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Acute Syphilitic Posterior Placoid Chorioretinitisの1例

2017年6月30日 金曜日

《第50回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科34(6):857.861,2017cAcuteSyphiliticPosteriorPlacoidChorioretinitisの1例熊野誠也*1武田篤信*1,2仙石昭仁*1清武良子*1,3川野庸一*3園田康平*1*1九州大学大学院医学研究院眼科学分野*2国立病院機構九州医療センター眼科*3福岡歯科大学総合医学講座眼科学分野ACaseofAcuteSyphiliticPosteriorPlacoidChorioretinitisSeiyaKumano1),AtsunobuTakeda1,2),AkihitoSengoku1),RyokoKiyotake1,3),YoichiKawano3)andKoh-HeiSonoda1)1)DepartmentofOphthalmology,KyushuUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,KyushuMedicalCenter,3)SectionofOphthalmology,DepartmentofGeneralMedicine,FukuokaDentalCollegeAcutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinitis(ASPPC)は梅毒性ぶどう膜炎のなかでもまれな病型である.眼所見,画像所見,血清および前房水の梅毒抗体価上昇からASPPCと診断した1例を報告する.症例は39歳,女性.1週間前からの左眼視力低下を主訴に来院した.左眼黄斑部に網膜下黄白色扁平病変がみられた.光干渉断層計では,左眼黄斑部では視細胞内節エリプソイドと外境界膜の消失,また網膜色素上皮から外顆粒層へ突出した結節性病変がみられた.血清および前房水の梅毒抗体価上昇からASPPCと診断した.髄液中の梅毒抗体価上昇から神経梅毒の合併も考慮しペニシリン点滴治療を開始した.治療に速やかに反応し,以後再燃はみられていない.ASPPCが疑われた場合には血清および前房水の梅毒抗体価測定が診断に有用なことがある.A39-year-oldfemalewasreferredtoourhospitalduetoseveresuddenvisuallossinherlefteyeforaweek.Ophthalmicexaminationshowedyellowishplacoidlesionsinvolvingthemaculainthelefteye.Opticcoherencetomographyrevealedthatbothellipsoidzoneandouterlimitedmembranehaddisappeared,andthattherewerenodularlesionsprojectingbetweentheretinalpigmentepitheliumandoutergranularlayerattheyellowishplacoidlesions.Thepatientwasdiagnosedashavingacutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinitis(ASPPC),basedonpositiveresultsofserologyforsyphilisinserumandaqueoushumor.Thepatientwassuccessfullytreatedwithhigh-doseintravenouspenicillin,inviewofpositiveserologyresultsforsyphilisinthespinal.uid.Serologictestingofocular.uids,aswellasserum,isusefulfordiagnosingASPPC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(6):857.861,2017〕Keywords:梅毒,acutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinitis,光干渉断層計,前房水,梅毒血清反応.syph-ilis,acutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinitis,opticalcoherencetomography,ocular.uids,serologyforsyphi-lis.はじめに近年,わが国の梅毒患者報告数は2014年で1,671人,2015年で2,698人と急増しており,とくに若年女性の増加が顕著である1).梅毒性ぶどう膜炎はおもに梅毒第2期以降でみられ,その臨床像は多彩で特徴的な眼所見に乏しい2).Acutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinitis(ASPPC)は1988年,第2期にみられた中心性網脈絡膜炎としてdeSouzaらによって報告され3),黄斑部に大型の円板状黄白色病変を呈する特徴から1990年にGassらによりASPPCと命名された4).筆者らはASPPCと診断した1例を経験したので報告する.I症例患者:39歳,女性.主訴:左眼視力低下.既往歴:2015年2月,甲状腺乳頭癌摘出術を受けた.術〔別刷請求先〕熊野誠也:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野Reprintrequests:SeiyaKumano,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyushuUniversityGraduateSchoolofMedicine,3-1-1Maidashi,Higashi-ku,Fukuoka-shi,Fukuoka812-8582,JAPAN前に梅毒感染は検出されなかった.現病歴:2016年1月に左眼視力低下を自覚し1週間後に近医受診.左眼後部強膜炎と診断され,左眼トリアムシノロンアセトニドのTenon.下注射を施行されるも改善がみられず,精査加療のため九州大学病院眼科に紹介となった.初診時所見:視力は右眼0.08(1.2×sph.3.00D),左眼Vs=0.03(0.04×sph.2.50D).眼圧は右眼15mmHg,左眼16mmHg.両眼とも前眼部に炎症所見はみられず,中間透光体にSUN分類で1+の硝子体混濁がみられた.眼底は両眼に視神経乳頭の軽度の発赤腫脹がみられ,左眼には黄斑部を中心に約6乳頭径大の円板状黄白色病変がみられた(図1).光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では,左眼黄斑部に視細胞内節エリプソイド(photoreceptorinnersegmentellipsoid:ellipsoidzone)と外境界膜の消失,および,網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)から外顆粒層へ突出した結節性病変がみられた(図2).右眼黄斑部にOCT上特記すべき所見はなかった.フルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinfundusangiography:FA)では,右眼アーケード上方と左眼黄斑部で造影初期には顆粒状の過蛍光がみられ,造影後期にはその増強を認めた.右眼は検眼鏡的にはみられなかった病変が蛍光眼底造影ではみられ,左眼と同様に造影初期には顆粒状の過蛍光,造影後期にはその増強がみられた.インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(indocyaninegreenfundusangiography:IA)では,両眼とも同部位で造影初期には低蛍光,造影後期にはFAの過蛍光部位に一致した蛍光漏出を認めた(図3a).眼底自発図1眼底写真両眼に視神経乳頭の軽度の発赤腫脹,左眼黄斑にかけて約6乳頭径大の円板状黄白色病変がみられた.図2光干渉断層計左眼黄斑部では視細胞内節エリプソイドと外境界膜の消失,網膜色素上皮から外顆粒層へ突出した結節性病変(白矢印)がみられた.図3蛍光眼底検査,眼底自発蛍光検査a:(FA)右眼アーケード上方と左眼黄斑部で造影初期には顆粒状の過蛍光がみられ,造影後期にはその増強を認めた.(IA)両眼とも同部位で造影初期には低蛍光,造影後期にはFAの過蛍光部位に一致した蛍光漏出を認めた.b:(FAF)両眼とも同部位で過蛍光がみられた.図4Goldmann視野検査右眼は明らかな視野異常はみられなかったが,左眼は中心暗点がみられた.蛍光検査(fundusauto-.uorescence:FAF)においても同部位で過蛍光がみられた(図3b).中心フリッカー値は右眼39.8Hz,左眼22.8Hzであった.Goldmann視野検査(Gold-mannperimeter:GP)では,右眼には異常はみられず,左眼に中心暗点がみられた(図4).全身検査所見:胸部X線では異常所見がなく,ツベルクリン反応は弱陽性であった.血液検査ではCRP0.64mg/dlと軽度上昇,また梅毒血清反応では,ラテックス凝集法(Treponemapallidumlatexagglutinationtest:TPLA)1,662.0TU,rapidplasmareagintest(RPR)18.0RUと陽性を示した.ヒト免疫不全ウイルス(humanimmunode.-ciencyvirus:HIV)抗体検査は陰性であった.前房水の梅毒抗体価はTPLA8倍と上昇していた.髄液検査では糖108mg/dl,蛋白65mg/dl,白血球数20/mm3,蛍光トレポネーマ抗体吸収試験(.uorescenttreponemalantibody-absorptiontest:FTA-ABS)8倍と上昇していた.発熱およびリンパ節腫脹や皮疹,粘膜疹などはみられなかった.治療経過:眼所見および全身検査所見よりASPPCと診断図5治療開始後の光干渉断層計,Goldmann視野検査a:治療開始前にみられた外境界膜の一部消失や網膜色素上皮から突出した結節性病変は消失していた.b:治療開始1カ月(右)から3カ月(左)後と中心暗点領域の改善を認めた.し,神経梅毒の合併を考慮しベンジルペニシリンカリウム2,400万単位/日の経静脈投与を14日間行った.治療開始1カ月後,左眼視力は(1.0)まで改善した.治療開始3カ月後,OCTで初診時にみられた外境界膜の一部消失やRPEからの結節性突出は消失していた(図5a).FAFでは右眼で過蛍光は消失し,左眼では一部残存するもその後増悪はみられなかった.GPでは左眼で中心暗点が縮小していた(図5b).梅毒血清反応ではTPLA28.5TU,RPR1.5RUまで低下し,眼底病変の再発はみられていない.II考按ASPPCの特徴として,半数は片眼性で平均年齢は40歳,約80%に前房や硝子体に炎症がみられ,黄斑部に大型の円板状黄白色病変がみられる5).画像所見では,spectral-domainOCTにてellipsoidzoneと外境界膜の消失,RPEの肥厚や結節性突出などが報告されており6.8),本症例でも過去の報告と一致していた.また,FAで病変部は初期で低蛍光,後期にかけて増強する過蛍光とleopardspottingとよばれる部分的な低蛍光を呈すると報告されており4,5),本症例でも同様であった.ASPPCの病変の主座については,過去の報告における画像所見から脈絡膜毛細血管板.RPE.網膜視細胞層にあると考えられている3,4)が,さらに本症例ではFAFで過蛍光を呈していたことから機能的にRPEレベルの異常も考えられた.鑑別診断として,画像所見からは急性帯状潜在性網膜外層症や多発消失性白点症候群,また片眼性急性特発性黄斑症などがあげられたが6),臨床所見のみでは鑑別が困難であった.本症例では眼所見や画像所見に加え,血清および前房水中の梅毒抗体価が上昇したことからASPPCと診断した.梅毒性ぶどう膜炎は眼内にTreponemapallidum(TP)が直接浸潤して生じるとされている.神経梅毒では髄液中の梅毒抗体価上昇や細胞数,蛋白増多などの炎症所見が検出されるが,これは中枢神経系にTPが直接浸潤し炎症が励起されることに起因する9).本症例では前房水中の梅毒抗体価が上昇したことから,ASPPCの病態にTPの眼内直接浸潤の関与が示唆された.また,polymerasechainreaction(PCR)を利用した眼微量検体での迅速で網羅的な病原体遺伝子検索法が開発されており10),今回のような症例に用いることで診断がより迅速で効率的になる可能性について,今後検討が必要であると考えられた.梅毒は性感染症であり,海外では20.70%にHIV感染との合併が報告されている11).HIV感染合併例では梅毒性ぶどう膜炎の頻度が高く,非典型的であり,重篤化することがある12).本症例では発症約1年前の血液検査では梅毒感染は検出されておらず,その後の性交渉による感染が疑われている.HIV感染は検出されなかったが,ASPPCの症例ではHIV感染の検索を進めると同時に,パートナーを含めた感染拡散や再感染の防止に努める必要があると考えられた.また梅毒は感染症法により全数把握対象疾患の5類感染症に定められており,診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出ることが義務づけられている.梅毒性ぶどう膜炎では第2期以降に出現するため,治療は一般の駆梅療法第2期に準じて行う13).また,ASPPCの患者の約25%に神経梅毒の合併があると報告されている9).本症例では髄液中の蛋白増多,細胞数増多,梅毒抗体価上昇がみられたため,神経梅毒に準じた治療を行った.治療によく反応したものの,初診時OCTにみられたellipsoidzoneと外境界膜の消失は治療開始3カ月後にも一部残存していた.そのためASPPCの治療では,神経梅毒の合併がなくても長期的な神経網膜の保護を考慮した強力な治療を行う必要性があると考えられた.また,駆梅療法としての抗生物質投与にステロイドを併用した報告がある14).本症例では前医でステロイド局所投与が行われていたこともあり,ステロイド全身投与は行わなかった.しかし,抗炎症による神経保護の観点からASPPCに対してはステロイド全身投与についても検討する必要があるかもしれない.以上,梅毒性ぶどう膜炎のなかでもまれな病型であるASPPCの1例を報告した.本症例では短期間で重篤な視力低下がみられたが,眼所見よりASPPCを疑い,血液検査や眼内液の梅毒抗体価の測定を行うことで早期に診断,治療を行うことが可能であった.RPE障害を伴うぶどう膜炎において梅毒検査は重要であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)岩橋千春,大黒伸行:梅毒.あたらしい眼科33:953-956,20162)八代成子:梅毒性ぶどう膜炎.所見から考えるぶどう膜炎(園田康平,後藤浩編):p226-231,医学書院,20133)deSouzaEC,JalkhAE,TrempeCLetal:Unusualcen-tralchorioretinitisasthe.rstmanifestationofearlysec-ondarysyphilis.AmJOphthalmol105:271-276,19884)GassJD,BraunsteinRA,ChenowethRG:Acutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinitis.Ophthalmology97:1288-1297,19905)EandiCM,NeriP,AdelmanRAetal:Acutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinitis:reportofacaseseriesandcomprehensivereviewoftheliterature.Retina32:1915-1941,20126)関根裕美,八代成子,大平文ほか:画像所見よりacutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinitisを疑い駆梅療法が奏効した1例.日眼会誌119:266-272,20157)PichiF,CiardellaAP,CunninghamETJretal:Spectraldomainopticalcoherencetomography.ndingsinpatientswithacutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinopathy.Retina34:373-384,20148)BurkholderBM,LeungTG,OstheimerTAetal:Spectraldomainopticalcoherencetomography.ndingsinacutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinitis.JOphthalmicIn.ammInfect4:2,20149)松室健士,納光弘:炎症性疾患スピロヘータ感染症梅毒トレポネーマ.別冊領域別症候群シリーズ神経症候群1,日本臨躰26:615-619,199910)SugitaS,OgawaM,ShimizuNetal:Useofacompre-hensivepolymerasechainreactionsystemfordiagnosisofocularinfectiousdiseases.Opthalmology120:1761-1768,201311)LeeSY,ChengV,RodgerDetal:Clinicalandlaboratorycharacteristicsofocularsyphilis:anewfaceintheeraofHIVco-infection.JOphthalmicIn.ammInfect5:26,201512)ChessonHW,He.el.ngerJD,VoigtRFetal:EsimatesofprimaryandsecondarysyphilissrateinpersonswithHIVintheUnitedStates,2002.SexTransmDis32:265-269,200513)後藤晋:疾患別くすりの使い方梅毒性ぶどう膜炎.眼科診療プラクティス11,眼科治療薬ガイド(本田孔士編),p138-139,文光堂,199414)原ルミ子,三輪映美子,佐治直樹ほか:網膜炎として発症した梅毒性ぶどう膜炎の1例.あたらしい眼科25:855-859,2008***