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骨髄異形成症候群の患者に生じた転移性感染性眼内炎の1症例

2014年10月31日 金曜日

1540あたらしい眼科Vol.4100,211,No.3(00)1540(118)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(10):1540.1544,2014cはじめに転移性感染性眼内炎の原因疾患としては肝膿瘍,尿路感染症などが多いとされる1)が,心内膜炎が原因となることがまれにある.筆者らの施設でも小林ら2),盛ら3)が心内膜炎に続発する転移性感染性眼内炎の症例を報告している.今回,基礎疾患に骨髄異形成症候群を持つ患者に生じた心内膜炎が原因と思われる転移性感染性眼内炎の1例を経験したので報告する.I症例症例は63歳,男性.平成22年9月中旬頃から左眼飛蚊症を自覚したため,同年9月30日,近医眼科を受診したと〔別刷請求先〕平本裕盛:〒573-1191大阪府枚方市新町2-3-1関西医科大学眼科学教室Reprintrequests:YuseiHiramoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,2-3-1Shin-machi,Hirakatacity,Osaka573-1191,JAPAN骨髄異形成症候群の患者に生じた転移性感染性眼内炎の1症例平本裕盛山田晴彦星野健髙橋寛二関西医科大学附属枚方病院眼科ACaseofMetastaticInfectiousEndophthalmitiswithMyelodysplasticSyndromeYuseiHiramoto,HaruhikoYamada,TakeshiHoshinoandKanjiTakahashiDepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,HirakataHospital目的:骨髄異形成症候群を基礎疾患にもつ患者に生じた,感染性心内膜炎が感染源として考えられる転移性感染性眼内炎の症例を報告する.症例:63歳,男性.既往に骨髄異形成症候群がありステロイド内服治療を受けていた.左眼飛蚊症を自覚して近医眼科を受診.真菌性眼内炎として前医に紹介され加療されたが,硝子体混濁の悪化を認め当院を紹介された.初診時,左眼視力は矯正0.5で濃厚な硝子体混濁を認め,眼底の下方半分が透見不能であった.前医の血液培養でa溶血性レンサ球菌が検出されており,転移性感染性眼内炎を疑い初診日に硝子体手術を行った.術後2日目に循環器内科で感染性心内膜炎と診断され転科となり,後日僧帽弁置換術を行い全身状態は軽快に向かった.眼科での術後経過は良好であり,術後5カ月経過した現在まで視力は矯正1.5を維持し,再発を認めていない.結論:骨髄異形成症候群および感染性心内膜炎は転移性感染性眼内炎の基礎疾患,感染巣として念頭に置いておくべきである.Purpose:Wereportacaseofmetastaticinfectiousendophthalmitiscausedbyinfectiveendocarditisaccompa-niedwithmyelodysplasticsyndrome.Case:Thepatient,a63-year-oldmalewithmyelodysplasticsyndrome,hadbeentreatedwithsystemiccorticosteroidforyears.Hepresentedwithfloatersinhislefteye,hadbeendiagnosedashavingfungalendophthalmitisandwastreatedwithananti-fungaldrugs.Despitetheanti-fungaltherapy,how-ever,vitreousopacityincreasedandheconsultedourhospital.Onhisfirstvisit,thelowerfundusofhislefteyewasinvisibleduetothickvitreousopacity.Aspeciesofa-Streptococcushadbeenisolatedfromhisbloodatapre-vioushospital.Wediagnosedthepatientashavingmetastaticinfectiousendophthalmitis,andperformedvitrectomyonthedayofhisfirstvisittoourhospital.Twodaysafterthesurgery,hewasdiagnosedwithinfectiousendocar-ditis.Hewasstartedonsystemicantibacterialtherapyandlaterunderwentmitralvalvereplacementsurgery.Hehadagoodpostoperativecourseinbothsystemicandophthalmologicoperations.Hefinallyachievedvisualacuityof1.5.Conclusion:Myelodysplasticsyndromeandinfectiousendocarditisseemtobeimportantasfundamentaldiseasesandprimaryfociofmetastaticendophthalmitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1540.1544,2014〕Keywords:骨髄異形成症候群,感染性心内膜炎,眼内炎,硝子体手術.myelodysplasticsyndrome,infectiveen-docarditis,endophthalmitis,vitrectomy.(00)1540(118)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(10):1540.1544,2014cはじめに転移性感染性眼内炎の原因疾患としては肝膿瘍,尿路感染症などが多いとされる1)が,心内膜炎が原因となることがまれにある.筆者らの施設でも小林ら2),盛ら3)が心内膜炎に続発する転移性感染性眼内炎の症例を報告している.今回,基礎疾患に骨髄異形成症候群を持つ患者に生じた心内膜炎が原因と思われる転移性感染性眼内炎の1例を経験したので報告する.I症例症例は63歳,男性.平成22年9月中旬頃から左眼飛蚊症を自覚したため,同年9月30日,近医眼科を受診したと〔別刷請求先〕平本裕盛:〒573-1191大阪府枚方市新町2-3-1関西医科大学眼科学教室Reprintrequests:YuseiHiramoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,2-3-1Shin-machi,Hirakatacity,Osaka573-1191,JAPAN骨髄異形成症候群の患者に生じた転移性感染性眼内炎の1症例平本裕盛山田晴彦星野健髙橋寛二関西医科大学附属枚方病院眼科ACaseofMetastaticInfectiousEndophthalmitiswithMyelodysplasticSyndromeYuseiHiramoto,HaruhikoYamada,TakeshiHoshinoandKanjiTakahashiDepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,HirakataHospital目的:骨髄異形成症候群を基礎疾患にもつ患者に生じた,感染性心内膜炎が感染源として考えられる転移性感染性眼内炎の症例を報告する.症例:63歳,男性.既往に骨髄異形成症候群がありステロイド内服治療を受けていた.左眼飛蚊症を自覚して近医眼科を受診.真菌性眼内炎として前医に紹介され加療されたが,硝子体混濁の悪化を認め当院を紹介された.初診時,左眼視力は矯正0.5で濃厚な硝子体混濁を認め,眼底の下方半分が透見不能であった.前医の血液培養でa溶血性レンサ球菌が検出されており,転移性感染性眼内炎を疑い初診日に硝子体手術を行った.術後2日目に循環器内科で感染性心内膜炎と診断され転科となり,後日僧帽弁置換術を行い全身状態は軽快に向かった.眼科での術後経過は良好であり,術後5カ月経過した現在まで視力は矯正1.5を維持し,再発を認めていない.結論:骨髄異形成症候群および感染性心内膜炎は転移性感染性眼内炎の基礎疾患,感染巣として念頭に置いておくべきである.Purpose:Wereportacaseofmetastaticinfectiousendophthalmitiscausedbyinfectiveendocarditisaccompa-niedwithmyelodysplasticsyndrome.Case:Thepatient,a63-year-oldmalewithmyelodysplasticsyndrome,hadbeentreatedwithsystemiccorticosteroidforyears.Hepresentedwithfloatersinhislefteye,hadbeendiagnosedashavingfungalendophthalmitisandwastreatedwithananti-fungaldrugs.Despitetheanti-fungaltherapy,how-ever,vitreousopacityincreasedandheconsultedourhospital.Onhisfirstvisit,thelowerfundusofhislefteyewasinvisibleduetothickvitreousopacity.Aspeciesofa-Streptococcushadbeenisolatedfromhisbloodatapre-vioushospital.Wediagnosedthepatientashavingmetastaticinfectiousendophthalmitis,andperformedvitrectomyonthedayofhisfirstvisittoourhospital.Twodaysafterthesurgery,hewasdiagnosedwithinfectiousendocar-ditis.Hewasstartedonsystemicantibacterialtherapyandlaterunderwentmitralvalvereplacementsurgery.Hehadagoodpostoperativecourseinbothsystemicandophthalmologicoperations.Hefinallyachievedvisualacuityof1.5.Conclusion:Myelodysplasticsyndromeandinfectiousendocarditisseemtobeimportantasfundamentaldiseasesandprimaryfociofmetastaticendophthalmitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1540.1544,2014〕Keywords:骨髄異形成症候群,感染性心内膜炎,眼内炎,硝子体手術.myelodysplasticsyndrome,infectiveen-docarditis,endophthalmitis,vitrectomy. 図1初診時眼底写真右眼は網膜滲出斑を1カ所認めた.左眼は硝子体混濁にて眼底透見不良であった.図2初診時眼底写真左眼周辺部網膜には1.5乳頭径大の網膜内膿瘍を認め,膿瘍に向かう白線化した動脈に沿って瘤状の滲出塊が多数観察された.ころ,左眼の網膜滲出斑を指摘された.その際には硝子体混濁はなく,滲出斑も小さかったために,特に治療を行うことなく経過観察となっていた.しかし,2回目の近医再診時に滲出斑が拡大傾向を認め,軽度の硝子体混濁が出現したため,前医眼科を紹介された.前医では左眼の真菌性眼内炎を疑われ抗真菌薬の全身投与が行われたが奏効せず,硝子体混濁の悪化をきたしたため,平成22年10月26日,関西医科大学附属枚方病院眼科(以下,当科)を紹介され受診した.既往症として平成22年6月より骨髄異形成症候群があり,その他脳梗塞,狭心症もあり前医内科で経過観察されていた.家族歴に特記すべきことはなかった.初診時所見としては,視力は右眼0.8(1.5×sph.0.25D(cyl.0.50DAx75°),左眼0.5(0.5×sph+2.00D(cyl.1.50DAx90°),眼圧は両眼とも15mmHgであった.両眼ともに結膜充血,毛様充血を認めず,右眼前眼部には異常所見なく,左眼は前房内に炎症細胞を2+認めた.中間透光体は両眼ともに軽度白内障を認め,右眼は硝子体混濁は認めなかったが,左眼は滲出物を伴う濃厚な硝子体混濁を認め,眼底下方半周は透見不良であった(図1).右眼眼底は黄斑部鼻上側に1/2乳頭径×1/4乳頭径大の網膜滲出斑を1カ所認めたが,血管炎の所見はなかった.左眼耳上側周辺部網膜に1.5乳頭径大の黄白色の網膜内膿瘍の所見を認め,その部から硝子体内に濃厚な硝子体混濁が立ち上っていた.また,膿瘍に向かう白線化した動脈に沿って瘤状の滲出塊が多数観察された(図2).フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)を行ったところ,右眼の網膜滲出斑の部は造影全期を通じて低蛍光であった.左眼は硝子体混濁により描出不良であったが,造影早期から網膜血管,視神経乳頭からの蛍光漏出による過蛍光を認めた(図3).また,左眼耳上側周辺部の滲出斑の部は終始ブロックによると思われる低蛍光を示していた.血液生化学検査ならびに血算では,白血球は6,400/μl,赤血球332×104/μl,ヘモグロビン9.5g/dl,ヘマトクリット31.0%,血小板29×104/μlであり,白血球分画において好中球の増加がみられ,CRPは2.198mg/dlと軽度上昇を認めた.また,前医に問い合わせたところ,静脈血の血液培養でグラム陽性球菌(a-Streptococcus)が検出されたとのことであった.骨髄異形成症候群に対して内科でステロイド内服治療中であり,加えて血液培養でグラム陽性球菌が検出されていることから,何らかの感染巣からの転移性感染性眼内炎であると診断した.左眼の硝子体混濁は濃厚であり,抗菌薬の硝子体(119)あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141541 図3初診時FA右眼滲出斑は低蛍光を示し,左眼は網膜血管,視神経乳頭からの蛍光漏出を認めた.図4初診時心エコー僧帽弁に疣贅を認める.図5初診から5カ月後FA右眼の低蛍光は消失.左眼の蛍光漏出も消失した.注射などの保存的治療では不十分であると考え,当科初診日術を行った.超音波乳化吸引にて水晶体を摘出したが,眼内に緊急入院のうえ,同日に硝子体手術を行った.手術は25レンズは挿入せず,後に眼内レンズ2次挿入が容易なようにゲージ3ポートシステムを用いた経毛様体扁平部硝子体切除後.を含め水晶体.は温存しておいた.術中,当科での術後(120) 眼内炎の治療方針に準じて眼内灌流液に抗菌薬(バンコマイシン,セフタジジム各々20μg/ml,40μg/ml)を添加した.術中所見として硝子体混濁は網膜膿瘍部にみられた滲出斑と同じ性状の菌塊を疑う滲出物を多く含んでおり,膿瘍部から立ち上るように硝子体中に拡散していた.毛様体付近にも白色の濃厚な滲出物が付着しており,硝子体カッターにて可能な限り切除した.周辺部網膜は脆弱で,硝子体カッターによる硝子体切除時に容易に小さな医原性裂孔を2カ所生じた.眼内に抗菌薬を十分に残存させる目的で液-空気置換は行わず,網膜裂孔周辺の硝子体を十分に郭清しレーザー光凝固を行って手術を終了した.切除した硝子体の細菌培養の結果は陰性であった.術後,感染の原発巣の全身検索のため術翌日に内科にコンサルトしたところ,心雑音を指摘され,心不全症状もみられた.心臓エコー検査を行ったところ,僧帽弁に疣贅が見つかり(図4),感染性心内膜炎と診断された.術後2日目に循環器内科に転科となり,抗菌薬(ペニシリンG2,400万単位/日,ゲンタシン70mg/日,4週間)の点滴が行われたが僧帽弁閉鎖不全のため心不全症状は改善せず,2カ月後の12月20日に循環器外科で僧帽弁置換術が施行された.心臓手術後全身状態は徐々に改善し退院となった.眼科的には硝子体手術後2日目に上方周辺部網膜に裂孔を生じてレーザー光凝固を行ったが,その後の経過は良好で術後5カ月目に行ったFAでは網膜血管,視神経乳頭からの蛍光漏出は消失し(図5),視力は左眼矯正1.5に回復した.また,右眼黄斑部近傍にみられた滲出斑は平成23年3月16日受診時には消失していた.II考按転移性感染性眼内炎のうち感染性心内膜炎が原発感染巣である頻度は0.13.9%1,5,6)と比較的まれであるが,症例報告は散見される2.4).感染性心内膜炎は抜歯やカテーテル治療などを契機に心内膜(主として心弁膜)に病原微生物が侵入して感染巣(疣贅)をつくる疾患で,感染症状・心症状・塞栓症など多彩な症状を呈し,適切な治療を行わないと死に至る重篤な疾患である.感染性心内膜炎の起炎菌としては緑色レンサ球菌(Streptococcusviridans)が最も多く,黄色ブドウ球菌(Staphylococcusaureus),表皮ブドウ球菌(Staphylococcusepidermidis)がそれに次ぐとされるが,細菌以外にも真菌やクラミジアなども原因となりうる.一方,骨髄異形成症候群は骨髄に造血幹細胞の異型クローンが生じることで血球減少,無効造血,血球形態異常が引き起こされる症候群で,造血不全や急性白血病を生じることもある.治療としてステロイド薬や免疫抑制薬が使用される.眼合併症として角膜潰瘍,虹彩炎などが報告されているが,眼内炎を合併する症例も少ないながら報告がある7.9).本症例は基礎疾患に骨髄異形成症候群があり,長期間ステ(121)ロイド内服治療がなされていた.このことからステロイド内服による易感染性が基礎になり感染性心内膜炎を発症し,転移性眼内炎を生じたものと思われた.発症当初,前医で抗真菌薬の全身投与にても改善がみられず,硝子体混濁の悪化を認め当科紹介となった.前医での経過と病歴から非感染性眼内炎の可能性は低く,真菌性眼内炎の悪化もしくは細菌性眼内炎のいずれかであると考えた.術中の培養では原因菌は検出されず,内科での感染性心内膜炎の治療中にも血液培養が行われていたが,抗菌薬による治療開始後であったということもあり原因菌は検出されなかった.治療については濃厚な硝子体混濁を生じていることから,抗菌薬全身投与などの保存的治療では不十分と思われ,手術加療が必要であると判断した.一般に転移性感染性眼内炎の場合,敗血症を起こすなど全身状態が重篤なケースが多くみられる10).本症例においても初診時に全身倦怠感を強く訴えており,原因も不明であったため,眼科的治療を先に行うのか,全身精査,加療を行うのかどちらを優先させるべきか苦慮した.しかし,直前まで前医内科で全身管理され全身状態が安定していたこと,採血でCRPが高値でなかったことから,全身状態については急を要しないと判断し,初診日に緊急で硝子体手術を行い,術後速やかに全身検索をする方針とした.幸い術後2日目に内科で感染性心内膜炎の診断がつき,遅滞なく全身治療を開始することができた.一般に転移性感染性眼内炎の予後はきわめて不良であるが,本症例では例外的に良好な視力を維持することができた.早期に硝子体手術を行えたこともその一因と考えられるが,起炎菌が弱毒菌であり,進行が比較的緩徐であったことの影響が大きいと考えられた.また,前医で行われた血液培養は陽性であったが,当科で行った培養検査では血中,硝子体中,前房水中いずれも陰性であり,眼内液からは起炎菌は証明されなかった.今後,このような症例の場合にPCR法を利用し,少量のサンプルからでも原因菌の検索ができるようなシステムを導入することが必要であると考えられた.感染性心内膜炎による転移性眼内炎の報告は過去に散見することができ,筆者らの施設でも過去に2報の症例報告を行っている.小林ら2)は視力低下を自覚してから2日後に全眼球炎に至り,抗菌薬の全身投与でも消炎できず眼球摘出に至った症例を報告している.この症例の起炎菌はB群溶連菌であり,眼球摘出後,僚眼に炎症の再燃を認め,その際の全身検索で感染性心内膜炎と診断されている.一方,盛ら3)の報告は,抜歯の3カ月後から発熱,全身倦怠感を自覚し,5カ月後に内科で感染性心内膜炎と診断された症例で,両眼ともに前眼部に軽度の炎症と視神経乳頭の充血,網膜下滲出斑およびRoth斑を認めた.この症例の経過は長く,抗菌薬の全身投与のみによって眼の炎症所見は消失し,視力予後は良好であった.この症例の起炎菌は弱毒菌であるStreptococあたらしい眼科Vol.31,No.10,20141543 cussanguisであった.これら2例ともに本症例と同様に心内膜炎が原因の眼内炎ではあるが,臨床経過は大きく異なっており,その違いは起炎菌の毒性の差によるものであると推察された.本症例も弱毒菌による転移性細菌性眼内炎であり,良い条件がそろえば良好な予後を得ることが可能であると思われた.手術加療を行うことで眼球を温存できる可能性が上がるという報告もある.よって,このような症例においては全身状態が許す限り迅速な手術の適応決定が重要であると考えられた.以上,骨髄異形成症候群を基礎疾患にもつ患者に生じた感染性心内膜炎からの転移性感染性眼内炎の症例を報告した.骨髄異形成症候群,感染性心内膜炎は転移性感染性眼内炎の基礎疾患,感染病巣として念頭に置いておくべき疾患であると思われた.文献1)秦野寛,井上克洋,的場博子ほか:日本の眼内炎の現状─発症動機と起炎菌─.日眼会誌95:369-376,19912)小林香陽,藤関義人,髙橋寛二ほか:B群溶連菌による心内膜炎が原因であった内因性転移性眼内炎.日眼会誌110:199-204,20063)盛秀嗣,山田晴彦,石黒利充ほか:感染性心内膜炎から転移性眼内炎を発症し,治癒後に硝子体黄斑牽引症候群を発症した1例.あたらしい眼科28:411-414,20114)髙本やよい,國友隆二,佐々利明ほか:細菌性眼内炎により両眼摘出にいたった三尖弁位感染性心内膜炎の1例.日心外会誌36:348-351,20075)GreenwaldMJ,WohlLG,SellCHetal:Matastaticbacterialendophthalmitis:Acontemporaryreappraisal.SurvOphthalmol31:81-101,19866)JacksonTL,EykynSJ,GrahamEMetal:Endogenousbacterialendophthalmitis:A17yearprospectiveseriesandreviewof267reportedcases.SurvOphthalmol48:403-423,20037)KezukaT,UsuiN,SuzukiEetal:Ocularcomplicationinmyelodysplasticsyndromeaspreleukemicdisorders.JpnJOphthalmol49:377-383,20058)伊丹優子,神林裕行,木村悟ほか:G群b溶連菌による敗血症,眼内炎を認めた骨髄異形成症候群の一例.太田綜合病院学術年報44:1-4,20099)蒸野寿紀,松岡広,藤田識人ほか:低形成骨髄異形成に対する免疫抑制療法後に発症した真菌性眼内炎の1例.和歌山医学60:160,200910)中西秀雄,喜多美穂里,榎本暢子ほか:硝子体手術を施行した転移性細菌性眼内炎の5例.臨眼60:1697-1701,200611)YoonYH,LeeSU,SohnJHetal:ResultofearlyvitrectomyforendogenousKlebsiellapneumoniaendophthalmitis.Retina23:366-370,2003***(122)