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正面視および頭部傾斜下での水平融像幅(遠見)の比較検討

2013年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科30(3):415.418,2013c正面視および頭部傾斜下での水平融像幅(遠見)の比較検討佐藤友香*1矢野隆*1相澤大輔*2,3樋口聡美*1*1海老名メディカルプラザ眼科*2海老名総合病院眼科*3北里大学医学部眼科学教室HorizontalFusionAmplitudeatPrimaryPositionandHeadTiltPositionsYukaSato1),TakashiYano1),DaisukeAizawa2,3)andSatomiHiguchi1)1)DepartmentofOphthalmology,MedicalPlazaofEbina,2)DepartmentofOphthalmology,GeneralHospitalofEbina,3)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine目的:頭部傾斜下での水平融像幅(遠見)の比較検討.対象および方法:対象は屈折異常以外の眼科的疾患および斜視を有さず,同意を得られた正常被検者14名(男性6名,女性8名),年齢は21.39歳(平均28.1±6.5歳)とした.頭部傾斜(20°,40°,140°,160°)にての交代プリズムカバーテスト,プリズム融像幅をそれぞれの角度にて測定を行った.結果:各頭位での眼位は水平,上下ともに有意差はみられなかった.頭部傾斜を行うことにより融像幅は有意に減少した.結論:頭部傾斜により眼位変化は生じないが融像幅が有意に減少した.Purpose:Weexaminedvariationinhorizontalfusionamplitudeatprimarypositionandheadtiltpositions.SubjectsandMethods:Subjectscomprised14normaladults(6males,8females).Age21through39years(meanage:28.1±6.5yrs).Wemeasuredalternateprismcovertestandprismfusionamplitudeatprimaryposition(90°)andheadtiltpositions(20°,40°,140°,160°).Result:Therewerenosignificantdifferencesbetweenprimarypositionandheadtiltpositionsintermsofeyepositionofhorizontalandverticalheterophoria.However,horizontalfusionamplitudewassignificantlylowerinheadtiltposition.Conclusions:Eyepositionofhorizontalandverticalheterophoriaexhibitednosignificantdifferencesbetweenprimaryandheadtiltpositions,buthorizontalfusionamplitudewassignificantlylowerinheadtiltposition.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(3):415.418,2013〕Keywords:頭部傾斜,融像幅,眼位.headtilt,fusionalamplitude,eyeposition.はじめにヒトの日常視では必ずしも90°の頭位(正面視)でものを見るだけでなく,さまざまな姿勢で,さまざまな空間位置のものを見ていることが多い.融像に関する研究は多くあるが,その多くはprimarypositionでの融像機能を見ていることがほとんどである1.3).Primaryposition以外での報告では,葛谷ら4)による注視位を変化させた場合の融像幅の報告,人見5)による頭部傾斜時の回旋融像についての報告しかなく,日常視を意識しての融像を含む両眼視機能研究はほとんどされてこなかった.日常生活中,寝転んでテレビを見たときに複視を生じるとの主訴で受診する患者も多く,仮説として正面視の融像幅と寝転んだ状態を想定した頭位での融像幅との間に違いは生じるのではないかと考え,今回筆者らは頭部傾斜時の水平融像幅の比較検討を行ったので報告する.I対象および方法対象は屈折異常以外の眼科的疾患および斜視を有さず,同意を得られた正常被検者14名(男性6名,女性8名).年齢は21.39歳(平均±標準偏差28.1±6.5歳)で,矯正視力は(1.0)以上あり近見立体視(Titmusstereotests)にてcircls(7/9)以上とした.方法は,正面(90°)での優位眼検査,交代プリズムカバーテスト(APCT)による眼位検査,プリズム融像幅,頭部傾斜(20°,40°,140°,160°)(図1)にてのAPCT,プリズム融像幅をそれぞれの角度にて測定を行った.眼位検査はAPCTとParallaxtestを併用し,水平・上下ともに0.5Δ以上あれば斜位(+)とした.プリズム融像幅は調節視標を用いて,優位眼にプリズムを〔別刷請求先〕佐藤友香:〒243-0422海老名市中新田439番地1号海老名メディカルプラザ眼科Reprintrequests:YukaSato,C.O.,DepartmentofOphthalmology,MedicalPlazaofEbina,439-1Nakashinden,Ebina-city,Kanagawa243-0422,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(129)415 160°140°90°40°20°図1頭部傾斜測定方法NSNS****530.329.640.328.127.6204090140160****60NSNS4504030201.42.02.12.01.9融像幅()Δ融像幅()Δ3斜位量()Δ2110000.60.30.40.40.1-1NSNS頭部傾斜(°)NSNSn=14-2Wilcoxon符号付順位和検定204090140160**p<0.01頭部傾斜(°)図3各頭位における融像幅(全体):水平斜位:垂直斜位n=14**Wilcoxon符号付順位和検定70NS(notsignificant)図2各頭位における眼位6050入れて行った.また,複視を生じたbreakpointの値(絶対融像幅)を用いた.頭部傾斜角度の測定方法はそれぞれの角度を記載した模造紙を作製し,壁に貼り付けて角度決定を行った(図1).II結果1.各頭位における眼位各頭位での眼位は水平,垂直ともに有意差はみられなかった(図2).今回の被検者14名の水平眼位は外斜位または正位のみであった.2.各頭位における融像幅90°にて平均融像幅は平均40.3±16.3Δであった.頭部傾斜を行うことにより融像幅は有意に減少した(図3).20代・30代にて比較すると90°では融像幅に大きな差はなく,頭部傾斜による融像幅の減少率にも大きな差はみられなかった(図4).3.各頭位における融像幅(開散・輻湊別)開散・輻湊側別で融像幅の変化を比較すると,輻湊側のほ416あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013100*****NS32.827.031.327.541.139.229.626.029.125.5204090140160頭部傾斜(°)■:20代:30代n=8(20代)n=6(30代)Wilcoxon符号付順位和検定NS(notsignificant)*p<0.05図4各頭位における融像幅(20代・30代別)うが頭部傾斜による融像幅の減少が開散側よりも大きかった(図5).4.各頭位における融像幅(垂直斜位別)垂直斜位(+)群(n=6)・(.)群(n=8)で比較すると,90°での融像幅は垂直斜位(+)群のほうが(.)群よりも大きかった(図6).減少率で比較をすると垂直斜位(+)群が(130)403020 ********60****80****50*NS23.923.632.921.6**70406055.239.538.835.535.3融像幅()Δ5030融像幅(Δ4021.329.12022.523.421.83022.8*NS107.46.46.3206.46.10204090140160頭部傾斜(°):輻湊:開散n=14Wilcoxon符号付順位和検定NS(notsignificant)*p<0.05**p<0.01図5各頭位における融像幅(開散・輻湊別)(.)群と比較して,頭部傾斜による融像幅の減少が大きい傾向であった.III考按融像には感覚性融像と運動性融像があり,感覚性融像は両眼の像を1つに融合させることである.運動性融像は融像性輻湊ともいわれ,両眼の眼位を感覚融像が成立する位置まで輻湊(開散)させることである6).実際に融像を行うにはこれらが連合して働く感覚-運動機能であり,vergencesystemにより行われる.融像に関する研究は多くあるがその多くはprimarypositionでの融像機能を見ていることがほとんどである1.3).Primaryposition以外での報告では,葛谷ら4)による注視位を変化させた場合の融像幅の検討がある.葛谷ら4)は,内寄せ融像幅は正面から側方に注視するほど低下したと報告している.頭部傾斜した場合の融像幅の報告は,人見5)による頭部傾斜時の回旋融像についてしかなく,これによると頭部傾斜による回旋融像幅に差はみられなかったとしている.今回筆者らは頭部傾斜時の水平融像幅について比較検討を行ったが,90°の位置で融像幅が一番広く,頭部傾斜にて融像幅の減少が有意にみられた.葛谷ら4)によると,内寄せ融像幅は正面から側方に注視するほど融像幅が低下し,その原因として運動性融像の予備機能が低下していることを示唆している.今回筆者らの結果でも頭部傾斜により融像幅が減少し,さらに輻湊(内寄せ)融像幅が開散融像幅よりも頭部傾斜にて減少率が大きい傾向であった.このことより頭部傾斜においても運動性融像の予備機能が低下していることを示唆していると考えられる.予備機能低下の原因として,頭部傾斜しての日常視は特殊な場合に限られ,融像がしづらい状態が生じたと考えられる.100204090140160頭部傾斜(°)■:垂直斜位(+)群:垂直斜位(-)群n=6(垂直斜位(+)群)n=8(垂直斜位(-)群)Wilcoxon符号付順位和検定*p<0.05図6各頭位における融像幅(垂直斜位別)今回の結果で垂直斜位(+)群・(.)群の比較では垂直斜位(+)群のほうが90°での融像幅が大きかったが,頭部傾斜による減少率も大きかった.先天性の上斜筋麻痺では上下・回旋斜視に対する感覚適応が生じているとの報告があり7.11),おそらく垂直斜位がある人では日常,斜位分を常に融像しているため垂直と水平に対して感覚適応が生じ,正面では水平融像幅も広くなったと考えられる.しかし,頭部傾斜により融像幅が正面時と比較し減少すると正常融像幅が狭い垂直斜位の影響が大きく出てしまい,それが負荷になって融像がしづらくなり,頭部傾斜により垂直斜位(.)群と比較して減少率が多くなったのではないかと考えた.今回の結果では,頭部傾斜により融像幅は有意に減少したが,眼位の変化はみられなかった.眼位は,輻湊順応により頭部傾斜にても眼位に変化が起こらなかったと考えられる.輻湊順応とは個々人は固有の眼位ずれをもっているにもかかわらず通常,常に両眼視をして眼位を0プリズム(Δ)に順応させている結果,眼位はほぼ正位に近くなっているという考え方(orthohoriazation)であり,加齢・外傷などによる外眼筋・眼窩内容物の変化が生じた際に眼位を一定に保持するために存在していると考えられている12).また,渡邉ら13)によるphoriaadaptationの年齢による変化では,輻湊順応は高齢者で低下したと報告されている.今回は年齢の幅が少なかったため眼位・融像幅に変化はなかったとも考えられ,年齢の幅を広げると頭部傾斜にて眼位・融像幅に変化が生じる可能性もあり,今後の研究課題である.今後,頭部傾斜にての眼位検査は融像力の比較的強い間欠性外斜視などにも応用できるか検討を行っていきたい.(131)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013417 IV結論頭部傾斜により眼位変化は生じないが水平融像幅が減少した.文献1)SchorCM,CiuffredaKJ:VergenceEyeMovements:BasicandClinicalAspects,p671-698,ButterworthsPublishers,Boston,19832)若倉雅登,三柴恵美子:調節・輻湊障害を有する眼精疲労患者に対する融像幅増強訓練の効果.臨眼38:897-902,19843)DaumKM:Thecourseandeffectofvisiontrainingonthevergencesystem.AmJOptomPhysiolOpt59:223,19824)葛谷明美,藤井雅朗,福田敏雅ほか:正常者および間歇性外斜視患者の注視位による内よせ融像幅の違いについて.眼臨79:2130-2134,19855)人見緑子:頭部傾斜時の回旋融像について融像刺激としての図形の形状,大きさの違いによる差の検討.眼臨76:1909-1913,19826)不二門尚:両眼視の基礎と臨床.日本の眼科71:11851188,20007)堀川晶代,平井美恵,河野玲華ほか:上斜筋麻痺の回旋偏位に対する感覚適応.臨眼54:1447-1450,20008)平野佳代子,林孝雄,坂上達志ほか:上斜筋麻痺の回旋について第1報後天上斜筋麻痺の回旋融像幅.眼臨101:60-63,20079)高橋総子:まわし斜視に関する研究(第3報)FundusHaploscopeによる上斜筋麻痺患者の自覚的および他覚的まわし眼位.臨眼37:655-660,198310)高橋総子:まわし斜視に関する研究(第4報)まわし斜視のSensoryAdaptationについて.臨眼38:591-595,198411)稲富昭太,可児一孝,佐々本研二ほか:回旋(まわし)斜視の研究.日眼会誌91:1119-1136,198712)鵜飼一彦:輻湊と調節における順応.眼球運動の実験心理学(苧阪良二ほか編),p79-99,名古屋大学出版会,199313)渡邉久美子,原直人,庄司信行ほか:Phoriaadaptationの年齢による変化.あたらしい眼科23:273-276,2006***418あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(132)