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慢性涙嚢炎が契機と考えられた角膜潰瘍の3症例

2014年4月30日 水曜日

《第50回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科31(4):567.570,2014c慢性涙.炎が契機と考えられた角膜潰瘍の3症例日野智之*1,2外園千恵*1東原尚代*1,3山田潤*4上田幸典*1渡辺彰英*1木下茂*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2大阪府済生会吹田病院*3ひがしはら内科眼科クリニック*4明治国際医療大学ThreeCasesofCornealUlcerCausedbyChronicDacryocystitisTomoyukiHino1,2),ChieSotozono1),HisayoHigashihara1,3),JunYamada4),KousukeUeda1),AkihideWatanabe1)andShigeruKinoshita1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)SaiseikaiSuitaHospital,3)4)MeijiUniversityofIntegrativeMedicineHigashiharaclinic,感染巣を伴わない角膜潰瘍により紹介,慢性涙.炎を診断し治癒した3症例を報告する.症例1:88歳,女性,抗菌薬抵抗性の角膜潰瘍にて紹介受診.初診時に多量の膿性眼脂,右眼鼻下側に細胞浸潤に乏しい角膜潰瘍を認め,涙.炎を診断した.LVFX(レボフラキサシン)および0.1%ベタメタゾン点眼,セフカペン内服により数日で治癒した.症例2:84歳,男性,初診時に多量の膿性眼脂,右眼鼻下側に細胞浸潤に乏しい角膜潰瘍を認め,涙道洗浄,LVFX点眼により治癒した.症例3:100歳,女性,眼脂と眼瞼腫脹があり,眼内炎の診断で紹介受診.初診時に多量の膿性眼脂と広範囲の角膜上皮欠損,前房蓄膿を認めた.涙.炎を診断,GFLX(ガチフロキサシン)およびセフメノキシム点眼,セフカペン内服により約1週間で治癒した.いずれも前医で涙道閉塞を指摘されておらず,初診時に涙道洗浄で多量の膿が逆流,膿の検鏡で多数の好中球,培養でMSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)などを検出した.抗菌薬抵抗性で多量の眼脂を伴う角膜潰瘍では,涙道閉塞に留意する必要がある.Thisstudyinvolved3casesofcornealulcerwithoutcellinfiltration.Case1,an88-year-oldfemale,presentedacornealulcerwithoutcellinfiltrationatthelowernasalsideofherrighteyethatwasresistanttotreatmentwithlevofloxacin.Case2,an84-year-oldmale,presentedacornealulcerwithoutcellinfiltrationatthelowernasalsideofhisrighteye.Case3,a100-year-oldfemale,presentedeyelidswelling,alargecornealepithelialdefectandhypopyoninherrighteye.Atfirstpresentation,all3casesexhibitedpurulentdischargeandwerediagnosedaschronicdacryocystitis.Mucopurulentdischargesamplesshowedmanyneutrophils;methicillin-sensitiveStaphylococcusaureusorotherbacteriawerecultured.Thesefindingsshowthatstrictattentionshouldbepaidtolacrimalductobstructionwhentreatingcornealulcerswithoutcellinfiltrationthatareaccompaniedbyalargeamountofdischargeandareresistanttoantibacterialtreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(4):567.570,2014〕Keywords:角膜潰瘍,膿性眼脂,慢性涙.炎,好中球.cornealulcer,purulentdischarge,chronicdacryocystitis,neutrophil.はじめに感染性角膜炎は角膜中央に生ずることが多く,急性に疼痛,眼脂および視力低下を伴って発症し,重症では角膜実質内の膿瘍,前房蓄膿を呈する.感染性角膜炎のなかでも肺炎球菌による角膜炎は,高齢者の慢性涙.炎がリスク因子の一つであることが古くから指摘されている.一方,角膜周辺部に潰瘍を生ずる疾患として,Mooren潰瘍,膠原病に伴う周辺部角膜潰瘍(リウマチ性角膜潰瘍),カタル性角膜潰瘍がある.これらは非感染性に潰瘍をきたし,通常は眼脂を伴わない.今回筆者らは,多量の眼脂を伴うが,実質に感染所見を伴わない角膜潰瘍により紹介され,慢性涙.炎を診断した3症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕外園千恵:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:ChieSotozono,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Hirokouji-agaru,Kawaramachi-dori,Kamigyo-ku,Kyoto602-0841,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(89)567 I症例〔症例1〕患者:88歳,女性.主訴:眼脂.既往歴:甲状腺腫瘍手術.現病歴:2013年1月7日,近医を初診した.右眼に多量の眼脂,睫毛乱生,角膜潰瘍を認め,1.5%レボフロキサシン点眼4/日,0.1%フルオロメトロン点眼4/日で治療されるも改善なく,1月16日京都府立医科大学眼科(以下,当科)紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.06(n.c.),左眼0.06(0.3×sph-2.0D(cyl-1.25DAx120°),眼圧は右眼12mmHg,左眼10mmHgであった.右眼に多量の膿性眼脂,角膜の鼻下側周辺に潰瘍を認めたが,潰瘍部に明らかな細胞浸潤を伴わず,前房内炎症も認めなかった(図1).通水試験を施行したところ,膿の逆流を認め,右眼の眼脂培養にてMSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)を検出した.図1症例1:初診時の右眼前眼部上:鼻下側に角膜潰瘍,多量の眼脂を伴うが潰瘍部の細胞浸潤,前房内炎症はない.下:フルオレセイン染色.経過:1.5%レボフロキサシン点眼4/日,0.1%ベタメタゾン点眼2/日,セフカペン(100)3錠分3に処方変更したところ,数日で潰瘍の治癒を得た.鼻涙管閉塞に対して涙管チューブを挿入し,内反症については手術を希望されなかった.当院初診時の採血にてリウマチ因子が陽性(RF84.1IU/ml)であり,内科にて精査したが,リウマチの診断に必要な他の所見を伴わないために経過観察となった.〔症例2〕患者:84歳,男性.主訴:左眼疼痛.既往歴:認知症,糖尿病(コントロール不良).現病歴:2013年1月14日,2日前からの左眼疼痛を主訴にA病院を受診した.A病院にて左眼角膜穿孔を認めたが,眼窩部CT(コンピュータ断層撮影)にて鉄片異物を認めず,1.5%レボフロキサシン処方のうえで経過観察となった.1月17日再診時,両眼に角膜潰瘍があり,診断および加療目的で当科紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.2(n.c.),左眼0.04(n.c.),眼圧は右眼16mmHg,左眼11mmHgであった.両眼ともに,抗菌点眼の使用にもかかわらず,多量の膿性眼脂を認めた.右眼は下眼瞼に高度の内反を伴い,角膜鼻下側周辺の上皮欠損と菲薄化を認めた(図2).左眼は穿孔閉鎖しておりフルオレセインに染まらず,また角膜に感染所見を認めなかった.通水試験にて両眼ともに多量の膿の逆流を認め,膿の培養検査でMSSAを検出した.眼脂の塗抹鏡検では,右眼からは好中球,グラム陽性球菌,左眼からは多量の好中球を検出した(図3).経過:1.5%レボフロキサシン点眼,0.1%フルオロメトロン点眼の継続,涙道洗浄により,涙.炎,角膜上皮欠損ともに次第に改善し,初診から3週後には角膜上皮欠損はほぼ消失した.〔症例3〕患者:100歳,女性.主訴:右眼の眼脂,眼瞼浮腫.既往歴:詳細不明.現病歴:以前より眼脂に対してB病院より抗菌点眼を処方されていた.2011年11月14日,介護施設に入所のために親戚が訪れた際に,右眼に高度の眼瞼浮腫,多量の眼脂を認めたため,近医C眼科を受診した.C眼科にて,膿性眼脂,角膜潰瘍,前房蓄膿を認め,眼内炎疑いで同日,当科紹介となった.初診時所見:右眼に高度の眼瞼浮腫,多量の膿性眼脂,広範囲の上皮欠損,前房内フィブリン,前房蓄膿を認めた(図4).角膜に明らかな細胞浸潤,膿瘍を認めず,通水試験にて多量の膿の排出を認めた.排出した膿の培養検査からPeptostreptococcusanaerobius,Actinomycesmeyeri,Prevotellaintermediaを検出した.眼脂の塗抹鏡検ではグラム陽性球菌,グラム陰性桿菌,多568あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(90) 図2症例2:初診時の右眼前眼部鼻下側に角膜潰瘍を認める.図4症例3:初診時の右眼前眼部上:眼瞼浮腫,多量の眼脂,前房蓄膿を認める.下:前眼部フルオレセイン染色にて広範囲の上皮欠損(線内)を認める.図3症例2:初診時の右眼膿塗抹鏡検像好中球に貪食されるグラム陽性球菌を認める.量の白血球を認め(図5),培養検査によりEikenellacorrodensを検出した.経過:涙.炎に伴う角膜潰瘍の診断にてガチフロキサシン点眼6/日,セフメノキシム点眼6/日,セフカペン(100)3錠分3,涙.マッサージにて加療を開始した.B病院内科に入院し,C眼科から往診した.前房蓄膿は速やかに消失し,涙.炎は徐々に軽快,角膜上皮欠損も徐々に縮小,消失した.図5症例3の右眼脂塗抹鏡検にて好中球に貪食されるグラム陽性球菌を認める.(91)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014569 II考按今回経験した3症例では,88歳,84歳,100歳と高齢であること,多量の眼脂を伴うが,細胞浸潤に乏しく,感染巣を伴わない角膜潰瘍を認めたことが共通していた.症例1,症例2では前医より処方された抗菌点眼薬を使用していたにもかかわらず,多量の眼脂を認めた.3症例とも,通水試験により膿の逆流を認め,慢性涙.炎と診断した.これらの症例は角膜感染症あるいは眼内炎が疑われて紹介されたが,角膜内に膿瘍や明らかな細胞浸潤を認めず,涙.炎により二次的に生じた非感染性の病態が主体であったと考える.慢性涙.炎は,鼻涙管閉塞のために涙液が涙.内に貯留し,病原微生物の増殖を生じるものである.涙.内に貯留した膿は,ときに結膜.に逆流する1)が,眼痛などの症状を伴わず,流涙,眼脂など自覚症状に乏しいことも少なくない.成人の涙.炎からの検出菌は,Staphylococcusepidermidis,MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)を含めたStaphylococcusaureusが多数を占めることが報告されており2,3),今回の結果も過去の報告に合致するものであった.慢性涙.炎では,抗菌薬の点眼や内服を続けても一時的な改善がみられるだけであり,根治するには涙道再建術が必要である1).いずれの症例も,前医では涙.炎を診断されておらず,膿の塗抹鏡検で多量の好中球が観察された.多量の眼脂に含まれる菌の毒素,好中球のライソゾーム酵素が角膜潰瘍の成立と進行に寄与した4)と推測された.症例1は睫毛乱生,症例2と3では内反症を認めたことより,睫毛接触による微細な角膜上皮障害が発症の契機となった可能性が考えられた.周辺部角膜潰瘍の代表的疾患は,Mooren潰瘍,リウマチ性角膜潰瘍,カタル性角膜潰瘍があげられる.カタル性角膜潰瘍は透明帯を伴い,細胞浸潤が主体である.Mooren潰瘍,リウマチ性角膜潰瘍では深く掘れ込むような急峻な潰瘍所見が特徴である5)が,3症例ともに,潰瘍部に明らかな細胞浸潤を認めず,輪部に沿った深く掘れ込むような潰瘍所見も認めなかった.今回の3症例のような多量の膿性眼脂を伴う角膜潰瘍で,細胞浸潤に乏しい場合には通水試験を行い,慢性涙.炎の有無を確認する必要がある.慢性涙.炎による角膜潰瘍が疑われた場合は,眼脂あるいは涙.から排出される膿の塗抹鏡検と培養検査を行い,感受性のある抗菌薬の点眼と内服を処方し,涙道再建術を行うことが望ましい.慢性涙.炎が診断されないままであると,角膜潰瘍の遷延化や再発をきたしたり,感染性角膜潰瘍に進展する可能性がある.また,逆に慢性涙.炎は角膜潰瘍の原因になるため,慢性涙.炎を診断した場合は,角膜の診察も必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)児玉俊夫:涙.炎と涙小管炎.あたらしい眼科28:323329,20112)児玉俊夫,宇野敏彦,山西茂喜ほか:乳幼児および成人に発症した涙.炎の検出菌の比較.臨眼64:1269-1275,20103)HartikainenJ,LehtonenOP,SaariKM:Bacteriologyoflacrimalductobstructioninadults.BrJOphthalmol81:37-40,19974)芝野宏子,日比野剛,福田昌彦ほか:慢性涙.炎が原因と考えられた周辺部角膜潰瘍の3例.眼臨101:755-758,20075)外園千恵,木下茂,横井則彦ほか:周辺部角膜と強膜の捉え方.角膜疾患外来でこう診てこう治せ.メジカルビュー社,p108-109,2005***570あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(92)