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狭隅角眼の隅角鏡と超音波生体顕微鏡所見の比較

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(149)7250910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(5):725728,2008cはじめに隅角鏡や超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)を用いた隅角部の評価は緑内障の診療指針を決定するきわめて重要な検査である.特に狭隅角眼においては周辺虹彩前癒着の有無と隅角の開大度は治療方針に大きな影響を与える.ただ,隅角鏡による隅角広の判定は主観的であり,検者間の違いも大きいと推察される.そのため,緑内障専門医でも隅角鏡所見を若い医師に教授するとき,特に隅角広の程度を教えるときには自分の判断に不安を抱くことがある.そこで今回,緑内障診療の経験豊富で,隅角鏡検査に熟練した検者による隅角広の判定と,UBMによる隅角構造の計測結果を比較し,その検者がどのような隅角広の捉え方をしているかを検証した.I対象および方法対象は隅角鏡検査に熟練した1人の眼科専門医によっ〔別刷請求先〕宇治幸隆:〒514-8507津市江戸橋2-174三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座眼科学Reprintrequests:YukitakaUji,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MieUniversitySchoolofMedicine,2-174Edobashi,Tsu-shi,Mie514-8507,JAPAN狭隅角眼の隅角鏡と超音波生体顕微鏡所見の比較大川親宏松永功一宇治幸隆三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座眼科学ComparisonofGonioscopyandUltrasoundBiomicroscopyforAssessingAngleWidthinNarrow-AngleEyesChikahiroOokawa,KoichiMatsunagaandYukitakaUjiDepartmentofOphthalmology,MieUniversitySchoolofMedicineShaer分類2度以下の狭隅角眼31例50眼を対象に,隅角鏡検査に熟練した眼科医によって判定された上下耳鼻側4方向のShaer分類の程度と,各眼の超音波生体顕微鏡(UBM)検査によるangleopeningdistance500μm(AOD500)と,隅角底面積anglerecessarea(ARA)との比較を行った.合計200カ所の隅角のうち,Shaer分類1度は116カ所,2度は84カ所あったが,4方向すべてでARAとAOD500はShaer分類1度よりもShaer分類2度において,隅角が広い傾向がみられ,上側と鼻側のARAとAOD500,耳側のAOD500についてはShaer分類1度とShaer分類2度の間に統計学的に有意差が存在した.隅角鏡検査に習熟すれば,UBM像による評価をしなくても,隅角鏡検査で隅角広をShaer分類に従ってある程度判別できることが証明された.Wecomparedgonioscopyandultrasoundbiomicroscopy(UBM)inregardtoassessinganglewidthin50nar-row-angleeyesof31subjectsassessedasGrade2orbelowaccordingtotheShaergonioscopicclassication.ThegonioscopicndingswereclassiedaccordingtotheShaerclassicationin4quadrants:superior,inferior,nasal,andtemporal,byanexaminerwithextensiveexperienceingonioscopy.TheUBMimagesofthe4quadrantsforeacheyewereanalyzedbytheanotherexaminer;theangleopeningdistance500μm(AOD500)andthetriangu-lararea(ARA)attheanglerecesswereobtained.Amongthetotalof200quadrants,116wereassessedasGrade1and84asGrade2,accordingtotheShaerclassication.Forall4quadrantsontheUBMimages,theanglewidthtendedtobelargerinGrade2ratherthanGrade1eyes,andintermsofsuperiorandnasalARAandAOD500,andtemporalAOD500,therewasastatisticallysignicantdierencebetweenShaerGrade1andGrade2eyes.ItwasshownthatanglewidthcouldbegradedaccordingtotheShaerclassicationtosomedegreeevenwithouttheuseofUBMbyanexaminerprocientingonioscopy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(5):725728,2008〕Keywords:狭隅角,隅角鏡検査,Shaer分類,超音波生体顕微鏡,隅角計測.narrowangle,gonioscopy,Shaergonioscopicclassication,ultrasoundbiomicroscopy,anglemeasurement.———————————————————————-Page2726あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(150)本体画面上で,強膜岬から角膜内面に沿い500μmの地点に角膜内面に立てた垂線の角膜内面から虹彩表面までの長さangleopeningdistance500μm(AOD500)2)を測定した(図1).その後得られた画像を自動解析プログラムUBMPro2000(ParadigmMedicalIndustries.,Inc,SaltLakeCity,UT,USA)を用いて,虹彩前面と角膜内皮と,強膜岬から角膜内面に沿い750μmの地点に角膜内面に立てた垂線とによって囲まれた場所の面積anglerecessarea(ARA)3)を求めた(図1).測定誤差を少なくするために,隅角部の1カ所につき3回ずつ連続して画像の記録を行い,3画面の計測値の平均を算出して定量値とした.Shaer分類1度と2度との比較にはunpairedt-testを用いた.また,以上の検査は患者に十分な説明を行った後,患者が十分理解したことを確認のうえ,同意を得て行われた.II結果各眼につき4方向の隅角を調べたので,対象眼50眼では合計200カ所の隅角所見が得られているが,そのうちShaer分類1度は116カ所,2度は84カ所あった.UBMの結果から,ARAは平均ではShaer分類1度で0.04±0.05mm2,Shaer分類2度で0.08±0.04mm2で,Shaer分類2度のほうが有意に広かった.AOD500についてはそれぞれ0.06±0.08mm,0.12±0.06mmとなり,両者の間に有意差が存在した.さらに4方向(上下耳鼻側)のARAとAOD500の結果を散布図として図2,3に示す.Shaer分類1度または2度と判定された結果と,UBM画像のARAとAOD500を対比させたのが表1である.4方向すべてでARAとAOD500はShaer分類1度よりもShaer分類2度において,隅角がて,隅角鏡検査でShaer分類2度以下と判定された狭隅角眼31例50眼(男性13例,女性18例,対象者平均年齢66.4±6.7歳)である.平均屈折値は0.89±2.50Dsphで,平均眼圧は13.30±3.36mmHgであった.TOMEYPGゴニオレンズ(4面)を用い,細隙灯顕微鏡で上下耳鼻側4方向の隅角の隅角広をShaer分類1)に基づいて判定された(なお,判定に用いたスリット光照度は隅角鏡直前で295luxであった).また圧迫隅角鏡検査で周辺虹彩前癒着が観察された狭隅角眼は対象から除外し,いわゆるslit-likeのきわめて狭い隅角はShaer分類1度と判定した.なお,検者がプラトー虹彩と判断した症例や,内眼手術やレーザー治療の既往のある症例,虹彩形状に影響を及ぼす薬剤投与症例は対象から除外した.UBM検査はUBM(Model840,HumphreyInstrumentsInc.,SanLeandro,CA,USA)を用い,別の眼科医が一定照度(細隙灯顕微鏡検査とほぼ同様の条件にするため被検者の眼前で295luxとした)仰臥位のもと,各眼について4方向(上下耳鼻側)の子午線上での隅角部の観察を行った.UBMAOD500500mARA750m図1UBM画像からの隅角計測左はAOD500,右はARAの測定方法.0.250.20.150.10.050mm21ARA上方20.250.20.150.10.050mm21ARA鼻側20.250.20.150.10.050mm21ARA下方20.250.20.150.10.050mm21ARA耳側2図2上下耳鼻側隅角のShaer分類とUBMのARAの比較横軸はShaer分類を表す.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008727(151)角鏡による隅角診断の技量を向上させるように努力することが重要である.多くの眼科医は,隅角鏡検査に精通した眼科医からその方法や判断の手ほどきを受けるが,隅角鏡検査に精通した眼科医自身の判断の正当性を検証する必要があると考えた.そこで,当科で緑内障専門医として経験が豊富で,隅角鏡検査に熟練した医師による隅角広の判定とUBM像による隅角計測の数値がどのような相関を示すかを検討した.広隅角でなく狭隅角を研究対象としたのは,狭隅角のほうが隅角広の評価はむずかしく,実際に緑内障治療を行ううえで狭隅角のほうが隅角形態評価の重要性が高いと考えるからである.Pavlinら2)が提唱したようにUBM画像上で隅角底の先端からAOD500の2点を結ぶ線と虹彩表面のなす角度をq1として隅角広を評価する指標があるが,それについては,周辺虹彩の形状に大きく影響され,実際q1とAOD500が同じ数値でも虹彩の形状の違いからまったく隅角底の形状が異なる症例があることをしばしば経験し,隅角底の面積であるARAによる評価が優れていることを報告してきた3)が,今回もその評価方法を採用した.Shaer分類では1度は角膜と虹彩のなす角度が10°,2度は20°となっているが,この10°は10°以下という意味であり,20°は11°20°という意味で,2度でも1度にきわめて近い角度の隅角もあるということで,実際は1度と2度の区別が困難な症例が多いと考えられる.さらに現実的にNarayanaswamyら7)の報告のように,Shaer分類1度としてもslit-like(隅角広が5°未満)か5°10°かを隅角鏡で判断することはむずかしいのではないかと考え,あえてslit-likeの程度を設けなかった.また,同じ眼でも上下耳鼻側の4方向によって隅角広が異なることは十分ありうることであり,筆者らの今回対象とした眼でも全周にわたりShaer分類が広い傾向がみられたが,上側と鼻側のARAとAOD500についてはShaer分類1度と2度の間に統計学的に有意差が存在し,耳側のAOD500にも有意差がみられた.III考察隅角鏡による隅角広の評価はそもそも主観的なものであり,隅角の広狭の程度をShaer分類1)やSpaeth分類4)に従って分類するときは,隅角鏡では観察できない隅角の断面像を頭に想い描いてから強角膜と周辺虹彩とのなす角度を判断するということが行われている.しかし正確に隅角評価を行うには隅角鏡検査に精通し,多くの緑内障治療を経験することが必要である.一方,UBMはShaer分類やSpaeth分類を行うときに想い描く隅角断面像のように,隅角部を画像として描出でき,多くの報告者によって検証されているように,客観的に隅角角度や広さを測定できる.しかしUBM機器は高額で,隅角鏡のように安価でしかも細隙灯顕微鏡による診察において簡便に行えるというものではないため5,6),一般的には隅角検査は隅角鏡によることが多く,眼科医は隅0.40.30.20.10mm1AOD500上方20.40.30.20.10mm1AOD500鼻側20.40.30.20.10mm1AOD500下方20.40.30.20.10mm1AOD500耳側2図3上下耳鼻側隅角のShaer分類とUBMのAOD500の比較横軸はShaer分類を表す.表1上下耳鼻側隅角のShaer分類とUBM計測結果の比較象限Shaer分類ARA(mm2)AOD500(mm)上側10.02±0.040.03±0.05上側20.07±0.040.10±0.07下側10.05±0.050.08±0.08下側20.07±0.030.11±0.05耳側10.06±0.060.06±0.07耳側20.09±0.040.12±0.05鼻側10.04±0.050.09±0.09鼻側20.08±0.040.15±0.07*:p<0.01unpairedt-test.*****———————————————————————-Page4728あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(152)に重要であり,指導的立場の眼科医も自分の隅角判定の精度を検証する機会をもつべきであることを強調したい.文献1)ShaerRN:III.Gonioscopy,ophthalmoscopyandperime-try.TransAmAcadOphthalmolOtolaryngol64:112-127,19602)PavlinCJ,HarasiewiczK,SherarMDetal:Ultrasoundbiomicroscopyofanteriorsegmentstructuresinnormalandglaucomatouseyes.AmJOphthalmol113:381-389,19923)IshikawaH,EsakiK,LiebmannJMetal:Ultrasoundbio-microscopydarkroomprovocativetesting:Aquantita-tivemethodforestimatinganteriorchamberanglewidth.JpnJOphthalmol43:526-534,19994)SpaethGL:Thenormaldevelopmentofthehumanante-riorchamberangle:Anewsystemofdescriptivegrad-ing.TransOphthalmolSocUK91:709-739,19715)RileySF,NairnJP,MaestreFAetal:Analysisoftheanteriorchamberanglebygonioscopyandbyultrasoundbiomicroscopy.IntOphthalmolClin34:271-282,19946)SpaethGL,AruajoS,AzuaraA:Comparisonofthecon-gurationofthehumananteriorchamberangle,asdeter-minedbytheSpaethgonioscopicgradingsystemandultrasoundbiomicroscopy.TransAmOphthalmolSoc93:337-347,19957)NarayanaswamyA,VijayaL,ShanthaBetal:Anteriorchamberangleassessmentusinggonioscaopyandultra-soundbiomicroscopy.JpnJOphthalmol48:44-49,2004同じということはなく,多くの症例で2つの分類が混在することがわかり,研究対象を4方向の隅角部位の比較とした.それぞれの部位で決して1度か2度かという明確な分類ができるものばかりではないことはむしろ自然であり,対象とした隅角部が1度と2度との境界の広さをもつものが多ければ,結果もまた異なったものになったと思われる.さらに隅角鏡で広い範囲の隅角を観察して判定するShaer分類と,UBMである箇所の測定値を比較することとは本質的に性格の異なるものであり,図2の散布図からもわかるようにShaer分類1度と2度が明瞭にUBMの数値で分離できるものではないことも判明した.それでも緑内障専門医が診断した隅角鏡による分類で,UBMのARAやAOD500の値に1度よりも2度が広いという傾向や統計学的に有意差を示す結果が出たことは,この緑内障専門医のように多くの症例の診療に従事することによって得られた経験から,隅角鏡所見から隅角の断面像を想像し,隅角広をShaer分類に従ってある程度分類できることを証明したといえる.もちろん隅角鏡検査に熟練した者でもプラトー虹彩の診断はむずかしくUBM検査のほうが優れている場合もあり,一方,隅角全般や結節,小さな周辺虹彩前癒着,新生血管など微細な変化を観察するには隅角鏡がすぐれているなど,2通りの検査法の長所・短所を考えれば両方の検査を行うことが理想といえる.ただ,眼科医にとって,狭隅角の程度を判断することは,日常の診療において欠くことのできない診療技術であり,隅角鏡検査に精通した先輩眼科医からの手ほどきは非常***