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強度近視網膜分離症の硝子体手術成績と自然経過

2017年10月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(10):1459~1464,2017強度近視網膜分離症の硝子体手術成績と自然経過岩崎将典木下貴正宮本寛知今泉寛子市立札幌病院眼科CSurgicalOutcomeandNaturalCourseofRetinoschisisinHighlyMyopicEyesMasanoriIwasaki,TakamasaKinoshita,HirotomoMiyamotoandHirokoImaizumiCDepartmentofOphthalmology,SapporoCityGeneralHospital強度近視網膜分離症C20例C23眼について,内境界膜(ILM).離併用C25ゲージ(G)硝子体手術を行ったCPPV群(16眼)と未施行の経過観察群(7眼)に分けて,レトロスペクティブに治療成績を比較検討した.PPV群はベースライン小数視力C0.28であったが,最終視力C0.39となり有意に改善した(p=0.035).経過観察群ではベースライン小数視力C0.46が最終視力C0.43と有意な変化はみられなかった.最終受診時の中心窩網膜厚はCPPV群C143.1C.m,経過観察群460.3C.mとCPPV群のほうが有意に小さかった(p=0.0003).ILM完全.離を施行したC11眼中C3眼に術後黄斑円孔網膜.離が発症したが,中心窩CILMを残す術式(FSIP)を施行したC5眼には術後全層円孔が生じなかった.強度近視網膜分離症に対しCILM.離を併用した硝子体手術が視力や中心窩網膜厚の改善に有用であった.中心窩が菲薄化している症例ではCFSIPで術後全層円孔を予防する必要がある.Westudied23eyesof20patientswithmyopicretinoschisis(RS)C.Vitrectomywithinternallimitingmembrane(ILM)peelingCwasCperformedCinC16Ceyes;7CeyesCwereConlyCobserved.CTheCmeanCdecimalCbest-correctedCvisualacuity(BCVA)intheoperatedgroupsigni.cantlyimprovedfrom0.28(baseline)to0.39(.nalvisit;p=0.035)C,buttheCmeanCBCVACinCtheCnon-operatedCgroupCdidCnotCchangeCsigni.cantlyCduringCfollow-up.CTheCcentralCretinalthickness(CRT)intheoperatedgroupwassigni.cantlysmallerthanthatinthenon-operatedgroupat.nalvisit(143.1C.mand460.3C.m,respectively,p=0.0003)C.Macularholeretinaldetachmentdevelopedin3ofthe11eyesthatunderwentcompleteILMpeelingaftersurgery.Nomacularcomplicationsdevelopedin5eyesthatunderwentfovea-sparingILMpeeling(FSIP)C.TheseresultssuggestthatvitrectomywithILMpeelingimprovesvisualacuityandCRTineyeswithRS,andthatFSIPshouldbeperformedtopreventmacularcomplications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(10):1459~1464,C2017〕Keywords:網膜分離症,強度近視,黄斑円孔網膜.離,硝子体手術,自然経過.retinoschisis,highmyopia,mac-ularholeretinaldetachment,vitrectomy,naturalcourse.Cはじめに強度近視網膜分離症はC1958年にCPhillipsらによって黄斑円孔のない後極部網膜.離として初めて報告された1).その後,光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomography:OCT)の開発によりその詳細な病態が報告されており2,3),強度近視眼における視力障害のおもな原因の一つとされている4).OCTでは網膜分離は網膜内層と外層が裂けた状態として認められるが,時間の経過とともに中心窩.離(fovealdetach-ment:FD),そして黄斑円孔網膜.離(macularholereti.naldetachment:MHRD)へと進行することが報告された5).治療法としては硝子体手術が広く行われており,内境界膜(internalClimitingCmembrane:ILM).離を併施することで網膜の伸展性が改善し,網膜の復位が得られるとの報告6)や,中心窩再.離が起きず最終視力も有意に改善したとの報告7,8)もあり,網膜分離症に対する有効性が示されている.さらに最近では,中心窩のCILMは.離せず,その周りをドーナツ状に.離する方法(foveaCsparingCILMCpeeling:FSIP)を行うことで術後全層円孔を予防する方法9)も報告されている.一方,自然経過において視力やCOCT所見があまり変化しないとの報告9)もあるため,一定の見解が得られて〔別刷請求先〕岩崎将典:〒060-8604北海道札幌市中央区北C11条西C13丁目C1-1市立札幌病院眼科Reprintrequests:MasanoriIwasaki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoCityGeneralHospital,1-1Nishi13-Chome,Kita11Jo,Chuo-ku,SapporoHokkaido060-8604,JAPANいない.今回筆者らは市立札幌病院眼科を受診した強度近視網膜分離症例について,ILM.離を併用した硝子体手術を行ったCPPV群と,手術が行われなかった経過観察群とに分けて比較検討した.CI対象および方法2010年C4月~2016年C3月のC6年間に市立札幌病院眼科においてCOCTで強度近視網膜分離症と診断されC6カ月以上の自然経過を追えたC6例C7眼,および術後C6カ月以上の経過観察が可能であったC14例C16眼の計C20例C23眼を対象とした.強度近視の定義は,近視研究会がC2016年に示した等価球面値が-6.0D以上,または眼軸長C26.0Cmm以上に従った.視力に影響のある角膜混濁,弱視,中心窩を含む斑状網脈絡膜萎縮,黄斑円孔のある例は除外した.全症例の臨床経過を表1と表2に示す.男性C3例C5眼,女性C17例C18眼と女性が多く,平均年齢はC71.0C±8.9歳(54~83歳),平均観察期間はC30.2カ月(8~72カ月),ベースライン平均眼圧はC15.8C±2.5CmmHg(10~20mmHg)であった.有水晶体眼C18眼の平均等価球面屈折値はC-14.8±4.5D(C-5.9~C-22.3D)であった.眼軸長を測定したC18眼の平均眼軸長はC29.1C±1.5Cmm(26.6~30.8Cmm)であった.網膜分離以外の黄斑部併発病変は,網膜前膜C14眼(60.9%),分層円孔C10眼(43.5%),中心窩.離C8眼(34.8%)であった.経過中に硝子体手術を施行したCPPV群がC14例C16眼,手術を施行せず自然経過をみた経過観察群がC6例C7眼であった.これらの症例に対し視力測定や後極部のCOCT撮影をベースライン,3,C6,C12カ月後と最終受診時に施行した.また中心窩を通るCOCT水平断におけるCILMから網膜色素上皮の内縁までの距離を中心窩網膜厚(centralCretinalCthick.ness:CRT)と定義し,マニュアルキャリパー機能を用いて測定した.硝子体手術は全例C25ゲージシステムにより実施した.黄斑部の網膜前膜や硝子体皮質を除去し,全例でトリアムシノロンアセトニドもしくはブリリアントブルーCG(brilliantblueCG:BBG)を用いたCILM.離を併用した.ILM.離はILMを中心窩に残さない完全.離がC11眼,中心窩部分のILMを残す術式(FSIP)がC5眼であった.初回手術時にガスタンポナーデはC9眼に行った.内訳は空気がC2眼,20%CSFC6がC6眼,12%CSFC6がC1眼であった.有水晶体眼のC11眼には水晶体超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を併施した.これらの症例を,硝子体手術を施行したCPPV群と施行しなかった経過観察群に分けて,視力やCCRT,OCT所見に着目しレトロスペクティブに分析検討した.小数視力はすべてlogMAR値に換算して統計解析を行った.p<0.05を有意とした.CII結果両群間においてベースラインの視力,眼圧,性別,年齢,有水晶体眼の等価球面屈折値に統計学的な有意差は認めなかった(p≧0.05,FisherC’sCexactCtest,CMann-WhitneyCUCtest).視力について,PPV群ではベースラインの平均ClogMARは0.56(小数視力C0.28)であったが,最終C0.41(0.39)となり有意に改善した(p=0.035,Wilcoxonsigned-ranktest).一方,経過観察群ではベースラインの平均ClogMARはC0.33(0.46)であり,最終C0.36(0.43)と有意差はなかった(表3).また,ベースラインと最終視力を比較してClogMAR0.2以上の変化を改善もしくは悪化と定義した場合,表4に示すようにPPV群のほうが,最終視力が良好な傾向があった(p=0.067,Mann-WhitneyUtest).それぞれの群のCCRTの推移を図1に示す.ベースラインの平均CRTはPPV群518.9.m,経過観察群C335.1.mとPPV群のほうが大きい傾向がみられた(p=0.06,Mann-Whit.neyCUCtest).PPV群では術後C3カ月以降,有意にCCRTが減少した(p<0.01,WilcoxonCsigned-rankCtest).一方,経過観察群では有意なCCRTの変化はみられなかった.最終CRTはCPPV群C143.1C.m,経過観察群C460.3C.mとCPPV群のほうが有意に小さかった(p=0.0003,Mann-WhitneyCUtest).PPV群において全例で術中合併症は認めなかった.術後合併症はCMHRDをC3眼(18.8%)に認め,すべて初回手術後2週間以内に発症した.これらC3眼は術前からCFDを併発していた(図2).このうちのC1眼(6.3%)はCCC3F8ガスタンポナーデを用いた再手術で網膜は復位し,黄斑円孔は閉鎖した.残りのC2眼はシリコーンオイルタンポナーデを用いた再手術を施行し,約C1年後にシリコーンオイルを抜去した.このうちC1眼はシリコーンオイル除去時に黄斑プロンベ縫着を併施した.これらC2眼はともに網膜の復位を得たが,黄斑円孔は残存した.FSIPを施行したC5眼について,術後C6カ月までの経過の1眼に網膜分離の残存を認めているが,残りC4眼はすべて網膜分離が消失し黄斑円孔も発生しなかった.ベースラインの平均小数視力はC0.46であったが,最終C0.69と改善した.ベースラインの平均CCRTはC528.8C.mであったが,最終C149.0.mと有意に減少した(p=0.04,CWilcoxonCsigned-rankCtest).FSIPを施行した代表症例を図3に示す.術前は網膜分離と大きなCFDを認めていた.FSIPを併用した硝子体手術を施行し20%SFC6ガス置換とした.術後C2週間で網膜分離やFDは消失し術後C12カ月まで網膜分離の再燃なく最終視力(1.0)であった.最終COCT所見は,PPV群ではC15眼(93.8%)で網膜分離は消失し,1眼(6.3%)で網膜分離が残存した.網膜分離消表1PPV群の臨床経過ベースラインフォローアップC分離等価球面眼軸CRT観察最終最終C消失No.性別年齢視力屈折値長C(.m)COCT期間ILM.離ガス術後合併症出現時期・内容・手術視力CRT最終COCT期間(.m)(月)C1CMC78C0.6CIOLC30.8C1281CRSFDERMC15CFSIP20%CSFC6なしC1.0C85RS(-)MH(-)C0.5C2CMC78C0.6CIOLC30.5C166RS分層円孔C15CFSIP20%CSFC6なしC0.5C112RS(-)MH(-)C7C3CFC71C0.4C-17.9C30.3C399RS分層円孔ERMC17CFSIP12%CSFC6なしC0.9C250CRSC4CFC66C0.2CIOLC27.3C505RS分層円孔C10CFSIP20%CSFC6なしC0.6C178RS(-)MH(-)C10C5CFC74C0.7CIOLC28.2C293CRSFDERMC16CFSIPCAIRなしC0.6C120RS(-)MH(-)C16C6CFC83C0.1C-10.3C27.8C699CRSFDC29完全.離なしなしC0.09C188RS(-)MH(-)C6C2Cw後CMHRDPPV2+C3F812%7CFC67C0.15C-5.9C28.7C1014RSFD分層円孔ERMC18完全.離なし1M後CMHRDPPV3+SO0.09CMHC2C11M後CPPV4+SO抜去+黄斑プロンベC8CFC66C0.15CIOLC28.7C368CRSERMC29完全.離CAIRなしC0.15C80RS(-)MH(-)C7C2w後CMHRDでCPPV2+SO9CFC70C0.1C-22.3C30.7C475CRSFDC72完全.離20%CSFC612M後CPPV3+SO抜去C0.1CMHC23C10FC760.5C-10.5C30.4C377RS分層円孔ERMC12完全.離なしなしC1.0C169RS(-)MH(-)C5C11FC790.2C-10.9C26.6C529CRSC25完全.離なしなしC0.6C124RS(-)MH(-)C8C12FC790.2C-13.4C27.4C433CRSC25完全.離なしなしC0.5C116RS(-)MH(-)C14C13CFC790.1C-11.1C26.6C421RSFD分層円孔C50完全.離20%CSFC6なしC0.2C92RS(-)MH(-)C8C14FC560.6C-17.6C30.8C411RS分層円孔ERMC31完全.離20%CSFC6なしC0.4C122RS(-)MH(-)C11C15FC650.4C-14.4C29.5C310RS分層円孔ERMC8完全.離なしなしC1.0C184RS(-)MH(-)C7C16MC540.6C-19.5C29.9C621CRSFDERMC12完全.離なし2w後CMHRD+RS0.7C183RS(-)MH(-)C11100%CCC3F8硝子体注射C平均値C71.3C0.28C-14.0C29.0C518.9C24.0C0.39C143.1C9.0M:male,男性,F:female,女性,IOL:intraocularlens眼内レンズ挿入眼.RS:retinoschisis網膜分離,ERM:epiretinalmembrane網膜前膜,FD:fovealdetachment網膜.離,MH:macularhole黄斑円孔,MHRD:macularholeretinaldetachment黄斑円孔網膜.離,SO:siliconeoilシリコーンオイル,FSIP:foveasparingILMpeeling.表2経過観察群の臨床経過ベースラインフォローアップCNo.性別年齢視力等価球面屈折値眼軸CCRT(C.m)COCT観察期間最終視力最終CCRT(C.m)最終COCTC17C18C19C20C21C22C23CFCFCFCFCMCMCFC82C60C69C54C78C78C67C0.4C0.6C0.4C0.4C0.3C0.8C0.5C-13.0C-21.8-19.0-11.3-14.0-17.0-17.429.6C未測定C未測定C未測定C未測定C未測定C未測定C268C487302413409191276CRSCRS分層円孔ERMCRS分層円孔ERMCRSERMCRSFDERMCRSERMCRSC32C60C24C70C44C44C37C0.5C0.4C0.4C0.8C0.15C0.5C0.6C429C520349511369734310CRSCRS分層円孔ERMCRS分層円孔ERMCRSERMCRSFDERMCRS分層円孔CERMCVMTSCRSC7C69.7C0.46C-16.2C29.6C335.1C44.4C0.43C460.3M:male男性,F:female女性.RS:retinoschisis網膜分離,ERM:epiretinalCmembrane網膜前膜,FD:fovealCdetachment網膜.離,VMTS:vitreomacularCtrac.tionsyndrome.表3ベースラインと最終受診時の平均視力ベースライン最終受診時p値平均観察期間(月)平均ClogMAR0.560.410.035*PPV群(n=16)小数視力(範囲)C0.28(0.1~0.7)C0.39(0.09~1.0)C24.0平均ClogMAR0.330.36経過観察群(n=7)小数視力(範囲)C0.46(0.3~0.8)C0.43(0.15~0.8)C0.675C44.4*CPPV群の最終視力はベースラインと比較して有意に改善した.Wilcoxonsigned-ranktest,p<0.05.表4ベースラインと最終受診時の視力変化改善不変悪化PPV群(n=16)8眼(50.0%)C7眼(43.8%)C1眼(6.3%)Cp=0.067*経過観察群(n=7)C1眼(14.3%)C4眼(57.1%)C2眼(28.6%)ベースラインと比較しClogMAR0.2以上の変化を改善,もしくは悪化と定義した.*CPPV群のほうが視力予後良好な傾向があった.Mann-WhitneyUtest.失までに要した期間は平均C9.0カ月であった.また,2眼(11.8%)で黄斑円孔が残存した.一方,経過観察群ではC7眼中C7眼(100%)がC2年以上経過した後にも網膜分離が残存していた.CIII考按強度近視網膜分離症はしばしば緩徐な経過をたどるが,平均C31.2カ月でC68.9%が視力低下したとの報告5)や,平均15.7カ月の観察期間でC28.5%が視力低下や変視にて手術を必要としたとの報告11)もある.また,自然経過において網膜分離が改善することは少なく,徐々に網膜分離は広範囲に広がり分離の程度も悪化してゆく.その後しばしばCMHRDに進行し,その予後はきわめて不良となる10,12,13).本症例においても経過観察群のうちC2眼(28.6%)はベースラインと比較した最終視力のClogMARはC0.2以上の悪化をきたしていた.これに対し,PPV群において悪化はC1眼(6.3%)のみで,8眼(50.0%)が最終的にClogMARC0.2以上の改善を得た(表4).また,表3に示したようにCPPV群は最終視力も有意に改善した.このように強度近視網膜分離症においてCILM.離を併用した硝子体手術を行うことは視力の改善に有用と思われる.また,網膜分離に対しては経過観察群の全例で平均C44.4カ月後も最終的に網膜分離は残存し,CRTはベースラインのC355.1C.mから最終C460.3C.mとなり,悪化傾向がみられた(p=0.063).一方,PPV群のC15眼(93.8%)で網膜分離は消失しCCRTはベースラインC518.9.mが術後C3カ月で194.4C.mまで有意に改善し,最終的にC143.1C.mとなった.さらに,最終CCRTは経過観察群に比べCPPV群で有意に小さかった(p=0.0003).以上から,ILM.離を併用した硝子体手術は網膜分離を消失,改善させることに有効であり,網平均CRT(.m)PPV群経過観察群500600■400★★300★★200★★1000ベースライン3M6M12M最終n=23n=18*n=21*n=17*n=21*図1中心窩網膜厚(CRT)の推移■ベースラインCCRTはCPPV群のほうが経過観察群より大きい傾向がみられた.p=0.06,Mann-WhitneyUtest.★CPPV群のCCRTはベースラインと比較してC3カ月以降有意に低下した.p<0.01,Wilcoxonsigned-ranktest.★★最終CCRTはCPPV群のほうが経過観察群より有意に小さかった.p=0.0003,Mann-WhitneyUtest.*術後に黄斑円孔が残存したC2眼は除外した.C図3FSIPを施行した代表症例(症例CNo1)上:術前OCT.大きな中心窩.離(★)と網膜分離を認める.中:術後C2週のCOCT.PPV+FSIP+20%CSFC6置換を施行し術後2週で復位した.下:術後C12カ月のCOCT.網膜分離の再燃もなく視力(1.0)であった.C膜分離が持続することによる視力低下を防止することができると考えられた.ただし,硝子体手術には合併症があり,FDがある症例では,とくに術後にCMHRDになる可能性が高いとされてい図2術後にMHRDを生じた3例の術前OCTa:症例CNo9.シリコーンオイル使用するも最終的にCMHが残存した症例.Cb:症例CNo16.CC3F8使用によりCMHは閉鎖した.Cc:症例CNo7.2度CMHRDをきたし黄斑プロンベを施行.最終的に網膜は復位し,MHは残存.★:中心窩.離(FD)を認め中心窩は菲薄化している.このような症例には中心窩のCILMを残す術式(FSIP)が望ましい.Cる14).今回の症例でも術前からCFDを認めていたC7眼中C3眼に術後CMHRDが発生し,これらはすべてCILMを完全.離した症例であった.このうちC2眼は最終的に黄斑円孔が残存した.これら黄斑円孔が残存したC2眼は最終視力も不良であった(表1).このようにCFDに伴い,中心窩の網膜が菲薄化している症例においては,完全なCILM.離は術後に全層円孔を生じる危険性がある.ShimadaらはCFDを併発した強度近視網膜分離症C15眼に対しCFSIPを行うことで術後全層円孔が発生しなかったと報告している9).HoらもC12例の強度近視網膜分離症(うちC7例はCFD併発)にCFSIPを施行した結果,術後全層円孔がC1例もなく,視力低下もなかったと報告している15).今回の検討においても,FSIPを施行した5眼(うちC2眼はCFD併発)は術後全層円孔がみられず,最終視力も全例で(0.5)以上であった.以上から,FDを伴う症例においてはCFSIPを施行することが望ましいと思われた.強度近視網膜分離症に対してCILM.離を併用した硝子体手術を施行し,黄斑形態の改善や,視力およびCCRTの有意な改善を得た.したがって,本術式は強度近視網膜分離症の治療に有用であると思われた.しかしながら,FDを伴い中心窩が菲薄化している症例ではCFSIPによって術後全層円孔を予防する必要がある.本研究は後ろ向き検討であり,症例数も少ないため,今後のさらなる検討が必要と思われる.文献1)PillipsCCI:RetinalCdetachmentCatCtheCposteriorCpole.CBrJOphthalmolC42:749-753,C19582)TakanoCM,CKishiCS:FovealCretinoschisisCandCretinalCdetachmentinseverelymyopiceyeswithposteriorstaph-yloma.AmJOphthalmolC128:472-476,C19993)BenhamouN,MassinP,HaouchineBetal:MacularretiC-noschisisCinChighlyCmyopicCeyes.CAmCJCOphthalmolC133:C794-800,C20024)GohilCR,CSivaprasadCS,CHanCLTCetCal:MyopicCfoveoschi-sis:aclinicalreview.EyeC29:593-601,C20155)GaucherCD,CHaouchineCB,CTadayoniCRCetCal:Long-termfollow-upofhighmyopicfoveoschisis:naturalcourseandsurgicaloutcome.AmJOphthalmolC143:455-462,C20076)IkunoCY,CSayanagiCK,COhjiCM:VitrectomyCandCinternalClimitingCmembraneCpeelingCforCmyopicCfoveoschisis.CAmJOphthalmolC137:719-724,C20047)TaniuchiS,HirakataA,ItohYetal:VitrectomywithorwithoutinternallimitingmembranepeelingforeachstageofCmyopicCtractionCmaculopathy.CRetinaC33:2018-2025,C20138)IkunoCY,CSayanagiCK,CSogaCKCetCal:FovealCanatomicalCstatusCandCsurgicalCresultsCinCvitrectomyCforCmyopicCfoveoschisis.JpnJOphthalmolC52:269-276,C20089)ShimadaCN,CSugamotoCY,COgawaCMCetCal:FoveaCsparingCinternalClimitingCmembraneCpeelingCforCmyopicCtractionCmaculopathy.AmJOphthalmolC154:693-701,C201210)ShimadaN,TanakaY,TokoroTetal:NaturalcourseofmyopicCtractionCmaculopathyCandCfactorsCassociatedCwithCprogressionCorCresolution.CAmCJCOphthalmolC156:948.957,C201311)AmandaR,IgunasiJ,XavierMetal:NaturalcourseandsurgicalCmanagementCofChighCmyopicCfoveoschisis.COph.thalmologicaC231:45-50,C201412)島田典明,大野京子:強度近視網膜分離症アップデート.眼科C56:499-504,C201413)廣田和成:強度近視網膜分離症の手術適応.眼科C56:C1433-1437,C201414)HirakataA,HidaT:Vitrectomyformyopicposteriorret.inoschisisCorCfovealCdetachment.CJpnCJCOphthalmolC50:C53-61,C200615)HoCT,CYangCM,CHuangCJCetCal:Long-termCoutcomeCofCfoveolarCinternalClimitingCmembraneCnonpeelingCforCmyo.pictractionmaculopathy.RetinaC34:1833-1840,C2014***

網膜下出血を伴って新たな線条が出現した網膜色素線条の1例

2014年11月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科31(11):1717.1721,2014c網膜下出血を伴って新たな線条が出現した網膜色素線条の1例小池直子*1尾辻剛*1正健一郎*1津村晶子*1西村哲哉*1髙橋寛二*2*1関西医科大学附属滝井病院眼科*2関西医科大学附属枚方病院眼科AcuteNewStreakFormationinPatientwithRetinalAngioidStreakswithoutOcularTraumaNaokoKoike1),TsuyoshiOtsuji1),KenichiroSho1),AkikoTsumura1),TetsuyaNishimura1)andKanjiTakahashi2)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,HirakataHospital目的:網膜色素線条(angioidstreaks:AS)はBruch膜が脆弱であるため軽微な外傷により容易にBruch膜の断裂による網膜下出血をきたすことがあると報告されている.今回筆者らはASの経過観察中に外傷などの誘因なく両眼性に新たな線条形成と網膜下出血をきたした症例を経験した.症例:59歳,男性.左眼矯正視力0.8.約2カ月前からの左眼変視を主訴に関西医科大学附属滝井病院眼科初診となった.両眼に視神経乳頭からその周囲へ黒褐色の線条が地割れ様に赤道部に向かって放射状に伸びておりASと診断された.初診から6年後の定期受診時,左眼矯正視力は0.7で自覚症状に変化はなかったが,両眼に新たな色素線条の出現とその走行に一致した網膜下出血を認めた.考察と結論:外傷の既往なく網膜下出血をきたしたASの症例を経験した.本症例では外傷以外の何らかの原因により後極部が伸展され,Bruch膜に亀裂が入りその深部の脆弱化した脈絡膜毛細血管から出血したものと考えられた.Purpose:Angioidstreaks(AS)arecausedbycracksinthecollagenousandelasticlayersofBruch’smembrane.WereportacaseofASshowingtheformationofnewstreakswithsubretinalhemorrhage(SRH)inbotheyes,andnohistoryofblunttrauma.Case:A59-year-oldmalewasadmittedtoourcliniccomplainingofdeterioratedvisioninhislefteye.Funduscopicexaminationrevealedirregulardarkredlinesradiatingtowardtheretinalperipheryinbotheyes;thepatientwasdiagnosedwithAS.Sixyearsafterhisfirstvisit,newstreakswithSRHappearedinbotheyes,withouthistoryoftrauma.Discussion:PatientswithASarereportedlypronetodevelopSRHafteroculartrauma,duetothefragilityofthechoriocapillaries;ourpatient,however,hadnohistoryoftrauma.ThiscasedemonstratesthatnewstreakswithSRHcanoccurinASpatientswithouttraumatichistory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1717.1721,2014〕Keywords:網膜色素線条,網膜下出血,自然経過.angioidstreaks,subretinalhemorrhage,naturalcourse.はじめに網膜色素線条(angioidstreaks:AS)は,1889年にDoyneにより初めて報告された1),全身の弾性線維の変性を生じる全身系統的疾患であり,弾力線維性仮性黄色腫2)やPaget病3,4)との関連が報告されている.眼合併症としては,視神経乳頭から周辺部に向かって放射状に不規則な茶褐色の線条が認められる疾患である.病理学的にはBruch膜の構成成分である弾性線維にカルシウムが沈着しBruch膜全体が肥厚して断裂している5).ASではしばしば脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)を伴うことがある.またASはBruch膜が脆弱であるため外傷により容易にBruch膜の断裂による網膜下出血をきたすことがある6).ASは通常無症候性であることが多く,検診などにより偶然見つけられることも多いが,これらの合併症をきたすと重篤な視力低下につがることがある.頭部外傷を受けたAS患者のうち15%に網膜下出血による著明な視力低下を認めたと報告〔別刷請求先〕小池直子:〒570-8507大阪府守口市文園町10-15関西医科大学附属滝井病院眼科Reprintrequests:NaokoKoike,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,10-15Fumizono-cho,Moriguchi,Osaka570-8507,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(151)1717 されている7).今回筆者らはASの経過観察中に外傷などの誘因なく両眼性に新たな線条形成と網膜下出血をきたした症例を経験したので報告する.I症例患者:59歳,男性.初診日:平成19年4月9日.主訴:左眼変視.現病歴:約2カ月前からの左眼変視を主訴に関西医科大学附属滝井病院眼科(以下当科)初診となった.既往歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼0.9(1.2×sph+0.5D(cyl.1.0DAx90°),左眼0.4(0.8×sph+0.5D(cyl.1.0DAx95°).眼圧は右眼16mmHg,左眼14mmHgであった.眼底検査で両眼に視神経乳頭からその周囲へ黒褐色の線条が地割れ様に赤道部に向かって放射状に伸びていた.左眼には網膜下出血を伴うCNVを認め,梨地状眼底と思われる後極部から赤道部の眼底の色調異常を認めた(図1).蛍光眼底造影(fluoresceinangiography:FA)では,両眼とも早期から線条の部はwindowdefectによる過蛍光を示した.左眼には網膜下出血による蛍光ブロックと中心窩にclassicCNVの所見を認めた(図2).光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では左眼に2型CNVの所見とわずかに漿液性網膜.離を認めた.右眼には異常所見は認めなかった(図3).経過:検査所見よりASと診断し,左眼CNVに対し光線力学的療法を2回施行し2カ月後にはCNVは瘢痕化し,左眼矯正視力は0.4で安定した.その後左眼は経過良好であったが,初診から14カ月後右眼に漿液性網膜.離を伴うCNVが出現した.この際の右眼矯正視力は0.9であった.当院倫理委員会承認のもとで患者の同意を得て,右眼にベバシズマブ硝子体内投与を2回,ラニビズマブ硝子体内投与を3回施行し,滲出は停止したため,経過観察を行った.初診から3年後の矯正視力は右眼0.7,左眼0.5であった.初診から6年後,平成25年4月15日の定期受診時,矯正視力は右眼1.5,左眼0.7で自覚症状に変化はなかったが,両眼に新たな色素線条の出現とその走行に一致した網膜下出血を認めた.頭部外傷や眼球打撲の既往はなかった.新たな色素線条はCNVに連なるか,視神経乳頭から放射状に数カ所認められた(図4).FAでは両眼に網膜下出血による蛍光ブロックと黄斑部に線維瘢痕化したCNVによる過蛍光を認めた.新たな線条はFAでははっきりしなかった(図5).OCTでは網膜下出血の高反射を認めたが,線条そのものは描出されなかった(図6).出血から3カ月後,両眼とも網膜下出血は消退し,出血のあった部位に線条が確認された(図7).最終経過観察時の矯正視力は右眼1.5,左眼0.8であった.II考按現在までにASに網膜下出血を発症した症例は報告されているが,その多くは眼球への鈍的直達外傷が誘因となったものである6,8,9).Pandolfoらは,初めて眼球への直達外傷でなく左側頭部の打撲により網膜下出血をきたした症例を報告した10).また,受傷の程度についてはボールによる眼球打撲およびおよび喧嘩での打撲といった重度のものが報告されていたが6,8.10),その後Alpayらは,頭部の比較的軽微な外傷により網膜下出血をきたし視力低下につながった症例を報告している11).どの症例においても間接的あるいは直接的な外傷ab図1初診時眼底a:右眼.視神経乳頭からその周囲へ黒褐色の線条が地割れ様に赤道部に向かって放射状に伸びていた(矢印).b:左眼.地割れ様の線条(矢印)と梨地状眼底を認めた.黄斑部には網膜下出血を伴う脈絡膜新生血管(CNV)を認めた.1718あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(152) abcdabcd図2初診時蛍光眼底造影(FA)a:右眼FA早期.線条の部はwindowdefectによる過蛍光を示した.b:右眼FA後期.線条部の過蛍光を認めた.c:左眼FA早期.線条の部はwindowdefectによる過蛍光を示した.網膜下出血による蛍光ブロックと中心窩に境界鮮明なCNVによる過蛍光を認めた.d:左眼FA後期.CNVからの蛍光漏出を認めた.ab図3初診時光干渉断層計(OCT)a:右眼.異常所見は認めなかった.b:左眼.網膜下に高反射を示すCNV所見とわずかに網膜.離を認めた.が誘因となっており本症例のように外傷の誘因なく発生したある10).このため,たとえごく初期のASであっても,またものはなかった.また,現在までの報告では出血の程度は症ごく軽微な外傷であっても網膜下出血による著明な視力低下例によりさまざまであった.色素線条に沿って多発性にみらをきたす可能性があることを指摘している10).本症例では外れたもの8)から視神経乳頭周囲に広範囲に認めたもの6,10,11)傷の既往がないことから,その原因を明らかにするのは困難もあった.ASにおいて外傷により網膜下出血が発症する機ではあるが,たとえば,痒みのため眼を強く擦った,就寝時序については明らかにされていないが,ASではBruch膜のの腹臥位による眼球の圧迫,怒責によるValsalva刺激など変性により脈絡膜毛細血管板が脆弱化しているという報告がにより眼底後極部が伸展され,そのためにBruch膜に亀裂(153)あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141719 abab図4初診から6年後の眼底a:右眼,b:左眼.両眼とも新たな色素線条の出現と網膜下出血を認めた(矢印).abcd図5初診から6年後のFAa:右眼早期,b:右眼後期,c:左眼早期,d:左眼後期.両眼とも網膜下出血による蛍光ブロックと黄斑部の線維瘢痕化したCNVの組織染による過蛍光を認めた.新たな線条は明瞭ではなかった.が入り,その深部の脆弱化した脈絡膜毛細血管から出血が発見がごく軽度のものであっても,また外傷の誘因がなくても生したものと思われる.網膜下出血の出現による視力低下をきたす可能性があるので以上,筆者らは外傷の既往なく新たな線条の出現と網膜下注意を要する.出血をきたしたASの症例を経験した.ASではその眼底所1720あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(154) ba図6初診から6年後のOCTa:右眼,b:左眼.両眼とも網膜下出血の高反射を認めた.その深部に線条そのものは描出されなかった.ab図7出血吸収後(3カ月後)の眼底a:右眼,b:左眼.両眼とも網膜下出血は吸収し,出血のあった部位に線条を認めた(矢印).文献1)DoyneRW:Choroidalandretinalchanges.Theresultsofblowsontheeyes.TransOphthalmolSocUK9:128,18892)ConnorPJJr,JuergensJL,PerryHOetal:Pseudoxanthomaelasticumandangioidstreaks.Areviewof106cases.AmJMed30:537-543,19613)DabbsTR,SkjodtK:PrevalenceofangioidstreaksandotherocularcomplicationsofPaget’sdiseaseofbone.BrJOphthalmol74:579-582,19904)GassJD,ClarksonJG:AngioidstreaksanddisciformmaculardetachmentinPagetsdisease(osteitisdeformans).AmJOphthalmol75:576-586,19735)猪俣猛:網膜色素線条と弾性線維性仮性黄色腫.眼の組織・病理アトラス(猪俣猛編・著),p318-319,医学書院,20016)BrittenMJ:Unusualtraumaticretinalhaemorrhagesassociatedwithangioidstreaks.BrJOphthalmol50:540542,19667)GeorgalasI,PapaconstaninouD,KoutsandreaCetal:Angioidstreaks,clinicalcourse,complications,andcurrenttherapeuticmanagement.TherClinRiskManag5:81-89,20098)LevinDB,BellDK:Traumaticretinalhemorrhageswithangioidstreaks.ArchOphthalmol95:1072-1073,19779)TurutP,MalthieuD,CourtinJ:Neovascularchoroidmembraneandtraumaticchoroidruptureinapatientwithangioidstreaks[inFrench].BullSocOphtalmolFr82:591-594,198210)PandolfoA,VerrastroG,PiccolinoFC:Retinalhemorrhagesfollowingindirectoculartraumainapatientwithangioidstreaks.Retina22:830-831,200211)AlpayA,CaliskanS:Subretinalhemorrhageinasoccerplayer:acasereportofangioidstreaks.ClinJSportMed20:391-392,2010(155)あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141721

眼科的介入のない糖尿病黄斑浮腫の短期経過

2014年10月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(10):1545.1549,2014c眼科的介入のない糖尿病黄斑浮腫の短期経過加藤(堂園)貴保子*1,2棈松泰子*2土居範仁*3鎌田哲郎*4坂本泰二*2*1宮田眼科病院*2鹿児島大学大学院医歯学総合研究科視覚疾患学講座*3慈愛会今村病院分院眼科*4慈愛会今村病院糖尿病内科Short-TermFollow-UpofDiabeticMaculopathywithoutOphthalmicInterventionKihokoKato(Dozono)1,2),YasukoAbematsu2),NorihitoDoi3),TeturoKamata4)andTaijiSakamoto2)1)MiyataEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofKagoshima,3)DepartmentofOphthalmologyImamuraBun-inHospital,4)DepartmentofDiabetesMellitus,ImamuraBun-inHospital目的:過去1年間眼科的に無治療で経過観察した糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)眼について,短期的な自然経過を調べる.方法:過去1年間に光凝固や手術歴がなく6カ月以上経過観察可能であったDME眼(27例34眼)について視力,中心窩網膜厚を後ろ向きに検討した.結果:視力は,改善が8眼(24%),不変が20眼(58%),悪化が6眼(18%)であり,中心窩網膜厚は,改善が3眼(9%),不変が18眼(62%),悪化が10眼(29%)であった.6カ月で視力は有意に変わらなかったが,中心窩網膜厚は有意に悪化した.視力改善群のHbA1C値は非改善群のそれに比べ,初診時,6カ月ともに有意に低かった.結論:活動性の低いDME眼では,眼科的に無治療であっても,自然軽快するものがあり血糖コントロールと関与する可能性が示唆される.Objective:Toestimatetheshort-termnaturalcourseofdiabeticmacularedema(DME).Methods:Inthisretrospectivecaseseriesstudy,patientdatawerereviewedfromtherecord.Thosewhohadreceivednooculartreatmentfor1yearbeforetheinitialexaminationandwerethenobservedforatleast6monthswithnooculartreatmentwerestudied.Visualacuity(VA),fovealthickness(FT)evaluatedbyopticalcoherenttomography(OCT)andseveralclinicalparameterswereevaluated.Results:Atthe6-monthvisit,VAhadimprovedin8eyes(24%),remainedunchangedin20(58%),anddeterioratedin6(18%).FThaddecreasedin3eyes(9%),remainedunchangedin18(62%),andincreasedin10(29%).VAwassignificantlycorrelatedwithFTatbothinitialand6-monthvisits,intheanalysisofalleyes.HbA1CwassignificantlylowerinthepatientswithimprovedVAthaninthosewithdeterioratedVA(initialvisit:6.7±0.8,vs.7.5±0.9%,p=0.04;6-months:6.3±0.7vs.7.3±1.1%,p=0.01).Conclusions:InmildDME,VAandFTimprovedspontaneouslyinasignificantnumberofpatientswithnooculartreatment.GoodglycemiccontrolcouldbesignificantlyrelatedtotheimprovementofVAinthesepatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1545.1549,2014〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,視力転機,中心窩網膜厚,OCT,自然経過.diabeticmacularedema,visualoutcome,fovealthickness,OCT,naturalhistory.はじめに糖尿病黄斑浮腫(DME)については多くの研究があるが,無治療で経過をみた報告はわずかである.Hikichiらは,2型糖尿病でDMEのある82眼について,6カ月の自然経過を観察し,33%に浮腫が改善し,2段階以上の視力改善を63%に認めたと報告している1).また,純粋な自然経過とはいえないが2.4),Gilliesらでは,DME眼無治療群35眼で,2年後においても,26%に視力が改善した2).MacugenDiabeticRetinopathyStudyGroupでのプラセボ群42眼では,36週の経過観察期間に10%で2段階以上の視力改善があったと報告している3).一方,PKC-DRS2Groupは573眼のコントロール群において36カ月で2.4%に視力改善を認めたと述べている4).近年,光干渉断層計(OCT)による評価が,黄斑評価に不可欠とされるが,OCTによる自然経過についての報告は少なく,GilliesらのものとMacugenDiabeticRetinopathy〔別刷請求先〕加藤(堂園)貴保子:〒885-0051都城市蔵原町6街区3号宮田眼科病院Reprintrequests:KihokoKato(Douzono),M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(123)1545 StudyGroupの2つのみである.Gilliesらは2年間に平均網膜厚が71μm減少し2),MacugenDiabeticRetinopathyStudyGroupでのプラセボ群では網膜厚が3.7μm増加し,75μm以上の改善を19%に認めたと報告している3).今回筆者らは,過去1年間に眼科治療を受けていないDME症例のうち,その後6カ月間,さまざまな理由のために無治療で経過観察された症例の自然経過について検討した.I方法対象は1999年から2006年に今村病院分院を受診したDME患者450人のうち過去1年間光凝固を含む眼科治療を受けていないDME症例で,かつ6カ月以上眼科的に無治療で経過観察できた27例34眼.後ろ向きに観察研究を行った.黄斑浮腫の有無は散瞳下,検眼鏡で中心窩を含む浮腫があり,OCTにより確認できたものとした.経過観察中,網膜症の増悪のためfocalphotocoagulation,scatterphotocoagulation(PHC)少なめの光凝固(400.650発),panretinalphotocoagulation(PRP),トリアムシノロン注射やトリアムシノロンTenon.下注射併用白内障手術,硝子体手術,その他の眼科手術が必要になったものは除外した.視力悪化症例については浮腫増悪による視力低下を認めたため,治療を勧めたが拒否された症例に限定した.除外項目として,他の眼疾患を有する症例(網膜血管閉塞症,緑内障,黄斑変性,ぶどう膜炎,角膜混濁,高度な白内障,硝子体出血),DMEに対する治療歴のある症例(トリアムシノロン使用歴,硝子体手術既往)および過去1年以内に白内障手術や光凝固治療既往のある症例をあげた.全身状態としては,コントロール不良な高血圧,重症な全身疾患およびクレアチニン3以上の糖尿病性腎症,血液透析例,ネフローゼ症候群を除外した.これらの症例について,年齢,性別,糖尿病(DM),罹病期間,初診時および6カ月の小数視力,中心窩網膜厚,HbA1C(JDS値),高血圧,末梢神経障害,腎症,高脂血症について調査した.小数視力が0.2以上改善した群を視力改善群とし,それ以外を視力非改善群として,両群を比較検討した.2012年より推奨され現在広く用いられているHbA1C:NGSP値はJDS値に約0.4%を加えた値であり換算した値も表記した.初診時の定義として,すでに初診時に黄斑浮腫があった症例では,その時点の所見を採用した.黄斑局所光凝固または汎網膜光凝固がされた症例では光凝固1年経過後を初診とした.黄斑浮腫のない症例で経過観察中に黄斑浮腫を認めた症例では,黄斑浮腫発症時を初診時とした.平均視力や視力の2群間の比較においては,小数視力を1546あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014logMAR視力に換算して比較を行った.視力,光干渉断層計(OCT2またはOCT3000)で測定した中心窩網膜厚を初診時および6カ月後で調査し,比較検討した.中心窩網膜厚は,網膜表面から網膜色素上皮までとし,OCT2では中心窩を含む垂直断と水平断を各2回測定してその平均値とした.OCT3000ではretinalmapのaverageretinalthickness(fovea)を使用し決定した.また,中心窩網膜厚については,初診時の中心窩網膜厚の20%以上減少したものを改善,20%以上増加したものを悪化とした.II結果症例の内訳は27例34眼,男性17例21眼,女性10例13眼.年齢は42.77歳,平均62歳.平均観察期間(年)3.36±1.73.症例の眼所見および全身状態を表1に示す.視力は初診時と6カ月後を比較し有意差を認めなかった.中心窩網膜厚は6カ月で有意に増加した(p<0.05:Wilcoxonsigned-rankstest).視力と中心窩網膜厚の相関は初診時では相関係数が0.43,6カ月後は相関係数0.41であり,有意な相関を認めた.HbA1C(%)(JDS値)は,初診時7.33±0.96,6カ月7.04±1.10で改善していたが有意差は認めなかった(p=0.06).収縮期血圧(mmHg)の平均値は初診時と6カ月で,有意差はなかった.視力は,改善が8眼(24%),不変が20眼(58%),悪化が6眼(18%),中心窩網膜厚は,改善が3眼(9%),不変が18眼(62%),悪化が10眼(29%)であった.視力改善群8眼,非改善群は26眼であった.両群間の比較結果を表2に示す.年齢,初診時視力,初診時中心窩網膜厚(μm)については,いずれも有意差を認めなかった(p=0.13,p=0.29,p=0.68:Mann-Whitney’sUtestforacontinuousvariables).6カ月後の中心窩網膜厚(μm)は視力改善群322±101,非改善群376±118で有意差を認めなかったものの,非改善群のほうが厚い傾向があった.初診時との比較では,網膜厚が視力改善群では初診時330±61,6カ月322±101μmと減少傾向を示したが有意差はなく,非改善群では網膜厚は初診時328±101,6カ月376±118μmと有意に増加した(p=0.50,p=0.014:Wilcoxonsigned-rankstest).DM罹病期間については視力改善群のほうが非改善群に比べ短い傾向にあったが有意差はなかった.初診時HbA1C(%)は視力改善群6.7±0.8,視力非改善群7.5±0.9,6カ月後のHbA1C(%)は視力改善群6.3±0.7,視力非改善群7.3±1.1でいずれも有意差があり(p=0.04,p=0.01:Mann-Whitney’sUtestforacontinuousvariables),視力改善群では視力非改善群に比べ,初診時,6カ月ともに(124) 表1糖尿病黄斑浮腫症例(34眼)p年齢(歳)61.7±8.6性別(男/女)21/13糖尿病罹病期間(年)13±6.0網膜症MildNPDR2眼ModerateNPDR20眼SevereNPDR9眼PDR3眼視力(logMAR)初診時0.23±0.320.636M0.22±0.27中心窩網膜厚(μm)初診時328±920.0486M363±115中心窩網膜厚と視力の相関**初診時r=0.440.0096Mr=0.410.017HbA1C(%)*(JDS値)初診時7.33±0.960.066M7.04±1.10HbA1C(%)*(NGSP値に換算)初診時7.73±0.960.066M7.44±1.10収縮期血圧(mmHg)*初診時134±240.336M130±20糖尿病性腎症なし10眼StageII以上24眼高脂血症あり10眼なし24眼*:Wilcoxonsigned-rankstest.**:Spearman’srankcorrelationcoefficient.本検討ではHbA1C(%)はJDS値を使用している.2012年より推奨され現在広く用いられているNGSP値はJDS値に約0.4%を加えた値であり換算した値も表記した.血糖コントロールが良好であった.血圧,末梢神経障害については両群間に有意差はなく,クレアチニン3未満で糖尿病性腎症2以上の有無,高脂血症の有無についても両群間に有意差は認めなかった(p=0.39,p=0.52,p=0.75,p=0.39:Fisher’sexacttest).III考按現在まで,OCTなどを用いて,DMEの自然経過を詳細に検討したものは少ない.近年,DMEが悪化した場合,さまざまな治療が積極的に行われることを考えると,今後も自然経過に関する研究は困難と思われるが,自然経過のデータは,治療の適応を判断するうえで不可欠である.そこで本研(125)表2視力改善群と視力非改善群での中心窩網膜厚および合併症の検討視力改善群視力非改善群n=8n=26p年齢(歳)58.3±7.3262.7±8.750.13性別(男/女)*7/114/120.12視力(logMAR)初診時0.22±0.110.24±0.370.296M0.03±0.080.27±0.280.03中心窩網膜厚(μm)初診時330±61328±1010.686M322±101376±1180.15糖尿病罹病期間(年)10±5.214±6.10.07初診時HbA1C(%)JDS値6.7±0.87.5±0.90.046MHbA1C(%)6.3±0.77.3±1.10.01初診時HbA1C(%)NGSP値7.1±0.87.9±0.90.036MHbA1C(%)6.7±0.77.7±1.10.01高血圧(収縮期血圧130以上)*あり4190.39なし47末梢神経障害*あり7200.52なし16腎症II以上*あり6180.75なし28高脂血症あり190.39なし717Mann-Whitney’sUtestforacontinuousvariables.*:Fisher’sexacttestfordichotomousvariable.究では,過去の症例から,諸事情により眼科的介入が1年半以上されなかった症例を抽出して,その結果を短期自然経過として解析した.1985年にEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStusy(ETDRS)はDMEの早期に黄斑局所光凝固を行うことによって,視力低下を抑えられると述べた5).この報告では,無治療群においては,3年間で視力は少しずつ低下してきており,自然経過は悪化するとしている.今回筆者らは,過去1年間眼科治療のない活動性の低いDME症例を,6カ月間経過観察した.20%近くの症例に視力改善が認められたが,これはHikichiら1)の報告とほぼ同様であった.また,視力と中心窩網膜厚においては,初診時と6カ月の時点で相関が認められた.FDA(米国食品・医薬品局)の見解では視力と中心窩網膜厚の間には相関はないとされているが,本研究では,視力と中心窩網膜厚にはある程度の相関が認められた.過去にも同じように相関を認めた報告があるが,Winfriedらは視力と中心窩網膜厚には中等度の相関があり,特に黄斑部の虚血や白内障の少ない患者ではより相関がみられると述あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141547 べている6).同程度に中心窩網膜厚が増大しても,発症間のないものと,時間を経たものでは視力が異なるのは当然である.本症例は,比較的軽症例が多かったことも結果の違いに反映されたかもしれない.視力改善群の中心窩網膜厚は,非改善群に比べ,6カ月後に減少していたが,有意差は認めなかった.一方,視力非改善群では中心窩網膜厚が有意に増加していた.DM罹病期間については,視力改善群では非改善群に比べ短い傾向があった.これは黄斑浮腫が出現して時間がたてば,網膜に不可逆的障害を生じ,黄斑浮腫が改善しても視力改善がえられないとも考えられる.表1ではHbA1C(%)は,初診時と比較して,6カ月で改善していたが有意差は認めなかった(p=0.06).これについては,糖尿病内科,眼科に数年かかっているという病識の高い患者が多かったため,全般的に血糖コントロールが良好であったと思われる.また,表2では,HbA1Cが,視力改善群で,初診時,6カ月ともに視力非改善群に比べ有意に低かった.過去の報告において,厳格な血糖コントロールは,網膜症の進行するリスクを50%以上軽減できるとする報告がある7).また,12年間厳格な血糖コントロールを行うことによって,9年間網膜症の進行が抑えられたとの報告もある8).一方,Raijaらは,2型DM133人について前向きに10年間,黄斑症,視力を調査し,その危険因子を検討したが,血糖コントロール不良が黄斑症の最大の危険因子であり,血圧などは黄斑症発症の危険因子ではないとした.また,黄斑症の発症についてはDM罹病期間が長くなると頻度が上がり10年で約21%に黄斑症を認めたと報告している9).このように血糖コントロールが糖尿病網膜症やDMEの発症や進行に関与したとする報告はあるが,黄斑浮腫の改善に影響したという報告はない.今回の結果は,厳格な血糖コントロールが,比較的軽症例のDMEを改善させる可能性を示唆している.血圧とDME/腎症の関連については,今回,初診時の収縮期血圧が視力改善群,非改善群ともに平均130台と良好であり,コントロール不良な高血圧やクレアチニン3以上の腎症を除外しているため,言及はできない.Leskeらは324例のDM患者を9年間経過観察し,網膜症の発症因子をみているが,それによると収縮期高血圧,拡張期高血圧は危険因子であった10).腎症についてはKleinらの検討検討で蛋白尿が黄斑浮腫の危険因子であると述べている11).El-Asrarも重症網膜症患者では腎症合併率が高く,また糖尿病合併症と網膜症との関連を多変量解析した結果,腎症が唯一の関連因子だったと報告した12).腎機能の悪化時期に一致してDMEが増悪することはよく経験される.網膜症も腎症も糖尿病による微小血管障害の結果であり,その関連については複雑ではあるが,十分に関連があると考えられる.1548あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014高脂血症の有無についても今回は有意差はなかった.視力改善群では高脂血症症例は1例のみであり,この結果もこの研究が全身状態の比較的良好な症例に限定した検討であることを反映していると思われる.黄斑浮腫が脂質管理のみで改善したという報告はない.ETDRSでは血清総コレステロール値,低比重リポ蛋白(LDL)値の上昇が,硬性白斑の頻度を増加させる13)と報告している.FenofibtrateInterventionandEventLoweringinDiabetes(FIELD研究)においても,フェノフィブラート投与により,糖尿病網膜症の2段階以上の進行,光凝固治療の必要性が有意に抑制され,黄斑浮腫の発症については単独では有意差はみられなかったもののプラセボと比べ黄斑症発症頻度は少なかった14)とある.ActiontoControlCardiovasucularRiskinDiabetes(ACCORD)試験15)では,血糖,血圧の厳格な管理とスタチン,フェノフィブラート併用療法において,糖尿病網膜症の進行,光凝固施行,硝子体手術施行を有意に抑制したとあり,脂質管理も大切であることはいうまでもない.本研究の問題点としては,後ろ向き研究である点,浮腫の発症時期が不明確な点,症例数が少ない点があげられる.DMEの自然経過を見るには,疾患の重篤さを問わずすべてについて調べるべきであるが,悪化例に治療を行わないことは倫理上問題であり,重篤なものは治療介入が行われたので,結果として比較的軽症例が多く含まれることになった.また,本来であれば,経過中に視力が増悪して介入したものを悪化例とすべきかもしれないが,DME全症例についての把握ができていないために定量的評価に耐える結果が得られないことから,今回の評価方法をした.さらに,全身状態も比較的良好な症例に限定した検討であり,全身状態不良例を含めると悪化症例はさらに増加する.この点に注意して,この結果を解釈,一般化する必要がある.しかし,少なくとも比較的軽症例では,厳格な全身管理(HbA1C6.5%未満:JDS値)で短期的に黄斑浮腫が改善することが示唆された.症例数の少なさについては,倫理的に意図的な無治療状態が作れない現状では,限界がある.対象が限定されたものであるとはいえ,本研究で,現在のわが国において,DMEは半年間に改善するものがあることがわかったことは重要である.DMEは,長期的には悪化するという報告に基づき,早期から積極的な眼科介入を推奨する意見が多い.しかし,大変血糖コントロールが良く,全身管理も良い例では,早期に治療に踏み切らず数カ月は経過観察を行っても良いのかもしれない.本論文は第13回日本糖尿病眼学会で発表した.2014年に再調査.(126) 利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HikichiT,FujioN,AkibaJetal:Associationbetweentheshort-termnaturalhistoryofdiabeticmacularedemaandthevitreomacularrelationshipintypeIIdiabetesmellitus.Ophthalmology104:473-478,19972)GillsiesMC,SutterFK,SimpsonJMetal:Intravitrealtriamcinoloneforrefractorydiabeticmacularedema.Ophthalmology113:1533-1538,20063)MacugenDiabeticRetinopathyStudyGroup:AphaseIIrandomizeddouble-maskedtrialofpegaptanib,ananti-vascularendothelialgrowthfactoraptamer,fordiabeticmacularedema.Ophthalmology112:1747-1757,20054)PKC-DRS2Group:Effectofruboxistaurinonvisuallossinpatientswithdiabeticretinopathy.Ophthalmology113:2221-2230,20065)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyReportNumber1:Photocoagulationfordiabeticmacularedema.ArchOphthalmol103:1796-1806,19856)GoebelW,Kretzchmar-GrossT:RetinalthicknessindiabeticretinopathyAstudyusingopticalcoherencetomography(OCT).Retina22:759-767,20027)TheDiabetesControlandComplicationsTrialResearchGroup:Theeffectofintensivetreatmentofdiabetesonthedevelopmentandprogressionoflong-termcomplicationsininsulin-dependentdiabetes.NEnglJMed329:977-986,19938)UKProspectiveDiabetesStudy(UKPDS)Group:Effectofintensiveblood-glucosecontrolwithmetforminoncomplicationsinoverweightpatientswithtype2diabetes(UKPDS34).Lancet352:854-865,19989)Voutilainen-KaunistoR,TerasvirtaM,UusitupaMetal:Maculopathyandvisualacuityinnewlydiagnosedtype2diabeticpatientsandnon-diabeticsubjects:A10-yearfollow-upstudy.ActaOphthalmol79:163-168,200110)LeskeMC,WuSY,HennisAetal:BarbadosEyeStudyGroup:Hyperglycemia,bloodpressure,andthe9-yearincidenceofdiabeticretinopathy:TheBarbadosEyeStudies.Ophthalmology112:799-805,200511)KleinR,ZinmanB,GardinerRetal:Therelationshipofdiabeticretinopathytopreclinicaldiabeticglomerulopathylesionsintype1diabeticpatients:theRenin-AngiotensinSystemStudy.Diabetes54:527-533,200512)El-AsrarAM,Al-RubeaanKA,Al-AmroSAetal:Retinopathyasapredictorofotherdiabeticcomplications.IntOphthalmol24:1-11,200113)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStusyResearchGroup.Associationofelevatedserumlipidlevelswithretinalhardexudatesindiabeticretinopathy.ArchOphthal114:1079-1084,199614)KleechA,MitchellP,SummanenPAetal:Effectoffenofibrateontheneedforlasertreatmentfordiabeticretinopathy(FIELDstudy):arandomizedcontrolledtrial.Lancet370:1687-1697,200715)ActiontoControlCardiovasucularRiskinDiabetes(ACCORD)StudyGroup:ACCORDEyeStudyGroupetal:Effectofmedicaltherapiesonretinopathyprogressionintype2diabetes.NEnglJMed363:233-244,2010***(127)あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141549

網膜静脈分枝閉塞症に対する硝子体手術およびトリアムシノロン硝子体内投与の短期効果についての検討

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(133)287《原著》あたらしい眼科28(2):287.292,2011cはじめに網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)は,随伴する黄斑浮腫によりしばしば視力低下をきたす.BRVOに対する治療として,新生血管の抑制を目的とする網膜光凝固術1)や,黄斑浮腫に対する光凝固治療の有効性2)が示され,広く行われてきた.近年BRVOに伴う黄斑浮腫に対する治療として,硝子体手術3~6),トリアムシノロン7)や他の薬物(組織プラスミノーゲンアクチベータ8),ベバシズマブ9,10)など)硝子体内投与などの治療の有効性が多数報告されている.一方,自然経過により黄斑浮腫が軽減し視力改善する症例もある11~14)ことから,BranchVeinOcclusionStudy1,2)では治療開始前に3カ月間の経過観察を行うようにしている.また,opticalcoherencetomography(OCT)の普及により,BRVOに伴う黄斑浮腫の定量および形態の変化が観察できるようになってきている15).今回,BRVOに対する硝子体手術およびトリアムシノロンアセトニド硝子体内投与(intravitrealtriamcinoloneacetonide:IVTA)の短期の効果について,自然経過と比較し検討した〔別刷請求先〕神尾聡美:〒999-3511山形県西村山郡河北町谷地字月山堂111山形県立河北病院眼科Reprintrequests:SatomiKamio,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KahokuPrefecturalHospitalofYamagata,111Gassanndo,Yachiaza,Kahokucho,Nishimurayama-gun,Yamagata999-3511,JAPAN網膜静脈分枝閉塞症に対する硝子体手術およびトリアムシノロン硝子体内投与の短期効果についての検討神尾聡美*1山本禎子*2三浦瞳*2桐井枝里子*2山下英俊*2*1山形県立河北病院眼科*2山形大学医学部眼科学講座VitrectomyandTriamcinoloneAcetonideforMacularEdemawithBranchRetinalVeinOcclusionSatomiKamio1),TeikoYamamoto2),HitomiMiura2),ErikoKirii2)andHidetoshiYamashita2)1)DepartmentofOphthalmology,KahokuPrefecturalHospitalofYamagata,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YamagataUnivercitySchoolofMedicine目的:網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)に対する硝子体手術,トリアムシノロンアセトニド硝子体内注射(IVTA)の効果について自然経過と比較検討した.対象および方法:BRVOに伴う黄斑浮腫症例102例118眼(硝子体手術群37眼,IVTA群29眼,経過観察群52眼).術前,術後1~3カ月の視力,網膜厚を検討した.結果:網膜厚は硝子体手術群とIVTA群で術後1カ月から,経過観察群で2カ月から減少した.視力はIVTA群で術後1カ月,硝子体手術群で術後2カ月から改善したが,経過観察群では3カ月後まで改善しなかった.結論:硝子体手術,IVTAは黄斑浮腫および視力を早期に改善させる効果がある.Purpose:Toevaluatetheefficacyofvitrectomyandintravitrealtriamcinoloneacetonide(IVTA)forbranchretinalveinocclusion(BRVO),incomparisonwithnaturalprogress.ObjectandMethods:Of118eyes(102patients)withBRVO-associatedmacularedema,37weretreatedbyvitrectomy,29byIVTAand52(controls)werenottreated.Best-correctedvisualacuity(BCVA)andretinalthickness(RT)weremeasuredatenrollmentand1,2,and3monthsthereafter.Results:RTwasdecreasedat1monthaftervitrectomyandIVTA,andat2monthsafterinthecontrols.BCVAwasimprovedat1monthafterIVTAandat2monthsaftervitrectomy,butshowednoimprovementat3monthsinthecontrols.Conclusion:VitrectomyandIVTAaremoreeffectivethanthenaturalcourseforearlyimprovementofRTandBCVA.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(2):287.292,2011〕Keywords:網膜静脈分枝閉塞症,硝子体手術,トリアムシノロンアセトニド硝子体内注射,自然経過,光干渉断層計(OCT).branchretinalveinocclusion,vitrectomy,intravitrealtriamcinoloneacetonideinjection,naturalcourse,opticalcoherencetomograph(OCT).288あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(134)ので報告する.I対象および方法本研究は山形大学医学部倫理委員会の承認をうけた.対象は2004年1月から2006年9月までに山形大学医学部眼科でBRVOに伴う黄斑浮腫を認め,評価開始時矯正小数視力0.5以下であった症例102例118眼である.男性44眼,女性74眼,年齢は44.82歳,平均65.6(±9.7)歳であった.治療法は,硝子体手術を施行した症例37眼(以下,vitrectomy群),IVTAを施行した症例29眼(以下,IVTA群),自然経過観察52眼(以下,経過観察群)であった.治療法のフローチャートを図1に示す.治療法の選択については,患者本人と相談のうえ選択した.治療前に自然寛解の可能性のあることが報告されている11~14)ことをもとに患者に説明して,3カ月間経過を観察した期間および治療を希望しなかった症例を経過観察群とし,3カ月経過観察後に症状が改善せず治療を希望した場合にはいずれかの治療を行った.発症から3カ月未満で治療を行った症例はvitrectomy群で11眼,IVTA群で2眼であった.Vitrectomy群では,経毛様体扁平部硝子体切除術を施行し,白内障を認めた症例では超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を施行した.Vitrectomyの術中に黄斑浮腫の治療目的でトリアムシノロン4mgを注入した症例は28例で,それ以外は黄斑部の残存硝子体の有無を確認し除去する目的でごく微量のトリアムシノロンを網膜表面に塗布し,確認後は吸引除去した.IVTA群では,トリアムシノロンアセトニド(ケナコルトR)4mgを30ゲージ針にて硝子体内に注入した.IVTA群においては治療前にリン酸ベタメタゾンナトリウム(リンデロンRA)の6回/日点眼を3週間行い,眼圧が有意に上昇した症例は除外した.経過観察群については初診から3カ月の経過観察中に治療の希望があり治療を行ったものは対象から除外した.除外して治療された症例は治療群のなかには含まれない.また,発症推定時期から1年以上経過している陳旧例は対象から除外した.評価項目は,術前または観察開始時,1カ月,2カ月,3カ月後の視力および網膜厚,評価開始時の年齢,性別,発症推定時期から治療または観察開始までの期間,血管閉塞部位,閉塞領域,フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)での虚血の有無,黄斑部虚血の有無とした.なお,FAにて5乳頭面積以上の虚血があったものを虚血型とした.視力は小数視力をlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力に換算し,視力の平均はlogMAR視力の相加平均で算出して評価した.視力変化に関してはlogMAR視力で0.3以上の変化を改善または悪化と定義した.網膜厚はOCTのretinalmapプログラムを使用し,中心窩平均網膜厚の値を用いた.網膜厚変化は術前網膜厚の20%以上の減少または増加を改善または悪化と定義した.また,各群での視力および網膜厚の改善率の変化について比較検討した.視力(網膜厚)改善率は「[治療後の視力(網膜厚).術前または観察開始時の視力(網膜厚)]/術前または観察開始時視力(網膜厚)の絶対値」と定義した.有意差検定には,平均値にはMann-WhitneyUtest,Kruskal-Wallistest,Kolmogorov-Sminov検定にて正規分布を示すデータに対しては一元配置分散分析,比率はFisherBRVOと診断黄斑浮腫ありVA≦0.5早期治療を希望3カ月間の経過観察希望経過観察群n=52Vitrectomyn=27IVTAn=23改善なしn=41改善または治療希望なしn=11Vitrectomyn=10*IVTAn=6*Vitrectomy群n=37IVTA群n=29図1治療のフローチャート*:治療後3カ月以上経過観察可能であった症例.(135)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011289直接法,また,各群の視力および網膜厚の推移については分散分析を用いた.有意確率は0.05未満を有意と判断した.II結果各群の術前観察開始時の状態を表1に示す.治療または観察開始までの期間が経過観察群で有意に短い(p<0.001)が,その他の因子では3群間に有意差を認めなかった.治療および観察開始から3カ月後の各群の視力変化を図2に示す.Vitrectomy群は改善18眼(48.6%),不変16眼(43.2%),悪化3眼(8.1%),IVTA群では改善15眼(51.7%),不変14眼(48.3%),悪化0眼,経過観察群では改善11眼(21.2%),不変34眼(65.4%),悪化7眼(13.5%)であり,vitrectomy群およびIVTA群では経過観察群に比較し改善例が多かった(vitrectomy群p=0.006,IVTA群p=0.001).3カ月後の網膜厚変化を図3に示す.Vitrectomy群では改善18眼(48.6%),不変16眼(43.2%),悪化3眼(8.1%),IVTA群では改善17眼(58.6%),不変12眼(41.4%),悪化0眼,経過観察群では改善30眼(57.7%),不変19眼(36.5%),悪化3眼(5.8%)であり,3群間で有意差は認められなかった.つぎに,視力および網膜厚の推移を図4a,bに示す.3群の視力の推移では,IVTA群が治療後1カ月(p=0.001),vitrectomy群が治療後2カ月で有意に治療前に比較し視力が改善した(p=0.007)のに対し,経過観察群では最終観察時点の3カ月目においても改善しなかった.網膜厚の推移では,IVTA群およびvitrectomy群で治療後1カ月の時点で有意に減少した(IVTA群:p=0.001,vitrectomy群:p=0.012)のに対し,経過観察群では1カ月目181511161434037100%80%60%40%20%0%Vitrectomy(n=37)IVTA(n=29)経過観察(n=52)**□:改善■:不変■:悪化*p<0.01Fisher直接法図2視力(3カ月後)グラフ内の数字は眼数を示す.IVTA:intravitrealtriamcinoloneacetonide.181730161219100%30380%60%40%20%0%Vitrectomy(n=37)IVTA(n=29)経過観察(n=52)□:改善■:不変■:悪化図3網膜厚(3カ月後)グラフ内の数字は眼数を示す.IVTA:intravitrealtriamcinoloneacetonide.表1術前または観察開始時所見Vitrectomy群n=37IVTA群n=29経過観察群n=52p値観察開始時視力0.75±0.260.72±0.380.61±0.320.226*観察開始時網膜厚(μm)447.3±155.0458.6±114.7503.8±119.60.071年齢(歳)66.3±9.866.0±7.964.8±10.00.562性(女性/男性)2.11.641.890.951観察開始までの期間3.8±2.25.7±2.21.7±1.4<0.001*虚血型(%)37.844.844.20.951黄斑部虚血(%)21.620.719.20.650閉塞部位上(%)下(%)黄斑枝(%)54.135.110.855.234.510.349.035.615.40.688第1分枝閉塞(%)59.555.248.00.759第2分枝閉塞(%)29.734.536.60.837Kruskal-Wallistest*:one-wayANOVA.290あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(136)ではほとんど減少せず2カ月から減少した(p<0.001).つぎに,各群での視力および網膜厚改善率の推移を比較検討した(図5a,b).IVTA群は経過観察群に比べ視力改善率は術後1カ月から3カ月まで有意に高かった(術後1カ月p<0.001,術後2カ月p=0.001,術後3カ月p=0.04).Vitrectomy群では術後1カ月,2カ月では経過観察群に比べ有意に改善率が高く(術後1カ月p=0.025,術後2カ月p=0.015),術後3カ月では改善率が高い傾向にあった(p=0.09).Vitrectomy群とIVTA群間では術後3カ月まで改善率に有意差を認めなかった.一方,網膜厚改善率では術後1カ月でvitrectomy群,IVTA群とも経過観察群に比べ有意に改善率が高かった(vitrectomy群p=0.016,IVTA群p<0.001)が,術後3カ月では経過観察群との間に有意差は認められなかった(vitrectomy群p=0.881,IVTA群p=0.621).IVTA群とvitrectomy群を比較すると,IVTA群はvitrectomy群に比べ術後1カ月で有意に改善率が高かった(p=0.048)が,術後3カ月では有意差を認めなかった(p=0.43).術後合併症の発生の内訳を表2に示す.IVTAで術後21mmHg以上の眼圧上昇を2眼(6.9%)に認めたが,眼圧上昇は最高20mmHg台後半であり,点眼治療にて改善した.術後細菌性眼内炎,網膜裂孔および網膜.離は3群とも認められなかった.表2術後合併症Vitrectomy群IVTA群経過観察群眼圧上昇(≧21mmHg)02眼(6.9%)0細菌性眼内炎000網膜.離000網膜裂孔0000.60.50.40.30.20.10013平均網膜厚改善率+SD経過観察期間(月)****:Vitrectomy:IVTA:Control図5b網膜厚改善率*p<0.05,**p<0.01Mann-WhitneyUtest.(3群間で有意差のあったものを*,**で表示)0123経過観察期間(月)***************7006005004003002001000中心窩平均網膜厚(μm)+SD:Vitrectomy:IVTA:Control図4b網膜厚*p<0.05,**p<0.01ANOVA(Bonferroni).(治療前または経過観察時視網膜厚と術後網膜厚との間に有意差のあったものを*,**で表示)0123経過観察期間(月)1.210.80.60.40.20-0.2平均視力改善率+SD*******:Vitrectomy:IVTA:Control図5a視力改善率*p<0.05,**p<0.01Mann-WhitneyUtest.(3群間で有意差のあったものを*,**で表示)1.210.80.60.40.200123経過観察期間(月)平均logMAR視力+SD**********:Vitrectomy:IVTA:Control図4a視力**p<0.01ANOVA(Bonferroni).(治療前または経過観察時視力と術後視力との間に有意差のあったものを**で表示)(137)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011291III考按これまで,BRVOの治療には光凝固1,2),硝子体手術3~6),薬物治療(トリアムシノロン7),組織プラスミノーゲンアクチベータ8),ベバシズマブ硝子体内投与9,10)などの有効性が報告されている.一方でBRVOは症例により自然経過が大きく異なる疾患であり,自然経過により視力および網膜厚の改善を認める症例がしばしば認められる11~14).光凝固治療はBranchVeinOcclusionStudy1,2)の大規模臨床研究によりその有効性がすでに報告されているが,最近の治療による視力および網膜厚の改善が,治療によって改善しているのか自然経過で改善しているのかを判断することはむずかしく,治療によって改善したように思われる症例のなかには,自然経過で改善したものが含まれている可能性がある.以上の理由から,最近の治療法による結果とコントロールを比較することが必要であると考えられる.しかし,光凝固治療の有効性がすでに報告されている現在,本疾患の多数の症例において無治療で長期経過を観察することは倫理的にも非常に困難であり,無治療群をランダムに振り分けるのはさらに問題がある.しかし,BranchVeinOcclusionStudyの研究においても,治療介入に入る前に発症後3カ月は自然経過を観察していることから,3カ月間の経過観察は現在のところ倫理上問題が少ないと考えられる.したがって,治療群と経過観察群との比較を行う場合は,検討期間を自然経過観察期間の3カ月に合わせざるをえないため,今回の検討は3カ月間という短期間の観察となった.また,過去のBRVOの自然経過の報告ではOCTを用いた網膜厚の詳細な経過観察は行われていない.以上の理由から,本研究では3カ月といった短期間ではあるが,自然経過を観察した群と最近の新しい治療法を行った群の視力および網膜厚について比較検討を行った.その結果,治療および観察開始後3カ月の時点で視力が改善したのは硝子体手術では48.6%,IVTAでは51.7%であったが,経過観察群では21.2%のみでありvitrectomy群およびIVTA群に比較し有意に経過観察群で不良であった.一方,網膜厚の改善は,硝子体手術で43.2%,IVTAで58.6%の症例で認められ,経過観察群でも57.7%で改善した.この理由は,経過観察群のなかには,予後がきわめて良好で,観察開始後3カ月で視力が著しく改善する症例もあるが,ほとんどの症例が自然経過では浮腫の減少速度が治療群に比較して緩除であり,このために経過観察群では3カ月の経過観察期間内で十分な視力改善が得られなかったと考えられる.また,経過良好例がある一方,まったく浮腫は軽減せず,逆に一時的に浮腫が増強し視力も増悪する症例もあり,このような症例に対しては3カ月経過観察後に早急に治療を開始すべきであると考えられる.視力改善率は,術後1カ月から2カ月ではIVTA群およびvitrectomy群が経過観察群に比べて有意に高く,術後3カ月ではIVTA群は経過観察群より高く,vitrectomy群は経過観察群に比較し高い傾向にあった.この結果から,経過観察群に比較し治療群は早期から視力が改善しており,IVTAや硝子体手術などの治療法は少なくとも短期的には有効な治療法と考えられた.網膜厚改善率では経過観察群が観察開始後1カ月ではほとんど改善していないのに対し,IVTA群およびvitrectomy群では有意に高い改善率を認め,視力改善と同様に治療をすることによって早期から網膜厚が改善することがわかった.また,網膜厚の改善率は,観察開始後1カ月の時点で,vitrectomy群に比較しIVTA群で有意に高い改善率であった.この結果はIVTAでは硝子体手術より早く浮腫が減少することが示され,視力予後の点からIVTAが望ましい可能性も考えられる.しかし,IVTAでは投与後3~6カ月で再発が多いことが報告されている7).もし,再発した場合,再度のIVTAあるいは他の治療を行うことになるが,再発をくり返した場合は最終視力にどのように影響するかは不明であり,硝子体手術とIVTAの効果の優劣に関してはさらに長期の経過を観察する必要がある.今回の検討では,治療後の合併症として,IVTA群で2眼(6.9%)に眼圧上昇が認められた.IVTAによる術後眼圧上昇の報告によると,約26%で21mmHg以上の眼圧上昇が認められ16),トリアムシノロンの薬剤効果は約8~9カ月継続するため,少なくとも6カ月以上の経過観察が必要17)とされている.今回検討した症例では認められなかったが,IVTAでは,術後眼内炎の発生の可能性18,19),硝子体手術では術中網膜裂孔や術後網膜.離の発生の可能性20,21)などが存在するため,治療にあたっては十分な説明と術後管理が必要であると思われた.黄斑浮腫は遷延化すると.胞様黄斑浮腫の形態をとることが多い.組織学的な.胞様黄斑浮腫の形成メカニズムは,黄斑浮腫の遷延化によりMuller細胞の細胞内浮腫が生じ,引き続いてMuller細胞の細胞構造が破壊されると細胞間液の吸収が遅延することで形成されると考えられている22).したがって,黄斑浮腫が長期に及ぶと不可逆的な組織変化および機能障害が生じ,浮腫が消失しても視力が改善しない可能性があることから,早期に浮腫を改善することは視力予後を良好にする可能性がある.しかし,どれくらい早期に浮腫を改善させることが長期的な視力予後に影響するかについては,さらに症例数を増やし,長期間の治療経過を観察しなければならない.また,発症後3カ月間は無治療で経過観察するという治療方針が長期的な視力予後に影響するかについても,より長期の観察を行う必要がある.今回の検討では,経過観察群は治療群に比較して観察開始までの時間が少なく,観察開始時での視力が比較的良好な症292あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(138)例が多い傾向があった.経過観察群には,初診時より視力が良好で浮腫も軽度な症例,あるいは短期間で視力および浮腫が改善した症例が多く含まれている可能性がある.本検討が治療方針を患者の希望により決定しており,無作為割り付け試験でない以上,経過観察群と治療群の間に何らかのバイアスが入ることは否めない.しかし,経過観察群で予後が良い症例を多く含んでいる可能性があるにもかかわらず,経過観察群と比較し治療介入群で有意に視力改善度は大きかった.この結果から考えて,IVTAや硝子体手術は視力の改善という点において短期的には有効であると考えられた.以上の結果より,3カ月間の経過観察において,自然経過観察に比較しIVTAや硝子体手術などの治療は,早期から浮腫を軽減させ視力が改善することがわかった.また,短期的には浮腫の軽減は硝子体手術に比べIVTAでより早期から認められたが,IVTAは再発もあるので,最終的な視力予後を知るためには長期での検討が今後必要であると思われた.文献1)BranchVeinOcclusionStudyGroup:Argonlaserscatterphotocoagulationforpreventionofneo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