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30年前の眼球打撲により網脈絡膜萎縮を伴った黄斑円孔の1 例

2011年9月30日 金曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(121)1341《原著》あたらしい眼科28(9):1341?1342,2011cはじめに鈍的眼外傷によりひき起こされる黄斑円孔は自然閉鎖が得られる場合もある1,2).今回筆者らは鈍的外傷により網脈絡膜萎縮を伴い,長期間経ってから黄斑円孔を生じた1例を経験した.特発性黄斑円孔と同様に硝子体手術に内境界膜?離を併用3~5)することで良好な結果が得られたので報告する.I症例症例は39歳,男性で,平成21年9月7日,左眼の視力低下と変視を主訴に当院紹介受診となる.既往歴として,約30年前に野球のボールが左眼を直撃し,眼科通院をしていた.初診時所見:視力は,右眼0.1(1.0×sph?3.75D),左眼0.05(0.4×sph?3.25D(cyl?0.5DAx5°),眼圧は,右眼15mmHg,左眼17mmHgであった.前眼部,中間透光体に異常を認めなかった.左眼眼底所見は,黄斑円孔と黄斑部下方に円孔と接し網脈絡膜萎縮を認めた(図1a).光干渉断〔別刷請求先〕櫻井寿也:〒550-0024大阪市西区境川1-1-39多根記念眼科病院Reprintrequests:ToshiyaSakurai,M.D.,TaneMemorialEyeHospital,1-1-39Sakaigawa,Nishi-ku,Osaka550-0024,JAPAN30年前の眼球打撲により網脈絡膜萎縮を伴った黄斑円孔の1例櫻井寿也草場喜一郎田野良太郎福岡佐知子竹中久真野富也多根記念眼科病院ACaseofMacularHolewithChorioretinalAtrophyToshiyaSakurai,KiichiroKusaba,RyotaroTano,SachikoFukuoka,HisashiTakenakaandTomiyaManoTaneMemorialEyeHospital約30年前に眼球打撲の既往があり,網脈絡膜萎縮を生じ,その後視力は良好に経過していたが黄斑円孔を発症した1例を経験した.内境界膜?離を併用した硝子体手術により黄斑円孔の閉鎖が得られ,視力も(0.9)に改善した.Acaseofmacularholewithchorioretinalatrophywasexamined.Thechorioretinalatrophyhadbeencausedbyophthalmictrauma30yearspreviously.Thepatientunderwentparsplanavitrectomywithinternallimitingmembranepeeling.Aftertreatment,thebestcorrectedvisualacuityobtainedwas0.9.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(9):1341?1342,2011〕Keywords:網脈絡膜萎縮,硝子体手術.chorioretinalatrophy,vitrectomy.図1a初診時眼底写真黄斑部下方に網脈絡膜萎縮と黄斑円孔を認める.図1b初診時光干渉断層撮影像(OCT)円孔周囲の網脈絡膜萎縮部に黄斑上膜を認める.1342あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(122)層撮影(OCT)では,黄斑円孔と網脈絡膜萎縮部位での網膜色素上皮細胞の異常を示し,硝子体皮質の肥厚と牽引を認めた(図1b).経過:平成21年9月21日黄斑円孔に対し,経結膜的に経毛様体扁平部硝子体切除術(23ゲージPPV)を施行した.術中の所見としては,後部硝子体は未?離であり,人工的後部硝子体?離を必要とした.後部硝子体?離を作製ののち,BrilliantBlueG(BBG0.25mg/ml)を用い内境界膜(ILM)を染色後?離した.健常部網膜と異なり網脈絡膜萎縮部位でのILMの?離は完全に行うことができなかった.周辺部硝子体を切除した後,液-空気置換を行い20%SF6(六フッ化硫黄)ガス置換術を施行した.術後黄斑円孔の閉鎖が得られ術後1カ月の時点で,左眼視力VS=0.07(0.9×sph?3.00D(cyl?1.00DAx180°)と改善が認められた(図2a,b).II考察今回,網脈絡膜萎縮に伴う黄斑円孔に対し,ILM?離を併用した硝子体手術により黄斑円孔閉鎖が得られた.今回の症例では,新鮮例の外傷性黄斑円孔によくみられる後部硝子体?離が生じていなかったこと,および特発性黄斑円孔で認められるような蓋がなかった点を有するが,外傷そのものによる黄斑円孔発症の原因とは考えにくい.鈍的打撲眼では,脈絡膜動脈閉塞,脈絡膜毛細血管板の閉塞など広範囲に障害が及ぶ可能性があり,脈絡膜循環障害により網膜色素上皮(RPE)の変性がもたらされる.RPEは打撲時にも一次的障害を受けるため二次的な脈絡膜側からの障害も加わることでRPEの変性が悪化する6).この症例の場合,RPEの変性により,黄斑部網膜の接着が弱くなっている可能性があるところへ硝子体からの接線方向の牽引が加わったことにより黄斑円孔が生じたとも推測されるが,OCTからは網脈絡膜萎縮部分に黄斑上膜が形成され硝子体との牽引が黄斑円孔発症に大きく関与していることが示唆された.Johnsonら7)は重篤な黄斑部の網脈絡膜萎縮を認める症例において視力予後は不良であり,黄斑円孔の閉鎖が得られない症例も認めたとしている.実際,手術時には,網脈絡膜萎縮部の内境界膜?離がむずかしく,円孔部分の大部分が網脈絡膜萎縮部で覆われていると,円孔閉鎖は得られにくいと推測された.視力予後は黄斑に萎縮病変がなければ良好であるとの報告が多く,今回の症例の場合も一部黄斑部周囲に網脈絡膜萎縮を認めたが,視力も0.9まで改善しており,網脈絡膜萎縮が黄斑部を一部はずれていたためと考えられた.検眼鏡的には円孔の辺縁3分の1は網脈絡膜萎縮が認められたが,かなりの部分が萎縮を免れていたために円孔閉鎖と良好な視力が得られたものと考えられた.黄斑近傍にこのような萎縮部分の存在が通常では発症されない程度の硝子体牽引であっても影響がある可能性も残される.この症例は術1年経過後も円孔閉鎖は認められるが,今後脈絡膜循環障害が新たに生じRPE機能低下の範囲が拡大した場合には,円孔の再開する可能性もあり,今後の経過観察には十分注意すべきである.本論文の要旨は第49回日本網膜硝子体学会にて発表した.文献1)YeshurunI,Guerrero-NaranjoJL,Quiroz-MercadoH:Spontaneousclosureoflargetraumaticmacularholeinayoungpatient.AmJOphthalmol134:602-603,20032)佐久間俊郎,田中稔,葉田野宣子ほか:外傷性黄斑円孔の治療方針について.眼科手術15:249-255,20023)小森景子,野田航介,永井紀博ほか:外傷性黄斑円孔に対する硝子体手術.臨眼99:8-12,20054)横塚健一,岸章治,戸部佳子ほか:外傷性黄斑円孔の臨床像.臨眼45:1121-1124,19915)武藤紋子,平田慶,根木昭:外傷性黄斑円孔に対する硝子体手術.臨眼92:1577-1579,19986)三浦喜久,上野眞,三浦恵子ほか:網膜打撲壊死3例のインドシアニングリーン蛍光眼底造影所見.臨眼50:704-710,19967)JohnsonRN,McDonaldHR,LewisHetal:Traumaticmacularhole:observations,pathogenesis,andresultsofvitrectomysurgery.Ophthalmology108:853-857,2001図2a術1カ月後眼底写真図2b術1カ月後OCT

著明な視力回復がみられた外傷性眼球脱臼の1 例

2011年2月28日 月曜日

300(14あ6)たらしい眼科Vol.28,No.2,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科28(2):300.302,2011cはじめに眼球脱臼とは,眼球が眼窩中隔の外に出て,視神経・外眼筋・球結膜などの眼球付着物がある程度付着保存されているものと定義されている1).突発的な外傷あるいは自傷行為が原因の外傷性眼球脱臼については,国内外ともに報告は少なく,ほとんどが1例報告である1~9).海外の報告例では光覚消失6),眼球癆7,8)や眼球摘出9)など,その視力予後は不良なものが大多数を占めている.今回筆者らは,外傷性の眼球脱臼で受診時に光覚を消失していたにもかかわらず,最終的に良好な視力回復が得られた症例を経験したので報告する.I症例患者:70歳,男性.主訴:左眼球突出,視力低下.現病歴:2009年11月30日19時ごろ,飲酒後に風呂場で転倒.浴槽の角に左眼を強打し視力低下を自覚した.近医を受診したところ左眼球脱臼を認めたため,同日23時に当院救急外来に搬送された.既往歴:アルコール性肝障害.初診時眼科所見:視力;RV=0.7(1.2×+1.25D(cyl.0.75DAx60°),LV=光覚なし.左眼直接対光反射消失.左眼球は上下眼瞼縁を越えて露出しており,耳側および鼻側の結膜裂傷を認めた(図1a,b).前眼部で左角膜びらんを認めたが,中間透光体は異常なかった.左眼網膜色調は良好であった.Computedtomography(CT)で,外直筋の眼球付着部での断裂が疑われた.視神経断裂の有無は,CTでは詳細不明であった.眼窩骨折は認められなかった(図1c).臨床経過:外来処置室において,1%キシロカインRで眼〔別刷請求先〕原克典:〒693-8501出雲市塩冶町89-1島根大学医学部眼科学講座Reprintrequests:KatsunoriHara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ShimaneUniversityFacultyofMedicine,89-1Enya-cho,Izumo,Shimane693-8501,JAPAN著明な視力回復がみられた外傷性眼球脱臼の1例原克典谷戸正樹児玉達夫高井保幸太根ゆさ松岡陽太郎大平明弘島根大学医学部眼科学講座MarkedRecoveryofVisioninaCaseofTraumaticGlobeLuxationKatsunoriHara,MasakiTanito,TatsuoKodama,YasuyukiTakai,YusaTane,YotarouMatsuokaandAkihiroOhiraDepartmentofOphthalmology,ShimaneUniversityFacultyofMedicine光覚消失後に良好な視力回復が得られた,外傷性眼球脱臼の1例を経験した.症例は70歳,男性.飲酒後に風呂場で転倒した際に浴槽の角で左眼を打ち付け,左眼球脱臼をきたした.当院受診時,左眼は光覚なく,対光反射は消失していた.受傷後4時間で眼球を整復し,翌日からステロイドパルス治療を行った.受傷後5カ月で左眼視力は1.2に回復した.左視神経乳頭近傍の網脈絡膜萎縮と,それに一致する視野欠損を残した.良好な視力予後に寄与する要因として,①早期の脱臼整復,②視神経断裂・網膜中心動脈閉塞がない,③ステロイドパルス治療の可能性が考えられた.A70-year-oldmale,whiletakingabath,struckthecornerofthebathtubwithhisface,causingglobeluxationofhislefteye.Intheinitialexaminationatemergencyroom,visualacuitywasnolightreception,andtheleftpupildidnotrespondtolightstimulation.Thepatientunderwentrepositioningofhisleftglobe4hoursaftertheinjury,thenreceivedintensivesteroidtherapyfor3days.At5monthsaftertheinjury,visualacuityhadrecoveredto1.2.Fundusandvisualfieldexaminationsrevealedparapapillaryretinochoroidalatrophyandcorrespondingscotomainhislefteye.Promptrepositioningoftheeyeglobeaftertheinjury,absenceofopticnerveavulsionandcentralretinalarteryocclusion,anduseofsteroidmedicationarepossibleexplanationsofthegoodvisualacuityprognosisinthiscase.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(2):300.302,2011〕Keywords:外傷性眼球脱臼,眼球整復,網脈絡膜萎縮,視力回復,ステロイドパルス.traumaticglobeluxation,repositioningofeyeglobe,retinochoroidalatrophy,recoveryofvision,steroidpulsetherapy.(147)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011301球周囲と眼窩内に浸潤麻酔を行った後,デマル(Desmarres)鈎を用いて眼瞼縁を眼球前方に牽引し,眼球整復を行った(図1d).受傷から整復までに要した時間は約4時間であった.整復直後に左眼視力は光覚ありとなったが,上外転障害を認めた.整復後に撮影したMRI(磁気共鳴画像)では,左眼球がやや内転位を呈し,左外直筋の眼球付着部付近での連続性が不明瞭となっていた.視神経に関しては,眼窩内での連続性は保たれていたが,眼窩尖端部から視神経管レベルでの左視神経描出が対側に比べ不良であり,同部位での損傷が示唆された.受傷翌日,手術室において左眼外直筋整復術を図1症例の経過観察a,b,c:初診時の顔写真(a:正面,b:左側面)と頭部CT(c).左眼眼球脱臼を認める.d:整復術直後の顔写真.眼球脱臼は整復されている.e,f:受傷後5カ月の左眼眼底写真(e)とGoldmann視野(f).視神経乳頭近傍の網脈絡膜萎縮とそれに一致する暗点を認める.acebdf302あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(148)試みた.術中,上直筋の断裂を認めたが断端は確認できなかった.外直筋は不全断裂の状態で,挫滅が高度なため縫合処置を行えなかった.術後,左眼視力は手動弁であった.整復術当日よりプリドールR1,000mg/日で,ステロイドパルス治療を3日間施行した.受傷5日目に左眼矯正視力は0.03に改善した.Goldmann視野検査で,左眼の視野狭窄,Mariotte盲点に連続する絶対暗点,および中心比較暗点を認めた.9方向眼位では,上外転障害のため,正面視で軽度内下転位となっていた.その後,左眼矯正視力は受傷4週後に0.4,8週後に0.6,12週後には1.0と回復していった.受傷5カ月後,左眼矯正視力1.2まで改善した.左内斜視は残存していた.眼底検査で,左視神経乳頭下耳側に網脈絡膜萎縮がみられた(図1e).Goldmann視野検査では,網脈絡膜萎縮に一致した暗点を認めた(図1f).網脈絡膜萎縮は,同部位の支配血管である短後毛様動脈の障害に起因すると考えられた.視力回復に伴い,複視の症状が出現した.Worth4灯検査で遠見,近見ともに同側性複視の所見がみられたが,日常視においては,近見でのみときどき複視を自覚した.網脈絡膜萎縮に一致した暗点が,複視の自覚を軽減している可能性が考えられた.頭位の異常なく,プリズム眼鏡装用による自覚症状の改善は認めなかった.II考按1983年以降,わが国で発表された外傷性眼球脱臼症例の報告は5例ある(表1)1~5).そのうち1例は眼球摘出,3例は最終視力で光覚を消失しており,1例のみに1.0の視力回復を認めている.これらの症例報告の受傷状況と今回の症例から,外傷性眼球脱臼で,良好な視力予後に寄与する要因として,つぎの3点の可能性が考えられた.1つ目は,受傷早期に脱臼整復を行うことである.視力予後の良かった外江らの症例では受診後ただちに整復を行っていた3).筆者らの症例でも受傷後約4時間と比較的早い時期での整復を施行していた.ただし,光覚を消失した症例も比較的早期に脱臼整復を行っており,整復におけるcriticaltimeは明らかでなく,今後の症例の蓄積が待たれる.2つ目は,受傷時に視神経断裂や網膜中心動脈閉塞症のように高度な視機能障害が存在していないことである.視力予後が不良であった4例のうち,3例に網膜中心動脈閉塞症が確認され,1例で視神経断裂が併存していた.3つ目は,ステロイド治療の有無である.5例中4例でステロイド加療は行われていなかった.筆者らの症例では,眼球整復後にステロイドパルス治療を施行している4).ステロイド治療の有効性については症例報告が限られているため断定はできないが,外傷時の視神経および視神経周囲の炎症性浮腫の軽減と,それに伴う循環改善が良好な視力予後に寄与したと考えられた.過去の報告例では加療にもかかわらず,ほとんどが失明している.光覚なしから矯正視力1.2まで回復した筆者らの症例は非常にまれであったと考えられる.受傷時の眼窩内損傷の程度は偶発的であるが,受傷後ただちに眼球を整復し,ステロイドパルス療法を行うことが,良好な視力予後に寄与する可能性がある.文献1)福喜多光一:外傷性眼球脱臼の1例.臨眼81:777-780,19872)福原晶子,大原輝幸:眼球保存できた外傷性眼球脱臼の1例.臨眼82:1505-1508,19883)外江理,上野山さち,雑賀司珠也ほか:外傷性眼球脱臼の1例.臨眼46:1172-1174,19924)鈴木由美,川久保洋,島田宏之ほか:外傷性眼球脱臼の1例.眼科38:605-609,19965)鈴木崇弘,山家麗,赤塚一子ほか:外傷性眼球脱臼に対し眼球整復術を施行した1例.臨眼57:833-835,20036)BajajMS,PushkerN,NainiwalSKetal:Traumaticluxationoftheglobewithopticnerveavulsion.ClinExperimentOphthalmol31:362-363,20037)KiratliH,TumerB,BilgicS:Managementoftraumaticluxationoftheglobe.Acasereport.ActaOphthalmolScand77:340-342,19998)AlpB,YanyaliA,ElibolOetal:Acaseoftraumaticglobeluxation.EurJEmergMed8:331-332,20019)LelliGJJr,DemirciH,FruehBR:Avulsionoftheopticnervewithluxationoftheeyeaftermotorvehicleaccident.OphthalPlastReconstrSurg23:158-160,2007表1わが国での外傷性眼球脱臼の報告報告年報告者年齢・性別眼底所見受傷機転受診時視力退院後視力整復までの時間ステロイド治療1987福喜多ら15歳・男性CRAO木の枝LS(.)LS(.)約3時間(.)1988福原ら10歳・女性CRAO転倒LS(.)LS(.)受傷当日(.)1992外江ら10歳・男性特記異常なし鉄棒0.03(n.c.)0.7(1.0)受診後ただちに(.)1996鈴木由美ら27歳・男性CRAO鉄パイプLS(.)眼球摘出(+)2003鈴木崇弘ら58歳・女性視神経断裂ハンドルに殴打LS(.)LS(.)受傷当日(.)2011原ら(本報)70歳・男性特記異常なし転倒LS(.)0.5(1.2)約4時間(+)CRAO:centralretinalarteryocclusion,LS:光覚.

網膜静脈分枝閉塞症のレーザー治療25 年後のAtrophic Creep

2010年9月30日 木曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(137)1303《原著》あたらしい眼科27(9):1303.1306,2010cはじめに網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)の治療には確実なものはなく,これまでレーザー光凝固1,2),硝子体腔内トリアムシノロン注入3)やsheathotomyを併用した硝子体手術4)が行われてきていた.本症の自然経過では,BRVO全体で50~60%の症例で1年後に0.5以上の視力を維持することができるという報告1)の半面,進行例に対して行われてきた上記の治療においては治療効果が確実ではないため5),最近では抗VEGF(血管内皮細胞増殖因子)による治療も試みられてきている6)のが現状である.本症による無血管野に発症した新生血管や黄斑浮腫の治療目的で,後極黄斑部に特に網膜アーケード血管内の領域に網膜光凝固を行うことが以前から行われてきているが,本治療法の長期の合併症の報告はない.筆者らは今回BRVOに対して網膜光凝固治療を施行した後,徐々に凝固斑が拡大し(クリーピング),融合し,25年後に重度の視力障害をきたした症例を経験したので報告する.I症例患者:60歳,男性,初診は昭和60年5月10日.主訴:右眼視力低下.現病歴:昭和55年右眼の網膜中心静脈分枝閉塞症にて関西の某大学病院で網膜光凝固を受けた.その後都内の某大学病院で経過観察されていたが,右眼の網膜.離を併発したため,手術目的で当科紹介初診となった.全身既往歴:高血圧,高脂血症で内服治療中,糖尿病治療中.初診時所見:視力はVD=0.2(n.c.),VS=1.2(1.5×+0.75).〔別刷請求先〕井上順治:〒279-0021浦安市富岡2-1-1順天堂大学医学部附属浦安病院眼科Reprintrequests:JunjiInoue,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversityUrayasuHospital,2-1-1Tomioka,Urayasu-shi279-0021,JAPAN網膜静脈分枝閉塞症のレーザー治療25年後のAtrophicCreep井上順治伊藤玲佐久間俊郎溝田淳田中稔順天堂大学医学部附属浦安病院眼科ACaseofAtrophicCreepDevelopedduring25YearsafterLaserPhotocoagulationforBranchRetinalVeinOcclusionJunjiInoue,ReiIto,ToshiroSakuma,AtsushiMizotaandMinoruTanakaDepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversityUrayasuHospital網膜静脈分枝閉塞症による後極の無血管野および黄斑浮腫に対し格子状光凝固を行い25年間経過を観察した.条件は,200μm/0.2秒/0.14W/66発で照射した.徐々に光凝固斑が拡大融合し網脈絡膜萎縮となり視力は0.1である.糖尿病黄斑浮腫に対する格子状光凝固後のatrophiccreepと同様,黄斑部に凝固を行った場合は長期の経過観察が必要である.Acaseofprogressiveatrophiccreepafterlaserphotocoagulationforbranchretinalveinocclusion(BRVO)isreported.Thepatient,a60-year-oldmale,hadundergonelasertherapytreatmentofnon-perfusionareaandmacularedemaduetoBRVO.Thegradualprogressoftheatrophiccreephasbeenobservedfor25yearsfollowingthetreatment.Carefulobservationsarenecessary,ifthemaculahasundergonephotocoagulation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(9):1303.1306,2010〕Keywords:網膜静脈分枝閉塞症,網膜レーザー光凝固,格子状光凝固,アトロフィッククリープ,網脈絡膜萎縮.branchretinalveinocclusion,retinalphotocoagulation,gridpatternphotocoagulation,atrophiccreep,chorioretinalatrophy.1304あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(138)前眼部には両眼とも異常なく,眼圧は右眼12mmHg,左眼13mmHg.眼底は右眼耳上側のBRVOで黄斑部中心窩には網膜下に結合織の増生を認め,アーケード内には斑状出血が散在し,白線化血管も認めた.中心窩から2乳頭径耳側および上方アーケード血管より周辺側にまばらにレーザー光凝固がなされていた(図1).9°方向最周辺部に馬蹄型裂孔がみられ,扁平な網膜.離を認めた.蛍光眼底検査(fluoresceinangiography:FA)にて中心小窩外上方に無灌流域を,また中心窩には黄斑浮腫を認めた.左眼眼底は正常であった.経過:昭和60年5月13日入院し,右外方に部分バックリングを施行し,網膜は復位した.FAにて認められた無血管野に対して,また中心窩黄斑浮腫治療のため,格子状に昭和60年5月28日,網膜光凝固を追加した.照射条件は,アルゴングリーン200μm,0.2秒,0.14W,66発であった(図2).用いたレンズはGoldmann三面鏡で,倍率は0.17倍程度と思われる.無灌流域は減少し黄斑浮腫も軽減した.視力は0.2を維持していた.以後徐々に凝固斑が拡大し,一時視力はVD=(0.08)までに低下した.平成7年11月17日の眼底写真とFA写真を図3に示す.中心小窩の線維性瘢痕の増加および色素沈着がみられ,凝固斑は拡大のみならず融図1初診時の右眼眼底写真(昭和60年5月)図2無血管野へのレーザー光凝固の追加図4格子状光凝固から20年後の眼底写真拡大融合に加え網脈絡膜萎縮もみられる(平成21年6月).ab図3平成7年11月7日における眼底写真(a)とFA写真(b)a:徐々に凝固斑の拡大融合がみられる(平成7年11月7日).b:黄斑浮腫は消失しているが,黄斑部は萎縮している.(139)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101305合し中心窩まで進展してきた.白内障が進行してきたため,平成10年2月13日,右眼に超音波水晶体乳化吸引術(PEA)+眼内レンズ(IOL)手術を施行した.視力はVD=(0.2)で経過していたが,凝固から25年後の平成21年6月には,図4に示すように凝固斑拡大,融合,網脈絡膜萎縮が認められ視力は徐々に低下した.以後VD=(0.1)のままであるが,視野は徐々に中心暗点が拡大し(図5a,b),視機能全体は低下の一途をたどっている.光干渉断層計(OCT)所見を図6に示す.中心窩は菲薄化し萎縮している.左眼は特に変化なくVS=(1.5)を維持している.II考按BRVOの症例に対して,一般的には広い無血管野の存在や新生血管を発症した場合には網膜レーザー光凝固を行うが,黄斑浮腫を有する症例に対しての凝固についてはいまだ定説はない.TheBranchVeinOcclusionStudyGroupは,発症から3カ月以上たったBRVOによる黄斑浮腫の症例群を2群に分け,コントロールスタディを行った.視力が0.5以下の症例では,格子状光凝固を行った群での2段階以上の視力改善率は65%で,コントロール群は37%であり,BRVOによる格子状光凝固治療は有効であると報告している2).視力が0.5以上の症例は,進行例,たとえば本症例のように陳旧となった網膜の肥厚した黄斑浮腫や.胞様黄斑浮腫(CME)に格子状光凝固を行うよりも,レーザーの照射条件が軽度で済むことが多いため,難症への過度となりがちなレーザー照射とは異なる.今回の筆者らの経験した症例は,格子状光凝固を施行した時期にはOCTがなかったため,黄斑部の病理や網膜厚は不明であった.また,BRVOの発症から長年経過しており,陳旧性の黄斑浮腫であった.レーザーの照射条件は200μm,0.2sec,0.14W,66発と,グリーンレーザーを用いての格子状光凝固としては,25年前の当時は一般的に行われていた条件であったが,今日では過剰と考えられている条件で施行されていた.前医での格子状光凝固の既往については不明であるが,光凝固前の写真では黄斑部にすでにレーザー照射によると推定される瘢痕が観察された.したがって,反復照射されていた可能性が考えられる.その結果,7年後には図3のようになり,25年たった現在では凝固斑は拡大融合し,網膜は菲薄化し,回復困難な状態に陥ってしまっている.凝固拡大は13年前と比較すると拡大率は3倍となっていた.FAでも,クリープの発症したところでは網膜萎縮となっている.視力の回復が困難になっている理由として,atrophiccreepによるものが主体と思われるが,BRVOによる長年の黄斑浮腫,黄斑下にみられた線維性増殖変化にも視力低下の原因は考えられる.Atrophiccreepについては,これまで糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)についていくつかの報告がなされてきている.TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)やOlkによれば,DMEに対しても格子状光凝固は有用であるとしている7,8).しかし,格子状光図5a視野の変化(昭和60年5月)図5b視野の変化(平成22年2月)図6OCT所見1306あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(140)凝固治療後の長期合併症,特にatrophiccreepについては注意すべきとの報告も散見されるようになってきている9,10).これらの報告によれば,DMEに対して格子状光凝固を施行した症例の5.4.22.8%にatrophiccreepを発症しているという.そしてatrophiccreepの発症は,周辺部網膜よりもアーケード血管内の網膜により起こりやすい10)との報告もある.クリーピングの発症は波長の差によることはなく10)多くは過剰凝固が原因であろうと思われるが,理由はまったく不明である.後極にはより多くの錐体細胞があり,血流も周辺と異なる部位にレーザーで損傷を与えることで,より多くの視細胞が変性脱落していくことが考えられる11).したがって,後極,なかでも黄斑部にレーザーを照射する場合は,長期にわたって経過観察が必要で,また過剰なレーザー照射は黄斑部にはすべきではないと思われる.再度今回の症例においてatrophiccreepをきたした理由をあげてみると,1)昭和60年当時一般的であった凝固条件(0.2秒,200μm,出力0.16W),2)隙間のない凝固,3)重ねて行った凝固,4)陳旧例のため過剰となった凝固などがあげられる.今日ではこのような凝固が行われることがないが,行う場合には間隔を開け,なるべく少ないエネルギーで行うことが重要と思われた.また,乳頭黄斑線維束の部位への凝固も避けるべきと思われる.Atrophiccreepの発症は,DMEのみならず今回のようなBRVOによる黄斑浮腫の症例でも同様,黄斑浮腫,特に浮腫が強く陳旧化した症例では凝固斑が出るまで照射しがちなため過剰になりやすく,くり返し照射することもあり,ある一定の照射条件を超えるときはレーザー治療は行わず,他の治療方法に変更することが望ましいと思われた.文献1)BranchVeinOcclusionStudyGroup:Argonlaserscatterphotocoagulationforpreventionofneovascularizationandvitreoushemorrhageinbranchveinocclusion.Arandomizedclinicaltrial.BranchVeinOcclusionStudyGroup.ArchOphthalmol104:34-41,19862)BranchVeinOcclusionStudyGroup:Argonlaserphotocoagulationformacularedemainbranchveinocclusion.TheBranchVeinOcclusionStudyGroup.AmJOphthalmol98:271-282,19843)CakirM,DoganM,BayraktarZetal:Efficacyofintravitrealtriamcinoloneforthetreatmentofmacularedemasecondarytobranchretinalveinocclusionineyeswithorwithoutgridlaserphotocoagulation.Retina28:465-472,20084)YamamotoS,SaitoW,YagiFetal:Vitrectomywithorwithoutarteriovenousadventitialsheathotomyformacularedemaassociatedwithbranchretinalveinocclusion.AmJOphthalmol138:907-914,20045)HayrehSS,RojasP,PodhajskyPetal:Ocularneovascularizationwithretinalvascularocclusion-III.Incidenceofocularneovascularizationwithretinalveinocclusion.Ophthalmology90:488-506,19836)WroblewskiJJ,WellsJA3rd,GonzalesCR:Pegaptanibsodiumformacularedemasecondarytobranchretinalveinocclusion.AmJOphthalmol148:1-8,20097)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyGroup:Photocoagulationfordiabeticmacularedema.EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyreportnumber1.EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyresearchgroup.ArchOphthalmol103:1796-1806,19858)OlkRJ:Modifiedgridargon(blue-green)laserphotocoagulationfordiffusediabeticmacularedema.Ophthalmology93:938-950,19869)SchatzH,MadeiraD,McDonaldHRetal:Progressiveenlargementoflaserscarsfollowinggridlaserphotocoagulationfordiffusediabeticmacularedema.ArchOphthalmol109:1549-1551,199110)MaeshimaK,Utsugi-SutohN,OtaniTetal:Progressiveenlargementofscatteredphotocoagulationscarsindiabeticretinopathy.Retina24:507-511,200411)CurcioCA,SloanKR,KalinaREetal:Humanphotoreceptortopography.JCompNeurol292:497-523,1990***