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トラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切り替え効果

2012年7月31日 火曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(7):979.983,2012cトラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切り替え効果生杉謙吾*1,2伊藤邦生*3江崎弘治*4杉本浩多*5,6三浦功也*7築留英之*1八木達哉*1宇治幸隆*1,8近藤峰生*1*1三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座眼科学*2名張市立病院眼科*3鈴鹿いとう眼科*4江崎眼科クリニック*5杉本眼科クリニック*6市立四日市病院眼科*7みうら眼科*8東京医療センター・感覚器センターEfficacyofSwitchingfromUnfixedCombinationtoFixedCombinationofTravoprost/TimololMaleateOphthalmicSolutionKengoIkesugi1,2),KunioIto3),KojiEsaki4),KotaSugimoto5,6),KatsuyaMiura7),HideyukiTsukitome1),TatsuyaYagi1),YukitakaUji1,8)andMineoKondo1)1)DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,NabariCityHospital,3)SuzukaItoEyeClinic,4)EsakiEyeClinic,5)SugimotoEyeClinic,6)DepartmentofOphthalmology,YokkaichiCityHospital,7)MiuraEyeClinic,8)NationalInstituteofSensoryOrgans,TokyoMedicalCenter目的:多剤併用療法を行っている緑内障患者においてトラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液(デュオトラバR配合点眼液)へ切り替えたときの眼圧下降効果および安全性を検討する.対象および方法:対象はプロスタグランジン製剤(PG製剤)とb遮断薬を併用して使用している原発開放隅角緑内障(広義),落屑緑内障および高眼圧症患者40例40眼.PG製剤とb遮断薬の併用療法からウォッシュアウト期間を設けずデュオトラバR配合点眼液へ変更し,1,2,3カ月後の眼圧,角結膜所見,全身所見として血圧および脈拍を評価した.結果:眼圧は,切り替え前,切り替え1,2,3カ月後で,それぞれ15.4±3.3mmHg,15.3±3.5mmHg,15.5±4.1mmHg,15.6±3.6mmHgとなり有意な変化はなかった.角結膜所見では,角膜上皮障害の程度はArea-Density分類にて,結膜充血所見は重症度分類により4段階で評価したが,切り替え前,切り替え1,2,3カ月後にていずれも有意な変化を認めなかった.全身所見として,切り替え前に比べ2カ月後の脈拍が有意に上昇したが,経過観察中の最高血圧および最低血圧に有意な変化はみられなかった.結論:デュオトラバR配合点眼液の眼圧下降効果は併用療法と有意な差はみられず,安全性も良好であると考えられる.Purpose:Theaimofthisstudywastoassesstheefficacyandsafetyofswitchingfromanunfixedcombinationtoafixedcombinationoftravoprost/timolol.SubjectandMethods:Thesubjectscomprised40patientswithprimaryopenangleglaucoma,exfoliationglaucomaorocularhypertensionwhowereconcurrentlyreceivingunfixedcombinationtherapyconsistingofprostaglandinanalogsandb-antagonist.Thepatientswereswitchedtoafixedcombinationoftravoprost/timololmaleateophthalmicsolution(DuotravRCombinationOphthalmicSolution),withnowashoutperiod.Observations,includingintraocularpressure(IOP)measurement,ocularsurfaceexaminations,bloodpressureandpulserateexaminations,wereperformedbeforetheswitchandat1,2and3monthsaftertheswitch.Results:AverageIOPwas15.4±3.3mmHgbeforetheswitch,15.3±3.5mmHgat1monthaftertheswitch,15.5±4.1mmHgat2monthaftertheswitchand15.6±3.6mmHgat3monthsaftertheswitch.NostatisticallysignificantIOPchangeswerenotedduringtheobservationperiod.Ocularsurfaceexaminationswereperformedusingthesuperficialpunctatekeratopathy(SPK)gradeandseveritygradesofconjunctivalinjection;nosignificantchangeswereobserved.However,significantchangeswerenotedinthepulserateat2monthsaftertheswitch,withnosignificantchangesinbloodpressureseenduringtheobservationperiod.Conclusions:Intermsofefficacy,thetravoprost/timololfixedcombinationwasequivalenttotheunfixedcombination;safetywasalsosatisfactoryafterswitching.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):979.983,2012〕〔別刷請求先〕生杉謙吾:〒514-8507津市江戸橋2丁目174番地三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座眼科学Reprintrequests:KengoIkesugi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-174Edobashi,TsuCity514-8507,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(103)979 〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):979.983,2012〕Keywords:配合剤,トラボプロスト,チモロールマレイン酸塩,眼圧,脈拍.fixedcombination,travoprost,timololmaleate,intraocularpressure,pulserate.はじめに海外ではすでに10年以上の使用実績がある緑内障配合点眼液であるが,2010年より日本でも3種類の配合点眼液が新たに認可され使用可能となった.配合剤の使用により従来の併用療法に比べ少ない点眼回数と点眼時間で治療が行えるため,患者負担の軽減に伴うアドヒアランスの改善などから投薬効果の向上が期待されている.たとえば,プロスタグランジン製剤(PG製剤)単独で目標眼圧を達成できない症例においてさらなる眼圧下降が望まれる場合,PG製剤とb遮断薬の配合剤へ切り替えると,同じ点眼回数でより強力な眼圧下降効果が期待できる1.3).一方,すでにPG製剤とb遮断薬,さらに3剤目として炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)が使用されているような多剤併用症例を配合剤へ切り替える場合では,点眼回数や点眼時間が減り治療負担の軽減により患者の利便性が向上するが,切り替え後も同程度の眼圧下降効果が維持できるかなどの検証が必要である.今回,筆者らは多剤併用療法を行っている緑内障患者においてトラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液(デュオトラバR配合点眼液)へ切り替えたときの眼圧下降効果および安全性について検討する.I対象および方法対象はPG製剤とb遮断薬を併用で使用している切り替え前の眼圧が21mmHg以下の原発開放隅角緑内障(広義),落屑緑内障および高眼圧症患者40例40眼(男性21例,女性19例)で,平均年齢は71.1±11.1歳(平均±標準偏差).エントリー期間は,2010年7月から同年12月である.対象症例の内訳は,PG製剤としてラタノプロスト(キサラタンR)使用例が24例,トラボプロスト(トラバタンズR)使用例が12例,タフルプロスト(タプロスR)使用例が4例であった.前述の3つのPG製剤とはやや異なる薬理作用機序をもつといわれているビマトプロスト(ルミガンR)およびウノプロストン(レスキュラR)使用例は含まれていない.b遮断薬では,0.5%チモロール使用例が28例(0.5%チモプトールR13例,0.5%チモプトールXER11例,0.5%リズモンTGR4例),2%カルテオロール使用例が12例(2%ミケランLAR11例,2%ミケランR1例)である.CAIについては,ブリンゾラミド(エイゾプトR)使用例が13例,ドルゾラミド(トルソプトR)使用例が2例である.1例1眼を対象とし切り替え前眼圧の高い眼を選択,眼圧が同じ値であれば右眼を対象とした.緑内障点眼薬2剤使用例(PG製剤とb遮断薬の併用)が25例,3剤使用例(PG製剤,b遮断薬およびCAIの併用)が15例であった.980あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012併用療法中のPG製剤およびb遮断薬を,ウォッシュアウト期間を設けずデュオトラバR配合点眼液へ変更し,1,2,3カ月後の眼圧を測定した.副作用の評価として,角膜上皮障害についてはArea-Density(AD)分類4)のSPK(superficialpunctatekeratopathy)スコアにより評価した.結膜充血所見は重症度分類5)の基準写真を用いて,0(充血なし)から+3(高度充血)までの4段階のスコアで評価した.全身所見として安静時の血圧および脈拍を測定した.眼圧,血圧および脈拍の測定時間は症例により異なるが,経過観察期間内において同一症例内では一定とした.眼圧,血圧および脈拍の有意差検定には対応のあるt検定を,SPKスコアおよび結膜充血の重症度スコアについてはWilcoxonの順位和検定を用いた.多重性比較法としてBonferroniの補正を行い,今回は補正後の有意水準を1.17%とした.本臨床研究の実施にあたっては,三重大学医学部臨床研究倫理審査委員会の承認を得た.研究参加者へは研究の内容について事前に文書および口頭にて担当医より説明を行い,研究開始前に文書による同意を得ている.また,本臨床研究は筆頭筆者および共著者らがそれぞれの所属施設で行った多施設共同研究である.II結果全対象症例の平均眼圧は,切り替え前15.4±3.3mmHgに対し切り替え1,2,3カ月後がそれぞれ,15.3±3.5mmHg,15.5±4.1mmHg,15.6±3.6mmHgとなり有意な変化を認めなかった.2剤使用例では,切り替え前,切り替え1,2,3カ月後がそれぞれ,15.0±3.3mmHg,14.9±3.5mmHg,15.3±4.1mmHg,15.4±3.6mmHg,3剤使用例では,切り替え前,切り替え1,2,3カ月後がそれぞれ,16.0±4.3mmHg,15.9±4.4mmHg,16.1±4.9mmHg,15.8±4.6mmHgであり,いずれも有意な変化を認めなかった(図1).切り替え後の眼圧下降値群間差(切り替え後の眼圧値.切り替え前の眼圧値)およびその95%信頼区間は,切り替え1,2,3カ月後でそれぞれ.0.1[.0.8,0.7],0.3[.0.7,1.2],0.4[.0.5,1.2]であった.配合剤の併用療法に対する非劣性の設定として,あらかじめ群間差の95%信頼区間の上限を1.5mmHg未満としてあったため,今回の症例群では多剤併用療法から配合剤への切り替えにおける眼圧下降効果は統計学的に非劣性であると考えられた(図2).眼表面の副作用に関する評価項目として,SPKスコアは,切り替え前,切り替え1,2,3カ月後がそれぞれ,0.55±0.99,0.58±0.96,0.53±1.06,0.53±0.94となり,切り替え前に比べ切り替え後3カ月まで有意な変化はみられなかっ(104) た.結膜充血の重症度スコアについては,切り替え前,切りで,有意な変化はなかった.一方,脈拍については,切り替替え1,2,3カ月後がそれぞれ,0.50±0.60,0.46±0.55,え前,切り替え1,2,3カ月後で,67.3±7.7拍/分,68.7±0.35±0.48,0.40±0.49となり,切り替え前後で有意な変化7.9拍/分,70.7±8.6拍/分,69.6±7.7拍/分となり,切り替はみられなかった(図3).血圧および脈拍の結果を図4に示す.血圧については,収縮期・拡張期ともに,切り替え前,切り替え1,2,3カ月後0.550.580.530.5300.511.5角膜びらん(SPKスコア)(点)NSNSNS15.415.315.515.605101520眼圧(mmHg)(全症例)NSNSNS切り替え前切り替え切り替え切り替え(n=40)1カ月後2カ月後3カ月後(n=40)(n=36)(n=36)切り替え前切り替え切り替え切り替え(n=40)1カ月後2カ月後3カ月後(n=40)(n=36)(n=36)0.500.460.350.4000.51結膜充血(重症度スコア)(点)NSNSNS15.014.915.315.405101520眼圧(mmHg)(2剤使用例)NSNSNS図3多剤併用療法から配合剤への切り替え前後の角結膜所見切り替え前切り替え切り替え切り替えBonferroni補正法を用いたWilcoxonの順位和検定,NS:not(n=25)1カ月後2カ月後3カ月後significant.(n=25)(n=23)(n=23)切り替え前切り替え切り替え切り替え(n=40)1カ月後2カ月後3カ月後(n=40)(n=36)(n=36)NSNS切り替え切り替え切り替え16.015.916.115.805101520切り替え前眼圧(mmHg)(3剤使用例)NS(n=15)1カ月後2カ月後3カ月後(n=15)(n=13)(n=13)最高血圧および最低血圧(mmHg)170NSNSNS150142.1140.9141.3137.41301109081.581.282.180.270NSNSNS切り替え前0切り替え切り替え切り替え(n=40)1カ月後2カ月後3カ月後(n=40)(n=36)(n=36)図1多剤併用療法から配合剤への切り替え前後の眼圧Bonferroni補正法を用いた対応のあるt検定,NS:notsignificant.NS(p=0.048)67.368.770.769.6606570758085NS(p=0.250)p=0.0060脈拍(拍/分)眼圧下降値(mmHg)3210-1-2-0.10.30.4[-0.8,0.7][-0.7,1.2][-0.5,1.2]切り替え1カ月後切り替え2カ月後切り替え3カ月後(n=40)(n=36)(n=36)図2多剤併用療法から配合剤への切り替え後の眼圧下降値切り替え後の眼圧下降値群間差(切り替え後.切り替え前)[95%信頼区間]併用療法に対する非劣性の設定:群間差の95%信頼区間の上限が1.5mmHg未満.(105)切り替え前切り替え切り替え切り替え(n=40)1カ月後2カ月後3カ月後(n=40)(n=36)(n=36)図4多剤併用療法から配合剤への切り替え前後の血圧および脈拍Bonferroni補正法を用いた対応のあるt検定,NS:notsignificant.あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012981 え前に対し切り替え2カ月後で有意に増加していた.経過観察中に脱落した症例は,緑内障治療とは関係のない全身既往症の悪化により入院のため通院不可(86歳,男性),通院を自己中断(77歳,男性),眼瞼の色素沈着が増加(64歳,女性:キサラタンRと0.5%チモプトールXER使用例),眼圧上昇および頭痛の自覚(69歳,女性:12mmHgから16mmHgへ眼圧上昇・キサラタンR,2%ミケランLARおよびエイゾプトR使用例)の4例であった.III考按2010年日本で初めて緑内障配合剤が承認された.配合剤に期待される利点として,特に併用療法から配合剤へ切り替える場合,点眼回数の減少によるアドヒアランスの向上があげられる6,7).緑内障治療において点眼薬の使用薬剤数とアドヒアランスの関係については,薬剤本数が少ないほど点眼のアドヒアランスが良好と評価できる患者の割合が多く,点眼瓶の本数が多くなるほどアドヒアランスが低下すると報告されている8).その他の利点としては,多剤併用時に必要な5分間の点眼間隔が不要になり,薬剤の洗い流しを回避し薬効の低下を防ぐことができ,点眼の順序も考えなくてよい.点眼される薬液の量が軽減されるので,点眼液に含まれる防腐剤の量が減少し眼表面の障害を軽減できる可能性もある.また,複数の点眼薬を併用するより配合剤を使用するほうが,一般的に投薬にかかる経済的負担が減り医療資源を有効に活用できるという社会的な利点も考えられる.一方,配合剤使用時の注意点としては,配合剤の成分2剤ともの副作用に留意が必要であることや,単剤の併用時と比べ同等の眼圧下降効果が得られるかという懸念もある.つまりPG製剤とb遮断薬の配合剤の場合,通常の基材のb遮断薬が1回点眼となるため,24時間の眼圧下降効果を考えるとトラフ値に近い時間帯では眼圧下降効果が併用療法に比べ弱いことが考えられる.今回の筆者らの結果では,2剤併用例からの切り替え群および3剤併用例からの切り替え群,そして全症例群のいずれも切り替え前後で眼圧の有意な変化はなかった.また,切り替え後3カ月までの眼圧下降値は切り替え前に比べ統計学的に非劣性であり,過去の報告2,3,9)と同様に併用療法からデュオトラバR配合点眼液への切り替えによる眼圧下降効果は切り替え前と比べ同程度であると考えられた.単剤の併用療法から配合剤への切り替えでは,前述のような理由で薬理学的には眼圧下降効果に劣ることが危惧されるが,実際にはアドヒアランスの向上などの利点により効果が維持できていると考えられた.一方,今回の研究では,配合剤の点眼時間と眼圧測定の時間が症例により一定でない点には注意が必要で,配合剤の朝点眼を行った症例が全体の3/4,夜点眼の症例が1/4あり,配合剤点眼から眼圧測定までの平均時間は約7時間で,薬物の眼圧下降効果判定が切り替え前と982あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012異なる時間帯に行われている例が含まれている.さて今回の併用療法から配合剤へ切り替え試験においては,切り替え後の眼圧下降効果は切り替え前と比べ同程度で眼圧下降効果の維持という点からも配合剤の有用性が認められたが,一方,個々の症例については切り替え後にさらなる眼圧下降が得られる例や反対に眼圧上昇例を経験することもある.筆者らの今回の症例群でもたとえば,切り替え1カ月後に2mmHg以上眼圧が下降した症例は全体の22.5%,眼圧が維持できた例(±1mmHg以下)も55.0%あったが,残りの22.5%の症例で2mmHg以上の眼圧上昇がみられた.どのような症例で切り替え後に眼圧が下降または逆に上昇するのか,その背景は現在明らかではないが,これらのことからも併用療法から切り替えを行うときには,個々の症例について患者の個性や点眼切り替え前のアドヒアランス,眼圧下降効果の長期的な評価などを考慮し,配合剤をうまく活用した処方パターンを考えていくべきであると考える.今回の研究では点眼薬の切り替えによる眼表面への影響も評価した.国内で認可されたデュオトラバR配合点眼液は,防腐剤として塩化ポリドロニウムが使用され,ベンザルコニウム塩化物(BAC)が含まれていない点が海外での従来のものと異なる.BAC非含有配合剤では眼表面への障害が軽減され角膜所見の改善が見込まれる.今回の切り替え試験では,点眼回数の減少や点眼薬がBAC非含有となることで角膜所見の改善が期待されたが,切り替え前から切り替え後3カ月までの間に,角膜所見の有意な変化はなかった.これについては,切り替え前のSPKスコアが0(点)の症例が全体の75%あり,切り替え前平均SPKスコアは0.55と低く元々角膜びらんがないか比較的軽度の症例が多かったため,配合剤への切り替えによる角膜所見の改善効果が評価しづらかったことも切り替え前後で有意な変化がなかった理由の一つと考えられる.結膜充血については重症度分類を用いて評価したが,切り替え前に比べ切り替え後に平均スコアはやや減少し充血が軽減される傾向があったが,統計学的に有意な変化ではなかった.また,併用療法から配合剤へ切り替え後の全身への影響の評価として,今回筆者らは,最高血圧,最低血圧および脈拍の変化をみた.結果,最高血圧および最低血圧ともに経過観察期間中,有意な変化はなかったが,脈拍については切り替え以降上昇傾向があり,切り替え2カ月後で統計学的に有意な上昇がみられた.過去には併用療法から配合剤への切り替え前後の脈拍の変化について特に有意な変化はなかったと報告されている10).しかし,切り替え前後の脈拍数の変化がb遮断薬の作用によるものであるとすれば,今回の筆者らの結果からは,切り替え前に使用していたb遮断薬と配合剤に含まれるチモロールマレイン酸塩の薬理効果の差が,切り替え前後の脈拍数の変化と関連している可能性があると考えら(106) れた.今回筆者らは,緑内障多剤併用療法からデュオトラバR配合点眼液への切り替え効果について報告した.前述のように配合剤の最も有利な点は,患者の利便性向上であろう.今後も新たな機序による緑内障点眼治療薬が使用可能となるにつれて点眼薬の併用療法を行う患者の増加が考えられる.そのような流れのなかで,2種類の薬剤を一度に点眼できる配合剤は,今後,緑内障薬物治療を考えるうえでさらに重要な位置を占めていくと思われる.日本国内では配合剤の使用経験に関する報告はまだ少なく,今後さらにさまざまな処方例での長期的な評価が必要であろう.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DiestelhorstM,AlmegardB:Comparisonoftwofixedcombinationsoflatanoprostandtimololinopen-angleglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol236:577581,19982)BarnebeyHS,Orengo-NaniaS,FlowersBEetal:Thesafetyandefficacyoftravoprost0.004%/timolol0.5%fixedcombinationophthalmicsolution.AmJOphthalmol140:1-7,20053)SchumanJS,KatzGJ,LewisRAetal:Efficacyandsafetyofafixedcombinationoftravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolutiononcedailyforopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol140:242-250,20054)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,20035)大野重昭,内尾英一,石崎道治ほか:アレルギー性結膜疾患の新しい臨床評価基準と重症度分類.医薬ジャーナル37:1341-1349,20016)中田哲行:緑内障・高眼圧症治療薬ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合剤「ザラカム配合点眼液」.眼薬理25:17-21,20117)清野歩,佐々木英之,山田啓二:緑内障・高眼圧症治療剤トラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液「デュオトラバ配合点眼液」.眼薬理25:22-26,20118)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-243,20099)HughesBA,BacharachJ,CravenERetal:Athree-month,multicenter,double-maskedstudyofthesafetyandefficacyoftravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolutioncomparedtotravoprost0.004%ophthalmicsolutionandtimolol0.5%dosedconcomitantlyinsubjectswithopenangleglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma14:392-399,200510)KitazawaY,SmithP,SasakiNetal:Travoprost0.004%/timolol0.5%-fixedcombinationwithandwithoutbenzalkoniumchloride:aprospective,randomized,doubled-maskedcomparisonofsafetyandefficacy.Eye(Lond)25:1161-1169,2011***(107)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012983