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健常者におけるRhoキナーゼ阻害薬リパスジル塩酸塩水和物による視神経乳頭血流への影響

2016年8月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科33(8):1226?1230,2016c健常者におけるRhoキナーゼ阻害薬リパスジル塩酸塩水和物による視神経乳頭血流への影響酒井麻夫*1橋本りゅう也*1出口雄三*1富田剛司*2前野貴俊*1*1東邦大学医療センター佐倉病院眼科*2東邦大学医療センター大橋病院眼科InfluenceofRhoKinaseInhibitorRipasudilInstillationonOpticNerveHeadBloodFlowinHealthyVolunteersAsaoSakai1),RyuyaHashimoto1),YuzoDeguchi1),GojiTomita2)andTakatoshiMaeno1)1)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySakuraMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:健常者におけるリパスジル塩酸塩水和物点眼による視神経乳頭血流の変化を検討する.対象および方法:屈折異常以外の眼疾患を有しない健常者12例を対象とし,0.4%トロピカミドによる散瞳後,片眼にリパスジル点眼を,他眼に生理食塩水を点眼し,1,2,4,6時間後に体血圧,脈拍数,両眼圧および視神経乳頭血流の変化率(meanblurrate:MBR)をレーザースペックル法で測定した.MBRは,上方,下方,耳側,鼻側の4つの区域に分け,各領域の組織MBR(meanoftissuearea:MT),血管MBR(meanMBRinvesselarea:MV),全領域MBR(meanofallarea:MA)として測定し比較検討した.結果:視神経乳頭全体では,点眼6時間後のMTが点眼前と比べ有意に増加していた.耳側では,4時間後のMA,MTと,6時間後のMT,MVが点眼前と比べ有意に増加した.眼圧は対照側と比べ有意に低下した.全身血圧と脈拍数は開始前と比べ有意な変化はなかった.結論:健常者においてリパスジル点眼は眼圧下降のみならず視神経乳頭血流を増加させることが示された.Purpose:Toexaminewhethertherhokinaseinhibitorripasudilinfluencesopticnervehead(ONH)bloodflowinhealthyvolunteers.Patientsandmethods:Subjectscomprised12healthyvolunteers.Meanblurrate(MBR)wasmeasuredbylaserspecklemethodonONHandineachof4sectors(superior,temporal,inferior,nasal),beforeandat1,2,4and6hoursafterripasudilinstillationinoneeyeandsalineinthefelloweye.Systemicbloodpressure(SBP),pulserate(PR)andintraocularpressure(IOP)weremeasuredateachinstillation.Results:TherewerenosignificantchangesinSBPorPR.IOPshowedasignificantdecreaseat1hourcomparedtothatbeforeinstillation,andlowerlevelsweremaintained.ThechangeratesignificantlyincreasedforMTontheentireONHat6hours,MA/MTat4hoursandMT/MVat6hoursonthetemporalsectorafterripasudilinstillation.Conclusion:RipasudilincreasesONHbloodflowandisconsideredtobeaneuroprotectivedrug.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(8):1226?1230,2016〕Keywords:Rhoキナーゼ阻害薬,リパスジル,視神経乳頭血流,レーザースペックル.Rhokinaseinhibitor,ripasudil,opticnervebloodflow,laserspeckle.はじめにROCK(Rho-associatedcoiled-coilkinase)は,セリン・スレオニンリン酸化酵素で,アクチン細胞骨格再構成にかかわるRhoの下流シグナルを形成する分子量約160kDaの小分子グアノシン3リン酸(GTP)結合蛋白質であり1),他臓器での報告であるがROCKシグナル経路の異常活性がある病態へのROCK阻害薬の投与で血管拡張効果が示され,臨床応用されている2,3).リパスジル塩酸塩(以下,リパスジル)点眼薬は,緑内障患者に対して2014年10月に承認されたRhokinase阻害薬(以下,ROCK阻害薬)である.原発開放隅角緑内障における房水流出抵抗の主座である線維柱帯流出路のSchlemm管からの房水流出を促進することにより眼圧下降に貢献し,大規模臨床試験でも眼圧下降効果が示されている4).緑内障治療で現在,唯一エビデンスのある治療は眼圧を下げることであるが,眼圧下降を示しても緑内障が進行する症例も存在し,眼圧以外に影響を与える因子が研究されている.正常眼圧緑内障患者では,非眼圧因子として視神経乳頭部血流の低下が緑内障進行と関係があるといわれ,以前より注目を集めており,b遮断薬やPG製剤点眼薬,炭酸脱水酵素阻害薬では眼圧下降以外に血流増加作用をもつことが報告されている5?7).ROCK阻害薬であるリパスジルは,血管平滑筋内のRhokinaseを阻害することで,Ca2+流入の抑制を介して血管を拡張させることが基礎実験でも示されており,invivoにおいても血流を増加させる報告がある8).しかし,正常人において血流の変動に関する報告例はこれまでにはない.今回,筆者らは正常健常人においてROCK阻害薬が視神経乳頭血流に影響を与えるかどうかについて検討したので報告する.I対象および方法対象は,2014年10月?2015年4月に,本研究に同意された健常成人12例12眼とした.対象症例は,男性5例,女性7例で,23?44歳,平均年齢31.6歳であった.糖尿病,高血圧を含めた全身の基礎疾患を有するもの,?6.0D以上の強度近視,眼疾患の既往を有するもの,1週間以内の喫煙を有するものは除外とした.測定項目は,視神経乳頭血流変化率,眼灌流圧,眼圧,体血圧,脈拍で,各測定時間に測定した.両眼にミドリンMR(参天製薬)にて散瞳後,片眼に0.4%グラナテックR(リパスジル塩酸塩水和物,興和創薬)点眼を,他眼はコントロールとして生理食塩水を点眼した.グラナテックR点眼直前,点眼1時間後,2時間後,4時間後,6時間後に両眼の視神経乳頭血流と眼圧および体血圧,脈拍を測定した.視神経乳頭血流の測定は,Laserspeckleflowgraphy(LFSG-NAVIR;ニデック社)およびLayerviewソフト(ソフトケア社)を用いてMBR(meanblurrate)を3回測定し,その平均値をとった.血圧や姿勢の変動による眼血流への影響を考慮し,5分間の安静座位の姿勢を保った後,視神経乳頭血流を測定した.解析部位は視神経乳頭を4つの部位,すなわち上方,下方,耳側,鼻側の区域に分け,各部位の組織領域のMBR(meanoftissuearea:MT),血管領域のMBR(meanofvesselarea:MV),全領域のMBR(meanofallarea:MA)を求めた.視神経乳頭血流の領域分割解析を図1に示す.つぎの計算式を用いて,血流変化率を算出し比較検討した.(各時間のリパスジル点眼眼MBR/リパスジル点眼眼の点眼前MBR)/(各時間のコントロール眼MBR/コントロール眼の点眼前MBR)×100(%).眼灌流圧は,2/3×(拡張期血圧+(収縮期血圧?拡張期血圧)×1/3)?眼圧として算出した.眼圧測定は,非圧平式眼圧計(Cannon,FullAutoTonometerTX-FR)を,血圧と脈拍は自動血圧計(日本COLIN社)を用いた.体血圧は,平均血圧を拡張期血圧+1/3×(収縮期血圧?拡張期血圧)として算出した.統計学的解析には,StateViewver7.0解析ソフトを用いて,repeatedmeasureanalysisofvariance(ANOVA検定)で統計学的有意差を検定し,p<0.05を有意水準とした.本研究は,ヘルシンキ宣言および厚生労働省の定める臨床研究に関する倫理指針に基づき,研究協力者には本研究の主旨を十分に説明し,文書による同意を得て実施した.II結果体血圧および脈拍,眼灌流圧は点眼後の経過で有意な変化を認めなかった(図2).両眼の眼圧推移を図3に示す.リパスジル点眼眼では,点眼開始前の眼圧と比べ点眼1時間後から有意に眼圧下降を示し(14.1±3.2mmHgvs10.9±2.9mmHg,p<0.05),6時間後においても眼圧下降を維持していた.一方,コントロール眼においては,有意な眼圧下降を認めなかった.各時間における視神経乳頭血流の変化率を表1に示す.視神経乳頭全体の血流変化率においては,点眼6時間後のMTが点眼前と比べ有意に増加していた.耳側は,点眼4時間後のMAおよびMTが有意に増加していた.また,点眼6時間後のMTおよびMVも点眼前と比べ有意に増加していた.上方においては,MT,MV,MAのいずれも有意な変化を認めなかった.下方・鼻側の血流は,各々点眼4時間後のMV,点眼6時間後のMTが点眼前と比べ有意に増加していた.III考按本研究は,正常健常人に対してROCK阻害薬リパスジル塩酸塩の視神経乳頭血流への影響を調べた初めての報告である.ROCK阻害薬の視神経乳頭血流への影響を調べた報告は,Sugiyamaらのファスジルでの検討9)とNakabayashiらのリパスジルでの検討8)の2報がある.前者では,ウサギの正常眼を用いて,ファスジルを静脈内に投与した結果,視神経乳頭血流には影響しなかったが一酸化窒素(NO)合成阻害薬のL-NAMEやET-1の投与下で血流改善を抑制したと報告している9).後者では,ネコ正常眼を用いてリパスジルを硝子体内に投与し,網膜血流速度が硝子体内濃度1μMでは投与後90分後に,100μMでは50分後から血流が増加したと報告している.しかし,緑内障患者および正常人を対象とした網膜血流への影響をみたものは,これまで調べた限りでは報告がない.視神経乳頭血流が増加する機序としては,①眼圧低下の結果,眼灌流圧が上昇することでauto-regulation(自動調節能)を超え間接的に血流量が増加する機序,②点眼薬自体のもつ直接的な薬理作用すなわち末梢血管拡張作用,があげられる.通常,自動調節能が働くと眼灌流圧の変動にかかわらず眼血流を一定に保つ,すなわち,眼圧が10?30mmHgの範囲では自動調節能により網膜血流は維持されるが,60mmHgから急に低下させると血流が増加する10).一方,眼圧がこの範囲を超え上昇すると網膜血流が低下する.正常眼圧緑内障患者においてはこの自動調節能の破綻が血流に影響を与えたとの報告11)もある.本研究ではリパスジルの前向き臨床試験の結果と同様に正常健常者においても眼圧下降を示したが,眼灌流圧については有意な変化がみられなかった.また,正常健常人を対象としており,今回の血流増加の原因としては,自動調節能を超えた間接的な関与は考えにくく,リパスジル本来の血管平滑筋に作用する直接的な血管拡張作用が関与していたものと考えられる.Nakabayashiらのネコを対象とした研究8)では,リパスジル硝子体内濃度が1μMから直接的な作用があったとしており,筆者らが使用した0.4%リパスジル単回点眼(50μl)による硝子体内濃度がどの程度であったかは不明であるが,直接作用するのに十分な濃度であったのではないかと考えられる.今回の筆者らの結果では,耳側の視神経乳頭において,他の領域(下方・鼻側・上方)と比べ血流量が増加している傾向があった.また,視神経乳頭全体でも組織血流が有意に増加しており,リパスジルによる直接的な血管拡張作用は,視神経乳頭表層の血管より篩状板付近の深層の微小血管に働いていたのではないかと推測される.梅田らはカルテオロール塩酸塩(ミケランLA2%R)の正常健常者の眼血流への影響を調べている12).筆者らと同様に乳頭近傍上耳側脈絡膜血流が増加しており,その機序として,薬理作用自体のもつ内因性交感神経刺激様作用による血管弛緩因子の分泌亢進,および血管収縮因子の分泌抑制作用による末梢血管抵抗の減少に伴って毛細血管の拡張をきたし,本検討と同様に耳側領域の血流が増加していたと報告している12).耳側においては視神経乳頭耳側の神経線維数が多く,正常者においても耳側での血流が多い13)ことから予備能が高いため,他の部位と比べ鋭敏に反応したのではないかと考えられる.緑内障の視野病期の進行とともに耳側の血流が低下することがこれまでの報告からわかっており,正常人においても有意な眼圧下降とともに耳側の血流を増加させたという本研究結果は,血流増加による神経保護を介して初期緑内障患者へのリスパジルの有効性を示唆するものである.今後,初期緑内障患者における血流への影響を検討した研究が必要と考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)IshizakiT,MaekawaM,FujisawaKetal:ThesmallGTP-bindingproteinRhobindstoandactivatesa160kDaSer/Thrproteinkinasehomologoustomyotonicdystrophykinase.EmboJ15:1885-1893,19962)InokuchiK,ItoA,FukumotoYetal:Usefulnessoffasudil,aRho-kinaseinhibitor,totreatintractableseverecoronaryspasmaftercoronaryarterybypasssurgery.JCardiovascPharmacol44:275-277,20043)SatoM,TaniE,FujikawaHetal:InvolvementofRhokinase-mediatedphosphorylationofmyosinlightchaininenhancementofcerebralvasospasm.CircRes87:195-200,20004)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Intra-ocularpressure-loweringeffectsofaRhokinaseinhibitor,ripasudil(K-115),over24hoursinprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension:arandomized,open-label,crossoverstudy.ActaOphthalmol93:e254-e260,20155)GrunwaldJE:Effectoftimololmaleateontheretinalcirculationofhumaneyeswithocularhypertension.InvestOphthalmolVisSci31:521-526,19906)OhguroI,OhguroH:Theeffectsofafixedcombinationof0.5%timololand1%dorzolamideonopticnerveheadbloodcirculation.JOculPharmacolTher28:392-396,20127)SugiyamaT,KojimaS,IshidaOetal:Changesinopticnerveheadbloodflowinducedbythecombinedtherapyoflatanoprostandbetablockers.ActaOphthalmol87:797-800,20098)NakabayashiS,KawaiM,YoshiokaTetal:EffectofintravitrealRhokinaseinhibitorripasudil(K-115)onfelineretinalmicrocirculation.ExpEyeRes139:132-135,20159)SugiyamaT,ShibataM,KajiuraSetal:Effectsoffasudil,aRho-associatedproteinkinaseinhibitor,onopticnerveheadbloodflowinrabbits.InvestOphthalmolVisSci52:64-69,201110)TakayamaJ,TomidokoroA,TamakiYetal:Timecourseofchangesinopticnerveheadcirculationafteracutereductioninintraocularpressure.InvestOphthalmolVisSci46:1409-1419,200511)GalambosP,VafiadisJ,VilchezSEetal:Compromisedautoregulatorycontrolofocularhemodynamicsinglaucomapatientsafterposturalchange.Ophthalmology113:1832-1836,200612)梅田和志,稲富周一郎,大黒幾代ほか:正常眼におけるカルテオロール塩酸塩(ミケランLA2%)の眼血流への影響.あたらしい眼科30:405-408,201313)FekeGT,TagawaH,DeupreeDMetal:Bloodflowinthenormalhumanretina.InvestOphthalmolVisSci30:58-65,1989〔別刷請求先〕酒井麻夫:〒285-8741千葉県佐倉市下志津564-1東邦大学医療センター佐倉病院眼科Reprintrequests:AsaoSakai,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySakuraMedicalCenter,564-1Shimoshizu,Sakura-city,Chiba285-8741,JAPAN図1視神経乳頭血流の領域分割解析視神経乳頭部全体を覆うようにEllipseラバーバンドを設定した(図左).ラバーバンド内を4領域〔上方(S),耳側(T),下方(I),鼻側(N)〕に区域し,各領域別の組織領域のMBR(meanoftissuearea:MT),血管領域のMBR(meanofvesselarea:MV),全領域のMBR(meanofallarea:MA)を算出した(図右).(145)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161227図2体血圧,脈拍数,眼灌流圧の推移体血圧および脈拍数,眼灌流圧は点眼後も有意な変化を認めなかった.NS:NotSignificant,repeatedmeasureANOVA検定.平均値±標準偏差.図3眼圧の推移リパスジル点眼眼では,いずれの時間でも投与前と比較して有意に眼圧は下降した.(*:p<0.05,repeatedmeasureANOVA検定,─△─:リパスジル点眼眼,─〇─:コントロール眼,平均値±標準偏差)1228あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(146)表1各領域における視神経乳頭血流(MBR)変化率の推移視神経乳頭全体では,6時間後にMTが有意に増加した.耳側では2時間後にMVが,4時間後にMAおよびMTが,6時間後にMTおよびMVが有意に増加した.下方では4時間後にMVが有意に増加した.鼻側では6時間後にMTが有意に増加した.平均値±標準偏差(%)MA:meanofallarea,MT:meanoftissuearea,MV:meanofvesselarea,*:p<0.05,repeatedmeasureANOVA検定.MBR-A:meanblurrateofall,MBR-T:meanblurrateintissue,MBR-V:meanblurrateinvein,平均±標準偏差(%),repeatedmeasureANOVA検定,*p<0.05.あたらしい眼科Vol.33,No.8,201612291230あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(148)