‘caliper 計測’ タグのついている投稿

スペクトラルドメイン光干渉断層計による正常眼圧緑内障篩状板の画像解析

2012年6月30日 土曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(6):823.826,2012cスペクトラルドメイン光干渉断層計による正常眼圧緑内障篩状板の画像解析小川一郎今井一美慈光会小川眼科ImagingofLaminaCribrosainNormalTensionGlaucomaUsingSpectralDomainOpticalCoherenceTomographyIchiroOgawaandKazumiImaiJikokaiOgawaEyeClinic正常眼圧緑内障(NTG)の発症頻度はきわめて高いにもかかわらず,眼痛などを訴えないためか剖検例はきわめてまれである.しかし,スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)の進歩により,随時NTGの視神経乳頭陥凹の形状および篩状板の画像所見が容易に観察記録できるようになった.通常OCTによる網膜黄斑部解析はvitreousmodeで行われているが,今回使用された3D-OCT(トプコン社1000-MarkII)のchoroidalmodeにより,より深層の篩状板を含む緑内障性乳頭陥凹の形状および篩状板を明瞭に画像解析ができるようになった.対象は正常人(50.79歳)35眼,NTG各期45眼.原発開放隅角緑内障(POAG)各期14眼につき画像解析を行い,トプコン社3D-OCTのcaliperで篩状板の厚さの計測を行った.NTGでは乳頭陥凹は進行の時期に伴い,主としてバケツ型,ないし深皿型で深くなる.しかし,篩状板表面および裏面は進行期でもほとんどの症例で下方へ向かい弯曲せず,比較的平坦で,かなりの厚さを保っているものが多い.従来明らかでなかったNTGの視神経乳頭陥凹の形状,篩状板の病態を非侵襲的に随時明瞭に示し,経過観察記録と病因解明に有用であると考えられた.Pathologicalcasesofnormaltensionglaucoma(NTG)areextremelyrare,despitenumerousclinicalcases.Now,however,wecanobserveimagesofopticdiscexcavationandlaminacribrosainNTGbythechoroidalmodeof3D-OCT(TopconCo.1000-MarkII;ScanSpeed27,000)atanytime.Incasescomprising35eyesofnormalpersons(50.79yearsofage),45NTGeyesand14primaryopenangleglaucoma(POAG)eyes,2.3eyesofeachstage,opticdiscexcavationformwasobservedtobemainlybucketordeepplate.Laminacribrosawasnotcurveddownward,butremainedrelativelyflatandmaintainedrelativethicknesseveninprogressedstage.Laminacribrosathicknesswasmeasuredusingcalipers.3D-OCTwasveryusefulforclearimagingofopticnerveexcavation,includinglaminacribrosa,andforobservingthecourseandpathologyofNTGcasesatanytime.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(6):823.826,2012〕Keywords:スペクトラルドメイン光干渉断層計,正常眼圧緑内障,視神経乳頭陥凹,篩状板,caliper計測.3DOCT,normaltensionglaucoma,excavationofopticdisc,laminacribrosa,caliper.はじめに原発開放隅角緑内障(POAG)の剖検所見はすでにきわめて数多くの報告が行われている.しかし,正常眼圧緑内障(NTG)の発症頻度は高いにもかかわらず,わが国のみならず,欧米でも眼痛などがないためか,眼球摘出が行われる機会はほとんどなく,したがって剖検例もきわめてまれで電子顕微鏡所見を含む報告はIwataらによる1例のみである1).しかし,スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)の進歩によりNTGの各時期における視神経乳頭陥凹の形状および篩状板の画像所見が容易に観察記録できるようになった.〔別刷請求先〕小川一郎:〒957-0056新発田市大栄町1-8-1慈光会小川眼科Reprintrequests:IchiroOgawa,M.D.,OgawaEyeClinic,1-8-1Daiei-cho,Shibata-shi957-0056,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(101)823 I対象および方法通常,光干渉断層計(OCT)による網膜黄斑部画像解析は硝子体側に最も感度のよいvitreousmodeで行われているが,今回使用された3D-OCT(トプコン社1000-MarkII,ScanSpeed27,000)はより深部の強膜側に感度を合わせたchoroidalmodeで緑内障性視神経乳頭陥凹の画像解析を行い,陥凹の明らかな形状のみならず,篩状板の形状および厚さの計測も可能となった.なお,黄斑部の画像は認められやすくするため通常1:2に拡大しているが,視神経乳頭陥凹の画像はなるべく実測値比に近づけるため1:1の拡大にしてある.中間透光体の混濁,強度近視などが軽度で,さらにNTGでは篩状板が下方への弯曲がほとんどないので横径,縦径とも比較的明瞭に視認できる.採択率はNTGでは45眼/53眼(85%).POAGでは初期からすでに下方への弯曲が激しく始まり,篩状板も薄くなり測定部位には迷うこともあったが,ほとんど中央部で測定した.採択率15眼/20眼(75%).通常協同研究者と2名で行い,明らかに異なった結果が出た場合は症例から除外した.症例は正常人(50.79歳)35眼,各期のNTG45眼,POAG14眼の視力,眼圧,屈折+3.0..6.0D,Humphrey30-2(SitaStandard)による視野測定を行った.なお,乳頭陥凹の深さはmeancupdepth〔HRT(HeidelbergRtinaTomograph)II〕の数値を使用した.篩状板厚の測定はトプコン社の3D-OCTのcaliperで計測した.II結果1.正常人における視認率,視神経乳頭陥凹の平均の深さ,篩状板の厚さ正常人で50.79歳の症例21例35眼(+2.0..6.0D)の採択率は比較的良好で太い血管が篩状板の中央を貫通し,計測に障害を及ぼす確率は5%以下であった.視神経乳頭の3D-OCTによる画像所見の陥凹の篩状板までの深さはmeancupdepth(mm)(HRTII)などのレーザー測定値を利用した.陥凹の平均の深さは229.3±53.6μm.画像上で測定した35眼の篩状板の平均の厚さは269.21±47.30μm.2.3D.OCTによるPOAG,NTG症例の画像所見図1は64歳,男性.左眼POAG初期で視力は0.06(1.0),MD(meandeviation):.0.85dB.初診時の眼圧は24.2mmHg.ラタノプロスト1日1回点眼により1カ月後17.1図164歳,男性の左眼POAG初期(MD:.0.85dB)視神経乳頭の横断面,縦断面ともにほぼ同一弯曲で深く,篩状板は幾分薄い.表面の細孔はほぼ明瞭である.824あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(102) 図279歳,女性の左眼NTG中期(MD:.12.1dB)視神経乳頭陥凹は円筒状で深さは横断面,縦断面とも比較的経度,篩状板も水平状で比較的薄い,表面の細孔は明瞭に多数認められる.図388歳,男性の右眼NTG末期(MD:.24.5dB)横断面,縦断面ともに深いが,篩状板は比較的平坦で,厚さもかなり保たれている.イソプロピルウノプロストン単独点眼により10年以上右眼も視力1.0で,求心性視野狭窄10.0°を保ち進行を示していない.篩状板表面は萎縮が認められ,細孔ははっきりしないところが多い.(103)あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012825 400300200100-5-10-15-20-250500:NTG:POAG:45眼回帰直線:14眼回帰直線篩状板厚(μm)400300200100-5-10-15-20-250500:NTG:POAG:45眼回帰直線:14眼回帰直線篩状板厚(μm)-30Meandeviation(dB)図4Meandeviationと篩状板厚との相関―NTGとPOAGの比較―mmHg.視神経乳頭陥凹は横断面,縦断面ともに初期にかかわらず凹弯はすでに深く(575μm),篩状板は比較的薄くなっている(283μm).表面の細孔はほぼ明瞭.ラタノプロスト8年点眼後,トラボプロスト1年点眼中でほぼ進行を認めない(図1).図2は79歳,女性.左眼NTG中期で,MD:.12.1dB.視神経乳頭陥凹は円筒状で,陥凹はかなり深い(328μm)が,篩状板は水平で比較的厚い(271μm).視力はVS=0.8,眼圧は12.1mmHg→9.2mmHg.ラタノプロスト10年点眼で進行を認めない(図2).図3は88歳,男性.右眼NTG末期で,MD:.24.5dB.視神経乳頭陥凹は横断面,縦断面ともに凹型できわめて深い(549μm)が,篩状板はかなり厚さを保っている(319μm).イソプロピルウノプロストン単独10年点眼によりVD=1.0,右眼眼圧は13mmHg→9mmHg,中心視野10°を保ちその間10年にわたり進行を認めていない(図3).3.篩状板の厚さとMDとの相関NTG45眼とPOAG14眼に関して篩状板厚(LCT)とMD値との相関についてPearsonの相関係数で検討した.その結果,POAGでは視野狭窄の進行に伴い,篩状板の厚みは視野狭窄とともに薄くなるが,計数の変化の有意差は認められなかった.一方,NTGでは視野が進行してもばらつきがあり,有意差は認められなかった(図4).4.篩状板内の細管篩状板の細管が真っすぐ立ち上り枝分かれせず,乳頭面上に盃形に約6.7倍以上に拡大し開孔している所見が認められることがある.OCTの機能は日進月歩で改善しつつあるので,近い将来にはさらに詳細な病変を捉え得る可能性もあると考えられる.III考按“はじめに”の項にも述べたごとく,NTGの視神経乳頭に826あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012おける病理組織について述べた文献はきわめてまれである.福地ら2)は特徴的所見として,1)貧弱な篩状板ビームとその著しい変形,2)視神経乳頭全域での著明な軸索の腫脹と脱落,空洞化変性,3)明瞭な傍乳頭萎縮(PPA)とその部に一致した軸索腫脹などをあげている.そして筆者らによる3D-OCT検査では篩状板の空洞化などの組織学的変化は認められなかった.なお,Inoueら3)は3D-OCT(18,700AS/second)で高眼圧性POAGの30例52眼について篩状板を画像解析した.その厚さの平均値は190.5±52.7μm(range80.5.329.0).そして篩状板の厚さは視野障害と有意の相関を示したことを述べた.また,Parkら4)はNTG眼では篩状板は薄く,特に乳頭出血を伴う場合には薄くなることを認めた.筆者らはPOAGではPearson相関係数で視野狭窄の進行に伴い,篩状板の厚さが薄くなると予想され,その傾向はあったが,有意差は認められなかった.NTGも視野狭窄が進行しても篩状板は下方へ弯曲することなく,いずれもかなりの厚さを保っていて,菲薄化については有意な相関は認められなかった.以上の所見から明らかなごとく,筆者らは結果として3D-OCTによりNTGについてはいまだ文献上記載がみられなかった事実としてほとんどの症例で篩状板は視野進行例でも下方へ弯曲せず,flatでかなりの厚さを保っていることを認めた.ただ,今回の症例のうちでも10年を超える長期間ウノプロストンやプロスタグランジン系点眼をしている症例もあり,この長期点眼薬がNTGの乳頭陥凹,篩状板にいかなる変化をきたしているのかについては今後の検討に俟ちたい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)IwataK,FukuchiT,KurosawaA:Thehistopathologyoftheopticnerveinlow-tensionglaucoma.GlaucomaUpdateIV.p120-124,Springer-Verlag,Berlin,Heidelberg,19912)福地健郎,上田潤,阿部春樹:正常眼圧緑内障眼の視神経乳頭における病理組織変化.臨眼57:9-15,20033)InoueR,HangaiM,KoteraYetal:Three-dimensionalhigh-speedopticalcoherencetomographyimagingoflaminacibrosainglaucoma.Ophthalmology116:214-222,20094)ParkHY,JeonSH,ParkCK:Enhanceddepthimagingdefectslaminacribrosathicknessdifferencesinnormaltensionglaucomaandprimaryopen-angleglaucoma.Ophthalmology119:10-20,2012(104)