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小児の網膜電図記録用に新しく試作した極小LED 内蔵コン タクトレンズ電極の使用経験

2021年7月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科38(7):835.838,2021c小児の網膜電図記録用に新しく試作した極小LED内蔵コンタクトレンズ電極の使用経験永濵皆美奥一真近藤寛之産業医科大学眼科学教室CANewlyDeveloped,ExtremelySmallContactLensElectrodewithBuilt-InLight-EmittingDiodesforRecordingElectroretinogramsinChildrenMinamiNagahama,KazumaOkuandHiroyukiKondoCDepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealthC目的:網膜電図(electroretinogram:ERG)使用の際,現在臨床で広く用いられているCERG電極は白色CLEDが内蔵された光源一体型コンタクトレンズ電極である.一般的に大人用,小児用とされる型式の電極があるが,乳児などで小眼球や瞼裂狭小の症例に実際に使用することは困難である.筆者らは,従来のものよりレンズ直径の小さい,極小LED内蔵コンタクトレンズ電極の試作を依頼し(薬事認証範囲内),使用したので報告する.方法:ERGの刺激,記録にはCLE-3000(トーメーコーポレーション)を用いた.全身麻酔の状態でC20分暗順応させた後に,試作した極小コンタクトレンズ電極を使用し手術室で測定を行った.結果:乳児や小眼球を伴うC2症例に対し試作した極小コンタクトレンズ電極を使用し,ERGを記録し波形を得ることができた.結論:ERGはコンタクトレンズ電極の選択を誤ると,電極と角膜の接触が悪くなり正しく測定できない.乳幼児や小眼球など瞼裂の狭い症例の場合,極小CLED内蔵コンタクトレンズ電極は有用である.CPurpose:Contactlens(CL)electrodesincorporatingalightstimulatorarewidelyusedforelectroretinogram(ERG)measurementsinJapaneseclinics.Althoughspeci.ctypesofelectrodesareavailableforbothchildrenandadults,CtheyCareCunsuitableCforCpatientsCwithCaCsmallCpalpebralC.ssureCand/orCmicrophthalmia.CHereCweCtestedCaCnewlyCdesignedCsmallerCCLCelectrode.CMethods:TwoCpatientsCwithCanCextremelyCsmallCpalpebralC.ssureCandCmicrophthalmiaunderwentERGmeasurementwiththenewlydesignedCLelectrode.TheERGswereexcitedbyuseCofCaClightstimulator(LE-3000;Tomey)underCgeneralCanesthesiaCafterC20CminutesCofCdark-adaptation.CResults:ERGsweresuccessfullyrecordedinthemicrophthalmiceyeswithincontinentiapigmentiandcongenitalaphakia.Conclusion:ThesmallCLelectrodewasfounde.ectiveformeasuringERGsinpatientswithanextreme-lysmallpalpebral.ssureandmicrophthalmia.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(7):835.838,C2021〕Keywords:LED内蔵型コンタクトレンズ電極,網膜電図,小眼球,瞼裂狭小.contactlenselectrode,electroret-inogram,microphthalmos,smallpalpebral.ssure.Cはじめに網膜電図(electroretinogram:ERG)は他覚的に網膜の機能を評価でき,多くの遺伝性網膜疾患の診断に有用であるため,小児に検査を行うことも少なくない.現在臨床で広く用いられているCERG電極は,白色CLEDが内蔵された光源一体型コンタクトレンズ電極である1).一般的に大人用,小児用がある.国内でもっとも広く使用されているのは,メイヨー社製の型式CLW-103(大人用)とLW-203(小児用)のC2タイプである.小児用コンタクト電極でもレンズ直径はC16.0Cmmであるため,乳児などで小眼〔別刷請求先〕永濵皆美:〒807-8555福岡県北九州市八幡西区医生ヶ丘C1-1産業医科大学眼科学教室Reprintrequests:MinamiNagahama,DepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealth,1-1Iseigaoka,Yahatanishi-ku,Kitakyushu-shi,Fukuoka807-8555,JAPANC図1各電極の外観左より大人用,小児用,試作した極小コンタクトレンズ電極.球や瞼裂狭小の症例に使用することは困難である.そこで筆者らは,従来のものよりレンズ直径の小さい,極小CLED内蔵コンタクトレンズ電極の試作をメイヨー社に依頼し(薬事認証範囲内),使用した.極小CLED内蔵コンタクトレンズ電極は,レンズ直径C11.3mm,角膜部直径を11.3Cmm,関電極内径C7.2Cmm,円筒部直径はC9.6Cmmという仕様である.レンズ直径と角膜部直径が同径となることにより,従来のような強角膜を想定した鍔が付いた形状ではないのが特徴である(図1,表1).この極小CLED内蔵コンタクトレンズ電極の使用経験を報告する.CI方法小児患者C2名(症例C1,2)を対象とし,極小CLED内蔵コンタクトレンズ電極を用いてCERGを測定した.どちらも手術室で全身麻酔導入後,20分暗順応させたあとに測定を行った.ERGの刺激,記録には全例ともCLE-3000(トーメーコーポレーション)を用いた.さらに,大人用コンタクトレンズ電極と極小コンタクトレンズ電極を比較するために,健常成人C1名に対してシールドルームにて測定を行った.大人用コンタクトレンズ電極(型式CLW-103)使用時のみCLE-2000(トーメーコーポレーション)で記録した.CII結果〔症例1〕生後C3カ月,女児.小眼球を伴う色素失調症.出生時より皮疹を認め,色素失調症疑いで他院新生児科,皮膚科,眼科でフォロー中,左眼血管走行異常を認めたため,精査加療目的で当院を受診した.両眼とも前眼部,中間透光体に異常なし.右眼眼底に血管走行異常はなかったが,左眼は血管の蛇行,耳側網膜の途絶,蛍光濾出があり,新生表1大人用と小児用,極小のコンタクトレンズ電極のサイズ型式極小(CW421,CW422)小児用(LW-203)大人用(LW-103)レンズ直径C11.3CmmC16.0CmmC20.0Cmm角膜部曲率半径C7.8CmmC7.8CmmC7.8Cmm角膜部直径C11.3CmmC12.0CmmC12.2Cmm強角膜曲率半径なしC11.5CmmC12.0Cmm関電極内径C7.2CmmC10.5CmmC12.6Cmm円箇部直径C9.6CmmC13.3CmmC15.4Cmm内蔵CLED数量C4発光色白色レンズ直径のみに着目すると,小児用がC16.0Cmmに対して,極小コンタクトレンズ電極はC11.3Cmmと,小児用よりC4.7Cmm小さく作られている.血管を認めた.眼瞼瞼裂横径はC13Cmm,角膜径はC10Cmmであった.小児用コンタクト電極を装着し測定したが,振幅が異常に低い波形となった.装着部を確認すると,小児用コンタクトレンズ電極が角膜から浮き,適切に装着できていなかった.そこで極小CLEDコンタクトレンズ電極を使用しCERGを測定したところ,どの応答も全体的に振幅は低いが,生後3カ月としては正常レベルに近い反応が得られた(図2).〔症例2〕2歳,男児.両強膜化角膜,先天無水晶体,小眼球.右眼は牛眼であり,瞳孔形成術後眼球癆となった症例.両眼とも角膜混濁を認め,眼底が透見できなかった.右眼は失明していたが,左眼は測定距離C38CcmでC20/1,000に相当するカードを眼前C10Ccmにて識別でき,光源の色の識別が可能であったため,ERGにて網膜機能を評価した.ERGを測定したところ,全体的に低振幅であり,杆体応答,錐体応答,フリッカ応答はごくわずかに振幅が得られた程度であった(図3).最大応答では右眼ははっきりと波形は認めず,左眼はわずかにCa,b波の波形を認めた.成人の同一健常者に大人用コンタクトレンズ電極と極小LEDコンタクトレンズ電極を用いてCERGの測定を行った.極小CLEDコンタクトレンズ電極を使用してもノイズが入ることなく測定可能であった(図4)が,大人用コンタクトレンズ電極と比較し,振幅が小さい波形となった.CIII考察今回,乳児や眼底が透見できない小眼球を伴う小児に対して,試作した極小CLEDコンタクトレンズ電極を使用して網膜機能を評価できた.症例C1では,眼瞼瞼裂横径がC13.0Cmmと狭く,小児用コンタクトレンズ電極のレンズ直径が大きすぎたため正常に測図2極小LED内蔵コンタクトレンズ電極を用いて計測した小眼球を伴う色素失調症(症例1,生後3カ月)の網膜電図所見LE-3000で記録した.どの応答も全体的に振幅は低かった.図3極小コンタクトレンズ電極を用いて計測した小眼球を伴う先天無水晶体(症例2,2歳)の網膜電図所見LE-3000で記録した.全体的に低振幅であり,杆体応答,錐体応答,フリッカ応答はごくわずかに振幅が得られた程度であった.わずかに左眼でCa,b波の波形を認めた.定できなかった.極小CLEDコンタクトレンズ電極では鍔が径はC12.0Cmm,垂直径はC12.5Cmmとされるが2),極小CLEDないため,装用後の偏位が生じず波形を得ることができたとコンタクトレンズ電極のレンズ直径はC11.3mm,関電極内径考える.はC7.2Cmmと成人角膜径より小さく,測定した健常者の目に一方,健常成人では,大人用コンタクトレンズ電極を用いは光が入りにくかった可能性がある.また,極小CLEDコンた結果に比べて極小CLEDコンタクトレンズ電極を用いた結タクトレンズ電極は鍔をもたないため,健常者の成人の眼球果は振幅が小さい波形となった.成人の角膜の平均的な水平では電極単体で電極の位置が角膜中央に保てず,テープで固図4大人用と極小のコンタクトレンズ電極を用いて測定したERGの波形の比較成人の同一健常者を被験者にした.極小コンタクトレンズ電極を使用してもノイズが入ることなく測定可能であった.定しても電極の位置が安定しにくかった.角膜頂点から関電極部分がずれると振幅が減少する3)ことが知られている.これらの要因が重なり,健常成人では極小CLEDコンタクトレンズ電極使用時の振幅が小さくなったと考える.極小CLEDコンタクトレンズ電極は小眼球や,眼瞼の狭い症例に対しては電極が小さく,鍔がないことが利点となるが,一方で成人や健常者に対しては電極の選択を間違うと電極の固定に安定性が欠け低振幅となると思われた.今回提示したような,小児用コンタクトレンズ電極の装着が困難な小眼球や眼瞼が狭い症例では,非侵襲的な皮膚電極ERGも選択肢の一つと考えられるが,皮膚電極で得られる振幅は角膜電極の約C1/4.1/5である4)ため,角膜電極より皮膚電極で得られる結果のほうが眼球運動ノイズによる振幅変動の影響が顕著に出ると考えられる.極小CLEDコンタクトレンズ電極があれば,測定時に使用する電極の選択に幅が生まれ,診断に有用である.ただし,固視が不十分な症例では振幅が低下する5)ことが知られており,ERG検査に麻酔下や鎮静下が必要な症例では意識的に正面固視をすることが困難なため固視できず,結果振幅が低下することに留意する必要がある.CIV結論ERGは多くの網膜疾患に対して有用であり,小児の網膜機能を他覚的に判断する際に重要な役目を担う.しかし,コンタクトレンズ電極の選択を誤ると,電極と角膜の接触が悪くなり,正しく測定できない.また,電極がうまく装用されていなくても波形が取れるため,注意が必要である.乳幼児や小眼球など瞼裂の狭い症例の場合,極小CLED内蔵コンタクトレンズ電極は有用であると考える.謝辞:極小CLED内蔵コンタクトレンズ電極の試作品の提供,助言をいただいたメイヨー社吉川眞男氏に感謝いたします.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)貝田智子,松永美絵,花谷淳子ほか:サブトラクション法を用いた皮膚電極による網膜電図とCLED内蔵コンタクトレンズ電極を用いた網膜電図の比較.日眼会誌C117:5-11,C20132)澤田麻友:眼球と視覚の発達.子どもの眼と疾患(仁科幸子編),専門医のための眼科診療クオリファイ,9,p7-10,中山書店,20123)新井三樹:基本のCERG.どうとる?どう読む?ERG(山本修一,新井三樹,近藤峰生ほか編),p36-57,メジカルビュー社,20154)近藤峰生:基本のCERG.どうとる?どう読む?ERG(山本修一,新井三樹,近藤峰生ほか編),p58-61,メジカルビュー社,20155)櫻井寛子,上野真治,近藤峰生ほか:網膜疾患を有する小児に対するCLE-2000の有用性.眼臨7:605-608,C2004***