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眼科病棟における糖尿病チェックシートの評価

2016年5月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科33(5):741〜745,2016©眼科病棟における糖尿病チェックシートの評価篠田歩*1兼子登志子*1菊名理恵*1武田美知子*1荒井桂子*1大音清香*2堀貞夫*1井上賢治*2*1西葛西・井上眼科病院*2井上眼科病院EvaluationoftheDiabeticCheck-sheetinanOphthalmologyWardAyumiShinoda1),ToshikoKaneko1),RieKikuna1),MichikoTakeda1),KeikoArai1),KiyokaOhne2),SadaoHori1)andKenjiInoue2)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InouyeEyeHospital目的:糖尿病チェックシート(以下チェックシート)が,入院中の糖尿病患者の看護問題を明確化して,適切な看護を行うことにつながっているかを調査した.対象および方法:2014年1~10月に糖尿病網膜症の治療のために西葛西・井上眼科病院に入院した患者のチェックシート161名分161枚の記載内容を集計した.また,チェックシートを使用した当院の病棟看護師13名にアンケートを実施した.結果:糖尿病の病型が確認できたのは1型が5名(3.1%),2型が121名(75.2%)であった.入院中に低血糖発作を起こした患者は9名(5.6%)で,このうちインスリン療法を導入していたのは6名,内服療法が3名であった.なお9名のうち2名が1型糖尿病であった.足病変があった患者は126名中42名(33.3%)であった.看護師アンケートより,チェックシートを用いて明確化された看護問題として,「コンプライアンスの状態」「足のケアに対する教育」「低血糖になる可能性」「低血糖に対する教育の必要性」があげられた.その問題に沿って看護ケアを提供したことがあるスタッフは13名(100%)であった.結論:チェックシートは,眼科単科病院で,眼科を中心とした看護ケアだけでなく,糖尿病患者の看護を行う資料として活用できる.Purpose:Toevaluatethediabeticcheck-sheet(DCS)thatwasdesignedtoclarifynursingproblemsrelatingtopatientsadmittedtooureyehospitalforophthalmicsurgery.SubjectsandMethods:Clinicalinformationondiabeticcontrol,treatment,statusofnephropathyandneuropathywasrecordedontheDCSof161consecutivepatientsadmittedforsurgery.Theresultswereanalyzedsoastobetterunderstandnursingproblemsregardingadmittedpatients.ThirteennursesrespondedtoaquestionnairesurveytodeterminewhethertheDCSwassuccessfullyutilized.Results:Patientsclassifiableastype1were5innumber(3.1%);type2patientstotaled121(75.2%).Hypoglycemicattackwasobservedin9patients(5.6%);6ofthosewereinsulintreatedand3receivedonlyoraltreatment.Informationonnephropathywasnotsufficientlycollected.Footproblemsinneuropathywerefoundin33.3%.Thequestionnairesurveyofnursesdisclosedproblemsconcerningcompliancewiththetreatmentofdiabetes,footcare,hypoglycemiaanditseducation.All13nursesengagedintheseaspectsofnursingcareduringthesurvey.Conclusion:TheDCSattheeyehospitalisausefultoolnotonlyforophthalmiccare,butforgeneraldiabeticcareofpatientsadmittedforsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(5):741〜745,2016〕Keywords:糖尿病患者,糖尿病チェックシート,全身管理,糖尿病網膜症患者の看護.diabeticpatients,diabeticcheck-sheet,generalcare,nursingcare.はじめに筆者らは眼科単科病院での糖尿病網膜症患者の症例報告を行い,糖尿病網膜症患者への看護には全身観察が重要で,急変が起こりうることを念頭にいれた看護援助が必要であることを報告した1).その結果を踏まえて,西葛西・井上眼科病院(以下,当院)ではスタッフの意識づけとして糖尿病チェックシート(以下,チェックシート)を改訂し,2014年1月より使用している.過去の研究では入院時の患者情報収集用紙の検討や作成・評価に関した報告はされているが2,3),眼科単科病院で糖尿病だけを取り扱った情報収集用紙の報告はない.今回改訂したチェックシートが,糖尿病患者の入院中の看護問題の発見や適切な看護に役立っているか,活用状況を調査した.I対象および方法1.チェックシートによる調査内容2013年12月24日に改訂したチェックシートを図1に示す.糖尿病網膜症の治療のため,おもに硝子体手術の対象となった糖尿病患者の入院時に,看護師が患者から聴収した情報と情報提供書より収集した内容をチェックシートに記入した.内容は,「チェックI.糖尿病治療」「チェックII.障害部位の記入欄」「チェックIII.血糖測定・インスリン」「チェックIV.血糖値」の大きく4つに分かれている.「チェックI.糖尿病治療」に関しては,1.病型,2.食事療法,3.薬物療法,4.HbA1C値,5.低血糖経験,6.腎機能障害,7.神経障害の7項目に分けた.6の腎機能障害に関しては,情報提供書からの内科情報に基づき,病期を細かく設定した.このチェックシートの記載内容から活用状況を調査した.2.チェックシートを使用した看護師に対するアンケート調査チェックシートを用いることで意図したように看護問題や看護展開がされているかを当院の病棟看護師13名にアンケートを行い,活用状況を調査した.アンケート内容は,チェックシートを用いることで①糖尿病の情報を把握し,看護上の問題点をあげることができたか,また,看護上の問題点はどんな内容であったか,②低血糖が起こる可能性があると感じた患者はいたか,③脳出血・心筋梗塞などの重要な臓器の出血や梗塞が起きる可能性がある患者を把握することができたか,④糖尿病の情報を把握し,気付いた看護問題を看護ケアとして患者に提供したことはあったか,また,実際に患者に提供した看護ケア・教育はどんな内容であったかの4項目とした.II結果1.チェックシートによる調査結果2014年1~10月にチェックシートを記入した入院患者は161名であった.手術眼・僚眼の視力はLP(−)〜1.2に分布し,手術眼の平均logMAR視力は0.87(±0.67)であった(n=151).僚眼の平均logMAR視力は0.31(±0.45)であった(n=155).手術眼と僚眼の各視力が手動弁以下であったものは平均視力の算定から除外した.各チェック項目の内容は以下に記す(図2).「チェックI.糖尿病治療」:「1.病型」で聞き取りまたは情報提供書より判定できたのは126名(78.3%)で,1型が5名(3.1%),2型が121名(75.2%)であった.「2.食事療法」をしていたのは152名(94.4%)でこのうち摂取カロリーの指示があったのは123名(76.4%)であった.「3.薬物療法」について151名(93.8%)から回答が得られ,内服治療は91名(56.5%),インスリン療法は26名(16.2%),インスリン+内服療法は25名(15.5%)に行われており,薬物療法を行っていない患者は9名(5.6%)であった.「4.HbA1C値」の情報が得られたのは114名(70.8%)であり,優(5.8未満)は7名(4.4%),良(5.8以上6.5未満)は23名(14.3%),可(6.5以上8.0未満)は65名(40.3%),不可(8.0以上)は19名(11.8%)であった.「5.低血糖経験」について聴取できたのは136名(84.5%)で,経験なしが85名(52.8%),経験ありが51名(31.7%)であった.入院中に低血糖発作を起こした患者は9名(5.6%)で,このうちインスリン療法を導入していたのは6名,内服療法が3名であった.なお9名のうち2名が1型糖尿病であり,低血糖経験ありが6名であった.「6.腎機能障害」に関して記入されたのは12名(7.5%)のみで,十分な情報が得られなかった.「7.神経障害」は126名(78.3%)から情報が得られ,足病変があったのは126人中42名(33.3%),皮膚変色が26名(20.6%),乾燥が14名(11.1%),肥厚が10名(7.9%),浮腫が8名(6.3%)であり,潰瘍を伴って治療が必要な患者は5名(3.9%)であった.「チェックIII.血糖測定・インスリン」「チェックIV.血糖値」は,個々の患者の血糖測定に関する情報を記入したものであり,今回の報告では解析しなかった.2.チェックシートを使用した看護師に対するアンケート調査結果調査に参加した看護師13名の平均年齢は42.4歳(±8.6歳)で看護師経験の平均経験年数18.6年(±9.4年)であり,アンケート回収率は100%であった.「1.チェックシートを用いることで糖尿病の情報を把握し,看護上の問題点をあげたことがあるか」という質問では,全員(100%)があると回答した.「看護上の問題点はどんな内容であったか」のアンケート(複数回答)では,「コンプライアンスの状態」「入院中,低血糖になる可能性があり指導が必要」「糖尿病網膜症を含めた糖尿病の教育が必要」「足のケアに対する教育が必要」が多かった(図3).「2.低血糖が起こる可能性があると感じた患者はいたか」という質問では,全員(100%)が「いた」と回答した.「3.脳出血・心筋梗塞などの重要な臓器の出血や梗塞が起きる可能性がある患者を把握することができたか」という質問では,「できなかった」1名(8%),「どちらともいえない」12名(92%)であった.「4.糖尿病の情報を把握し,気付いた看護問題を看護ケアとして患者に提供したことはあったか」という質問では,全員が「はい」と回答した.実際に患者に実施した看護ケア・教育の内容は,「低血糖と対処方法の説明」10名,「フットケアに対する説明」「血糖コントロールができておらず,担当医に報告」「糖尿病専門医について説明する」「糖尿病に関するパンフレットの提供・説明」の回答がそれぞれ8名であった(図4).III考按1.チェックシートによる調査内容以前までのチェックシートは糖尿病患者の身体面・社会面・家族協力体制などの項目をあげていたが,改訂後は入院中の糖尿病の管理を中心に,とくに低血糖が起こる危険性の確認と神経障害の足の観察に重点を置いた項目とした.低血糖の起きる可能性とチェックできる項目は「チェックI.糖尿病治療」の6項目であった.内容は,「1.病型」では1型か2型の糖尿病かを確認するように項目を設定し,糖尿病患者の病型を把握した.「2.食事療法」では内科の指示カロリーがあるのか,また食事の回数を確認し入院生活と日常生活の相違を確認するようにした.「3.薬物療法」では,薬物利用の有無を確認し,利用している場合,内服・インスリンおよびその両方かを把握することで低血糖の危険性を確認した.「4.HbA1C」では数値を確認し血糖管理状況を把握した.「5.低血糖経験」では,経験の有無を確認し,患者に低血糖に対する知識を確認した.「6.腎機能障害」では,耐糖能を悪化させる要因と改善させる要因が同時に存在することで,血糖コントロールを不安定にさせる4)ことから,腎機能障害の病期を確認し低血糖が起こる危険性を把握した.以上の6項目が,入院中低血糖が起こる危険性を判断できるチェック項目となっている.これらの項目が入院する糖尿病患者のアセスメントに生かされているか確認し,有用性についてさらに検討した.まず,チェックシートから当院の糖尿病患者の現状を確認した.眼科単科病院である当院は聞き取りができなかった未記入分を含めた161名中では2型糖尿病が75.2%であったが,聞き取りができたなかでは96.0%と多くを占めていた.日本の糖尿病患者の約95%が2型糖尿病とされている5)ため,平均的と考える(図2).つぎに,食事療法・薬物療法を実施している患者が70%以上と高いのは,糖尿病網膜症患者は入院前に糖尿病の治療を内科で受けていることが前提となっているためと考えられる.薬物療法は88.2%の患者が行っており,インスリン療法を導入している患者は31.7%を占めていた.低血糖を起こした患者9名中6名はインスリン療法を実施していたことから,インスリン療法を実施している患者は低血糖を起こす可能性が高いといえる.また,低血糖経験を確認したところ9名中6名が経験しており,そのうち5名はインスリン療法を実施している患者であった.インスリン療法の有無と合わせて低血糖経験の有無は,入院中の低血糖出現の有無に影響を与えると考える.入院時の情報で,インスリン療法を実施している低血糖経験ありの患者に対しては,とくに注意して血糖値の変動を確認していく必要がある.また,当院の糖尿病網膜症患者の多くは視機能が低下しているため患者自身では足病変に気付きにくい.また,神経障害があると足の感覚が鈍くなるため,知らない間に足を傷つけ足病変を生じやすい.そのため入院時に看護師による足病変の有無の確認が必要である.今回の調査で足病変があった患者は42名/126名(33.3%)であり,さらに潰瘍があり軟膏治療が必要な患者は5名(3.9%)であり,足の観察により異常の早期発見を行い,足のケアにも気を配れるように患者に促すことも眼科看護においては重要であろう.2.チェックシートを使用した看護師に対するアンケート調査チェックシートを用いることで検討すべき看護問題が絞られ,適切に看護を行えているかを,アンケート調査で確認し,また実際にチェックシートを使用しているかを記載内容より調査した.入院中検討すべき看護問題があげられているかについては,13名全員が「できている」と回答していた.看護問題の内容として「コンプライアンスの状態」「低血糖になる可能性がある」「低血糖に対する教育が必要」「足のケアに対する教育が必要」が上位にあがっていた.「チェックI.糖尿病治療」の低血糖経験の有無に関しては136名(84.4%)の記載があった.低血糖が起こる可能性があると感じた患者がいるかに対しては,「いる」と13名(100%)全員が回答し,「低血糖と対処方法の説明」を13名中10名が実施していた.チェックシートを用いることで低血糖に関した看護問題をあげて看護を行えているといえる.神経障害の項目に関しては,126名(78.2%)が記載しており,「フットケアに対する説明」を13名中8名が実施していた.神経障害を把握するために足の観察項目を設けることにより,スタッフは自ずと足の観察を実施することになる.そのため,チェックシートの情報をもとに看護するため,足の観察後に異常があった患者に対しフットケアに関する説明を半分以上のスタッフが実施していた.これもチェックシートを活用した効果と考えられる.低血糖・神経障害の看護問題をチェックシートより導き出すことができていることから,看護師による観察の質を一定に保つことができていると考えられる.また,看護問題として「コンプライアンスの状態」が上位にあがっていた.これはチェックシートを作成するにあたり意図していなかった看護問題であった.意図していなかった理由として,チェックシートの項目内容だけでは情報が足りないため「コンプライアンスの状態」は判断できないと思っていた.しかし実際,患者から糖尿病の情報をスムーズに聞き出す突破口としてもチェックシートは使用されていた.「コンプライアンスの状態」が上位にあがったのは,チェックシートの回答とチェックシート項目以外の会話から得た患者情報全部を踏まえてアセスメントした結果,患者の血糖管理状況や糖尿病への理解度を評価していたからと考える.「コンプライアンスの状態」の看護問題に対して,「血糖コントロールができておらず担当医に報告」「糖尿病専門医について説明する」「糖尿病に関するパンフレットの提供・説明」の看護ケアが実施されていたため,回答が多くあがったと考えられる(図4).チェックシートはスタッフの情報収集用紙として活用され,患者個々のレベルに合ったさまざまな看護問題をとりあげていると考えられる.しかし,チェックシートを用いることで,大血管障害が起こる危険性を把握することはできるかの問いに対し,「どちらともいえない」「できない」と13名全員が回答していた.このチェックシートだけでは患者の急変の有無を予測することはむずかしいと思われる.急変した場合を想定して定期的に急変時看護の講習会を開き対応を理解しておく,また救急時対応フローチャートを作成して掲示することで急変時に対応ができるよう看護体制を整えるようにした.チェックシートの記載のなかで腎機能障害の項目だけ12名(7.5%)と記載率が悪かった(図2).腎機能障害の項目の記載率が悪かった原因として,内科から患者に腎機能障害の病期については説明されておらず,また情報提供書にも記載がないことから,患者の病状や治療内容の詳細が得られなかったことがあげられる.眼科単科病院ではチェックシートから必要な患者情報をすべて得るには限界があり,限られた情報から過不足なく看護に必要な情報を引き出し整理することが求められる.IV結論チェックシートだけでは急変の可能性は予測困難だが,糖尿病の病状,低血糖対策・フットケアの意識づけ・血糖管理の良否を明らかにするには有用である.また,チェックシートを用いることで指導する内容を一定にすることができ,眼科看護を中心とした看護ケアだけでなく,糖尿病看護を行う資料として活用できる.本稿の要旨は第20回日本糖尿病眼学会にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)篠田歩,兼子登志子,井出明美ほか:看護上問題の多い糖尿病網膜症患者の看護のあり方.あたらしい眼科32:294-298,20152)岡崎敦子:患者入院時のアセスメントシートについて検討─ニーチャムスケールの応用─.第34回老年看護,p68-70,20033)宮本和美:効果的な入院時情報収集に向けたデータベース用紙の改善─記載率・活用状況の前後の比較─.第43回日本看護学会論文集,看護総合,p3-6,20134)貴田岡正史,和田幹子:そこが知りたい糖尿病ケアQ&A─臨床現場からの質問に答えます─.p40,総合医学社,20085)日本糖尿病学会編:糖尿病治療の手びき.改訂第55版,p19,南江堂,20116)大音清香:ステージ期にみた眼科ケアの基本.眼科エキスパートナーシング第2版,p96-98,南江堂,2015〔別刷請求先〕篠田歩:〒134-0088東京都江戸川区西葛西3-12-14西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:AyumiShinoda,NishikasaiInouyeEyeHospital,3-12-14Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN図1糖尿病チェックシート図2チェックシートの項目別人数(記入率)161名図3看護上の問題点はどんな内容であったか(複数回答可)図4実際に患者に提供した看護ケア・教育(複数回答可)0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(117)741742あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(118)(119)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016743744あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(120)(121)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016745

糖尿病患者における白内障術前の結膜嚢細菌叢の検討

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1(105)2430910-1810/09/\100/頁/JCLS14回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科26(2):243246,2009cはじめに白内障手術に限らず術後眼内炎は一度発症すると,それによる患者側の負担や不利益のみならず,術者側にもあらゆる面で大きな負担と責任とが重くのしかかる.白内障手術における術後眼内炎発症率は0.05%と報告されている1)が,それを低減するために危険因子の軽減が重要である.術後眼内炎における危険因子のうち,患者側のものとしては,糖尿病の合併が報告されている2,3).一方,近年白内障手術における術後眼内炎の起因菌として結膜内常在菌が関与していることも知られている.特に,糖尿病患者における血糖コントロールは慢性合併症の発症に大きく関わり,血糖コントロール不良状態では易感染性が増すとの報告もある4).このため結膜内常在菌叢が何らかの影響を受ける可能性が考えられることから,術後眼内炎の危険因子になることが懸念される.〔別刷請求先〕須藤史子:〒349-1105埼玉県北葛飾郡栗橋町大字小右衛門714-6埼玉県済生会栗橋病院眼科Reprintrequests:ChikakoSuto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SaitamakenSaiseikaiKurihashiHospital,714-6Koemon,Kurihashi-machi,Kitakatsushika-gun,Saitama349-1105,JAPAN糖尿病患者における白内障術前の結膜細菌叢の検討屋宜友子*1,2須藤史子*1,2森永将弘*1,2八代智恵子*3土至田宏*4堀貞夫*2*1埼玉県済生会栗橋病院眼科*2東京女子医科大学眼科学教室*3埼玉県済生会栗橋病臨床検査部*4順天堂大学医学部眼科学教室StudyofConjunctivalSacBacterialFlorainDiabeticPatientsbeforeCataractSurgeryTomokoYagi1,2),ChikakoSuto1,2),MasahiroMorinaga1,2),ChiekoYashiro3),HiroshiToshida4)andSadaoHori2)1)DepartmentofOphthalmology,SaitamakenSaiseikaiKurihashiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversity,3)LaboratoryDepartment,SaitamakenSaiseikaiKurihashiHospital,4)DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversitySchoolofMedicine白内障術前患者249例406眼の下眼瞼結膜擦過培養および検出菌薬剤感受性検査結果を糖尿病の有無により比較検討した.糖尿病患者(DM群)は75例126眼,非糖尿病患者(非DM群)は174例280眼で,平均年齢は各々70.2±9.4歳,72.6±8.9歳,細菌検出率は36.5%,34.3%といずれも両群間に統計学的有意差を認めず,DM群ヘモグロビン(Hb)A1C8%以上とそれ未満との比較でも有意差は認められなかった.菌種別では,両群ともにコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS),コリネバクテリウムの順に多く,これらで大半を占め,3位はメチシリン耐性CNS(MRCNS)であったがDM群で統計学的に有意に多く検出された(p<0.05).薬剤耐性率はレボフロキサシン(LVFX),セフメノキシム(CMX),トブラマイシン(TOB)のいずれにおいても両群間の差は認められなかった.MRCNSの薬剤耐性率は近年増加傾向にあるが,特に糖尿病患者において注意を要する.Conjunctivalscrapingsfromthelowereyelidwereculturedin249patients(406eyes)beforecataractsur-gery;thedrugsensitivityofthebacteriadetectedwascomparedbetweenpatientswithandwithoutdiabetes.Therewere126eyesof75patientswithdiabetes(DMgroup)and280eyesof174patientswithoutdiabetes.Indiabeticpatientswithhemoglobin(Hb)A1Clevels8%or<8%,meanage(70.2±9.4vs.72.6±8.9years)andbac-terialdetectionrate(36.5%vs.34.3%)werenotsignicantlydierent.Themajorbacterialstrainsfoundwerecoagulase-negativeStaphylococcus(CNS)andCorynebacterium,followedbymethicillin-resistantCNS(MRCNS).TherewasasignicantlyhigherbacterialdetectionrateintheDMgroup(p<0.05).Therewerenodierencesbetweenthegroupsregardingratesofresistancetolebooxacin(LVFX),cefmenoxime(CMX),andtobramycin(TOB).MRCNSresistancehasbeenincreasingrecently,socareshouldbetaken,especiallyindiabeticpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(2):243246,2009〕Keywords:白内障手術,結膜細菌叢,糖尿病患者,メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MRCNS),耐性菌.cataractsurgery,conjunctivalsacbacterialora,diabeticpatients,methicillin-resistantcoagulase-negativeStaphylococcus(MRCNS),antibiotics-resistance———————————————————————-Page2244あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(106)さらに血糖コントロール不良患者では細菌検出率が有意に高いとの報告もある5).その一方で糖尿病は術後眼内炎の危険因子ではないとの報告もある6).そこで今回筆者らは,糖尿病の有無による結膜細菌叢および検出菌の抗菌薬耐性の差に関する検討を行った.I対象および方法対象は,2006年1月から2007年6月の1年半の間に埼玉県済生会栗橋病院で白内障手術を施行した249例406眼で,その内訳は男性107例171眼(43.0%),女性142例235眼(57.0%)であった.年齢は71.8±9.1歳(平均±標準偏差)であった.結膜細菌検査は手術の約2週間前に行い,検体は滅菌綿棒(トランシステムクリア,スギヤマゲン社,東京)を用いて無麻酔下で下眼瞼結膜を擦過し採取,1時間以内に当院臨床検査部に移送し,血液寒天培地およびチョコレート寒天培地上で35℃,2448時間培養後に,従来法で判定した.なお,嫌気性培養,増菌培養は未施行であった.薬剤感受性検査は,CLSI(ClinicalandLaboratoryStandardsInsti-tute)M100-S177)に準拠し,Disc拡散法(Sensi-Discを用いたKirby-Bauer法),およびRAISUS(全自動迅速同定感受性測定装置)を用いた微量液体希釈法にて測定した.検討項目は,1.結膜細菌検出率,2.検出菌の内訳,3.検出菌の薬剤耐性率で,さらにこれらを糖尿病の有無により比較検討した.薬剤感受性検査の対象薬剤は,レボフロキサシン(LVFX),セフメノキシム(CMX),トブラマイシン(TOB)の3種とした.なお,本研究においては白内障術前結膜の減菌を理想としているため,感受性が中間のものは耐性として扱った.II結果1.対象患者の内訳(表1)対象患者249例406眼のうち,糖尿病患者(以下,DM群)は75例126眼(31.0%),非糖尿病患者(以下,非DM群)は174例280眼(69.0%)であった.年齢はDM群70.2±9.4歳,非DM群72.6±8.9歳,男女比はDM群で男性36例(48.0%),女性39例(52.0%),非DM群で男性71例(40.8%),女性103例(59.2%)であった.年齢および性差は,両群間で統計学的有意差を認めなかった.2.結膜細菌検出率分離された細菌は全体で406眼中142眼で検出され,細菌検出率は35.0%であった.DMの有無別ではDM群では126眼中46眼(36.5%),非DM群では280眼中96眼(34.3%)であり,両群間に統計学的有意差は認めなかった.さらにDM群を血糖コントロールの面から検討すべくヘモグロビンA1C(HbA1C)8%以上のコントロール不良例と8%未満とで比較したところ,HbA1C8%以上の群では14例25眼中7眼で細菌分離され,その検出率は28.0%,8%未満は61例101眼中39眼で細菌分離され,その検出率は38.6%と,両群間に統計学的有意差は認めなかった.3.検出菌の内訳(表2)菌種別では,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)67株(37.6%),コリネバクテリウム66株(37.1%)が大半を占め,これら2種で75%近くを占めた.3位にはメチシリン耐性CNS(MRCNS)が21株(11.8%)検出され,続いて腸球菌が6株(3.4%)検出された.検出菌をDM群,非DM群に分けて検討した結果,CNSは各々31.3%,41.2%,コリネバクテリウムは各々37.5%,36.8%と,ともに上位2種の順位および割合は不変であったが,MRCNSの検出率は各々20.3%,7.0%と,DM群で非DM群に比べて統計学的に有意に高かった(c2検定p<0.05).DM群のうちMRCNS陽表1対象患者の内訳患者総数(249例406眼)糖尿病患者75例126眼(31%)非糖尿病患者174例280眼(69%)平均年齢70.2±9.4歳72.6±8.9歳男性36例(48.0%)71例(40.8%)女性39例(52.0%)103例(59.2%)年齢および性差は,両群間で統計学的有意差を認めなかった.表2検出菌の内訳全患者糖尿病患者非糖尿病患者株%株%株%CNS6737.62031.34741.2Colynebacterium6637.12437.54236.8MRCNS2111.81320.3*87.0*腸球菌63.4MSSA52.8*:MRCNSの検出率のみDM群で非DM群に比べて統計学的に有意に高かった(c2検定p<0.05).:DM群:非DM群2520151050薬剤耐性率(%)13.518.823.114.623.117.7LVFXCMXTOB図1検出菌の薬剤耐性率両群間の薬剤耐性率は3剤ともに統計学的有意差を認めなかった.LVFX:レボフロキサシン,CMX:セフメノキシム,TOM:トブラマイシン.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009245(107)性群と陰性群それぞれの抗菌点眼薬の使用既往の有無について検討したところ,陽性群で30.7%,陰性群で28.3%であり,統計学的有意差は認められなかった.4.検出菌の薬剤耐性率(図1)薬剤耐性率は検出菌全体でLVFX16.9%,CMX17.6%,TOB19.6%であった.DM群,非DM群別にみると,LVFXは各々13.5%,18.8%,CMXは各々23.1%,14.6%,TOBは各々23.1%,17.7%と,両群間の薬剤耐性率は3剤ともに統計学的有意差を認めなかった.III考察糖尿病患者は網膜症の管理の必要性があるため眼科を受診し,合併症が発見されれば加療が必要となるケースが多い.糖尿病患者における易感染性は眼科領域に限らず一般によく知られており8,9),機序としては細小血管障害による循環障害,インスリン代謝異常に基づく低栄養状態により組織での細胞性免疫能低下や好中球遊走能低下などが考えられている.なかでも眼科領域では糖尿病が術後眼内炎の危険因子となるとの報告もある2,3).血糖コントロールに関しても,HbA1C8%以上のコントロール不良例では細菌検出率が有意に高いとの報告もある5).今回筆者らは白内障術前患者を対象に細菌検出率,検出菌内訳,薬剤耐性率を糖尿病の有無別に検討したが,両群間に統計学的有意差を認めなかった.本報告では細菌検出率が35%と,既報1013)と比べると低めの数値を示しているが,これは細菌検出の際の設備や検査方法の違いによるものと思われる.宮永らの報告14)では,細菌培養結果を5施設間で検討したところ,検査施設により細菌検出率や菌種検出傾向に差があることが指摘されており,検出率を単純に比較できない可能性が示唆される.さらに,好気培養のほかに嫌気培養も合わせて施行しているところが多いが,本研究では保険点数上のコストの問題から,嫌気培養は施行していなかった.そのため検出の際に嫌気状態を必要とする,結膜内常在菌の主要菌であるPropionibac-teriumacnes(P.acnes)15)は今回の結果には反映されていない.増菌培養が未施行である点も,細菌検出率が低い一因と考えられる.しかし,菌種の内訳としてはCNSが最多であった点は,既報と同様の傾向であった16,17).本研究では,コリネバクテリウムは2番目に多く検出されているが,この順位は既報1013,16,17)と比較すると,同様のもの13)と相違するもの1012,16,17)に分かれる.これは各施設の検査結果の報告方法の違いにより影響されると思われる.すなわち,Staphylo-coccus属の菌を種レベルまで同定しているか否か,あるいはCNSとしてまとめて報告しているかによって変わってくるからである.コリネバクテリウムは通常は病原性に乏しいが,近年ではLVFX耐性コリネバクテリウムが増えており,眼感染症の一因となるとの報告もあり注意を要する18).今回の検討で,細菌検出率で唯一有意差を認めたのはMRCNSで,DM群で非DM群に対し統計学的に有意に高率であった.CNSには表皮ブドウ球菌をはじめ多くの菌種が存在するが,本来は病原性が弱いといわれている.しかし近年は耐性率が増加しつつあり,特にMRCNSによる眼感染症の報告も増加している1921).DM群でMRCNSが高率であった理由として考えられるのは,糖尿病の易感染性,日和見感染や不顕性感染などがあげられる.抗菌点眼薬の使用歴のない症例が対象であったKatoらの報告では,高齢者の健常者の結膜からもMRCNSとMRSAが常在菌として検出されたと報告している22).また,マイボーム腺および結膜内の常在細菌叢における薬剤耐性率は一般に高齢者で増加する傾向がある13).自験例においても同様に高齢者は60歳以下に比べて有意に細菌検出率が高かった(森永将弘ほか:第31回日本眼科手術学会で発表).今回DM群のMRCNS陽性群と陰性群それぞれの抗菌点眼薬の使用既往の有無について検討したが,統計学的に有意差は認められなかった.以上のことより,何らかの眼感染症に対し抗菌薬を使用したことによって薬剤耐性を獲得したと考えるよりも,高齢者とDM患者に共通している抵抗力低下,易感染性によるものと考えられる.しかし一方で,眼感染症の既往がなくても多臓器や他の部位における感染症治療で過去に抗菌薬が投与され,常在菌が薬剤耐性を獲得した可能性も考慮すべきではないかと思われた.自験例での結膜細菌叢からの検出菌は,本報告で対象としたLVFX,CMX,TOBのすべての抗菌薬において何らかの耐性菌が認められ,反対に薬剤感受性検査を施行したすべての菌種で,いずれかの抗菌薬に対する耐性が認められた.特にMRCNSは多剤耐性を示したことから,MRCNSが検出された場合その薬剤感受性検査結果に基づいた抗菌薬の選択をすべきと考えられた.日本眼感染症学会は1994年CMX点眼,2006年にはLVFXの術前点眼を推奨している23,24)が,画一的に抗菌薬を術前投与していたのでは少なからず抜け道がある可能性も否定できないと思われた.今回糖尿病の有無および血糖コントロールの良否で結膜細菌叢の検討を行ったが,菌検出に際し目立った差異は認められなかった.薬剤耐性菌でのみ有意差が出たのは,糖尿病による易感染性が背景にあることは無視できない事実であると考えられた.文献1)OshikaT,HatanoH,KuwayamaYetal:IncidenceofendophthalmitisaftercataractsurgeryinJapan.ActaOphthalmolScand85:848-851,20072)KattanHM,FlynnHWJr,PugfelderSCetal:Nosoco-mialendophthalmitissurvey.Currentincidenceofinfec———————————————————————–Page4246あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(108)tionafterintraocularsurgery.Ophthalmology98:227-238,19913)PhillipsWB2nd,TasmanWS:Postoperativeendophthal-mitisinassociationwithdiabetesmellitus.Ophthalmology101:508-518,19944)有山泰代,上原豊,清水弘行ほか:感染性眼内炎を併発したコントロール不良糖尿病の4例.眼紀57:726-729,20065)稗田牧,山口哲男,北川厚子ほか:糖尿病患者の白内障手術時における結膜内常在菌叢.眼紀46:1148-1151,19956)MontanPG,KoranyiG,SetterquistHEetal:Endophthal-mitisaftercataractsurgery:Riskfactorsrelatingtotech-niqueandeventsoftheoperationandpatienthistory:Aretrospectivecase-controlstudy.Ophthalmology105:2171-2177,19887)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute.PerformanceStandardsforAntimicrobialSusceptibilityTesting,Seven-teenthInformationalSupplement(M100-S17);CLSI,Wayne,PA,20078)GottrupF,AndreassenTT:Healingofincisionalwoundsinstomachandduodenum:Theinuenceofexperimentaldiabetes.JSurgRes31:61-68,19819)RayeldEJ,AultMJ,KeuschGTetal:Infectionanddia-betes:Thecaseforglucosecontrol.AmJMed72:439-450,198210)丸山勝彦,藤田聡,熊倉重人ほか:手術前の外来患者における結膜内常在菌.あたらしい眼科18:646-650,200111)宇野敏彦:術前感染症予防とEBM.あたらしい眼科22:889-893,200512)大鹿哲郎:術後眼内炎.眼科プラクティス1,p2-11,文光堂,200513)荒川妙,太刀川貴子,大橋正明ほか:高齢者におけるマイボーム腺および結膜内の常在菌叢についての検討.あたらしい眼科21:1241-1244,200414)宮永将,佐々木香る,宮井尊史ほか:5検査施設間での白内障術前結膜培養結果の比較.臨眼61:2143-2147,200715)浅利誠志:細菌検査の落とし穴.あたらしい眼科23:479-480,200616)関奈央子,亀井裕子,松原正男:高齢者の結膜内コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の検出率と薬剤感受性.あたらしい眼科20:677-680,200317)宮尾益也:眼感染症と耐性菌.眼科43:923-931,200118)外園千恵:常在微生物叢と眼感染症.あたらしい眼科25:59-60,200819)稲垣香代子,外園千恵,佐野洋一郎ほか:眼科領域におけるMRSA検出動向と臨床経過.あたらしい眼科20:1129-1132,200320)西崎暁子,外園千恵,中井義典ほか:眼感染症におけるMRSAおよびMRCNSの検出頻度と薬剤感受性.あたらしい眼科23:1461-1463,200621)外園千恵:MRSA,MRCNSによる眼感染症.日本の眼科77:1413-1414,200622)KatoT,HayasakaS:Methicillin-resistantStaphylococcusaureusandmethicillin-resistantcoagulase-negativestaph-ylococcifromconjunctivasofpreoperativepatients.JpnJOphthalmol42:461-465,199823)北野周作:白内障手術:戦略のたてかた─白内障術前無菌法─.眼科手術8:717-719,199524)井上幸次:術前減菌法.眼科手術19:493-495,2006***