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Uveal Effusionを伴った原田病の1例

2021年4月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科38(4):470.475,2021cUvealE.usionを伴った原田病の1例恩田昌紀渡辺芽里佐野一矢牧野伸二川島秀俊自治医科大学眼科学講座CAPatientExhibitingSymptomsofBothUvealE.usionandVogt-Koyanagi-HaradaDiseaseMasatoshiOnda,MeriWatanabe,IchiyaSano,ShinjiMakinoandHidetoshiKawashimaCDepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversityC目的:Uveale.usionを伴った原田病と思われる症例を経験したので報告する.症例:61歳,女性.両眼の視力低下と難聴を自覚し,近医眼科を受診.両眼の虹彩炎と下方の胞状網膜.離を認めたため自治医科大学附属病院眼科を紹介受診した.両眼とも前房は浅く,炎症細胞があり,毛様体.離,視神経乳頭の発赤,超音波CBモードにて強膜肥厚および体位変換により移動する胞状網膜.離を認めた.光干渉断層計では黄斑部に漿液性網膜.離があり,厚い脈絡膜の波打ち様変化を認めた.フルオレセイン蛍光造影検査では,後極部に少数の点状過蛍光はあったが蛍光貯留はなかった.無菌性髄膜炎,感音性難聴,DR4陽性を認めたことより原田病と診断し,併せてCuveale.usionを呈している病態と考えた.ステロイドパルス療法を施行し,胞状網膜.離は速やかに消失した.結論:両疾患の合併報告は少ないが,女性,DR4陽性,短眼軸長などは発症に関連する因子の可能性がある.CPurpose:Toreportapatientwhoexhibitedsymptomsofbothuveale.usion(UE)andVogt-Koyanagi-Hara-da(VKH)disease.Casereport:Thisstudyinvolveda61-year-oldfemalewhovisitedalocalclinicafterbecomingawareofdecreasedvisioninbotheyesandahearingdisturbance.Examinationrevealediritisandbullousretinaldetachment(BRD),CandCsheCwasCsubsequentlyCreferredCtoCourCclinic.COphthalmologicalCexaminationCrevealedCthatCsheCmanifestedCBRDCthatCshiftedCwithCbodyCposition,CtogetherCwithCthickCsclera.COpticalCcoherenceCtopographyCrevealedCmacularCserousCdetachmentCandCaCwavyCthickCchoroid.CFluoresceinCangiographyCrevealedCaCspottedChyper.uorescentpatternintheposteriorfundus,andincombinationwithasepticmeningitis,sensoryhearingloss,andHLADR4,thepatientwasdiagnosedashavingbothUEandVKH.Corticosteroidtherapywasinitiated,whiche.ectivelyCeliminatedCtheCBRD.CConclusion:FactorsCincludingCfemaleCsex,CDR4,CandCshortCvisualCaxisClengthCmayChavecontributedtotheonsetofthisrarecondition.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(4):470.475,C2021〕Keywords:原田病,uveale.usion,胞状網膜.離,脈絡膜.離.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,uveale.usion,bullousretinaldetachment,choroidaldetachment.CはじめにUveale.usion(UE)は体位変換によって網膜下液が容易に移動する可能性が高い非裂孔原性網膜.離と眼底周辺部全周に存在する毛様体.離・脈絡膜.離(choroidalCdetach-ment:CD)を主病像とする疾患群で,最近ではCuveale.u-sionsyndromeと呼称されている1.3).本症の病態の本態は強膜にあるとされ,経強膜的流出路障害説として強膜の肥厚および硬化により強膜を透過する眼内液の眼外への流出障害が主要因とされているが,経渦静脈流出路障害説も副次的要因と考えられている.これらの要因により生じる胞状網膜.離(bullousCretinaldetachment:BRD)は,網膜病変部の責任病巣直下に貯留することなく,体位による移動が特徴的で,他に多発性後極部網膜色素上皮症(multifocalposteriorpigmentepitheliopathy:MPPE)などで認められる1).これらの疾患概念には交錯する部分もあり,とくに日常臨床において鑑別診断は必ずしも明解とはならない.さらに,Vogt-小柳-原田病(以下,原田病)にCUEあるいはCMPPEを合併したとの報告は少なく4.8),病態評価の機会は貴重である.〔別刷請求先〕恩田昌紀:〒329-0498栃木県下野市薬師寺C3311-1自治医科大学眼科学講座Reprintrequests:MasatoshiOnda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke,Tochigi329-0498,JAPANC図1初診時前眼部写真(a,b)および前眼部光干渉断層計検査(c,d)a:右眼,b:左眼.両眼とも前房は浅い.c:右眼,d:左眼.両眼とも毛様体.離,脈絡膜.離(.)を認めた.今回筆者らは,uveale.usionを伴った原田病と思われる症例を経験したので報告する.CI症例患者:61歳,女性.主訴:両眼の視力低下と難聴.現病歴:受診C1.2カ月前からの両眼の視力低下と難聴,頭痛を自覚し近医眼科を受診,両眼の虹彩炎と下方のCBRDが認められたため,自治医科大学附属病院眼科を紹介受診した.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼C0.1(0.3×+2.25D(cyl+1.75DAx160°),左眼C0.1(0.3×+1.50D(cyl+1.50DAx180°),眼圧は右眼C12CmmHg,左眼C11CmmHgであった.両眼とも前眼部は浅く(図1a,b),炎症細胞(1+)を認め,白内障はCEmery-LittleGrade3程度であった.前眼部光干渉断層計検査(opticalCcoherencetomography:OCT)では毛様体.離,CDを認めた(図1c,d).眼底は両眼とも視神経乳頭は発赤,腫脹し,網膜は下方にCBRDを認めた(図2a,b).フルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA)では後極部に少数の蛍光漏出による点状過蛍光はあったが,明らかな蛍光貯留は認めなかった(図2c~f).超音波CBモードでは肥厚した脈絡膜と強膜に加え,座位で下方に,仰臥位で後極側に移動する網膜.離を認めた(図3).眼軸長は両眼C21Cmm程度(右眼C21.07Cmm,左眼C21.22Cmm)であった.OCTでは黄斑部にフィブリン析出を伴う漿液性網膜.離があり,脈絡膜の波打ち様変化が観察された(図4).頭痛と感音性難聴の自覚症状もあり,原田病を疑い当院神経内科にて精査したところ,髄液検査では単核球優位の細胞増多を認め,感音性難聴もあることから原田病と診断した.さらに,肥厚した強膜および体位変換により移動するCBRDからCUEを合併した病態と考えた.MPPEは脈絡膜.離を伴っていることとCFAで蛍光貯留がないことなどから否定した.以上より,UEと原田病の合併症例と診断し,患者と相談のうえ,はじめにメチルプレドニゾロンステロイドパルス療法を実施することとした.なお,治療開始後にCHLAはCDR4陽性が判明している.経過:ステロイドパルス療法C1クール後,下方のCBRDは消失し(図5a,b),OCTによる脈絡膜の波打ち様変化も軽快したが,黄斑部の漿液性網膜.離は残存していた.前房深度は毛様体.離の消失に合わせて改善した(図5c,d).ステロイドパルス療法は計C3クール行い,その後,後療法としてプレドニゾロンC30Cmg/日(0.5Cmg/kg/日)より,内服漸減した.この時点で,強膜への外科的治療の介入の必要性は低いと判断した.さらに,漿液性網膜.離は徐々に軽快し,治療開始C2カ月後に両眼の漿液性網膜.離は消退した(図5e,f).治療開始C2カ月後の視力は,白内障のため右眼C0.3(0.3×+1.00D(cyl+1.00DAx145°),左眼C0.2(0.3×+0.50D(cyl+1.00DAx180°)にとどまったが,自覚症状は改善した.CII考按本症例は短眼軸長の女性で,HLADR4陽性の原田病に,UE,CDを伴ったことが特徴であった.図2初診時眼底写真(a,b)およびフルオレセイン蛍光造影検査(c~f)a:右眼,Cb:左眼.両眼とも視神経乳頭は発赤し,下方に胞状網膜.離を認めた.Cc:右眼(早期),d:左眼(早期),e:右眼(後期),f:左眼(後期).後極部に少数の蛍光漏出による点状過蛍光はあるが蛍光貯留はみられない.原田病の臨床症状として,多発する両眼性の漿液性網膜.離や視神経乳頭炎,前房炎症を伴う汎ぶどう膜炎がみられる.FAでは比較的初期から脈絡膜からのびまん性の蛍光漏出がみられ,後期ではこれらが融合し胞状の蛍光貯留を形成し,大きな円形の過蛍光が認められる.OCTでは,本症例のような隔壁を伴う炎症性変化の強い網膜下液を認める.ステロイドパルス療法の是非を勘案すべき本症例において,BRDを伴う病態としてのCMPPEの鑑別は不可欠であった.MPPEでも滲出性網膜.離が多発し,原田病によく似た臨床像を呈し,脈絡膜から網膜色素上皮に病変の主座がある9).しかし,MPPEでは本症例のようなCCDを伴うことはなく,FAで多発性過蛍光点が存在し,中心性網脈絡膜症の激症型とされている.杉本ら10)によると,UE,MPPEともにOCTにおける脈絡膜肥厚などの眼所見など知見の集積が待たれる分野である.また,さらなる鑑別として後部強膜炎もあげられるが,眼痛がないことや髄液検査で無菌性髄膜炎の図3初診時超音波Bモードa:右眼座位,Cb:左眼座位,Cc:右眼仰臥位,Cd:左眼仰臥位.座位から仰臥位への体位変換で下方の網膜.離(.)が後極部へ移動した(C.).脈絡膜および強膜が肥厚していることがわかる.図4初診時光干渉断層計検査a:右眼,b:左眼.黄斑部に漿液性網膜.離があり,脈絡膜の波打ち様変化を認めた.所見が得られたことから否定的と考えた.よって本症例で般的に特発性または真性小眼球に伴うものがCuveale.usionは,無菌性髄膜炎,難聴,COCT所見,CCDを伴うことなどsyndromeとよばれている1.3).CUyamaら2)は本症を小眼から,原田病が存在していると判断した.球・強膜肥厚の有無により,C3病型に分類した.過去の報告UEは強膜異常によりぶどう膜からの滲出が発生する比較から,病態は強膜にあると理解されており,経強膜的流出路的まれな疾患で,体位変換により網膜下液が容易に移動する障害説が主要因,経渦静脈流出路障害説が副次的要因とし可動性が高い非裂孔原性網膜.離と眼底周辺部全周に存在すて,上脈絡膜腔での液体貯留期間が長期に及ぶと脈絡膜.離るCCDを主病変とする疾患群として紹介された.現在では一を生じ,二次的に網膜色素上皮のポンプ機能が障害され,脈図5治療後の眼底写真(a,b)と前眼部光干渉断層計検査(c,d)および治療開始2カ月後の光干渉断層計検査(e,f)a:右眼,Cb:左眼.下方の胞状網膜.離は消失した.Cc:右眼,Cd:左眼.毛様体.離は消失し,前房は深くなった.Ce:右眼,f:左眼.黄斑部の漿液性網膜.離は消退した.絡膜下に滲出性網膜.離が発生すると考えられている.今回の症例は真性小眼球を伴わないCUEの病態を呈したと考えている.さらに,UEを生じた原因として,原田病による炎症を背景に,強膜病態が悪化してCUEとしての病態発症機転が閾値を超えてCBRDを生じたと考えている.合わせて,ステロイドパルス療法のみで外科的治療を要せず治癒したことも,このことを示唆している.すなわち,ステロイドパルス療法は直接的には原田病による炎症病態を抑制し,その炎症病態により誘発されていたCUE(BRD病態)も間接的に消失させたと考えた.ちなみに過去の報告によると,原田病で脈絡膜循環障害を生じて網膜色素上皮の柵機能障害が起きたことが,網膜下液貯留の原因としてあげられており4),病態発生に関与した可能性もある.また,原田病にCUE,CDを合併した報告は少ないが,そのなかでもCYamamotoら6)が女性,DR4陽性,眼軸長C21CmmのC1症例を報告しており,小眼球といかないまでも短眼軸長であることはCUE病態を惹起しやすいという可能性があると考えられ,移動性のあるBRDを伴う症例に遭遇した際は,眼軸計測は不可欠の臨床検査であると考える.本症例において治療開始C2カ月後の矯正視力は両眼(0.3)であるが,これは白内障の影響と考えている.OCTにて黄斑部網膜外層(ellipsoidzone)の消失があるようにもみえるが,UEとの合併や視力不良への関連については不明である.以上,UEを合併した原田病症例を報告した.BRDを伴っており,MPPEを否定することがステロイドパルス療法に先駆けて不可欠であった.本症例のごとく,女性,DR4陽性,短眼軸長であることは両疾患合併の危険因子となる可能性がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)盛秀嗣,髙橋寛二:UvealCe.usionsyndrome.あたらしい眼科C34:1691-1699,C20172)UyamaCM,CTakahashiCK,CKozakiCJCetal:UvealCe.usionsyndrome:clinicalCfeatures,CsurgicalCtreatment,ChistologicCexaminationCofCtheCsclera,CandCpathophysiology.COphthal-mologyC107:411-419,C20003)ElagouzCM,CStanescu-SegallCD,CJacksonTL:UvealCe.u-sionsyndrome.SurvOphthalmolC55:134-145,C20104)林昌宣,山本修一,斉藤航ほか:Uveale.usionを伴う原田病のC2例.眼臨C95:297-299,C20015)植松恵,川島秀俊,山上聡ほか:ステロイドパルス療法が奏効した脈絡膜.離が顕著であった原田病のC2症例.臨眼C51:1625-1629,C19976)YamamotoCN,CNaitoK:AnnularCchoroidalCdetachmentCinCaCpatientCwithCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease.CGraefesCArchClinExpOphthalmolC242:355-358,C20047)ElaraoudI,AndreattaWJiangLetal:Amysteryofbilat-eralCannularCchoroidalCandCexudativeCretinalCdetachmentCwithCnoCsystemicinvolvement:isCitCpartCofCVogt-Koy-anagi-HaradaCdiseaseCspectrumCorCaCnewentity?CCaseRepOphthalmolC8;1-6,C20178)斎藤憲,増田光司,三浦嘉久ほか:ステロイド療法中の原田病患者に見られた多発性後極部網膜色素上皮症.眼臨医報C91:1175-1179,C19979)宇山昌延,塚原勇,浅山邦夫ほか:Multifocalposteriorpigmentepitheliopathy多発性後極部色素上皮症とその光凝固による治療.臨眼C31:359-372,C197710)杉本八寿子,木村元貴,城信雄ほか:Uveale.usionsyn-dromeにおける網脈絡膜の光干渉断層計による観察.臨眼C70:1465-1472,C2016***