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治療が奏効したNK/T 細胞性眼内リンパ腫の症例

2023年6月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科40(6):832.837,2023c治療が奏効したNK/T細胞性眼内リンパ腫の症例南出みのり*1,2永田健児*1富永千晶*1北野ひかる*1,3山下耀平*1,4青木崇倫*1伴由利子*1,5外園千恵*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2京都市立病院眼科*3バプテスト眼科クリニック*4久美浜病院眼科*5京都中部総合医療センター眼科CTwoCasesofIntraocularNaturalKiller/T-cellLymphomathatWereSuccessfullyTreatedMinoriMinamide1,2),KenjiNagata1),ChiakiTominaga1),HikaruKitano1,3),YoheiYamashita1,4),TakanoriAoki1),YurikoBan1,5)andChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)CHospital,3)DepartmentofOphthalmology,BaptistEyeInstitute,4)CDepartmentofOphthalmology,KyotoCity5)DepartmentofOphthalmology,KyotoChubuMedicalCenterCDepartmentofOphthalmology,KumihamaHospital,眼内リンパ腫の多くはCB細胞性であり,NK/T細胞性の報告は少ない.今回,治療が奏効したCNK/T細胞性眼内リンパ腫の患者を経験した.症例C1はC58歳,女性.既往歴に節外性CNK/T細胞性リンパ腫(ENKL)があった.左眼の充血で眼科を受診し,視力は光覚弁,眼圧はC32CmmHgであった.結膜充血と結膜隆起性病変,前房蓄膿,虹彩腫瘤,硝子体混濁,眼窩病変を認めた.結膜生検でCENKLと診断し,局所放射線療法後,眼病変は軽快した.症例C2はC75歳,女性.ぶどう膜炎に伴う続発緑内障としてC1年間加療されたが,眼圧コントロール不良で京都府立医科大学病院に紹介となった.初診のC2カ月後,右眼硝子体混濁が急激に増悪し,硝子体生検でCENKLと診断した.メトトレキサート硝子体注射(IVMTX),局所放射線療法,全身化学療法後,網膜病巣は瘢痕化し眼外病変の出現なく経過した.本症例はB細胞性より程度が激しい眼所見を呈し,IVMTXや局所放射線療法により病変の制御ができた.早期診断や治療法確立には症例の集積が必要である.CBackground:MostintraocularlymphomacasesareB-celllymphoma.WereporttwocasesofintraocularNK/CT-celllymphomathatweresuccessfullytreated.Casereports:Case1involveda58-year-oldwomanwithahis-toryofextranodalNK/T-celllymphoma(ENKL).Hervisualacuitywassenseoflightandherintraocularpressurewas32CmmHg.Conjunctivallesions,hypopyon,irismass,vitreousopacity,andorbitallesionswereobservedinherlefteye.AconjunctivalbiopsyrevealedthepresenceofENKL.Theocularlesionsresolvedafterirradiation.Case2involvedCaC75-year-oldCwomanCreferredCtoCourChospitalCwithCpoorlyCcontrolledCintraocularCpressureCafterCbeingCtreatedforsecondaryglaucoma.Twomonthslater,arapidlyworseningvitreousopacitywasobservedinherrighteye.CSheCwasCdiagnosedCwithCENKLCbyCvitreousCbiopsy.CAfterCintravitrealmethotrexate(MTX)injection,Cirradia-tion,andsystemicchemotherapy,theretinallesionsbecamescarred.Conclusions:TheintraocularNK/T-celllym-phomacasesinthisstudypresentedwithmoreintenseocular.ndingsthanB-celllymphoma,andthelesionswerecontrolledbyintravitrealMTXinjectionandirradiation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(6):832.837,C2023〕Keywords:眼内リンパ腫,節外性CNK/T細胞リンパ腫・鼻型,ENKL,虹彩腫瘤.intraocularlymphoma,extra-nodalNK/T-celllymphoma,nasaltype,ENKL,irismass.Cはじめに悪性リンパ腫もある.約C60.90%の症例で発症数年以内に眼内リンパ腫は,中枢神経系原発悪性リンパ腫に含まれる生命予後に直結する中枢神経系病変を発症し,5年生存率は疾患である.まれに中枢神経系以外の臓器原発の転移性眼内約C60%の予後不良な疾患である1).組織型のほとんどは非〔別刷請求先〕永田健児:〒602-8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:KenjiNagata,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kawara-machiHirokojiagaruKajii-cho,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPANC832(120)Hodgkinリンパ腫かつ,びまん性大細胞型CB細胞リンパ腫である.CNaturalkiller(NK)/T細胞性眼内リンパ腫のほとんどが節外性CNK/T細胞リンパ腫・鼻型(extranodalCNK/T-celllymphoma:ENKL)という病型のものである.中枢神経系原発悪性リンパ腫のC2.3%を占めるまれな疾患で,CEpstein-Barrvirus(EBV)が関連すると報告されている2,3).予後は非常に悪く,眼病変や中枢神経系病変をきたした例の生存期間中央値はC13.9カ月からC17カ月と報告されている3.5).NK/T細胞性眼内リンパ腫の報告は少なく,眼病変の特徴や治療反応性といった情報の蓄積が必要である.今回,治療が奏効したCNK/T細胞性眼内リンパ腫の症例を経験したので報告する.なお,症例C2はCNK細胞リンパ腫の集学的治療が奏効したきわめてまれな症例として,寛解後C40カ月の時点で再発がないことを過去に報告しており,今回眼所見の特徴と長期経過について報告する6).CI症例[症例1]58歳,女性.既往歴:2019年C12月,左眼の充血を認め,眼科を受診した.原因検索目的に撮像した頭部磁気共鳴画像撮影法(mag-neticCresonanceimaging:MRI)で,篩骨洞病変を認め,生検の結果,ENKLと診断された.2020年C6月から全身化学療法(SMILE療法:steroid,Cmethotrexate,Cifosfamide,L-asparaginase,Cetoposide),自家造血幹細胞移植,同種造血幹細胞移植を施行されたが,2021年C6月に髄液検査で再発を認め,全身化学療法の適応外と判断され,2週間にC1度の髄腔内抗癌剤投与(AraC療法:Cytarabine+DEX:dexamethasone)で加療されていた.現病歴:2021年C9月頃に左眼の結膜充血を内科医に指摘され,前医を受診した.左眼の視力は光覚弁,眼圧はC32mmHgと上昇していた.左眼に前房内炎症,多数の角膜後面沈着物,虹彩後癒着および硝子体混濁を認め,眼内リンパ腫疑いで精査,加療目的に京都府立医科大学病院(以下,当院)へ紹介となった.初診時所見:視力は右眼がC0.8(n.c.),左眼が光覚弁,眼圧は右眼がC10CmmHg,左眼がC24CmmHgであった.左眼の5時.10時方向の結膜にサーモンピンク色の隆起性病変を認めた.角膜には多数の小型の角膜後面沈着物を認め,下方の前房は消失していた.また,左眼の眼底は硝子体混濁により透見不良であった.右眼は前眼部,眼底ともに異常所見を認めなかった.全身検査所見:血液検査では,可溶性Cinterleukin(IL)C-2受容体(sIL-2R)がC1,710CU/mlと上昇を認めた.当院受診のC1カ月前に前医で施行された頭部CMRIでは,以前より指摘のある白質病変以外の新規病変を認めなかった.陽電子放出断層撮影(positronCemissionCtomography-computedtomography:PET-CT)で左眼の眼球後方に軟部影の増生および異常集積を認め(図1a),超音波CBモードでも同部位に病変が確認された(図1b).臨床経過:他院の血液内科に定期的に入院のうえ,治療されていたため,今後の方針を協議し,1週間後の再診とした.再診時には,左眼の虹彩膨隆および前房蓄膿を認め,周辺部の前房は消失していた(図1c).前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)でも虹彩膨隆が確認された(図1d).診断のため,結膜生検を施行した.ヘマトキシリン・エオジン染色では核異型のある小型から中型のリンパ球を認め(図2a),免疫染色では異型を示す中型リンパ球がCD56(図2b)で陽性を示し,inCsituhybridizationにてCEpstein-BarrCencodingregion陽性(図2c)を示した.フローサイトメトリーでもCCD56陽性の細胞を認めた(図2d).以上より,ENKL再発の診断となった.全身状態不良のため,治療は眼病変に対する局所放射線療法(50CGy/25CFr)のみの方針とした.定位放射線療法開始後,12日目頃から結膜病変や虹彩膨隆が著明に改善し(図3),23日目には眼圧もC11CmmHgと下降した.成熟白内障となり手術も計画したが,初診時よりC5カ月後に誤嚥性肺炎のため,眼科への通院が困難となり,最終視力は光覚弁であった.[症例2]75歳,女性.既往歴:高血圧,脳梗塞,甲状腺癌.現病歴:2016年C2月に両眼の角膜後面沈着物および左眼の眼圧上昇を認め,ぶどう膜炎に伴う続発緑内障としてC1年間加療されたが,眼圧コントロール不良のため当院へ紹介となった.初診時所見:視力は右眼0.3(0.5C×sph+1.5D(cyl.1.75DAx90°),左眼C0.3(0.6C×sph+1.0D(cyl.1.50DAx80°),眼圧は右眼がC14CmmHg,左眼C35CmmHgであった.右眼優位にやや小型の角膜後面沈着物を認めた.全身検査所見:可溶性CIL-2受容体はC797CU/mlと軽度上昇を認め,その他には特記すべき所見はなかった.臨床経過(図4):2カ月後の再診時に,右眼の視力がC0.01と低下し,小型で白色の角膜後面沈着物およびびまん性の強い硝子体混濁を認め,眼底は透見不能であった.眼内リンパ腫を疑い,右眼の硝子体生検を施行した.術中にびまん性の強い硝子体混濁(図4a),網膜内および網膜下病巣が確認された.細胞診はCClassIVで,フローサイトメトリーではCNK細胞の増生を認めた.免疫グロブリン重鎖遺伝子再構成は陰性で,IL-10はC30Cpg/ml,IL-6はC2,330Cpg/ml,感染性ぶどう膜炎病原体核酸同時検出キットによるCpolymeraseCchainreaction(PCR)検査ではCEBV陽性(Ct:24.54)であった.以上より,NK/T細胞性眼内リンパ腫と診断した.骨髄検査や髄液検査では異常細胞を認めなかった.頭部CMRIでは中図1治療前の眼所見(症例1)a:PET-CTで左眼の眼球後方に軟部影の増生および異常集積を認めた.Cb:超音波CBモードで左眼の眼球後方に病変を認めた.Cc:左眼に虹彩膨隆および前房蓄膿を認めた.周辺部の前房は消失していた.Cd:前眼部OCTで左眼の虹彩膨隆を認めた.図2結膜生検の結果(症例1)a:切除された結膜の病理組織所見(ヘマトキシリン・エオジン染色).線維性結合組織内に核異形を示す小型から中型のリンパ球の浸潤を認めた.Cb:免疫組織化学染色ではCCD56陽性を示した.Cc:免疫組織化学染色ではCEBER陽性を示した.Cd:フローサイトメトリーでCCD56陽性の細胞を認めた.枢神経系や眼窩の病変はなく,PET-CTで悪性リンパ腫を回施行後,局所放射線療法(50CGy/25CFr)を行った.その後,疑う異常集積はなく,ENKLと判断した.右眼にメトトレキ中枢神経および全身からの再発予防を目的とした化学療法サートの硝子体注射(intravitrealCmethotrexateinjection:(SMILE療法)をC2クール施行した.網膜下病巣は瘢痕化しIVMTX)をC400Cμg/0.1Cml/回,1週間にC1回の投与間隔でC4(図4d),初診よりC6年経過後も,再発なく経過した.図3局所放射線療法開始後の前眼部所見の経過(症例1)a:定位放射線療法開始後C5日目.Cb:定位放射線療法開始後C12日目.結膜病変,虹彩膨隆の改善を認めた.Cc:定位放射線療法開始後C23日目.図4右眼の眼底所見の経過(症例2)a:術中所見.びまん性の強い硝子体混濁を認めた.Cb:硝子体手術C20日後.鼻上側に網膜浸潤を認めた.Cc:IVMTX施行C7日後.網膜浸潤の縮小を認めた.Cd:治療開始C4年半後.網膜病変の瘢痕化を認めた.CII考按め,硝子体生検でCENKLと診断した.IVMTX,局所放射線療法,化学療法を施行し,治療後C6年間寛解を維持した.症例C1は,ENKLの既往があり,髄腔内抗癌剤投与で加療ENKLは,アジアおよび南米に好発する7)進行の早い悪性中に片眼の結膜病変,虹彩膨隆,前房蓄膿,眼窩内病変を認新生物であり,致死率の高い疾患である2,8).ENKLによるめた.結膜生検によりCENKLと診断し,局所放射線療法を眼内リンパ腫は非常にまれであるため,本疾患の報告は少な行った.治療への反応は良好で前眼部の病変は消退し,眼圧く,眼所見の特徴や治療効果については明らかではない.は正常範囲内へ下降したが,視機能の改善には至らなかった.Pubmedを用いた検索によって,NK/T細胞性眼内リンパ症例C2は,片眼にびまん性の強い硝子体混濁と網膜浸潤を認腫の症例報告を表1に示す.一般的に,B細胞性眼内リンパ表1過去に報告されたNK/T細胞性眼内リンパ腫年齢性別初見局所治療全身治療転帰文献番号C36男硝子体混濁,視神経乳頭浮腫,網膜血管周囲浸潤,なし化学療法,寛解C9C脈絡膜浸潤,右内直筋肥厚髄腔内抗癌剤投与38男虹彩膨隆局所放射線療法なし寛解C10C51男漿液性網膜.離,眼瞼下垂なし化学療法不明C11C53男前房炎症,虹彩結節なし化学療法初診からC3カ月後,多臓器不12C全のため死亡C55男前房炎症,角膜後面沈着物,前房蓄膿,網膜浸潤局所放射線療法髄腔内抗癌剤投与治療からC2カ月後,腎不全の13Cため死亡C65男虹彩膨隆,硝子体混濁なしなし.筋への腫瘍浸潤のため全身14C状態が悪化C86男硝子体混濁なしなし外傷性頭蓋内出血のため死亡C15C43女虹彩結節,前房蓄膿なし化学療法初診からC2年後,敗血症のた16Cめ死亡C50女硝子体混濁,網膜浸潤IVMTX,局所放射線療法化学療法寛解C17C50女硝子体混濁,漿液性網膜.離,脈絡膜浸潤なし化学療法,初診からC1カ月後,多臓器不18Cステロイド内服全のため死亡C54女硝子体混濁,網膜・脈絡膜浸潤,漿液性網膜.離なし化学療法治療からC4カ月後,肝不全・19C腎不全のため死亡C55女結膜充血,前房炎症,硝子体混濁,漿液性網膜.離,なし化学療法初診からC1カ月後,多臓器不20C眼窩周囲発.全のため死亡C57女結膜充血,硝子体混濁,虹彩結節,眼瞼下垂,IVTA,局所放射線療法化学療法診断からC3カ月後,敗血症の21C眼球運動制限,瞳孔散大ため死亡C63女角膜後面沈着物,硝子体混濁,血管周囲漏出CIVMTX髄腔内抗癌剤投与寛解C22C66女結膜充血,硝子体混濁,網膜浸潤IVMTX,局所放射線療法化学療法不明C23C73女結膜充血,角膜後面沈着物,右眼窩病変局所放射線療法化学療法,寛解C24髄腔内抗癌剤投与右眼の治療C10カ月後,左眼に角膜後面沈着物,(再発後)CIVMTX(再発後)化学療法寛解硝子体混濁腫では,硝子体混濁を示す症例がもっとも多く,網膜下病巣や,前房内細胞,角膜後面沈着物を認めることはあるが虹彩の病変はまれで,わが国で行われた眼内リンパ腫C217例の多施設調査では虹彩膨隆はC1例もない1).一方,NK/T細胞性眼内リンパ腫では,虹彩結節や虹彩膨隆,前房蓄膿など虹彩に関連した病変が報告されている10,12.14,16,21).また,眼窩の病変9,24)や網膜浸潤13,19,23),脈絡膜浸潤9,18,19)などいずれもB細胞性眼内リンパ腫と比較して組織への侵襲が強い病変が報告されている.本症例でも,過去の報告と同様に眼窩の病変をきたし,高度の硝子体混濁や虹彩病変,前房蓄膿などCB細胞性眼内リンパ腫と比較して程度の激しい眼所見を呈した.ENKLは鼻腔内に病変をきたすことが多く,直接浸潤によって眼窩病変をきたす.虹彩病変や網膜浸潤,脈絡膜浸潤に関しては,網膜血管周囲浸潤や蛍光造影検査での血管周囲漏出など血管の反応性を示す報告もあり9,22),血管を介して眼内に病変が出現する可能性が考えられる.造血器腫瘍診療ガイドラインでは,鼻腔周辺原発で病変が頸部リンパ節を超えて広がっている場合,鼻腔など上気道以外での発生例,初回治療後再発または部分奏効以下のENKLに対しては,SMILE療法を行うことが推奨されている.症例C1はCSMILE療法後に生じた眼内病変であったが,症例C2は原発性眼内リンパ腫であり,ガイドラインに準じてSMILE療法を選択した.B細胞性眼内リンパ腫に対する局所治療としてはCIVMTXが有効とする報告があり25,26),脳腫瘍診療ガイドラインでも推奨されている.NK/T細胞性眼内リンパ腫の治療は報告によってさまざまであるが,多臓器不全などのために死亡に至った症例が多くみられた12,13,18.20).一方で,化学療法と局所放射線療法やCIVMTXを組み合わせて寛解が得られた症例が散見される10,17,22,24).本症例でも,IVMTXや局所放射線療法が有効であった.NK/T細胞性リンパ腫はCEBVが関連するとされている2,3).過去の報告ではCNK/T細胞性眼内リンパ腫においても,前房水や硝子体からCEBVが検出されている12.14,16,18,19,23).今回のC2症例とも結膜生検,硝子体生検によりCEBVの存在が確認されており,眼病変に関してもCEBVが関与すると考えられた.原発性CNK/T細胞性眼内リンパ腫は過去にC4例報告されている15,17,18,23).寛解を維持したという報告17)や多臓器不全で死亡したという報告18)があり,転帰はさまざまである.症例C2は眼内に限局する原発性眼内リンパ腫であり,長期にわたり寛解を維持したが,眼内に限局する場合でも経過中に中枢神経系への浸潤や転移をきたし生命予後にかかわる可能性があるため,注意が必要である.本症例と過去の症例報告から,NK/T細胞性眼内リンパ腫は眼内と眼窩内の両方に病変が出現したり,虹彩膨隆,高度の硝子体混濁など,B細胞性眼内リンパ腫よりも高度の眼病変を示すことが多い.一般的には眼内リンパ腫を疑って硝子体生検を行う場合は,B細胞性リンパ腫に対する検査であるCIL-10や免疫グロブリン重鎖の遺伝子再構成,フローサイトメトリーでの免疫グロブリン軽鎖のCkappa鎖とClambda鎖の発現の偏りなどを検討するが,NK/T細胞リンパ腫ではこれらは陰性となる.したがって,虹彩の所見や網膜・脈絡膜の病変が高度の場合はCNK/T細胞リンパ腫を考慮した結果の解釈と,CD56やCEBVの検討などを用いた検査の追加が必要である.IVMTXや放射線療法で局所の病変の制御はできたが,早期診断や治療法の確立にはさらなる症例の集積が必要である.文献1)KimuraK,UsuiY,GotoH:Clinicalfeaturesanddiagnos-ticCsigni.canceCofCtheCintraocularC.uidCofC217CpatientsCwithCintraocularClymphoma.CJpnCJCOphthalmolC56:383-389,C20122)WoogCJJ,CKimCYD,CYeattsCRPCetal:NaturalCkiller/T-cellClymphomawithocularandadnexalinvolvement.Ophthal-mologyC113:140-147,C20063)YangCY,CLuoCQ,CHeCWCetal:PrimaryCocularCnaturalCkill-er/T-celllymphomas:clinicopathologicfeaturesanddiag-nosis.OphthalmologicaC221:173-179,C20074)LiX,YuH,FuXetal:ClinicalanalysisofpatientswithprimaryCandCsecondaryCextranodalCnaturalCkiller/T-cellClymphomaofcentralnervoussystem.HematolOncolC41:C267-274,C20215)ElyA,EvansJ,SundstromJMetal:OrbitalinvolvementinextranodalnaturalkillerTcelllymphoma:anatypicalcasepresentationandreviewoftheliterature.OrbitC31:C267-269,C20126)Takimoto-ShimomuraT,ShimuraY,NagataKetal:Pri-maryintraocularnaturalkiller-celllymphomasuccessfullytreatedCusingCaCmultidisciplinaryCstrategy.CAnnCHematolC98:2617-2619,C20197)KwongYL:NaturalCkiller-cellmalignancies:diagnosisCandtreatment.LeukemiaC19:2186-2194,C20058)ChanCJK,CSinCVC,CWongCKFCetal:NonnasalClymphomaCexpressingthenaturalkillercellmarkerCD56:aclinico-pathologicCstudyCofC49CcasesCofCanCuncommonCaggress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眼窩に生じた節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型の2症例

2014年3月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科31(3):459.463,2014c眼窩に生じた節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型の2症例濱岡祥子*1高比良雅之*1杉森尚美*2中野愛*3杉山和久*1*1金沢大学附属病院眼科*2金沢大学附属病院血液内科*3福井県済生会病院眼科TwoCasesofExtranodalNK/T-CellLymphoma,NasalTypeintheOrbitShokoHamaoka1),MasayukiTakahira1),NaomiSugimori2),AiNakano3)andKazuhisaSugiyama1)1)DepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,2)DepartmentofClinicalLaboratoryScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,3)DepartmentofOphthalmology,Fukui-kenSaiseikaiHospital眼窩病変が初発症状であった節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型の2症例を報告する.症例は69歳と46歳の女性で,両者ともに右眼眼瞼皮下の腫瘍がみられ,眼瞼下垂を伴い,生検にて節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型と診断された.69歳,女性の病期はIAEであり,DeVIC化学療法と放射線外照射にて原発巣は縮小した.しかし骨髄浸潤をきたし,初診時から約5カ月後に死亡した.46歳,女性には,乳癌と脳転移の既往があった.診断時リンパ腫の病期はIIEであり,DeVIC療法と放射線外照射で一旦は改善した.しかし,間もなく後腹膜などへ多発転移し,初診より5カ月後に死亡した.本症の生命予後は概して不良であり,局所限局期の速やかな病理診断と放射線化学療法の導入が重要である.癌の既往がある症例に眼窩腫瘤をみる場合には,重複癌としての本症の可能性も考慮すべきである.WereporttwocasesofextranodalNK/T-celllymphoma,nasaltype,whichdevelopedintheorbitalregion.Thepatients,69-and46-year-oldfemales,presentedwithunilateralblepharoptosisoriginatingfromorbitaltumor,pathologicallydiagnosedasextranodalNK/T-celllymphoma,nasaltype.The69-year-oldpatient,withstagingofIAE,underwentchemotherapyandirradiation.However,bone-marrowinvasionwasdetected;shediedwithatotalclinicalcourseof5months.The46-year-oldpatienthadahistoryofbreastcancer.WithaclinicalstagingofIIEforthelymphoma,sheunderwentchemotherapyandirradiation.However,multiplemetastasesdevelopedbeforelong,andshedied5monthsafterthediagnosisofthislymphoma.Sincetheprognosisofthislymphomaisessentiallypoor,immediatediagnosisandtherapyinitiationisessential.Whenorbitalmetastasisissuspectedinapatientwithotherprimarycancer,extranodalNK/T-celllymphoma,nasaltype,asmultipleprimarycancer,shouldalsobeconsidered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(3):459.463,2014〕Keywords:節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型,リンパ腫,眼窩腫瘍,Epstein-Barrウィルス,重複癌.extranodalNK/T-celllymphomanasaltype,lymphoma,orbitaltumor,Epstein-Barrvirus,multipleprimarycancer.はじめに眼窩に生じる腫瘤病変のうち,リンパ増殖性疾患,すなわちリンパ腫(すべて悪性腫瘍)と,良性である反応性リンパ過形成,偽腫瘍とよばれる病態の占める頻度は高い1).日本では,眼窩腫瘍とその類縁疾患におけるリンパ増殖性疾患が占める頻度は,409症例のうち43%1),1,334症例のうち38%2),213症例のうち49%3)などと報告されている.眼窩に発症するリンパ腫のうち最も頻度の高いものはMALTリンパ腫(extranodalmarginalzonelymphomaofmucosa-associatedlymphoid-tissuetype)であり1),ついで,びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(diffuselargeBcelllymphoma:DLBCL),濾胞性リンパ腫(follicularlymphoma)などが挙げられる.他のリンパ腫は稀であるが,近年,眼窩に原発する節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型の報告が散見される4).節外性NK/Tリンパ腫は,一般に病期が進むと予後は不良であり5.7),速やかな診断と治療への導入が必要である.筆者らは近年,眼窩病変が初発であった節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型の2症例を経験したので報告する.なお,本〔別刷請求先〕濱岡祥子:〒920-8641金沢市宝町13-1金沢大学附属病院眼科Reprintrequests:ShokoHamaoka,DepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversityHospital,13-1Takara-machi,Kanazawashi920-8641,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(155)459 研究は金沢大学臨床試験審査委員会の承認を得ている.I症例〔症例1〕69歳,女性.主訴:右眼瞼下垂,腫脹.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.現病歴:3カ月ほどで急速に進行した右眼瞼腫脹と高眼圧症にて,紹介により2010年11月に金沢大学附属病院を受診した.当院初診時所見:視力は右眼0.5(矯正不能),左眼1.2(矯正不能).眼圧は右眼42mmHg,左眼15mmHg.前眼部,中間透光体,眼底には特記所見はなかった.右上眼瞼には著しい腫脹がみられた(図1a,b).CT検査を施行したところ右眼の眼球結膜から眼球前方成分に高吸収な腫瘤影あり,前後の腫瘤間に遊離気体も認め,眼球結膜と眼瞼結膜主体の腫瘤と考えられ,リンパ腫が疑われた.前医でのMRI(磁気共鳴画像)では右眼球周囲に腫瘤を認め,特に眼球前方の腫瘤がT2強調画像で高信号を示し,内直筋,外直筋,涙腺にも浸潤の可能性が疑われ,ここでもリンパ腫が疑われた(図1c).当院初診日に生検を行い,高眼圧の管理目的で同日に入院となった.血液化学的検査では特記すべき異常はなく,体幹部CTならびにガリウムシンチグラフィーでは,右眼窩病変以外の病変はみられなかった.病理所見と診断:HE染色では中型から大型の核形不整を示す異型細胞集団がみられ,核分裂像が散見された.濾胞形成は明らかではなかった(図1d,e).免疫染色では,CD3,図1症例1(69歳,女性)の臨床所見a:初診時には右眼瞼の著しい腫脹と眼瞼下垂がみられた.b:初診時,結膜下にも腫瘍がみられた.c:MRI(T1強調画像)にて,右眼球周囲に腫瘤がみられ,内直筋,外直筋,涙腺への浸潤が疑われた.d:生検検体のHE染色弱拡大像.中型から大型の核形不整を示す異型細胞集団がみられた.濾胞形成は明らかではなかった.スケールバーは500μm.e:HE染色強拡大像.核分裂像が散見された.スケールバーは100μm.f:CD56免疫染色では陰性であった.スケールバーは100μm.g:EBV-encodedRNA(insituハイブリダイゼーション法)は陽性であった.スケールバーは100μm.460あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(156) 表1節外性NK/Tリンパ腫(鼻型)の診断上重要な病理組織学的所見病理組織所見腫瘍細胞は中-大型でびまん性に浸潤.凝固壊死を伴い,異型の強い.細胞が血管中心性・破壊性に増殖している症例が多い.表面マーカーNK細胞性:細胞質CD3陽性,細胞表面CD3陰性,CD56陽性.T細胞性:細胞質CD3陽性,細胞表面CD3陽性,CD56陰性.NK/T細胞性:細胞傷害性分子(perforin,granzymeB,TIA-1)陽性.EBER(insituハイブリダイゼーション)腫瘍細胞に陽性.CD43,TIA-1,TCR-b,granzymeBは陽性であった.一方,CD5,CD10,CD20,CD23,CD79a,bcl-6,MUM1,CD56,CD30,ALKは陰性であった.Insituハイブリダイゼーション法によるEpstein-Barrvirus-encodedRNA(EBER-ISH)が陽性で,MIB-1indexは50%以上の高い増殖活性を示した.免疫グロブリン遊離L鎖のk/l比(insituハイブリダイゼーション)はほぼ1であった.CD20,CD79aが陰性であることからB細胞系リンパ腫は否定的で,CD3とgranzymeBが陽性であることから,T細胞性あるいはNK細胞性リンパ腫が考えられた.さらにEBER-ISHが陽性,CD56が陰性であること(図1f)から,T細胞由来の節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型と診断された.上記の諸検査と合わせ,節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型,ステージIAEと診断された(表1,2).臨床経過:生検後も高眼圧症や視力低下がみられたので,病理確定診断に先立ち,ただちにステロイドの点滴(dexamethasone,40mg/日)を開始した.その3日後,組織型分類は不明であるが悪性度の高いリンパ腫と病理診断された時点で,ただちにCHOP(cyclophosphamide,doxorubicin,vincristine,prednisolone)療法を開始した.CHOP療法直後は,一旦,眼瞼皮下腫瘤は縮小したが,ただちに再増殖がみられた.最終的に,節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型の病理診断が得られ,その標準的治療とされるDeVIC(carboplatin,etoposide,ifosfamide,dexamethasone)療法と放射線外照射との併用療法を行った.それらにより眼窩部病変は縮小したが,初診時から約4カ月後に骨髄浸潤がみられた.放射線照射を45Gyで中止し,化学療法をSMILE(dexamethasone,methotrexate,ifosfamide,L-asparaginase,etoposide)療法に変更した.しかし,やがて全身状態の悪化から化学療法を全量投与できず,初診時から約5カ月後に死亡した.〔症例2〕46歳,女性.主訴:右眼瞼下垂,腫脹.既往歴:当科初診時の約3年前に乳癌の手術を受けた.その約1年後に乳癌転移性脳腫瘍にて摘出手術を受け,術後に化学療法(doxifluridine,cyclophosphamide)と全脳照射(30Gy)が行われた.家族歴:特記すべきことなし.(157)表2AnnArbor分類病期病変部位I期1カ所のリンパ節領域または節外性部位に腫れがあるII期2カ所以上の腫れがあるが,その範囲が横隔膜より上,または下だけIII期横隔膜の上下の両方に腫れがあるIV期1つ以上のリンパ節外臓器(肝臓や骨髄など)に悪性リンパ腫の細胞が浸潤しているAnnArbor分類の付加事項A全身症状(発熱,寝汗,6カ月以内の10%以上の体重減少)がないB全身症状(発熱,寝汗,6カ月以内の10%以上の体重減少)E限局した節外病変があるS脾臓への浸潤があるH肝臓への浸潤があるM骨髄への浸潤があるP肺への浸潤があるO骨皮質への浸潤がある現病歴:初診時の1カ月前から右眼瞼腫脹がみられ,近医眼科で抗生剤内服と点眼とを処方されたが改善しなかった.眼瞼腫脹は増悪し,発熱がみられ,前医で眼窩蜂窩織炎の疑いで抗生剤の点滴,引き続いてステロイド(dexamethasone8mg/日)の点滴を行うも反応に乏しく,2011年5月に当院に紹介された.当院初診時所見:視力は右眼1.2(矯正不能),左眼1.2(矯正不能).眼圧は右眼24mmHg,左眼9mmHg.右上眼瞼の著しい腫脹がみられたが(図2a),前眼部,中間透光体,眼底には異常所見はなかった.頭部CTならびにMRIでは,右眼瞼皮下腫瘤,涙腺腫大がみられ(図2b),左上顎洞から篩骨,蝶形骨道に粘膜肥厚と液体貯留がみられた.FDGPETでは右上眼瞼腫脹に一致して集積がみられたが腫脹部のびまん性の集積で,SUV(standardizeduptakevalue)値は4.4で後期像でも増加しておらず,炎症としても妥当と考えられた.体幹部のCTでは,両肺野の多発結節性病変,右あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014461 図2症例2(46歳,女性)の臨床所見a:初診時には右眼瞼の著しい腫脹と眼瞼下垂がみられた.b:生検前のMRI(T1強調画像)では右涙腺腫大,眼瞼皮下に腫瘍がみられた.c:生検検体のHE染色強拡大像.細胞浸潤に変性や壊死を伴い,大型の異型細胞がみられた.スケールバーは100μm.d:CD56免疫染色では陽性であった.スケールバーは100μm.e:EBV-encodedRNA(insituハイブリダイゼーション法)は陽性であった.前頭葉の乳癌脳転移の術後性変化がみられた.既往や臨床経過から乳癌の眼窩転移を強く疑い,2011年6月に右上眼瞼皮下の腫瘍生検を施行した.病理所見と診断:脂肪組織に炎症細胞の浸潤がみられ,変性・壊死が加わり,少数の大型の異型細胞がみられた(図2c).免疫染色では,脂肪組織に浸潤する細胞は上皮系マーカーであるCKAE1/AE3,CAM5.2,EMAが陰性で,乳癌の転移は否定的であった.CD3,CD56(図2d),granzymeBは陽性であり,一方,CD20は陰性で,CD19,CD79aなどに陽性のB細胞系の細胞はほとんどみられなかった.EBER-ISHは陽性であった(図2e).以上より,CD3とgranzymeBが陽性であり,さらにCD56とEBER-ISHが陰性であることから,NK細胞由来の節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型と診断された.また,画像などの諸検査からステージIIEと診断された(表1,2).臨床経過:診断確定後は,紹介元の前医にて治療が行われた.診断直後より放射線外照射+DeVIC療法が施行され,陽子線治療(24Gy)も追加された.当院初診から約2カ月目には,右眼瞼腫大改善,左鼻腔の腫瘤縮小がみられたが,3カ月後に,肝,両腎,左後腹膜へのリンパ腫進展が指摘され,全身播種と診断され,SMILE療法が開始された.SMILE療法開始後,増悪していた右眼瞼腫脹は改善し,画像検査では眼瞼,副鼻腔病変,両肺野多発結節,肝臓,腎臓の腫瘤の縮小がみられ,全身の腫瘍は改善傾向であった.しかし,初診から5カ月目に,急激な肝障害,腎障害,播種性血管内凝固をきたし死亡した.II考按WHOによる血液リンパ系腫瘍の分類ではNK細胞由来の腫瘍は3つに大別され,その一つが節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型である.節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型の免疫形質の多くはNK細胞型であるが,一部でT細胞型であることから6),WHO分類ではNK/T細胞リンパ腫と呼称されている.わが国では全リンパ腫の約3%を占めるが5),その発症頻度には人種差があり,アジアや中南米に多く,欧米では稀とされる5).節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型は,鼻腔から喉咽頭に好発し,その他,皮膚,リンパ節,脾,肝,肺などにも発症する4).本症例2では副鼻腔が原発巣が眼窩に波及したものと推察されるが,症例1では眼窩以外に病変はみられず眼窩原発と考えられた.NK/T細胞リンパ腫,鼻型の生命予後は概して不良であり,平均5年生存率は37.50%との報告がある5,7).病期が進行すると難治であるため,局所限局期の速やかな放射線化学療法が重要とされる.古くは限局期において放射線単独療法が行われたが,その5年生存率は40%程度にとどまるため8),放射線化学療法が推奨されるようになった.当初は462あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(158) CHOP療法などのanthracyclineを含みetoposideを含まない化学療法がおもに選択されてきたが,その奏効率は低く,難治性の節外性NK/Tリンパ腫では10%程度であった.そこで,近年ではMDR非関連薬剤と,EBV関連血球貪食症候群のkeydrugであるetoposideを組み合わせた化学療法,DeVIC9)が標準的な治療とされている.進行期や再発・難治の節外性NK/Tリンパ腫に対してL-asparaginaseの効果を支持する報告もあり,最近ではそれを含むSMILE療法の効果が期待されている10).本報の症例1では,画像所見からは病変は眼窩に限局していたが,初発症状からおよそ3カ月で高度の眼瞼下垂をきたした.眼窩,眼瞼部に発症するリンパ腫のうち最も高頻度のMALTリンパ腫であれば,3カ月間でここまで高度の眼瞼下垂をきたすことは少ないと考えられた.したがって,もしリンパ腫であれば,より悪性度の高いDLBCLなどを疑い,初診日にただちに生検を行った.その結果,最終的に,より悪性度の高い,しかし稀な節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型との診断に至り,速やかにそれに応じた化学療法(DeVIC療法)に導入することができた.しかしながら,その治療中に骨髄転移が発覚し,化学療法がSMILE療法へ変更されるも,初診から約5カ月後に死亡した.症例2では,生検前には,その病歴から乳癌の転移が最も疑われた.初回手術を行った乳癌4,520例のうち眼窩への転移はわずか2例(0.04%)とする報告にあるように11)乳癌の眼窩転移は稀とされるが,転移性眼窩腫瘍のなかでの原発部位としては乳癌が最も多いと報告されている12).また,乳癌や胃癌などの硬癌の眼窩転移では眼球はむしろ陥凹することが多いとされる.その理由としては,びまん性に浸潤した線維化の強い癌では,腫瘍内の線維芽細胞が収縮することにより眼球が眼窩後方へ牽引されるためといわれている13).乳癌の転移では,やはり本症例のような高度の眼瞼腫脹,眼瞼下垂は生じにくいのかもしれない.一般に,癌の眼窩転移は稀であるので,他臓器の癌の経過中に眼窩腫瘤病変をみた際には,重複癌の可能性も念頭におく必要がある.重複癌は近年わが国でも増加傾向にあり,その原因として,検診や治療法の発展により一次癌治療後の長期生存が得られるようになったこと,初発癌の放射線治療や抗癌剤の影響による二次癌の発生,高齢化などが考えられている14).乳癌患者における二次癌としての悪性リンパ腫発症については,化学療法がその発症リスクを引き上げている可能性も指摘されている15).症例2では,生検によりNK/T細胞リンパ腫の診断に至ったが,もし既往から乳癌の眼窩内転移と判断し,生検を行わずに放射線治療を開始していた場合には,NK/T細胞リンパ腫としての治療が遅れたことになる.本症例を鑑み,乳癌や肺癌などの加療中に眼窩病変をみた際には,病理診断を積極(159)的に考慮すべきであると考えられた.以上,眼窩に生じた節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型の2症例を提示した.近年の癌治療の進歩により,本症が二次癌として今後増加する可能性も考えられる,眼窩における腫瘍病変の鑑別診断の一つとして念頭におくべきである.文献1)後藤浩:眼腫瘍の疾患別頻度.見た目が大事!(後藤浩編).眼腫瘍.眼科プラクティス24:2-9,20082)ShikishimaK,KawaiK,KitaharaK:PathologicalevaluationoforbitaltumoursinJapan:analysisofalargecaseseriesand1379casesreportedintheJapaneseliterature.ClinExpOphthalmol34:239-244,20063)OhtsukaK,HashimotoM,SuzukiY:Areviewof244orbitaltumorsinJapanesepatientsduringa21-yearperiod:originsandlocations.JpnJOphthalmol49:49-55,20054)KuwabaraH,TsujiM,YoshiiYetal:Nasal-typeNK/Tcelllymphomaoftheorbitwithdistantmetastases.HumPathol34:290-292,20035)OshimiK:Progressinunderstandingandmanagingnaturalkiller-cellmalignancies.BrJHaematol139:532-544,20076)LiangR:AdvancesinthemanagementandmonitoringofextranodalNK/T-celllymphoma,nasaltype.BrJHaematol147:13-21,20097)Al-HakeemDA,FedeleS,CarlosRetal:ExtranodalNK/T-celllymphoma,nasaltype.OralOncol43:4-14,20078)KoomWS,ChungEJ,YangWIetal:AngiocentricT-cellandNK/T-celllymphomas:radiotherapeuticviewpoints.IntJRadiatOncolBiolPhys59:1127-1137,20049)YamaguchiM:CurrentandfuturemanagementofNK/T-celllymphomabasedonclinicaltrials.IntJHematol96:562-571,201210)YamaguchiM,KwongYL,KimWSetal:PhaseIIstudyofSMILEchemotherapyfornewlydiagnosedstageIV,relapsed,orrefractoryextranodalnaturalkiller(NK)/T-celllymphoma,nasaltype:theNK-CellTumorStudyGroupstudy.JClinicOncol29:4410-4416,201111)金子明博:遠隔転移巣の重点的治療.乳癌の臨床9:31-36,199412)ShieldsJA,ShieldsCL,ScartozziRetal:Surveyof1264patientswithorbitaltumorsandsimulatinglesions.Ophthalmology111:997-1008,200413)後藤浩:眼窩転移.眼科42:167-174,200014)伊藤啓二朗,野河孝允,温泉川真由ほか:乳癌術後の長期生存中に発見された4重複癌の1例.日本産婦人科学会中国四国合同地方部会雑誌51:164-169,200315)TanakaH,TsukumaH,KoyamaHetal:SecondPrimaryCancersFollowingBreastCancerintheJapanesefemalepopulation.JpnJcancerRes92:1-8,2001あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014463