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網膜色素線条に合併した脈絡膜新生血管に対する 抗血管内皮増殖因子の治療成績

2022年9月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科39(9):1277.1280,2022c網膜色素線条に合併した脈絡膜新生血管に対する抗血管内皮増殖因子の治療成績熊谷真里子中山真紀子江本宜暢山本亜希子岡田アナベルあやめ杏林大学医学部眼科学教室COutcomesbyTreatmentRegimenforChoroidalNeovascularizationinAngioidStreaksMarikoKumagai,MakikoNakayama,YoshinobuEmoto,AkikoYamamotoandAnnabelleAyameOkadaCDepartmentofOphthalmology,KyorinUniversitySchoolofMedicineC目的:網膜色素線条(AS)に合併した脈絡膜新生血管(CNV)に対する抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の治療方針別成績を明らかにすること.方法:CNVを合併したCAS15例C22眼に対し抗CVEGF薬治療を行い,後ろ向きに検討した.結果:平均経過観察期間はC63カ月(12.115カ月).抗CVEGF薬治療開始時の方針は,14眼(64%)が必要時投与(PRN),8眼(36%)がCtreat-and-extend(TAE)であった.PRN眼で,治療開始後C1年以内に再発がみられたのはC9眼であり,再発のためCPRNからCTAEに移行したのはC10眼であった.最終治療方針はC18眼(82%)がCTAEとなった.平均矯正視力はC1年とC3年で有意に改善したが,最終視力が低下した症例は全例初期からCPRN眼であった.結論:ASに合併するCCNVは再発が多く,抗CVEGF薬治療はCPRNよりは初期からCTAEの方針が視力予後には有効であった.CPurpose:ToCanalyzeCoutcomesCbasedConCtheCtreatmentCregimenCofCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactor(VEGF)therapyforchoroidalneovascularization(CNV)inretinalangioidstreaks(AS)C.Methods:Thisretrospec-tiveobservationalstudyinvolved22eyesof15patientswithAS-associatedCNVtreatedwithanti-VEGFintravit-realinjections.Results:Themeanfollow-upperiodwas63months(range:12-115months)C.Theinitialtreatmentregimenwasprorenata(PRN,“asneeded”)in14eyes(64%)andtreat-and-extend(TAE)in8eyes(36%)C.Ofthe14PRNeyes,recurrenceofCNVoccurredwithin1yearin9eyes,and10eyesweretransitionedtoTAEduetoCrecurrence.CTheC.nalCtreatmentCregimenCwasCTAECinC18eyes(82%)C.CMeanCbest-correctedCvisualCacuityCsigni.cantlyimprovedat1-and3-yearsposttreatmentinitiation,however,alleyeswithdecreasedvisualacuityat.nalfollow-upwereinitialPRNeyes.Conclusion:AlthoughrecurrenceofAS-associatedCNVwasfrequentlyobservedpostanti-VEGFintravitrealinjection,thetreatmentregimenofinitialTAEresultedinbettervisualout-comescomparedtothatofinitialPRN.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(9):1277.1280,C2022〕Keywords:網膜色素線条,脈絡膜新生血管,抗CVEGF治療.angioidstreaks,choroidalneovascularization,anti-vascularendothelialgrowthfactor.Cはじめに網膜色素線条(angioidstreaks:AS)はCBruch膜に弾性線維の変性を引き起こす疾患であり,Bruch膜の肥厚,石灰化や断裂を生じる.特発性の場合もあるが,多くは弾性線維性仮性黄色腫(pseudoxanthomaelasticum:PXE)をはじめ複数の全身疾患に続発する.ABCC6遺伝子変異が原因であるCPXEが背景にある場合は,重篤な心臓や脳血管系の合併症にも注意する必要がある1.3).中心窩近傍に脈絡膜新生血管(choroidalCneovasculariza-tion:CNV)を合併すると,視力予後が不良となることが多い.この続発性CCNVに対しては抗血管内皮増殖因子(vas-cularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)薬の硝子体内注射により,視力改善および維持,またはCCNV進行予防の有効性が報告されている4.6).しかし,今までの報告では必要時投与(proCrenata:PRN)の方針が多く,CNVの再発を繰り返すことで瘢痕および網脈絡膜萎縮が拡大するため,長期〔別刷請求先〕熊谷真里子:〒181-8611東京都三鷹市新川C6-20-2杏林大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MarikoKumagai,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyorinUniversitySchoolofMedicine,6-20-2Shinkawa,Mitaka,Tokyo181-8611,JAPANC的にみると視力低下する症例が少なくない.今回,AS合併CCNVに対する抗CVEGF薬硝子体内投与の治療経過についてCPRN,またはCtreat-and-extend(TAE)の治療方針別に後ろ向きに検討した.CI対象および方法対象はC2003年C11月.2017年C9月に杏林大学医学部附属病院眼科にてCASに活動性CCNVを合併し,抗CVEGF治療を施行した15例22眼(女性10例14眼,男性5例8眼)である.本研究は杏林大学医学部倫理委員会の承認のもと行った.ASの診断基準としては検眼的に視神経乳頭から放射状に伸びる典型的なCAS,視神経乳頭周囲の萎縮性変化,周辺部梨子地眼底を認めるものとした.一部症例ではフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)にて色素線条部のCwindowdefect,AS部周囲の組織染,インドシアニングリーン蛍光造影後期にCAS部の組織染を認めるものも診断根拠とした.CNVの活動性は,病変付近に網膜下出血,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で滲出性変化,またはCFAで病変の蛍光漏出を認めたものと定義した.経過観察期間がC12カ月未満のものは除外した.抗CVEGF薬治療(ベバシズマブまたはラニビズマブを倫理委員会承認のもと使用)を施行し,これらの症例のCCNV発症部位,治療方針,投与回数,再発,視力の変化,合併症について後ろ向きに検討した.治療方針は初期治療として,抗CVEGF薬を活動性が消失するまでC4週ごとに硝子体内投与を継続した.活動性が消失した段階で,患者の希望を踏まえた医師の判断にてCPRN,またはCTAEの治療方針を決めた.PRNの方針では,毎月検査を行いながら,活動性が生じた際に投与を再開し,滲出性変化が完全に消失するまで基本的に毎月投与を行った.一方,TAEの方針では,滲出性変化が完全に消失するまで毎月投与を継続し,消失と確認できた段階から約C2週の投与間隔の延長を試みた(最長C12週間隔).滲出性変化が再度生じた場合は,投与間隔をC1.2週間短縮した.視力は小数視力表を用いて測定し,その結果をClogarithmofCtheCminimumCangleCofresolution(logMAR)値へ換算したうえで解析を行った.CII結果初診時平均年齢はC67歳(40.87歳)で,平均経過観察期間はC63C±30カ月(12.115カ月)であった.平均等価球面度数は.1.69D(+1.50.C.11.38D)であった.治療開始時の治療方針はPRNが14眼(64%),TAEが8眼(36%)であった.1.CNVの発症部位と治療方針両眼ともに治療の対象となった症例はC7例,片眼のみはC8例であった.CNVの発症部位は中心窩下がC17眼(77%),傍中心窩がC4眼(18%),傍中心窩から視神経乳頭周囲がC1眼(5%)であった.治療開始時の治療方針はCPRNがC14眼(64%),TAEがC8眼(36%)であった.その後CCNV再発のためCPRNからCTAEに移行したのはC10眼であり,最終的な治療方針はPRNが4眼(18%),TAEが18眼(82%)となった.C2.投与回数平均投与回数はCPRNで治療を開始したC14眼において,1年目は6.3回,2年目は2.3回,3年目は2.0回,4年目は0回,5年目はC0回であった.TAEで治療を開始したC8眼において,1年目は9.8回,2年目は8.7回,3年目は7.4回,4年目はC8.6回,5年目はC4.8回であった.C3.再発CNV再発の定義は網膜出血や網膜内液,網膜下液などの滲出性変化を認めた場合とした.PRNで治療を開始したC14眼において,CNVの再発は治療開始から平均C12.4カ月であり,1年以内がC9眼,2年目が1眼,3年目がC1眼,4年目がC1眼,再発がみられなかったのはC2眼であった.14眼中C12眼(86%)でC4年以内にCCNVの再発を認めた.最終的にC10眼がCPRNからCTAEに移行した.1年以内に再発したC9眼のうちC8眼は同部位の再発であったが,1眼はまったく別の部位に新たなCCNVが生じた.TAEで治療を開始したC8眼において,CNVの再発は治療開始からC2年目がC2眼,3年目がC1眼でみられた.そのC3眼のうちC2眼は同部位で,1眼は別の部位で再発がみられた.C4.視力の変化治療開始時の平均ClogMAR視力C0.40に比べ,治療開始C1年後はC0.26(n=22眼),3年後はC0.28(n=15眼),5年後は0.36(n=14眼)であり,1年後とC3年後に有意な視力改善が認められた(図1,Wilcoxonsigned-ranktest,p<0.01).治療方針別の視力経過では治療開始時と最終受診時を比較し,logMAR0.2以上の変化を改善または悪化,0.2未満の変化を維持として,PRN継続で行ったC4眼では改善がC2眼,維持と悪化がそれぞれC1眼,PRNからCTAEに移行したC10眼では改善がC2眼,維持がC7眼,悪化がC1眼,初期からTAEで行ったC8眼では改善がC5眼,維持がC3眼であった(図2).C5.全身疾患の合併症対象患者の既往歴として脳梗塞C2例,脳動脈瘤C1例を認めた.また,経過観察中に脳出血を生じた症例がC1例あった.C6.代表症例69歳,女性.右眼の中心暗点を自覚し当院受診となった.logMAR(小数視力)治療開始時と治療開始C1年後,3年後,5年後の平均ClogMAR視改善がC5眼,維持がC3眼であった.力を比較したところ,1年後とC3年後に有意な視力改善が認められた(Wilcoxonsigned-ranktest,p<0.01).d図3代表症例a:右眼の矯正視力はC1.2であった.眼底所見において視神経乳頭周囲の萎縮と色素線条,傍中心窩にCCNVを示唆する網膜下出血に伴う隆起性病変を,さらに後極部上方に梨子地眼底を認めた.Cb:OCT所見において出血に相当する部位に網膜下液がみられた.c:FA所見において色素線条のブロックと色素線条の先にCCNVを示唆する蛍光漏出および出血によるブロックがみられた.Cd:ASに合併した活動性CCNVと診断し,PRNの方針でC5回投与後での矯正視力はC1.2で出血がほぼ消失した.しかし,最後の投与後C7カ月の段階で,CNV再発を示唆する瘢痕隣接の出血がみられ,抗CVEGF薬の投与を再開し,治療方針はCTAEに変更された.経過を図3に示す.CIII考按活動性CCNVを合併したCASに対する抗CVEGF療法は,過去の研究においてCPRNの方針が多かった.Sawaらの報告では,13例C15眼の患者(男性C5例,女性C8例,平均年齢C59歳,54.70歳)において,PRNの方針で治療し,初発時CNVの平均投与回数はC4.5回(1.9回)であった6).本研究の平均投与回数は,PRNの方針のC1年目はC6.3回(n=14眼),TAEの方針のC1年目はC9.8回(n=8眼)と既報よりも投与回数は多い結果であった.OCT解像度の向上によりごくわずかな滲出性変化が検出可能となり,本研究ではそのような変化に対しても投与を行ったため,既報と比較し投与回数が多くなったと考えられる.PRNの方針であったC14眼中,治療開始後C1年以内に再発がみられたのはC9眼(64%)と多かった.最終的に再発でPRNからCTAEに切り替えたのはC10眼であった.1年以内に再発したC9眼において治療開始後から平均C7.2カ月で再発がみられ,Sawaらの報告においてもC5眼(33%)で最終投与から平均C5.1カ月に再発がみられた.本研究では滲出性変化がなくなった状態をC2回確認できるまで投与を継続していた症例が多く,既報より投与回数は多くなったが,その分再発が抑えられたと考えられ6),とくに治療開始からC1年以内は再発に留意すべきと考える.また,全体の平均ClogMAR矯正視力は治療開始時C0.40,1年後C0.26(n=22眼),3年後C0.28(n=15眼),5年後C0.36(n=14眼)であり,1年後とC3年後に有意な改善(p<0.01)がみられたもののC5年後はベースラインに戻っていた.治療経過中にCAS合併CCNVによる網脈絡膜萎縮が進行したため,5年後平均ClogMAR矯正視力の有意な改善が得られなかったと考えられる.しかし,治療方針別の最終視力解析により,PRNよりも初期からCTAEのほうが視力維持・改善できる可能性が示唆された.Lekhaらの報告においてはC15眼全例に新規CCNVがあり,発症部位は傍中心窩がC8眼(53%)で,中心窩下がC7眼(47%)であった7).本研究のCCNV発症部位は傍中心窩がC4眼(18%),中心窩下がC17眼(77%),傍中心窩から視神経乳頭周囲がC1眼(5%)と,Lekhaらの報告より中心窩下の発症が多かったが,既報,本研究ともにCCNVの発症部位は中心窩下および傍中心窩が大半を占めていた.CNVの再発率はLekhaらの報告(PRN方針,平均経過観察期間C57カ月間以内)ではC73%に対し7),本研究(PRN方針,48カ月間以内)はC86%とどちらも高頻度にみられた.CNVの発生場所に違いがみられても,ASのCCNVは再発しやすい可能性がある.症例数は少ないが,本研究においてCASに合併するCCNVの再発が多くみられ,抗CVEGF薬治療の方針としては初期からCTAEとするほうが視力維持・改善できる可能性があることが示唆された.今後症例数を増やし,TAE方針における有効性をさらに検討する余地があると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)RoachCES,CIslamMP:PseudoxanthomaCelasticum.CHandbCClinNeurolC132:215-21.C20152)KatagiriCS,CNegishiCY,CMizobuchiCKCetal:ABCC6CgeneCanalysisCinC20CJapaneseCpatientsCwithCangioidCstreaksCrevealingfourfrequentandtwonovelvariantsandpseu-dodominantCinheritance.CJCOphthalmol2017:ArticleCIDC1079687,C20173)SoutomeCN,CSugaharaCM,COkadaCAACetal:SubretinalChemorrhagesafterblunttraumainpseudoxanthomaelas-ticum.RetinaC27:807-808,C20074)TeixeiraA,MoraesN,FarahMEetal:Choroidalneovas-cularizationCtreatedCwithCintravitrealCinjectionCofCbevaci-zumab(Avastin)inCangioidCstreaks.CActaCOphthalmolCScandC84:835-836,C20065)TilleulCJ,CMimounCG,CQuerquesCGCetal:IntravitrealCranibizumabCforCchoroidalCneovascularizationCinCangioidstreaks:Four-yearfollow-up.RetinaC36:483-491,C20166)SawaM,GomiF,TsujikawaMetal:Long-termresultofintravitrealbevacizumabinjectionforchoroidalneovascu-larizationsecondarytoangioidstreaks.AmJOphthalmolC148:584-590,C20097)LekhaT,PrasadHN,SarwateRNetal:Intravitrealbeva-cizumabCforCchoroidalCneovascularizationCassociatedCwithCangioidstreaks:Long-termCresults.CMiddleCEastCAfrCJCOphthalmolC24:136-142,C2017***

網膜下出血を伴って新たな線条が出現した網膜色素線条の1例

2014年11月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科31(11):1717.1721,2014c網膜下出血を伴って新たな線条が出現した網膜色素線条の1例小池直子*1尾辻剛*1正健一郎*1津村晶子*1西村哲哉*1髙橋寛二*2*1関西医科大学附属滝井病院眼科*2関西医科大学附属枚方病院眼科AcuteNewStreakFormationinPatientwithRetinalAngioidStreakswithoutOcularTraumaNaokoKoike1),TsuyoshiOtsuji1),KenichiroSho1),AkikoTsumura1),TetsuyaNishimura1)andKanjiTakahashi2)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,HirakataHospital目的:網膜色素線条(angioidstreaks:AS)はBruch膜が脆弱であるため軽微な外傷により容易にBruch膜の断裂による網膜下出血をきたすことがあると報告されている.今回筆者らはASの経過観察中に外傷などの誘因なく両眼性に新たな線条形成と網膜下出血をきたした症例を経験した.症例:59歳,男性.左眼矯正視力0.8.約2カ月前からの左眼変視を主訴に関西医科大学附属滝井病院眼科初診となった.両眼に視神経乳頭からその周囲へ黒褐色の線条が地割れ様に赤道部に向かって放射状に伸びておりASと診断された.初診から6年後の定期受診時,左眼矯正視力は0.7で自覚症状に変化はなかったが,両眼に新たな色素線条の出現とその走行に一致した網膜下出血を認めた.考察と結論:外傷の既往なく網膜下出血をきたしたASの症例を経験した.本症例では外傷以外の何らかの原因により後極部が伸展され,Bruch膜に亀裂が入りその深部の脆弱化した脈絡膜毛細血管から出血したものと考えられた.Purpose:Angioidstreaks(AS)arecausedbycracksinthecollagenousandelasticlayersofBruch’smembrane.WereportacaseofASshowingtheformationofnewstreakswithsubretinalhemorrhage(SRH)inbotheyes,andnohistoryofblunttrauma.Case:A59-year-oldmalewasadmittedtoourcliniccomplainingofdeterioratedvisioninhislefteye.Funduscopicexaminationrevealedirregulardarkredlinesradiatingtowardtheretinalperipheryinbotheyes;thepatientwasdiagnosedwithAS.Sixyearsafterhisfirstvisit,newstreakswithSRHappearedinbotheyes,withouthistoryoftrauma.Discussion:PatientswithASarereportedlypronetodevelopSRHafteroculartrauma,duetothefragilityofthechoriocapillaries;ourpatient,however,hadnohistoryoftrauma.ThiscasedemonstratesthatnewstreakswithSRHcanoccurinASpatientswithouttraumatichistory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1717.1721,2014〕Keywords:網膜色素線条,網膜下出血,自然経過.angioidstreaks,subretinalhemorrhage,naturalcourse.はじめに網膜色素線条(angioidstreaks:AS)は,1889年にDoyneにより初めて報告された1),全身の弾性線維の変性を生じる全身系統的疾患であり,弾力線維性仮性黄色腫2)やPaget病3,4)との関連が報告されている.眼合併症としては,視神経乳頭から周辺部に向かって放射状に不規則な茶褐色の線条が認められる疾患である.病理学的にはBruch膜の構成成分である弾性線維にカルシウムが沈着しBruch膜全体が肥厚して断裂している5).ASではしばしば脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)を伴うことがある.またASはBruch膜が脆弱であるため外傷により容易にBruch膜の断裂による網膜下出血をきたすことがある6).ASは通常無症候性であることが多く,検診などにより偶然見つけられることも多いが,これらの合併症をきたすと重篤な視力低下につがることがある.頭部外傷を受けたAS患者のうち15%に網膜下出血による著明な視力低下を認めたと報告〔別刷請求先〕小池直子:〒570-8507大阪府守口市文園町10-15関西医科大学附属滝井病院眼科Reprintrequests:NaokoKoike,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,10-15Fumizono-cho,Moriguchi,Osaka570-8507,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(151)1717 されている7).今回筆者らはASの経過観察中に外傷などの誘因なく両眼性に新たな線条形成と網膜下出血をきたした症例を経験したので報告する.I症例患者:59歳,男性.初診日:平成19年4月9日.主訴:左眼変視.現病歴:約2カ月前からの左眼変視を主訴に関西医科大学附属滝井病院眼科(以下当科)初診となった.既往歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼0.9(1.2×sph+0.5D(cyl.1.0DAx90°),左眼0.4(0.8×sph+0.5D(cyl.1.0DAx95°).眼圧は右眼16mmHg,左眼14mmHgであった.眼底検査で両眼に視神経乳頭からその周囲へ黒褐色の線条が地割れ様に赤道部に向かって放射状に伸びていた.左眼には網膜下出血を伴うCNVを認め,梨地状眼底と思われる後極部から赤道部の眼底の色調異常を認めた(図1).蛍光眼底造影(fluoresceinangiography:FA)では,両眼とも早期から線条の部はwindowdefectによる過蛍光を示した.左眼には網膜下出血による蛍光ブロックと中心窩にclassicCNVの所見を認めた(図2).光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では左眼に2型CNVの所見とわずかに漿液性網膜.離を認めた.右眼には異常所見は認めなかった(図3).経過:検査所見よりASと診断し,左眼CNVに対し光線力学的療法を2回施行し2カ月後にはCNVは瘢痕化し,左眼矯正視力は0.4で安定した.その後左眼は経過良好であったが,初診から14カ月後右眼に漿液性網膜.離を伴うCNVが出現した.この際の右眼矯正視力は0.9であった.当院倫理委員会承認のもとで患者の同意を得て,右眼にベバシズマブ硝子体内投与を2回,ラニビズマブ硝子体内投与を3回施行し,滲出は停止したため,経過観察を行った.初診から3年後の矯正視力は右眼0.7,左眼0.5であった.初診から6年後,平成25年4月15日の定期受診時,矯正視力は右眼1.5,左眼0.7で自覚症状に変化はなかったが,両眼に新たな色素線条の出現とその走行に一致した網膜下出血を認めた.頭部外傷や眼球打撲の既往はなかった.新たな色素線条はCNVに連なるか,視神経乳頭から放射状に数カ所認められた(図4).FAでは両眼に網膜下出血による蛍光ブロックと黄斑部に線維瘢痕化したCNVによる過蛍光を認めた.新たな線条はFAでははっきりしなかった(図5).OCTでは網膜下出血の高反射を認めたが,線条そのものは描出されなかった(図6).出血から3カ月後,両眼とも網膜下出血は消退し,出血のあった部位に線条が確認された(図7).最終経過観察時の矯正視力は右眼1.5,左眼0.8であった.II考按現在までにASに網膜下出血を発症した症例は報告されているが,その多くは眼球への鈍的直達外傷が誘因となったものである6,8,9).Pandolfoらは,初めて眼球への直達外傷でなく左側頭部の打撲により網膜下出血をきたした症例を報告した10).また,受傷の程度についてはボールによる眼球打撲およびおよび喧嘩での打撲といった重度のものが報告されていたが6,8.10),その後Alpayらは,頭部の比較的軽微な外傷により網膜下出血をきたし視力低下につながった症例を報告している11).どの症例においても間接的あるいは直接的な外傷ab図1初診時眼底a:右眼.視神経乳頭からその周囲へ黒褐色の線条が地割れ様に赤道部に向かって放射状に伸びていた(矢印).b:左眼.地割れ様の線条(矢印)と梨地状眼底を認めた.黄斑部には網膜下出血を伴う脈絡膜新生血管(CNV)を認めた.1718あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(152) abcdabcd図2初診時蛍光眼底造影(FA)a:右眼FA早期.線条の部はwindowdefectによる過蛍光を示した.b:右眼FA後期.線条部の過蛍光を認めた.c:左眼FA早期.線条の部はwindowdefectによる過蛍光を示した.網膜下出血による蛍光ブロックと中心窩に境界鮮明なCNVによる過蛍光を認めた.d:左眼FA後期.CNVからの蛍光漏出を認めた.ab図3初診時光干渉断層計(OCT)a:右眼.異常所見は認めなかった.b:左眼.網膜下に高反射を示すCNV所見とわずかに網膜.離を認めた.が誘因となっており本症例のように外傷の誘因なく発生したある10).このため,たとえごく初期のASであっても,またものはなかった.また,現在までの報告では出血の程度は症ごく軽微な外傷であっても網膜下出血による著明な視力低下例によりさまざまであった.色素線条に沿って多発性にみらをきたす可能性があることを指摘している10).本症例では外れたもの8)から視神経乳頭周囲に広範囲に認めたもの6,10,11)傷の既往がないことから,その原因を明らかにするのは困難もあった.ASにおいて外傷により網膜下出血が発症する機ではあるが,たとえば,痒みのため眼を強く擦った,就寝時序については明らかにされていないが,ASではBruch膜のの腹臥位による眼球の圧迫,怒責によるValsalva刺激など変性により脈絡膜毛細血管板が脆弱化しているという報告がにより眼底後極部が伸展され,そのためにBruch膜に亀裂(153)あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141719 abab図4初診から6年後の眼底a:右眼,b:左眼.両眼とも新たな色素線条の出現と網膜下出血を認めた(矢印).abcd図5初診から6年後のFAa:右眼早期,b:右眼後期,c:左眼早期,d:左眼後期.両眼とも網膜下出血による蛍光ブロックと黄斑部の線維瘢痕化したCNVの組織染による過蛍光を認めた.新たな線条は明瞭ではなかった.が入り,その深部の脆弱化した脈絡膜毛細血管から出血が発見がごく軽度のものであっても,また外傷の誘因がなくても生したものと思われる.網膜下出血の出現による視力低下をきたす可能性があるので以上,筆者らは外傷の既往なく新たな線条の出現と網膜下注意を要する.出血をきたしたASの症例を経験した.ASではその眼底所1720あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(154) ba図6初診から6年後のOCTa:右眼,b:左眼.両眼とも網膜下出血の高反射を認めた.その深部に線条そのものは描出されなかった.ab図7出血吸収後(3カ月後)の眼底a:右眼,b:左眼.両眼とも網膜下出血は吸収し,出血のあった部位に線条を認めた(矢印).文献1)DoyneRW:Choroidalandretinalchanges.Theresultsofblowsontheeyes.TransOphthalmolSocUK9:128,18892)ConnorPJJr,JuergensJL,PerryHOetal:Pseudoxanthomaelasticumandangioidstreaks.Areviewof106cases.AmJMed30:537-543,19613)DabbsTR,SkjodtK:PrevalenceofangioidstreaksandotherocularcomplicationsofPaget’sdiseaseofbone.BrJOphthalmol74:579-582,19904)GassJD,ClarksonJG:AngioidstreaksanddisciformmaculardetachmentinPagetsdisease(osteitisdeformans).AmJOphthalmol75:576-586,19735)猪俣猛:網膜色素線条と弾性線維性仮性黄色腫.眼の組織・病理アトラス(猪俣猛編・著),p318-319,医学書院,20016)BrittenMJ:Unusualtraumaticretinalhaemorrhagesassociatedwithangioidstreaks.BrJOphthalmol50:540542,19667)GeorgalasI,PapaconstaninouD,KoutsandreaCetal:Angioidstreaks,clinicalcourse,complications,andcurrenttherapeuticmanagement.TherClinRiskManag5:81-89,20098)LevinDB,BellDK:Traumaticretinalhemorrhageswithangioidstreaks.ArchOphthalmol95:1072-1073,19779)TurutP,MalthieuD,CourtinJ:Neovascularchoroidmembraneandtraumaticchoroidruptureinapatientwithangioidstreaks[inFrench].BullSocOphtalmolFr82:591-594,198210)PandolfoA,VerrastroG,PiccolinoFC:Retinalhemorrhagesfollowingindirectoculartraumainapatientwithangioidstreaks.Retina22:830-831,200211)AlpayA,CaliskanS:Subretinalhemorrhageinasoccerplayer:acasereportofangioidstreaks.ClinJSportMed20:391-392,2010(155)あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141721