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自己結膜被覆術の術後成績

2024年2月29日 木曜日

《原著》あたらしい眼科41(2):206.212,2024c自己結膜被覆術の術後成績都筑賢太郎*1輿水純子*1山口達夫*2,1,3*1聖路加国際病院眼科*2新橋眼科*3石田眼科CConjunctivalFlapSurgeryfortheTreatmentofCornealDiseaseKentaroTsuzuki1),JunkoKoshimizu1)andTatsuoYamaguchi2,1,3)1)DepartmentofOphthalmology,St.Luke’sInternationalHospital,2)ShinbashiGanka,3)IshidaEyeClinicC目的:1988年C1月.2020年C12月に,角膜の菲薄化を伴う難治性の角膜疾患に対して結膜被覆術を施行し,術後成績について検討した.方法:角膜が高度に菲薄化(穿孔例C8眼を含む)したC18例C18眼に対して,自己結膜を用いて結膜被覆術を施行した.男性C7例C7眼,女性C11例C11眼で,平均年齢はC63.3歳.対象疾患は多剤抗菌薬に耐性のある重症角膜潰瘍C12眼,真菌性角膜潰瘍C1眼,ヘルペス角膜潰瘍C2眼,眼類天疱瘡C1眼,アカントアメーバ角膜炎C2眼であった.17眼に対しては,Gundersenの方法に準じて結膜弁を作製し病巣部を被覆したが,結膜と強膜に癒着の認められたC1眼に対しては,反対眼より作製した遊離結膜弁を用いて被覆した.結果:18眼中C15眼で感染による炎症は消退し,前房は維持され,創傷は治癒した.ヘルペス角膜炎のC2眼の結膜弁は融解した.結論:自己結膜による結膜被覆術は,角膜の厚みが増すことにより角膜保護効果と同時に,血流により病巣部に薬剤を浸透させるという特徴を生かし,症例によるがよい結果が得られた.とくに細菌,真菌の感染症例に有効であった.術後の混濁など欠点もあるが,症例を的確に選択すれば,菲薄角膜の治療に有用な術式であると考えられた.CPurpose:Toevaluatethee.cacyofconjunctival.apsurgeryforthetreatmentofcornealdiseaseaccompa-niedCbyCcornealCthinning.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC18CeyesCofC18patients(7CmalesCandC11females)withdeepcornealulcerswhounderwentconjunctival.apsurgeryfromJanuary1988toDecember2020.OfCtheC18Ceyes,C8CexhibitedCcornealCperforation,CandCtheCcornealCulcersCwereCcategorizedCasCbacterialCulcersCresistanttoantibiotics(12eyes),CfungalCcornealulcer(1eye),Cherpetickeratitis(2eyes),Cacanthamoebakeratitis(2eyes),Candocularcicatricialpemphigoid(1eye).Apartialpedunculatedconjunctival.apwasusedin17eyesandafreeconjunctivalC.apCwasCusedCinC1Ceye.CResults:InC15Ceyes,CconjunctivalC.apCsurgeryCsuccessfullyCstabilizedCtheCpatient’socularsurface,yetinthe2eyeswithheretickeratitis,therewaspostoperativerecurrence,astheconjunc-tival.apsmeltedandcornealperforationwasrepeated,andtheysubsequentlyunderwenttarsorrhaphyandphthi-sisbulbideveloped.Conclusion:Althoughcornealopacitywasobservedinsomecases,conjunctival.apsurgerywasfoundtobeane.ectivesurgicalprocedureforthetreatmentofcornealdiseaseaccompaniedbycornealthin-ning.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(2):206.212,C2024〕Keywords:結膜被覆術,角膜,角膜潰瘍,角膜穿孔.conjunctival.aps,cornea,ulcer,perforation.Cはじめに結膜被覆術は角膜疾患に対し,有茎弁にした結膜組織を用いて病変部を被覆し治療する古典的な術式であったが1),CGundersen2,3)により当初は水疱性角膜症の痛みを軽減する術式として用いられ再び注目をされるようなった.その後,再発性角膜びらん,角膜周辺部潰瘍,糸状角膜炎,神経麻痺性角膜炎,細菌性角膜炎,真菌性角膜炎,ヘルペス角膜炎,化学腐蝕などに応用されてきた4.10).わが国では北野ら11)により被覆した結膜弁の角膜中央部に位置する部位に,小さな穴を開けて瞳孔領を維持する術式開発された.近年,治療用ソフトコンタクトレンズの改良,シアノアクリレートの使用12,13),角膜の入手が以前より容易になったこと,羊膜移植術14)の普及などにより本術式の適応は狭くなってきてはいるが4,15),いまだに種々の疾患に用いられている16.22).〔別刷請求先〕都筑賢太郎:〒104-8560東京都中央区明石町C9-1聖路加国際病院眼科Reprintrequests:KentaroTsuzuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,St.Luke’sInternationalHospital,9-1Akashicho,Chuo-ku,Tokyo104-8560,JAPANC206(96)わが国では本術式の多数例での報告がないことより,筆者らはC1988年C1月.2020年C12月末に,角膜の菲薄化を伴う難治性の角膜病変に対し,聖路加国際病院(以下,当院)で施行した自己結膜を用いた結膜被覆術の術後成績を検討したので報告する.CI症例1988年C1月.2020年C12月末に,角膜が高度に菲薄化(穿孔例C8眼を含む)したC18例C18眼に対して,自己結膜を用いて結膜被覆術を施行した.男性C7例C7眼,女性C11例C11眼で,平均年齢はC63.3歳であった(表1).手術適応症例は,①角膜の菲薄化が進行性である,②菲薄部の穿孔が小さく前房水の漏出がないか,あっても極微量である(ソフトコンタクトレンズ,羊膜や,シアノアクリレートを用いても漏出が止まらない),③菲薄部の炎症が活動的でない,④菲薄部の感染が,拡大傾向にはないが完治しない,などである.対象疾患は,細菌培養後の検査で多剤に耐性のある重症角膜潰瘍C12眼,真菌性角膜潰瘍C1眼,ヘルペス角膜潰瘍C2眼,眼類天疱瘡C1眼,アカントアメーバ角膜炎C2眼(治療的全層角膜移植後がC1眼)であった.CII術式および治療18眼に対しては,Gundersenの方法に準じて結膜弁(有茎)を作製し病巣部を被覆した2,3,21)(図1a).結膜を被覆する部位であるが,病変の位置と大きさにより方法が異なり,1)病変が角膜中央部にあって大きい症例では上方から幅の広い結膜を用いるが(図1a,症例1,2,4,5,6,7),それだけでは足りない症例では下方の結膜を上方の方法と同様に切り出し,上下の結膜を合わせて角膜に縫合した(図1c,症例C13,18).2)病変が角膜上方あるいは中央にあるが小さい症例には上方の球結膜を用いて角膜上部を被覆した(図1d,症例8,9,10,12,14,16,17).3)病変が角膜下方にあり被覆する部位が小さい症例では下方の球結膜を用いる術式を選択した(図1b,症例3).手術は局所麻酔下にて,結膜被覆する部位の角膜上に無水アルコールを含んだCMQAを接触させただちに生理食塩水で洗い流した後,ゴルフ刀で上皮層を完全に除去し,その後,角膜輪部で結膜を切開し,術後の結膜弁の収縮を考慮し計測値よりC1.2Cmm大きめの球結膜を角膜輪部と平行に切開し,水平方向に帯状の結膜弁(有茎)を作製した.結膜弁はTenon.をなるべく厚く取るように強膜から.離した.結膜弁を角膜中央部側に移動させ病巣部を被覆した後,結膜弁が輪部と接する部位は結膜弁が張った状態になるようにC9-0バージンシルク糸を用いてしっかりと縫合し,その他のC4カ所部位は結膜弁を角膜と強膜にそれぞれC10-0ナイロン糸で端々縫合した.結膜弁を切り取った後の結膜.側の結膜断端部は,8-0吸収糸で強膜に縫合した(図1).術後の治療であるが,手術前と同じ薬剤を用い,充血が消失するまで継続した.CIII結果全症例の経過を表1に示す.全症例C18例C18眼中,症例C11,14,18を除き,15症例(症例C1.10,12,13,15.17)では感染による炎症は消退し,自己結膜被覆後の角膜創傷治癒は良好で,自己結膜は角膜上に生着した.1例に僚眼からの無茎弁移植を行ったが,術後8日目に結膜弁は生着せず脱落し,同日,羊膜移植を行った(症例C11).症例C14とC18は,術後ヘルペス角膜炎が再燃し被覆結膜が融解を起こし,術後C1年で眼瞼縫合をし,眼球癆となり現在に至っている.細菌感染例では結膜弁が融解した症例はなくC8眼中C8眼で鎮静化を認めた.術後に眼瞼下垂等の合併症は認められなかった.代表的な症例として症例C10を示す.患者:89歳,女性.主訴:左眼の疼痛.現病歴:糖尿病で定期通院中に左眼角膜周辺部に潰瘍を発症.所見・経過2008年C4月C4日:来院時左眼の角膜の高度な菲薄化を認め(図2a),同日表層角膜移植術を施行した(図2b).2008年C4月C15日:術後C10日目より角膜移植片が融解した.眼脂の検鏡と培養の結果にて,グラム陽性球菌,グラム陽性桿菌,グラム陰性桿菌,およびノカルジアが陽性であった(図2c).2008年C4月C23日:前房蓄膿とCDescemet膜瘤を認め,自己結膜被覆術を施行した.2008年C4月C30日:結膜被覆術術後よりC7日目.抗菌薬の併用で前房は維持され,前房の炎症は消退し,角膜の菲薄化も進行を認めなかった(図3a).2009年C1月C27日:結膜被覆術術後よりC9カ月目.菲薄化していた角膜は被覆した結膜に覆われており,感染は鎮静化した(図3b).CIV考按結膜被覆術の手術効果の原理であるが,結膜で角膜を覆うことから,穿孔部あるいは菲薄部の構造的な補強,難治性角膜潰瘍部への結膜血管を介しての抗菌剤の直接浸潤,免疫担当細胞の浸潤による抗炎症作用と瘢痕化の促進,その結果,原疾患が治癒し不快感や疼痛の軽減が得られるものと考えられている.他の治療法の開発に伴い適応症例は狭まっているがいまだ用いられており,手術適応としては,1)難治性角膜潰瘍,2)遷延性角膜上皮欠損,3)角膜菲薄,Descemet表1症例性年齢病名症状術式起因菌術後期間経過上方より1CFC66眼類天疱瘡菲薄化有茎弁原因不明16年1カ月感染症治癒→LKP・羊膜移植→混濁治癒角膜潰瘍上方より2CMC78(LKP後)穿孔なし有茎弁G(+)球菌不明感染症治癒→CPKP予定するも認知症で断念下方より3CMC65角膜潰瘍下方菲薄化有茎弁緑膿菌15年8カ月感染症治癒→CLKPC→CPKPC→CGraft透明治癒角膜潰瘍潰瘍・穿孔上方より4CFC73(PKP後)不明有茎弁CMRSA不明感染症治癒→CPKP予定するも希望せず角膜潰瘍・上方より5CMC63穿孔穿孔あり有茎弁培養せず12年11カ月感染症治癒→緑内障で光覚(C.)角膜潰瘍上方より6CFC72(LKP後)穿孔不明有茎弁G(+)球菌不明感染症治癒→緑内障で光覚(C.)角膜潰瘍上方よりG(+)球菌,C7CFC86(PTK後)穿孔なし有茎弁黄ブ菌2年11カ月感染症治癒→悪性腫瘍にて死亡上方よりYeast,ブドウ糖C8CFC30角膜潰瘍中心穿孔あり有茎弁非発酵菌4年2カ月感染症治癒→混濁治癒上方より9CMC45角膜潰瘍中央穿孔なし有茎弁CNegative1年5カ月感染症治癒→CPKP予定角膜潰瘍・上方よりG(+)球菌C10CFC89Descemet瘤上方菲薄化G(.)桿菌1年10カ月感染症治癒→混濁治癒(LKP後)有茎弁ノカルジア角膜潰瘍僚眼より11CMC38(LKP後)移植片融解無茎弁CNegative2年融解→羊膜移植→感染症治癒→CPKP予定アカントア上方よりアカント12CFC27メーバ移植片融解有茎弁アメーバ7年感染症治癒→希望で他院でCPKP予定(PKP後)角膜潰瘍・下方の穿孔上方と下方13CFC75Descemet瘤ありより有茎弁CNegative4年感染症治癒→CPKP予定角膜潰瘍上方より14CMC61(LKP後)Descemet瘤有茎弁ヘルペス8年11カ月角膜穿孔→光覚(C.)→CTarsorraphyやや下方穿孔上方より真菌C15CFC78角膜潰瘍(Candida2年10カ月感染症治癒→混濁治癒あり有茎弁albicans)アカントア上方よりアカント16CFC29メーバ中央部穿孔7カ月感染治癒→他院に希望で転院(SCL)有茎弁アメーバ角膜潰瘍上方より17CMC80(兎眼)下方穿孔有茎弁G(+)球菌2年5カ月感染治癒→混濁治癒角膜潰瘍移植片融解上方と下方18CMC84(PTK穿孔ありより有茎弁ヘルペス7カ月角膜穿孔→眼球.→CTarsorraphyLKP後)G:グラム染色,LKP:lamellarkeratoplasty,PTK:phototherapeutickeratectomy,PKP:penetratingkeratoplasty,Tarsorraphy:眼瞼縫合,MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌,Negative:陰性,SCL:softcontactlens.膜瘤,角膜穿孔,4)水疱性角膜症などが報告されている.術式は上方の球結膜は,幅と奥行きに余裕があることより筆者らはC1988年より角膜の菲薄化を伴う難治性の角膜疾Gundersenの術式に準じて原則,上方結膜を用いた.結膜患に対し,自己結膜を用いた結膜被覆術を施行してきた.と強膜に癒着の認められたC1眼に対しては,反対眼(僚眼)a切開線b切開線b結膜結膜c切開線d切開線結膜遊離結膜弁結膜潰瘍9-0バージンシルク糸10-0シルク糸8-0吸収糸9-0バージンシルク糸10-0シルク糸8-0吸収糸図1術式のシェーマa:上方からのC.ap.全周の輪部で結膜を切開後,上方の結膜を弧状に切開.Cb:下方からのC.ap.3時.9時の輪部で結膜を切開後,下方の結膜を弧状に切開.Cc:上・下方向からのC.ap.上方と下方の結膜弁を合わせて角膜に縫合(上方結膜→角膜→下方結膜).d:遊離結膜弁による被覆術(結膜と強膜が癒着している症例で,反対眼の上方結膜より結膜弁を作製).より作製した遊離結膜弁を用いて被覆した(症例C11,図1d).小さな病変が角膜周辺にある場合はその近くの球結膜から結膜弁を作り角膜の被覆を行っても良いし,角膜のC3時,またはC9時の周辺に病巣がある場合には,縦の結膜弁(12時からC6時)を作り被覆する方法18)もあるが,今回の症例ではこれらの術式が適応となる症例はなかった.上方の結膜弁だけでは足りずに全角膜を被覆できない場合は,下方の結膜を上方に引き上げ,上方の結膜と縫合した(図1c).病変が角膜下方の輪部近くにある場合は,下方の球結膜を帯状に切開し用いた(図1b).その他の部位に病変がある場合は,原則,上方より結膜弁を帯状に作製し用いた.18例C18眼にこの術式を施行し,15例で被覆した結膜は生着したが,他眼からの無茎弁移植のC1例とヘルペス角膜炎が再燃したC2例は被覆結膜が融解し,目的を達せなかった.本術式の利点としては,1)自己結膜を用いるのでいつでも手術が可能である,2)物理的に角膜を保護し,創部を外界から遮断する,3)結膜弁は有茎弁であり血流があるため,無茎弁に比較し創傷治癒が速い,4)前房が維持される.5)創傷治癒に伴い,結膜弁から病変部に十分な抗菌薬が供給される,6)拒絶反応がない,などがあげられる(表2).術式の選択をするときに羊膜移植術にするか結膜被覆術にするかの判断基準であるが,感染症のない角膜で小さな穿孔であれば羊膜を角膜上に被せるかあるいは穿孔部に羊膜を補.した後,羊膜を角膜上に被せる方法や,羊膜と結膜被覆術を併用する術式もある23).穿孔部が小さければ,ソフトコンタクトレンズやシアノアクリレートの使用も有効であるが,感染症がある角膜では羊膜移植術やシアノアクリレートは適応ではないと考える.当院では抗菌薬の全身投与を行っていないことより,結膜被覆術では被覆した結膜血管から抗菌薬が直接病巣部に浸透していくものと推測される.これはソフトコンタクトレンズやシアノアクリレートや羊膜移植などより優れている点と考える.感染を伴わない角膜びらんには羊膜移植術を試みてもよいaab図2症例10の前眼部写真(初診~結膜被覆術施行前)a:初診時.糖尿病で定期通院中に左眼角膜周辺部に潰瘍を発症(.).b:Lamellarkeratoplasty(LKP)術翌日.角膜の高度な菲薄化を認め,LKPを施行した.c:結膜被覆術前.LKP術後10日目にCgraftの一部にCmeltingが出現し,細菌培養にてCG(+)coccus,G(+)rod,G(.)rod,およびノカルジアが陽性.LKP術後C19日目にCdescemetoceleと前房蓄膿を認めた.が,羊膜が融解脱落後も上皮が被っていない難治性の角膜びらんでは,結膜被覆術が適応であると考える.結膜で被覆することにより角膜を保護し創部を外部から遮図3症例10の前眼部写真(結膜被覆術後)a:結膜被覆術後C7日目.LKP術後C19日目にCgraftの上に自己結膜被覆術(上方より有茎弁を作り角膜,結膜に縫合)を施行.前房の炎症は消退し,前房蓄膿は消失.前房水の漏出は認めず,前房は維持されていた.b:結膜被覆術後C9カ月目.術後経過は良好で,感染は鎮静化した.表2術式の利点と欠点.利点1)自己結膜を用いるのでいつでも手術が可能2)物理的に角膜を保護3)創傷治癒が速い(結膜からの血流を獲得)4)十分な抗生物質の供給5)拒絶反応がない.欠点1)病巣部の直接観察が困難2)角膜混濁による視力低下(視力回復のための手術が必要)3)美容面(角膜混濁)4)眼瞼下垂断することであるが,GundersenがCFuchs角膜ジストロフィによる水疱性角膜症の患者に本術式を用いて疼痛から解放したことが示すように,この術式の利点の一つであり,筆者らの症例でもC15例で術後は異物感や疼痛を感じなくなった.また種々の角膜疾患で上皮細胞の修復が遅く,ソフトコンタクトレンズなどを使用しても上皮が被らず実質層が融解した症例(症例C12)や,穿孔した症例(症例5,8,13,15.17)にも本術式は有効であった.角膜感染症で薬剤治療の効果はあるが治癒が遅く,上皮が修復せずに穿孔寸前の症例や,穿孔したが前房水の漏出が止まっている症例のC18例中C15例で本術式により感染症が治癒した.これは結膜弁が病変部を塞ぎ,創傷治癒を惹起させた後,血管から滲出した血液を介して抗菌薬が直接病変に浸透していき,感染を早く治癒させることができた結果であると考える.ただし細菌性や真菌性の角膜潰瘍で使用している薬剤の効果が得られていない症例では,結膜弁が融解する可能性があることより,そのような症例では,本術式を用いずに治療的全層角膜移植術を選択すべきと考える.既報告ではヘルペス角膜炎による角膜上皮.離に有効であるとの報告があるが8,23),ヘルペス角膜炎の再発の報告もある24,25).今回の筆者らのヘルペス角膜炎のC2症例では炎症の活動は抑えられず結膜弁が融解してしまったことより,内服薬も含め他の薬剤を併用し効果がなければ表層角膜移植術を選択すべきと考える.1眼ではあるが細菌感染が原因と思われる角膜潰瘍に対し,僚眼からの無茎弁移植を施行した症例(症例C11)ではC8日目に結膜弁は融解脱落してしまったことより,結膜被覆術ではなく,治療的全層角膜移植術を選択すべきであったと思われる.1症例の結果ではあるが,結膜被覆術を行うときは有茎弁を選択したほうがよいと考える.本術式の欠点としては,1)角膜に結膜弁が被覆されるため,病変部の観察が困難になり,とくに角膜全体を被覆してしまうと前房の状態が把握できなくなる.また,2)結膜弁が角膜中心部を覆うと視力低下をきたす.3)被覆部が結膜により混濁しているため,美容的に問題となる(表2).美容的な問題の解決には結膜弁の除去が必要であるが,感染症が完全に消炎したことが確認されてもC6カ月ほど経過観察し,血管の活動性が鎮静化するのを待ち患者の希望があれば,結膜弁の除去と全層角膜移植術や表層角膜移植術を考慮するのがよいと考える(症例9,12,13).術後合併症として,まれではあるが眼瞼下垂が起こるとの報告がある4).病変部が大きく角膜全体を被覆するには上方の結膜のみで被覆する場合,輪部からC12Cmm以上と結膜.に近いところまで結膜切開を行わなければならず,その結果,上方の結膜欠損部分で瞼球癒着が起き結膜.が浅くなり,眼瞼下垂を起こす可能性がある.今回筆者らの症例では眼瞼下垂は認められなかった.これは結膜.が本来の位置にあるように,barescleraになることを気にせずに切開された結膜断端部を強膜に縫合し,術後瞼球癒着に注意を払えば防げる合併症と思われた.結膜被覆術は古典的な術式ではあるが,的確に症例を選択し手術を行えば臨床的には有用な術式であると考える.CV結論角膜の菲薄化を伴う難治性の角膜疾患に対し,結膜被覆術を施行し良好な結果を得た.とくに,多剤抗菌薬に抵抗性を示すような重症の角膜潰瘍症例でも,術後全症例で感染は鎮静化した.抗菌薬に抵抗し,穿孔,あるいは穿孔の危険性のある重症角膜潰瘍に対し,結膜被覆術(有茎弁)は,比較的簡便であり試みてよい術式と思われた.文献1)VieiraCAC,CMannisMJ:ConjunctivalCflaps.CCORNEACIIIedition,(KrachmerCJH,CMannisCMJ,CHollandEJ)C,Cchap-ter145,p1639-1646,ElsevierMosby,Philadelphia,20112)GundersenT:Conjunctival.apsinthetreatmentofcor-nealdiseasewithreferencetoanewtechniqueofapplica-tions.ArchOphthalmolC60:880-888,C19583)GundersenT:SurgicalCtreatmentCofCbullousCkeratopathy.CArchOphthalmolC64:260-267,C19604)CockerhamCGC,CFosterCS:ConjunctivalC.aps.CcornealCsurgery,theory,thechniqueandtissue,IIIedition(Bright-billFS)C,p135-141,Mosby,StLouis,19995)早川正明,三島済一:角膜潰瘍に対する結膜瓣被覆法の効果について.臨眼C24:867-872,C197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Delle 8 症例の臨床的検討

2023年11月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科40(11):1486.1490,2023cDelle8症例の臨床的検討千代川聖道井上大輔原田康平草野真央上松聖典北岡隆長崎大学病院眼科CClinicalReviewof8DellenCasesMasamichiChiyokawa,DaisukeInoue,KoheiHarada,MaoKusano,MasafumiUematsuandTakashiKitaokaCDepartmentofOphthalmology,NagasakiUniversityHospitalCDelleは結膜隆起に隣接する角膜周辺部の部分的な菲薄化病変である.今回,当院にて経験したCdelleの症例を治療結果とともに調査した.長崎大学病院眼科にてCdelleと診断されたC8例C8眼(男性C4例,女性C4例,平均年齢C46.5±23.8歳)を対象とし,診療録から背景,治療法,経過について後ろ向きに調査した.背景は斜視手術後C2眼,緑内障手術後C2眼,輪状締結術後C2眼,硝子体手術後C1眼,Parinaud眼腺症候群C1眼であった.明らかな上皮障害はC7眼(88%)に認め,4眼(50%)において異物感や疼痛などの症状を認めた.Delleに対して追加治療を行った症例はC4眼(50%)であり,治療法としては保護用ソフトコンタクトレンズ装用C2眼,抜糸C1眼,ヒアルロン酸点眼C1眼であった.全症例でCdelleは改善し,上皮欠損や異物感などの症状が軽快した.CDellenCisCaCpartialCthinningCofCtheCcornealCperipheryCadjacentCtoCtheCconjunctivalCridge.CToCinvestigateCtheCdetailsof8dellencasesseenatourhospital,weretrospectivelyreviewedthediseasebackground,treatment,andfollow-upcourseinthosecasesviathepatient’smedicalrecords.Inallpatients,dellenoccurredintheperipheralcorneaneartheconjunctivalridge,anditdevelopedin2eyesafterstrabismussurgery,in2eyesafterglaucomasurgery,in2eyesafterencirclingsurgery,in1eyeaftervitrectomy,andin1eyewithParinaud’soculoglandularsyndrome.Ofthe8eyes,obviousepithelialdamagewasobservedin7(88%),symptomssuchasforeignbodysen-sationandpainwasobservedin4(50%),andadditionaltreatmentfordellenwasperformedin4(50%);i.e.,theuseofaprotectivesoftcontactlens(n=2eyes),theremovalofstitches(n=1eye),andtopicaladministrationofhyaluronicacideyedrops(n=1eye).Inallcases,dellenimprovedandothersymptomswererelieved.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(11):1486.1490,C2023〕Keywords:角膜,Delle,Dellen,デレ,デレン.cornea,Delle,Dellen.はじめにDelle(ドイツ語,複数形はCDellen)は結膜隆起に接する角膜周辺部の菲薄化病変である.日常診療においては,翼状片や瞼裂斑,緑内障手術後などで角膜輪部付近の結膜が隆起し,隣接する角膜周辺部が局所的に菲薄化する病変として,しばしば経験する.DelleはC1911年,ErnstFuchsによって報告され,有症状のものは少なく,またC48時間以上続くことはまれであるとされている1).発生機序として明らかなものはなく,隆起性病変部に隣接して生じる涙液メニスカスがまわりの涙液量を減少させ,角膜上皮障害やCdelleの発症に関与しているとの報告もある2).一過性の原因に対しては,アイパッチ,保護用ソフトコンタクトレンズ(softCcontactClens:SCL)の装用,人工涙液の頻回点眼などがあり,一過性でない場合は隆起性病変の外科的切除も考慮される3).これまで本疾患の誘因となった原疾患の内訳や治療結果を報告した論文は少ない.今回,当院眼科にて経験したCdelleの症例について,疾患背景や治療経過を報告する.CI対象および方法2012年C1月.2021年C4月に長崎大学病院眼科にて診療を行った患者の診療録から,delle(ローマ字・日本語・複数形を含む)の記載を検索し,delleの所見を認めた症例を抽出した.Delle以外の周辺部の角膜潰瘍の症例は除外した.Delleと診断された症例の背景,治療法,経過について後ろ〔別刷請求先〕千代川聖道:〒852-8501長崎県長崎市坂本C1-7-1長崎大学大学院医歯薬学総合研究科眼科・視覚科学分野Reprintrequests:MasamichiChiyokawa,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,NagasakiUniversity,1-7-1Sakamoto,Nagasaki-shi,Nagasaki852-8501,JAPANC1486(116)向きに調査した.CII結果Delleと診断された症例はC8例C8眼(男性C4例,女性C4例)であり,年齢はC46.5C±23.8歳(14.80歳)であった.対象の背景を表1に示す.8眼中C7眼がなんらかの術後早期に発生したものであり,斜視手術後C2眼,緑内障手術後C2眼,輪状締結術後C2眼,硝子体切除術後C1眼であった.1眼はCParinaud眼腺症候群による高度な球結膜浮腫に伴うものであった.フルオレセインで染色される明らかな上皮障害はC7眼(88%)に認め,4眼(50%)において異物感や疼痛などの症状が認められた.Delleに対して追加治療を行った症例はC4眼(50%)であり,治療法としては保護用CSCL装用C2眼,抜糸C1眼,ヒアルロン酸ナトリウム点眼2眼であった(重複あり).全症例でdelleは改善し,上皮欠損や異物感などの症状が軽快した.代表的な症例をC2例提示する.CIII症例[症例1]80歳,女性.2013年C8月テーブルの角で右眼打撲し,外傷性眼球破裂のため近医より長崎大学病院眼科(以下,当科)に紹介された.左眼に異常はなかった.同日眼内レンズ摘出術,硝子体切除術,およびシリコーンオイル注入術を施行し,その後シリコーンオイル抜去術を施行した.2014年C1月眼内レンズ縫着術を施行したが,術後の結膜の炎症は以前の手術後よりも重度であり,一部浮腫のため隆起していた.術後C12日目,流涙,異物感の自覚症状あり,右眼鼻側結膜の隆起および隣接する周辺角膜にフルオレセイン染色で円形に染まる角膜上皮欠損部位を認め(図1a,b),delleと診断された.非ステロイド性抗炎症薬点眼薬および術後高眼圧のため使用していたプロスタグランジン系緑内障点眼薬を中止し,ステロイド点眼薬の点眼回数を減量し,ヒアルロン酸ナトリウムC0.3%点眼薬および保護用CSCL装用を開始した.術後C17日目(delleの診断からC5日目)の受診時にはCdelleは消失していた(図1c,d).術後C20日目に保護用CSCL装用を中止したところ,その翌日には同部位にCdelleが再発したが,疼痛や異物感などの症状はなかった.保護用CSCL中止のままヒアルロン酸ナトリウムC0.3%点眼薬を継続していたところ,術後29日目(delleの再発からC9日目)にCdelleは軽快した.[症例6]44歳,女性.右眼外眼筋炎後の右眼外直筋萎縮および外斜視に対して,2016年C12月に右眼外直筋後転を施行.その後残存した外斜視に対してC2017年C4月右眼上下直筋移動術および内直筋短縮術を施行した.術翌日より右眼鼻側結膜の浮腫は著明であった.術後C1カ月で眼痛の症状があり,鼻側結膜隆起に隣接する角膜周辺部に混濁しフルオレセイン染色で染色される円形の角膜潰瘍を認め(図2a,b),delleと診断した.人工涙液点眼を開始したが,delle出現からC2週間後,delleの悪化を認め保護用CSCL装用を開始した.Delle出現C3週間後delleの範囲は縮小し保護用CSCLを除去したが,delle出現C4週間後,眼痛の症状再燃しCdelleの悪化を認めた.保護用SCL再装用で症状が軽快するため,2週間ごとの保護用CSCL交換で経過観察を続けた.Delle出現からC13週間後,角膜の陥凹は残存するが,フルオレセイン染色での染色所見は軽快した.原因除去の観点から,隆起した結膜の除去も考慮したが,日中のみのCSCL装用で症状なく経過しており,術後2年時点で当科終診となった(図2c,d).CIV考按Delleをきたす結膜隆起の原因としては,強膜炎,瞼裂斑,翼状片,輪部悪性腫瘍,結膜下出血などの疾患,または斜視手術,白内障手術,緑内障手術後などの手術があげられる4).当院で確認できたCdelleは多くの症例で手術後の症例であり,術後以外の症例はCParinaud眼腺症候群のC1例のみであった.斜視手術後のC655人に対してCdelleの出現を調査した報告では,内直筋の再手術を行ったC184眼中C30眼(16.3%),筋移動術を行ったC37眼のうちC7眼(18.9%),外直筋後転と内直筋切除を組み合わせたC101眼のうちC4眼(4.0%)にCdelleを認めている5).また,斜視手術後のC51人の患者(102眼)のdelle発症率を調査した論文では,delleの発生率はC22.5%との報告もある6).症例C1では,同一眼で手術を繰り返しており,術後の炎症が強かった.症例C6では同一眼でC2度の手術を施行しており,2度目の手術は上下直筋移動術および内直筋短縮術であり,侵襲度の高い手術であった.両症例ともに複数回の手術後の発症であり,自覚症状も強く出現していた.また,当院でのCdelleの症例は手術後,もしくはCParinaud眼腺症候群が原因疾患であり,すべての症例において炎症が関与する症例であった.結膜下出血が原因となるCdelleのように炎症が関与していない疾患でもCdelleの報告はある7)が,delleの発症には結膜の隆起による涙液層の破綻のみではなく,術後などに出現する強い炎症も関与する可能性が考えられる.一般的に涙液層破綻によってCdelleは生じるが,症例C1,症例C2のように炎症が強い状態であれば,自覚症状の出現や遷延化や,繰り返す再発の原因になると考えられる.Delleは角膜実質の局所的な含水率の低下に基づいて生じた陥凹領域ともいわれ,組織学的にも角膜上皮,Bowman膜,実質の菲薄化がみられ,適切な治療を行わないと角膜穿孔にもつながる合併症である8).Delleは陥凹部の感度低下を認め7),無症状で上皮障害を伴わないことが多く,フルオレセイン染色で染まる場合と染まらない場合がある4).当院表1対象の背景症例性別年齢背景上皮障害自覚障害治療術後発症までの期間軽快までの期間備考疾患手術C1女性C80眼内炎硝子体手術++SCL装用12日5日間9日間再発ありC2男性C14裂孔原性網膜.離輪状締結術+.─6日3週間C3男性C14外傷性網膜.離輪状締結術不明+抜糸6日3週間C4女性C61緑内障線維柱帯切除術+.─12日1カ月C5男性C72緑内障インプラント挿入術+.ヒアルロン酸ナトリウム点眼6日1カ月C6女性C44斜視筋移動術+++SCL装用1カ月3カ月遷延C7女性C58斜視短縮後転術++抜糸1カ月1カ月C8男性C29Parinaud眼腺症候群C─++原疾患の治療2週間図1症例1の前眼部所見a,b:鼻側角膜輪部にフルオレセインで染色される円形のCdelleを認める.Cc,d:delle診断からC5日目,保護用CSCL装用で軽快した.では上皮障害をほとんどの症例で認め,自覚症状が強い症例で陥凹・潰瘍内のフルオレセイン染色液を吸い取り,その後もあった.陥凹部へのフルオレセイン染色液の貯留(pool-も染色状態にあるか否かによって,上皮障害の有無を確認しing)の影響もあり,実際に同部に上皮障害があったかの判ている.既報と臨床所見が異なる理由としては,今回の断は困難な場合もある.当院では判断困難な場合は綿棒などdelle症例は術後による炎症が症状出現に寄与していた可能図2症例2の前眼部所見a,b:鼻側の結膜隆起,および隣接する周辺角膜にフルオレセインで染色されるCdelleを認める.Cc,d:保護用CSCL装用を継続し,delleは改善した.性が考えられる.Delleの治療は角膜に涙液を補給し,角膜輪部の隆起を抑えることが重要である.辺縁部の隆起が炎症性のものであれば,ステロイド点眼や抗菌薬点眼を併用することで角膜輪部の結膜隆起を抑えるのに役立つ.角膜への涙液補給には眼帯装用も効果的である.治療はできるだけ早期に開始するのが望ましく,緑内障手術後の濾過胞が原因の場合は人工涙液の頻回投与も有効である7).今回の症例C1,6では保護用CSCL装用でも良好な経過を得ることができた.保護用CSCLを装用することによって,delleの角膜陥凹部に持続的な涙液の補.が可能となる.Delleは軽度であれば経過観察にて数週間程度で改善することが多いが,疼痛などの自覚症状が出ている症例に対しては,炎症を抑える各種点眼,人工涙液による涙液補充が有効であり,疼痛が強い症例や上記点眼による改善が得られない症例では,涙液を角膜に保持することができるCSCLを装用する治療法も効果的であると思われる.症例C1ではCSCL装用にて数日のうちにCdelleは改善,しかしCSCL装用を中止するとCdelleの再燃を認めた.SCL装用によってCdelleの表面に涙液が補われることでCdelleが改善したものの,SCL装用中止後も角膜輪部の炎症と結膜浮腫が残存していたために,delleが再燃したと考えられる.Delle再発時点では疼痛の自覚症状はなく,隆起性病変によって症状が出現していた可能性も考えられるが,このようにdelleが遷延する症例では治療を継続する必要がある.今回Cdelleの症例について,当院のカルテ検索システムで症例を検出したが,カルテにCdelleと記載している症例のみの症例検討となった.明らかに症状がなく,軽度の場合は抽出されなかった可能性がある.また,一般の眼科診療所では今回の検討よりも軽度なCdelleの症例が比較的多くみられる可能性もある.CV結論今回Cdelleの当院での原疾患などについて調査した.とくに症状の強い症例については保護用CSCLの使用によって,病態の改善,症状の軽減を得ることができた.また,delleの発症に関しては術後などによる炎症が関与する可能性も考えられた.文献1)FuchsA:Pathologicaldimples(C“Dellen”)ofCtheCcornea.CAmJOphthalmolC12:877-883,C19292)McDonaldJE,BrubakerS:Meniscus-inducedthinningoftear.lms.AmJOphthalmolC72:139-146,C19713)横井則彦:Dellen.あたらしい眼科C16:803-804,C19994)小玉裕司,赤木好男:Dellen(Fuchs’dimple).あたらしい眼科C3:359-360,C19865)MaiCGH,CYangSM:RelationshipCbetweenCcornealCdellenCandCtear.lmCbreakupCtime.CYanCKeCXueCBaoC7:43-46,C19916)FresinaCM,CCamposEC:Corneal‘dellenC’CasCaCcomplica-tionCofCstrabismusCsurgery.Eye(Lond)C23:161-163,C20077)BaumJL,MishimaS,Borucho.SA:Onthenatureofdel-len.ArchOphthalmolC79:657-662,C19688)KymionisCGD,CPlakaCA,CKontadakisCGACetal:TreatmentCofCcornealCdellenCwithCaClargeCdiameterCsoftCcontactClens.CContLensAnteriorEyeC3:290-292,C2011***