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シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの連続装用が前眼部環境に及ぼす影響と安全性の検討

2008年12月31日 水曜日

———————————————————————-Page1(93)17010910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(12):17011707,2008c〔別刷請求先〕白石敦:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学医学部感覚機能医学講座視機能外科学分野Reprintrequests:AtsushiShiraishi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,EhimeUniversity,454Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPANシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの連続装用が前眼部環境に及ぼす影響と安全性の検討白石敦原祐子山口昌彦大橋裕一愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野EvaluationofOcularSurfaceInuenceandSafetyinExtendedWearofNewlyApprovedSiliconeHydrogelContactLensAtsushiShiraishi,YukoHara,MasahikoYamaguchiandYuichiOhashiDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,EhimeUniversity1週間連続装用のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(SHCL)がわが国で認可・発売されたが,連続装用については,まだ安全性を懸念する声も多い.そこで,SHCL連続装用の安全性を検証する目的で,1日使い捨てソフトコンタクトレンズ(SCL),頻回交換型SCL,1カ月交換の終日装用SHCLとの間で多角的な比較評価試験を行った.結果として,実用視力,前眼部所見ならびに涙液安定性に関する1週間連続装用SHCLの評価は,終日装用された他の従来型素材レンズ群と同等であった.一方,角膜厚に関しては,1カ月交換の終日装用SHCLと同様,変化は認められず,従来型素材レンズの終日装用で有意の増加がみられたのとは対照的であった.使用後のレンズの一部からコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)が検出されたが,細菌量はいずれも臨床的に問題のないレベルであり,細菌の検出率(陽性率)は1カ月交換の終日装用SHCLと比較して有意に低かった.他方,付着脂質量は従来素材のSCLよりも有意に多く,逆に,付着蛋白質量は,1日使い捨てSCLよりも有意に少なく,1カ月交換の終日装用SHCLよりも多かった.今回の検討から,新しい1週間連続装用のSHCLの安全性,有用性は,従来素材のSCLあるいは終日装用SHCLと遜色ないものと考えられる.Aone-weekextended-wearsiliconehydrogelcontactlens(1wSHCL)hasbeenmarketedinJapan,thoughnegativeopinionsremainregardingthesafetyofextendedwear.Thisstudywasdesignedtoexaminetheclinicalsafetyandutilityofthe1wSHCLincomparisonwiththreedailywearcontrols:adailydisposablesoftcontactlens(ddSCL),a2-weekreplacementsoftcontactlens(2wSCL)oramonthlysiliconehydrogelcontactlens(mSHCL).Nosignicantdierenceswereobservedbetween1wSHCLandthecontrolgroupsintermsofvision,slitlampndingsandtearstabilityanalysis.SignicantcornealswellingswereobservedinthetwohydrogelCLgroups,butnotinthetwoSHCLgroups.SomecoagulasenegativeStaphylococci(CNS)speciesweredetectedinbacteriologicalexaminationofwornlenses,thoughallwerefarbelowbacterialinfectionlevel.Thebacterialpositiveratiointhe1wSHCLgroupwassignicantlylowerthanthatinthemSHCLgroups.Asforlensdeposits,bothSHCLsabsorbedsignicantlymorelipidsthandidtheddSCLgroup.The1wSHCLabsorbedsignicantlylessproteinthandidtheddSCL,butsignicantlymorethanthemSHCL.Theseresultsindicatethatextendedwearofthis1wSHCLisassafeandusefulasexistingdailywearSHCLsorSCLs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(12):17011707,2008〕Keywords:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ,連続装用,角膜肥厚,涙液安定性,細菌,脂質,蛋白質.siliconehydrogelcontactlens,extendedwear,cornealswelling,tearstability,bacteria,lipids,proteins.———————————————————————-Page21702あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(94)はじめに連続装用コンタクトレンズ(CL)は,CLユーザーにとって利便性が高いため,潜在的なニーズはかなりあるが,終日装用レンズに比較して,合併症,特に細菌性角膜炎の発生頻度が高いとの報告が多数みられる点で,眼科医は処方に消極的な傾向がある1,2).近年,高い酸素透過性と光学特性を有し,蛋白質の付着しにくいシリコーンハイドロゲル(siliconehydrogel:SH)CLが登場した.これを受けて欧米では,1カ月連続装用SHCLの安全性が臨床的に検証され35),生活様式の面からオーバーナイト装用を必要とするユーザーを中心に定着しつつある.一方,連続装用期間は欧米より短いものの,1週間連続装用のSHCLがわが国においても承認・発売された.そこで,この新しいSHCLの1週間連続装用による安全性を,従来素材の終日装用ソフトCL(SCL),および終日装用SHCLを対照に,種々の角度から比較検討した.I対象および方法1.対象2007年1月より10月まで愛媛大学病院眼科にて募集したSCL既装用の成人ボランティア60名を対象に以下に述べる比較試験を行った.しかし,表1に示すように被験レンズの1週間の連続装用の適性予備試験においては8名(14.7%)が不適ないし本人理由により試験に不参加となり,1名が検査期間中に麦粒腫を発症,1名が検査不備のため本試験を中止した(表1).結果,検査を完了した計50例100眼(男性30例,女性20例,平均年齢23.2±SD1.8)について統計学的に検討を行った.2.コンタクトレンズ被験レンズとして1週間連続装用SHCL(BalalconA,含水率36%,以下PV),対照レンズとして1日使い捨てSCL(EtalconA,含水率58%,以下OA),2週間終日装用SCL(HEMA,含水率39%,以下MP)および1カ月終日装用SHCL(LotoralconA,含水率24%,以下OX)を用いた.3.方法試験は臨床検査と非臨床検査とに分けて行った.臨床検査では,レンズの使用期間の違いに基づいて試験Aと試験B表1応募者・参加者と中止理由人数理由応募者60予備試験不適8SPK1,本人理由7本試験参加者52本試験中止2麦粒腫1,角膜の古疵1終了者50SPK:点状表層角膜症.表2臨床試験デザイン症例数試料臨床検査名称素材FDAGroup製造元使用方法試験期間(日)使用日数(1枚当り)使用枚数(サイクル)装用時間(1日当り)ケアシステム試験A30PV(ピュアビジョンR)SH3B&L連続装用57571─MP(メダリストプラスR)ハイドロゲル1B&L終日装用57571>6hエーオーセプトOA(ワンデーアキュビューR)ハイドロゲル4J&J終日装用57157>6h─試験B20PV(ピュアビジョンR)SH3B&L連続装用2028574─OX(O2オプティクス)SH1Ciba終日装用263126311>6hエーオーセプト試験APV,OA,MPを3種交使用(不同)PVMPOA試験BPV,OXを交使用(不同)PVPVPVPVOX1W1W1W1W1Month最終週のレンズ回収レンズ回収:72時間以上注)1Week1W1Wレンズ回収レンズ回収最終日のレンズを回収レンズ止レンズ止レンズ止レンズ止図1試験概要のシェーマ———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081703(95)の2群に分け,それぞれクロスオーバー法で実施した.試験Aでは,被験レンズ(PV),および対照レンズとして従来素材のSCLの2週間終日装用レンズ(MP)と1日使い捨て(OA)レンズを,それぞれの用法に準じ,1週間ずつ使用した.また,試験Bでは,被験レンズとSHCL終日装用(OX)の対照レンズとをそれぞれの用法に準じ,1カ月ずつ使用した(表2).終日装用は1日6時間以上の装用とし,ケアシステム(MPとOXのみ)には過酸化水素消毒を使用した.予備試験と本試験の間,および本試験での被験レンズと対照レンズの間には,72時間以上の裸眼でのwash-out期間を設けた(図1).非臨床検査では,検査日に装用していたレンズを回収し,右眼のレンズを細菌検査に,左眼のレンズを蛋白質/脂質定量検査に供用した.ただし,蛋白質および脂質の付着は装用中の蓄積によると考えられるため,本来の使用期間より短いMPに関しては蛋白質/脂質定量検査から除外した.4.評価基準a.臨床検査①細隙灯顕微鏡検査:試験レンズ装用前,および試験最終日にレンズを外した直後の前眼部所見を観察した.角膜上皮障害に対してはフルオレセイン染色を用いて拡大率12倍にて観察し,上,下,左,右,中央の5象限の染色スコアを03点(角膜全体では015点)で評価した.②実用視力検査:装用開始直後と試験最終日に試験レンズ装用下での実用視力測定を行った.実用視力測定は,海道らの方法に則り1分間の平均視力を遠方視力(FVA),対数視力(logMAR)として評価し,測定開始時の視力に対する実用視力の比を視力維持率(VMR)として評価した6).③角膜厚検査:連続装用では酸素供給不足から起こる角膜浮腫の発生が懸念される.そこで,装用開始前および試験最終日にレンズを外した直後の角膜中心厚をPentacam(Oculus社)で測定した.④涙液検査:装用開始直後と試験最終日にTearStabilityAnalysisSystem(TSAS,Tomey社)を用いてBreak-UpIndex(BUI)を測定し,レンズ上の涙液の安定性を評価した.裸眼でのBUIは初回検査日に測定した.b.非臨床検査(回収レンズの検査)①微生物検査:試験終了時にレンズ(右眼)を回収し,(財)阪大微生物病研究会(吹田市)にて,細菌の同定・定量を行った.検査法をフローチャートに示す(図2).②蛋白質定量:試験終了時にレンズ(左眼)を回収し,(株)東レリサーチセンター生物科学第2研究室(鎌倉市)にて,付着蛋白質ないし脂質の分析・定量を行った.ただし,全数ではなく,構成比を考慮してレンズごとに1017検体数を抜粋して実施した.蛋白質の測定は検体レンズを加水分解し,ニンヒドリン比色法によるアミノ酸分析法にて行った.具体的には,検体に6mol/lの塩酸400μlを添加し,真空封圧下110℃で22時間加水分解した.ついで,6mol/l塩酸を別の試験管に移し,減圧乾固した後,水100μlに溶解,フィルター濾過後,アミノ酸分析計(日立L-8500形)で測定した.こうして得られたアミノ酸総量を検体レンズ1枚当たりの蛋白質量とし検体(右眼レンズケースレンズ液)菌ビーズり試験管に移すボルテックス1min菌生理塩水で希×10-1,10-2原液の残り全量発育菌の同定35℃,24~48時間培養菌増殖時には5%ヒツジ血液加TrypticaseSoyAgarに再分離35℃,1~7日間培養臨床用チオグリコレート培地原液および各希釈検体50??5%ヒツジ血液加TrypticaseSoyAgar35℃,24~48時間培養集落数をカウントし,サンプル中の菌数(CFU/m?)に換算発育菌を同定★直接分離培養,増菌培養ともに菌発育を認めない場合は“陰性”★?????????,CNS,?????????????,????????spp.を指定菌として同定指定菌以外は詳細な同定は行わない直接分離培養増菌培養図2微生物検査方法(提供:阪大微生物病研究会坂本雅子氏)———————————————————————-Page41704あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(96)た.③脂質定量:検体レンズから溶媒抽出された脂質をメチルエステルに変換するガスクロマトグラフィー(GC)定量分析にて測定した.具体的には,検体にクロロホルム/メタノール(1/1)2mlを添加して振盪し,溶媒抽出操作を行った.溶媒を除去した抽出脂質試料をメタノリシスするため,ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)1mg/mlメタノール溶液を200μl,および5%塩酸・メタノール溶液1mlを加え,70℃で3時間加熱反応させて,試料中の脂肪酸および脂肪酸エステルを脂肪酸メチルエステルに変換した.ついで,ヘキサン1mlを加えてヘキサン層を回収し,ペンタデカン酸メチル0.01%クロロホルム溶液0.2mlを加えて再溶解したものをガスクロマトグラフHP5890型(HewlettPackard社)にてGC分析した.こうして得られた脂肪酸総量を検体レンズ1枚当たりの脂質量とした.II結果1.臨床検査a.前眼部所見試験Aにおいては,角膜上皮障害の発現眼数はOA20眼,MP22眼,PV23眼であり,角膜上皮障害発症眼における平均スコアでもOA1.30点,MP1.27点,PV1.52点と有意差は認めなかった.試験Bにおいては角膜上皮障害の発現眼数がPV22眼,OX8眼とOXにおいて角膜上皮障害発症眼が有意に少なかったが,角膜上皮障害発症眼における平均スコアはPV1.14点,OX1.13点と障害の程度に差は認めなかった.スコア3点以上の上皮障害を認めた症例はなく,1象限でスコア2点を認めた症例は試験AではMP1眼,試験BではPV2眼であった(表3).試験期間中に問題となる角結膜上皮障害,感染症などの前眼部所見は認めなかった.b.実用視力試験A,Bを通じて,レンズ装用下での遠方視力(FVA),対数視力(logMAR),および視力維持率(VMR)ともに,装用開始時と試験最終日との間で,いずれのレンズにおいても有意差はなかった(表4).c.角膜厚試験Aにおいて,従来素材のSCL(MP,OA)で有意な角膜厚の増加を認めた(MP:p<0.05,OA:p<0.01)が,表3角膜上皮障害SPK発現症例数(眼数)発現症例の平均Grade数(/眼)Grade2症例(眼数)試験AOA1W201.300MP1W221.271PV1W231.520試験BPV4W221.142OX1M81.130SPK:点状表層角膜症.表4実用視力PV(n=100)OA(n=60)MP(n=60)OX(n=40)装用開始時装用期間後装用開始時装用期間後装用開始時装用期間後装用開始時装用期間後実用視力(FVA)0.94750.97771.08301.09080.92810.96720.99901.0377p値0.240.800.160.37実用視力(LOG)0.04040.03160.01920.04020.03530.02750.02730.0025p値0.500.100.710.19視力維持率(VMR)0.92940.94820.96870.96230.94380.94830.95280.9483p値0.140.150.480.53500550600650552.38角膜厚(μm)554.25556.18567.67装用前装直後570.57559.90OAMPPV**p<0.01*p<0.05NS図3角膜厚検査(1週間,n=60眼)角膜厚(μm)装用前装直後NSNS500550600650557.43552.18567.48565.80PVOX図4角膜厚検査(4週間,n=40眼)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081705(97)SHCLでは有意な増加は認められなかった(PV:p=0.48).試験Bにおいて,SHCLの1週間連続装用(PV1週間×4サイクル)と終日装用(OX)との間に有意差はなかった(図3,4).d.TSAS(BUI)装用直後(ベースライン)および試験最終日のBUI値は,いずれのレンズにおいてもSCL装用前の裸眼値よりも有意に低下していた(p<0.001).レンズごとにベースラインと試験最終日とのBUI値の比較では,PVで1週間後(試験A)に有意に低下していたが,4週間後(試験B)ではベースラインとの間に差はなかった(図5,6).2.非臨床検査a.微生物検査黄色ブドウ球菌,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS),緑膿菌,セラチアについて同定・定量を行い,これら以外の菌は指定外菌とした.A,B両試験の全レンズ検体からはCNSが3種類(Staphylococcusepidermidis,Staphylococcuschromogenes,Staphylococcuswarneri)5例同定された.指定外菌が8例検出された.指定外菌も含めた検出頻度(陽性率)はレンズ間に有意な差が認められた(p<0.05).ただし,いずれも100CFU/ml以下であり,一般的にCNSで起炎性をもつとされる105CFU/mlのレベルの菌量7)を大きく下回るものであった(表5).b.蛋白質定量レンズ検体1枚当りの平均蛋白質量を18種類のアミノ酸表5検体レンズから分離培養された微生物試料名検体数Staphylococcus指定外菌(SA,PA,SM,CNS以外)Totalepidemidischromogeneswarnerl陽性検体数陽性率OA30陽性検体数微生物量1<20CFU/ml1100CFU/ml4<20CFU/ml620.0%MP30陽性検体数微生物量1>20CFU/ml13.3%PV50陽性検体数微生物量1<20CFU/ml1<20CFU/ml24.0%OX20陽性検体数微生物量4<20CFU/ml420.0%統計/平均13031181310.0%c20.05=7.815,p=0.0288<0.05.BUI(%)装用開始時装用期間後***p<0.001*p<0.0510002040608073.9053.0553.4456.8851.8350.4350.47裸眼OAMPPV図5BUI検査(1週間,n=60眼)***p<0.001***p<0.001***p<0.001050100150200250300050100150200250300OAPVOX平均蛋白質量(μg/枚)OAPVOX平均脂質量(μg/枚)NS図7レンズ付着蛋白質量・脂質量()用用眼図6BUI検査(4週間,n=40眼)———————————————————————-Page61706あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(98)の総量として計測したところ,OAが260.31μg(n=12,SD=129.06),PVが31.11μg(n=17,SD=14.61),OXが3.36μg(n=10,SD=2.07)となり,OAが他のレンズに比べ有意に高かった(各p<0.001).PVはOAよりも有意に低く,OXよりも有意に高かった(各p<0.001).c.脂質定量レンズ検体1枚当りの平均脂質量を6種類の脂肪酸の総量として計測したところ,OAが3.06μg(n=10,SD=1.33),PVが11.48μg(n=13,SD=1.93),OXが10.25μg(n=10,SD=1.80)となった.連続装用のPVと終日装用のOXとの間に差はなかったが,両SHCLともOAと比較して有意に多かった(p<0.001)(図7).III考察CLの装用に伴って,角膜は種々の非生理学的な環境に晒されるが,このなかで,最も大きな課題は酸素供給の低下である.これを解決するために種々の素材の開発が行われてきたが,現在の処方の主流である従来素材のSCLの場合には閉瞼時の酸素供給量を超える程度のレベルであり,オーバーナイト装用では低酸素状態により角膜浮腫をきたすとの報告もみられる8,9).また,低酸素環境下では角膜上皮に細菌が付着しやすくなるという事実も報告されており10),これを裏付けるように,従来素材のSCLの連続装用では,終日装用に比較して感染性角膜炎の発生頻度が高いとされている1,2).このように,一般にCLの連続装用は感染発症の危険因子と考えられている10,11)が,近年登場したSHCLがその画期的な酸素透過性により12,13),この課題を克服できるか否かは興味あるところである.本試験においては,レンズの酸素透過性を最も鋭敏に反映する指標として角膜厚を取り上げ,CL装用前後の変動を比較した.その結果,従来素材のSCLの終日装用とは異なり,連続装用されたPVにおいては検査期間中(4週間)有意な角膜厚の増加は認められなかった.終日装用のOXにおいても同様の結果であり,SHCLの優れた酸素透過性が改めて実証される結果となった.これらの成績は海外における報告14)ともよく一致しており,SHCLでは,終日装用のみならず連続装用においても,角膜厚の増加をきたさないレベルで酸素供給が維持されているものと考えられ,酸素不足による角膜上皮障害の発生も少ないものと推測される.連続装用でつぎに問題となるのがレンズの汚染である.実際,従来素材のSCLに比較してSHCLには細菌が付着しやすいとの報告も少なからずあるため1517),連続装用に伴う細菌付着の実態を明らかにしておくことは重要である.結論から言えば,汚染率は回収レンズ50枚のわずか2枚(4%)と当初の予想をはるかに下回るものであった.検出されたのはいずれもCNSであり,常在細菌叢由来と想定されるが,細菌量はいずれも100CFU/ml以下であり,一般的にCNSの起炎閾値とされる105CFU/mlのレベル7)には達しておらず,臨床的には問題とならない細菌量であった.一方で,菌の検出された頻度(陽性率)をみると,連続装用されたPV,終日装用MPとともに低く,1日使い捨てのOAと1カ月定期交換SHCLのOXにおいて比較的高かった.1日使い捨てのOAでは付着蛋白質量が多いことから,レンズに付着した蛋白質の量が細菌の接着に影響した可能性が考えられ15,16),OXは1カ月の終日装用であったため,使用期間の長さも関連している可能性もあり,追加研究での検討が必要であろう.細隙灯顕微鏡による所見では,いずれのレンズにおいても,試験期間を通して問題となるような眼表面の障害は観察されず,安全性に問題はないと推測される.しかし,試験Bにおいて上皮障害の程度はOXとPV間で有意差はなく軽度の角膜上皮障害ではあったが,終日装用のOXに比較してPVで角膜上皮障害発症眼数が多く認められたことは,連続装用CLではより注意深い経過観察が必要であることを示唆する結果であろう.装用レンズ上の涙液安定性は良好な視機能の維持において重要な因子であるが,本研究でも明らかなように,レンズ装用により低下することは避けられない現象である.涙液安定性をBUIにて評価したところ,装用4週間装用試験(試験B)においてPVはOXと同等の結果を示した.確かに,PVの場合,1週間装用試験(試験A)の装用後に有意な低下がみられ,同時に,PVの連続装用開始の最初の1週間に乾燥感が強いとの意見も少なからずある.実際,今回行った被験者に対するアンケート調査結果でも,PVに関する満足度(1:「低い」,7:「高い」の7段階評価)は,1週間後よりも4週間後のほうが良好で(meanscore:1週間後4.8/4週間後5.7),4週間後の満足度は終日装用で最も高い1日使い捨てOAと同等(5.8:1週間後)であった.すなわち,PVの連続装用の場合,装用後徐々にレンズに慣れて涙液の安定性が改善し,快適に使用できるようになるものと推察される.ただし,BUI値が40%未満の57眼(21.9%)については,その40.4%が乾燥感を訴えており,BUI値40%以上の203眼の26.6%に比較して頻度が高い.よって,ドライアイ症例に対しては,慎重に処方を行う必要があると思われる.結論として,PVの1週間連続装用は,終日装用レンズと同等の安全性と有用性を有すると考えられる.従来素材のSCLによる連続装用でみられるような角膜厚の増加はなく,レンズ自体への細菌付着量,陽性率はともに低いレベルであり,海外における成績16)とよく一致していた.職業的な背景などからCL装用者のニーズは多岐にわたるため,連続装用を希望する患者は少なくない.1週間連続装用SHCLの登場により,CL処方の選択肢は広がったといえるが,その一———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081707方で,患者のコンプライアンスも含めた長期的な安全性に関してはさらなる検証が必要であろう.PVの連続装用のメリットを最大限に生かすために,適切な患者選択と,コンプライアンス遵守に向けた地道な患者指導が不可欠である.文献1)ChengKH,LeungSL,HoekmanHWetal:Incidenceofcontact-lens-associatedmicrobialkeratitisanditsrelatedmorbidity.Lancet354:773-778,19992)日本眼科医会医療対策部:「日本コンタクトレンズ協議会コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査」について.日本の眼科74:497-507,20033)BrennanNA,ColesML,ComstockTLetal:A1-yearprospectiveclinicaltrialofbalalconA(PureVision)sili-cone-hydrogelcontactlensesusedona30-daycontinu-ouswearschedule.Ophthalmology109:1172-1177,20024)LievensCW,ConnorCG,MurphyH:Comparinggobletcelldensitiesinpatientswearingdisposablehydrogelcon-tactlensesversussiliconehydrogelcontactlensesinanextended-wearmodality.EyeContactLens29:241-244,20035)DonshikP,LongB,DillehaySMetal:Inammatoryandmechanicalcomplicationsassociatedwith3yearsofupto30nightsofcontinuouswearoflotralconAsiliconehydrogellenses.EyeContactLens33:191-195,20076)海道美奈子:新しい視力計:実用視力の原理と測定方法.あたらしい眼科24:401-408,20077)宮永嘉隆:細菌─総論(Q&A).あたらしい眼科17(臨増):3-4,20008)HoldenBA,MertzGW:Criticaloxygenlevelstoavoidcornealedemafordailyandextendedwearcontactlenses.InvestOphthalmolVisSci25:1161-1167,19849)SolomonOD:Cornealstresstestforextendedwear.CLAOJ22:75-78,199610)ImayasuM,PetrollWM,JesterJVetal:TherelationbetweencontactlensoxygentransmissibilityandbindingofPseudomonasaeruginosatothecorneaafterovernightwear.Ophthalmology101:371-388,199411)SolomonOD,LoH,PerlaBetal:Testinghypothesesforriskfactorsforcontactlens-associatedinfectiouskera-titisinananimalmodel.CLAOJ20:109-113,199412)RenDH,PetrollWM,JesterJVetal:TherelationshipbetweencontactlensoxygenpermeabilityandbindingofPseudomonasaeruginosatohumancornealepithelialcellsafterovernightandextendedwear.CLAOJ25:80-100,199913)CavanaghHD,LadageP,YamamotoKetal:Eectsofdailyandovernightwearofhyper-oxygentransmissiblerigidandsiliconehydrogellensesonbacterialbindingtothecornealepithelium:13-monthclinicaltrials.EyeCon-tactLens29(1Suppl):S14-16,200314)EdmundsFR,ComstockTL,ReindelWT:CumulativeclinicalresultsandprojectedincidentratesofmicrobialkeratitiswithPureVisionTMsiliconehydrogellenses.IntContactLensClin27:182-187,200015)KodjikianL,Casoli-BergeronE,MaletFetal:Bacterialadhesiontoconventionalhydrogelandnewsilicone-hydrogelcontactlensmaterials.GraefesArchClinExpOphthalmol246:267-273,200816)SantosL,RodriguesD,LiraMetal:Theinuenceofsurfacetreatmentonhydrophobicity,proteinadsorptionandmicrobialcolonisationofsiliconehydrogelcontactlenses.ContLensAnteriorEye30:183-188,200717)BorazjaniRN,LevyB,AhearnDG:RelativeprimaryadhesionofPseudomonasaeruginosa,SerratiamarcescensandStaphylococcusaureustoHEMA-typecontactlensesandanextendedwearsiliconehydrogelcontactlensofhighoxygenpermeability.ContLensAnteriorEye27:3-8,2004(99)***