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経毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラントの手術成績と合併症

2016年8月31日 水曜日

《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(8):1183?1186,2016c経毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラントの手術成績と合併症宮城清弦藤川亜月茶北岡隆長崎大学大学院医歯薬学総合研究科眼科・視覚科学教室Short-TermClinicalOutcomesofBaerveldtGlaucomaImplantSurgeryviatheParsPlanaandPostoperativeComplicationsSugaoMiyagi,AzusaFujikawaandTakashiKitaokaDepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,NagasakiUniversity目的:経毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラントの短期成績を報告する.対象および方法:対象は2012年8月?2015年4月に長崎大学附属病院眼科にて経毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラント手術を施行した14例15眼で,眼圧・視力・点眼スコアの術後1,3,6,9,12,18,24カ月での値を後向きに調査した.また,術後合併症について調査した.手術の成功基準は,術後3カ月以上の経過で眼圧が5?21mmHg,術後視力が光覚弁以上,追加の緑内障手術のないこととした.結果:平均観察期間は16.6カ月(6?24カ月)だった.術後眼圧,点眼スコアは有意に低下した.視力は有意な変化は認めなかった.手術室での処置を必要とした合併症が3例にみられた.術後2年の成功率は93.3%だった.結論:経毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラント手術は難治緑内障に対し有用と思われた.Purpose:Toreporttheshort-termfollow-upresultofBaerveldtGlaucomaImplant(BGI)surgeryviatheparsplanaforthetreatmentofglaucoma.PatientsandMethod:Thisstudyincluded15eyesof14patientswhounderwentBGIsurgeryviatheparsplanaatNagasakiUniversityHospital,Japan,betweenAugust2012andApril2015.Allpatientswereretrospectivelyinvestigatedastopreoperativeand1,3,6,9,12and24months’postoperativeintraocularpressure(IOP),visualacuity,numberofhypotensivemedicationsandpostoperativecomplications.Successfulcriteriawere:1)visionofmorethanlightperception,2)IOP≧5mmHgandIOP≦21,and3)noadditionalglaucomaoperations.Results:Meanfollow-upperiodwas16.6months(from6to24months).PostoperativeIOPandnumberofhypotensivemedicationsweresignificantlyreduced.Visualacuitywasnotchangedsignificantly.Threepatientsrequiredadditionalsurgerybecauseofcomplications.The2-yearsuccessratewas93.3%.Conclusion:BGIsurgeryviatheparsplanaisausefulmethodforrefractoryglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(8):1183?1186,2016〕Keywords:バルベルト緑内障インプラント,経毛様体扁平部,チューブシャント手術,難治緑内障.baerveldtglaucomaimplant,parsplana,tubeshuntsurgery,refractoryglaucoma.はじめに2012年にわが国でもバルベルト緑内障インプラント(Baerveldtglaucomaimplant:BGI)を用いたチューブシャント手術が認可され,国内での手術成績の報告例もみられるようになった.BGIは濾過胞感染などトラベクレクトミーにおける問題点のいくつかを解決してくれるものと期待されており,血管新生緑内障などの難治緑内障や結膜瘢痕の広範な手術既往眼,濾過胞管理の困難な小児例などでトラベクレクトミーに代わる術式として注目されている.一方で,統一された手術適応基準がいまだなく,また特有の術後管理の必要性や重篤な合併症の存在もあり,個々の施設で慎重に適応が検討されているのが現状である.今回,長崎大学病院眼科(以下,当科)における経毛様体扁平部挿入型BGI手術の手術成績と合併症を検討したので報告する.I対象および方法1.対象対象は2012年8月?2015年4月に当科にて経毛様体扁平部挿入型BGI手術を施行した14例15眼である.手術時年齢は44.3±21.0歳(平均±標準偏差),術前眼圧は32.5±8.2mmHg,術前logMAR視力は1.5±1.0,術前点眼スコアの中央値(四分位範囲)は5点(4?6)であった.病型の内訳は,血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)7例8眼(増殖糖尿病網膜症6眼,網膜中心静脈閉塞症2眼),その他の続発緑内障3例3眼(外傷2眼,ぶどう膜炎1眼),先天緑内障3例3眼,原発開放隅角緑内障1例1眼であった(表1).2.当科における基本術式Tenon?下麻酔を施行し上耳側で結膜を切開.6×8mmの自己強膜半層弁を作製.8-0バイクリル糸でチューブを結紮し閉塞を確認.20GのVランスで輪部から3.5mmの位置で強膜穿刺.Hoffmanelbowを挿入し9.0ナイロン糸で強膜弁下に固定.強膜弁を9.0ナイロン糸で縫合.プレート本体を5.0ダクロンで強膜固定し,チューブの部分を立ち上がらないように9.0ナイロン糸で固定.8-0バイクリル針でSherwoodslitを1カ所作製し,結膜を縫合して終了.全例において経毛様体扁平部挿入型BGI(102-350)を使用し,有硝子体眼の場合は硝子体手術を併用した.3.評価手術の成功基準は,術後3カ月以上の経過で眼圧が5?21mmHg,術後視力が光覚弁以上,追加の緑内障手術のないこととした.また眼圧・点眼スコアの術後1,3,6,9,12,18,24カ月での値を後向きに比較検討した.視力について,logMAR視力で0.3以上の変化を有意として,術前後で比較検討した.また,術後合併症について調査した.眼圧値はGoldmann圧平眼圧計で測定し,測定の困難な小児についてはアイケア手持眼圧計を用いた.点眼スコアは点眼を1点,配合剤および炭酸脱水酵素阻害薬内服を2点とした.統計学的検討にDunnett’stest,pairedt-test,Wilcoxonsignedranktest,Fisher’sexacttestを用いた.また手術成功率についてKaplan-Meier法を用いて生存曲線を作成し分析した.II結果平均観察期間は16.6カ月(範囲6?24カ月)であった.眼圧は術前32.5±8.2mmHg(平均±標準偏差)に対し術後1,3,6,9,12,18,24カ月の値がそれぞれ15.0±8.5,14.2±4.4,12.1±3.2,12.2±3.3,12.4±3.4,12.0±4.7,10.2±4.4mmHgで,いずれの時点でも術前に比べ有意に低下した(図1).また,最終受診時の点眼スコアも中央値(四分位範囲)が2点(0.5?3.5)と術前に比べ有意に低下した(Wilcoxonsigned-ranktest,p<0.01).平均logMAR視力は術前1.5±1.0に対し,最終受診時が1.4±1.0と,術前と比べ有意な変化はなかった(pairedt-test,p=0.41).またlogMAR視力で0.3以上の変化を有意とすると,最終受診時で視力改善みられた症例が7眼(47%),不変が3眼(20%),低下が5眼(33%)であった.術前の中間透光体混濁の有無と視力改善に有意な相関はみられなかった(Fisher’sexacttest,p=0.35).手術成功率はKaplan-Meierの生存曲線で術後2年において93.3%であった(図2).合併症について,手術室での処置を必要とした症例が3眼(20%)で,硝子体出血,持続する低眼圧・脈絡?離,低眼圧黄斑症,漿液性網膜?離がみられた.自然経過で改善した症例が4眼(27%)で,一過性の低眼圧・脈絡膜?離,術直後の前房出血・硝子体出血がみられた.術後12カ月で前房出血をきたした症例が1眼あったが,他はすべて術後1カ月以内に改善した.明らかな合併症を認めなかった症例は8眼(53%)であった.手術室での処置を必要とした症例において,術後12カ月で硝子体出血をきたし硝子体洗浄行ったものの徐々に眼球癆となった症例が1眼,術後低眼圧持続しチューブ再結紮を行った症例が1眼,著明な脈絡膜?離に対し強膜tapを施行した症例が1眼あった.プレート露出などの晩期合併症はみられなかった.III考按本報告では全例に経毛様体扁平部挿入型BGI(102-350)を使用した.国内では経毛様体扁平部型が多く用いられているが,海外の報告では前房挿入型が多く,TheTubeVersusTrabeculectomyStudy1)やAhmedBaerveldtComparisonStudy2)などの大規模スタディでも前房挿入型が用いられている.トラベクロトミーなど従来の緑内障手術と経毛様体扁平部挿入型BGIを直接比較したスタディはいまだないものの,前房挿入型と経毛様体扁平部の両者を比較した後向き研究がなされており,術後2年の成功率は同等で,合併症に関しては前房型に多いと報告されている3).欧米人と比較した日本人の前房深度などを考慮すると,合併症を避ける点で経毛様体扁平部挿入型は有用と思われる.当科の手術症例で2年成功率は93.3%であった.経毛様体扁平部型BGIを使用した過去の症例報告と比較しても同等の結果が得られている(表2).成功基準や観察期間が統一されておらず,対象症例もNVGの有無を含めさまざまであり直接の比較はできないものの,およそ術後1?3年で85%,術後5年以上で70%程度の成績が報告されている.また,Kolomeyerらの報告12)ではNVG症例では非NVG症例に比較し成功率が低下する結果となっているが,本報告ではNVG症例とそれ以外で成功率に差はみられず(Fisher’sexacttest,p=0.31),国内の2報告でも言及されていない.しかし,症例数が大きく異なりこともあり,今後の研究報告が待たれる.当科における経毛様体扁平部挿入型BGIの手術成績を検討報告した.良好な手術成功率が得られ,難治緑内障に対して有用な術式と思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GeddeSJ,HerndonLW,BrandtJDetal:PostoperativecomplicationsintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)studyduringfiveyearsoffollow-up.AmJOphthalmol153:804-814,20122)BudenzDL,BartonK,GeddeSJetal:Five-yeartreatmentoutcomesintheAhmedBaerveldtcomparisonstudy.Ophthalmology122:308-316,20153)RososinskiA,WechslerD,GriggJ:RetrospectivereviewofparsplanaversusanteriorchamberplacementofBaerveldtglaucomadrainagedevice.JGlaucoma24:95-99,20154)VarmaR,HeuerDK,LundyDCetal:ParsplanaBaerveldttubeinsertionwithvitrectomyinglaucomasassociatedwithpseudophakiaandaphakia.AmJOphthalmol119:401-407,19955)LuttrullJK,AveryRL,BaerveldtGetal:Initialexperiencewithpneumaticallystentedbaerveldtimplantmodifiedforparsplanainsertionforcomplicatedglaucoma.Ophthalmology107:143-149,20006)ChalamKV,GandhamS,GuptaSetal:ParsplanamodifiedBaerveldtimplantversusneodymium:YAGcyclophotocoagulationinthemanagementofneovascularglaucoma.OphthalmicSurgLasers33:383-393,20027)BanittMR,SidotiPA,GentileRCetal:ParsplanaBaerveldtimplantationforrefractorychildhoodglaucomas.JGlaucoma18:412-417,20098)TarantolaRM,AgarwalA,LuPetal:Long-termresultsofcombinedendoscope-assistedparsplanavitrectomyandglaucomatubeshuntsurgery.Retina31:275-283,20119)植田俊彦,平松類,禅野誠ほか:経毛様体扁平部Baerveldt緑内障インプラントの長期成績.日眼会誌115:581-588,201110)KolomeyerAM,KimHJ,KhouriASetal:ParsplanaBaerveldttubeinsertionwithparsplanavitrectomyforrefractoryglaucoma.OmanJOphthalmol5:19-27,201211)三木美智子,植木麻理,小嶌祥太ほか:バルベルト緑内障インプラントによる経毛様体扁平部挿入チューブシャント術の短期成績.眼科手術28:428-432,201512)KolomeyerAM,SeeryCW,Emami-NaeimiPetal:CombinedparsplanavitrectomyandparsplanaBaerveldttubeplacementineyeswithneovascularglaucoma.Retina35:17-28,2015〔別刷請求先〕宮城清弦:〒852-8501長崎市坂本1丁目7番1号長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻展開医療科学講座眼科・視覚科学教室Reprintrequests:SugaoMiyagi,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,NagasakiUniversity,1-7-2,Sakamoto,NagasakiCity,Nagasaki852-8501,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY表1患者背景症例性別年齢緑内障型術前mediaopacity手術歴硝子体手術併用白内障手術眼庄点眼スコア少数視力併用1男60SGL4610.01ありICCE,Vit,TLEなしなし2男70NVG2750.01なしなしありあり3男68NVG334光覚弁ありなしありあり4女45NVG36650cm/指数弁ありなしありあり5女45NVG30650cm/指数弁ありなしありあり6男30SGL2510.3なしiridencleisis,TLO,TLE(2)ありあり7男62NVG3630.4なしPEA+IOL,Vit(2)なしなし8男52NVG3040.2なしPEA+IOL,TLEありなし9男37POAG1860.3なしPEA+IOL,Vit,TLO,ExPRESS,TLEなしなし10男58SGL4840.02ありなしありあり11女10CGL336光覚弁ありlensectomy,Vit,TLO,TLE,Baetveldtなしなし12男42NVG3140.1なしTLO,TLE(2)ありあり13男64NVG2360.5なしPEA+IOL,Vitなしなし14女15SGL4261.2なしPEA+IOLありなし15女6CGL2960.01ありTLO(2),TLE(1)ありありPOAG:原発開放隅角緑内障,NVG:血管新生緑内障,SGL:続発緑内障,CGL:先天緑内障,PEA:水晶体超音波乳化吸引術,IOL:眼内レンズ,Vit:硝子体切除術,ICCE:水晶体?内摘出術,TLO:線維柱帯切開術,TLE:線維柱帯切除術,ExPRESS:ExPRESS挿入術,Baerveldt:Baerveldt緑内障インプラント挿入術,iriddenclesis:虹彩嵌頓術.(102)図1平均眼圧の推移平均眼圧は術前31.3±8.3mmHg(平均±標準偏差)が,術後1,3,6,12,18,24カ月でそれぞれ15.0±8.5,14.2±4.4,12.1±3.2,12.4±3.4,12.0±4.7,10.2±4.4と,いずれの時点でも術前に比べ有意に低下した.図2Kaplan?Meierの生存曲線成功基準を術後眼圧が5?21mmHg,視力が光覚弁以上とした際の生存曲線を示す.実線が生存率,破線が95%信頼区間を表す.術後2年での成功率は93.3%,標準誤差は10%であった.表2経扁平部挿入型BGIの報告例報告者発表年症例数観察期間(平均)成功率判定成功基準VarmaRetal4)199513例13眼18カ月85%最終受診時IOP≦15mmHgLuttrullJKetal5)200048例50眼18カ月80%18カ月Kaplan-MeierIOP≦21mmHg,光覚弁以上,追加手術なしChalamKVetal6)200218例18眼6カ月94%術後6カ月6mmHg<IOP≦21mmHg,光覚弁以上,追加手術なしBanittMRetal7)200930例30眼30カ月72%3年,Kaplan-Meier5mmHg<IOP≦21mmHg,光覚弁以上,追加手術なしTarantolaRMetal8)201118例19眼62カ月74%最終受診時IOP≦21mmHg,光党弁以上,追加手術なし植田ら9)201116例16眼83カ月73%10年,Kaplan-Meier,etal5mmHg≦IOP<22mmHg,光覚弁以上,追加手術なしKolomeyerAMetal10)201238例39眼34カ月82%最終受診時5mmHg<IOP<22mmHg,光覚弁以上,追加手術なし三木ら11)201517例17眼10カ月94%術後6カ月6mmHg≦IOP≦21mmHg,光覚弁以上KolomeyerAMetal12)201579例89眼20カ月67%最終受診時6mmHg≦IOP≦21mmHg,光覚弁以上,追加手術なし本報告201614例15眼17カ月93%2年,Kaplan-Meier5mmHg≦IOP<22mmHg,光覚弁以上,追加手術なし本報告でも,過去の報告と比較して同等の手術成績が得られた.原著図表から直接算出した値を一部含む.(103)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611851186あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(104)