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経涙小管レーザー涙囊鼻腔吻合術

2013年9月30日 月曜日

《第1回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科30(9):1289.1293,2013c経涙小管レーザー涙.鼻腔吻合術宮久保純子*1,2岩崎明美*1,2森寺威之*3*1宮久保眼科*2群馬大学医学部眼科学教室*3森寺眼科医院TranscanalicularDiodeLaser-AssistedDacryocystorhinostomySumikoMiyakubo1,2),AkemiIwasaki1,2)andTakeshiMoritera3)1)MiyakuboEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,GunmaUniversitySchoolofMedicine,3)MoriteraEyeClinic目的:近年,経涙小管レーザー涙.鼻腔吻合術(transcanalicularlaser-assisteddacryocystorhinostomy:TCLDCR)は,大人の鼻涙管閉塞の低侵襲で有効な術式と報告されている.今回,半導体レーザーを用いてTCLDCRを施行した9症例を経験したので,術式と手術結果を報告する.対象および方法:対象は2010年5月.12月に施行した鼻涙管骨内部閉塞の連続症例9例9側で,平均年齢は68歳である.半導体レーザーのファイバーを上涙点より鼻涙管閉塞部まで挿入し,鼻内視鏡で観察しながら吻合孔を作製し,涙管チューブを挿入した.結果:全例,出血は少なく,合併症なく吻合孔が作製できた.涙管チューブを平均308±176日留置し,術後平均638±176日経過観察の結果,maxillarylineの後方の骨の薄い部位に吻合孔を作製できた6側中5側は成功した.残りの3側は骨や鼻粘膜が厚く,術後吻合孔が狭窄したため2側はレーザーを追加し1側は成功した.結論:TCLDCRは適応と安全性を検討することでわが国でも有効な術式となると考えられた.Purpose:Transcanalicularlaser-assisteddacryocystorhinostomy(TCLDCR),arecentlyintroducedprocedure,isconsideredaminimallyinvasiveandeffectivetechniquefortreatingnasolacrimalductobstruction.WereporttheuseandpostoperativeresultsofTCLDCRwith980nmdiodelaserin9cases,thefirstinJapan.Methods:Aretrospectivestudyof9consecutiveeyesof9patientswithlacrimalductobstructionthatunderwentTCLDCRbetweenMayandDecemberof2010.Underobservationvianasalendoscopy,laserosteotomywasperformedandsiliconeintubationstentwasplaced.Result:Therewasdiminishedbleedingandnocomplications.Thesiliconestentswereremovedatanaverageof10monthsaftersurgery.Ataverage21-monthfollowup,resultfor5ofthe9patientsweresuccessful.Theosteotomiesofthe5patientswereperformedthroughthethinlacrimalboneandnasalmucosa.Conclusion:TCLDCRisdeemedasafeandeffectiveprocedureasperformedinJapan.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(9):1289.1293,2013〕Keywords:経涙小管,涙.鼻腔吻合術,半導体レーザー,涙管チューブ挿入,鼻内視鏡.transcanalicular,dacryocystorhinostomy,diodelaser,siliconeintubationstent,nasalendoscopy.はじめに大人の特発性鼻涙管閉塞の根治手術である涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)鼻外法では皮膚切開が必要で,また鼻外法でも鼻内法でも涙.や鼻粘膜からの多量の出血,骨窓作製時にドリルやノミを使用するときの振動など侵襲が大きい.そこで,レーザーを使用したDCR鼻内法が報告され1),その後Chiristenburyら2)はアルゴンレーザーのファイバーを涙小管から挿入し,鼻内視鏡で涙.内のレーザー光を確認しながらレーザーを照射して吻合孔を作製する経涙小管レーザー涙.鼻腔吻合術(transcanalicularlaser-assisteddacryocystorhinostomy:TCLDCR)を発表した.当初は従来のDCRと比較して手術成績が悪かったが,その後の報告3.8)では手術成績は改善してきている.わが国でのレーザーを使用したTCLDCRの臨床報告はなく,今回半導体レーザーを使用したTCLDCRの症例を経験したので,手術方法と成績を検討し報告する.I対象および方法1.使用レーザーレーザーはBiolitec社製のEVOLVETM半導体レーザー〔別刷請求先〕宮久保純子:〒371-0044前橋市荒牧町2丁目3-15宮久保眼科Reprintrequests:SumikoMiyakubo,M.D.,MiyakuboEyeClinic,2-3-15Aramaki-machi,Maebashi-shi,Gunma-ken371-0044,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(89)1289 (波長980nm,最大出力15W)を用い,パルスモードで出力8Wの条件で使用した(図1).外径400μmの光ファイバーに21ゲージ(G)の専用の金属カニューラに通し,金属カ図1Diode(半導体)LaserEVOLVETM(Biolitec社製)EVOLVETMは波長980nm,最大出力15Wの半導体レーザーで,外径400μmの光ファイバーを使用し,専用の金属カニューラにファイバーを通し,金属の先端を半導体レーザーの先端と同程度に曲げて使用した.ニューラの先端を涙道内視鏡の先端と同程度に(先端10mmを27°)曲げて使用した.2.対象本手術に先立ち,宮久保眼科倫理委員会にてレーザーの使用についての承認を得,対象患者には文書による手術説明を行い,同意を得たうえで施行した.対象は2010年6月.12月に施行した鼻涙管骨内部閉塞症例の連続した9例9側(男性2例,女性7例,53.78歳,平均年齢69歳)である(表1).全例慢性涙.炎があり,3側は急性涙.炎の既往があった.経過観察期間は手術後347.913日(平均638±176日)である.3.手術方法麻酔は2%塩酸リドカインエピネフリン入りで滑車下神経ブロックと鼻粘膜浸潤麻酔(塩酸リドカインとオキシメタゾリン塩酸塩とを混合),4%点眼用塩酸リドカインにて涙道内麻酔を行った.手術は涙道内視鏡(FiberTech社製)と鼻内視鏡(町田製作所製)の映像をモニターに映し,映像を見ながら行った.シースとして18Gエラスター針の外筒を涙道内視鏡に装着して使用し,涙道内視鏡を上涙小管から鼻涙管閉塞部まで挿入し,シースを残して涙道内視鏡を抜去した.金属カニュ表1鼻涙管閉塞9例9側の経過と結果,照射エネルギーと吻合孔1.吻合孔作製時,骨,鼻粘膜が薄かった症例(吻合孔は鼻堤部より下方でML後方)症例年齢涙.炎合併チューブ留置期間(日)経過観察期間(日)再照射日まで(日)結果初回手術照射(J)初回手術照射(秒)前篩骨洞の介在作製吻合孔(mm)1女性61歳慢性165648成功72393なし2×42女性53歳慢・急性221913成功851110なし3×43女性71歳慢性193477成功1,095144なし2×54男性78歳慢性283489成功712100あり3×65女性77歳慢・急性206689成功904116なし3×46女性70歳慢性385752再閉塞820106なし2×6平均242±110661±52851±49112±163×52.吻合孔作製時,骨は薄いが,鼻粘膜が厚かった(吻合孔は鼻堤部より下方でMLの後方)7男性67歳慢・急性102347再閉塞1,998254あり4×48女性59歳慢性572572103不明不明不明あり2×5平均337±235460±1133×53.吻合孔作製時,骨が厚かった症例(照射部位の骨は厚く,吻合孔は鼻堤部より下方でMLの前後)9女性78歳慢性636859241成功2,266293あり2×4全体平均68歳308±176638±176172±691,171±570159±813×5・成功は流涙症状改善,慢性涙.炎治癒,通水可能,吻合孔ありであった.・第8症例はチューブ抜去後来院なく,結果不明である.・全例で術中・術後出血は少なかった.術後合併症はなかった.・骨,鼻粘膜が薄かった症例の成功率は83%(5/6),全体の成功率は67%(6/9).1290あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013(90) ーラに通した半導体レーザーのファイバーを涙小管に残したシースの中に通して,閉塞部まで挿入した.鼻内視鏡で半導体レーザーの光を確認しながらレーザーを照射して吻合孔を作製した.吻合孔を作製後,N-SチューブTM(カネカメディックス社製)またはPFカテーテルTM(東レ)を挿入し,鼻内ガーゼ挿入は行わず手術を終了した.手術翌日より抗生物質内服5日間,抗生物質点眼4回,ステロイド点眼2回を開始した.術後1週間.1カ月ごとに涙管洗浄,鼻内視鏡検査を中心に経過観察を行った.II結果全例涙.は大きく,術中に鼻涙管閉塞部直上まで挿入した涙道内視鏡の光は,鼻堤部より下方でmaxillaryline(ML)の後方に観察できた.レーザー照射で吻合孔を作製時,レー図2症例4(78歳,男性)の左側:術中の鼻内視鏡写真鼻内視鏡で観察しながら骨窓を作製するとき,最初にレーザーファイバーを鼻腔に穿孔させた.図3症例4(78歳,男性)の左側:術中の鼻内視鏡写真鼻粘膜を溶かすように蒸散し広げてから,薄い骨を蒸散して涙.壁を出し,涙.内腔を上下に開いて吻合孔を作製した.ほとんど出血なく,炭化も少なかった.(吸引管は直径3mm)(91)ザーファイバーの先端を涙.下端あるいは鼻涙管閉塞部から斜め内下方に向け,中鼻道に穿孔させた(図2).その後周囲の鼻粘膜を溶かすように蒸散し広げてから,薄い骨を蒸散した.このとき,鼻粘膜は非接触で溶けるように蒸散し,接触させて照射した場合は,鼻粘膜や涙.粘膜は黒く炭化した.骨は接触した部位が白く光り,骨が白色になって破壊された.できるだけ,涙.壁を出してから,最後に上下に涙.内腔を開き,MLの後方に吻合孔を作製した(図3).照射エネルギーは不明の1側を除き,平均1,171±570J(712.2,266J),照射時間は平均159±81秒(93.293秒)であった(表1).手術時間は平均35分(23.45分)であった.術中術後の鼻内出血は少なく,手術翌日の眼瞼腫脹,皮下出血もほとんどなかった.涙管チューブ抜去時までは,手術翌日,1週間後,その後は2週間.1カ月ごとに,涙管洗浄と涙管チューブについた分泌物を吸引除去した.分泌物は多量に吸引されたが,徐々に減少した.吻合孔作製時,照射部位の骨や鼻粘膜が薄かった6側は,レーザー照射量は平均851±49J(712.1,095J),照射時間は平均112±16秒(93.144秒)で平均3×5mmの吻合孔を鼻堤部より下方でMLの後方に作製できた.涙管チューブを平均242±110日(165.385日)留置し,術後661±52日(477.913日)経過観察して,5側は流涙症状,慢性涙.炎症状は消失し涙管洗浄で通水した.吻合孔は,徐々に縮小したがスリット.小孔(図4)となり固定した.1側は術後385日目に涙管チューブを抜去した後,吻合孔が徐々に収縮し術後752日目に再閉塞した.6側中5側が成功し成功率は83%,残りの1側も,術後752日間は閉塞しなかった(表1).図4症例4(78歳,男性)の左側:術後489日目の鼻内視鏡写真涙管チューブを術後283日目に抜去し,抜去後206日間経過観察したが,流涙症状は改善し,通水も良好で,吻合孔の形はほぼ固定した.あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131291 吻合孔作製時,照射部位の骨は薄かったが,鼻粘膜が厚く,前篩骨洞も介在した2側のうち1側は,レーザー照射量は1,998J,照射時間は254秒で,1側は照射量,時間の詳細が不明だが吻合孔をあけるのに時間がかかった.平均3×5mmの吻合孔を鼻堤部より下方でMLの後方に作製できた.前者は術後102日目にチューブを抜去した後吻合孔が徐々に収縮し,術後347日目に再閉塞した.後者は術後103日目に吻合孔周囲にレーザーを追加して広げ,涙管チューブを2本挿入して術後572日目に抜去したが,その後の受診はない.吻合孔作製時,レーザーを照射できる部に骨の薄い部位がなかった症例9は,照射量が2,266J,照射時間が293秒で,2×4mmの吻合孔を鼻堤部より下方でMLの後方に作製できた.術後241日目に吻合孔周囲にレーザーを追加して広げ,涙管チューブを2本挿入して術後636日目に抜去し,術後859日間経過観察して,吻合孔は徐々に縮小し小孔となって固定した.流涙症状,慢性涙.炎症状は消失し涙管洗浄で通水した.全体では,1回目の手術で成功したのは9側中5側で成功率は56%,追加のレーザーも含め成功したのは9側中6側(1側は結果不明)で成功率は67%であった.骨と鼻粘膜が薄かった6側だけでみると成功率は83%(5/6)であった(表1).III考按初めTCLDCRに使用されたレーザーは,アルゴンレーザーやKTPレーザー,Nd:YAGなどいろいろな報告2,3,5)があったが,最近の報告では半導体レーザーによる手術5.7,10)が主流となった.わが国では,Nariokaら8)が半導体レーザーを使用して,DCR鼻外法の再閉塞例にTCLDCRを行ったと報告しているが,初回手術としての臨床報告はない.筆者の一人森寺は,以前9)今回使用したものと同じBiolitec社製のEVOLVETM半導体レーザー(波長980nm,最大出力15W)を使い,遺体にDCRの骨窓を短時間で作製できたと報告している.そのなかで森寺らは,通常のDCRと同様に,パルスモードの10Wでレーザー照射し平均19.4±8.2秒でレーザーファイバーを鼻腔に穿孔させ,全体で平均74.6±19.2秒で骨窓を完成できたが,骨の厚さによりばらつきがあり,直のファイバーを使用したことにより孔をあける位置をコントロールできなかったと述べている.今回,ファイバーの太さが400μmとやや細いが,先端を適宜曲げた金属カニューラを使用することで,ファイバー先端の向きのコントロールができた.そこで,吻合孔作製の位置を鼻涙管骨内部閉塞の直上で,できるだけMLの後方の骨が紙状に薄い部位に作製することを試みた.しかし,骨と1292あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013涙道の位置は個人差があり,下方でMLの後方で骨が薄く,鼻粘膜も薄い部位を蒸散して吻合孔を作製できたものは6側で,残り2側の骨は薄かったが鼻粘膜が厚く,1側は骨の薄い部位を照射できずMLの前後の厚い骨を蒸散しなければならなかった.骨が薄く,照射量の平均が851J,照射時間の平均が112秒と簡単に吻合孔を作製できた6症例中5症例は1回の手術で成功した.一方,照射量が2,000J前後で照射時間250秒以上と,手術時の吻合孔作製に時間がかかった7.9症例は吻合孔の狭窄が強く,1側は術後347日目に再閉塞し,残りの2側はチューブ留置中に再照射して吻合孔を大きくしてからも長期間チューブを留置した.このうちの1側は経過良好だが,1側は抜去後来院せず結果は不明である.この2つのグループを比較すると,骨も鼻粘膜も薄く,少ないレーザー照射で吻合孔をあけられた症例の手術成績が良いことがわかる.6側中5側(83%)が成功し,骨や鼻粘膜が厚く2,000J近く照射した症例は閉塞したり,再照射している.Rieraら6),Hensonら7),Nuhogluら10)も涙骨の薄い骨を削ると述べている.しかし,骨の薄い部位が中鼻甲介の後方であったり,篩骨蜂巣が介在したりと簡単にはレーザーで吻合孔を作れない症例もある.今回筆者らは骨の薄い部位をレーザー照射できず厚い部位に吻合孔を作製したり,厚い鼻粘膜を照射したが,これらの結果は良好とはいえず,TCLDCTの適応ではないか,何回かに分けて照射することを前提に施行する必要があると考えられた.栗橋11)は無理せずドリルやメスなど他の方法を加えながら手術することを勧めている.筆者らの骨の薄い部位とはHensonら7),Nuhogluら10)の涙.窩の骨ではなく,さらに下方をさしている.レーザーを照射したとき,鼻粘膜は非接触で溶けるように蒸散させたが,骨はファイバーの先端を接触させて照射し,骨は白く光り,白色になって破壊された.接触させて照射した鼻粘膜や涙.粘膜は黒く炭化した.これらは,かなり高温になったと考えられた.高温になると周囲組織への障害が問題となるが,特に総涙小管や涙小管水平部組織が閉塞する合併症が問題となる7,11).総涙小管の近くで,高温となる骨,特に厚い骨を照射して削ることは勧められない.そこで,総涙小管から遠い下方の骨の薄い部位,鼻涙管骨内部閉塞部位の照射がより安全と考えた.涙.の左右径は非常に狭いことが多く,盲目的に照射すると総涙小管を熱する危険がある.そこで,レーザーファイバーをまず鼻腔に穿孔させ,鼻粘膜,つぎに薄い骨を蒸散して涙.や鼻涙管壁を出し,涙.は直視下に照射するほうがより安全と考えた.筆者らの方法は,涙小管閉塞などの周囲組織への合併症はなく,より安全な方法と言える.金属カニューラを用いた場合,レーザーファイバーが金属(92) カニューラより5mm以上出ていることが重要で,出ていないと金属カニューラが高温となり,涙小管を焼いてしまうので特に注意が必要である6).つぎに,吻合孔の大きさについてみると,Hensonら7)は8.10mm,Plazaら5)は4×4mm,Nuhogluら10)は11mm以上の大きな吻合孔を作製すると報告している.最終的な吻合孔の大きさが3mm以上であれば再閉塞しないと述べ5),Nuhogluら10)は大きな吻合孔ほど成功率は良いと述べている.筆者らの骨が薄い症例で吻合孔が閉塞した1側は術後752日(約25カ月)と長期間徐々に縮小して閉塞した.成功例の吻合孔の平均は約3×5mmで,平均約21カ月経過観察して最終的に3mm以下の吻合孔となって固定しているが,今後再閉塞する可能性は否定できない.DCR鼻外法の吻合孔は術後3カ月以内にほぼ固定することから12),レーザーによって作製された吻合孔は切開などとは違う反応を示したと考えられる.吻合孔の大きさ,照射エネルギー量,照射方法,最近報告されている吻合孔の収縮予防のためマイトマイシンCの使用6,7),など今後検討する必要があるだろう.TCLDCRの涙管チューブ留置期間の報告はさまざまで,2カ月から4カ月の報告が多い4.7,10).今回,筆者らは全体で平均308±176日(102.636日)と長期の留置を行った.それは,術後鼻内視鏡で吻合孔を観察すると,レーザー照射後の吻合孔が長期間徐々に収縮したこと,吻合孔がDCR鼻外法や鼻内法より小さめになったことからである.留置期間の最も短かった症例7は術後102日目に抜去したが,その後吻合孔は徐々に縮小して閉塞した.このことから,今回同様3×5mm程度の吻合孔の大きさでは,状態を観察しながら抜去時期を検討し,4.6カ月以上留置することが勧められる.また,2本のチューブを留置することも一つの方法である.術中の出血は照射によりほぼ止血したため,術中も術後も出血は軽微で,術直後止血のための鼻ガーゼを挿入する必要もなかった(図4).980nmの波長は水とヘモグロビンに吸収される波長で,粘膜・骨組織の切開や出血の凝固・止血に適するという利点がある6).多量の出血をさせないで手術できることはTCLDCRの利点の一つであり,出血傾向のある症例も手術が可能と考えられる.TCLDCRは,皮膚切開の必要がなく,のみやドリルの振動がなく,出血も少ない侵襲の少ない術式である.一方,DCR鼻外法や鼻内法に比較して手術成績が劣り,吻合孔が安定するのに時間がかかり,涙小管閉塞という重篤な合併症を生じる危険があることなどの欠点もある.今後の検討課題は多いが,低侵襲の有用なDCRの一方法となるだろうと期待できる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MassaroBM,GonnerringRS,HarrisGJ:Endonasallacrimalductobstruction.ArchOphthalmol108:1172-1176,19902)ChristenburyJD,CharlotteNC:Transcanalicularlaserdacryocystorhinostomy.ArchOphthalmol110:170-171,19923)PiatonJM,LimonS,OunnasNetal:Endodacryocystorhinostomietranscanaliculaireaulaserneodymium:YAG.JFrOphtalmol17:555-567,19944)HongJE,HattonMP,LeibMLetal:Endocanalicularlaserdacryocystorhinostomyanalysisof118consecutivesurgeries.Ophthalmology112:1629-1633,20055)PlazaG,BetereF,NogueiraA:Transcanaliculardacryocystorhinostomywithdiodelaser:long-termresults.OphthalPlastReconstrSurg23:179-182,20076)RieraJM,FabresMTS:Trans-canaliculardiodelaserdacryocystorhinostomy:technicalvariationsandresults.ActaOtorrinolaringolEsp58:10-15,20077)HensonRD,HensonRG,CruzHLetal:UseofthediodelaserwithintraoperativemitomycinCinendocanalicularlaserdacryocystorhinostomy.OphthalPlastReconstrSurg23:134-137,20078)NariokaJ,OhashiY:Transcanalicular-endonasalsemiconductordiodelaser-assistedrevisionsurgeryforfaildedexternaldacryocystorhinostomy.AmJOphthalmol146:60-68,20089)森寺威之,栗橋克昭:新しい半導体レーザーを用いた経涙小管的涙.鼻腔吻合術.眼科手術23:483-486,201010)NuhogluF,GurbuzB,EltutarK:Long-termoutcomesaftertranscanalicularlaserdacryocystorhinostomy.ActaOtorhinolaryngolItal32:258-262,201211)栗橋克昭:DCR涙小管法(中鼻道法).涙.鼻腔吻合術と眼瞼下垂手術,I涙.鼻腔吻合術,p50-53,メディカル葵出版,200812)宮久保純子,宮久保寛:涙.鼻腔吻合術鼻外法術後の吻合孔の内視鏡所見.臨眼53:1237-1241,1999***(93)あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131293