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市販多目的用剤とコンタクトレンズの組み合わせによる細胞毒性の比較検討

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(113)421《原著》あたらしい眼科28(3):421.424,2011cはじめにわが国のコンタクトレンズ(CL)使用者は,1,500万人を超えるといわれており,ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用者のなかでは頻回交換ソフトコンタクトレンズ(FRSCL)の使用が最も多い1).一方で,多目的用剤(マルチパーパスソリューション:MPS)をはじめとするCL消毒剤の種類は,眼科医でもすべてを把握することが困難なほど増加している.特に,MPSはSCLに対して使用される消毒剤の約90%を占める2).MPSは1剤で,消毒,洗浄,すすぎ,保存ができる簡便性の高いケア用剤であるが,煮沸消毒や過酸化水素消毒などに比べ消毒効果が弱いといわれている3).近年,それぞれのMPSの消毒効果や眼表面組織への細胞毒性に違いがあることが報告されている4).このような状況のなかで,FRSCLとMPSの適合性によって発生したと思われる角膜〔別刷請求先〕伊勢ノ海一之:〒241-0811横浜市旭区矢指町1197-1聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院眼科Reprintrequests:KazuyukiIsenoumi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicineYokohamaCitySeibuHospital,1197-1Yasashicho,Asahi-ku,Yokohama-shi,Kanagawa241-0811,JAPAN市販多目的用剤とコンタクトレンズの組み合わせによる細胞毒性の比較検討伊勢ノ海一之*1工藤昌之*2松澤亜紀子*3井出尚史*1上野聰樹*3*1聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院眼科*2工藤眼科クリニック*3聖マリアンナ医科大学医学部眼科学教室ComparisonofCytotoxicEffectsofCombinationsofCommercialMultipurposeSolutionsandContactLensesKazuyukiIsenoumi1),MasayukiKudo2),AkikoMatsuzawa3),NaofumiIde1)andSatokiUeno3)1)DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicineYokohamaCitySeibuHospital,2)KudoEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicine目的:各種頻回交換ソフトコンタクトレンズ(FRSCL)を用いて,各種市販多目的用剤(マルチパーパスソリューション:MPS)処理後のレンズからの抽出物の細胞毒性を比較検討した.方法:V79細胞にMPS製剤処理後のレンズからの抽出物を加え培養した.その後,ギムザ染色でコロニーを染色しその数を数えた.結果:レニューRマルチプラスで処理した2ウィークアキュビューRのレンズ抽出物100%では,他のMPS(エピカコールド,ピュラクルR,オプティ・フリーR)と2ウィークアキュビューRのレンズ抽出物100%に比べてコロニー形成率が有意に低かった.他のレンズ(O2オプティクス,アキュビューRアドバンスTM,アキュビューRオアシスTM)と各MPSにおけるレンズ抽出物のコロニー形成率に有意差は認めなかった.結論:消毒剤とSCLの組み合わせにより細胞毒性が異なる可能性が示唆された.Objective:Tocomparethecytotoxicitiesofsolutionsextractedfromsoftcontactlenses(CL)processedwithvariouscommercialmultipurposesolutions(MPS).Methods:WeextractedsolutionsfromCLprocessedwithvariousMPS,addedtheextractsolutionstoV79cells,andculturedthem.WethenusedGiemsastainingtocountthecoloniesthatformed.Results:Platingefficiencywassignificantlylowerin100%extractsolutionfromamediumof2-weekAcuvueRprocessedwithRenuRMultiplusthanin100%extractsolutionfrommediaofotherMPSand2-weekAcuvueR.WefoundnosignificantdifferencesbetweentheplatingefficienciesofextractsolutionsfromotherlensesandfromlensesprocessedwithvariousMPS.Conclusion:TheresultsofthisstudysuggestthatdifferentcombinationsofdisinfectantsandCLmayhavedifferenttoxicities.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(3):421.424,2011〕Keywords:ソフトコンタクトレンズ,市販多目的用剤,細胞毒性,V79細胞.softcontactlens,multipurposesolutions(MPS),cytotoxicity,V79cells.422あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(114)障害の報告が散見される5,6).工藤らは,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(SHCL)であるO2オプティクスのレンズケアに塩酸ポリヘキサニド(PHMB)を主成分とするMPSを使用すると,過酸化水素消毒や塩化ポリドロニウムを主成分とするMPSに比べて,角膜ステイニングの発生率が高いという結果を報告し,その原因は,レンズに残留しているMPSが影響していると考えた7).そこで今回筆者らは,4種類のFRSCLを用いて各種MPS処理後のレンズからの抽出物の細胞毒性を比較検討した.I方法試験レンズには,従来素材の含水性SCL(ハイドロゲルSCL)とSCHLを用いた.ハイドロゲルSCLはFDA(米国食品・医薬品局)グループIVレンズ(イオン型高含水レンズ)の1種(2ウィークアキュビューR),SHCLはFDAグループⅠレンズ(非イオン型低含水レンズ)の3種(O2オプティクス,アキュビューRアドバンスTM,アキュビューRオアシスTM)を用いた(表1).MPSにはレニューRマルチプラス,エピカコールド,ピュラクルR,オプティ・フリーRを用いた.MPSの消毒成分とその濃度を表2に示す.ブリスターパックからレンズを取り出し,余分な水分を取って包埋カセット内に静置した.カセットに入れた16枚を100mlのHDPE(高密度ポリエチレン)滅菌ボトルに入れた.このボトルにMPSを添加し,25℃で48時間浸漬した後,MPSを破棄した.その後レンズを取り出し,各検体の表面積6cm2に対してM05培地を1mlの割合で加えて,37℃の5%CO2インキュベータで2時間抽出した.抽出した液を100%レンズ抽出物とし,M05培地で2倍希釈したものを50%レンズ抽出物とした.細胞株はJCRB0603(以下,V79細胞)を用いた.V79細胞をトリプシン処理して培地に播種した.培地を37℃の炭酸ガス培養器内に入れ,24時間静置した後に培地を破棄し,100%と50%のレンズ抽出物を加えて,さらに炭酸ガス培養器で7日間培養した.その後,10%ホルマリン溶液を加えて固定し,ギムザ染色でコロニーを染色しコロニー数を計測した.MPS処理していないレンズの抽出物で培養したものをコントロールとした.それぞれのレンズにおいて,各MPS群の平均コロニー数をコントロール群の平均コロニー数で除して100%換算しコロニー形成率とした.レンズごとに各MPSのコロニー形成率を比較検討した(n=3).統計解析はFisherのPLSD(protectedleastsignificantdiffence)検定を採用した.p値が0.05以下を統計学的な有意差があると判定した.表3各レンズとMPSの抽出物における平均コロニー数(コロニー数/ウェル)抽出液濃度(%)2ウィークアキュビューRO2オプティクスアキュビューRアドバンスTMアキュビューRオアシスTMレニューRマルチプラス5078.377.381.777.710059.372.077.076.0エピカコールド5078.382.380.078.010094.387.387.385.0ピュラクルR5071.780.377.374.310080.080.379.382.3オプティ・フリーR5077.076.379.372.710084.784.782.776.0M05培地5078.783.085.373.310087.082.085.371.3表1使用したコンタクトレンズの材質分類(米国FDA)低含水性高含水性非イオン性グループIO2オプティクスアキュビューRアドバンスTMアキュビューRオアシスTMグループIIイオン性グループIIIグループIV2ウィークアキュビューR表2各MPSの消毒成分濃度レニューRマルチプラスエピカコールドピュラクルRオプティ・フリーR販売メーカーボシュロム・ジャパンメニコン日油株式会社アルコン消毒成分0.00011%塩酸ポリヘキサニド0.0001%塩酸ポリヘキサニド0.0001%塩酸ポリヘキサニド0.0011%塩化ポリドロニウム(115)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011423II結果実験結果を表3および図1.4に示す.レニューRマルチプラスで処理した2ウィークアキュビューRのレンズ抽出物100%は,他のMPSで処理した2ウィークアキュビューRのレンズ抽出物100%に比べてコロニー形成率が有意に低かった.他のレンズ(O2オプティクス,アキュビューRアドバンスTM,アキュビューRオアシスTM)と各MPSにおけるレンズ抽出物のコロニー形成率に有意差は認めなかった.III考察MPSとSHCLの適合性による角膜障害の報告は,工藤らのO2オプティクスとMPSの組み合わせによって角膜ステイニングが異なるという報告7)や,植田らの各種MPSとO2オプティクスとの組み合わせのうちレニューRマルチプラスは角膜ステイニングが強く認められるという報告8)がある.今回の筆者らの実験でも,レニューRマルチプラスで処理したO2オプティクス,アキュビューRアドバンスTM,アキュビューRオアシスTMの抽出物は,他のMPSで処理した同じ3種類のSHCLの抽出物に比べて,コロニー形成率に有意差は認められないもののコロニーの大きさが小さく染色の程度が薄い傾向があった.さらに,今回の筆者らの結果では,レニューRマルチプラスで処理した2ウィークアキュビューRのレンズ抽出物100%は,他のMPSで処理した2ウィークアキュビューRのレンズ抽出物100%に比べて有意にコロニー形成率が低下しており,MPSとSCLの組み合わせによる細胞毒性の違いは,SHCLに限った変化ではないことが示唆された.レニューRマルチプラスで処理した2ウィークアキュビューRのレンズ抽出物が,他のSCLからのレンズ抽出液に比べてコロニー形成率が低く細胞毒性が高い原因としては,PHMBはプラスに帯電しているためイオン性のレンズは非イオン性のレンズと比べてPHMBがレンズ内に取り込まれやすいこと,レニューRマルチプラスのPHMBの濃140120100806040200レニューRマルチプラスエピカコールドピュラクルRオプティ・フリーR□:抽出物50%■:抽出物100%n=3コロニー形成率(%ofcontrol)図4アキュビューRオアシスTMと各MPSの抽出物におけるコロニー形成率(%)120100806040200**p*p**pレニューRマルチプラスエピカコールドピュラクルRオプティ・フリーR□:抽出物50%■:抽出物100%n=3*p<0.05**p<0.01コロニー形成率(%ofcontrol)図12ウィークアキュビューRと各MPSの抽出物におけるコロニー形成率(%)120100806040200レニューRマルチプラスエピカコールドピュラクルRオプティ・フリーR□:抽出物50%■:抽出物100%n=3コロニー形成率(%ofcontrol)図3アキュビューRアドバンスTMと各MPSの抽出物におけるコロニー形成率(%)120100806040200レニューRマルチプラスエピカコールドピュラクルRオプティ・フリーR□:抽出物50%■:抽出物100%n=3コロニー形成率(%ofcontrol)図2O2オプティクスと各MPSの抽出物におけるコロニー形成率(%)424あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(116)度が他のMPSに比べて高いことが関係していると考えられる.MPSの消毒成分には,PHMBと塩化ポリドロニウムの2種類があり,大部分のMPSにはPHMBが使用されている.PHMBの特徴としては広い抗菌スペクトルをもち,以前より点眼薬の防腐剤やプールの消毒剤として使用されていることから,人体への安全性が高いことが知られている9).MPSには,消毒成分以外にも界面活性剤,キレート剤,緩衝剤,等張剤,粘稠剤などの成分が配合されており,消毒成分の濃度はメーカーによって異なることから,MPSの種類により消毒効果や角膜上皮への影響が異なる可能性が考えられる.今回の結果からMPSとFRSCLの組み合わせによりレンズ抽出物の細胞毒性に差が認められた.消毒剤の細胞毒性により角膜上皮のバリアが障害された場合は,そのバリア破綻部から角膜感染をきたす可能性があるためMPSとFRSCLの組み合わせには注意が必要である可能性が示唆される.しかし,SCL使用時に角膜上皮障害を起こす原因は,消毒剤の毒性のほかに,SCLの機械的刺激,SCLの汚れ,角膜上皮の代謝異常,酸素不足などさまざまな要因が関係しており,実際には各因子別の評価はむずかしい.今回の筆者らの実験は,MPS処理後のレンズ抽出物を使用して細胞毒性を観察することにより,通常使用しているのに近い状態のMPSにおける細胞毒性を各レンズに対して比較検討できたと考えられる.しかし,invitroの実験であるため生体内での反応とは異なる可能性はある.ケア方法を選択する場合にまず消毒効果が重要であるが,今回の結果から消毒剤とSCLの組み合わせも考慮にいれる必要があると考えられた.今回は,invitroでの評価として各MPS処理後のレンズからの抽出物における細胞毒性を比較検討したが,今後はこの試験の結果と生体における影響との相関を検討する必要がある.文献1)日本コンタクトレンズ協議会:インターネットを利用したコンタクトレンズ装用者のコンプライアンスに関するアンケート調査.日本の眼科81:394-407,20102)水谷由紀夫:海外のマルチパーパスソリューションの現状.あたらしい眼科23:873-878,20063)水谷聡:MPS使用者にみられるコンタクトレンズトラブルについて教えてください.あたらしい眼科20(臨増):166-168,20034)柳井亮二,植田喜一,西田輝夫ほか:市販多目的用剤の消毒効果と細胞毒性の比較.日コレ誌49:13-18,20075)JonesL,MacDougallN,SorbaraLG:Asymptomaticcornealstainingassociatedwiththeuseofbalafilconsiliconehydrogelcontactlensesdisinfectedwithapolyaminopropylbiguanidepreservedcareregimen.OptomVis79:753-761,20026)KhorWB,AungT,SawSMetal:AnoutbreakofFusariumkeratitisassociatedwithcontactlenswearinSingapore.JAMA295:2867-2873,20067)工藤昌之,糸井素純:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒との相性.あたらしい眼科22:1349-1355,20058)植田喜一,稲垣恭子,柳井亮二:化学消毒剤による角膜ステイニングの発生.日コレ誌49:187-191,20079)白石敦:マルチパーパスソリューション(MPS)の現状と問題点.日本の眼科79:727-732,2008***

ラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」の角結膜障害性の評価

2010年12月31日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(89)1721《原著》あたらしい眼科27(12):1721.1726,2010cはじめにラタノプロストはプロスタノイドFP受容体と高い親和性をもつプロスタグランジンF2a(以下,PGF2a)誘導体である.PGF2a誘導体を有効成分とするPG関連薬は,緑内障病型を選ばない強い眼圧下降効果があり,全身副作用が少ないことから,近年では世界的に第一選択薬として高く評価されている.しかし,PG関連薬は結膜充血,角膜炎,色素沈着,刺激感などの局所的副作用をひき起こすことが指摘されている.これらの局所的副作用は主剤であるPGF2a誘導体自体の影響のほかに,点眼液中に含まれる防腐剤の細胞毒性およびアレルギー反応が関与しているとされている1).点眼液に使用される防腐剤のなかでも,溶解性が良く,抗菌力および防腐力が強いベンザルコニウム塩化物が頻用されており,0.001~0.02%の濃度で使用されている2).しかし,ベンザルコニウム塩化物は防腐剤としての高い有用性をもつ反面,角結膜の上皮細胞に対する細胞毒性があり2,3),それによる眼表面への障害が問題視されている4).また,ベンザルコニウム塩化物の細胞毒性作用にはアポトーシスが関与していることが示唆されている3,5).ラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」(以下,ラタノプ〔別刷請求先〕伊田昌弘:〒532-0003大阪市淀川区宮原5-2-30沢井製薬株式会社学術部Reprintrequests:MasahiroIda,MedicalInformationDepartment,SawaiPharmaceuticalCo.,Ltd.,5-2-30Miyahara,Yodogawa-ku,Osaka532-0003,JAPANラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」の角結膜障害性の評価小倉岳治*1片岡博文*1大坪義和*1伊藤吉將*2*1沢井製薬株式会社生物研究部*2近畿大学薬学部製剤学研究室EvaluationofCorneoconjunctivalDamagefromLatanoprostEyedrops0.005%「SAWAI」TakeharuOgura1),HirofumiKataoka1),YoshikazuOhtsubo1)andYoshimasaIto2)1)BiologicalResearchDepartment,SawaiPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)LaboratoryofAdvancedDesignforPharmaceuticals,SchoolofPharmacy,KinkiUniversity眼表面への局所的副作用を考慮して開発されたジェネリック医薬品であるラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」について,invivoおよびinvitroにおける細胞毒性およびアポトーシス誘導能を測定し,角結膜障害性を評価した.本点眼液をヒト結膜由来の培養細胞に曝露したところ,細胞生存率は経時的に低下したが,対照品であるキサラタンR点眼液0.005%と比して高い生存率であった.また,細胞核の凝集は軽度で,断片化DNA量の増加は認められなかった.さらに,ウサギにラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」を頻回点眼したところ,結膜上皮層のTUNEL(TdTmediateddUTP-biotinnick-endlabeling)陽性細胞の増加は認められず,単回点眼後の涙液中へのグルタチオン漏出も認められなかった.以上の結果,ラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」の細胞毒性およびアポトーシス誘導能は低く,角結膜障害性は低いと考えられた.Corneoconjunctivaldamagecausedbythegenericformulationoflatanoprost,Latanoprosteyedrops0.005%「SAWAI」,wasevaluatedonthebasisofcytotoxicityandpro-apoptoticeffectsinhumanconjunctivalcellsinvitro,andinrabbitsinvivo.Invitro,thetestformulationtriggeredcelldeathofChangconjunctivacells,thoughlessthanwiththebrandedformulation,XalatanReyedrops0.005%.NoDNAfragmentationandlessevidentnuclearcondensationwereobservedincellstreatedwiththetestformulation.Invivo,frequentinstillationofthetestformulationtorabbiteyeshadnoeffectonthenumberofTUNEL-positivecellsintheepitheliallayeroftheconjunctiva.Exudationofglutathioneintotearfluidwasnotincreasedbysingleinstillationofthetestformulation.TheseresultssuggestthatLatanoprosteyedrops0.005%「SAWAI」causeslesscorneoconjunctivaldamage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(12):1721.1726,2010〕Keywords:ラタノプロスト,角結膜障害,細胞毒性,アポトーシス,ベンザルコニウム塩化物.latanoprost,corneoconjunctivaldamage,cytotoxicity,apoptosis,benzalkoniumchloride.1722あたらしい眼科Vol.27,No.12,2010(90)ロスト点眼液「サワイ」)は1mL中にラタノプロスト50μgを含有する点眼液であり,先発医薬品であるキサラタンR点眼液0.005%(以下,キサラタンR点眼液)と同一の有効成分を同量含有するジェネリック医薬品として開発された6).両製剤はともに防腐剤としてベンザルコニウム塩化物を含有するが,ラタノプロスト点眼液「サワイ」は角結膜障害を考慮し,ベンザルコニウム塩化物を減量して処方設計されている.そこで,新たに筆者らが開発したラタノプロスト点眼液「サワイ」について,角結膜に対する障害性を評価することを目的として,ヒト成人結膜由来細胞株およびウサギを用いて,細胞毒性およびアポトーシス誘導能を測定し,角結膜障害性を評価したので報告する.I実験材料および方法1.被験物質ラタノプロスト点眼液「サワイ」(沢井製薬),キサラタンR点眼液(ファイザー)を用いた.陰性対照としてinvitroではEagle’sminimumessentialmedium(以下,EMEM,Sigma),invivoではリン酸緩衝生理食塩水(以下PBS,和光純薬)を,陽性対照として0.02%ベンザルコニウム塩化物(和光純薬)を用いた.2.使用細胞ヒト成人結膜由来細胞であるChangconjunctiva細胞はDSファーマバイオメディカルより入手した.細胞は50IU/mLペニシリン(Invitorogen),50μg/mLストレプトマイシン(Invitorogen)および10%ウシ胎児血清(BioWhittaker)を添加したEMEMにて培養し,各試験には対数増殖期の細胞を用いた.3.使用動物12週齢の雄性NZWウサギを日本エスエルシーより入手し,馴化飼育の後,試験に用いた.なお,動物実験はすべて沢井製薬動物実験倫理委員会により承認され,動物実験承認規定に準拠し実施した.4.Invitro細胞毒性試験96穴マイクロプレートにChangconjunctiva細胞を20,000cells/wellで播種し,コンフルエントになるまで培養した.培養上清を除去し,PBSで1回洗浄し,被験物質を50μL添加した.37℃で5~30分間インキュベート後,薬液を除去し,PBSで2回洗浄し,MTS法(CellTiter96AQueousOneSolution,Promega)にて490nm(対照640nm)の吸光度を測定することにより生存細胞を測定した.生存率は下式より算出した.なお,試験は5回くり返し実施した.生存率(%)=(処理群の吸光度)÷(陰性対照の吸光度)×1005.細胞核の形態学的観察Changconjunctiva細胞をチャンバースライド(8well,BDFalcon)に45,000cells/wellで播種し,コンフルエントになるまで培養した.PBSで1回洗浄後,被験物質を100μL添加し,37℃で20分間インキュベートした.PBSで2回洗浄後,4%ホルマリンで固定し,10μg/mLDAPI(4¢,6-diamidino-2-phenylindole,同仁化学)を添加した後,蛍光顕微鏡下にて核の形態学的観察を行った.6.細胞内断片化DNA量の測定細胞内の断片化DNAは,細胞DNAフラグメンテーションELISA(enzyme-linkedimmunosorbentassay;酵素免疫測定法)キット(Roche)を用いて測定した.Invitro細胞毒性試験と同様に96穴プレートに培養したChangconjunctiva細胞にBrdU(bromodeoxyuridine;ブロモデオキシウリジン)を10μMとなるように添加し,18時間培養した.PBSで洗浄後,被験物質を50μL添加し,37℃で20分間インキュベートした.氷冷したPBSを150μL添加し,3,500rpmで1分間遠心後,上清を除去し,細胞溶解液を200μL添加した.室温で30分間インキュベート後,3,500rpmで10分間遠心し,上清中の断片化DNA量をELISAにて測定した.なお,試験は5回くり返し実施した.7.頻回点眼後のウサギ結膜におけるアポトーシス誘導能の測定ウサギに被験物質50μLを5分ごとに10回点眼し,24時間後にペントバルビタールの過剰投与による致死後,結膜を摘出した.摘出結膜は10%中性緩衝ホルマリン溶液で固定後,作製した薄切標本について,InsituApoptosisDetectionKit(タカラバイオ)を用いてTUNEL染色後,ヨウ化プロピジウム(同仁化学)で対比染色した.TUNEL陽性細胞を蛍光顕微鏡下でカウントし,結膜上皮層面積当たりの数を算出した.試験にはウサギ20羽の両眼,計40眼を使用し,各群5例で実施した.8.単回点眼後のウサギ涙液中グルタチオン濃度の測定ウサギに被験物質200μLを結膜.内に点眼し,薬液が流出しないように下瞼を引きながら1分間保持した.貯留する涙液をマイクロピペットで採取し,グルタチオン(以下,GSH)濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法にて測定した.涙液70μLに内部標準溶液(1μg/mLシステアミン)20μLおよびジチオストレイトール10μL(終濃度0.1mM)を添加し,室温で30分間インキュベートし還元した.発蛍光試薬として1mMABD-Fを100μL添加し,50℃で5分間インキュベート後,0.1MHClを60μL添加し反応を停止した.この反応液について,逆相HPLC法(使用カラム:ImtaktCadenzaCD-C18100×4.6mm3μm,蛍光検出:EX380nm/EM510nm)にて涙液中総GSH濃度を定量した.試験にはウサギ3羽の両眼,計6眼を使用した.試(91)あたらしい眼科Vol.27,No.12,20101723験は4×4クロスオーバー法で実施し,1週間の休薬期間をおいてPBS,ベンザルコニウム塩化物,続いてラタノプロスト点眼液「サワイ」またはキサラタンR点眼液の順に点眼した.II結果1.Invitro細胞毒性試験図1にヒト結膜細胞に点眼液を曝露した際の生存率の経時的変化を示した.キサラタンR点眼液を曝露すると5分後に生存率は9.8%となり,生存率は急激に低下した.また,0.02%ベンザルコニウム塩化物を曝露した場合も同様の時間的推移を示し,急激に生存率が低下した.それに対し,ラタノプロスト点眼液「サワイ」では5,10および20分後の生存率はそれぞれ78.9%,76.8%および41.2%で,30分後には15.7%まで減じるものの,いずれの時点においてもキサラタンR点眼液よりも高い生存率であった.2.細胞核の形態学的変化ヒト結膜細胞にキサラタンR点眼液および0.02%ベンザルコニウム塩化物を曝露すると,顕著な核の凝集が認められた0255075100曝露時間(分)051015202530生存率(%ofControl)図1ヒト結膜由来細胞における細胞毒性試験(5例平均±SD)培養細胞を各被験物質に曝露後,経時的に生細胞をMTS法にて測定した.●:ラタノプロスト点眼液「サワイ」,○:キサラタンR点眼液,×:0.02%ベンザルコニウム塩化物.A.コントロール(EMEM)B.ラタノプロスト点眼液「サワイ」C.キサラタンR点眼液D.0.02%ベンザルコニウム塩化物図2ヒト結膜由来細胞における核の形態学的変化培養細胞を各被験物質に20分間曝露後,DAPI(4¢,6-diamidino-2-phenylindole)染色した.1724あたらしい眼科Vol.27,No.12,2010(92)(図2CおよびD).これに対し,ラタノプロスト点眼液「サワイ」を曝露した際は,一部の細胞で核の凝集が認められるものの,凝集度は軽度であった(図2B).3.細胞内断片化DNA量図3に示したように,ヒト結膜細胞にラタノプロスト点眼液「サワイ」を曝露しても,細胞内の断片化DNA量に変化は認められなかった.それに対し,キサラタンR点眼液を曝露すると有意な断片化DNAの増加が認められた.4.頻回点眼後のウサギ結膜におけるアポトーシス誘導能5分ごとに10回連続点眼後のウサギ結膜をTUNEL染色し,アポトーシス細胞を測定した(図4).キサラタンR点眼液および0.02%ベンザルコニウム塩化物点眼群では,コントロールと比して有意なTUNEL陽性細胞の増加が認められた.それに対し,ラタノプロスト点眼液「サワイ」点眼群ではTUNEL陽性細胞の増加は認められなかった.5.単回点眼後のウサギ涙液中GSH濃度単回点眼後のウサギ涙液中の総GSH濃度を測定した(図5).キサラタンR点眼液および0.02%ベンザルコニウム塩化物点眼群では,コントロールと比して有意な涙液中GSH濃度の増加が認められた.それに対し,ラタノプロスト点眼液「サワイ」点眼群では涙液中GSH濃度の増加は認められなかった.III考按緑内障は特徴的な視神経の変化と視野欠損を呈する進行性の疾患である.その原因はさまざまであるが,緑内障進行の最大のリスクファクターは眼圧であり,眼圧を下降させることが緑内障治療の基本となっている.眼圧下降治療は薬物治療が基本であり,薬剤選択のポイントには最小限の薬剤で設定した目標眼圧を達成できるような薬理学的側面がある一方,副作用,年齢,社会的経済的な側面も考慮して患者のqualityoflife(QOL)を損ねない配慮も必要である7).局所的副作用の側面として,PG関連薬では結膜充血,角膜上皮障害,しみるなどの刺激症状などが高頻度で起こることが知られている.このような局所的副作用は有効成分のほか,点眼液に含まれる添加物,特に防腐剤が原因となっている2,3).緑内障における点眼治療は生涯にわたって継続し,目標眼圧の達成に多剤併用を必要とすることも多く,これらの多面的要因により薬剤の変更や治療の中止を余儀なくされる場合もある.点眼液は主薬の有効性,溶解性および安定性のほか,刺激性,無菌性などさまざまな因子を考慮し,可溶化剤,等張化剤,pH調節剤,防腐剤など添加物を用いて処方設計される.キサラタンR点眼液のジェネリック医薬品であるラタノプロスト点眼液「サワイ」はこれらの添加物を効率よく配合することにより,キサラタンR点眼液と同等の眼圧下降作用を有しながら6),安定性を向上させて室温保存を可能とした.さらに添加物のなかでも局所的副作用のおもな原因であるベンザルコニウム塩化物の濃度を減じ,かつ防腐剤としての効力を十分に発揮させることを可能とした.そこで,本研究ではラタノプロスト点眼液「サワイ」の角結膜における局所的副作用を評価することを目的とし,invivoおよびinvitroにおける細胞毒性およびアポトーシス誘導能を測定した.Invitroでヒト結膜細胞にラタノプロスト点眼液「サワイ」およびキサラタンR点眼液を曝露した際,いずれの群においても細胞死が誘導された.しかし,ラタノプロスト点眼液「サワイ」ではキサラタンR点眼液と比較して細胞生存率は高率であった.また,ラタノプロスト点眼液「サワイ」による長時間の曝露でも顕著な生存率の低下が認められたが,これは高濃度の薬剤を長時間曝露した場合であり,ヒトに点眼した場合は点眼刺激による涙液分泌増加のために薬剤濃度が速やかに希釈され,余剰な薬剤は流出すること,さらには涙液交換率が約17%/分2)であることを考慮すると,臨床上,細胞の生死にはほとんど影響を与えないと考えられる.Invivoにおける細胞毒性の指標として涙液中GSH濃度を測定した.GSHは涙液腺からは分泌されないが,角結膜に多量に含有されており,角結膜組織の物理的,生化学的,生理学的な変化によりその表面や内部から流出するため,流出したGSH量が角結膜の障害性を反映すると考えられている8).ウサギにキサラタンR点眼液を単回点眼した際,涙液中のGSH濃度の有意な増加が認められたが,ラタノプロスト点眼液「サワイ」では認められなかった.これらの結果から,本点眼液はキサラタンR点眼液と比較して細胞毒性は低く,角結膜組織への障害性は軽減されていると考えられた.0.250.200.150.100.050.00吸光度####**コントロール(EMEM)ラタノプロスト点眼液「サワイ」キサラタンR点眼液0.02%BAC図3ヒト結膜由来細胞における細胞内断片化DNA量の比較(5例平均±SD)培養細胞を各被験物質に20分間曝露後,ELISAにて細胞内の断片化DNA量を測定した.BAC:ベンザルコニウム塩化物.##:p<0.01vsControlbyDunnetttest,**:p<0.01byttest.(93)あたらしい眼科Vol.27,No.12,20101725ベンザルコニウム塩化物は角膜上皮細胞や結膜上皮細胞のアポトーシスを誘導することが知られている.ベンザルコニウム塩化物を含有する点眼液でも同様の報告があり,これが点眼液による細胞毒性の機序の一つと考えられている3,5).本研究で用いたinvivoでウサギに頻回点眼するモデルは,点眼液の毒性の有無を鋭敏に評価できるとされており,キサA.コントロール(PBS)B.ラタノプロスト点眼液「サワイ」C.キサラタンR点眼液D.0.02%ベンザルコニウム塩化物E.TUNEL陽性細胞数(5例平均±SD)6005004003002001000TUNEL陽性細胞(個/mm2)###*コントロール(PBS)ラタノプロスト点眼液「サワイ」キサラタンR点眼液0.02%BAC図4頻回点眼後のウサギ結膜のTUNEL染色像5分ごと10回点眼し,24時間後に結膜を採取してTUNEL染色(緑)およびPI(ヨウ化プロビジウム)染色(赤)した.BAC:ベンザルコニウム塩化物.#,##:p<0.05,0.01vsControlbyDunnetttest,*:p<0.05byt-test.6.05.04.03.02.01.00.0涙液中グルタチオン(μg/mL)####**コントロール(PBS)ラタノプロスト点眼液「サワイ」キサラタンR点眼液0.02%BAC図5単回点眼後の涙液中グルタチオン濃度(6例平均±SD)結膜.内に各被験物質を1分間貯留させ,貯留液中の総グルタチオン濃度を測定した.BAC:ベンザルコニウム塩化物.##:p<0.01vsControlbyDunnetttest,**:p<0.01byt-test.1726あたらしい眼科Vol.27,No.12,2010(94)ラタンR点眼液あるいはベンザルコニウム塩化物の点眼により,角結膜における炎症反応の惹起およびアポトーシスの誘導が報告されている5,9).しかし,ラタノプロスト点眼液「サワイ」を頻回点眼してもアポトーシス(TUNEL陽性)細胞数の増加は認められなかった.また,invitroでヒト結膜細胞に曝露しても,アポトーシスの指標となる核の凝集は軽度で,DNAの断片化は認められなかった.これらの結果から,ラタノプロスト点眼液「サワイ」による結膜上皮細胞に対するアポトーシス誘導能は低いものと考えられた.ラタノプロスト点眼液「サワイ」に使用されているベンザルコニウム塩化物以外の添加物(トロメタモール,クエン酸,d-マンニトール,グリセリン,ヒプロメロースおよびポリソルベート80)について,ヒト結膜細胞における細胞毒性試験を実施した結果,いずれの添加物についても本点眼液に含有する濃度では細胞毒性は認められなかった(データ示さず).各添加物の相互作用あるいは保護作用などの影響は未知であるが,本点眼液はキサラタンR点眼液に対し,ベンザルコニウム塩化物濃度を約半分へ減じており,両製剤の細胞毒性およびアポトーシス誘導能の差異は,ベンザルコニウム塩化物含有量の違いがその一因と考えられる.本研究はヒト結膜細胞を用いたinvitro試験およびウサギを用いたinvivo試験の結果であり,まだ臨床的な検証はされていない.しかし,本研究の結果は点眼液の処方を検討することにより,細胞毒性を軽減させることが可能であることを示しており,同一主薬の製剤でも同等の効果を維持しながら,臨床使用における角結膜障害リスクを低減させることが可能であることを示唆している.点眼液の処方設計と局所的副作用に関する臨床的な検証はまだ不十分であり,今後のさらなる検討が必要である.以上,ヒト結膜由来細胞およびウサギを用いてラタノプロスト点眼液「サワイ」の角結膜障害性を評価した結果,その細胞毒性およびアポトーシス誘導能は低く,角結膜障害性は低いと考えられた.また,本検討で行ったいずれの試験においても,本点眼液の毒性は対照に用いたキサラタンR点眼液と比して軽度であった.よって,ラタノプロスト点眼液「サワイ」は角結膜障害発生のリスク低減という意味で有用性が期待できると考えられた.文献1)相良健:オキュラーサーフェスへの影響─防腐剤の功罪.あたらしい眼科25:789-794,20082)中村雅胤,西田輝夫:防腐剤の功罪.眼科NewInsight2点眼薬─常識と非常識(大橋裕一編),p36-43,メジカルビュー社,19943)GuenounJM,BaudouinC,RatPetal:Invitrostudyofinflammatorypotentialandtoxicityprofileoflatanoprost,travoprost,andbimatoprostinconjunctiva-derivedepithelialcells.InvestOphthalmolVisSci46:2444-2450,20054)PisellaPJ,PouliquenP,BaudouinC:Prevalenceofocularsymptomsandsignswithpreservedandpreservativefreeglaucomamedication.BrJOphthalmol86:418-423,20025)LiangH,BaudouinC,PaulyAetal:Conjunctivalandcornealreactionsinrabbitsfollowingshort-andrepeatedexposuretopreservative-freetafluprost,commerciallyavailablelatanoprostand0.02%benzalkoniumchloride.BrJOphthalmol92:1275-1282,20086)竹内譲,沖田祐佳,上野眞義ほか:ラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」の健康成人における薬力学的試験.診療と新薬47:298-303,20107)相原一:緑内障点眼薬─選択のポイント.あたらしい眼科25:751,20088)開繁義,石田俊郎,狩野真由美:涙液の生化学的分析による眼局所用薬剤の角膜障害性の評価.日眼会誌92:1553-1564,19889)LiangH,Brignole-BaudouinF,Rabinovich-GuilattLetal:Reductionofquaternaryammonium-inducedocularsurfacetoxicitybyemulsions:aninvivostudyinrabbits.MolVis14:204-216,2008***