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TS-1®による涙道閉塞に対する3側の涙小管形成術を併用した涙囊鼻腔吻合術

2014年5月31日 土曜日

《第2回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科31(5):755.758,2014cTS-1Rによる涙道閉塞に対する3側の涙小管形成術を併用した涙.鼻腔吻合術久保勝文*1櫻庭知己*2*1吹上眼科*2青森県立中央病院眼科ThreeCasesofExternalDacryocystorhinostomywithCanaliculoplastyforCanalicularObstructionDuetoTS-1.MasabumiKubo1)andTomokiSakuraba2)1)FukiageEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,AomoriPrefecturalCentralHospitalTS-1.による涙小管閉塞に,観血的に涙小管閉塞を開放しチューブ留置を行う涙小管形成術(CP)を併用した涙.鼻腔吻合術(DCR)の結果について報告する.症例1は,原疾患が未確定の56歳,女性.症例2は,骨転移した乳癌の57歳,女性.2症例ともにTS-1.内服後から両眼充血・流涙が出現し,上下涙小管が閉鎖していた.症例1は,術中に5mm幅程度の涙小管閉塞を開放しCPを併せて両側のDCRを行った.症例2は,上下涙小管全体の硬い狭窄を開放するCPを併せて左DCRを行った.2例3側の術後は,涙腺の通過性は良好で流涙も消失した.DCRの利点は,切開した涙.からの逆行性ブジーと順行性ブジーが同時に可能となり,涙小管の閉塞部位の開放を容易にする.CPを併用したDCRは,涙管チューブ挿入術や結膜涙.鼻腔吻合術とともにTS-1.による涙道閉塞治療の選択肢の一つとして有用と考えられる.Weevaluatedtheeffectivenessandsurgicalresultsofexternaldacryocystorhinostomy(DCR)withcanaliculo-plasy(CP)inpatientsreceivingTS-1.whohadcanalicularobstructionatFukiageEyeClinic.Patient1:A56-year-oldfemalewithcancerofunknownorigin,treatedwithTS-1..Patient2:A57-year-oldfemalewithmetastasisofbreastcancer,treatedwithTS-1..Thepunctuminthe2casescouldnotbeobserved,butthepatientsdidnotchooseconjunctivodacryocystorhinostomy.Wetreatedthe2casesbybothDCRusingthetwo-flaptechniqueandCPwithanterogradeandretrogradeprobing.Epiphoraimprovedin3systemsof2casesfor3monthsafterDCR.DCRenabledsimultaneousretrogradeprobingandanterogradeprobing.DoubleprobingfacilitatedthecompletionofCP.WebelievedthatDCRwithCPcanbeasurgicaltherapyforpatientsreceivedTS-1.whohavecanalicularobstruction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(5):755.758,2014〕Keywords:TS-1.,涙小管形成術,涙.鼻腔吻合術,逆行性ブジー,順行性ブジー.TS-1.,canaliculoplasy,dacryocystorhinostomy,retrogradeprobing,anterogradeprobing.はじめに抗癌剤TS-1.により投与患者の10%程度に,涙点・涙道閉塞症が生じると報告されている1.3).TS-1.による閉塞は,涙点から涙小管まで広く閉塞していることも多いと考えられる.受診までの期間が短期間であれば閉塞は短く軟らかく,受診までが長期間であれば閉塞が長く硬いとされている.しかし,流涙が発症してからの期間が不明な症例や,発症してから長期の受診や重症例も多い.早期で軽症の涙小管狭窄では,涙管チューブ挿入術が用いられる1,2).閉塞が穿破できない場合や,涙管チューブ挿入ができない場合は,片側のみの涙管チューブ挿入となる場合もある1).重症であれば結膜涙.鼻腔吻合術(conjuctivo-dacryocystorhinostomy:CDCR)が選択される1,3,4).CDCRではジョーンズチューブ(Jonestube:JT)の脱出や埋没な〔別刷請求先〕久保勝文:〒031-0003青森県八戸市吹上2丁目10-5吹上眼科Reprintrequests:MasabumiKubo,M.D.,Ph.D.,FukiageEyeClinic,2-10Fukiage,Hachinohe031-0003,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(129)755 ど,術後合併症率が高く,術者および患者ともにストレス度の高い手術である.このような治療困難なTS-1.による涙小管閉塞症に対する涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)および涙小管形成術の結果についての報告は少ない3).今回,TS-1.による涙小管閉塞2症例3側のDCRを行った結果について報告する.I対象および方法症例1は,56歳,女性.原発不明癌に対するTS-1.内服開始後に流涙が出現した.他院にて両側の涙点・涙小管閉塞に対し,右涙管チューブ挿入術を試みるも留置できず吹上眼科紹介となった.視力,眼底に異常なし.涙点は図1に示すように閉塞していた.涙点拡張後のプロービングでは,右眼上涙小管が2mm程度残っていたがそれ以降は完全閉塞し,下涙小管は全体的な強い狭窄を認め,涙管チューブ挿入術およびCDCRを希望されず,右側のDCRを行った.症例2は,57歳,女性.左乳癌および多発骨転移に対するTS-1.内服後から両眼の充血・流涙が出現し来院した.視力,眼底に異常なし.図2に示すように上下の涙点は閉鎖していた.涙点拡張後のプロービングにて,上下涙小管は全体的な強い狭窄を認めた.CDCRを希望せず左側のDCRを行った.2症例とも術前に今回のDCR対するインフォームド・コンセントを得ている.従来行っていたDCR5)と今回,2症例3側DCRで変更した点を以下に述べる.1.内眥靱帯の全体が確認できるように,最初の皮膚切開を2.3mm程度拡大した.2.内眥靱帯を糸で上方に牽引し,涙.内の観察が容易になるようにした.3.涙小管の閉塞は,順行性および逆行性ブジーをすり合わせるようにして穿破した.4.閉塞穿破後は涙.から剪刀を用いて閉塞をできるだけ大きく解除した.また,症例2の上涙小管への涙管チューブ挿入が通常の手技では困難であったために,涙.側より逆行性にブジー(はんだや,HS-2571,小川氏涙管拡張針)を挿入し18Gのアンギオカット留置針の外筒を先端に装着し,ブジー抜去する際に外筒を涙小管内に留置した.つぎに外筒の中に涙管チューブを留置し,外筒を抜去しながら涙管チューブのみを留置した(図3a,b).図1症例1:右眼上下涙点は,完全に閉塞している.図2症例2:左眼上下涙点は完全に閉塞している.756あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(130) ブジー18Gアンギオカット針a:涙.側より逆行性にブジーを挿入し18Gのアンギオカット留置針の外筒を先端に装着し,ブジーの抜去後に外筒を留置した.b:涙小管内に留置した外筒の内腔に涙管チューブを留置し,涙.側より外筒を抜去しつつ涙管チューブを留置した.図3症例2における上涙小管への涙管チューブ挿入手技II結果症例1の右側は上涙小管の閉塞幅は5mm程度で,涙点側の涙小管閉塞に硬い部分があったが涙.の手前の涙小管閉塞は軟らかく,下涙小管とともにブジーで穿破が可能で井上1)の方法で涙管チューブ挿入が可能だった.右側のDCR後に流涙が消失し,患者が手術を希望したため左側も同様にDCRを行った.左側の上下涙小管の閉塞幅は5mm程度で,涙点側の涙小管閉塞は硬い閉塞だったが,近位側は強固でなかった.術後は,両眼ともに流涙なく経過良好である.症例2も,左DCR後に流涙が消失し通水も良好である(図4).術後は,2症例3側ともに最長7カ月の経過観察だが,涙小管再閉塞もなく流涙もなく良好である.抗癌剤による感染症および創傷遅延については認められなかった.III考察TS-1.による高度な涙点および涙小管閉塞に対する治療の選択として今回DCRおよび涙小管形成術を,2例3側に対して行った.皮膚切開,骨窓作製での出血は,特に多量ではなかった.また術中・術後の出血,創傷遅延を認めなかった.涙点付近の涙小管閉塞は強固であったが,順行性および逆行性のブジーにより容易に開放できた.一見,閉塞が強く涙管チューブ挿入術が困難な状態でも,涙管チューブが挿入可能だった.難治の涙小管閉塞の穿破および涙管チューブ挿入術については,中村6)や鈴木7)の報告のように,皮膚切開および涙小管閉塞解除を顕微鏡下で確実に行い涙管チューブを鼻涙管に挿入する方法の報告がある.しかし,これらの方法では鼻涙(131)図4症例2の術後術後7カ月経過し,流涙は消失.管へ涙液が流れるために,涙液中のTS-1.が鼻涙管閉塞を新たに惹起する可能性があると考える.涙小管形成後に鼻涙管閉塞を起こした場合には,再度皮膚切開を行うDCR鼻外法が必要になる.しかし,癌治療を受けている患者に大きな負担を強いることになり,再手術について患者の納得を得るのは容易ではないと考え,今回はこのような術式を選択した.TS-1.による涙小管閉塞術の治療において,涙管チューブ挿入術1,2)は涙道内視鏡下での施行が望ましいため,施行できる施設が限られてしまう.CDCRの報告は,術後の合併症の頻度が高く満足度も低いとされ8,9),初回手術として選択しにくい.TS-1.による涙道障害が報告される以前の涙点閉鎖,涙小管閉塞に対する治療報告10.12)もあるが,涙小管閉塞の原因により,術後成功率が0.100%と差があることが示されている10).これらと比較すると,今回のTS-1.による涙点・涙小管閉鎖は,障害の程度が軽度であった可能性は否定できないが,順行性および逆行性ブジーを同時に行うことによって良好な成績を得られたと考える.DCRは多くの術者によって施行されている手術であり,あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014757 今回の手技の導入は困難ではないと考える.将来,CDCRでJTの使用が必要となっても,骨窓がすでにあるため留置が容易であることも利点である.しかし涙小管そのものの狭窄の可能性は避けられず,症例によって骨窓を作る作業が過剰な侵襲となる可能性7)もあり,今後,DCRと涙小管形成術単独との術後長期成績や合併症の比較検討が必要であろう.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)井上康:TS-1.による涙道閉塞.眼科手術25:391-394,20122)SasakiT,MiyashitaH,MiyanagaTetal:Dacryoendoscopicobservationandincidenceofcanalicularobstruction/stenosisassociatedwithS-1,anoralanticancerdrug.JpnJOphthalmol56:214-218,20123)坂井譲,井上康,柏木浩哉ほか:TS-1.による涙道障害の多施設研究.臨眼66:271-274,20124)塩田圭子,田邊和子,木村理ほか:経口抗癌薬TS-1投与後に発症した高度涙小管閉塞症の治療成績.臨眼63:1499-1502,20095)久保勝文,櫻庭知己:日帰り涙.鼻腔吻合術鼻外法18例20眼の検討.眼科手術18:283-286,20056)中村泰久:安全確実なシリコーンチューブ留置術.臨眼50:1458-1460,19967)鈴木亨:涙小管閉塞症の顕微鏡下手術における術式選択.眼科手術24:231-236,20018)RosenN,AshkenaziI,RosnerM:PatinetdissatisfactionafterfunctionallysuccessfulconjunctivodacryocystorhinostomywithJonestube.AmJOphthalmol117:636-642,19949)SekharGC,DortzbachRK,GonneringRSetal:Problemsassociatedwithconjunctivodacryocystorhinostomy.AmJOphthalmol112:502-506,199110)WearneMJ,BeigiB,DavisGetal:Retrogradeintubationdacryocystorhinostomyforproximalandmidcanalicularobstruction.Ophthalmology106:2325-2329,199911)McNabAA:Lacrimalcanalicularobstructionassociatedwithtopicalocularmedication.AustNZJOphthalmol26:219-223,199812)TrakosN,MvrikakisE,BoboridisKGetal:Amodifiedtechniqueofretrogradeintubationdacryocystorhinostomyforproximalcanalicularobstruction.ClinOphthalmol3:681-684,2009***758あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(132)