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非球面眼内レンズ(TECNISR ZA9003)挿入眼の収差とコントラスト感度

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page1(139)???0910-181008\100頁JCLS《原著》あたらしい眼科25(4):561~565,2008?はじめに現在,白内障手術は視力の改善だけではなく,より優れた視機能が得られることが望まれている.そのために,より安全で迅速な手術術式とともに,良質な眼内レンズ(IOL)も開発されている.近年,視機能の他覚的評価方法として波面収差の概念が導入された1,2).正常な若年者の水晶体は,角膜の球面収差を補正するため,非球面形状となっている3).しかし,加齢によって,角膜の球面収差はほとんど変わらないが,水晶体の球面収差は正方向に増加するため,眼球全体の球面収差も増加し,視機能は低下する2,4).従来の球面IOLでは,角膜の球面収差を補正するには不十分であったが,波面収差を考慮して開発された非球面IOLTECNIS?(AMO社)は,角膜の球面収差を補正し,眼球全体での球面収差を減少させるよう〔別刷請求先〕森洋斉:〒040-0053函館市末広町7-13江口眼科病院Reprintrequests:????????????????????????????????????????-??????????-?????????????-???????-???????????非球面眼内レンズ(TECNIS?ZA9003)挿入眼の収差とコントラスト感度森洋斉森文彦昌原英隆亀田裕介鈴木理郎山内遵秀江口まゆみ江口秀一郎江口眼科病院AberrationandContrastSensitivityafterImplantationofTECNIS?ZA9003AsphericalIntraocularLensesYosaiMori,FumihikoMori,HidetakaMasahara,YusukeKameda,MichiroSuzuki,YukihideYamauchi,MayumiEguchiandShuichiroEguchi???????????????????非球面眼内レンズ(IOL)と球面IOLの収差,コントラスト感度について検討した.対象は,片眼に非球面IOL(TECNIS?ZA9003,AMO社),他眼に球面IOL(AcrySof?SA30AT,Alcon社)を挿入した30例60眼である.術後1カ月で,解析領域3mm,5mmで収差を,低照度,中照度条件でコントラスト感度を測定した.全眼球収差は解析領域3mmでは全高次収差,コマ様収差において有意に非球面群が少なかった(p<0.05).解析領域5mmでは全高次収差,球面様収差,コマ様収差において有意に非球面群が少なかった(p<0.01).コントラスト感度は低照度で有意に非球面群が良好であった(p<0.01).TECNIS?ZA9003は従来の球面IOLに比べ,自覚的にも他覚的にも視機能をより改善できる可能性が示唆された.Weevaluatedaberrationandcontrastsensitivityafterimplantingasphericalandsphericalintraocularlenses(IOL).Weperformedphacoemulsi?cationin30patients(60eyes),implantingtheasphericalIOLTECNIS?ZA9003(AMO)inoneeyeandthesphericalIOLAcrySof?SA30AT(Alcon)inthefelloweye.Onemonthaftersurgery,aberrationwasmeasuredforthe3mmand5mmopticalzones,andcontrastsensitivitywasmeasuredunderhigh-mesopicandlow-mesopicconditions.Forthe3mmzone,totalhigherorderandcoma-likeaberrationsweresigni?cantlylower(p<0.05),andforthe5mmzonetotalhigherorder,spherical-likeandcoma-likeaberra-tionsweresigni?cantlylowerineyeswiththeasphericalIOL(p<0.01).EyeswiththeasphericalIOLhadsigni?cantlyhighercontrastsensitivityunderlow-mesopicconditions(p<0.01).TheTECNIS?ZA9003asphericalIOLledtobettersubjectiveandobjectivequalityofvisionthanthesphericalIOL.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(4):561~565,2008〕Keywords:収差,非球面,眼内レンズ,コントラスト感度.aberration,aspheric,intraocularlens,contrastsensi-tivity.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(140)コントラスト感度の比較は,各空間周波数におけるコントラスト感度の対数値と,AULCSF(areaunderthelogcon-trastsensitivityfunction)の値を計算し,検討した.AULCSFとは,プロットして得られたコントラスト感度の対数値を通る近似曲線の関数を求め,空間周波数の範囲で積分して求められた面積であり(図1),コントラスト感度の定量解析に有用であると,Applegateらにより報告されている14).統計解析にはWilcoxonの符号付順位和検定を用い,p値が0.05未満を有意とした.II結果術前の背景として,球面群と非球面群間で眼軸長(非球面群:23.21±1.27mm,球面群:23.14±1.29mm),角膜屈折力(非球面群:44.91±1.63D,球面群:44.91±1.67D)に有意な差を認めなかった.術後,球面群と非球面群間で矯正視力,明所視,薄暮視瞳孔径に有意差を認めなかった.IOL度数は,非球面群が21.8±2.95D,球面群が21.0±2.77Dと有意差を認めた(pに,非球面形状にデザインされている.TECNIS?は,自覚的な視機能としては矯正視力やコントラスト感度,他覚的な視機能としては,波面収差において従来の球面IOLに比べて優れていると報告されている5~10)が,その間の見解はまだ一致していない.その理由として,波面センサーが規格統一されていないこと,収差測定値の解析方法が一致していないこと,視機能における収差の重要性が不確かであることなどがあげられる10).過去の報告で使用されているTECNIS?は,光学部がsili-cone素材のTECNIS?Z9000であり,筆者らが知る限り,acryl素材のTECNIS?ZA9003を検討した報告はない.今回筆者らは,TECNIS?ZA9003を使用し,非球面レンズによる波面収差とコントラスト感度について検討した.I対象および方法対象は,2006年11月から2007年3月の間に江口眼科病院にて超音波乳化吸引術およびIOL挿入術を施行し,術後3カ月以上経過観察を行えた30例60眼である.性別は男性9例18眼,女性11例22眼で,年齢は48~84歳で,平均70.5±8.0(平均±標準偏差)歳であった.白内障以外に視力低下の原因がある症例,術中,術後に合併症があった症例は除外した.対象患者には,事前に十分なインフォームド・コンセントを行い,同一患者の片眼に非球面IOLTECNIS?ZA9003(AMO社)(以下,非球面群),僚眼に球面IOLAcrySof?SA30AT(Alcon社)を左右ランダムに振り分けて挿入した(以下,球面群).手術は全例,CCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)を完成させ,2.8mmの上方強角膜創より,超音波乳化吸引術を施行し,IOLを?内固定した.術中にIOLのcentration,前?によるIOLのcompletecoverを確認した.術後1カ月で,矯正視力,等価球面度数,等価球面度数誤差量(術後等価球面度数-目標等価球面度数),波面収差,薄暮視・明所視瞳孔径,コントラスト感度を測定し,両群を比較した.瞳孔径の測定,波面収差解析は,波面センサーOPD-Scan?(NIDEK社)を用いて行った.解析領域は3mm,5mmとし,Zernikeの多項式で得られた4,6次成分の二乗和の平方根を球面様収差(S4+S6),3,5次成分の二乗和の平方根をコマ様収差(S3+S5),それらの総和を全高次収差(S3+S4+S5+S6)として,角膜,全眼球についてそれぞれ測定した.コントラスト感度は,VCTS6500?(Vistech社)を用いて測定した.非球面IOLは,より広瞳孔の際に非球面の効果が得られ,コントラスト感度が上昇するとされている.そこで,照度条件が10lux(低照度),200lux(中照度)となるように,照度計IM-5?(TOPCON社)にて調整して測定した.図1コントラスト感度の定量化(AULCSF)300.003.01.0320/10020/40220/50.1.31003010336121.518①②③④⑤⑥⑦⑧①②③④⑤⑥⑦⑧AULCSF=曲線下面積コントラスト感度コントラスト①②③④⑤⑥⑦⑧①②③④⑤⑥⑦⑧①②③④⑤⑥⑦⑧ABCDE空間周波数(cycles/degree)20/3020/2520/2020/15———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(141)ての空間周波数で有意差がなかったが,低照度条件(約10lux)では,低周波領域(1.5,3cycles/degree)にて有意に非球面群のほうが良好であった(p<0.05)(図4).AULCSF値を比較すると,中照度条件では有意差を認めなかったが,低照度条件では有意に非球面群のほうが高値を示した(p<0.01)(図5).<0.01).等価球面度数は,非球面群が-0.88±0.68D,球面群が-0.32±0.62Dと有意差を認め(p<0.01),等価球面度数誤差量においても,非球面群が-0.30±0.70D,球面群が0.23±0.57Dであり,有意差を認めた(p<0.01)(表1).各成分の収差解析の結果を図2に示す.角膜における球面様収差,コマ様収差,全高次収差,すべての成分で球面群と非球面群の間に有意差を認めなかった.全眼球では,解析領域3mmでは,コマ様収差(非球面群:0.09±0.04?m,球面群:0.12±0.06?m),全高次収差(非球面群:0.10±0.04?m,球面群:0.14±0.07?m)において,有意に非球面群のほうが少なかった(p<0.05).球面様収差(非球面群:0.04±0.01?m,球面群:0.05±0.03?m)では有意差を認めなかった.解析領域5mmでは,球面様収差(非球面群:0.13±0.04?m,球面群:0.25±0.09?m),コマ様収差(非球面群:0.28±0.14?m,球面群:0.41±0.18?m),全高次収差(非球面群:0.32±0.13?m,球面群:0.49±0.18?m)すべての成分で有意に非球面群のほうが少なかった(p<0.01).また,非球面群のほうが,全眼球の球面様収差が多い症例も数例認めた(図3).コントラスト感度は,中照度条件(約200lux)では,すべ3mm解析領域:非球面群球面様収差コマ様収差全高次収差球面様収差コマ様収差全高次収差5mm00.511.522.5収差(?m):球面群3mm解析領域:非球面群球面様収差コマ様収差全高次収差球面様収差コマ様収差全高次収差5mm00.10.20.30.40.5*******0.60.7収差(?m):球面群*p<0.01**p<0.05図2角膜成分の各収差(上)と全眼球成分の各収差(下)非球面群球面群球面収差00.050.10.150.20.250.30.35収差(?m)図3各症例における全眼球の球面収差の比較31.5121800.40.81.21.622.4中照度(200lux):非球面群空間周波数の対数値(cycles/degree)コントラスト感度の対数値6:球面群31.5121800.40.81.21.622.4低照度(10lux):非球面群空間周波数の対数値(cycles/degree)コントラスト感度の対数値6:球面群*p<0.05**———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(142)に少なかった一つの要因であると考えられる.以上より,非球面群は球面群に比べて,球面様収差,コマ様収差が少なく,他覚的な視機能において優れていることが示唆された.非球面IOL眼と球面IOL眼でのコントラスト感度を比較した報告は数多くある9~11,15).今回の結果では,非球面群が薄暮視下にてのみ,コントラスト感度が球面群に比べて有意に上昇した.Packerら6),Bellucciら8)は,いずれも薄暮視下にてTECNIS?Z9000が球面IOLに比べてコントラスト感度が良好だと報告している.また,Denoyerら7)は,TECNIS?Z9000は球面IOLであるCeeOn?Edge911に比較し,薄暮視下において高周波領域にてコントラスト感度が良好であることを示し,さらに球面収差はコントラスト感度に相関しないことを報告している.一方,Mu?ozら12)はTECNIS?Z9000と球面IOL間でコントラスト感度に統計学的な有意差は認めなかったと報告している.過去の報告において,結果が異なっている理由として,第1に,コントラスト感度は,自覚的なデータであるため,個人の主観によるバイアスがかかる可能性が高いことがあげられる.今回の検討は同一患者で比較しているため,この点は問題ないと考えられた.第2に,非球面IOL眼と球面IOL眼でのコントラスト感度の違いは,非常にわずかであり,従来の測定法では捉えることができないことがある.これはApplegateらにより報告されているAULCSFを用いることで,コントラスト感度全体を定量したものを比較することができ,より鋭敏に有意差を引き出すことが可能であった.第3に,色収差の違いがあげられる.色収差を表す指標としてアッベ数が使われており,レンズの素材・組成に特有の値となっている.一般的にsiliconeIOLはacrylIOLに比べて,アッベ数は低いため,色収差が大きくなる16).従来の報告で使用されているTECNIS?Z9000の光学部の材質はsiliconeであり,acrylの球面IOLと比較しているものが多いため,材質の違いもコントラスト感度に影響が出てしまっていると考えられる.また,同じacryl素材であっても,屈折率が変わればアッベ数も変わってくる.低屈折率ほどアッベ数は高値を示すといわれており,筆者らが使用したTECNIS?ZA9003(n=1.47)はAcrySof?SA30AT(n=1.55)に比べると屈折率は低いため,アッベ数は高値である.つまり,非球面群のほうがコントラスト感度が良好な理由として,色収差において優れているということも考えられる.したがって,非球面群は球面群に比べて,コントラスト感度などの自覚的な視機能においても優れていることが推察された.以上より,TECNIS?ZA9003は従来の球面IOLに比べて,他覚的にも自覚的にも視機能の向上を図ることが可能であることと考えられた.しかし,TECNIS?は角膜の球面収差を補正し,眼球全体での球面収差をゼロにするように設計されているため,角膜の球面収差が少ない症例では,かえってIII考察今回の結果では,球面様収差は,眼球全体で非球面群が球面群に比べて有意に少なかった.これは,TECNIS?の非球面性が角膜の球面収差を補正していることを示しており,過去のsilicone素材のTECNIS?Z9000を検討した報告に合致している7~9,12).眼球全体のコマ様収差が非球面群で,球面群に比べて有意に少なかった.一般に,非球面IOLは球面収差のみを考慮した設計になっており,眼光学的にはコマ収差を変化させるデザインにはなっていない.過去の報告では,他の球面IOLと比べても,眼球全体のコマ収差は有意差を認めなかったというものが多い7,9,12,13).コマ様収差の結果が過去の報告と異なる理由として,IOLのdecentrationとtiltが考えられる.非球面IOLはdecentrationとtiltに弱く,その値が一定以上になれば,球面IOLよりも収差が有意に増加し,さらにコントラスト感度が落ちるといわれており14),Holladayによれば,非球面IOLは,>0.4mmのdecentra-tion,>7?のtiltがあれば,非球面性による利点が失われるとされている5).非球面群が球面群に比べてコマ様収差が少なかったのは,よりdecentrationとtiltが少なかったと推察できる.球面群のAcrySof?SA30ATはシングルピースIOLで,支持部が太くて軟らかく,接合部の角度が0?であり,?との接触面積が大きくなり均等に力が加わるために,安定して固定されるとされており,以前の報告でもスリーピースIOLとシングルピースIOL間で,decentrationとtiltは同等であるといわれている15).しかし,TECNIS?ZA9003が光学部径6.0mmであるのに対し,AcrySof?SA30ATは5.5mmである.光学部径が小さければ,術後,前?によるIOL光学部のcoverが不完全になる可能性が高くなると推測されるため,AcrySof?SA30ATのほうがdecentrationとtiltが大きかったのではないかと考えられる.シングルピースIOLは,支持部,光学部の柔軟性,接合部の連続性が原因となり,スリーピースIOLに比べると,光学部自体の歪みが生じる可能性がある.つまり,TECNIS?ZA9003は光学部自体の歪みがより少ないというのも,コマ様収差が有意———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(143)8)BellucciR,ScialdoneA,BurattoLetal:VisualacuityandcontrastsensitivitycomparisonbetweenTecnisandAcrysofSA60ATintraocularlenses:amulticenterran-domizedstudy.???????????????????????31:712-717,20059)KasperT,B?hrenJ,KohnenTetal:Visualperformanceofasphericalandsphericalintraocularlenses:intraindi-vidualcomparisonofvisualacuity,contrastsensitivity,andhigher-orderaberrations.???????????????????????32:2022-2029,200610)BellucciR,MorselliS,PucciV:Sphericalaberrationandcomawithanasphericalandasphericalintraocularlensinnormalage-matchedeyes.???????????????????????33:203-209,200711)ApplegateRA,HowlandHC,SharpRPetal:Cornealaberrationsandvisualperformanceafterradialkeratoto-my.??????????????14:397-407,199812)Mu?ozG,Albarr?n-DiegoC,Mont?s-Mic?Retal:Sphe-ricalaberrationandcontrastsensitivityaftercataractsur-gerywiththeTecnisZ9000intraocularlens.??????????????32:1320-1327,200613)RochaKM,SorianoES,ChalitaMRetal:Wavefrontanal-ysisandcontrastsensitivityofasphericandsphericalintraocularlenses:arandomizedprospectivestudy.???????????????142:750-756,200414)AltmannGE,NichaminLD,LaneSSetal:Opticalperfor-manceof3intraocularlensdesignsinthepresenceofdecentration.???????????????????????31:574-585,200515)HayashiK,HayashiH:Comparisonofthestabilityof1-pieceand3-pieceacrylicintraocularlensesinthelenscapsule.???????????????????????31:337-342,200516)ZhaoH,MainsterMA:Thee?ectofchromaticdispersiononpseudophakicopticalperformance.????????????????91:1225-1229,2007IOLの非球面性が逆効果になってしまう可能性が示唆される.さらに,補正するべき角膜の球面収差のデータは白人のものであり,日本人に当てはまるかどうか評価が必要である.したがって今後,術前に角膜収差を測定し,IOLの選択をすることが必要になってくると考えられる.非球面IOLTECNIS?ZA9003は,症例を選び,問題なく手術が施行されれば,より優れた視機能の向上が期待できると考えられた.文献1)LiangJ,WilliamsDR:Aberrationsandretinalimagequalityofthenormalhumaneye.???????????