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健常人におけるGoldmann 視野計と自動視野計Octopus 900 の比較検討

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(87)1569《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(11):1569.1572,2010cはじめに眼科臨床において視野検査は重要な検査の一つであり,そのなかでもGoldmann視野計は最も多用されてきた.Goldmann視野計は周辺視野を含めた全視野が測定できるため,緑内障だけでなく網膜疾患,神経眼科疾患,頭蓋内疾患の診断や治療に有用である1,2).また,ロービジョンケアの適否の判定,ロービジョンエイドの選定やさまざまな情報の提供においても重要になっている1).Goldmann視野計は検者が被検者の理解度や症状,反応状態に合わせて測定できるという利点がある一方,検査結果が検者の技量に大きく影響を受け,検者や施設の間で変化の判定がしづらいなどの欠点も目立ち,最近では自動静的視野測定が主流となっている2).それに対して2003年に自動視野計Octopus101(Haag-Streit社)を用いて動的視野測定ができるソフトウェアGKP(Gold-〔別刷請求先〕矢野いづみ:〒761-0793香川県木田郡三木町池戸1750-1香川大学医学部眼科学講座Reprintrequests:IzumiYano,C.O.,DepartmentofOphthalmology,KagawaUniversityFacultyofMedicine,1750-1Ikenobe,Miki-chou,Kagawa761-0793,JAPAN健常人におけるGoldmann視野計と自動視野計Octopus900の比較検討矢野いづみ馬場哲也髙岸麻衣廣岡一行溝手雅宣野本浩之白神史雄香川大学医学部眼科学講座ComparisonofGoldmannPerimeterandAutomaticPerimeterOctopus900inNormalSubjectsIzumiYano,TetsuyaBaba,MaiTakagishi,KazuyukiHirooka,MasanoriMizote,HiroyukiNomotoandFumioShiragaDepartmentofOphthalmology,KagawaUniversityFacultyofMedicine目的:健常人の視野をGoldmann視野計とOctopus900にて測定し,両者の結果および有用性について比較検討した.対象および方法:対象は健常人ボランティア32名32眼,平均年齢35歳(22~50歳)であった.緑内障専門医2名により眼疾患のないことを確認した後,同一検者が施行した.視標の呈示速度や方法および測定点は両者で同一となるようにした.視標ごとの面積を画像解析ソフトImageJ(NIH)にて測定し両検査間の相関を検討した.結果:全例で視野の形状は同一と判断された.平均測定時間はGoldmann視野計では441秒,Octopus900では505秒であった.両検査における面積の回帰直線は正の相関を示し,V/4e:r=0.778,I/4e:r=0.838,I/3e:r=0.665,I/2e:r=0.753,I/1e:r=0.714(p<0.01)といずれの視標においても高い相関を認めた.結論:健常人におけるGoldmann視野計とOctopus900の視野の面積は強い相関を示し,Octopus900の結果は信頼できる.Purpose:ToevaluatetheeffectivenessoftheGoldmannperimeterversustheOctopus900whenmeasuringthevisualfieldinnormalsubjects.Objectsandmethod:Atotalof32normalsubjects22~50yearsofagewereincludedinthisstudy.ThesameexperiencedexaminerperformedallGoldmannperimeterandOctopus900measurements.ImageJwasusedtocalculatetheareaofthevisualfield.Agreementwasassessedusingcorrelation.Results:Itwasjudgedthattheshapeofthefieldofvisionwasthesameinallexamples.Themeandurationofthetestwas441and505secondsfortheGoldmannperimeterandtheOctopus900,respectively.TherewasahighlysignificantlinearrelationshipbetweentheGoldmannperimeterandtheOctopus900(r=0.665-0.838:p<0.01).Conclusions:SincecorrelationwasstrongbetweentheGoldmannperimeterandtheOctopus900inareaofvisualfields,visualfieldanalysisusingtheOctopus900shouldbereliableinnormalsubjects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(11):1569.1572,2010〕Keywords:視野,Octopus900,Goldmann視野計,面積の比較.visualfield,Octopus900,Goldmannperimeter,comparisonofthearea.1570あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(88)mannKineticPerimetry)が開発され,2007年にはOctopus101の後継機種であるOctopus900(Haag-Streit社)のソフトウェアEyeSuitePerimetryV1.2.2が発売された.しかし,Octopus900の使用経験に関する報告は少なく3),Goldmann視野計との結果の比較についての報告はない.今回筆者らは,健常人に対してGoldmann視野計とOctopus900を施行し,両者の測定結果および有用性について比較検討したので報告する.I対象および方法1.対象対象は矯正視力1.0以上,屈折検査にて等価球面値が.6.5diopter(D)未満,カラー写真による眼底検査で眼疾患のないことを確認した健常人ボランティア32名32眼(男性11例11眼,女性21例21眼)であった.平均年齢は35.4±7.3歳(22~50歳),平均屈折度数は.1.23±1.82D(+0.75~.6.25D)であった.2.方法すべての対象者に対して,緑内障専門医2名により,カラー写真による眼底検査で眼疾患のないことを確認した後,Goldmann視野計とOctopus900を施行した.測定眼は左右交互に選択し左右眼の症例数が均等になるようにし,選択眼において両検査を施行した.検査順序はランダムとし,同一検者が施行した.Octopus900のソフトウェアはEyeSuitePerimetryV1.2.2を用いて視標,速度,測定点,測定方法をつぎのように設定した.視標は,V/4e,I/4e,I/3e,I/2e,I/1eを用い,各視標で垂直,水平経線の両端5°,各象限30°,60°方向の計16ポイント(5°,30°,60°,85°,95°,120°,150°,175°,185°,210°,240°,265°,275°,300°,330°,355°)で測定した.Mariotte盲点はI/4eで測定した.速度はOctopus900では周辺部は5°/sec,中心部は3°/sec,Mariotte盲点は2°/secに設定した.視標は求心性に呈示し,Mariotte盲点では遠心性に呈示した.I/2e,I/1eでは必要に応じて近見矯正レンズを付加した.Goldmann視野計においても同一条件で検査を施行した.また,両検査における測定条件を同等にするため,Octopus900におけるreactiontimeによる補正は行わなかった.各々の視野は,画像として取り込み,画像解析ソフトImageJ(NationalInstitutesofHealth,NIH,http://rsbweb.nih.gov/ij/)を用いて面積を測定し,中心30°に相当する円の面積を1.000として視標ごとに面積比を算出した(図1).検討項目は,両検査間の各視標の総面積および上下半視野における面積の相関,Mariotte盲点の面積とした.すべての対象から本研究についてのインフォームド・コンセントを得た.II結果緑内障専門医2名により両検査での視野の形状は同一と判定され,全例がこのスタディに登録された.測定時間は,Goldmann視野計では平均441±41秒(369~528秒),Octopus900では平均505±103秒(314~713秒)であり,平均測定時間はGoldmann視野計で有意に短かab図1ImageJによる面積計算a:計算したい範囲をトレースすると画面右上に面積が表示される.b:面積の基準とした中心30°に相当する円.この面積を1.000として各視標の面積比を算出した.(89)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101571った(p<0.01).各視標における総面積は,X軸をOctopus900,Y軸をGoldmann視野計とした回帰直線においてすべての視標で正の相関を示し(図2),相関係数は,V/4e:r=0.778,I/4e:r=0.838,I/3e:r=0.665,I/2e:r=0.753,I/1e:r=0.714(すべてp<0.01)といずれの視標においても高い相関を認めた.上下半視野における面積の相関係数を比較すると,上方ではr=0.450~0.737,下方では,r=0.740~0.867であった(p<0.01).下半視野において,上半視野と比較して高い傾向を示した(表1).Mariotte盲点の面積比は,Goldmann視野計では0.025±0.005,Octopus900では0.018±0.003であり,Octopus900で有意に小さく検出された(p<0.01).III考按今回の結果からGoldmann視野計とOctopus900は視野の形状が一致したこと,各視標における面積比の比較において高い相関を認めたことから,Octopus900は健常人においては信頼性がありGoldmann視野計の代用となりうることが示唆された.このことから求心性視野狭窄や半盲などの比較的シンプルな形状を呈する疾患ではOctopus900が有用であることが予測されるが,緑内障など不規則視野を呈する疾患における有用性については今後の検討課題と考える.視野面積の算出において,Octopus900ではイソプター面積算出機能があり経時的な変化の観察が可能であることは有用であると思われるが,本機で測定された面積値には単位がなく算出方法も不明であったため,Goldmann視野計の結果との比較ができなかった.そのため,今回は,両検査における結果を同一条件で面積比較するためにフリーの画像処理ソフトウェアであるImageJを用いた.Goldmann視野計とOctopus900の測定時間について,平均測定時間がGoldmann視野計で有意に短かった点については,まず,今回の対象が正常眼であり測定結果の予測が容易であったことから,手動のGoldmann視野計において無意識的に視標の移動速度が速くなったことが測定時間に影響した可能性があげられる.つぎに,検査手技に関しては,Octopus900では操作の手間が多いことと検者の操作に対する慣れが影響していると思われる.前身機種のOctopus101d:視標I/2ee:視標I/1ey=1.1621x-0.619r=0.6651.002.003.004.001.002.003.004.00OctopusGPc:視標I/3ep<0.012.003.004.005.00Octopusb:視標I/4e4.005.006.007.00Octopusa:視標V/4e0.000.501.001.50Octopus0.001.002.003.00Octopus0.000.501.001.50GP1.002.003.00GP2.003.004.005.00GP4.005.006.007.00GPy=1.1614x-0.1676r=0.714y=1.256x-0.3809r=0.753y=1.4211x-1.6871r=0.838y=1.2092x-0.9263r=0.778p<0.01p<0.01p<0.01p<0.01図2Goldmann視野計(GP)とOctopus900(Octopus)間の各視標における総面積の比較それぞれの図の縦軸(GP),横軸(Octopus)は中心30°の基準円に対する面積比で表示している.表1Goldmann視野計とOctopus900間の上下半視野における面積の比較上方下方回帰式r回帰式rV/4ey=0.808x+0.3840.550y=1.119x.0.1650.779I/4ey=1.041x.0.0760.450y=1.034x.0.1730.867I/3ey=1.030x.0.0590.491y=1.088x.0.2870.740I/2ey=1.383x.0.1690.737y=1.052x.0.1160.748I/1ey=1.171x.0.0460.615y=1.071x.0.0940.761下半視野における相関係数は,上半視野と比較して高い傾向を示した.1572あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(90)と比較すると,検査画面が日本語表示になったことや測定とイソプターや表示などの編集,プログラムの呼び出しが一画面で行えることなど操作性が格段にあがっており,Octopus900については適正に操作の設定をしておくことで検査時間の短縮ができる可能性はある.しかし,今後Goldmann視野計のようにシンプルな操作方法になるよう改良が待たれる.上下半視野における面積において下半視野における相関係数が上半視野と比較して高い傾向を示した.その原因として,測定手技に関しては視標の移動がOctopus900では全方向において定速であるのに対して,Goldmann視野計では視標の移動が手動であるため,定速を心がけたものの上下方向で若干の差が生じて結果に影響した可能性は否定できない.また,上方周辺部視野に関しては測定時間中における瞼裂幅の変動や,生理的な条件反射である周期性瞬目に伴うBell現象4,5)の影響が両検査における測定値のばらつきに影響したことも推測できるが,はっきりとした原因の特定はできなかった.今後,今回の結果についての再現性の有無や視野異常を伴う症例においても同様の傾向がみられるかどうかについて検討していく必要があると思われる.つぎに,Octopus900でMariotte盲点が小さく検出されたが,図2を見てみると周辺視野の検出においては逆にOctopus900で大きく検出される傾向がみてとれる.このことから,被検者がボタンを押すタイミングに対する検者(Octopus900では器械)の反応時間がOctopus900のほうが速いと推察すると,今回得られた差がある程度理解できる.その他,両検査における視標の移動速度の差による影響も理論上は考えられるが,Mariotte盲点に関しては視標の移動距離が短いため,実測値に対する影響はほとんどないと推察される.以上より,Octopus900はGoldmann視野計とほぼ同等の精度をもつ検査であると考えられるが,両検査の比較においては,上半視野では両視野検査において差が出やすい可能性があること,Octopus900ではMariotte盲点が小さく検出されることを加味した視野の判定が必要であると考えられる.また,Octopus900は,半自動で動的視野を測定するという構造上,Goldmann視野計と同様に検者の技量が検査結果に大きく影響を及ぼしてしまうという問題がある.完全自動動的視野測定を目指すにはまったく新しいアルゴリズムが必要とされ,その開発が望まれる3).今回筆者らは比較的検査に順応しやすい年齢の健常人で検討を行ったが,今後は若年者や高齢者など年齢を変えた健常人,緑内障をはじめ視野異常のある症例についてOctopus900の有用性を検討する必要がある.文献1)湖崎淳:III視力・色覚・視野4.ゴールドマン視野.眼科49:1487-1492,20072)原澤佳代子:視野検査法の現状2.動的視野の現状.眼科47:261-270,20053)橋本茂樹,松本長太:自動動的視野計OCTOPUS900.眼科手術22:191-195,20094)平岡満里:瞬目反射と近見反射.神経眼科17:219-224,20005)NiidaT,MukunoK,IshikawaS:Quantitativemeasurementofuppereyelidmovements.JpnJOphthalmol31:255-264,1987***