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緑内障点眼薬識別法とリスク要因

2012年7月31日 火曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(7):988.992,2012c緑内障点眼薬識別法とリスク要因高橋嘉子*1井上結美子*1柴田久子*1井出聡美*1若倉雅登*1井上賢治*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第2講座DiscriminationMethodandRiskFactorofGlaucomaMedicationYoshikoTakahashi1),YumikoInoue1),HisakoShibata1),SatomiIde1),MasatoWakakura1),KenjiInoue1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine目的:緑内障点眼薬の識別法および識別に関するリスク要因を調査し,点眼剤型の特徴に基づいた適切な服薬指導を考える.対象および方法:緑内障点眼薬を2.4剤使用中で過去6カ月間に他の点眼薬を使用していない緑内障患者90名を対象とした.40種類の点眼薬をサンプル台に設置し,患者自身が使用中の点眼薬を選択し,その正誤率で判定した.さらに識別法を記録集計した.結果:誤認なく選択した患者は75歳以上で有意に少なかった.識別法は「キャップの色」が最も多く(74%),そのなかの正答率は80%であった.製品名を記憶している患者の正答率が有意に高かった.結論:点眼薬の識別法はキャップの色によることが多いが,色調の認識には個人差や思い込みがあり注意が必要である.高齢患者に対してキャップの色や製品名の記憶を促す服薬指導が重要である.Purpose:Toinvestigatethediscriminationmethodandriskfactorofglaucomamedication,andtoimprovemedicationguidance.SubjectsandMethods:Placedonthesampledeskwere40typesofeyedrops;90patientswhowereusing2.4typesofglaucomamedicationselectedtheonestheywereusing.Therateofcorrectselectionandthemethodsofdiscriminationwererecordedandcounted.Results:Patients75yearsofageorolderwhoselectedthecorrecteyedropsweresignificantrylowinnumber.Mostpatients(74%)distinguishedamongthecontainersbythe“colorofthecontainercap.”Ofthosewhoanswered“bythecolorofthecontainercaps,”80%werecorrect.Inthe“distinguishedbyname”group,validitywassignificantlyhighinpatientswhorememberedthenameoftheproduct.Conclusion:Althoughmanypatientsamongthemedicationsbythecolorofcontainerscaps,precautionareneeded.Inmedicationguidanceforelderlypatients,emphasisshouldbeplacedonrememberingnotonlytheappearance,butalsotheproductnameofmedicine.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):988.992,2012〕Keywords:緑内障点眼薬,識別法,リスク要因,服薬指導.glaucomaeyedrop,discriminationmethod,riskfactor,medicationguidance.はじめに緑内障点眼薬は1967年塩酸ピロカルピン,1981年チモロールマレイン酸塩,1984年カルテオロール塩酸塩,1994年イソプロピルウノプロストン,1999年ラタノプロスト発売を筆頭に炭酸脱水酵素阻害薬,持続型bブロッカー,aブロッカー,さらに近年では配合剤と開発がめざましい.後発品も年々増加傾向にある.市場に点眼薬が増えると選択薬剤も広がるが,類似容器による誤認も増加すると考えられる.点眼薬の誤認により治療効果が軽減したり,副作用が増大したりする危険がある.これまでに点眼薬に関しては点眼コンプライアンス1.5),点眼容器の識別法6),高齢者が使いやすい点眼容器7)の報告がある.しかし,各々の点眼薬がどの点眼薬と誤認しやすいかなどを具体的に調査した報告はない.われわれ薬剤師は点眼剤形の特徴に基づいた適切な服薬指導を行う必要がある.今回,複数の緑内障点眼薬を使用している患者を対象として患者自身で使用中の点眼薬を選択し,正誤率を出し,そこから識別法および識別に関するリスク要因を検討した.〔別刷請求先〕高橋嘉子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院薬剤課Reprintrequests:YoshikoTakahashi,InouyeEyeHospitalDrugsSection,4-3,Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN988988988あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(112)(00)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY I対象および方法井上眼科病院に2010年12月から2011年6月までの間に来院し,緑内障点眼薬を2.4剤使用中(使用期間に基準は設けない)で,過去6カ月間に他の点眼薬を使用していない緑内障患者90名を対象とした.男性42名,女性48名,平均年齢67.3±10.8歳(32.89歳)(平均±標準偏差),年齢は65歳未満29名,65歳以上75歳未満39名,75歳以上22名,視機能は視力0.81±0.41,病期MD.6.36±11.10dB(平均±標準偏差)であった.点眼薬の総処方剤数は258本であった(表1).患者の診察待ち時間を利用し,同意を得た後に別室(個室)で薬剤師が対面で聞き取り調査を行った.併用処方される可能性のある点眼薬も含めて,色や形が類似した点眼薬40種類を選択し,サンプル台に設置した(図1).患者にサンプル台を見せ,現在使用中の点眼薬を取ってもらい,正誤を判定した.各点眼薬の識別法を患者の申告通り(フリー回答)に記録集計した.それらの結果を「性別」「年齢」「処方剤数」「使用期間」「製品別」「製品名の記憶」で正誤率を比較検討した(Fisher直接法およびc2検定).「製品名の記憶」はサンプル台を提示する前に使用している点眼薬の製品名を正確に言えた患者を「記憶している」とした.表1対象者の性別と年齢構成,処方剤数処方剤数.64歳65.74歳75歳.男性女性男性女性男性女性258785235685444324734図1点眼薬設置台II結果すべての点眼薬を間違いなく選択した患者(全正答患者)は性別では男性25名(59.5%),女性25名(52.1%)で差はなかった(p=0.62:Fisher直接法).年齢別では65歳未満20名(68.9%),65歳以上75歳未満25名(64.1%),75歳以上5名(22.7%)で,75歳以上で有意に全正答患者が少なかった(p<0.001:c2検定)(図2).処方剤数別では2剤使用35名中24名(68%),3剤使用32名中15名(47%),4剤使用23名中11名(48%)で差はなかった(p=0.14:c2検定)(図3).正答数は総処方剤数に対しては258本中197本(76.4%)であった.「使用期間」では半年未満14本中8本(57.1%),半年以上1年未満15本中14本(93.3%),1年以上229本中175本(76.4%)で差はなかった(p=0.07:c2検定).製品別のうち30本以上処方されている点眼薬の正答数は,キサラタ75歳未満(68名):正■:誤75歳以上(22名)22.7%77.3%66.2%33.8%0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%図2年齢別正答率2剤使用:n=353剤使用:n=32全正答68%全正答47%正答:なし9%正答:1剤23%正答:1剤19%正答:2剤31%正答:なし3%4剤使用:n=23正答:なし0%全正答48%正答:1剤17%正答:2剤9%正答:3剤26%図3処方剤数別正答数(113)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012989 100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%:正■:誤(n)8235342417141198665444ル33323図4製品別正答率:正■:誤キャップの形8%製品名7%キャップの色74%瓶の形3%瓶の色3%その他5%図5識別法と正答率記憶していない(123本)0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%68.3%31.7%83.7%16.3%**p<0.01:Fisher直接法製品名を:正**■:誤製品名を記憶している(135本)図6製品名の記憶と正答率そのなかの正答数は153本(80%)であった.「キャップの形」は21本(8%)でそのなかの正答数は15本(71%),「製ンRが62本中45本(72.5%),エイゾプトRが35本中27本(77.1%),デタントールRが34本中29本(85.3%)であった(図4).誤認薬はキサラタンRに対してはマイティアR,ザラカムRが各3本,カリーユニR2本,オドメールR,ベトプティックR,トブラシンR,トラバタンズR,ルミガンRが各1本であった.エイゾプトRに対してはミケランR,コソプトR各3本,リズモンTGR1本であった.デタントールRに対してはヒアレインR2本,アレギサールR,リボスチンR各1本であった.識別法は「キャップの色」が最も多く192本(74%)で,990あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012品名」は18本(7%)でそのなかの正答数は15本(83.3%)「瓶の形」は8本(3%)でそのなかの正答数は7本(87%)(,)「瓶の色」は7本(3%)でそのなかの正答数は4本(57%)(,)「その他」は12本(5%)でそのなかの正答数は9本(75%)(,)であった(図5).「製品名の記憶」では「記憶している」は135本でそのなかの正答数は113本(83.7%)「記憶していない」は123本でそのなかの正答数は84本(68(,).3%)で「記憶している」の正答率が有意に高かった(p<0.01:Fisher直接法)(図6).III考按今回緑内障点眼薬の識別に関するリスク要因を把握するために患者に実際に使用している点眼薬を選択してもらうこと(114) でその正誤を判定し,その結果をさまざまな要因で比較した.年齢では75歳以上が誤認のリスク要因で,高齢者には識別性の高い剤形を有するあるいは点眼薬数を減らす意図から配合剤へ切り替えるような配慮が必要であろう.また,点眼薬の使用期間による誤認の違いはなく,点眼薬が新たに処方されたときだけでなく継続的に服薬指導を行わなければならないと考えられる.識別法では過去の報告6)と同様に「キャップの色」が多くを占めた.色での識別は明瞭で,色を利用した服薬指導がコンプライアンスの向上につながることが予想されるが,同系色の点眼薬が処方された場合はこの限りではない.今回の調査でもエイゾプトR,デタントールRの誤認薬はすべて同系色で,デタントールRの誤認薬はすべて同一会社の製品であった.誤認薬のなかには薬効や作用機序の違いから併用処方される可能性のある点眼薬もある.実際に,同系色のルミガンRとミロルRが併用処方されている患者で誤認を認めた.医師は眼圧下降効果を主眼に点眼薬を処方することが多く,点眼容器のキャップの色調まで配慮することはむずかしく,同様の誤認は起こりうる.同系色の点眼薬が処方されている場合は,それらの点眼薬を並べて提示するなどリスクを強調した服薬指導を行うべきである.同じ形状の容器を使用している製薬会社の製品では特に注意が必要である.また,今回の調査では「赤とオレンジ」「青と緑」「紫とピンク」など,色調の認識に個人差を感じた.点眼指導を行う薬剤師と患者の間にも色調の認識が乖離している可能性が考えられる.一方,キサラタンRの誤認薬にはまったく色調の違うものが複数あった.キサラタンRは付属の緑色の袋に保管している患者が多く,それを容器の色と思い込んでしまっているため6)と考えられる.これらが原因の誤認リスクを考えると,患者への服薬指導は色だけに頼ることは避けるべきである.患者の意見にもあったが,これだけ製品が増えると同色の製品がでてくるのは当然である.色彩光学では色を瞬時に識別できるのは4色からせいぜい6色までといわれている8).そこから考えてもすでに飽和状態にある.色のつぎに考えられる識別は形状となるが,すでに発売されている容器で意匠をこらした点眼瓶もあるが,期待したほどの効果はもたらされていない6).また,容器の使用性やハンドリングは点眼薬の継続的な使用に影響する可能性があり7,9.12),構造上の利点を追求すると識別だけのために容器の形状を多様化することは躊躇せざるをえない.つぎは「製品名」での識別となる.過去の報告6)と同様に「製品名」での識別は今回も7%と少なかったが,製品名を記憶している患者のほうが誤認が少なかった.このことから容器の外観だけでなく製品名も記憶できるような服薬指導が識別力の向上につながると考えられる.しかし「製品名」で識別していると答えながら誤認した患者のなかに,ラベルを見ただけで文字を読解していない患者もあり,彼らは製品名よりも容器形状で識別していると推測される.他の識別法でも申告と実際で相違するものがあった.服薬指導の際に製品名を強調し反復するなど自然に記憶できるようにすることがリスク回避に有効であると考えられる.患者の意見のなかに「製品名が覚えにくい」があった.医療従事者側からみても発音しづらく記憶しにくい製品名もあり,高齢者では特に困難であると予想される.単純で記憶しやすく,発音しやすい製品名とすることが製薬会社に今後求められる.Open-endedquestionによるフリー回答では,個々の意見や要望を引き出すことが期待できると報告されている13).今回の調査も落ち着いた個室でのインタビュー形式であり,「ラベル記載は製品名だけにして文字を大きくしてほしい」「触って識別できるような容器にしてほしい」「すべてのメーカーで薬効と色を統一してほしい」「キャップと点眼瓶の色を同じにしてほしい」など患者から忌憚のない意見を聴取することができた.緑内障患者は容器への要求水準が高く12),聞くほどに意見は掘り下げられる.地球環境に適合した材質の使用,行政指導や薬事法での記載制限など製薬会社側の事情もある8).容器を製造する製薬会社,実際に点眼薬を使用する患者,点眼薬を処方する医療機関の各々が自分たちの立場でしか見えないものもあり,三者で情報を共有し合うことにより「リスク回避」が効率的になると考えられるので,今後の連携が重要である.結論として,75歳以上の患者では点眼薬の誤認が多かった.点眼薬の識別法としてはキャップの色が多かった.製品名を記憶している患者の点眼薬の識別は良好であった.これらを踏まえて言えば,薬剤師として特に高齢の患者では点眼薬の製品名を覚えてもらうこと,そのうえでキャップの色をはじめとした識別法を伝えるような服薬指導が重要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)徳岡覚:緑内障患者への視点─コンプライアンスの実際.FrontierinGlaucoma1:38-41,20002)塚本秀利,三嶋弘:眼科医の手引き─緑内障患者とコンプライアンス.日本の眼科72:337,20013)平山容子:アンケートによる緑内障患者の意識調査.あたらしい眼科17:857-859,20004)森田有紀,堀川俊二,安井正和:緑内障患者のコンプライアンス─点眼薬の適正使用に向けて.医薬ジャーナル35:1813-1818,19995)吉川啓二:服薬指導の際の注意─コンプライアンスを高める患者説明.臨床と薬物治療19:1106-1108,20006)園田真也,鵜木一彦:点眼薬の識別に関する調査.あたらしい眼科19:359-361,2002(115)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012991 7)兵頭涼子,溝上志朗,川﨑史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,8)東良之:[医療過誤防止と情報]色情報による識別性の向上.参天製薬の医療用点眼容器ディンプルボトルの場合..医薬品情報学6:227-230,20059)福本珠貴,渡邊津子,井伊優子ほか:[患者さんにまつわる小さな「困った」対処法50]点眼指導で起こりうる小さな「困った」対処法.眼科ケア8:242-248,200610)沖田登美子,加治木京子:看護技術の宝箱New!高齢者の自立点眼をめざした点眼補助具の作り方.看護雑誌69:366-368,200511)兵頭涼子,林康人,鎌尾知行ほか:プロスタグランジン点眼容器の使用性の比較.あたらしい眼科27:1127-1132,201012)高橋真紀子,内藤知子,大月洋ほか:点眼容器形状のハンドリングに対する影響.あたらしい眼科27:1107-1111,201013)FriedmanDS,HahnSR,QuigleyHAetal:Doctor-patientcommunicationinglaucomacare.Ophthalmology116:2277-2285,2009***992あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(116)