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連続縫合による全層角膜移植後の角膜炎に対し医療用コンタクトレンズ併用下に術後早期抜糸を行い炎症の制御が良好であった2例

2019年6月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科36(6):816.820,2019c連続縫合による全層角膜移植後の角膜炎に対し医療用コンタクトレンズ併用下に術後早期抜糸を行い炎症の制御が良好であった2例上川床美紀*1,2福井正樹*1~3水野嘉信*1,4野田徹*1*1国立病院機構東京医療センター眼科*2慶應義塾大学医学部眼科学教室*3南青山アイクリニック*4帝京大学医学部眼科学講座CRepeatedPartialRunningSutureRemovalandMedical-useContactLensWearforIn.ammationatEarlyStageafterPenetratingKeratoplastyMikiKamikawatoko1,2),MasakiFukui1.3),YoshinobuMizuno1,4)andToruNoda1)1)DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationTokyoMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,3)MinamiaoyamaEyeClinic,4)DepartmentofOphthalmology,TeikyoUniversitySchoolofMedicineC緒言:全層角膜移植(PKP)を連続縫合で行った際に早期に抜糸を行うことは創離開のリスクとなる.今回,PKP後の角膜炎に対し医療用コンタクトレンズ(MUCL)装用を併用し,部分抜糸を繰り返すことで創離開を回避しつつ炎症の制御を得たC2症例を経験したので報告する.症例1:45歳,男性,PKP後に生じた感染性角膜炎後の角膜瘢痕に対しCPKPを行った.術後C8週に下耳側の角膜炎症と縫合糸の緩みを認めた.症例2:34歳,男性,円錐角膜の急性水腫後の瘢痕に対しCPKPを行った.術後C3週で下方角膜に血管侵入と拡張を認め,術後C12週に鼻側,耳側の縫合糸の緩みを認めた.両症例ともステロイドのCTenon.下注射・内服を追加し,MUCL装用を併用しつつ連続縫合糸の部分抜糸を繰り返したが,創離開なく炎症も制御された.結論:連続縫合によるCPKP後早期に抜糸が必要になった際にも,部分抜糸とCMUCLの装用を併用することで創離開や患者の疼痛を回避しつつ抜糸可能なことが示唆された.CSutureCremovalCatCanCearlyCstageCafterpenetratingCkeratoplasty(PKP)posesCriskCofCwoundCgap.CHereCweCreportCtwoCkeratitisCcasesCatCearlyCstageCafterCPKPCthatCwereCcontrolledCbyCrepeatedCpartialCsutureCremovalCandCwearingamedical-usecontactlens(MUCL).A45-year-oldmalewithcornealscarafterinfectionanda34-year-oldCmaleCwithCacuteChydropsCscarringCunderwentCPKP.CBothChadCcornealCin.ammationCandClooseCsutureCbyC3monthsafterPKP.Treatedwithsteroid,theyrepeatedlyunderwentpartialremovalofrunningsutureandworeaMUCL.CTheCin.ammationCwasCcontrolledCandCallCsuturesCwereCultimatelyCremovedCwithoutCcausingCaCwoundCgap.CThesecasessuggestthatrepeatedpartialsutureremoval,alongwithMUCLwear,ise.ectiveforcontrollingkera-titisatearlystageafterPKPwithoutcausingwoundgaps.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(6):816.820,C2019〕Keywords:全層角膜移植,術後早期抜糸,部分抜糸,医療用コンタクトレンズ.penetratingkeratoplasty,sutureremovalafterpenetratingkeratoplastyinanearlystage,partialsutureremoval,medicalusecontactlens.Cはじめに創部の縫合不全もしくは離開が起きる可能性が報告されてい角膜移植後の連続縫合糸を術後一定期間で抜糸するか留置る2).また,一般的に術後半年からC1年以内の抜糸は創離開するかは議論が分かれる1).全層角膜移植術(penetratingの高リスクと考えられているが,それ以降でも創離開のリスkeratoplasty:PKP)後の創傷治癒は緩徐であり,抜糸後はクがあるとの報告がある3).〔別刷請求先〕上川床美紀:〒152-8902東京都目黒区東が丘C2-5-1国立病院機構東京医療センター眼科Reprintrequests:MikiKamikawatoko,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationTokyoMedicalCenter,2-5-1Higashigaoka,Meguro-ku,Tokyo152-8902,JAPANC816(112)d図1症例1の前眼部写真および前眼部OCTによる角膜トポグラフィ(RealK)の変化a:角膜移植当日の前眼部写真.b:術後C8週.結膜充血,8.10時の角膜浮腫と縫合糸の緩み(.),同部位の角膜融解を認める.前房内炎症は認めない.c:術後C9週.結膜充血は消退している.7時の角膜に炎症を認め,縫合糸の緩み(.)は進行している.d:最終受診時(術後C1年C4カ月).移植片の接着は良好で透明性が保たれている.e:角膜移植後,炎症前(術後4週).KsC44.2DC@127°,Kf39.2DC@37°.f:角膜炎発症時(術後5週).KsC46.8DC@129°,Kf35.6DC@39°.g:連続縫合糸抜糸中(術後20週).KsC42.5DC@151°,Kf41.5DC@61°.h:最終受診時(術後1年4カ月).Ks45.2DC@105°,Kf40.4DC@15°.一方,縫合糸による合併症には縫合糸膿瘍や血管侵入,糸の緩みや炎症,さらに重篤な合併症として拒絶反応や眼内炎などが報告されている4.7).今回筆者らは,PKP後の角膜炎に対し医療用コンタクトレンズ(medicalCuseCcontactlens:MUCL)装用を併用しながら連続縫合糸の部分抜糸を繰り返すことで,創離開を回避しつつ炎症の制御を得たC2症例を経験したので報告する.CI症例〔症例1〕45歳,男性.主訴:右眼疼痛,霧視.現病歴:右眼疼痛,霧視を主訴にC2016年C3月に前医を受診した.感染性角膜炎の診断で同年C4月に東京医療センター眼科(以下,当院)紹介受診した.既往歴:右眼角膜ヘルペス,2004年右眼角膜混濁に対しPKPを実施されている.治療経過:右眼真菌性角膜炎と診断し,点眼治療を開始した.その後,角膜上方の血管侵入や実質瘢痕化を認めるものの,浸潤巣・角膜潰瘍は徐々に縮小し上皮化が得られた(図1a).2017年C2月の右眼視力は(0.15×sph.1.75D(cyl.5.50CDAx70°)と低下していたため,2017年3月に右眼PKPを行った.術式は,前回ドナーグラフト(7.5Cmm径)を.離除去し,7.75Cmm径のCBarron式角膜パンチで新たに作製したドナーグラフトを連続C24針縫合した.術後点眼はC0.1%ベタメタゾン点眼とC1.5%レボフロキサシン点眼を各C1日C5回,0.1%タクロリムス点眼とC0.4%リスパジル点眼を各C1日C2回とした.術後C5週に耳側角膜に血管侵入,縫合糸付着物を認め,角膜炎を生じた.また,耳側縫合糸の緩みがあり縫合糸調整を行った.術後C8週には結膜充血と角膜下耳側に浮腫,縫合糸の緩みおよび同部位の角膜融解を認めた(図1b).前房内炎症は認めなかった.トリアムシノロンCTenon.下注射,0.1%ベタメタゾン頻回点眼,プレドニゾロンC30Cmgを内服とした.術後C9週には結膜充血は改善したものの,角膜下耳側に炎症を認め縫合糸はさらに緩んでいた.7-10時の縫合糸を抜糸し(図1c),MUCL装用とした.なお,MUCLはC1カ月交換連続装用ソフトコンタクトレンズであるClotra.lconAを使用し,受診のたびに医師がレンズの装脱と交換を行った.以降C1カ月ごとに来院.緩んだ縫合糸のみ抜糸を繰り返し,MUCL装用を続けた.2017年C10月(術後C7カ月)に全抜糸を行った.最終受診時(2018年C8月:術後C1年C4カ月)の右眼視力は(1.2×sph.1.50D(cyl.5.00DAx10°)であり,移植片の接着は良好で透明性が保たれていた(図1d).角膜形状の変化は,炎症時には炎症部および一致して緩んだ縫合糸のC8時の部位で平坦化を認めた(図1f).部分抜糸に伴い平坦化は消失し(図1g),全抜糸後(図1h)にはもとの乱視軸(図1e)と異なる乱視軸に落ち着いた.〔症例2〕34歳,男性.cd図2症例2の前眼部写真および前眼部OCTによる角膜トポグラフィ(RealK)の変化a:角膜移植当日の前眼部写真.Cb:術後C3週.8時の角膜に糸状物付着とC6時の角膜輪部に血管拡張(.)を認める.Cc:術後13週.5時・9時の縫合糸の断端の緩み(.)を認める.Cd:最終受診時(術後C1年C2カ月).移植片の接着は良好で透明性が保たれている.Ce:角膜移植後,PKAS鎮静後,炎症前(術後2週).Ks49.4D@102°,Kf41.6D@12°.Cf:炎症時(術後3週).Ks49.4DC@99°,Kf41.3DC@9°.Cg:連続縫合糸抜糸中(術後12週).KsC52.9DC@81°,KfC39.2C@171°.Ch:最終受診時(術後1年2カ月).KsC47.6DC@80°,Kf45.4D@170°.主訴:左眼霧視,疼痛,視力低下.現病歴:左眼霧視,疼痛を主訴にC2016年C4月に前医を受診し,急性水腫の診断で当院紹介受診した.既往:両眼円錐角膜,アトピー性皮膚炎.治療経過:急性水腫および細菌性角膜潰瘍と診断し点眼治療を開始した.浸潤巣,角膜潰瘍は徐々に縮小し,上皮化を得た.その後,0.1%ベタメタゾン点眼,0.1%タクロリムス点眼を各C1日C2回追加し,角膜中央の実質混濁と菲薄化,下方角膜の血管侵入を認めるものの,瘢痕化を得た(図2a).眼脂培養結果は表皮ブドウ球菌が陽性であった.2017年C5月の左眼視力は(0.06C×sph.2.00D)と低下していたため,同年C6月に左眼CPKPを行った.術式は,7.5Cmm径の真空トレパンおよびカッチン剪刀でレシピエント角膜を切除し,7.75Cmm径のCBarron式角膜パンチで打ち抜いたドナーグラフトを連続C24針縫合した.術後点眼は,0.1%ベタメタゾン点眼とC0.5%モキシフロキサシン点眼を各C1日C5回,タクロリムス点眼をC1日C2回とした.術後C1週より充血と下方角膜輪部からの角膜侵入血管の拡張を認め,角膜移植後アトピー性強角膜炎(postkeratoplastyatopicsclerokeratitis:PKAS)8)と判断し,プレドニゾロン30Cmgの内服を開始したところ,PKASは翌週には鎮静した.術後C3週には糸状物付着と再度下方角膜輪部に血管拡張を認め(図2b),トリアムシノロンCTenon.下注射を行い,血管拡張の改善を得た.術後C12週には鼻側,耳側の縫合糸の緩みを認め,部分抜糸を行いCMUCL装用とした.本症例においてもCMUCLは症例C1と同様Clotra.lconAを使用し,受診のたびに医師がレンズの装脱と交換を行った.以降,MUCL装用を継続し,緩んだ縫合糸を適宜部分抜糸した(図2c).2017年C12月(術後C6.5カ月)に全抜糸を行った.最終受診時(2018年C8月:術後C1年C2カ月)の左眼視力は(0.8CpC×sph.8.50D(cyl.1.75DAx10°)であり,移植片の接着は良好で透明性が保たれていた(図2d).角膜形状の変化は,炎症時には緩んだC3時・9時の縫合糸の部位に一致して角膜形状の平坦化を認めた(図2f).部分抜糸に伴い平坦化は消失し(図2g),全抜糸後(図2h)にはもとの乱視軸(図2e)と異なる乱視軸に落ち着いた.CII考按PKP後,術後早期に角膜炎が生じ連続縫合糸が緩んだ症例に対し,部分抜糸とCMUCL装用を行い,最終的に安全に全抜糸を行えたC2症例を経験した.連続縫合でCPKPを行った後,長期に縫合糸を抜糸せずに残すか,一定期間で抜糸を行うかは議論が分かれる.その理由として,1)Host-Graft間強度(縫合糸抜糸に伴う創離開のリスク),2)縫合糸トラブル(感染や異物反応に伴う炎症・拒絶反応の誘発),3)異物感(縫合糸の緩みや糸が切れた際の疼痛),4)角膜形状の変化(縫合糸抜糸に伴う予測不能な屈折変動)があげられる.今回筆者らがCMUCL装用を併用しながら連続縫合糸を部分図3角膜移植後の角膜炎に対する治療方針角膜移植後に角膜炎を認めた際には薬物治療と抜糸を検討する.本症例では薬物治療に加え,部分抜糸および医療用コンタクトレンズ(MUCL)を併用して炎症の制御を行った.★:今回行った治療.MUCL:medicalusecontactlens.抜糸し角膜炎を制御できたC2症例をこれら四つの観点から検討した.1)Host-Graft間強度(縫合糸抜糸に伴う創離開のリスク)縫合糸は,トレパンでの垂直切開によるCPKPの強度低下に対し,移植片の接着の維持に機能する.そのため,術後早期に抜糸を行うことは創離開のリスクとなる.具体的には,抜糸処置の際に角膜上皮損傷をきたすことで上皮面の接着が維持されなくなること,抜糸時の埋没したノットを除去する際のCHostもしくはCGraft角膜の牽引によりCHost-Graft間に段差が生じるリスク,抜糸により縫合糸による移植片の接着が維持されなくなることがあげられる.全抜糸では影響する創の範囲も広いことから,部分抜糸に比べ創離開のリスクが高いと考えられる.今回筆者らは抜糸に伴う上皮損傷後の創傷治癒促進および上皮側からの保護による強度強化目的にCMUCL装用を部分抜糸に併用した.2)縫合糸トラブル(感染や異物反応に伴う炎症・拒絶反応の誘発)緩んだ縫合糸は感染や異物反応に伴う炎症・拒絶反応を誘発する.炎症の発症時に全抜糸を行うと感染巣の除去や炎症の鎮静化を得られやすい.部分抜糸を行うと縫合糸の断端から再度緩みが生じ,その物理的擦過に伴い角膜炎を生ずることが経験されるが,MUCL装用を併用することで今回のC2症例はそれらを抑制する効果があったと考えられる.3)異物感(縫合糸の緩みや糸が切れた際の疼痛)縫合糸の緩みや断裂した断端は異物感・疼痛の原因となる.今回の症例では,MUCLを装用することにより部分抜糸で残った縫合糸による異物感や疼痛を回避することができたと考えられる.4)角膜形状の変化(抜糸に伴う予測不能な屈折変動)良好な術後視力を得るために不正乱視の軽減は重要な要素であり,その発生要素や対策に関しては数多くの報告がある9).連続縫合糸の調整により,術後不正乱視を含む乱視調整を行えることは連続縫合のメリットと考える.一方で,抜糸に伴う乱視の変化が予想不能であることは,抜糸のデメリットと考える.今回のC2症例でも,抜糸前に緩んだ糸の部位に一致して認めた角膜の平坦化が抜糸後改善し,乱視の度や軸が変化していた.本C2症例では幸い抜糸後,抜糸前に比べ乱視の増大はなかったが,どのように変化するかは予想できずに抜糸を行った(図1e~h,図2e~h).これらの観点からCPKP術後早期に抜糸を行うことは避けたいが,角膜炎が生じた際など抜糸が必要な際には,薬物治療に加え,部分抜糸とCMUCL装用併用により創離開を回避しながら炎症を制御できる可能性が示唆された(図3).文献1)ChristoCG,VanRooijJ,GeerardsAJetal:Suture-relat-edcomplicationsCfollowingCkeratoplasty:aC5-yearCretro-spectivestudy.CorneaC20:816-819,C20012)Abou-JaoudeES,BrooksM,KatzDGetal:Spontaneouswounddehiscenceafterremovalofsinglecontinuouspen-etratingCkeratoplastyCsuture.COphthalmologyC109:1291-1296,C20023)FujiiS,MatsumotoY,FukuiMetal:ClinicalbackgroundsofCpostoperativeCkeratoplastyCpatientsCwithCspontaneousCwoundCdehiscenceCorCgapsCafterCsutureCremoval.CCorneaC33:1320-1323,C20144)DasS,WhitingM,TaylorHR:Cornealwounddehiscenceafterpenetratingkeratoplasty.CorneaC26:526-529,C20075)TsengSH,LingKC:Latemicrobialkeratitisaftercornealtransplantation.CorneaC14:591-594,C19956)TavakkoliCH,CSugarJ:MicrobialCkeratitisCfollowingCpene-tratingkeratoplasty.OphthalmicSurgC25:356-360,C19947)DanaCMR,CGorenCMB,CGomesCJACetal:SutureCerosionCafterpenetratingkeratoplasty.CorneaC14:243-248,C19958)TomitaM,ShimmuraS,TsubotaKetal:Postkeratoplas-tyCatopicCsclerokeratitisCinCkeratoconusCpatients.COphthal-mologyC115:851-856,C20089)FaresU,SarhanAR,DuaHS:Managementofpost-kera-toplastyCastigmatism.CJCCataractCRefractCSurgC38:2029-2039,C2012C***