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濾過胞感染治療後の遷延する濾過胞漏出に対して,ologen® Collagen Matrixを用いた濾過胞再建術が奏効した1例

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):981.986,2018c濾過胞感染治療後の遷延する濾過胞漏出に対して,ologenRCollagenMatrixを用いた濾過胞再建術が奏効した1例根元栄美佳*1,2植木麻理*2前田美智子*2河本良輔*2小嶌祥太*2杉山哲也*3池田恒彦*2*1)高槻赤十字病院眼科*2)大阪医科大学眼科学教室*3)京都医療生活協同組合・中野眼科医院CCaseReportofBlebRevisionwithologenRCollagenMatrixforProlongedBlebLeakageafterBleb-relatedInfectionEmikaNemoto1,2)C,MariUeki2),MichikoMaeda2),RyohsukeKohmoto2),ShotaKojima2),TetsuyaSugiyama3)andTsunehikoIkeda2)1)DepartmentofOphthalmology,TakatsukiRedcrossHospital,2)C3)NakanoEyeClinicofKyotoMedicalCo-operationDepartmentofOpthalmology,OsakaMedicalCollege,目的:濾過胞感染治療後の遷延する濾過胞漏出に対しCologenCRCollagenCMatrix(以下,ologenCR)を用いた濾過胞再建術を施行し,治癒過程を前眼部COCTにて確認できた症例を報告する.症例:80歳,女性.10年前に両眼原発開放隅角緑内障にて両眼線維柱帯切除術を施行された.2016年C3月左眼濾過胞感染を発症し大阪医科大学眼科紹介.初診時,左眼に房水漏出を伴う無血管濾過胞とCStageIIの濾過胞感染を認めた.抗菌薬加療にて感染は軽快したが濾過胞漏出は遷延し,ologenCRを結膜下移植する濾過胞再建術を施行した.術後,濾過胞漏出は消失した.前眼部COCTにて菲薄化した濾過胞結膜がCologenCRに裏打ちされ,徐々に厚くなり,厚い濾過胞壁の形成に至った過程が確認できた.術後約C1年半で有血管濾過胞が維持されている.結論:無血管濾過胞の房水漏出にCologenCRを用いた濾過胞再建術は有効であった.CPurpose:ACcaseCreportCofCblebCrevisionCwithCologenCRCollagenCMatrix(ologenCR)forCprolongedCblebCleakageafterCbleb-relatedCinfection.CWeCobservedCtheCprocessCofCblebChealingCwithCopticalCcoherenceCtomography(OCT)C.CCase:An80-year-oldfemalewhohadundergonetrabeculectomyonbotheyesforopen-angleglaucoma10yearspreviouslyCwasCreferredCtoCusCbecauseCtheCpreviousCdoctorCsuspectedCaCbleb-relatedCinfection.CAtCtheC.rstCvisit,CStageIIbleb-relatedinfection,aswellasleakagefromavascularbleb,wasobservedinthelefteye.Theblebleak-agepersisted,althoughshewascuredofthebleb-relatedinfectionthroughantibiotictherapies.AfterblebrevisionwithologenRCwasperformed,blebleakagedisappeared.WeobservedwithOCTthatthethinnedconjunctivaoftheblebwaslinedwithologenRCandgraduallyrepaired.Theblebhasbeenmaintainedforabout18monthsaftersur-gery.Conclusion:BlebrevisionwithologenCRCwase.ectiveforleakagefromavascularbleb.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(7):981.986,C2018〕Keywords:ologenR,濾過胞再建術,濾過胞漏出,濾過胞感染,前眼部光干渉断層法.ologenR,blebrevision,blebleakage,bleb-relatedinfection,opticalcoherencetomography.Cはじめに線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)は,術後に低い眼圧の維持が可能な術式であり,現在はマイトマイシンCC(MMC)を併用したCTLEが標準となっている.しかし,MMC併用CTLEの晩期合併症として房水漏出,低眼圧黄斑症,無血管濾過胞からの漏出,濾過胞感染があり,とくに濾過胞感染は失明につながる重篤なものである.日本緑内障学会による濾過胞感染多施設共同研究(TheCCollaborativeBleb-relatedCInfectionCIncidenceC&CTreatmentCStudy:CBIITS)が実施され,手術C5年後での濾過胞感染の発生率〔別刷請求先〕根元栄美佳:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:EmikaNemoto,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7,Daigaku-cho,Takatsuki-City,Osaka569-8686,JAPANはC2.2%であり,その危険因子として濾過胞漏出既往と若年者であることがあげられている1).一方,近年,MMCに代わる濾過手術後癒着防止剤を求め,さまざまな検討がなされている.これまで,Gel.rm2),CSepra.lm3),Gore-Tex4),ハニカムフィルム5)などを用いた報告があり,欧米で緑内障手術への使用認可を得ているものとしてCologenCRCollagenMatrix(以下,ologenCR)がある6,7).また,ologenCRは濾過胞漏出に対する濾過胞再建術にも用いられ,有効であったとの報告がある8,9).今回,濾過胞感染治療後の遷延する濾過胞漏出に対してCologenRを用いた濾過胞再建術が奏効し,結膜の修復過程が前眼部光干渉断層法(opticalCcoherenceCtomography:OCT)にて確認できたC1例を経験したので報告する.CI症例患者:80歳,女性.主訴:左眼の流涙,視力低下.現病歴:両眼原発開放隅角緑内障に対し,10年前に他院にて両眼CTLE+水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術が施行されていた.術後は,両眼圧のコントロールは良好で,左眼には鼻上側に無血管濾過胞が形成されていた.2016年C3月中頃に左眼の流涙を自覚し,その翌日より左眼の視力低下,眼痛,眼脂が出現した.前医を受診したところ,左眼濾過胞感染が疑われ,大阪医科大学眼科(以下,当科)へ紹介初診となった.既往歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼手動弁,左眼(0.07C×sph+1.25D(cyl─1.75DCAx105°),眼圧は右眼11mmHg,左眼6mmHgであった.左眼前眼部所見で,鼻上側に壁の薄い無血管濾過胞があり,濾過胞周囲の結膜は充血していた.濾過胞からの房水漏出を認め,前房内の炎症細胞はC2+であった.左眼眼底所見では,硝子体への炎症波及はなく,眼底は透見可能であった(図1).経過:左眼濾過胞感染CStageIIと診断し,同日入院のうえ,CBIITSのガイドラインに沿って治療を開始した1).塩酸バンコマイシンとセフタジジムの結膜下注射を行い,レボフロキサシンとセフメノキシムをC1時間ごとに頻回点眼することにより濾過胞感染は軽快した.一方,濾過胞漏出に対して自己血清点眼,抗菌薬眼軟膏塗布と眼帯を行ったが遷延した.そこで,大阪医科大学倫理委員会の承認(受付番号C2015-115)を得て,ologenCRを用いた濾過胞再建術を施行した(図2).使用したCologenRは,直径C12Cmm,厚さC1Cmmの円形シートである.まずCologenCR大のC12C×12Cmmを計測,濾過胞から少し離れた結膜を垂直切開し,そこからポケット状に結膜を.離した.そして作製した濾過胞下のスペースへColo-genRの挿入を試みたが,出血でCologenCRがふやけたため困難であった.そこで,ologenCRを半分に折りたたみ結膜下へ挿入し,その後展開した.結膜垂直切開部をC9-0シルク糸にて端々縫合し,10-0ナイロン糸にて垂直のCcompressionsutureを設置した.前房洗浄時,濾過胞より漏出を認めたがそのまま手術は終了した.術翌日,左眼眼圧C3CmmHg,濾過胞内に出血がありColo-genRは確認できず,房水漏出は継続していた(図3a).術後C2日目,左眼眼圧C3CmmHg,濾過胞結膜下にCologenCRが透見可能となり,房水漏出は消失した(図3b).術後C3週間,左眼視力(0.35),左眼眼圧C12CmmHg,無血管濾過胞部に周囲から結膜血管新生が侵入し,濾過胞壁が厚く,平坦となった.(図3c).前眼部COCTにて菲薄化した濾過胞結膜を裏打ちするCologenCRが確認できた(図4a).術後C2カ月,左眼視力(0.4),左眼眼圧C13mmHg(図4b).前眼部COCTにて,結膜組織修復過程において結膜下組織と置き換わりつつあるCologenRが濾過胞結膜内壁全体に付着していた(図4b).術後C10カ月,左眼矯正視力(0.4),左眼眼圧C12CmmHg,有血管濾過胞が形成されている(図3d).前眼部COCTにてColo-genRは消失しており,ologenCRが付着していた部位の結膜下組織が増殖して形成された厚い濾過胞壁が確認できた(図4c).術C1年C6カ月後の現在,眼圧コントロールは良好であり,視力・視野ともに維持できている.CII考按TLE後の濾過胞漏出に対するこれまでの濾過胞再建術としては,結膜前転術10),遊離結膜移植11),羊膜移植12)があげられ,それぞれに長所と短所がある.結膜前転術は小さな濾過胞が適応となり自己結膜にて施行できるが,大きな濾過胞には対応困難である.遊離結膜移植は自己結膜にて比較的大きな濾過胞にも対応は可能であるが,大きな結膜片を作製することはむずかしい.羊膜移植は大きな濾過胞にも対応が可能であり,羊膜そのものに抗炎症作用や結膜の修復作用があるため結膜前転術よりも良好な成績が報告されている12).当科でもこれまでは大きな濾過胞の再建術に羊膜を使用していたが,平成C26年C4月に羊膜取扱いガイドライン13)が作成され,濾過胞再建術に適応がないため使用が困難になった.そこで,大きな濾過胞の濾過胞漏出に対してCologenCRを濾過胞結膜下へ移植する濾過胞再建術に着目した.CologenRは,豚由来のコラーゲンを拒絶反応を起こさないようにCtelo側鎖をペプシンにて切断処理したCI型アテロコラーゲンとグリコサミノグリカンの架橋構造からなる,直径10.300Cμmの多孔構造をとる移植用細胞外基質類似素材である.ologenCRは眼上皮結合組織の組織修復をサポートする働きがあり,海外では緑内障,翼状片や斜視の手術が適応となっている.ologenCRを用いたCTLEに関する既報では,TLE時にCologenCRを結膜下に挿入することで結膜下組織の図1初診時の左眼細隙灯顕微鏡所見a:鼻上側の壁の薄い無血管濾過胞,濾過胞周囲の結膜は充血している.Cb:濾過胞からの房水の漏出を認める(.).C図2ologenRを用いた濾過胞再建術の術中写真a:濾過胞から少し離れた結膜を垂直切開し,そこからポケット状に結膜を.離した.Cb:濾過胞下のスペースへCologenCRの挿入を試みたが,出血でふやけ困難であった.Cc:眼内レンズのようにCologenCRを半分に折りたたみ結膜下へ挿入,その後展開した.Cd:結膜垂直切開部をC9-0シルク糸にて端々縫合し,10-0ナイロン糸にて垂直のCcompressionsutureを設置した.図3術後経過(前眼部細隙灯顕微鏡所見)Ca:術翌日.濾過胞内に出血がありCologenCRは確認できず,房水漏出は継続していた.Cb:術後C2日.濾過胞結膜下にCologenCRが透見可能となり,房水漏出は消失した.Cc:術後C3週間無血管濾過胞部に周囲から結膜血管新生が侵入し,濾過胞壁が厚く,平坦となった.Cd:10カ月後,扁平な有血管濾過胞を認める.癒着を防止し,MMCを用いたときと同様の効果があると報告されている6,7).一方で,MMCを用いたCTLEよりも,手術成功率や眼圧下降率が劣るとの報告もある14).手術効果について相反する報告があるが,形成される濾過胞についてはMMCよりCologenCRを用いたほうが無血管濾過胞となる割合が低いとされている15).また,TLE術後の過剰濾過や濾過胞漏出に対する報告では,低眼圧をきたしたC12例にColo-genRの結膜下移植は有効であった8)という報告や,日本人においても,TLE術後やCEX-PRESS術後の濾過胞漏出を含む低眼圧をきたしたC9眼においてCologenCRの結膜下移植は有効であったとの報告がある9).これまでに濾過胞の結膜欠損部下へ多孔コラーゲンシートを挿入することにより,多孔構造内まで結膜の線維芽細胞や筋線維芽細胞が集簇し,結合組織が形成されることで組織修復がなされると報告されており16,17),今回の症例でも同様の組織修復にて濾過胞が厚く形成されたと考える.そして,今回の症例では前眼部COCTにてその過程を観察できており,術後早期に菲薄化した濾過胞結膜をCologenCRが裏打ちし,徐々にCologenCRを足場にした組織修復がなされて結膜下組織が形成され,厚い濾過胞壁となったことが確認できた.また,今回の症例で特徴的なのは無血管濾過胞に結膜血管新生を認めたことである.動物実験においてであるが,無血管濾過胞の結膜欠損部下へ多孔コラーゲンシートを挿入すると,血管内皮細胞が結膜円蓋部方向から多孔構造内に集簇することにより無血管濾過胞への結膜血管新生を認めたと報告されている17).今回の症例でも同様の機序により徐々に血管を有する濾過胞が形成されたと考える.濾過胞感染後の遷延性濾過胞漏出に対してCologenCRの結膜下移植による濾過胞再建術が有効であった.無血管濾過胞壁を有する濾過胞漏出例において,ologenCRの結膜下移植は有効な術式となりうると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なしC図4術後経過(前眼部OCT所見)Ca:術後C3週間.結膜を裏打ちするCologenCRが認められた(.).b:術後C2カ月.結膜組織修復過程で結膜下組織と置き換わりつつあるCologenCRが濾過胞内壁全体に付着している(.).c:術後C10カ月.olo-genRは消失し,ologenCRが付着していた部位の結膜下組織が増殖して濾過胞壁が厚く形成されている(.).文献1)YamamotoCT,CSawadaCA,CMayamaCCCetCal:TheC5-yearCincidenceCofCbleb-relatedCinfectionCandCitsCriskCfactorsafterC.lteringCsurgeriesCwithCadjunctiveCmitomycinCC:CcollaborativeCbleb-relatedCinfectionCincidenceCandCtreat-mentstudy2.OphthalmologyC121:1001-1006,C20142)LavalCJ:TheCuseCofCabsorbableCgelatinC.rm(gel.rm)inCglaucomaC.ltrationCsurgery.CAMACArchCOphthalmolC54:C677-682,C19553)柴田真帆,杉山哲也,小嶌祥太ほか:セプラフィルムCR併用線維柱体切除術を施行したC1例.臨眼C64:1891-1895,C20104)CillinoS,ZeppaL,DiPaceFetal:E-PTFE(Gore-Tex)CimplantCwithCorCwithoutClowdosageCmitomycinCCCasCanadjuvantCinCpenetratingCglaucomaCsurgery:2CyearCran-domizedCclinicalCtrial.CActaCOphthalmolCScandC86:314-321,C20085)OkudaCT,CHigashideCT,CFukuhiraCYCetCal:ACthinChoney-comb-patterned.rmasanadhesionbarrierinananimalmodelCofCglaucomaC.ltrationCsurgery.CJCGlaucomaC18:C220-226,C20096)CillinoS,CasuccioA,PaceFDetal:Biodegradablecolla-genCmatrixCimplantCversusCmitomycin-CCinCtrabeculecto-my:.ve-yearCfollow-up.CBMCCOphthalmolC16:24,2016.doi:10.1186/s12886-016-0198-07)HeCM,CWangCW,CZhangCXCetCal:OlogenCimplantCversusmitomycinCCCforCtrabeculectomy:aCsystematicCreviewCandmeta-analysis.PLoSOneC9:e85782,C20148)DietleinTS,LappasA,RosentreterA:Secondarysubcon-junctivalCimplantationCofCaCbiodegradableCcollagen-glycos-aminoglycanCmatrixCtoCtreatCocularChypotonyCfollowingCtrabeculectomyCwithCmitomycinCC.CBrCJCOphthalmolC97:C985-988,C20139)TanitoCM,COkadaCA,CMoriCYCetCal:SubconjunctivalCimplan-tationCofCologenCcollagenCmatrixCtoCtreatCocularChypotonyCafterC.ltrationCglaucomaCsurgery.CEyeC31:1475-1479,C201710)TannenbaumCDP,CHo.manCD,CGreaneyCMFCetCal:Out-comesCofCblebCexcisionCandCconjunctivalCadvancementCforCleakingCorChypotonousCeyesCafterCglaucomaC.lteringCsur-gery.BrJOphthalmolC88:99-103,C200411)PandayM,ShanthaB,GeorgeRetal:OutcomesofblebexcisionCwithCfreeCautologousCconjunctivalCpatchCgraftingCforCblebCleakCandChypotonyCafterCglaucomaC.lteringCsur-gery.JGlaucomaC20:392-397,C201112)RauscherFM,BartonK,FeuerWJetal:Long-termout-comesofamnioticmembranetransplantationforrepairofleakingCglaucomaC.lteringCblebs.CAmCJCOphthalmolC143:C1052-1054,C200713)西田幸二,天野史郎,木下茂ほか;羊膜移植に関する委員会:羊膜移植術ガイドライン.日本角膜学会ホームページ:2014http://cornea.gr.jp/amnion/14)RosentreterCA,CGakiCS,CCursiefenCCCetCal:TrabeclectomyCusingmitomycinCversusanatelocollagenimplant:clini-16)HsuCWC,CRitchCR,CKrupinCTCetCal:TissueCbioengineeringcalCresultsCofCaCrandomizedCtrialCandChistopathologicCforCsurgicalCblebCdefect:anCanimalCstudy.CGraefesCArchC.ndings.OphthalmologicaC231:133-140,C2014ClinExpOphthalmolC246:709-791,C200815)RosentreterA,SchildAM,JordanJFetal:Aprospective17)PengYJ,PanCY,HsiehYTetal:Theapplicationoftis-randomisedCtrialCofCtrabeclectomyCusingCmitomycinCCCvsCsueCengineeringCinCreversingCmitomycinCC-inducedCisch-anologenimplantinopenangleglaucoma.EyeC24:1449-emicconjunctiva.JBiomedMaterResAC100:1126-1135,C1457,C20102012***