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低加入度数分節型眼内レンズ挿入後の3 年間の成績

2023年1月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科40(1):106.110,2023c低加入度数分節型眼内レンズ挿入後の3年間の成績松本栞音蕪龍大岩崎留己福田莉香子古島京佳竹下哲二上天草市立上天草総合病院眼科CThree-YearFollow-UpofClinicalEvaluationofaBiaspheric,Segmented,RotationallyAsymmetricIntraocularLensImplantationAfterCataractSurgeryKanonMatsumoto,RyotaKabura,RumiIwasaki,RikakoFukuda,KyokaFurushimaandTetsujiTakeshitaCDepartmentofOphthalmoiogy,KamiamakusaGeneralHospitalC目的:白内障手術にて低加入度数分節型眼内レンズ(IOL)を挿入した患者のC3年間の長期成績について調べた.対象および方法:上天草総合病院で白内障手術を受け,レンティスコンフォート(以下,LC)を両眼に挿入したC19例(38眼)の患者を対象に,3年間の術後視機能および満足度を評価した.術後C1週間,1カ月,3カ月,1年,2年,3年に,遠見視力(裸眼・矯正),遠見矯正下C70Ccm・50Ccm視力,眼鏡処方率,Nd:YAGレーザーによる後.切開術施行率(以下,YAG施行率)を調べた.結果:術後C3年時の遠見視力はClogMAR±標準偏差値(小数換算値)で裸眼・矯正視力の順に.0.03±0.13(1.07),.0.06±0.05(1.15),遠見矯正下C70cm視力はC0.05±0.15(0.89),遠見矯正下50Ccm視力はC0.16±0.22(0.69)で,術後C1週間からC3年時まで有意な経時的変化はなかった.眼鏡処方率はC15.8%,YAG施行率はC10.5%だった.結論:LC挿入後C3年間の成績は,遠見,70Ccm視力ともに良好で安定し,眼鏡処方率が低く,高い患者満足度が維持されていた.CPurpose:Toinvestigatethe3-year-postoperativeoutcomesinpatientswhounderwentLENTISComfort(LC)Cintraocularlens(IOL)implantationduringcataractsurgery.SubjectsandMethods:In19patients(38eyes)whounderwentCcataractCsurgeryCandCLCCimplantationCinCbothCeyesCatCKamiamakusaCGeneralCHospital,CvisualCfunctionCandCsatisfactionCwasCevaluatedCforC3-yearsCpostoperative.CCorrectedCdistanceCvisualacuity(VA),CcorrectedC70CcmCVACatCfromC1CweekCtoC3CyearsCpostCsurgery,CandCrateCofNd:YAGClasercapsulotomy(YAG)wasCexamined.CResults:AtC3-yearsCpostoperative,CtheClogMARC±standarddeviation(decimalequivalent)ofCdistanceCVACwasC.0.06±0.05(1.15)forCcorrectedCVA.CTheCdistance-correctedC70cmCVACwasC0.05C±0.15(0.89),CshowingCnoCsigni.cantchangeovertimefrom1-weekto3-yearspostoperative.TherateofYAGimplementationwas10.5%.Conclusions:AtC3CyearsCpostCLCCimplantation,CbothCdistanceCvisionCandC70CcmCVACwereCgoodCandCstableCwithCaChighpercentageofpatientsatisfaction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(1):106.110,C2023〕Keywords:レンティスコンフォート,3年,長期成績,アンケート,満足度.LentisComfort,three-year,long-termoutcomes,questionnaire,satisfaction.Cはじめに近年,白内障手術は乱視矯正用(トーリック)眼内レンズ(intraocularlens:IOL)や多焦点CIOLといった付加価値のあるCIOLの登場によって,従来の混濁した水晶体を除去するだけの手術ではなく,屈折矯正としての意味合いが強くなった1).良好な裸眼視力を求める患者のなかには,矯正視力がよくても手術結果に満足しない人が存在する.良好な裸眼遠見視力,中間から近見視の際の眼鏡からの解放は,患者満足度の向上につながる.2019年発売の低加入度数分節型屈折型CIOLであるレンティスコンフォート(LS-313MF15,参天製薬:以下,LC)は,+1.50D加入の分節部分をもつプレートハプティクス型CIOLで,厚生労働省が保険診療適用としているCIOLにはCLCに類似した光学特性を有するものは現在のところな〔別刷請求先〕松本栞音:〒866-0293熊本県上天草市龍ヶ岳町高戸C1419-19上天草市立上天草総合病院眼科Reprintrequests:KanonMatsumoto,DepartmentofOphthaimoigy,KamiamakusaGeneralHospital,1419-19RyugatakemachiTakado,Kamiamakusa-shi,Kumamoto866-0293,JAPANC106(106)い2).LCはその特異的な形状と性質から術後視機能が注目されているが,術後C1年を超えた長期成績の報告はない.LC挿入からC3年経過した成績および術後アンケートによる満足度を後ろ向きに検討した.CI対象および方法対象はC2018年C12月.2019年C4月に,上天草総合病院にて白内障手術で非トーリックのCLCを挿入した患者のうち,術前検査にて視力に影響を及ぼす疾患の既往がなく,発売当初トーリックモデルがなかったため,角膜乱視がおよそ0.50D以下で他社CwebカリキュレーターではトーリックIOLの適応とならない症例を対象に,LCを挿入しC3年の経過を追うことができた症例とした.また,術後C1週間の矯正遠見視力がC0.7以上で,LCを両眼挿入した患者を対象とし,僚眼未手術および片眼挿入の患者は除外した.本研究は,上天草総合病院の倫理審査委員会の承認を得たのち,ヘルシンキ宣言に準拠して実施した.IOL度数は角膜曲率波面収差解析装置COPDCScanIII(ニデック)および眼軸長はCUS-4000エコースキャン(ニデック)で測定しCSRK/T式を用いて球面度数を決定した(A定数:118.0).OPDCScanIIIの測定設定は0.01Dステップだった.目標屈折値は全例C0Dとした.LCは健康保険が適用されるCIOLで,発売当初は単焦点レンズに分類されており,低加入度数で近方視力は望めず,中間視力もどの程度見えるか不明であったため患者に過大な期待をもたせないよう,あえてCIOL特性についての事前説明はしなかった.白内障手術はすべて同一の術者が行った.前.切開は連続円形切.(continuousCcurvilinearcapsulorhexis:CCC)でIOL前面をCcompletecoverできる大きさとし,2.2Cmm幅の上方強角膜切開から水晶体乳化吸引術を行った.IOL挿入にはエタニティCLCJインジェクターと専用カートリッジ(いずれも参天製薬)を用いた.挿入時の粘弾性物質にはヒアルロン酸CNa(千寿製薬)を用い,IOL挿入後にCI/AチップでIOLをタッピングする方法で十分に除去した.切開創は無縫合とした.検討項目は視機能評価として,術後C1週間,1カ月,3カ月,1年,2年,3年の遠見視力(裸眼・矯正),遠見矯正下のC70CcmおよびC50Ccm視力,自覚等価球面度数(sphericalequivalent:以下,自覚CSE)および他覚屈折等価球面度数算して行った.自覚CSEは遠見矯正視力測定時の屈折値から,他覚CSEはオートレフラクトメータ(ニデック:TONOREFII)の値から求めた.アンケートは術後C3カ月およびC3年経過時に行い,内容は術後満足度および日常生活満足度とした.術後満足度はCNEIVFQ-25(日本語版Cver1.4)を使用しC0.10点のスコアとした.日常生活満足度はCCatquest-9SFの英語版を翻訳した項目を使用し,「新聞・読書」「値札・ラベル」「顔・表情」「テレビの字幕」のC4項目について各C1.4点のスコアとした.両スコアとも高得点のほうがより満足度が高くなるよう設定した.連続変数に対してCShapiro-Wilk検定にてデータの正規性を評価し,視力および屈折の経時的な変化に対してはCFried-man検定を行い,有意な変動がある場合にはCHolmの多重比較を行った.自覚CSEと他覚CSEの差についてはCMann-WhitneyU検定を用いた.アンケート結果の比較では,Wilcoxonの符号付順位検定を行った.統計解析ソフトはIBMSPSSStatisticsVer25.0forWindows(日本IBM)を使用し,統計学的有意水準をC5%未満(両側検定)とした.結果は,平均±標準偏差で標記する.CII結果LCはC65眼に挿入されていたが,選択基準に合わない症例(僚眼未手術C4眼,片眼CLC挿入C1眼,術後C3年まで経過観察できなかった症例など)を除き,19例(男性C6例,女性13例)38眼を解析対象とした.手術時の平均年齢はC70.7C±4.7歳だった.対象者の術前平均眼軸長はC23.54C±1.40Cmm,平均角膜乱視度数はC0.55C±0.28D,挿入されたCIOLの平均度数はC19.59C±3.93Dだった.術後C3年時の遠見視力値は,裸眼C.0.03±0.13,矯正C.0.06±0.05で,ともに平均小数視力がC1.07以上と良好となり,どちらも術後C1週間からC3年にわたり有意な差はなかった(裸眼:p=0.41,矯正:p=0.13)(図1a).同様に,遠見矯正下C70cm視力は0.05C±0.15(p=0.16),遠見矯正下50Ccm視力はC0.16C±0.22(p=0.052)で経時的変化に有意な差0.38D)C±0.22.週間(C1).自覚SEは,術後C1b図はなかった(と比較しC3年(-.0.07C±0.35D)で,有意に遠視化していた(p<0.01).他覚CSEも遠視化しており術後C1週間(C.1.06±0.41D)とC3カ月(C.0.73±0.46D)(p<0.05),1年(C.0.61±(以下,他覚CSE),術後C3年間の眼鏡装用率,Nd:YAGレ4.0.,3年.05)C0<p)(D8C0±0.59.,2年(.01)C0<p)(D04Cーザー後.切開術の施行率(以下,YAG施行率)とした.後.切開術はC1.0以上出ていた視力が後発白内障によってC0.9以下に低下したときや,1.0以上あっても患者が霧視を訴えそれが後発白内障によるものと判断した場合に行った.視力はC5Cm小数視力表にて最高C1.2まで測定し,統計解析の際にはClogarithmicminimumangleofresolution(logMAR)に換(.0.58D±0.58D)(p<0.01)で有意差を認め,また術後C1カ月(C.0.85±0.46D)とC1年でも有意差を認めた.また,自覚CSEと他覚CSEの差については術後C1週間からC3年まですべて有意差を認めた(すべてp<0.01)(図2).眼鏡を使用していたのはC3例で,使用目的は遠方視用C0例,近方視用C2例,遠近両用C1例で,装用率はC15.8%,近a(logMAR)-0.20p=0.13-0.10-0.07-0.07-0.08-0.06-0.07-0.060.00-0.01-0.010.010.00-0.030.000.020.10矯正0.20裸眼p=0.410.30BasedonFriedmantest0.390.40術前1週間1カ月3カ月1年2年3年b(logMAR)p=0.16BasedonFriedmantest-0.20-0.100.00-0.020.050.100.130.160.200.300.401週間1カ月3カ月1年2年3年図1術後視力の経時変化a:術前から術後C3年までの遠見裸眼および矯正視力の経時変化を示す.術後C1週間からC3年までの経時変化は統計学的な有意差を認めず視力が維持された.Cb:は遠方矯正下のC70CcmおよびC50Ccmの経時変化を示す.遠見視力と同様,術後C1週間からC3年までの経時変化は統計学的な有意差を認めず視力が維持された.方視用の平均加入度数はC2.00C±0.43Dだった.YAG施行率はC10.5%(4眼)で,施行時期は術後C22.37カ月(平均C31カ月)だった.アンケートによる術後満足度のスコアは術後C3カ月ではC8.13±2.28,術後C3年ではC8.44C±1.21で,有意な変化はなかった(p=0.76).日常生活満足度では術後C3カ月・3年の順に,「新聞・読書」はC3.2C±0.9,3.3C±1.2(p=0.99),「値札・ラベル」はC3.8C±0.8,3.8C±1.0(p=0.71),「顔・表情」はC3.6C±0.9,3.8C±1.0(p=0.94),「テレビの字幕」はC3.5C±0.8,3.6C±1.1(p=0.92)でいずれも有意差はなかった(図3).CIII考按LC挿入後C3年間の成績について調査した.遠見視力は裸眼も矯正も術後C1週間で良好だったがそのままC3年間維持されていた.術後C1年の成績の報告2)と比較しても差異はなかった.中間視力に該当するC70Ccm視力については術後C1週間でClogMAR値C.0.02(小数視力C1.05)と日常生活に十分と思われる視力が得られており,3年間変化はなかった.50Ccm視力は術後C1週間でClogMAR値C0.13(小数視力C0.74)ではあったがC3年間で低下することはなく,眼鏡装用率は15.8%で眼鏡は不要とする患者のほうが多かった.術後C1週間では自覚CSEC.0.22D,他覚CSEC.1.06Dと乖離しており,これは筆者らの過去の報告同様である3).また,高須らは術後1カ月での乖離量がC0.75Dだと報告4)しているが同等の乖離量だといえる.他覚CSEは術後C3年の間に徐々に遠視化したが,術後C3年目でも自覚CSEと他覚CSEの間には有意差があった.FindlらはCIOLデザインの違いによって術後C1カ月までは前房深度変化が顕著であり,術後C1年まで図2術後屈折値の変化自覚等価球面および他覚等価球面の経時変化と両者の差を示す.両者ともFriedman検定にて有意差を認め,Holm法による多重比較を行ったところ,自覚等価球面は術後C1週間とC1年の屈折値に有意差を認めた.また,他覚等価球面は術後C1週とC3カ月以降の各値,術後C1カ月とC1年の屈折値に有意差を認めた.他覚等価球面の術後C1年以降は値が維持された.自覚等価球面と他覚等価球面の値の差は術後C1週間からC3年までのすべてで有意差を認めた.変化することを報告した5).また,杉山らは術後C4日を起点として術後C1年までは前房深度が有意に深くなり,他覚屈折値もC3カ月までは徐々に遠視化したとしている6).LCは水晶体.の変化によって後方に移動するため,遠視化するものと思われる.術後C1カ月と術後C1年の間でも他覚CSEに有意差があったことから,LCも術後C1年は他覚CSEの遠視化が続くといえる.そのC1年の間に約C0.50Dの変化があるものの,遠見.70,50Ccm視力は屈折の変化に伴うことなく維持しており,LCのCIOL特性と考えられる.後発白内障に対し術後C3年までにC10.5%でCNd:YAGレーザー後.切開術が施行されていた.LCと同形状,同素材で加入度数のみが異なるCLS-313MF20およびCMF20Tの報告では発生率がC10.2%(93/913眼)とされており,本研究でも同等の結果だった7).疎水性アクリル素材の多焦点CIOLについてC3年間追跡した報告ではCYAG施行率がC2.4.5.1%とされている8).LCにおける後発白内障の発生頻度は高いと思われる.LCは親水性アクリル素材であるが,それが後発白内障のリスクに影響するのかどうか,さらに長期の経過観察が必要である.筆者らは前回,満足度に関するアンケート調査の結果,LCを挿入した患者のなかには手術直後は視力が良好にもかかわらず満足度が低く,満足度が上昇するのに時間がかかる患者がいると報告した9).今回の調査で,術後C3カ月ではC10点満点中C8.13点,術後C3年においてもC8.44点と,術後C3カ月からC3年では高い満足度が維持されることがわかった.今21BasedonWilcoxonsignedranktestp=0.71p=0.94p=0.92図3日常生活満足度の比較日常生活満足度の術後C3カ月とC3年のアンケートスコアを示す.すべての項目で経時的変化は認めずスコアは維持された.回は術直後のアンケートは行っていないが,一定期間日常生活を送るうちに順応が生じ,LCの明視域の広さを理解できるようになったものと推察する.LCは挿入後C3年間,良好で安定した遠見およびC70Ccm視力が得られ,眼鏡処方率は低く,患者満足度が高かった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)神谷和孝:眼内レンズ度数計算の現状と今後.視覚の科学C42:39-43,C20212)OshikaT,AraiH,FujitaYetal:One-yearclinicalevalu-ationofrotationallyasymmetricmultifocalintraocularlenswith+1.5dioptersnearaddition.SciRepC9:13117,C20193)橋本真佑,蕪龍大,川下晶ほか:低加入度数分節型眼内レンズ挿入眼の測定機器による他覚屈折値の相違.眼科C62:69-72,C20204)高須逸平,高須貴美,貝原懸斗ほか:レンティスCRコンフォート挿入眼のオートレフラクトメータ値と自覚的屈折値との乖離.臨眼78:965-969,C20205)FindlO,HirnschallN,MaurinoVetal:Capsularbagper-formanceCofCaChydrophobicCacrylicC1-pieceCintraocularClens.JCataractRefractSurgC41:90-97,C20156)杉山沙織,後藤聡,小川佳子ほか:低加入度数分節型眼内レンズの術後前房深度経時的変化.日眼会誌C124:395-401,C20207)KimCWJ,CEomCY,CYoonCGECetal:ComparisonCofNd:CYAGClaserCcapsulotomyCratesCbetweenCrefractiveCseg-mentedCmultifocalCandCmultifocalCtoricCintraocularClenses.CAmJOphthalmolC222:359-367,C20218)HawardCT,CEnderCF,CSamavedamCSCetal:E.ectCofCAcrySofCversusCotherCintraocularClensCpropertiesConCtheCriskCofNd:YAGCcapsulotomyCafterCcataractsurgery:ACsystematicCliteratureCreviewCandCnetworkCmeta-analysis.CPLoSOneC14:e0220498,C20199)蕪龍大,川下晶,岩崎留己ほか:レンティスコンフォートR挿入後における満足度に影響する因子の検討.IOLC&RSC35:623-631,C2021***

眼内レンズ挿入眼の落屑緑内障に対する線維柱帯切開術の 長期成績

2022年8月31日 水曜日

眼内レンズ挿入眼の落屑緑内障に対する線維柱帯切開術の長期成績福本敦子柴田真帆豊川紀子松村美代黒田真一郎永田眼科CLong-TermOutcomeAfterTrabeculotomyasInitialSurgeryinPseudophakicEyeswithExfoliationGlaucomaAtsukoFukumoto,MahoShibata,NorikoToyokawa,MiyoMatsumuraandShinichiroKurodaCNagataEyeClinicC目的:眼内レンズ挿入眼(IOL眼)落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EXG)に対する初回観血的緑内障手術としてのサイヌソトミーおよび深層強膜弁切除併用線維柱帯切開術(以下,LOT)の長期成績について報告する.対象および方法:2011年.2016年にCIOL眼CEXGに対して初回緑内障手術としてCLOTを施行し,術後C3年以上経過観察できたC31例C31眼(追跡率C86%,年齢C73.8C±7.0歳,観察期間C64.0C±21.4カ月)を対象とし,術前後の1)眼圧,2)薬剤スコア,3)眼圧C20CmmHgおよびC15CmmHg以下への生存率,4)観血的緑内障手術の追加を要した症例(再手術例)について後ろ向きに検討した.結果:1)術前後の眼圧(術前/術後C3年)はC26.4C±7.0/18.0±5.8CmmHgで,術後C4年まで全観察期間において術前よりも有意に眼圧下降が得られた.2)薬剤スコアは,術前C3.6C±0.9で術後C2年半まで有意に低下し,術後C3年でC2.9C±1.4と以後は有意差がなくなった.3)生存率は,20CmmHgでC3年生存率C38.7%,15CmmHgではC12.9%と不良であった.4)術後C3年までの再手術例はC15眼(48.4%)あり,うちC13眼で濾過手術が選択された.結論:既報の有水晶体眼CEXGに対する白内障手術同時CLOTと比較して,IOL眼CEXGに対する初回CLOTは早期に眼圧コントロール不良となる可能性が高い.CPurpose:ToCevaluateCtheClong-termCoutcomeCaftertrabeculotomy(LOT)asCinitialCsurgeryCinCpseudophakicCeyesCwithCexfoliationglaucoma(IOL-EXG)C.CMethods:ThisCretrospectiveCstudyCinvolvedC31CeyesCofC31Cpatients(meanage:73.8C±7.0years)withCIOL-EXGCwhoCunderwentCLOTCasCtheCinitialCsurgeryCforCEXGCbetweenC2011Cand2016andwerefollowedforatleast3-yearspostoperative(meanfollow-upperiod:64.0C±21.4months).Inallpatients,thefollowingfouroutcomeswereevaluated:1)intraocularpressure(IOP)change,2)changeinglaucomamedicationCscore,3)Kaplan-MeierCsurvivalCcurveCatCtheCIOPCofClessCthanC20CorC15CmmHg,Cand4)percentageCofCpatientsrequiringreoperation.Results:MeanIOPsigni.cantlydecreasedfrom26.4C±7.0CmmHgto18.0±5.8CmmHgatC3-yearsCpostoperative,CwithCthatCsigni.cantCmeanCIOPCreductionCmaintainedCuntilC4-yearsCpostoperative.CACsigni.cantreductioninglaucomamedicationscoreswasobserveduntil2.5-yearspostoperative,yetnosigni.cantdi.erencewasfoundbetweenthepreoperativescores(3.6C±0.9)andthoseat3-yearspostoperative(2.9C±1.4)C.At3-yearspostoperative,theKaplan-MeiersurvivalcurveattheIOPoflessthan20CmmHgand15CmmHgwas38.7%and12.9%,respectively,andreoperationwasrequiredin15eyes(48.4%)C,ofwhich13underwent.ltrationsur-gery.CConclusion:ComparedCwithCtheCpreviouslyCreportedC.ndingsCofCLOTCcombinedCwithCcataractCsurgeryCforCphakicEXG,LOTforIOL-EXGismorelikelytoresultinpoorIOPcontrolatanearlystage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(8):1109.1113,C2022〕Keywords:眼内レンズ挿入眼落屑緑内障,サイヌソトミーおよび深層強膜弁切除併用線維柱帯切開術,長期成績.Cpseudophakiceyeswithexfoliationglaucoma(IOL-EXG)C,trabeculotomycombinedwithsinusotomyanddeepscle-rectomy,longterme.ect.C〔別刷請求先〕福本敦子:〒631-0844奈良県奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:AtsukoFukumoto,M.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Hourai-cho,Nara-shi,Nara631-0844,JAPANC0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(99)C1109落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EXG)は,眼組織から産生された線維性細胞外物質(落屑物)が流出路組織に沈着することによって房水通過障害が生じて起こる難治性の続発緑内障であり1),早期に点眼による眼圧コントロールが不良となり,何らかの観血的緑内障手術が必要となる場合も多い.その術式選択について,有水晶体眼のCEXGにおいては線維柱帯切開術(trabeculotomy:以下,LOT)が奏効すること2,3),とくに白内障手術同時CLOTが有効であること4)がすでに報告されている.永田眼科でも有水晶体眼CEXGに対するCLOTの長期成績5,6)を検討し,初回と再手術CLOTいずれの場合でも,白内障手術同時CLOTは長期にわたって有効な術式であることを報告した.しかし,すでに白内障手術が過去に施行され眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入眼(IOL眼)となっているCEXGについては白内障手術同時LOTの選択肢がなく,初回CLOTの有効性についてまだ報告もない.そこで,今回,IOL眼CEXGに対するCLOTの長期成績を後ろ向きに検討した.CI対象および方法1.対象対象は,2011年.2016年に永田眼科においてCIOL眼EXGに対して初回観血的緑内障手術としてCLOTを選択したC36例C36眼のうち,術後C3年以上経過観察できたC31例C31眼(男性C20眼,女性C11眼)とした(追跡率C86%).白内障手術以外の内眼手術既往のある症例は除外し,両眼CLOT施行例は最初に施行したC1眼のみを対象とした.LOT施行時の平均年齢はC73.8C±7.0歳,LOT術後の平均観察期間はC5年4カ月C±1年C9カ月,白内障手術時の平均年齢はC64.6C±9.9歳で白内障手術後平均C9年C4カ月C±5年C1カ月後に初回観血的緑内障手術としてのCLOTが施行された.なお,今回の対象症例におけるCLOTの標準術式は,全例で下半周より行うサイヌソトミー(sinusotomy:SIN)および深層強膜弁切除(deepsclerectomy:DS)併用の線維柱帯切開術(LOT+SIN+DS)であり,Schlemm管内皮網除去も施行した.C2.方法(検討項目)以下のC4項目について後ろ向きに検討した.①術前および術後の眼圧経過②術前および術後の点眼スコア③各群における眼圧C20CmmHg以下およびC15CmmHg以下の生存率④術後C3年までに何らかの緑内障手術の追加を要した症例(再手術例)眼圧および点眼スコアについては,LOT後何らかの緑内障追加治療(レーザーまたは手術)または内眼手術が施行された場合はその時点で脱落とし,施行前までのデータを用いた.また,点眼スコアは緑内障点眼C1剤C1点(配合剤C2点),炭酸脱水酵素阻害薬内服C1点で換算し,生存率はC2回連続して基準眼圧(20CmmHg,15CmmHg)を超えた時点または緑内障追加治療(レーザーまたは手術)を施行した時点で死亡とした.本研究は永田眼科倫理委員会で承認を得たうえで行った(倫理委員会承認番号C2020-010).CII結果①眼圧経過眼圧は術前C26.4C±7.0CmmHg(n=31)で,術後C1年C18.9C±4.4CmmHg(n=27),術後C2年C19.1C±5.5CmmHg(n=22),術後C3年C18.0C±5.8CmmHg(n=15),術後C4年C14.1C±6.4CmmHg(n=7),術後C5年C21.3C±3.3CmmHg(n=3)と術後C4年まで術前より有意に眼圧が低下していた(p<0.01,CANOVA+Dunnett’stest)(図1).②点眼スコア薬剤スコアは術前C3.6C±0.9(n=31)で,術後1年2.1C±1.2(n=27),術後2年2.7C±1.2(n=22)と術前よりも有意に低下した(術後C1年p<0.01,術後C2年p<0.05,ANOVA+Dunnett’stest)が,術後C2年半以後は有意差を認めず,術後3年2.9C±1.4(n=15),術後4年3.1C±1.6(n=7),術後C5年C2.6C±1.1(n=3)であった(図2).③眼圧C20CmmHg以下およびC15CmmHg以下の生存率眼圧C20CmmHg以下の生存率は,術後C1年C71.0%,術後C2年C45.2%,術後C3年C38.7%,術後C4年C21.5%,術後C5年14.3%であった(図3a).眼圧C15mmHg以下の生存率は,術後C1年C19.4%,術後C2年C16.1%,術後C3年C12.9%,術後C4年C12.9%,術後C5年C0.1%であった(図3b).④観血的緑内障手術の追加を要した症例(再手術例)の検討初回CLOT後C3年までに何らかの観血的緑内障手術の追加を要した症例(再手術例)はC15/31眼(48.4%)あった.再手術時の術式は,濾過手術C13眼(線維柱帯切除術C8眼,Ex-pressインプラント手術C5眼),LOT1眼,毛様体凝固C1眼であった(図4).CIII考按今回の研究では,LOT術後C4年まで術前よりも有意に眼圧は下降したが,術後C3年で半数近くが濾過手術を主とした再手術を必要とし,初回観血的緑内障手術としてCLOTを第一選択とすることが疑問視される結果となった.そこで,IOL眼CEXGに対する初回観血的緑内障手術時の術式選択について,筆者ら5)が過去に報告した有水晶体眼CEXGに対する白内障手術同時CLOTとの比較を交えて改めて検討する.まず,緑内障全般に対して行われる手術加療は流出路再建眼圧(mmHg)4035302520151050術前1369121824303642485460観察期間(カ月)*(mean±SD)p<0.01;ANOVA+Dunnett’stest図1眼圧経過眼圧は術後C4年までは術前より有意な眼圧下降が得られた(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).C5薬剤スコア4.543.532.521.510.50生存率(%)術前1369121824303642485460観察期間(カ月)(mean±SD)**p<0.01,*p<0.05;ANOVA+Dunnett’stest図2薬剤スコア薬剤スコアは術後C2年C6カ月まで術前より有意に低下していた(*p<0.01,**p<0.05,CANOVA+Dunnett’stest).Cab100100909080807070生存率(%)606050504040303020201000122436486001224364860観察期間(カ月)観察期間(カ月)図3生存率曲線Kaplan-Meier分析による生存率.Ca:眼圧C20CmmHg以下への生存率,Cb:眼圧C15CmmHg以下への生存率.7%(1眼)※1LECT:線維柱帯切除術※2Ex-press:Ex-pressインプラント手術図4再手術時の術式術後C3年までに再手術を要した症例はC31眼中C15眼(48.4%)あり,そのうちC13眼で濾過手術が選択された.術と濾過手術とに大別されるが,白内障手術を同時に行うか否かも含めるとその術式選択は複数あり,患者背景はもとより術者や施設によって選択基準が異なるのが現状である.さらに,近年は流出路再建術ではレーザーや低侵襲緑内障手術,濾過手術ではインプラント手術など術式の多様化も進んでおり,各術式のCEXGにおける有効性については今後の多数例かつ長期成績を待たねばならない7).当院でCIOL眼CEXGに対する初回観血的緑内障手術としてLOTを選択した背景には,有水晶体眼CEXGにおいては長期にわたってCLOTを初回観血的緑内障手術における第一選択の術式として施行してきた実績と,LOT単独の術式で問題点となった術後一過性高眼圧の予防やさらなる眼圧下降を目的とするCSchlemm管内皮網切除併用線維柱帯切開術(LOT+SIN+DS)をCLOTの標準術式としてC10年以上前から多数例に施行してきた術式そのものの安定性と安全性があげられる.今回の研究との比較として,2013年に筆者ら5)が検討した有水晶体眼CEXGに対するサイヌソトミー併用線維柱帯切開術(LOT+SIN)の術後成績を示すと,白内障手術同時群(以下,同時CLOT群)74眼(平均年齢C74.7C±6.4歳,平均観察期間C6年C8カ月,対象期間C1998年.2005年,術前眼圧C22.2±5.6mmHg)の場合,術後C3年成績は眼圧C14.1C±3.0mmHgと術前より有意な眼圧下降が得られ,生存率は眼圧20CmmHg以下でC97.3%,15CmmHg以下でC71.6%であった.一方,今回の症例群(以下,IOL眼CLOT群)では術後眼圧はおおむねC10台後半で推移し,術後C3年の生存率はC20mmHg以下でC38.7%,15CmmHg以下でC12.9%と同時CLOT群より明らかに劣る結果となった.このように,白内障手術とCLOTを同時に行った場合と白内障手術後にCLOTを別時期で行った場合とでは,最終的に施行されている手術の内容は同じであるにもかかわらず眼圧経過が異なっていたが,その一因として,患者背景の違いが考えられる.白内障手術時の平均年齢は,IOL眼CLOT群C64.6±9.9歳,同時CLOT群C74.7C±6.4歳と両群間に有意差があり(p<0.001,t検定),IOL眼CLOT群は白内障手術後平均C9年C4カ月を経て同時CLOT群とほぼ同じ年齢であるC73.8C±7.0歳でCLOTが施行されていた.一般に,落屑物は加齢とともに増加して隅角のみならず瞳孔縁,水晶体表面に沈着するため,緑内障以外にしばしば白内障進行や散瞳不良,Zinn小帯脆弱化といった落屑症候群(exfoliationsyndrome:EXS)を伴うことで知られるが,近年,EXSに対する白内障単独手術は,原発開放隅角緑内障や正常眼と比較してより大きな眼圧下降が期待できることが示された8).また,Sayedら7)は,EXGに対する長期の手術加療方針として,緑内障性変化のないCEXSでは,白内障手術合併症のリスクが低い早期のうちにまず白内障単独手術を行うことでCEXGの発症を予防し,それでもCEXGが進行した場合は順次何らかの緑内障手術を施行することが望ましいとしている.これらの近年の既報を加味すると,IOL眼CLOT群はCEXSの段階で白内障手術を施行されたことで結果的には眼圧上昇をおさえられていたこと,しかしC10年近い長期経過のなかで眼圧上昇をきたしCEXGへ進行したことが推測される.さらに,手術時の緑内障病期を比較すると,白内障手術同時LOTの場合,症例のなかには白内障が主たる手術目的でLOTは点眼数を減らす目的でのみ同時施行されるケースもありうるが,Humphrey静的視野検査のCLOT術前平均CMD値は,IOL眼CLOT群C.13.8±9.3CdB,同時CLOT群C.11.3±8.1CdBと有意差なく(p=0.24,t検定),両群ともほぼ同じ緑内障病期で初回CLOTが施行されていた.にもかかわらずIOL眼CLOT群が同時群CLOT群より長期成績が劣っていたことから,EXGに至らないCEXSの発症時期あるいは罹患期間がCLOTの眼圧下降効果に影響するのかもしれないが,現時点ではその機序に関しては不明である.以上から,既報の有水晶体眼CEXGに対する白内障手術同時CLOTと比較して,IOL眼CEXGに対する初回CLOTは早期に眼圧コントロール不良となる可能性が高い.今後,IOL眼EXGに対しては,初回緑内障手術の術式選択は濾過手術を含めてより慎重に考慮する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)布田龍佑:落屑症候群および落屑緑内障の診断と治療.あたらしい眼科25:961-968,C20082)松村美代,永田誠,池田定嗣ほか:水晶体偽落屑症候群に伴う開放隅角緑内障(PE緑内障)に対するトラベクロトミーの有効性と術後の眼圧値.あたらしい眼科C9:817-820,C19923)黒田真一郎:トラベクロトミーの長期成績(発達緑内障も含めて).眼科手術30:571-576,C20174)HonjoCM,CTaniharaCH,CInataniCMCatal:Phacoemulsi-.cation,CintraocularClensCimplantation,CandCtrabeculotomyCtoCtreatCpseudoexfoliationCsyndrome.CJCCataractCRefractCSurgC24:781-786,C19985)福本敦子,松村美代,黒田真一郎:落屑緑内障に対するサイヌソトミー併用線維柱帯切開術の長期成績.あたらしい眼科30:1155-1159,C20136)福本敦子,後藤恭孝,黒田真一郎ほか:落屑緑内障に対するトラベクロトミー後の再手術の検討.眼科手術C22:525-528,C20097)SayedMS,LeeRK:Recentadvancesinthesurgicalman-agementofglaucomainexfoliationsyndrome.JGlaucomaC27(Suppl1):S95-S101,20188)DamjiCKF,CKonstasCAG,CLiebmannCJMCetal:IntraocularCpressurefollowingphacomulsi.cationinpatientswithandwithoutexfoliationsyndrome:a2yearprospectivestudy.BrJOphthalmolC90:1014-1018,C2006***

長期に高密度の角膜内皮細胞を維持する全層角膜移植術例の臨床的特徴

2014年3月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科31(3):415.420,2014c長期に高密度の角膜内皮細胞を維持する全層角膜移植術例の臨床的特徴宮本佳菜絵*1,2中川紘子*2脇舛耕一*1,2稲富勉*2木下茂*2*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学Long-termClinicalCharacteristicsofCaseswithHighCornealEndothelialCellDensityPostPenetratingKeratoplastyKanaeMiyamoto1,2),HirokoNakagawa2),KoichiWakimasu1,2),TsutomuInatomi2)andShigeruKinoshita2)1)BaptistEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:全層角膜移植術後長期に高い角膜内皮細胞密度(ECD)を維持する症例の臨床的特徴を検討する.対象:1998.2007年に同一術者が施行した全層角膜移植のうち,重大な術後合併症を生じず,術後5年までのECD測定が可能であった203眼.方法:対象を術後5年のECDが2,000個/mm2以上の高ECD群,1,000個/mm2以上2,000個/mm2未満の中ECD群,1,000個/mm2未満の低ECD群に分類し,ホスト因子(手術時年齢,原疾患),ドナー因子(年齢,死因,術前ECD,死亡から強角膜片作製までの時間,死亡から手術までの時間),手術因子(術式,移植片サイズ,手術による角膜内皮細胞減少)を検討した.結果:3群の内訳は高ECD群14眼(6.9%),中ECD群53眼(26.1%),低ECD群136眼(67.0%)であった.ドナー術前ECDは,低ECD群に比べて高ECD群で有意に高かったが,高ECD群の14眼のうち,ドナー術前ECDが3,000個/mm2以上と高値であったのは8眼のみであった.他の因子は3群間で差異を認めなかった.結論:高いドナー術前ECDが術後長期のECDに良好な影響を与える因子の一つであることが確認できたが,他にもなんらかの未知の因子が影響を及ぼしている可能性があると考えられた.Purpose:Toevaluatethelong-termclinicalcharacteristicsofcaseswithhighcornealendothelialcelldensity(ECD)postpenetratingkeratoplasty(PKP).Methods:Wereviewedtheclinicalrecordsof203patientswhohadundergonePKPattheBaptistEyeClinicfrom1998to2007andwhowerefollowedupformorethan5years.Theywereclassifiedinto3groups,accordingtotheirECDat5yearspostoperatively,asfollows:HighECD(groupA:over2,000cells/mm2),MiddleECD(groupB:from1,000.2,000cells/mm2)andLowECD(groupC:under1,000cells/mm2).Hostcharacteristics,donorcharacteristicsandsurgicalcharacteristicswereevaluated.Results:Ofthe203patients,groupAcomprised6.9%ofcases,groupBcomprised26.1%andgroupCcomprised67.0%.AlthoughpreoperativeECDwashigheringroupAthaningroupC,ofthe14casesclassifiedintogroupAonly8hadpreoperativeECDover3,000cells/mm2.Nosignificantdifferenceswerefoundamongthe3groupswithrespecttotheothercharacteristics.Conclusions:TheresultsofthisstudysuggestthatnotonlyhigherpreoperativedonorECD,butotherunknownfactorsaswell,areassociatedwithhigherpostoperativeECDoverthelongterm.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(3):415.420,2014〕Keywords:全層角膜移植術,長期成績,角膜内皮細胞密度,ドナー,ホスト.penetratingkeratoplasty,long-term,endothelialcelldensity,donor,host.はじめにた現在でも広く行われており,フェムトセカンドレーザーな全層角膜移植術(penetratingkeratoplasty:PKP)は,角どの手術機器の進歩1)により,今後もさらに手術手技の向上膜内皮移植術や表層角膜移植術といったパーツ移植が広まっが期待される手術である.PKPの長期術後において,高密〔別刷請求先〕宮本佳菜絵:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:KanaeMiyamoto,BaptistEyeClinic,12Kitashirakawa,Kamiikeda-cho,Sakyo-ku,Kyoto,606-8287,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(111)415 度のドナー角膜内皮細胞を維持することができれば理想的であり,このことにより長期間にわたって透明角膜を維持し,良好な視機能を保つことが可能となる2).PKP術後の角膜内皮細胞は,徐々に減少するとされる報告がほとんどであり3.8),林らは術後5年までの角膜内皮細胞減少率は73.2%であったと報告している6).しかし,実際の臨床現場では,こうした通常の角膜内皮細胞減少の経過をたどらず,長期術後においても非常に高密度の角膜内皮細胞を維持している症例を経験することがある.術後の角膜内皮細胞密度(endothelialcelldensity:ECD)には,ホストの原疾患やドナー年齢などが関与することは過去にも報告されているが7.9),筆者らは上述のような症例の経験から,これまでに考えられている因子だけではなく,ドナー角膜内皮細胞の健常性そのものが長期術後のECDに影響を与えるのではないかとの仮説をもっている.そこで今回,筆者らは,PKP術後5年に2,000個/mm2以上の高いECDを維持している症例の臨床的特徴を調べることにより,術後長期のECDがホスト,ドナー,手術にかかわる既知の因子と必ずしも相関しないことを証明するため,検討を行ったので報告する.I対象および方法1998.2007年までの間に,バプテスト眼科クリニックにて同一術者(SK)が施行したPKPのうち,術後5年までの臨床経過観察とECD測定が可能であり,かつ拒絶反応,続発緑内障,感染症などの重大な術後合併症を認めなかった症例,計203眼を対象とした.対象を術後5年のECDが2,000個/mm2以上である「高ECD群」,1,000個/mm2以上2,000個/mm2未満である「中ECD群」,1,000個/mm2未満である「低ECD群」の3群に分け,これらの3群の臨床的特徴に差異があるか否かを検討した.検討項目は,ホスト因子として手術時年齢,原疾患(水疱性角膜症の割合),ドナー因子としてドナー年齢,ドナー死因(急性死の割合),ドナー術前ECD,死亡から強角膜片作製までの時間,死亡から手術までの時間,手術にかかわる因子として術式(PKP単独手術の割合),移植片サイズ,手術による角膜内皮細胞減少である.また,高ECD群については術前から術後5年までの角膜内皮細胞減少率を検討した.ドナー角膜はSightLifeR,NorthWestLionsR,HawaiiLionsRのいずれかの海外アイバンクのものを用いた.ドナー死因は,心疾患や脳血管障害,外傷によるものを急性死と定義し,それ以外のものを慢性死とした.ドナー術前ECDは海外アイバンクにて測定された値を用い,術後ECDはすべて当院で非接触型スペキュラーマイクロスコープを用いて測定した値を用いた.また,手術による角膜内皮細胞減少は,術後1カ月の時点で非接触型スペキュラーマイクロスコ416あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014ープの撮影が可能であった症例のみを対象とし,術前から術後1カ月までの角膜内皮細胞減少を手術によるものと定義した.II結果203眼のうち,高ECD群は14眼(6.9%),中ECD群は53眼(26.1%),低ECD群は136眼(67.0%)であった.各検討項目の結果は以下のとおりであった.1.ホストに関連する因子(図1)a.手術時年齢手術時年齢は,高ECD群で66.6±11.2歳,中ECD群で62.8±12.1歳,低ECD群で67.2±11.8歳であり,3群間に有意差は認めなかった(p=0.06KruskalWallistest).b.ホスト原疾患ホスト原疾患は,水疱性角膜症とそれ以外の疾患に分けて検討した.水疱性角膜症の割合は,高ECD群で14眼中6眼(42.9%),中ECD群で53眼中25眼(47.2%),低ECD群では136眼中75眼(55.1%)であり,3群間で有意差は認めなかった(p=0.47c2test).2.ドナーに関連する因子(図2)a.ドナー年齢ドナー年齢は,高ECD群で57.3±18.9歳,中ECD群で57.3±16.3歳,低ECD群で63.1±9.6歳であり,3群間で有意差は認めなかった(p=0.12KruskalWallistest).b.ドナー死因ドナー死因のうち急性死の占める割合は,高ECD群では14眼中9眼(64.3%),中ECD群では53眼中31眼(58.5%),低ECD群では136眼中84眼(61.8%)であり,すべての群において急性死が多かったが,3群間で有意差は認めなかった(p=0.89c2test).c.ドナー術前角膜内皮細胞密度ドナー術前ECDは,高ECD群で3,062±544.2個/mm2,中ECD群で2,919.7±368.1個/mm2,低ECD群で2,768.8±344.6個/mm2であり,高ECD群は低ECD群に比べて有意に高かった(p=0.005Steel-Dwasstest).d.死亡から強角膜片作製までの時間(分)死亡から強角膜片作製までの時間は,高ECD群で442.5±310.1分,中ECD群で358.6±165.7分,低ECD群で408.3±208.3分であり,3群間で有意差は認めなかった(p=0.36KruskalWallistest).e.死亡から手術までの時間(日)死亡から手術までの日数は,高ECD群で5.07±1.00日,中ECD群で5.15±1.08日,低ECD群で5.21±1.01日であり,3群間で有意差は認めなかった(p=0.88KruskalWallistest).(112) ab9060水疱性角膜症(%5040302010術前ECD(個/mm2)手術時年齢(歳603000高ECD中ECD低ECD高ECD中ECD低ECD図1ホストに関連する因子a:手術時年齢.b:原疾患(水疱性角膜症の占める割合).ab907060ドナー年齢(歳)急性死(%)5060403020103000高ECD中ECD低ECD高ECD中ECD低ECDc*d4,0003,0002,0001,000死亡~強角膜片(分)80060040020000高ECD中ECD低ECD高ECD中ECD低ECDe76543210高ECD中ECD低ECD図2ドナーに関連する因子死亡~手術(日)a:ドナー年齢.b:ドナー死因(急性死の占める割合).c:ドナー術前ECD.d:死亡から強角膜片作製までの時間.e:死亡から手術までの時間.3.手術に関連する因子(図3)23眼(43.4%),低ECD群では136眼中45眼(33.1%)であa.術式り,3群間で有意差は認めなかった(p=0.35c2test).術式は全層角膜移植単独手術と白内障同時手術(眼内レンb.移植片サイズズ縫着術を含む)に分けて検討した.単独手術の割合は,高移植片サイズは,高ECD群で7.68±0.18mm,中ECDECD群では14眼中4眼(28.6%),中ECD群では53眼中群で7.59±0.26mm,低ECD群で7.52±0.27mmであり,(113)あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014417 ab950840手術による内皮減少(%)移植片サイズ(mm)7654100高ECD中ECD低ECD高ECD中ECD低ECDcPKP(%3020321035302520151050高ECD中ECD低ECD図3手術に関連する因子a:移植片サイズ.b:術式(PKP単独手術の割合).c:手術による角膜内皮細胞減少.3群間で有意差は認めなかった(p>0.05Steel-Dwasstest).c.手術による角膜内皮細胞減少高ECD群で19.4±13.4%(n=7),中ECD群で14.7±10.3%(n=19),低ECD群で14.9±12.9%(n=49)で,3群間で有意差は認めなかった(p>0.5Steel-Dwasstest).3群を比較検討した結果,高ECD群は低ECD群に比べてドナー術前ECDが有意に高かったが,それ以外の検討項目は3群間で有意な差を認めなかった.このことより,高いドナー術前ECDが,術後長期のECDに良好な影響を与える因子の一つであることがわかった.しかし,表1に示したように,今回高ECD群に分類された14眼の中には,ドナー術前ECDが2,000個/mm2台と決して高値ではない症例も含まれており,術後長期の高いECDにはさらに他の因子が関与していると考えられる.そこで今回,筆者らは,ドナー術前ECDが3,000個/mm2以上の症例のみを抽出し,上記と同様に,術後5年のECDによって3群に分類し,比較検討を行った.結果は,ドナー術前ECDが3,000個/mm2以上と高値である症例は203眼中54眼存在したが,その中で高ECD群に分類されたのは8眼(14.8%)のみであった.また,高ECD群に分類された8眼と,中ECD群に分類された20眼および低ECD群に分類された26眼との間で,前述の検討項目(ホスト手術時年齢,原疾患,ドナー年齢,ドナー死因,ドナー術前ECD,死亡から強角膜片作製までの時間,死亡から手術までの時間,術式,移植片サイズ,手術による角膜内皮細胞減少)すべてにおいて,有意な差異を認めなかった.418あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014高ECD群に分類された症例について,図4に術前後の前眼部写真を示した.また表1に,ホスト原疾患,ドナー年齢,ドナー術前ECD,術後5年ECD,術前から術後5年までの角膜内皮細胞減少率を示した.III考察今回の検討では,PKP術後5年に2,000個/mm2以上の高密度の角膜内皮細胞を維持する症例が,全体の6.9%(14/203眼)に存在することがわかった.また,高ECD群では低ECD群に比べてドナー術前ECDが有意に高く,ドナー術前の高密度の角膜内皮細胞が,術後長期のECDに良好な影響を与える因子の一つであることが確認できた.しかし,ドナー術前の高密度の角膜内皮細胞が3,000個/mm2以上と高値であっても,そのうち術後5年に2,000個/mm2以上の高密度の角膜内皮細胞を維持し得た症例はわずか14.8%のみであり,2,000個/mm2以上の角膜内皮細胞を維持しなかった症例と比較しても,その臨床的特徴に差異は認められなかった.このことから,術後長期のECDは,必ずしもホスト,ドナー,手術にかかわる既知の因子だけでは示されず,なんらかの未知の因子が,長期術後のECDに影響を与えている可能性が示唆された.PKPにおける術前から術後5年までの角膜内皮細胞減少率は,Bourneらの報告では58.9%9),Priceらの報告では70%10),林らの報告では73.2%6)とされている.一方,今回術後5年に2,000個/mm2以上の高密度の角膜内皮細胞を維持した症例(高ECD群)の,5年間の平均角膜内皮細胞減少(114) (1)(2)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)(13)(14)図4高ECD群に分類された症例の術前および術後5年における前眼部写真(14眼中12眼)表1高ECD群の原疾患,ドナー年齢,ドナー術前・術後5年角膜内皮細胞密度ドナ一年齢ドナー術前ECD5年時ECDECD減少率(術前.5年)原疾患(歳)(個/mm2)(個/mm2)(%)1.水疱性角膜症(LIBK)502,7272,5008.32.水疱性角膜症(graftfailure)602,7942,38314.73.水疱性角膜症(PBK)463,1422,53219.44.水疱性角膜症(LIBK)473,0102,14528.75.水疱性角膜症(ABK)753,1562,16931.26.水疱性角膜症(Fuchs)34,5632,42046.97.角膜混濁752,1612,0963.08.角膜混濁572,7462,38113.29.円錐角膜582,6002,22214.510.角膜混濁493,3702,58723.311.角膜混濁683,0612,18728.812.角膜混濁712,9102,02830.313.角膜混濁703,2022,18031.914.角膜混濁733,4262,19435.9LIBK:レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症.Graftfailure:移植片機能不全.PBK:偽水晶体性水疱性角膜症.ABK:無水晶体性水疱性角膜症.Fuchs:フックス角膜内皮ジストロフィ.率は23.6%であり,中に3.0%や8.3%と非常に低い症例も認められた.健常なヒトでは,角膜内皮細胞は1年で0.3.0.6%減少するとされており11),上述したような症例は,むしろ健常なヒトの角膜内皮細胞に近い経過をたどっているといえる.さらに,ホスト原疾患が水疱性角膜症であれば術後の角膜内皮細胞減少が早いとされているにもかかわらず,予想外ではあるが,高ECD群に分類された14眼のうち6眼が,ホスト原疾患が水疱性角膜症である症例であった.これらの結果は,術後長期のECDには,一般的に考えられている条件だけでは説明がつかない事象が生じているといわざるを得ない.現在,筆者らは,その一つとして,角膜内皮細胞そのものの健常性が術後長期のECDに影響を及ぼすと想定しており,本検討は筆者らの仮説を支持する結果であると考えられた.例えば,原疾患が水疱性角膜症の場合に,術後長期に高密度の角膜内皮細胞を維持したとすれば,これらの細胞群は間違いなくドナー由来のものであり,ドナー角(115)あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014419 膜内皮細胞がきわめて健常であるか,場合によっては一部増殖すらしている可能性も否定できないと考えられる.今回の検討の限界として,高ECD群の対象となった症例が14眼と少ないこと,また内皮細胞の健常性の評価がまだ可能でないことがあげられる.スペキュラーマイクロスコープによる角膜内皮検査は,いわゆる組織構造検査であり,生理機能を検査するものではない.このため,細胞の長期の健常性を検討できるようなバイオマーカーの発見は今後不可欠なものになると思われる.今後,角膜内皮細胞の健常性の評価が可能になれば,筆者らの仮説を証明することが可能となるだけでなく,高い健常性をもつ角膜内皮細胞を選択的に採取・培養することにより,再生医療の分野においても有用な手法となることが予想される.現在,ヒト角膜内皮細胞培養でも,ドナー角膜細胞の多様性が重要であると考えられはじめている.文献1)BaharI,KaisermanI,LangeAPetal:Femtosecondlaserversusmanualdissectionfortophatpenetratingkeratoplasty.BrJOphthalmol1:73-78,20092)松原正男,木村内子,佐藤孜ほか:角膜移植片の透明性と内皮細胞面積について.臨眼38:751-755,19843)IngJJ,IngHH,NelsonLRetal:Ten-yearpostoperativeresultsofpenetratingkeratoplasty.Ophthalmology105:1855-1865,19984)PatelSV,HodgeDO,BourneWMetal:Cornealendotheliumandpostoperativeoutcomes15yearsafterpenetratingkeratoplasty.AmJOphthalmol139:311-319,20055)HayashiK,KondoH,MaenoAetal:Long-termchangesincornealendothelialcelldensitiyafterrepeatpenetratingkeratoplastyineyeswithendothelialdecompensation.Cornea32:1019-1025,20136)BourneWM:One-yearobservationoftransplantedhumancornealendothelium.Ophthalmology87:673-679,19807)ObataH,IshidaK,MuraoMetal:Cornealendothelialcelldamageinpenetratingkeratoplasty.JpnJOphthalmol4:411-416,19918)WagonerMD,Gonnahel-S,Al-TowerkiAEetal:Outcomeofprimaryadultopticalpenetratingkeratoplastywithimporteddonorcorneas.IntOphthalmol2:127-136,20109)BourneWM,HodgeDO,NelsonLRetal:Cornealendotheliumfiveyearsaftertransplantation.AmJOphthalmol118:185-196,199410)PriceMO,FairchildKM,PriceDAetal:Descemet’sstrippingendothelialkeratoplastyfive-yeargraftsurvivalandendothelialcellloss.Ophthalmology118:725-729,201111)BourneWM,NelsonLR,HodgeDO:Centralcornealendothelialcellchangesoveraten-yearperiod.InvestOphthalomolVisSci38:779-782,1997***420あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(116)

落屑緑内障に対するサイヌソトミー併用線維柱帯切開術の長期成績

2013年8月31日 土曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(8):1155.1159,2013c落屑緑内障に対するサイヌソトミー併用線維柱帯切開術の長期成績福本敦子松村美代黒田真一郎永田眼科Long-TermOutcomeafterTrabeculotomyCombinedwithSinusotomyforExfoliationGlaucomaAtsukoFukumoto,MiyoMatsumuraandShinichiroKurodaNagataEyeClinic目的:落屑緑内障に対するサイヌソトミー併用線維柱帯切開術(LOT)の長期成績報告.対象および方法:対象は,1998年から2005年の間に永田眼科で落屑緑内障に対する初回の観血的緑内障手術としてLOTを施行した128眼のうち,術後3年以上経過観察が可能であった98眼(追跡率76.6%).同時群(白内障手術併用LOT)は74眼,単独群(有水晶体眼単独LOT)は24眼で,1)眼圧,点眼スコア,2)眼圧20mmHgおよび15mmHg以下への生存率,3)観血的緑内障手術の追加を要した症例の割合(再手術率),の3項目について検討した.結果:1)眼圧(同時群/単独群)は,術前22.2±5.6/25.3±4.9mmHg,術後6年14.0±2.3/16.9±6.9mmHg,薬剤スコアは,術前1.9±1.4/2.7±1.2,術後6年1.0±1.0/1.4±0.9で,各群とも術前より眼圧および薬剤スコアが長期にわたり下降していた.2)生存率は,20mmHgで6年生存率93.8%/62.8%,15mmHgで6年生存率61.8%/25.0%で,いずれの眼圧でも同時群の生存率が有意に高かった(p=0.001).3)再手術率は,10.8%/58.3%と同時群が有意に低かった(p<0.001).結論:落屑緑内障に対するLOTは,術後3年以上でも有効な術式であった.特に,白内障手術併用の場合は,より強い効果が期待できる.Purpose:Toevaluatethelong-termoutcomeoftrabeculotomycombinedwithsinusotomy(LOT)forexfoliationglaucoma(EG).Methods:From1998to2005,128eyeswithEGunderwentLOTasthefirstglaucomasurgery.Thisstudywascarriedouton98of128eyeswhichwerefollowedupforatleast3yearsafterLOT.Weclassified98eyesintotheLOTcombinedwithcataractsurgery(phaco-LOT)group(74eyes)andtheLOT-onlygroup(24phakiceyes).Wethenexaminedthreeoutcomes,asfollows:1)thechangeinintraocularpressure(IOP)andglaucomamedicationscores,2)TheKaplan-MeiersurvivalcurveatIOPlessthan20or15mmHgand3)rateofreopration.Results:1)BothgroupshadreducedmeanIOPandglaucomamedicationscorelongafterLOT.2)TheKaplan-Meiersurvivalcurveinthephaco-LOTgroupwasstatisticallyhigerthanintheLOT-onlygroup.3)Therateofreoperationinthephaco-LOTgroupwasstatisticallylowerthanintheLOT-onlygroup.Conclusions:LOTforEGwaseffectiveformorethan3years.Phaco-LOTinparticularmaybemoreeffectiveforlong-lastingreductionofIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1155.1159,2013〕Keywords:落屑緑内障,サイヌソトミー併用線維柱帯切開術,長期成績.exfoliationglaucoma,trabeculotomycombinedwithsinusotomy,long-termeffect.はじめに通過障害が生じて起こる緑内障であり,治療に抵抗する難治落屑緑内障とは,眼組織から産生された線維性細胞外物質性緑内障として知られる1)が,観血的治療として線維柱帯切すなわち落屑物質が流出路組織に沈着することによって房水開術が奏効することもすでに報告されている2,3).しかし,〔別刷請求先〕福本敦子:〒631-0844奈良市宝来町北山田1147永田眼科Reprintrequests:AtsukoFukumoto,M.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Hourai-cyo,Nara-shi,Nara631-0844,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(111)1155 これまでの報告は,術後平均観察期間が長い場合でも約3年であり,加齢とともに増加する落屑物質によって経年変化で悪化が推測される本疾患にとって,どれほどの期間にわたって眼圧下降効果が期待できるのかは不明であった.そこで,今回,当院で施行した落屑緑内障に対するサイヌソトミー併用線維柱帯切開術(以下,LOT)について,術後3年以上の長期成績を検討した.I対象および方法1.対象対象は,1998年から2005年の間に永田眼科で落屑緑内障に対する初回観血的緑内障手術としてLOTを施行した128眼(白内障同時手術例を含む)のうち,術後3年以上経過観察が可能であった73例98眼(追跡率76.6%,内眼手術の既往例は除外)とした.対象となった98眼のうち,白内障手術併用LOT(以下,同時群)は74眼(男性31眼,女性43眼),有水晶体眼単独LOT(以下,単独群)は24眼(男性14眼,女性10眼)であり,各群(同時群/単独群)における平均年齢は74.7±6.4/64.2±7.1歳,術後の平均観察期間は6年8カ月(3年4カ月.12年6カ月)/9年(3年10カ月.12年9カ月)であった.平均年齢,観察期間はいずれも両群間で有意差を認めた(p<0.001,Welchのt検定).2.方法(検討項目)1)各群における術前および術後(3カ月,6カ月,1年,以後1年ごと)の眼圧および点眼スコア.いずれも各観察時期前後2回の平均値とした.点眼スコアは,緑内障点眼1剤を1点,炭酸脱水酵素阻害薬の内服は2点で換算した.2)各群における眼圧20mmHg以下および15mmHg以下への生存率:2回連続して各眼圧を越えた最初の時期をエンドポイント(死亡)とした.3)観血的緑内障手術(LOTまたは濾過手術)の追加を要した症例(再手術例)の検討:再手術率および再手術までの期間を両群間で比較した.II結果1.眼圧および点眼スコア眼圧(同時群/単独群)は,術前22.2±5.6/25.3±4.9mmHgであったものが,術後3カ月12.5±3.1/15.7±3.5mmHg,術後6カ月12.7±2.9/15.0±2.8mmHg,術後1年13.1±2.5/15.4±2.8mmHg,術後2年13.5±2.8/15.9±3.8mmHg,術後3年14.1±3.0/17.0±3.3mmHg,術後4年13.8±3.6/15.1±2.8mmHg,術後5年14.0±2.7/15.3±3.0mmHg,術後6年14.0±2.3/16.9±6.9mmHg,術後7年13.5±2.5/14.7±2.0mmHgとなっており,同時群では術後10年まで,単独群では術後8年まで術前より有意に眼圧が下降していた(図1).薬剤スコアは,術前1.9±1.4/2.7±1.2であったものが,術後3カ月0.2±0.5/0.6±0.6,術後6カ月0.2±0.5/1.0±0.9,術後1年0.4±0.6/1.1±0.9,術後2年0.5±0.7/1.3±0.7,術後3年0.6±0.8/1.3±0.7,術後4年0.7±0.9/1.4±0.7,術後5年0.9±0.9/1.6±0.7,術後6年1.0±1.0/1.4±眼圧(mmHg)30.025.020.015.010.05.00.0術前361224364860728496108120:同時群:単独群747473737270675641251274同時群眼数242424231815111096422単独群眼数*************************************************************観察期間(月)図1眼圧経過同時群:白内障手術併用LOT群,単独群:有水晶体眼LOT群.***:p<0.0001,**:p<0.001,*:p<0.01(pairedttest,各群における術前眼圧との比較).1156あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(112) 0.9,術後7年1.0±1.1/1.8±0.8となっており,同時群では術後7年まで,単独群では術後6年まで術前より有意に薬剤スコアが減少していた(図2).両群間の比較においては,眼圧および点眼スコアいずれも有意差を認めなかった.2.眼圧20mmHg以下および15mmHg以下の生存率眼圧20mmHg以下の生存率(同時群/単独群)は,術後1年で98.6%/100%,術後2年で97.3%/90.9%,術後3年で97.3%/70.7%,術後4年で95.8%/70.7%,術後5年で95.8%/70.7%,術後6年で93.8%/62.8%,術後7年で93.8%/62.8%であった.眼圧15mmHg以下の生存率は,術後1年で82.4%/62.5%,術後2年で75.7%/45.8%,術後3年で71.6%/37.5%,術後4年で70.2%/37.5%,術後5年で63.9%/31.3%,術後6年で61.8%/25.0%,術後7年で61.8%/25.0%であった.いずれの眼圧においても,同時群が有意に高い生存率(p=0.001,Logrank検定)であった(図3a,b).3.観血的緑内障手術の追加を要した症例(再手術例)の検討初回LOT後,濾過手術を含めて何らかの観血的緑内障手術の追加を要した症例(再手術例)は,同時群で8/74眼(10.8%),単独群で14/24眼(58.3%)あり,同時群が有意に低い再手術率であった(p<0.001,Mann-Whitney検定).初回LOTから再手術までの期間は,同時群で平均4年9カ月(5カ月.8年3カ月),単独群で3年9カ月(1年.7年3カ月)と両群間での有意差はなかった.III考按落屑緑内障に対する初回の観血的緑内障手術としては,現:同時群:単独群****************************************点眼スコア(点)4.03.02.01.00.0在,線維柱帯切開術に代表される流出路再建術と線維柱帯切除術に代表される濾過手術とがあげられるが,いずれの術式を選択するかの基準は明確ではなく,術者や施設によって異なるのが現状である.さらに,適応によっては各術式に白内障手術を併用することもあるため,術式選択基準はいっそう複雑である.線維柱帯切開術の単独手術または白内障同時手術の有効性については,松村ら2)やHonjoら3)によって過去に報告されており,当院では,サイヌソトミー併用あるいは深層強膜弁切除および内皮網除去術併用といった細部における術式や手術部位の変遷4)はあるものの,20年以上,本疾患に対する初回手術の第一選択は線維柱帯切開術と考えて現在に至っている.なかでも,緑内障手術の適応時期に白内障の進行も認める症例に対しては,積極的に白内障手術を併用する方針としている.しかし,術後経過が5年,あるいは10年以上の症例が増b:15mmHg10.90.8術前361224364860728496108120観察期間(月)図2点眼スコア同時群:白内障手術併用LOT群,単独群:有水晶体眼LOT群.各群の眼数は図1と同じ.***:p<0.0001,**:p<0.001,*:p<0.01(pairedttest,各群における術前点眼スコアとの比較).a:20mmHg10.90.8(**:p=0.001,Logrank検定)(**):同時群:単独群生存率(**)(**:p=0.001,Logrank検定):同時群:単独群0.70.70.60.50.40.60.50.4生存率0.30.30.20.100.20.1001224364860728496108120観察期間(月)01224364860728496108120観察期間(月)図3生存率曲線Kaplan-Meier分析による生存率.a:眼圧20mmHg以下への生存率,b:眼圧15mmHg以下への生存率.同時群:白内障手術併用LOT群,単独群:有水晶体眼LOT群.各群の眼数は図1と同じ.(113)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131157 加するに従い,なかには濾過手術を含めた手術加療を複数回では手術部位による経過の差がないことが報告されてお行っても眼圧コントロールが困難で治療に難渋する症例も散り7),今回の検討では区別はしなかった.現在,当院ではサ見するようになり,改めて本疾患の長期経過という観点からイヌソトミー,深層強膜弁切除,内皮網除去いずれも併用す線維柱帯切開術の位置付けを確認すべく,検討を行った.る術式に変わり,手術部位は単独,同時手術いずれも下方が検討項目1)の同時群,単独群それぞれにおける眼圧およ第一選択となっており,この術式での成績は,今後改めて検び点眼スコアについては,過去の報告や筆者らのclinical討する.impressionのとおり,白内障同時手術でも単独手術でも,最後に,今回の検討項目ではないが,術式選択の一助とし線維柱帯切開術が本疾患に有効な術式であることが再確認でて本疾患に対する濾過手術との比較について述べておきたきた.術後7年までは確実に,またそれ以上の長期では症例い.数が少なくなるが両群ともおおむね15mmHg前後で推移し近年,落屑緑内障においては線維柱帯切開術が濾過手術とており,術式の有効性が示唆された.比較して遜色ない結果であったという報告があり,2011年検討項目2)では,眼圧20mmHgおよび15mmHg以下にFukuchiら8)は,落屑緑内障眼に対する白内障手術併用線への生存率を同時群と単独群で比較し,いずれの眼圧でも経維柱帯切開術施行群が,白内障手術併用または単独のマイト過観察中において同時群が単独群よりも有意に生存率が高いマイシンC併用線維柱帯切除術施行群と同等の眼圧下降効結果となった.落屑症候群または落屑緑内障に対する白内障果があったとして,白内障を有する落屑緑内障眼に対する第単独手術によって眼圧下降効果が期待できることは過去に報一選択の術式に,筆者らと同様に白内障手術併用線維柱帯切告されている5)が,今回の検討では,線維柱帯切開術と白内開術を推奨している.さらに,同年,Shingletonら9)が報告障手術を同時に行った場合,それぞれの術式として相加的にした落屑緑内障138眼に対する白内障手術併用線維柱帯切眼圧下降効果を発揮しうることが示唆され,同時群での20除術の長期経過(観察期間4.7±3.7年)においても,眼圧(術mmHg以下への生存率は術後3年で97.3%,術後6年で前/術後5年)は,21.5±7.2/14.9±6.0mmHg,点眼スコア93.8%,術後10年で86.0%,15mmHg以下への生存率に(術前/術後5年)は,2.3±1.1/0.8±1.1,再手術率は13.8%おいても術後3年で71.6%,術後6年以降(.術後10年)と報告しており,この結果は,当院での白内障手術併用線維で61.8%と良好な成績であった.とはいえ,一般に落屑症柱帯切開術とほぼ同等であった.候群を有する眼に対する白内障手術は,Zinn小帯断裂,後以上から,落屑緑内障に対する線維柱帯切開術は,術後3.破損といった術中合併症のリスクが通常の症例よりも高い年以上の長期においても有効な術式といえる.特に,白内障ことで知られる6)ため,白内障手術を併用するかの判断は各手術併用の場合は,より長期に眼圧下降が期待でき,初回の症例における白内障の進行程度や術者の熟練などの要素を考観血的緑内障手術として積極的に第一選択としてよい術式と慮すべきと思われる.考える.検討項目3)では,初回の線維柱帯切開術後に濾過手術も含めた何らかの観血的緑内障手術の追加を要した症例,すなわち,再手術例について,同時群と単独群を比較した.単独利益相反:利益相反公表基準に該当なし群の再手術率は,同時群よりも有意に高かったが,同時群に比べて単独群の手術時平均年齢が若年で,かつ,術後観察期文献間も長期であったことからは妥当な結果といえる.つまり,1)布田龍佑:落屑症候群および落屑緑内障の診断と治療.あ単独群は,いわば若年発症型の落屑緑内障ともよぶべき症例たらしい眼科25:961-968,2008が多く,長期経過においては治療が難渋するであろうことが2)松村美代,永田誠,池田定嗣ほか:水晶体偽落屑症候群この結果から推測される.しかし,再手術までの期間は両群に伴う開放隅角緑内障に対するトラベクロトミーの有効性間に差はなかったことから,いわゆる若年発症型であったとと術後の眼圧値.あたらしい眼科9:817-820,19923)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:Phacoemulsificaしても,単独手術によって一定期間の眼圧下降を期待するこtion,intraocularlensimplantation,andtrabeculotomytoとができると思われる.treatpseudoexfoliationsyndrome.JCataractRefractSurgなお,今回の対象症例における術式は全例サイヌソトミー24:781-786,1998併用線維柱帯切開術であり,深層強膜弁切除および内皮網除4)黒田真一郎:緑内障眼に対する白内障手術緑内障白内障同時手術.IOL&RS20:101-105,2006去術は施行していない.手術部位は,同時群で白内障手術切5)友寄絵厘子,新城百代,酒井寛ほか:偽落屑症候群を有開創との上方同一創が71眼,別創(LOTを下方,白内障手する症例の白内障手術後の眼圧経過.眼科手術17:381術を上方角膜切開創で施行)が3眼,単独群で上方が11眼,384,2004下方が13眼あったが,サイヌソトミー併用線維柱帯切開術6)家木良彰,三浦真二,西村衛ほか:落屑症候群に対する1158あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(114) 白内障手術は非落屑症候群に比べて何倍合併症が多いのか.implantationandsinusotomyforexfoliationglaucoma.Jpn臨眼63:1263-1267,2009JOphthalmol55:205-212,20117)南部裕之,城信雄,畔満喜ほか:下半周で行った初回9)ShingletonBJ,WoolerKB,BourneCIetal:CombinedSchlemm管外壁開放術併用線維柱帯切開術の術後長期成cataractandtrabeculectomysurgeryineyeswithpseudo績.日眼会誌116:740-750,2012exfoliationglaucoma.JCataractRefractSurg37:19618)FukuchiT,UedeJ,NakatsueTetal:Trebeculotomy1970,2011combinedwithphacoemulsification,intraocularlens***(115)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131159