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乳癌原発の転移性脈絡膜腫瘍に対し,ベバシズマブ硝子体内投与が奏効した1例

2017年9月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科34(9):1327.1329,2017c乳癌原発の転移性脈絡膜腫瘍に対し,ベバシズマブ硝子体内投与が奏効した1例堀内直樹*1,2,5富田洋平*1,5奥村良彦*2,4,5戸倉英之*3篠田肇*5坪田一男*5小沢洋子*5*1川崎市立川崎病院眼科*2足利赤十字病院眼科*3足利赤十字病院外科*4埼玉メディカルセンター眼科*5慶應義塾大学医学部眼科学教室CACaseofMetastaticChoroidalTumorSecondarytoBreastCancerTreatedbyIntravitrealBevacizumabNaokiHoriuchi1,2,5)C,YoheiTomita1,5)C,YoshihikoOkumura2,4,5)C,HideyukiTokura3),HajimeShinoda5),KazuoTsubota5)CandYokoOzawa5)1)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMunicipalHospital,2)DepartmentofOphthalmology,AshikagaRedCrossHospital,3)DepartmentofSurgery,AshikagaRedCrossHospital,4)DepartmentofOphthalmology,SaitamaMedicalCenter,5)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine乳癌原発の転移性脈絡膜腫瘍に対し,ベバシズマブ硝子体内投与が奏効したC1例を経験したので報告する.症例は67歳,女性で,初診時の矯正視力は右眼(0.5p),左眼(1.2)であり,両眼の眼底に漿液性網膜.離を伴う腫瘍を認めた.乳癌原発の転移性脈絡膜腫瘍と診断され,両眼に放射線療法を施行されたが,右眼は全網膜.離となり,視力は光覚弁となった.左眼の視力は(1.2Cp)を維持していたが腫瘍の大きさは変わらなかった.ベバシズマブC1.25Cmg硝子体内投与を両眼にそれぞれC2回施行した.初回の投与で両眼の網膜下液は減少し,左眼の腫瘍径は縮小した.2回目の投与後には,右眼の網膜下液のさらなる減少と,左眼の網膜下液の消失,および腫瘍による隆起の消失が得られた.本症例ではベバシズマブ硝子体内投与が乳癌原発の転移性脈絡膜腫瘍による滲出性変化の抑制と腫瘍の縮小に効果を示した.CWeCreportCtheCcaseCofCaC67-year-oldCfemaleCwithCbilateralCmetastaticCchoroidalCtumorsCsecondaryCtoCbreastcancertreatedbyintravitrealbevacizumabinjections.At.rstvisit,herbest-correctedvisualacuity(BCVA)was(0.5p)righteyeand(1.2)lefteye.Althoughbotheyeshadreceivedradiation,herrightBCVAdiminishedtolightperceptionduetototalretinaldetachment;herlefteyealsohadretinaldetachmentandtherewasnoreductionintumorCsizeCbutCherCleftCBCVACremained(1.2)atCthisCtime.CSheCtwiceCreceivedCbilateralCintravitrealCbevacizumab(IVB)injections(1.25mg)C.Afterthe.rstinjection,serousretinaldetachmentinbotheyesandtumorsizeinherlefteyedecreased.Afterthesecondinjection,serousretinaldetachmentwasfurtherreducedinbotheyes,andthetumorinherlefteyewas.attened.TheIVBwase.ectiveintreatingchoroidaltumorssecondarytobreastcancer.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(9):1327.1329,C2017〕Keywords:転移性脈絡膜腫瘍,ベバシズマブ,乳癌,滲出性網膜.離,腫瘍縮小.metastaticchoroidaltumor,bevacizumab,breastcancer,exudativeretinaldetachment,tumorregression.Cはじめに転移性脈絡膜腫瘍は,眼内の腫瘍のなかでもっとも頻度が高い1,2).原発巣としては肺癌や乳癌の比率が高く,両者で80%に及ぶ.眼底所見の特徴は,黄白色の扁平な円形隆起で,進行すると軽度から高度の滲出性網膜.離を伴うことがあり,黄斑部に網膜.離が及ぶと変視や視力低下をきたしうる.ベバシズマブ(AvastinCR,Genentech,USA)は,血管内皮細胞増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfactor:VEGF)に対するモノクローナル抗体で,VEGFファミリーのうち〔別刷請求先〕堀内直樹:〒210-0013神奈川県川崎市川崎区新川通C12-1川崎市立川崎病院眼科Reprintrequests:NaokiHoriuchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KawasakiMunicipalHospital,12-1Shinkawadori,Kawasaki-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa210-0013,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(115)C1327VEGF-Aに結合し,VEGF-Aが受容体(VEGFR-1,VEGFR-2,ニューロピリン)に結合するのを阻害する.この結果,腫瘍血管新生,腫瘍増殖,転移の抑制効果があると考えられている3).眼科領域においてベバシズマブ硝子体内投与は適応外(o.Clabel)使用であるが,糖尿病網膜症4),網膜静脈閉塞症4),未熟児網膜症4),Coats病4)など,その病態に血管新生や血管透過性亢進が関与する疾患に対しての有効性が報告された.しかし,転移性脈絡膜腫瘍に対するベバシズマブ硝子体内投与の有用性を報告する例は,海外,国内ともに少数である5).今回筆者らは,乳癌を原発とする転移性脈絡膜腫瘍および随伴する滲出性網膜.離に対してベバシズマブ硝子体内投与を施行し,早期に滲出性網膜.離の減少および腫瘍の縮小が得られたので報告する.なお,本研究は足利赤十字病院倫理委員会の承認のもとに行われた.CI症例患者:67歳,女性.現病歴:2006年,足利赤十字病院外科で右乳癌と診断された.このときの臨床病期はCT2N0M0であり,化学療法(エ図1初診時の所見a:右眼の眼底写真.下方に広がる漿液性網膜.離を認める.Cb:左眼の眼底写真.アーケード上方,および耳側に円形の隆起病変を認める(.).c:左眼のCBモード超音波断層検査.耳側に充実性の隆起を認める.Cd:左眼のフルオレセイン蛍光眼底造影写真(早期).隆起部に一致して多発点状の過蛍光を認める(.).e:頭部CCT.右眼に充実した腫瘍病変を認める(.).左眼の腫瘍はこのスライスでは描出されていない.Cf:初診時からC1カ月後の左眼のCOCT所見.隆起性病変があり(.),網膜下液が出現し,黄斑部に迫っている.Cピルビシン+ドセタキセル)を施行後,同年C6月に乳房部分切除術+腋窩リンパ節郭清が施行された.病理結果から充実腺管癌と診断され,エストロゲン受容体(+),プロゲステロン受容体(C.),ヒト上皮成長因子受容体タイプC2(humanepidermalgrowthfactorreceptorType2:HER2)(1+)であった.外科手術後はホルモン療法(アロマターゼ阻害薬)後,1年にC1回程度の定期通院をしていた.2014年C2月頃より右眼の視野障害を自覚し,近医眼科で右網膜.離および脈絡膜腫瘍を指摘され,同年C3月に足利赤十字病院眼科を紹介され受診した.初診時所見:最高矯正視力は右眼C0.4(0.5pC×sph+2.25D(cyl.1.25DCAx90°),左眼0.9(1.2pC×(cyl.1.25DCAx80°)で,眼圧は右眼C12CmmHg,左眼C17CmmHgであった.前房内には異常がなく,軽度白内障を認めた.右眼の眼底には下方に広がる漿液性網膜.離を(図1a),Bモードエコー上では内部が均一な,充実性のドーム型の隆起病変を認めた.左眼の眼底には,アーケード耳側,および上方にそれぞれC4乳頭径,3乳頭径程度の黄白色の隆起病変を(図1b),Bモードエコー上では,右眼同様充実性の隆起病変を(図1c)認めた.初診時の左眼のCOCTでは,黄斑部耳側にドーム状の隆起がみられた.フルオレセイン蛍光眼底造影検査では,左眼に早期に腫瘍部に一致した境界明瞭で,内部が不均一な過蛍光を認め,また辺縁部は網膜下液に伴う低蛍光で縁取られていた(図1d).また,前医で施行された頭部CCTでは,両眼に内部均一なドーム状の高吸収域が確認された(図1e).以上の所見より,乳癌を原発とする転移性脈絡膜腫瘍および滲出性網膜.離と診断された.臨床経過:2014年C4月には右眼の網膜.離が進行して黄斑部に至り,最高矯正視力が(0.05)と低下した.左眼の腫瘍は増大し,漿液性網膜.離が増悪した(図1f).乳腺外科で施行された採血検査で血中のCCEAの急激な上昇を認めたため,ホルモン療法(アロマターゼ阻害薬)が再開された.また,両眼に合計C45CGy/25Cfrの放射線療法が施行された.その後COCT上,左眼の漿液性網膜.離は改善したが,腫瘍による隆起は縮小しなかった.5月初旬の受診時には右眼が全網膜.離になり,細隙灯顕微鏡による診察では,.離した網膜が水晶体の後方にまで迫っているのが確認された.その後も定期的な診察が継続されたが,7月の診察時には,右眼の視力は光覚弁となり,全網膜.離の状態に大きな変化はなかった.左眼の矯正視力は(1.2Cp)で,漿液性網膜.離はある程度改善したものの,腫瘍径は縮小しなかった.そこで滲出性変化の抑制および腫瘍径の抑制を期待して,2014年C10月に,インフォームド・コンセントを得たうえで,両眼に対し初回のベバシズマブC1.25Cmg硝子体内投与を施行した.1328あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017(116)投与からC9日目の診察時には,右眼の漿液性網膜.離の丈は低下した.左眼眼底の腫瘍の隆起は縮小傾向であり,OCTにおいても左眼の隆起の縮小が確認された.同年C11月にC2回目のベバシズマブC1.25Cmgの硝子体注射を両眼に施行したところ,2015年C2月の診察時には,眼底所見上は左眼の隆起は消失し(図2a),FAG上では顆粒状の過蛍光の部位が縮小し(図2b),OCTでは,漿液性網膜.離の消失および隆起の平坦化を得た(図2c).このときの最高矯正視力は右眼C30Ccm手動弁(矯正不能),左眼(1.2p)であった.その後定期受診を予定していたが,本人の意向により2015年C4月以降は眼科を受診していない.なお,ベバシズマブ硝子体内投与後の観察期間において細菌性眼内炎,網膜.離,高眼圧,白内障などの眼局所の合併症,および脳血管疾患などの全身の合併症は生じなかった.CII考按本症例では,ベバシズマブ硝子体内投与により乳癌原発の転移性脈絡膜腫瘍に続発した滲出性網膜.離の減少,腫瘍の縮小が得られ,左眼の視力が維持された.Augustineらは,眼内転移性腫瘍に対する抗CVEGF薬の硝子体内投与により,59%の症例で視力の改善を,またC77%で腫瘍径の縮小を,45%で滲出性網膜.離の改善を得られたと報告した6).しかしながら,Maudgilらは,乳癌,肺癌,大腸癌の脈絡膜転移をきたしたC5例に対しベバシズマブの硝子体内投与を施行したが,4例において腫瘍の増悪,および視力の悪化がみられたことを報告している7).理由として,加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫と異なり,転移性腫瘍の場合,網膜色素上皮の障害は比較的軽度であり外側血液網膜関門(outerCblood-retinaCbarrier:outerCBRB)に障害をきたしていないため,ベバシズマブが脈絡膜にある腫瘍本体に到達しない可能性があると推察している7).本症例では漿液性網膜.離を伴っており,outerCBRBに障害をきたしていると考えられ,腫瘍本体へのドラッグデリバリーが良好であった可能性があった.脈絡膜転移は比較的放射線感受性が高いとされており,奏効率はC63.89%とされる8).しかし,本症例の場合,とくに左眼の漿液性網膜.離の進行がある程度抑えられ,視力が維持されたものの,両眼において腫瘍の縮小は得られず,右眼で滲出性変化の増悪を抑制することはできなかった.放射線療法は許容できる照射線量に限界があり,追加の照射をする場合,正常組織への放射線毒性が懸念される9).一方,ベバシズマブの硝子体内投与は繰り返し施行が可能であり,また治療の即効性,効果,副作用および治療の合併症の発症頻度を考えても,検討すべき治療法であるといえる10).現時点では脈絡膜転移は悪性腫瘍の末期における一徴候との認識があるが,従来に比較すると近年では抗癌剤をはじめ(117)図2ベバシズマブ硝子体内投与後(2回目)の所見a:左眼の眼底写真.隆起はほぼ消失している.Cb:左眼のフルオレセイン蛍光眼底造影写真(早期).顆粒状の過蛍光は縮小傾向である.c:左眼のCOCT所見.ほぼ平坦化している.Cとする癌治療の進歩により生命予後が長くなってきた.そのため転移性脈絡膜腫瘍をきたした患者も,その後のCqualityofvision(QOV)の維持や改善の重要性は今後も高まっていくものと考える.ベバシズマブ硝子体内投与が転移性脈絡膜腫瘍の患者のCQOVを改善する治療法の一つとなる可能性を,今後も研究する必要があると考える.文献1)FerryAP,FontRL:Carcinomametastatictotheeyeandorbit.I.Aclinicopathologicstudyof227cases.ArchOph-thalmolC92:276-286,C19742)BlochCRS,CGartnerCS:TheCincidenceCofCocularCmetastaticCcarcinoma.ArchOphthalmolC85:673-675,C19713)LienCS,CLowmanCHB:TherapeuticCanti-VEGFCantibodies.CHandbExpPharmacol181:131-150,C20084)木村修平,白神史雄:【抗CVEGF薬による治療】ベバシズマブのオフラベル投与.あたらしい眼科C32:1083-1088,C20155)稲垣絵海,篠田肇,内田敦郎ほか:滲出性網膜.離に対してベバシズマブ硝子体内投与が奏効した転移性脈絡膜腫瘍のC1例.あたらしい眼科C28:587-592,C20116)AugustineCH,CMunroCM,CAdatiaCFCetCal:TreatmentCofocularCmetastasisCwithCanti-VEGF:aCliteratureCreviewCandcasereport.CanJOphthalmolC49:458-463,C20147)MaudgilCA,CSearsCKS,CRundleCPACetCal:FailureCofCintra-vitrealCbevacizumabCinCtheCtreatmentCofCchoroidalCmetas-tasis.Eye(Lond)C29:707-711,C20158)荻野尚,築山巌,秋根康之ほか:脈絡膜転移の放射線治療.癌の臨床C37:351-355,C19919)ZamberCRW,CKinyounCJL:RadiationCretinopathy.CWestCJCMedC157:530-533,C199210)山根健:Therapeutics抗CVEGF薬でみる硝子体内薬物注射の基本硝子体注射によって起こりうる副作用・合併症.眼科グラフィックC2:165-168,C2013あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017C1329

ゲフィチニブが著効した転移性脈絡膜腫瘍の1例

2010年6月30日 水曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(137)851《原著》あたらしい眼科27(6):851.855,2010cはじめに近年,癌患者の生命予後は改善し,転移性眼腫瘍の頻度は増加し従来にも増して眼科臨床の場で転移性眼腫瘍に遭遇する機会が増えてきている.悪性腫瘍による眼内への転移性腫瘍好発部位は,血管の豊富なぶどう膜,そのなかでも脈絡膜腫瘍が79.5.88%と大部分を占めている.その原発巣としては男性では肺癌,女性では乳癌が多いといわれて特に肺癌が原発巣の場合には,無症状である症例もあり,眼科受診をきっかけに原発巣が発見されることも少なくない1).肺癌脈絡膜転移の治療法としては放射線療法,光凝固療法,眼球摘出術,全身化学療法のほか,最近ではphotodynamictherapy(PDT)などがあるが,患者の予後やqualityoflife(QOL)を熟慮した選択が望まれる.今回筆者らは,眼症状を初発症状し発見された肺癌を原発とした転移性脈絡膜腫瘍に対して保存的療法の有力なオプションとなりうるゲフィチニブ(イレッサR)を主体とした化学療法を行い,原発巣とともに脈絡膜の転移病変が色素上皮萎縮を伴い瘢痕化した1例を経験したので報告する.I症例患者:69歳,女性.主訴:右眼視野欠損.現病歴:平成18年7月中旬より,右眼視野欠損を自覚し近医受診.脈絡膜隆起性病変を認めたため,当科紹介受診となった.既往歴:特記すべきことなし.家族歴:特記すべきことなし.喫煙歴:なし.初診時所見:VD=0.2(0.7×+1.5D),VS=0.3(0.9×+1.75D(cyl.0.75DAx100°).眼圧は右眼14mmHg,左眼20mmHg.前眼部に異常所見なく,中間透光体は両眼とも軽度白内障,眼底は右眼黄斑部耳側上方に5乳頭径大の隆起〔別刷請求先〕有村哲:〒143-8541東京都大田区大森西7-5-23東邦大学医学部眼科学講座Reprintrequests:TetsushiArimura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine,7-5-23Omorinishi,Ota-ku,Tokyo143-8541,JAPANゲフィチニブが著効した転移性脈絡膜腫瘍の1例有村哲松本直飯野直樹杤久保哲男東邦大学医学部眼科学講座ACaseofMetastaticChoroidalTumorEffectivelyTreatedwithGefitinibTetsushiArimura,TadashiMatsumoto,NaokiIinoandTetsuoTochikuboDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine69歳,女性.右眼視野異常にて当科紹介受診.右眼黄斑部耳側上方に5乳頭径の脈絡膜腫瘍とその周囲に漿液性網膜.離認め,全身検索の結果,肺腺癌を認め,患者の希望もありゲフィチニブをfirstlineで投与したところ奏効し,腫瘍部は周囲に色素沈着を伴い,縮小・瘢痕化した.肺癌脈絡膜転移に対し,ゲフィチニブの有用性を認めた1例を経験した.A69-year-oldfemalevisitedanearbyhospitalforabnormalvisualfieldinherrighteye.Abnormalocularfunduswasdetected,andshewasreferredtoourdepartment.Sizeofthechoroidaltumorwasapproximately5timesasmuchasopticnerve.Thetumorappearedintheupperlateralrightareaofthemacula,withserousretinaldetachmentaroundit.Systemicexaminationrevealedadenocarcinomaofthelung;Gefitinibwasusedasthefirstlineoftreatment,thepatientreadilyagreeing.Themedicationwashighlyeffective,thetumorareadecreasing/cicatrizing,withaccompanyingpigmentationinthesurroundingarea.Thiscaseconfirmstheeffectivenessofgefitinibinthetreatmentoflungcancermetastasistothechoroid.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(6):851.855,2010〕Keywords:転移性脈絡膜腫瘍,肺癌,ゲフィチニブ,上皮成長因子「受容体」.metastaticchoroidaltumor,lungcancer,gefitinib,epidermalgrowthfactorreceptor.852あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(138)AB図1初診時眼底所見(A:右眼,B:左眼)右眼に5乳頭径大の無色素性で黄色調の周囲に漿液性網膜.離を伴う腫瘤性病変を認めた.AB図2蛍光眼底造影写真A:右眼蛍光眼底造影写真においては,続発性網膜.離(矢印)に一致したフルオレセインの漏出と脈絡膜腫瘍を認めた.B:治療開始4カ月後においては,漏出は減少し腫瘍も瘢痕化し縮小傾向.AB図3超音波検査右眼の超音波検査においては,丈のある脈絡膜腫瘍(矢印)を認め(A),治療開始後4カ月においては消失していた(B).(139)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010853性病変とその周囲に漿液性網膜.離がみられた(図1).フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)では造影早期に腫瘍に一致した低蛍光を認め,後期には輪状の低蛍光のなかに斑状の過蛍光を認めた(図2).超音波Bモードにて腫瘤は実質性,内部反射は中等度,構造はやや不規則で高さは約2mm程度であった(図3).II全身所見胸部X線写真では左中肺野に約30mm大の結節影を認め(図4),胸部CT(コンピュータ断層撮影)では左肺S3領域に24.9×17.0mm大の胸膜陥入像を伴う結節影と両肺野に肺内転移が疑われる小結節影を伴っていた.採血にて腫瘍マーカーはCEA(癌胎児性抗原)4.7ng/ml,シフラ2.6ng/ml,NSE(神経特異エノラーゼ)8.9ng/ml,ProGRP(ガストリン放出ペプチド前駆体)20.9pg/mlであり血清KL-6高値であったが,間質性肺炎は認めなかった(図5).骨シンチでは左頭頂骨および,左第5肋骨に異常集積を認めた.肺生検組織所見では巣状ないし腺管状の異型細胞を認め(図6),中分化型腺癌と診断されその組織標本を用いた上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子検査(ダイレクトシークエンス法)ではexon21codon858CTG(Leu)からCGG(Arg)への遺伝子図4胸部X線写真入院時,胸部X線写真において左中肺野に腫瘤陰影(矢印)を認めた.ACBD図5胸部CTA,B:胸部CTでは左S3領域に胸膜嵌入像を認め,両肺野に散在する転移性小結節を認めた.C,D:ゲフィチニブ投与後,1カ月後の胸部CTでは転移性小結節は消失し,一次病巣は縮小傾向.854あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(140)変異を認めた.III経過左肺S3原発の肺腺癌(T4N0M1)で,EGFR遺伝子変異が同定されていることなどから通常の化学療法よりゲフィチニブが強い抗腫瘍作用を期待されることや,間質性肺炎などの重篤な副作用などについてのインフォームド・コンセントを十分に行ったうえで,本人・家族の強い希望および呼吸器内科医の判断にてfirstlineでゲフィチニブ投与を行った.2006年9月上旬よりゲフィチニブ250mg/日投与を開始され,視野異常はゲフィチニブ投与後数日で改善傾向を示し,脈絡膜腫瘍に伴う漿液性網膜.離は縮小傾向を認めた.1カ月後の胸部CTでは左肺S3の原発巣も32%の縮小を認め,肺内転移もほぼ消失していた.投与4カ月後のFA所見では脈絡膜転移の造影効果と,色素漏出が消失していた.また,Goldmann視野検査においても感度低下は残存するも暗点は改善しており(図7),超音波検査においても腫瘍の縮小が認められた.2009年3月当科最終受診時において,右眼矯正視力は0.7,視野検査においても暗点の改善を認めた.現在,眼症状としては明らかな症状はなく,原発巣もさらに縮小し外来経過観察中である.IV考按本症例は前眼部に異常所見なく,眼底において右眼黄斑部耳側上方に5乳頭径大の隆起性病変とその周囲に漿液性網膜.離を伴っており,FA所見として造影早期に腫瘍に一致した低蛍光を認め,後期には輪状の低蛍光内に腫瘍血管によると思われる斑状過蛍光を認めた点や,超音波検査においても実質性の隆起性病変を認めたため,転移性脈絡膜腫瘍,無色素性脈絡膜悪性黒色腫,脈絡膜母斑などの脈絡膜腫瘍が疑われた.全身検索を行いその結果,胸部X線写真,採血,胸部CT,肺生検において肺癌と診断されたことから転移性脈絡膜腫瘍と考えられた.転移性脈絡膜腫瘍の症状は視野異常,視力低下,眼痛,飛蚊症などがあるが,眼症状が出現せずに死亡する患者も多いため,剖検して初めて発見される症例も少なくない.Blochら2)は230例の剖検で12%に眼転移を認めたと報告しており,また転移性肺癌も含む肺癌症例では7.1%に脈絡膜転移を認めたとする報告もある.転移性脈絡膜腫瘍の原発巣としてはShieldsら3)の報告では乳癌が47%,ついで肺癌は21%,矢野ら9)の報告では乳癌が64%,肺癌が13%と報告している.そのほかは消化器系,腎細胞癌などが数%ずつの頻度で,原因不明癌も約17%認めている.原発巣と転移巣の発見の時間的関係は肺癌,乳癌で異なり,乳癌は原発巣発見図6病理組織所見経気管支生検においては,中分化型腺癌を認めた(ヘマトキシリン・エオジン染色,×400).HE,×400AB図7Goldmann視野計A:眼底所見に一致した視野欠損を認めた.B:ゲフィチニブ治療開始後4カ月では視野改善傾向.(141)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010855から1.5年未満のことが多く,肺癌の場合は1年未満,もしくは本症例のように転移性脈絡膜腫瘍を契機として原発巣が発見されることも少なくない.肺癌脈絡膜転移の治療法としては放射線療法,光凝固療法,眼球摘出術,全身化学療法のほか,最近ではPDTなどがあるが,患者の予後やQOLを熟慮した選択が望まれる.一般に眼球摘出術が施行されることは少ないが,耐えがたい眼痛をきたした症例や二次性緑内障予防のために選択されることもある7).発癌メカニズムとして,EGFRの構造がレトロウイルスの影響や突然変異などで変化すると強いチロシンキナーゼ活性を示し,常に増殖のシグナルを送り続けて癌化することがあると考えられている13).ゲフィチニブはEGFRチロシンキナーゼを選択的に阻害し腫瘍細胞の増殖能生を低下させる.EGFRの遺伝子変異は本症例同様,女性,非喫煙者,東洋人,腺癌に多く認められることが知られている.現在,ゲフィチニブは非小細胞癌においてfirstlineにおける有用性および安全性は確立されていないため,secondline以降の既治療患者に投与されている.しかし実地医療においては,全身状態不良の理由から従来の化学療法が困難な症例や,患者本人・家族の希望によりゲフィチニブが投与され改善する症例も経験されている.本症例も,前述したようにEGFR遺伝子変異が同定されており通常の化学療法より強い抗腫瘍作用が期待されることや,間質性肺炎など重篤な副作用などのインフォームド・コンセントを十分に行ったうえで,本人・家族および呼吸器内科医の協議によりfirstlineでゲフィチニブ投与を行った.肺癌脈絡膜転移例は,2009年までの過去12年間で,本症例を含め19例報告されており6,7,11,12),ゲフィチニブ投与は2例のみと眼科領域におけるゲフィチニブの知見はいまだ乏しく,firstlineでゲフィチニブを投与した例およびEGFR遺伝子変異を同定しえたものは本症例が初めてあった.本症例ではゲフィチニブ投与後,原発巣および脈絡膜転移の改善を認めたが,ゲフィチニブを含む化学療法のみ脈絡膜転移の改善を認めたものは7例中6例であった.本症例を含めたゲフィチニブ投与2例はともに原発巣,脈絡膜転移に対して奏効した.本症例において視野異常がゲフィチニブ投与数日で改善を認めたことは,脈絡膜へ転移した腫瘍細胞にもEGFRが発現しており,その腫瘍の縮小とともに網膜.離が改善したためと思われる.また,19症例の生存期間中央値をみても12カ月とStephensら5)の5.2カ月より長く,これは新規抗癌剤やゲフィチニブなどの効果によるものと考えられる.転移性脈絡膜腫瘍に関して内科医との十分な連携を行い症例によっては今後,肺癌患者の増加や遺伝子変異検索の普及などに伴いその結果次第で,ゲフィチニブ投与は保存的療法の有力な選択肢となると考えられ,適切な投与法が確立されることで眼底所見の改善などにおいて治療効果を推定でき,そうすることにより精神的不安の多い肺癌患者の心的ストレスを少しでも軽減できるのはないかと考えられる.本論文における症例は,文献14)と同症例であり,多大なご協力をいただいた坂口真之先生,磯部和順先生らに感謝するとともに,ゲフィチニブの眼科領域における知見がいまだに乏しく長期経過例の報告も少ないことや,また呼吸器内科との連携の重要性にご考慮いただき眼科臨床の立場から同症例を報告させていただいたことに深謝いたします.文献1)石川徹,今澤光宏,塚原康司ほか:化学療法により他萎縮した転移性脈絡膜腫瘍の1例.眼科44:97-101,20022)BlochRS,GartnerS:Theincidenceofocularmetastaticcarcinoma.ArchOphthalmol85:673-675,19713)ShieldsCL,ShieldsJA,GrossNEetal:Surveyof520eyeswithuvealmetastasis.Ophthalmology104:1265-1276,19974)KreuselKM,WiegelT,StangeMetal:Choroidalmetastasisindisseminatedlungcancer:frequencyandriskfactors.AmJOphthalmol134:445-447,20025)StephensRF,ShieldsJA:Diagnosisandmanagementofcancermetastatictotheuvea:astudyof70cases.Ophthalmology86:1336-1349,19796)ChongJT,MickA:Choroidalmetastasis:casereportsandreviewoftheliterature.Optometry76:293-301,20057)AbundoRE,OrenicCJ,AndersonSFetal:Choroidalmetastasesresultingfromcarcinomaofthelung.JAmOptomAssoc68:95-108,19978)折居美波,中川純一,江原正恵ほか:血清KL-6高値を示し,Gefinibが著効した肺腺癌の4例.肺癌44:644,20049)矢野真知子,小田逸夫ほか:転移性脈絡膜腫瘍53例の検討.臨眼45:1347-1350,199110)ShieldsJA,ShieldsCL,EagleRCJr:Choroidalmetastasisfromlungcancermasqueradingassarcoidosis.Retina25:367-370,200511)木村格,児玉俊夫,大橋裕一ほか:肺癌を原発とした脈絡膜転移癌にゲフィチニブが奏効した1例.眼紀56:360-367,200512)金谷靖仁,吉澤豊久,鈴木恵子ほか:肺癌の脈絡膜転移1症例と文献的考察.眼紀48:1216-1224,199713)門脇孝,戸辺一之:チロシンキナーゼ1.チロシンキナーゼ癌遺伝子産物と増殖因子受容体.豊島久眞男,秋山徹編:癌化のシグナル伝達機構,p26-40,中外医学社,199414)坂口真之,磯部和順,浜中伸介ほか:ゲフィチニブが奏効した肺癌脈絡膜転移の1例.肺癌48:123-129,2008