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ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液からトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切替え

2013年6月30日 日曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(6):861.864,2013cラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液からトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切替え添田尚一*1宮永嘉隆*1佐野英子*1堀貞夫*1井上賢治*2富田剛司*3*1西葛西・井上眼科病院*2井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科SwitchingtoTravoprost/TimololFixedCombinationsfromLatanoprost/TimololFixedCombinationsShoichiSoeda1),YoshitakaMiyanaga1),EikoSano1),SadaoHori1),KenjiInoue2)andGojiTomita3)1)Nishikasai-InouyeEyeHospital,2)InouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(LTFC)をトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(TTFC)へ切替えた際の効果を検討する.対象および方法:LTFCを使用中に角膜上皮障害が出現し,涙液層破壊時間(BUT)が10秒以下の緑内障患者12例23眼を対象とした.LTFCを中止しTTFCへ切替えた.眼圧,眼表面の安全性〔area-density(AD)スコアを合計〕,涙液の安定性(BUT)を6カ月間比較した.結果:眼圧は切替え前(14.9±3.6mmHg)と比べて切替え後(12.3.12.9mmHg)に有意に下降,A+Dスコアは切替え前(2.2±0.6)と比べて切替え後(0.1.1)に有意に改善,BUTは切替え前(7.7±3.7秒)と比べて切替え後(8.8.15.6秒)に有意に延長した(p<0.0001).結論:LTFC使用中に角膜上皮障害が出現した際に,TTFCへ切替えることで眼圧は維持し,眼表面への影響を軽減できる.Purpose:Toevaluatetheeffectoncornealsurfaceandintraocularpressure(IOP)afterswitchingfromlatanoprost/timololfixedcombinations(LTFC)totravoprost/timololfixedcombinations(TTFC).SubjectsandMethod:Thisstudyincluded11primaryopenangleglaucomapatientsand1secondaryglaucomapatientwhodevelopedsuperficialpunctuatekeratitiswithtearfilmbreakuptime(BUT)ofunder10secondsduringLTFCtreatmentforover3months.AllpatientswereswitchedtoTTFCwithoutawashoutperiod.IOP,keratopathy(area-densityscore)andBUTwereevaluatedfor6monthsaftertheswitch.Result:IOPreducedsignificantly,from14.9±3.6mmHgbeforetheswitchto12.3±1.8mmHgafter6months.Area-densityscoreimprovedsignificantly,from2.2±0.6beforetheswitchto0.0±0.0after6months.BUTalsoimprovedsignificantly,from7.7±3.7secondsbeforetheswitchto15.6±4.0secondsafter6months(p<0.0001).Conclusion:TTFCprovideshypotensiveeffectsimilartoLTFCandappearstobesaferforthecornealepithelium.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(6):861.864,2013〕Keywords:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液,トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合液,breakuptime(BUT),角膜上皮障害,眼圧.latanoprost/timololfixedcombinations(LTFC),travoprost/timololfixedcombinations(TTFC),breakuptime(BUT),superficialpunctuatekeratitis(SPK),intraocularpressure.はじめにわが国では2010年に,緑内障・高眼圧症治療薬のプロスタグランジンF2a誘導体とb遮断薬を配合した点眼液が製造承認を取得した.緑内障治療では,眼圧下降が視野障害の進行抑制には重要な因子である1).薬物療法では,房水流出促進作用をもつプロスタグランジン誘導体と,房水産生抑制作用をもつb遮断薬の点眼液がおもに使用される.この2剤のうち,1剤だけで長期間眼圧をコントロールすることには限界があることが多く,しばしば2剤が併用される.だが,5分以上の点眼間隔が原因で2剤目の点眼を忘れてしま〔別刷請求先〕添田尚一:〒134-0088東京都江戸川区西葛西5-4-9西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:ShoichiSoeda,M.D.,NishikasaiInouyeEyeHospital,5-4-9Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(139)861 うこと,つまり多剤併用によるアドヒアランスの低下を招く場合がある.承認されたプロスタグランジンF2a誘導体・b遮断薬配合点眼液は,1日1回の点眼で従来のプロスタグランジンF2a誘導体(1日1回点眼)とb遮断液(1日2回点眼)を併用した場合と同程度の眼圧下降効果を有する2).しかし,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(LTFC)には防腐剤として塩化ベンザルコニウム(benzalkoniumchloride:BAC)が含有されることによる眼表面への影響が懸念される3).一方,トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(TTFC)には,防腐剤としてBACではなく塩化ポリドロニウムが含有されており,眼表面への安全性が期待される.今回筆者らは,LTFCを使用中に角膜上皮障害が出現した原発開放隅角緑内障および続発緑内障患者を対象に,TTFCへ切替え,眼圧,眼表面の安全性,涙液の安定性について検討した.I対象および方法西葛西・井上眼科病院に通院中で,LTFCを3カ月間以上単剤使用中で,点状表層角膜症(SPK)が存在し,かつbreakuptime(BUT)が10秒以下の原発開放隅角緑内障および続発緑内障患者12例23眼(男性6例,女性6例)を対象とした.平均年齢は67.4±7.8歳(平均±標準偏差,54.78歳)であった.緑内障の病型は原発開放隅角緑内障11例21眼,続発緑内障(ぶどう膜炎による)1例2眼であった.方法は,LTFC(夜1回点眼)からウォッシュアウト期間なしでTTFC(夜1回点眼)に切替え,6カ月間経過を観察した.評価項目は,area-density(AD)分類4)(フルオレセイン染色検査:表1),BUT,眼圧値(Goldmann圧平眼圧計にて測定)とした.AD分類は,A(area)をA0.3,D(density)をD0.3の4段階にそれぞれ分類し,A(0.3)+D(0.3)でスコア化した.有意差検定はANOVAおよびBonferroni/Dunn検定を用い,有意水準をp<0.01とした.表1びまん性表層角膜炎重症度分類(AD分類)範囲密度A1角膜面積の1/3未満A2角膜面積の1/3以上2/3未満A3角膜面積の2/3以上D1SPKが散在D2SPKが中等度D3SPKが密に隣接異常なし:(A0D0)862あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013なお,本調査はヘルシンキ宣言の趣旨に則り,井上眼科病院の倫理委員会の承認の後,すべての患者に本調査の趣旨を十分説明し,参加の同意を得て実施した.II結果1.AD分類(図1,2)切替え前の平均ADスコアは2.2±0.6で,切替え1カ月後は1.1±1.0,3カ月後は0.5±0.9と切替え後に有意に改善を認め,6カ月後は0と全例でSPKは消失した(p<0.0001).2.BUT(図3)切替え前は7.7±3.7秒で,切替え1カ月後は8.8±3.6秒,3カ月後は10.3±3.9秒,6カ月後は15.6±4.0秒と切替え後に有意にBUTは延長した(p<0.0001).3.眼圧値(図4)切替え前は14.9±3.6mmHgで,切替え1カ月後は12.7±2.4mmHg,3カ月後は12.9±1.5mmHg,6カ月後は12.3±1.8mmHgで切替え後に有意に眼圧は下降した(p<0.0001).脱落例は3例5眼で,1例は切替え1カ月以降,2例は切替え3カ月以降の来院が中断したが,副作用による脱落例はなかった.III考按BACは界面活性剤で,細胞膜の透過性を亢進させ細菌を破壊することによる抗菌作用をもつ5)ことで,防腐剤として多くの点眼液に使用されている.また,BACは薬剤透過性亢進により薬剤効果に影響を及ぼすこと,角結膜上皮障害を出現させること,涙液を減少させること,涙液層の不安定化をひき起こすことが報告されている5).BAC非含有トラボプロスト点眼液とBAC含有ラタノプロスト点眼液の眼表面への影響を検討した報告では,BAC非含有トラボプロスト点眼液のほうが角膜上皮細胞への毒性が少なく,副作用出現の頻度も少なかった6).他にもBAC非含有トラボプロスト***3.02.52.01.51.00.50.0切替え前切替え切替え切替え1カ月後3カ月後6カ月後*p<0.0001(ANOVA,Bonferroni/Dunn)図1AD分類スコアの変化切替え後にAD分類スコア(A+D)は有意に改善した.(140)AD分類スコア 治療開始時(切替え前)治療薬切替え1カ月後治療薬切替え3カ月後治療薬切替え6カ月後AreaAreaAreaAreaDensityA0A1A2A3A0A1A2A3A0A1A2A3A0A1A2A3D045.0%(9/20)75.0%(15/20)100.0%(18/18)D1(87.0%20/23)8.7%(2/23)55.0%(11/20)25.0%(5/20)D24.3%(1/23)D3A1/D187.0%A1/D24.3%A3/D18.7%A0/D045.0%A1/D155.0%A0/D075.0%A1/D125.0%A0/D0100%図2AD分類割合の変化切替え後に徐々にarea,densityともに改善した.25.020****p<0.0001(ANOVA,Bonferroni/Dunn)****p<0.0001(ANOVA,Bonferroni/Dunn)181614121086420眼圧(mmHg)20.015.010.0BUT(sec)5.00.0切替え前切替え切替え切替え1カ月後3カ月後6カ月後図3BUTの変化切替え後にBUTは有意に延長した.点眼液とBAC含有ラタノプロスト点眼液のBUTを比較した報告では,BAC含有ラタノプロスト点眼液からBAC非含有トラボプロスト点眼液に切替えた結果,切替え8週間後には切替え前よりもBUTが平均4.32秒延長した7).今回の調査では,BACを0.02%含有するLTFCからBACを含まないTTFC(塩化ポリドロニウム含有)への切替えによりADスコアとBUTの有意な改善を認めた.これは,BAC起因による角膜上皮障害が改善されたためと考えられ,過去の報告6,7)も踏まえてTTFCはLTFCよりも眼表面への影響が少ないと考えられる.眼圧に関してのTTFCとLTFCの差は,夜間点眼後の24時間眼圧測定においてベースライン28.5±2.6mmHgに対して24時間平均眼圧がTTFCは18.7±2.6mmHg,LTFCは19.6±2.6mmHgでTTFCのほうがLTFCに比べて有意な(141)切替え前切替え切替え切替え1カ月後3カ月後6カ月後図4眼圧値の変化切替え後に眼圧値は有意に下降した.眼圧下降を認めた8).また,BACの含有と非含有が眼圧に影響するかどうかは,トラボプロスト点眼液でのBAC含有・非含有について調査した報告では眼圧下降効果には差がなかった9).BAC含有ラタノプロスト点眼液からBAC含有トラボプロスト点眼液への切替えにより,眼圧は下降もしくは同等であった10).BAC含有ラタノプロスト点眼液からBAC非含有トラボプロスト点眼液への切替えにおいても眼圧下降効果はほぼ同等であった3).今回の調査では,LTFCからTTFCへ切替えることにより約2mmHgの有意な眼圧下降が得られた.1mmHgの眼圧下降効果は緑内障進行リスクを約10%軽減させる11)ことからも,LTFCからTTFCへの切替えで,さらに緑内障進行リスクを軽減できることを示唆する.眼圧が有意に下降した理由として,TTFCへ切替えることにより角膜上皮障害が改善し,点眼アドヒアランスあたらしい眼科Vol.30,No.6,2013863 が向上した可能性がある.副作用が少なくて差し心地が良い点眼液は,主作用の眼圧下降効果を十分に発揮させることができると考えられる.緑内障患者は点眼液を長期にわたり多剤併用することが多く,配合点眼液の発売によりアドヒアランスの向上につながっている.そして,副作用を可能な限り抑えることによりさらなるアドヒアランスの向上が期待できる.今回は23眼を対象として6カ月間の経過観察を行ったが,母集団が少ないこと,緑内障の長期管理は年単位を要することから,今後は症例数を増やして1年以上の長期点眼による影響を再評価する必要がある.今回の調査から,LTFCやその他のBAC含有の緑内障治療点眼液を継続中に副作用である角膜上皮障害が出現した患者には,TTFCへ切替えることを検討してもよいと思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19982)TopouzisF,MelamedS,Danesh-MeyerHetal:A1-yearstudytocomparetheefficacyandsafetyofonce-dailytravoprost0.004%/timolol0.5%toonce-dailylatanoprost0.005%/timolol0.5%inpatientswithopen-angleglaucomaofocularhypertension.EurJOphthalmol17:183-190,20073)大谷伸一郎,湖﨑淳,鵜木一彦ほか:日本人正常眼圧緑内障眼に対するラタノプロストからトラボプロスト点眼液への切り替え試験による長期眼圧下降効果.あたらしい眼科27:687-690,20104)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19945)WhitsonJT,CavanaghHD,LakshmanNetal:Assessmentofcornealepithelialintegrityafteracuteexposuretoocularhypotensiveagentspreservedwithandwithoutbenzalkoniumchloride.AdvTher23:663-671,20066)YeeRW,NorcomEG,ZhaoXC:Comparisonoftherelativetoxicityoftravoprost0.004%withoutbenzalkoniumchlorideandlatanoprost0.005%inanimmortalizedhumancorneaepithelialcellculturesystem.AdvTher23:511-519,20067)HorsleyMB,KahookMY:Effectsofprostaglandinanalogtherapyontheocularsurfaceofglaucomapatients.ClinOphthalmol3:291-295,20098)KonstasAGP,MikropoulosDG,EmbeslidisTAetal:24-hIntraocularpressurecontrolwithevening-dosedtravoprost/timolol,comparedwithlatanoprost/timolol,fixedcombinationsinexfoliativeglaucoma.Eye24:1606-1613,20109)LewisRA,KatzGJ,WeissMJetal:Travoprost0.004%withandwithoutbenzalkoniumchloride:acomparisonofsafetyandefficacy.JGlaucoma16:98-103,200710)KabackM,GeanonJ,KatzGetal:Ocularhypotensiveefficacyoftravoprostinpatientsunsuccessfullytreatedwithlatanoprost.CurrMedResOpin20:1341-1345,200411)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment:theearlymanifestglaucomatrial.ArchOphthalmol121:48-56,2003***864あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(142)