropermonitoringbynurses,havingHbA1Cvalueof7.0%andFBSof135mg/dl.However,hesufferedcerebralhemorrhagewithhyper-tensionof202/95mmHgatpostsurgeryday10,whendischargehadbeenscheduled.Conclusions:Nursesshouldtakeadequatecarenotonlyofvisualfunction,butalsoofthepatient’sgeneralcondition,withunderstandingofdiabetesmellitusandotherunderliningdiseases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(2):294.298,2015〕Keywords:糖尿病網膜症患者の看護,視機能障害の心理,糖尿病患者のチェックシート.nursingofthediabetesretinopathy,psychologyofthevisualdisorder,diabeticchecksheet.(00)294(122)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《第19回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科32(2):294.298,2015cはじめに糖尿病が強く疑われている成人男女が約950万人に上ることが,厚生労働省の「2012年国民健康・栄養調査結果の推進」で明らかになった1).また,糖尿病が強く疑われる者のうち,現在治療を受けている者の割合は,男性65.9%,女性64.3%であり,未治療の糖尿病患者は少なくない.糖尿病は自覚症状がなく進行し,自覚症状が現れるころには多様な合併症が出現しているため,入院中は全身状態の観察がより求められる.今回,重度な糖尿病網膜症にて,突然硝子体出血を起こし西葛西・井上眼科病院(以下,当院)に救急搬送され,硝子体手術を受け,手術後は経過良好であったが,退院日の早朝に脳出血を発症した症例を経験した.本症例を患者の心理面と看護展開の看護の視点を重ね合わせながら振り返ることにより,看護上問題の多い糖尿病網膜症患者〔別刷請求先〕篠田歩:〒134-0088東京都江戸川区西葛西5-4-9西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:AyumiShinoda,NishikasaiInouyeEyeHospital,5-4-9Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN看護上問題の多い糖尿病網膜症患者の看護のあり方篠田歩*1兼子登志子*1井出明美*1酒井美智子*1武田美知子*1大音清香*2土田覚*1堀貞夫*1井上賢治*2*1西葛西・井上眼科病院*2井上眼科病院ViewsonNursingDiabeticRetinopathyPatientsWhoImposeGreaterCareBurdenAyumishinoda1),ToshikoKaneko1),AkemiIde1),MichikoSakai1),MichikoTakeda1),KiyokaOhne2),SatoruTuchida1),SadaoHori1)andKenjiInoue2)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InouyeEyeHospital目的:両眼の硝子体出血に対して硝子体手術施行後10日目に脳出血を発症し,総合病院へ搬送した増殖糖尿病網膜症患者の1例を看護の観点から検討し報告する.症例:53歳,男性.25歳時に2型糖尿病と診断されたが治療は中断を繰り返し,眼科治療も中断を繰り返した.53歳時に両眼の硝子体出血をきたし手術目的で西葛西・井上眼科病院へ入院した.患者は入院当初苛立ちが強かったが,術後見えるようになると徐々にコミュニケーションが図れるようになった.バイタル値・治療管理は問題なかったが急変した.退院日の早朝,異常呼吸がみられ,冷汗あり,呼びかけに反応なく当直医に報告,脳外科病院に搬送し,脳出血と診断された.結論:糖尿病の合併症をもつ患者がいる眼科病棟では,視機能の変化のみならず,患者の背景や病識の理解度を把握し,合併症の症状が悪化したり,新たに出現するおそれがあるため全身状態の観察が重要である.そのため,状態を把握できる糖尿病チェックシートを作成し,チーム医療による全身状態の観察と情報共有をして個々の患者支援を実施する必要がある.Purpose:Toreportacaseofproliferativediabeticretinopathythatreceivedvitrectomyandsufferedfromcerebralhemorrhage10dayspostsurgery,andtodiscussadequatenursingcareataprivateeyehospital.CaseReport:A53-year-oldmalehadbeendiagnosedastype2diabetesattheageof25,buthadnotreceivedappro-priatemedicalcarefromtheinternist.Hewasreferredtoourhospitalfortreatmentofvitreousbleedingduetoproliferativediabeticretinopathyinbotheyes.Thesurgerywassuccessful;best-correctedvisualacuityof0.3wasachievedinbotheyes.Duringhospitalization,hehadnotshownabnormalvitalsignsunderpropermonitoringbynurses,havingHbA1Cvalueof7.0%andFBSof135mg/dl.However,hesufferedcerebralhemorrhagewithhyper-tensionof202/95mmHgatpostsurgeryday10,whendischargehadbeenscheduled.Conclusions:Nursesshouldtakeadequatecarenotonlyofvisualfunction,butalsoofthepatient’sgeneralcondition,withunderstandingofdiabetesmellitusandotherunderliningdiseases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(2):294.298,2015〕Keywords:糖尿病網膜症患者の看護,視機能障害の心理,糖尿病患者のチェックシート.nursingofthediabetesretinopathy,psychologyofthevisualdisorder,diabeticchecksheet. の看護のあり方について検討し,糖尿病網膜症患者の糖尿病チェックシート作成まで至ったので報告する.I症例患者:53歳,男性.主訴:両眼が見えないために生活ができない.現病歴:41歳時に糖尿病網膜症の治療目的で当院を紹介受診した.視力は右眼0.09(1.0),左眼0.09(0.7)でレーザー光凝固術を受け,8カ月間は通院したが,その後中断した.3年経過した後に右眼硝子体出血のため受診し,46歳までは通院した.その後7年間通院を中断していたが,53歳時(2012年4月)に左眼が見えなくなり受診した.両眼硝子体出血を繰り返し,3カ月後,突然の両眼視力低下を自覚して救急車で来院し,両眼硝子体出血を認め手術目的で入院となった.既往歴:25歳時に2型糖尿病を指摘された.他病院内科に糖尿病コントロール目的の入退院を繰り返し,35歳時にインスリン療法を開始した.32歳時に高血圧に対して内服治療を開始した.43歳時に大腸癌のため人工肛門を造設し,49歳時より左下腿蜂窩織炎を繰り返した.51歳時に週3回の血液透析を導入し抗凝固薬も内服していた.うっ血性心不全,アルコール性肝炎,高度肥満症の治療も受けていた.キーパーソン:無.緊急時は会社の同僚が連絡先となっている(未婚,独居.両親は死亡,妹は関西に在住するが疎遠).職業:会社役員.入院時所見:視力は右眼0.01(n.c.),左眼0.01(n.c.),眼圧は右眼16mmHg,左眼13mmHg.前眼部は両眼虹彩まで新生血管を認め,眼底は両眼硝子体出血のため透見できなかった.入院時血圧168/93mmHg,脈拍84回/分,体温35.8℃,体重94.4kg,空腹時血糖135mg/dl.入院時採血データにてHb(ヘモグロビン)A1C値が7.0%であった.II入院経過と看護展開入院経過と看護展開を3場面に分け,看護展開は表にしてSOAPでまとめて記していく.<入院当日から左眼手術まで>(表1)本症例では,緊急入院のため持参薬はなく,同僚が持参した.当院では持参薬は初め薬剤師が内服薬の内容と内服方法を確認する.その後,看護師に情報が提供され看護師管理か患者管理か判断を行うことにしている.患者は残薬が多く,自宅で内服管理ができていたか不明であった.両眼が見えないため生活ができないと訴えがあり,まず内服は看護師管理とした.人工肛門(以下,ストマ)のパウチ交換はどの程度の手伝いが必要か質問すると「わからない!」と強い口調で答え(123)た.その後,インスリンやストマのパウチ交換など介助を要する援助に関しては根気よく聞き出すことで,患者は口を開き手順を説明した.それ以外の話題はなく,会話は続かなかった.ストマのパウチ交換時は全裸になって行うなど患者独自のスタイルがあり,手順を間違えると声を荒げて看護師を怒鳴っていた.インスリン注射時では,針が少ししか入っていないためしっかり針を入れるように指導すると,「見えないんだから」と強い口調で話した.空腹時はとくに苛立ち,「腹が空いているんだよ」と怒鳴りながら,かきこむように摂取した.血液透析は3回/週行っていた.入院3日後,左眼硝子体手術を行った.<左眼手術翌日から3日間>(表2)左眼手術後,視力は0.04(0.3)まで回復した.食事を配膳し,インスリンを打つ準備を促すと「お願いします」と返事があった.退院後は一人で行うため,今からインスリン注射は自分で行うよう説明した.患者は無言でインスリンの単位合わせを音で行い,促すと単位確認させてくれた.刺入まで時間がかかり,看護師が手を添えると払いのけ,「そういうのが一番恐いんだ」と声を荒げ,その後ゆっくり刺入し「入っているか」と看護師に確認していた.左眼の手術後退院予定であったが,本人の強い希望により右眼の手術を行った.<左眼手術後8日目(右眼術後1日目)から退院まで>(表3)インスリンの単位を見やすくするため拡大鏡を提供した.「こんなのあるんだ.見えるよ」と話し,拡大鏡を使用し始めた.血糖測定にて訪室した際,自分でインスリンを準備していた.拡大鏡で単位は見やすくなったのか問うと,「見やすくなった」とぼそっと返答があり,拡大鏡使用後インスリン注射は自立できた.「明後日退院ですね」と声掛けすると,「ここの料理はおいしいね.ずっと入院していたいよ.ここで働きたいな」と穏やかに会話した.退院日の早朝,看護師が巡回時,患者が鼾をしているが呼名反応がない状態を発見し,当直医の指示にて救急搬送された.そのときの血圧は202/95mmHgだった.搬送先の脳外科病院で脳出血と診断された.III考按1.視機能の障害と患者の心理面患者の見えないという障害は,食事療法,内服・インスリン管理,透析の継続,人工肛門の管理,蜂窩織炎の治療など,見えていなければ全身状態の管理が行えず死に直結する生命危機の障害であった.患者は独居であり,キーパーソンが近くにおらず,看護師の援助が必要であった.入院当日から手術までの時期は威圧的な言動と苛立ちが強く,非協力的で看護師の援助を受け入れずコミュニケーションをとるのもあたらしい眼科Vol.32,No.2,2015295 表1入院時の看護展開S(主観情報)O(客観情報)A(アセスメント)P(計画)「まったく見えない」顔色優れず.不安な表情で口数少ない.診察室へは車椅子で,トイレまでは伝え歩きで行く.食事はメニュー説明し時間をかけて自力摂取.視機能の障害によりセルフケア能力が低下している.日常生活行動に介助が必要.看護目標1見えている部分を自覚でき,自分で行えることは行うことができる.「うるさい」日常生活状況を確認するため尋ねると声を荒げ,その後口を閉ざす.両眼が突然見えなくなり,心の整理がつかず,不安が生じているためコミュニケーションがとれない.看護目標2不安が軽減され,思いを表現できコミュニケーションがとれるようになる.「朝はインスリンをやっていたが夜はやってない.夜は付き合いだってあるんだ」会社の同僚が自宅から持参薬を持ってくる.インスリンが48本(期限切れのインスリンが28本含む)・残薬の合わない大量の内服薬が入っている.視機能が障害される以前から内服・インスリン管理ができていない.透析が導入されて,蜂窩織炎も生じていることから三大合併症も進行しており,全身状態が悪いと考えられる.現在の治療状況を確認し,全身状態を管理する必要がある.看護目標3治療が理解でき,指示どおり管理を行うことで,合併症の悪化なく過ごせる.表2左眼手術後の看護展開S(主観情報)O(客観情報)A(アセスメント)P(計画)「見えるよ」「ごはんがおいしいね」「はい!でもインスリンは無理です」「内服薬が見えない」・食事,移動,清潔ケア自立.・左眼視力0.04(0.3)・食事時,穏やかに話す.・「一人で歩けるでしょう」と医師の声掛けに左記発言.・食後薬を取ろうとせず,手のひらを出して待っている.視力改善し,食事を味わうことができている.見守り,支援を行い,自立できることは行ってもらう.看護目標1を修正する.看護目標1見え方を確認し,できる範囲で日常生活行動を自己にて行える.表3退院日決定後の看護展開S(主観情報)O(客観情報)A(アセスメント)P(計画)「手術してよかった.覚悟を決めて手術したかいがあったよ」右眼視力0.02(0.3)左眼視力0.02(0.3)配薬箱を提供し,内服は自己管理となる.両眼手術が終わり精神的に落ち着いている.退院後独居,インスリン療法は安全性が高い自己管理方法が必要.看護目標1をプラン修正する.看護目標1退院後,一人でインスリン・内服管理ができ,術後の注意点も理解できる.困難であった.これは,患者が見えなくなったことで,一人で行えたことが行えなくなり,生命危機を感じ強度の不安に陥ったことで危機に至り,コミュニケーション能力や思考が阻害されていたからと考える.小島2)は,『危機とは,不安の強度の状態で,喪失に対する脅威,あるいは喪失という困難に直面してそれに対処するには自分のレパートリー(知識や経験などのたくわえ)が不十分で,そのストレスを処理するのにすぐに使える方法をもっていないときに体験するものである.』と述べている.このことから,キーパーソンのいない突然の視機能の障害では患者の心理面を理解した危機回避の看護が必要であると感じた.そのため眼科単科病院は精神科や臨床心理士との協力を得て患者の心理面をサポートできる体制を整えるのが今後の課題である.不安の危機回避として,「症状の緩和」があり,今回の患者では視力の回復が症状の緩和に値した.患者は見えるようになると食事を味わい,看護師の存在を意識し援助を受け入れ,コミュニケーションがとりやすく穏やかに会話をするようになった.このことから,見えるという機能は安全を確保する生活情報を得るだけでなく心のゆとりも得ていると感じた.看護師は患者に恐怖心や苦手意識を抱きながらも,患者が手術により見えるようになるまで,常に変わらない態度で患者に寄り添い,患者の感情をすべて受(124) 糖尿病網膜症・入院時チェックシート入院時の関わりから緊急度の高い情報整理チェックⅠ~Ⅳに当てはまる番号に○を記入してください。チェックⅠ入院時の患者情報1.血圧が高い血圧()内服□有□無2.血糖が高い血糖()内服・インスリン□有□無3.HbA1cが高い数値(%、採血日/)4.低血糖を起こしやすい頻度(回/月)5.インスリンの単位を自己判断で調整している6.診療情報提供書を持参していない7.理解力□有□無8.内服管理ができていない□抗血栓薬のみ休薬指示であったが、持参薬を全て中止していた(前より中止中)□その他()9.10.障害の部位を記入チェックⅡ社会資源1.障害者手帳(級)□有□無2.糖尿病手帳□有□無※上記1~3が一つでも当てはまる場合※上記1~10が一つでも当てはまる場合担当医にすみやかに報告する□術後の管理に注意が必要です。再度、術後感染・急変のリスク説明をお願いします。(説明対象者はチェックⅢ参照)≪術後管理への注意必要≫【より術後管理への注意が必要】用紙NO2へ糖尿病網膜症チェックリスト用紙活用⇒プライマリー導入備考欄チェックⅢ特に注意すべき既往1.高血圧2.脳血管疾患3.心疾患4.腎障害透析□有□無シャント□右□左5.呼吸疾患6.パーキンソン7.認知症8.精神疾患()9.チェックⅣご本人と家族の状況1.一人暮しキーパーソン□有□無2.家族と同居カンファレンス実施時期:□入院時□15:30リーダー+メンバー+責任者(最低3人以上)1.観察項目・看護項目2.糖尿病指導□必要□不要医師の指示内容キーパーソン□夫□妻□子□その他□説明は家人と一緒が好ましい図1当院における糖尿病網膜症・入院時チェックシートけ止めていた.そのうえで,失明に対する不安の危機回避でていたいよ.ここで働きたいな」という患者の言葉から,看ある「基本的欲求の充足」「環境整備」を行い,安楽をもた護師は患者の入院生活に安楽を提供できたと考える.らせるよう日常生活援助を行った.退院前,「ずっと入院し(125)あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015297 2.看護上問題の多い糖尿病網膜症患者の看護患者は持参薬の残薬が合わず,また28本の期限切れのインスリンを所持していた.さらに血液透析が導入され,左下腿には蜂窩織炎を伴っていることから,糖尿病の自己管理ができていなかったことが疑われる.今回両眼の視機能障害のため緊急入院となり,内科医の指示に沿った治療を再開することとなった.看護師は入院当初から「現在の治療状況を確認し,全身状態を管理する必要がある」と患者の全身管理・全身観察に関した看護問題から看護目標3をあげ,看護展開を行っていた.だが,患者の視機能の回復具合と退院日が近づいていくにつれ,看護目標3は評価されず,看護目標1の患者への自立支援・ロービジョンケアを中心に看護展開がされている.しかし,この症例では自立支援やロービジョンケアの介入の他に,看護目標3の全身観察の看護が常に求められていたと考える.この看護意識が薄れた要因として,突然見えなくなり危機を感じて混乱していたが,視機能の回復により穏やかになっていった患者の姿に看護師が注目していたため,糖尿病の管理を自己判断で行っていた,病気に関する認識の低い患者に対しての看護展開が疎かになっていたことが考えられる.そのため糖尿病合併症を併発している患者について,糖尿病チェックシートを作成し,視機能障害に対する看護だけでなく常に全身観察の重要性を意識して取り組んでいく必要がある.そこで,糖尿病の治療内容だけであった当院のチェックシートに入院時の患者情報,社会資源,既往歴,本人と家族の状況などを盛り込んで,どのスタッフにも糖尿病患者の管理状態を把握できるようにした.当院は眼科単科病院であるため救急科がなく,急変が起きた場合は提携している救急病院に患者を搬送して対応している.よって,患者の異常にいち早く気付ける観察力・アセスメント能力が看護師に求められる.今後,このチェックシートが看護にどう活用されるか評価が必要である.IV結論本事例では,糖尿病の三大合併症を有し,硝子体出血により失明するのではないかという強度の不安から,緊急入院時点ではコミュニケーションがむずかしかった.術後,視力は改善傾向にあったが,糖尿病合併症の併発から視機能以外の合併症が悪化した.入院中,ロービジョンケアや自立支援を中心に看護展開を優先して行っていた.また,スタッフにより,病気に関する認識の低い患者の全身状態の観察に差があったことがわかった.糖尿病の合併症をもつ患者がいる眼科病棟では,視機能の変化のみならず,合併症の症状の悪化や新たに出現するおそれがあるため,患者の背景や病識の理解度を把握し全身状態の観察が重要である.そのため,状態を把握できる糖尿病チェックシートを作成し,チーム医療による全身状態の観察と情報共有をして個々の患者支援を実施する必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)厚生労働省:平成24年「国民健康・栄養調査」の結果.2013http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000032074.html2)小島操子:看護における危機理論・危機介入.p6,金芳堂,20133)稲垣喜三:術前・術中・術後における麻酔のアセスメント丸わかりレクチャー.OPEnursing27:689,2012***(126)